ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2024年1月ー

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

Welcome to KATO Tetsuro's Global Netizen College! English is here

100部隊「匿名読者」から第3信・第4信拝受、資料全面公開か、ご自分で資料集編纂を!

2024年6月20日追記 ●  小河孝・加藤哲郎・松野誠也共著の学術書『関東軍軍馬防疫廠100部隊――戦争と獣医学』(仮題、花伝社8月刊予定) の初校校正中に、再び「匿名読者」から、6月6日付第4信を花伝社宛てで受け取りました。6月1日更新の「ネチズンカレッジ」トップをご覧になったうえで、私たちの「某隊員=M技師」という推論は誤りで、別の「あまり名前が出てこない」100部隊2部6科員からの遺言であると、訂正を求めるものでした。このご教示には感謝し、新著での「M技師」の実名公表は、差し控えます。
 第4信では、「ゆくゆくは資料を譲渡したい」、海外出張から帰国したら第5信もいただけるとのことですが、ここまでの内容は、現在校正中の新著で参照できますが、以後は製本行程に入りますので、私たちの新著は、そのまま刊行します。旧隊員の遺品資料の全体を公開すべきという私たちの要望には、まだ応えていただけないとのことですが、今後の100部隊研究の深化のためにも、引き続き交信継続を願い、お手元の資料の全面公開を求めます。


2024年6月1日  ●昨2023年9−11月にかけて、本「ネチズン・カレッジ」サイト・トップでは、小河孝教授との共著『731部隊と100部隊』に対する「匿名読者」からの手紙にもとづき、示唆された「関東軍軍馬防疫廠100(イチマルマル)部隊」についての新たな資料について、広く情報提供を求めてきました。ただし8月の第1信、9月の第2信の後は、「元100部隊の某隊員から遺言を託された匿名読者」からも、他の関係者からも応答がなかったので、2024年に入ってからは、本サイトはこの問題には触れずに、獣医学者の小河孝教授と、新たに100部隊「職員表」を見つけた若手の歴史研究者・松野誠也さん(明治学院大学)に加わってもらい、3人の共著による学術書『関東軍軍馬防疫廠100部隊――戦争と獣医学』(仮題、花伝社8月刊予定)執筆に取り組んできました。その原稿締切直前に、昨年と同じ筆跡の「匿名読者」からの5月3日付け第3信が、みたび出版者気付で、加藤・小河宛に送られてきました。
● そこには、「ネチズンカレッジ拝読させていただきました。まず公表していただいたこと、そして戦争と医学・医療研究会にも取りあげて頂いたことを、某隊員に成り代わりまして御礼申し上げます。昨年送付いたしました資料・書類は私の説明不足な点があり、失礼をいたしました。以下の事について書籍・資料等を再確認調査いたしましたので、送らせて頂きます」と丁寧な文体で、おそらく他意はないと思われるが、またしても自分自身で「某隊員」の資料を解読し私たちに「解説」する手紙文と、新たな資料の所在地を示す文章等が入っていました。 たぶん高齢の方でしょうが、本サイトにアクセスすることはできる方のようです。
● 私たちの執筆中の共著書は、確かに昨年の「匿名読者」による「某隊員」遺品資料に触発されて企画されましたが、もともと1987年の三友一男『細菌戦の罪』(泰流社)以外に資料も研究も少ない100部隊について、国内外の資料を改めて収集し、特にその731部隊とならぶ細菌戦と人体実験を、学術研究の対象とすることを目的としていました。そのため、松野氏が歴史学・軍事史研究から、小河教授が獣医学の立場から、そして私が政治学・情報戦の視角から、それぞれに研究してコラボする原稿が、ほぼできあがっていました。そこで、「匿名読者」氏の新たな資料や史実の解読の示唆に応えるには、更に数ヶ月の調査と分析を必要とするため、私たちは、敢えて、本サイト及び執筆中の新著の末尾に、この「匿名読者」第3信への返答を「あとがき」風に加筆し、これまでの資料提供に対する御礼と、私たちなりの最新の解読結果を示すことにしました。
● これまでの「匿名読者」の情報提供は、旧隊員でなければ知り得ぬ隊友会や会誌の情報を含むものとしては有益ですが、その旧隊員「遺品」資料の全体は示されることなく、「匿名読者」により切り取られ「解説」された断片が、示されたものでした。写真版で偽書ではないと判断できましたが、私たちの学術研究にとっては、ある特定の解釈の方向に誘導される懸念があり、批判的に扱わざるをえないものでした。もう一つ、「某隊員」の遺品といいながら、その第一次資料所有者の氏名が明らかにされず、その「遺言」に従ったという「匿名読者」の連絡先も不明のままでしたから、その資料と解読の信憑性を担保するものがなく、学術的には使いにくく、限定的に取りあげるしかないものでした。
● そこで私たちは、「留守名簿」「職員表」など100部隊研究の基礎資料と第1・第2信発送元の消印住所、何よりも100部隊2部6科での人体実験に関わったと思われる「某隊員」遺品という限定的資料から、すでに「某隊員」を「M技師」と推定し、そのように理解すると合理的に解釈できる他の資料等をも使って分析を進めていました。昨年の本HPでは、私のメールアドレスなど連絡先を明示していたにもかかわらず、「匿名読者」からの直接連絡はなく、今回も出版社宛手紙というかたちで送信してきたのは遺憾ですが、第3信は、われわれが推定してきた「某隊員」が「M技師」であると確信できる内容を含んでいましたので、夏に刊行する新著では、その追跡経過と根拠を含め、故人である「旧隊員=M技師」の本名を明記し公表することを、ここに予告しておきます。
● 「匿名読者」に他意はないと思われますが、「某隊員」の遺言に沿って「真実の記録」を遺したいのであれば、これまでのような資料の断片的公開・恣意的「解説」は止めて、「M技師遺品」の全体をわれわれに示し閲覧可能にする、ないし、ご自分で資料集を編むなり、解説書を書くなりして世に出すことこそ必要ではないでしょうか。改めて、御礼とコメントをここに記し、メールアドレス katote@jcom.home.ne.jp への直接の連絡をお待ちします。

●今回の6月1日更新は、上記の執筆中の100部隊新刊書書き下ろし原稿締め切りに重なり、しかも、直前になって「匿名読者の第3信」が飛び込んできたために、パレスチナもウクライナも、政治資金規正法や東京都知事選・共産党パワハラ問題などもすべて省略し、「匿名読者」との対話編にしています。新著の実際の原稿は、すでに小河・加藤・松野ともほぼ完成し、日本における関東軍軍馬防疫廠=100部隊研究の基礎文献になることを目指しています。私自身の担当分「情報戦としての細菌戦」では、日本映画「ラーゲリより愛を込めて」、韓国映画「京城クリーチャー」、それにコロナ禍で亡くなった外交官の遺書『危機の外交 岡本行夫自伝』(新潮社)を取り上げて、東アジアで現在も続く戦時日本の侵略・植民地支配の影を追います。故岡本行夫氏の亡父は、731部隊のロシア語通訳でした。戦争体験の継承の、新しいかたちを探ります。関東軍の細菌戦から戦後の米ソ生物兵器開発におけるバイオハザード、オウム真理教と9.11直後の米国で実践されたバイオテロの問題もとりあげる予定です。8月発売予定ですが、乞うご期待です。

島根の地殻変動を、能登の被災者救援やパレスチナ支援の運動につなぐ想像力を!

2024. 5.1 ●4月28日投票の衆議院補欠選挙は、島根1区・長崎3区・東京15区と、すべて立憲民主党の勝利となりました。特に保守王国島根での、統一教会に汚染された自民党との直接対決で、立憲民主党女性候補が圧勝したのは、地殻変動でしょう。旧来の自民党支持層の中でも、超円安・物価高に帰結したアベノミクスの失敗と、金権・腐敗・裏金まみれの自民党政治を見限り、無能で厚顔無恥、国民感覚から離れた岸田首相に国を任せるわけにはいかないと、選挙で制裁を加えました。とはいえ、投票率はのきなみ低下で、政治不信・アパシーが多数派です。『ニューズウィーク』日本語版は、低投票率と東京15区の「選挙妨害」を、今後を占うトリプル補選の特徴としてあげました。与党の溶解はみられますが、野党のチャンスと言うほどの地殻変動はみられません。政治改革・政治資金規正法改正の見通しも曖昧です。そして、1ドル=160円の生活苦の元凶を作った黒田前日本銀行総裁に瑞宝大綬章、日本政治の混迷は、続いています。

●日本の大学では、長かったオンライン講義がようやく縮小され、教員と学生の対面、学生同士のキャンパス・コミュニケーションも復活しましたが、そのキャンパスには「国際卓越研究大学」など文科省および学外からの大学運営への介入による自主性喪失・序列化・財政誘導で、学生の意向どころか教職員の権限も削られ、大学の自治と学問の自由の危機が続いています。他方で欧米の「国際卓越大学」では、学生たちのパレスチナ支援の運動が広がっています。イスラエルのジェノサイド、ガザ攻撃への抗議です。コロンビア、イエール、ハーバード、ニューヨーク大、UCLAやバークレーなど全米62大学以上に広がり、すでに900人以上が逮捕されています。ロンドンでは30万人の街頭デモへと広がり大英博物館前で座り込み、パリ政治学院などヨーロッパ大陸にも広がっています。日本では、小さな集会はありますが、大衆的抗議運動にはなっていません。日本の学生たちは、他国の戦争での子どもたちの命に思いを寄せる余裕も、なくなったのでしょうか。日本経済の衰退、国際競争力の低下のもとで、イマジネーション=想像力の働く世界が狭くなっています。アメリカの学生たちの動きは、秋の大統領選にも影響し、ガザ地区ばかりでなくウクライナ戦争の行方にも、繋がってくるでしょう。

● 円安のゴールデンウィークで、インバウンド観光客は盛況、海外旅行をあきらめた国内近場観光も賑わっています。しかし日本は、このところ地震が続いています。新年の能登半島に続いて、4月には四国でも、共に原発の立地を含む地域でした。昨年末のフィリピン、3月のインドネシア・ジャワ、4月の台湾・花蓮地震など、日本の周辺でも活発な地震・火山活動が見られます。温暖化など気候変動とあわせて、私たちの生活基盤の根幹でも、戦争に準じる生命のリスクが高まっています。4月の台湾の地震で思い知らされたこと。日本の正月の能登半島地震が、いまだに復興どころか瓦礫の整理もできず、被災者用の仮設住宅がようやくできつつあっても、老人・身障者ら弱者の介護のボランティアまでは手は回らず。ほぼ同じ震度の台湾・花蓮地震では、官民連携しての備えのもとで、地震の3時間後に仮設住宅やトイレが準備され、被災者救援、道路や建物の復旧も、日本とは比較にならない素早さでした。日本では体育館に毛布の雑魚寝避難所暮らしが見慣れた風景で、よくイタリアの人間の尊厳とプライバシーを尊重した仮設住宅と比較されてきましたが、アジアでも台湾には、イタリアに勝るとも劣らない災害への備えと救援・復旧・復興政策がありました。それは、政治の違いでした。なにしろ能登の被災地に首相や知事が入ったのは1月14日と地震の二週間後、国も県も、職員自身が被災した市町村自治体に責任をおしつけて、半ば見捨ててきたのですから。原発推進ばかりでなく、裏金政治腐敗や東京オリンピック汚職の元兇・黒幕が能登出身だったことと、無関係ではないでしょう。

● 4月28日の自民・公明不戦敗、立憲民主党完勝の政治に、野党の立憲・維新のほか少数政党が勢揃いした東京15区で、日本共産党とれいわ新撰組は表に出ませんでした。れいわ新選組は、党としての推薦は行わず、山本太郎代表は無所属ながら次点になった須藤元気候補を応援し、櫛渕万里共同代表は当選した立憲民主党・酒井菜摘候補を応援しました。選挙結果としては、上々です。日本共産党は、島根・長崎では「自主支援」であまり動きませんでしたが、東京15区については、29日の「しんぶん赤旗」によると、「野党の連携」による「市民と野党の共同候補」の勝利、としました。事実として共産党が立候補予定者をおろし、立憲民主党の酒井候補支援にまわったことが、大差での当選に結びついたことはまちがいないでしょう。しかし「野党共闘」と正面からいえないのは、立憲民主党との関係で、労働組合・連合は「労働者階級の革命政党」共産党と組むことを、拒否しています。5月1日は労働者の祭典、メーデーです。共産党は「労働者階級の前衛」という言葉は使わなくなりましたが、なおノスタルジアがあるようです。久しく階級分析はみられず、労働者党員の比率も出さなくなったとはいえ、「階級闘争」や「革命」は、目指しているようです。このジレンマを「革命」の方向で内向きに純化するのか、市民に開かれた「共闘」の方向で自己変革をはかるのか、正念場のようです。

● 連休中に目立たないかたちで出た『日本共産党の改革を求めて #MeToo #WithYou』(あけび書房)という新刊書は、私としては、有田芳生さんらと30年前に書いた「日本共産党への手紙」に対して、良心的な一般党員の方々から、実態を訴える返事をもらったような、興味深い内容です。同党の自己変革の障害になっている「民主集中制」の内実が、党員主権の公開討論を妨げているだけでなく、パワハラやセクハラまで生み出している実態を、一般党員の目線で具体的に描き、説得的です。どうやら志位議長以下幹部たちの官僚化と高齢化が進み、思考のフィードバックができないようです。さらにいえば、共産党の言う「革命」が、1917年のロシア革命の圧倒的影響下で目標になってきた以上、ご高齢の党員・幹部の皆さんは、池田嘉郎さんら最新の研究から、改めて学ぶべきでしょう。

● 有料サイトですが、新潮社Foresight池田嘉郎さんの連載「悪党たちのソ連帝国」が、大変刺激的です。「革命を経たとはいえ、ソヴィエト・ロシアは皇帝たちのロシアに似ていた。第一に、広大な領域と多様な住民集団をもつ点で。第二に、統治者を縛る法がない点で。この二つの指標をもって、筆者は「帝国」という言葉を使いたい。ソヴィエト・ロシアは20世紀の帝国であった。そしてレーニンは帝国の創始者である」「レーニンが解体したはずの「ロシア帝国」は、いかにして強大な「ソ連帝国」として再建され、現在の「プーチン帝国」にいたったのか――ソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする」という意欲作です。かつてロシアや中国の「革命」にあこがれ、「革命未だならず」と嘆息している皆さんは、ぜひお読みください。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

   

● 昨年クリスマスの頃から、韓国と日本の若者のあいだで、時ならぬ731部隊ブームだといいます。NETFLIXの韓流ドラマ「京城クリーチャー」が上映され、1945年5月、日本敗戦直前の植民地ソウルの病院で、731部隊の医師がひそかに炭素菌の人体実験で怪物を作りだし、病院からあばれだして危害をくわえるようになる、というストーリーです。パク・ソジュンら観流ドラマのスターたちが出演し、クリスマスから新年に全10話のドラマがアップされ、NETFLIXとしても話題のヒット作となったそうです。私は実は、731部隊の研究者として、ハフポストの取材を受け、3月30日にウェブ上に掲載された長文の記事「731部隊を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演京城クリーチャーが問いかけるもの」中で、インタビューに答えています。ただし、ソウルで731部隊が人体実験をした事実はなく、ハルビン郊外平房本部での人体実験でもこれまで資料で裏付けられた朝鮮人「マルタ」犠牲者は4人のみといいますから、ドラマ自体はフィクションです。大ヒットによって、すでに第二シリーズ制作も決まっているようです。

●詳しくはぜひドラマそのものを見て、ハフポストの記事にも注目してほしいのですが、インタビューで語っていないことを付け加えると、私はこの映画に、かつて日本映画が、原爆が産んだ怪獣として「ゴジラ」を描いたことを想い出しました。「反日プロパガンダ・ドラマ」などという日本人の感想もあるそうですが、往々にして加害者は、被害者の苦しみや恨みをなかなか理解できず、すぐに忘れます。「京城クリーチャー」は、植民地時代の日本軍の横暴、暴虐を、クリーチャー=妖怪・怪物にシンボライズしたものでしょう。私個人は同姓で複雑でしたが、炭素圏人体実験でバイオテロの怪物をつくりだす日本人医師が「加藤中佐」なのは、明らかに朝鮮半島史上の日本侵略の象徴「加藤清正」をイメージさせるためでしょう。歴史的事実と異なるにしても、こういうドラマからでも若い世代が731部隊や日本の戦争加害に関心を持ってくれるのは、好ましいことです。

●同様なことは、話題のアカデミー賞映画オッペンハイマー」についても、いえることです。広島・長崎の原爆被害が描かれていないから日本人にとっては好ましくないと言った「被害者日本」を強調する批判もみかけますが、人類絶滅兵器を作ってしまった科学者の苦悩を描いたものと素直に受け止めれば、学ぶところが多いはずです。ゾルゲ事件関係では、尾崎秀実を主人公にした1962年の木下順二オットーと呼ばれる日本人」を、久方ぶり劇団民芸が5月に新宿紀伊國屋サザンシアターで上演するそうです。今日のゾルゲ事件研究から見れば、木下順二の描く1932年上海のベースが川合貞吉回想なので、ゾルゲ・尾崎秀実、スメドレーの宋夫人=スメドレー宅会合は歴史的事実として疑わしいのですが、木下順二オットーと呼ばれる日本人」は、2009年に米国の日本文学研究者たちによって英訳されて、「Patriots and Traitors(愛国者と裏切り者)」と題するゾルゲ事件に関する論集に収録されました。米国では主流の陸軍ウィロビー報告『赤色スパイ団の全貌』や、それを継承するプランゲ『ゾルゲ 東京を狙え』ではなく、米国ではマイナーな、ゾルゲではなく尾崎秀実が主人公で東アジアを見つめたチャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』を下敷きにしているのが、「Patriots and Traitors」のユニークな特徴で、ピッツバーグ大学の米国人日本文学研究者たちは、日中戦争のなかでの尾崎秀実の思想と行動を、マッカーシズム最盛期米国でのオッペンハイマーの苦悩と対比しています。

●「京城クリーチャー」とも関わるNPO法人731部隊細菌戦研究センターの総会が、4月13日(土)午後、東京田町の港区立男女平等参画センター(リーブラ)・学習室Cで開かれました。日本における731部隊研究の最新の論点である長野県飯田市の平和祈念館における細菌戦・人体実験関連展示パネルの自治体による扱いの問題など、全国の731部隊研究者と中国からの研究者も集って討論しました。4月20日(土)は午後3時から、霞ヶ関ビルの愛知大学東京センターで尾崎=ゾルゲ研究会例会があり、「オットーと呼ばれる日本人」とも関連するジョーこと宮城与徳を日本に送り出した米国共産党について、京大・進藤翔大郎さんが報告しました。

21世紀の日本は、毒性健康食品や時代遅れの政党をうむ怪物になったのか?

2024. 4.1 ●いつの頃からでしょうか、日本の大きな新聞広告やテレビCMと言えば、自動車か家電製品・化粧品だった世界に、健康食品がやたら目立つようになり、定着しました。高度経済成長の時代は、家庭電化の「三種の神器」(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)から3C(カラーテレビ、クーラー、マイカー)へという消費文化の充実で、近代化による物質的価値の充足がうたわれました。それがほぼ1975年頃、石油危機で国際環境が揺れて安定成長の時代に入ると、「大量生産から多品種少量生産へ」「モノの価値からココロの価値へ」「スモール・イズ・ビューティフル」といった謳い文句に合わせて、「健康」「環境」「美」「生きがい」といった脱物質主義的・主観的価値をも組み込んだ商品市場が、冷戦崩壊でグローバル化した世界に広がっていきました。政治の世界にも、ドイツ「緑の党」に始まる社会構造と価値観の変化と多様性を反映した動きが現れ、そうした動きに取り残されたモノクロのソ連・東欧社会主義は崩壊しました。とりわけ「エコロジー」「女性・ジェンダー」や「マイノリティの承認」は、社会運動から既存の議会政治・政党政治にも浸透し、21世紀の民主主義として、地球大に広まりました。

●「健康」「美容」価値が商品化して、医薬品でなくても大きな市場ができると、広告も、効用ばかりでなくイメージで売ることになりました。「栄養成分を補給し、 または特別の保健の用途に適するもの、 その他健康の保持増進及び健康管理の目的のために摂取される食品」というサプリメントが、医薬品と日常的食品の隙間に、入り込みました。本来「supplement 補助・補完」の役割とされていた健康食品市場が広がると、朝食はサプリメントだけといったライフスタイルも生まれ、日本では、安倍晋三内閣の「アベノミクス」のなかで、もともと1991年施行の「有効や安全について国が審議を行い、消費者庁長官が許可を与えた食品」である特定保健用食品トクホのほかに、2015年から「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに 機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた」機能性表示食品という新たなカテゴリーが作られ、老舗の大手医薬品企業も「健康食品」市場に進出することになりました。そこがいま、小林製薬の「紅麹」製品への毒性物質混入によるとみられる服用腎臓障害で、3月末現在5人の死亡と100人以上の入院です。被害者は、日本国内にとどまりません。台湾など海外にも広がって国際問題です。

● 安倍晋三が政治的に作り出した「機能性表示食品」は、医薬品と食品のあいだのファジーな領域を、企業利益を産む市場にして投資をよびこもうとしたものです。その政界では、政党助成法と政治資金規正法のはざまの裏金ビジネスが暴かれ、自民党旧安倍派等の金権議員たちが、次の選挙での国民の審判を受けようとしています。旧田中派の末裔・二階俊博の政治とは、記載漏れの政治資金から3500万円を書籍代を出したというのですが、どうやら政策研究や知性の研鑽のためではなかったようです。5000冊・1045万円も購入した二階ヨイショ本に書かれた人心掌握の極意とは、「GNP=@G義理とAN人情とBPプレゼント」なそうで、党幹事長時代の50億円もの「政策活動費」の使途も、大同小異であったでしょう。政治と社会の架け橋である政党は、本来社会構造と価値観の変化にあわせて、たえずメタモルフォーゼ=形態転換していかないと使命を果たせないはずですが、支配政党の自民党は、どうやら20世紀の大量生産・物質的価値観時代の手法でファジーな領域まで埋め合わせ、行き詰まりつつあるようです。

● 同様の時代遅れと行き詰まりは、20世紀のロシア革命・コミンテルン以来の伝統に固執する「革命政党」=共産党にも顕著です。「党の上に個人をおかず」の民主集中制組織から脱しきれず、ようやく女性委員長を立てたのに、高齢幹部たちの院政とセクハラ・パワハラが横行、基本的人権である「個人の言論・出版の自由」を「組織の結社の自由」で押さえ込む、旧ソ連東欧・現代中国・北朝鮮でおなじみの悪弊を、繰り返しています。先月も書きましたので繰り返しませんが、20世紀のレーニン由来の暴力革命に即した軍事的規律=「民主集中制」は、もともと19世紀前半のブランキ派秘密結社の組織原理の復活でした。秘教的な入党儀式と権力者の暗殺・テロル実行も辞さない権力破壊、「裏切り者は死刑」の指導者独裁組織に対して、選挙で選ばれる代議員による立法機関「大会」と大会決定の執行機関である中央委員会を分離し、「裏切り者は死刑」を廃して指名手配の「除名」を最高刑にし、再入党可能な「除籍」制度を設けたのは、ほかならぬマルクス・エンゲルスの共産主義者同盟でした。敵権力指導者の暗殺テロルを、労働者の階級闘争による国家権力奪取に改めたのが、その綱領「共産党宣言」でした。以後のドイツをはじめとしたヨーロッパの社会主義勢力の主流は、複数指導者制、任期制、集団合議制、仲裁裁判制度など党内立法・司法手続きの導入による権力分立と党財政透明化、中央上納額制限を含む中央指導者の定期的監視・制御、党議員団と党官僚制の相互規制、機関紙編集の独立性と地域・工場基礎組織の自立性・財政自主性・ローカル新聞発行権など、総じて「党員主権」「社会主義的民主主義」の方向に向かっていきました。

● 今日のEU議会における有力潮流である社会民主党など社会民主進歩同盟と旧共産党を含む欧州左翼党は、ともにそれ自体多元的・重層的な政治組織ですが、おおむね「党員主権・民主主義」にメタモルフォーゼしています。ブランキ型秘密結社を直接継承したロシア・ナロードニキの地下活動の流れから生まれ、レーニンのボリシェヴィキがロシア革命の「勝利」により歴史を反転させた20世紀「民主集中制」=コミンテルン型共産党は、二つの世界大戦を含む「戦争の時代」に一時的隆盛でしたが、アジアのわずかな共産党・労働党を除いて、1989-91年にかけて総崩れになったのです。こういう歴史の語りが得意だったはずの日本共産党の、今日の理論的頽廃・貧困は、驚くべきものです。日常的に地域住民に接する地方党議員に対する中央党官僚によるパワハラ・セクハラを含む抑圧的統制、制御不能なSNS上での、トップの「赤い貴族」告発と中央指導部批判の氾濫、「さざ波通信」に続く、86歳の宮地健一さんの「共産党・社会主義」問題サイト復活をはじめ、平山基生さん大窪一志さん高橋祐吉さんら実名での古参社会主義者のつぶやき、「野党共闘」で最も頼りにしてきた西郷南海子さん山口二郎さん上瀧浩子さんらの苦言と提言が続いています。中央指導部の無為無策と、機関紙財政危機、低賃金専従労働者の無権利・過剰と老齢化・過労死により、溶解が始まったようです。

   

● 昨年クリスマスの頃から、韓国と日本の若者のあいだで、時ならぬ731部隊ブームだといいます。NETFLIXの韓流ドラマ「京城クリーチャー」が上映され、1945年5月、日本敗戦直前の植民地ソウルの病院で、731部隊の医師がひそかに炭素菌の人体実験で怪物を作りだし、病院からあばれだして危害をくわえるようになる、というストーリーです。パク・ソジュンら観流ドラマのスターたちが出演し、クリスマスから新年に全10話のドラマがアップされ、NETFLIXとしても話題のヒット作となったそうです。私は実は、731部隊の研究者として、ハフポストの取材を受け、3月30日にウェブ上に掲載された長文の記事「731部隊を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演京城クリーチャーが問いかけるもの」中で、インタビューに答えています。ただし、ソウルで731部隊が人体実験をした事実はなく、ハルビン郊外平房本部での人体実験でもこれまで資料で裏付けられた朝鮮人「マルタ」犠牲者は4人のみといいますから、ドラマ自体はフィクションです。大ヒットによって、すでに第二シリーズ制作も決まっているようです。

●詳しくはぜひドラマそのものを見て、ハフポストの記事にも注目してほしいのですが、インタビューで語っていないことを付け加えると、私はこの映画に、かつて日本映画が、原爆が産んだ怪獣として「ゴジラ」を描いたことを想い出しました。「反日プロパガンダ・ドラマ」などという日本人の感想もあるそうですが、往々にして加害者は、被害者の苦しみや恨みをなかなか理解できず、すぐに忘れます。「京城クリーチャー」は、植民地時代の日本軍の横暴、暴虐を、クリーチャー=妖怪・怪物にシンボライズしたものでしょう。私個人は同姓で複雑でしたが、炭素圏人体実験でバイオテロの怪物をつくりだす日本人医師が「加藤中佐」なのは、明らかに朝鮮半島史上の日本侵略の象徴「加藤清正」をイメージさせるためでしょう。歴史的事実と異なるにしても、こういうドラマからでも若い世代が731部隊や日本の戦争加害に関心を持ってくれるのは、好ましいことです。

●同様なことは、話題のアカデミー賞映画オッペンハイマー」についても、いえることです。広島・長崎の原爆被害が描かれていないから日本人にとっては好ましくないと言った「被害者日本」を強調する批判もみかけますが、人類絶滅兵器を作ってしまった科学者の苦悩を描いたものと素直に受け止めれば、学ぶところが多いはずです。ゾルゲ事件関係では、尾崎秀実を主人公にした1962年の木下順二オットーと呼ばれる日本人」を、久方ぶり劇団民芸が5月に新宿紀伊國屋サザンシアターで上演するそうです。今日のゾルゲ事件研究から見れば、木下順二の描く1932年上海のベースが川合貞吉回想なので、ゾルゲ・尾崎秀実、スメドレーの宋夫人=スメドレー宅会合は歴史的事実として疑わしいのですが、木下順二オットーと呼ばれる日本人」は、2009年に米国の日本文学研究者たちによって英訳されて、「Patriots and Traitors(愛国者と裏切り者)」と題するゾルゲ事件に関する論集に収録されました。米国では主流の陸軍ウィロビー報告『赤色スパイ団の全貌』や、それを継承するプランゲ『ゾルゲ 東京を狙え』ではなく、米国ではマイナーな、ゾルゲではなく尾崎秀実が主人公で東アジアを見つめたチャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』を下敷きにしているのが、「Patriots and Traitors」のユニークな特徴で、ピッツバーグ大学の米国人日本文学研究者たちは、日中戦争のなかでの尾崎秀実の思想と行動を、マッカーシズム最盛期米国でのオッペンハイマーの苦悩と対比しています。

●「京城クリーチャー」とも関わるNPO法人731部隊細菌戦研究センターの総会が、4月13日(土)午後、東京田町の港区立男女平等参画センター(リーブラ)・学習室Cで開かれます。日本における731部隊研究の最新の論点である長野県飯田市の平和祈念館における細菌戦・人体実験関連展示パネルの自治体による扱いの問題など、全国の731部隊研究者と中国からの研究者も集って討論します。4月20日(土)は午後3時から、霞ヶ関ビルの愛知大学東京センターで尾崎=ゾルゲ研究会例会があり、「オットーと呼ばれる日本人」とも関連するジョーこと宮城与徳を日本に送り出した米国共産党について、京大・進藤翔大郎さんが報告します。どちらも公開で、尾崎=ゾルゲ研究会はオンラインも可能ですから、ご関心の向きはどうぞ。私もリハビリしつつ参加します。

バブル景気と政治改革:1989年から2024年へ

2024. 3.1 ●東京証券取引所の日経平均株価は、1989年12月29日以来34年ぶりの高値で、4万円台の大台も間近とのこと、バブル景気の再来です。確かに1989年、東欧革命・冷戦崩壊の頃は、「24時間たたかえますか」の世界で、株価と地上げの不動産地価が高騰、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた余韻が残っていました。世界企業時価総額ランキングで、NTT以下日本企業・銀行がトップテンのトップファイブを独占したほか(NTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、IBM、三菱銀行、エクソン、東京電力、ロイヤルダッチシェル)、半導体の世界市場では50%のシェアでした。半導体売り上げ企業ランキングでも,1986-1991年まではNEC・日立・ 東芝が上位3位を独占したほか,10位以内に富士通・三菱電機・松下電子がランキングされ、6社が10位以内に入るという「電子立国」日本でした。日本株の外国人保有比率は、5%以下でした。国内市場の景気に熱気があり、労働組合のナショナルセンター「連合」が生まれたばかりでしたが、賃上げも1988年23%、消費が過熱していました。今日の「政治とカネ」問題の土台となったリクルート汚職事件が起きたのも1988年、冷戦崩壊後のグローバルな世界への対処が議論され、バブル経済に寄生し腐敗した政治の改革論議も熱気がありました。

●2024年の4万円株価は、世界の半導体景気が主導しているそうです。超高層タワーマンションの売れ行きも好調で、1989−90年に似ています。ただし、日本企業や高級不動産への投資の中心は、海外投資家です。日本株の30%は外国人が保有し、それが売買額の3分の2を占めます。当然株高の恩恵も、そうなります。1ドル=150円の円安と、米国ウォールストリートの市況、中国不動産市場のリスクヘッジに動かされています。円安輸出企業以外の国内製造業は、技術革新が遅れ内部留保の取り崩しと物価へのしわ寄せ、中小零細企業に至っては価格転嫁もできずに悲鳴をあげていて、とても「好景気」「賃上げ」どころではありません。いわば庶民の生活感から大きく離れた、「バブルな好況イメージ」のバブルです。他力本願で、いつはじけてもおかしくありません。日本に投資している海外マネーは投機ですから、あっという間に逃げ出すこともありうるでしょう。インテルやサムソンのリードする世界の半導体市場での日本の製造装置のシェアは3割程度ですが、製品市場では6%まで落ち込み、台湾のTSMCのような専業ファウンドリーメーカーはありません。日本政府は、そこで1兆2千億円の補助金を出して、熊本にTSMCの工場を誘致しました。40年前に、どこかで見た光景です。勢いのあった日本の自動車企業等を誘致しようと、アジアはもとより、アメリカの州政府やイギリス、オーストラリア政府なども税や立地の優遇措置を準備して日系企業を誘致し、「国内産業空洞化」が言われていました。現在の立場は、真逆です。日没する国の庶民は、かつて日本車をハンマーで壊した米国労働者のようなエネルギーはありません。株価や不動産に浮かれる余裕はないのです。

● ロシアのウクライナ侵略戦争は、3年目に入りました。思えばこれも、34年前の東欧革命・冷戦崩壊・ソ連解体によるグローバルな世界再編の一つの帰結でした。冷戦崩壊の主役は、ソ連共産党のエリート官僚であったミハイル・ゴルバチョフと、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンでした。ソ連共産主義の中で育ったゴルバチョフが、経済的停滞・政治的閉塞からペレストロイカ、グラースノスチ、新思考外交で脱出しようとしたところで、イギリスのサッチャーがレールを敷いたグローバルな新自由主義市場圏に組み込まれ、ハリウッド俳優上がりのレーガン主導で飲み込まれました。21世紀になると、そのグローバルな世界資本主義に、中国が共産党独裁を残したまま本格的に参入し、アジアの周辺国をも巻き込んで「世界の工場地帯」になりました。かつて技術力で欧米資本主義とドッキングできた日本資本主義は、G7に代表される欧米日同盟に残ったまま、中国経済圏の周辺にも組み込まれました。GDPは、中国ばかりでなくドイツにも抜かれ、やがてインドにも追い越されようとしています。そんな折りに、俳優上がりのゼレンスキー大統領の国ウクライナが、共産党官僚制の一部であったKGBを引き継いだプーチン首相のロシア帝国主義に攻め込まれ、NATOから武器を供与されて長期戦になりました。しかし、先は見えません。そのNATOの有力国を後ろ盾に、かつてのホロコースト被害を看板にアラブの地に立国したイスラエルは、パレスチナ人へのジェノサイドで世界史的加害者になっています。フィンランド、スウェーデンのNATO加入で、欧州の国際秩序が変わりました。秋のアメリカ大統領戦挙で、トランプが勝利したらどうなるか、兜町の株価水準は同じでも、1989年の民主化で浮遊し始めた希望ある世界とは、全然ちがいます。2024年の、再編を繰り返して多元化し権威主義的国家が勢いを増す世界は、1989年とは大きく環境が違い、方向性が見えてきません。不気味なのは、能登半島地震・津波でも株価が低落しなかったように、金融市場の暴走状態が続くことです。台湾の半導体ばかりでなく、総じて戦争や危機に関わる銘柄が、海外からの投機の対象になっています。

● リクルート事件の後始末であった1994年の政治改革の抜け穴から、政治とカネの問題が再び吹き出し、2024年自民党裏金騒動になっています。折からの確定申告期に、SNSでは「#確定申告ボイコット」が10万件以上、内閣支持率・自民党支持率史上最低の政界再編クライマックスを迎えようとしています。しかしこれが1990年代と異なるのは、自民党内での権力闘争と野党再編が結びつかず、どん底の自公・岸田内閣に代わる、新たな政治像・政党編成が見えてこないことです。30年前の細川内閣村山内閣を生み出したような、政治家たちのエネルギーは、小選挙区制と世襲議員が増えたためでしょうか、与野党を問わず、出てきません。「失なわれた30年」の経済と同じように、政治の時代閉塞です。権力の味に溺れた自民党・公明党はともかく、かつて日本社会党が果たした役割を果たすべき、立憲民主党・日本共産党に、元気がありません。立憲民主党の前身民主党は、まがりなりにも2009年に政権交代を実現しましたが、共産党の方は、34年間ひたすら衰退の一途です。欧米では、1989年東欧革命をきっかけに、共産党はプロレタリア独裁、生産手段国有化・集権的計画経済、前衛党・民主集中制といったレーニン・コミンテルン以降の伝統ときっぱりと訣別して、多くは名前を変えて、社会民主主義や協同組合主義・アナーキズム・コモンズ等へと転身していきました。それに対して、日本の共産党は、アジアの中国共産党・朝鮮労働党などと共に、コミンテルンの伝統を守り続けてきました。博物館的意味で、希少価値のある政党です。それが、自力更生もできず、存亡の危機にあります。

● おそらく1989年の東欧革命・ソ連崩壊期に日本共産党が生き残ったのには、共産党自身の宣伝する自主独立や議会政党としての定着ばかりでなく、中国・ベトナムなどアジア共産主義へのかすかな希望、日本の高度成長と近代化の遺産への寄生があったからでしょう。日本資本主義そのものに勢いがあったので、資本主義批判にも理論的・政策的活性化があり、再分配を組み込む余裕があったのです。まだ「アメリカ帝国主義」が学界のテーマであり、非正規労働・外国人労働者が少なく、一国「階級分析」が通用する時代でした。ソ連を模範国にしていた過去を捨て、「生成期」といった弁明を経て、ソ連共産党解体を「もろてをあげて歓迎」する根拠を強引に合理化する、マルクス・レーニン主義の理論政策幹部も残されていました。それが、党員数・機関紙読者数、国会・地方議会得票数・議員数、何よりも活動家層の高齢化と若者への影響力喪失が続いて、2024年1月の第29回党大会では、矛盾が吹き出した様相です。2024年は、SNS情報の常態化で中国共産党の横暴・自由抑圧が露わになり、「革命政党」と名乗ってもだれも現実性を見いだせず、解党的出直しか自然死かの瀬戸際です。1989年頃は、私は政治学者として『東欧革命と社会主義』(花伝社、1990年3月)をリアルタイムで書き、かつ、東欧の「フォーラムによる革命」「テレビ時代の革命」に刺激されて、新たな社会主義組織のあり方をフランス革命期まで遡って、『社会主義と組織原理』(窓社、1989年11月)と題して歴史的に探求していました。

● いま、日本共産党の中央幹部は、せっかく1年前に善意の党改革を訴えた古参党員を「反共攻撃」「分派」として「除名」し、ハリネズミ風に自己防衛しています。これに異議を唱える地方議員や地方幹部を、パワハラや専従解雇の生活権剥奪で抑え込もうとしています。滅多にとりあげてもらえない日本共産党史を、この間学術的書物にして書き下ろし、丁寧に助言してきた理解ある政治学者に対してさえ、空虚な名指しの中傷を新聞発表する仕打ちです。19世紀前半からの社会主義を志向する運動には、もともと出入り自由な自発的共同体を目指すロバート・オーウェン「ニューハーモニー」型から協同組合・友愛互助組織をめざす動きと、アウグスト・ブランキ「四季協会」型の、現存国家権力の暴力的転覆やテロを狙う秘密結社・少数精鋭革命党の志向の分岐がありました。19世紀後半から20世紀初めは、その二つの流れが合従連衡の中で合流し、ドイツ社会民主党やイギリス労働党のような社会民主主義政党として、選挙と議会を通じた社会改革・民主化を可能にしてきました。ブランキ型秘密結社の「裏切り者は死刑」の伝統にはマルクスが介入し、@異論者は公開指名手配で追放するが生命は奪わない「除名」制度を共産主義者同盟に導入し、A将来の再加入を可能にする「除籍」ももうけられました。B秘密結社の陥りやすい中央集権・個人独裁を制御するため、組織内に選挙制ばかりでなく複数指導者制・任期制など権力分立の制度を導入し、C機関紙編集権の独立、D地方組織の独自規約制定権、E党財政・専従職員給与の透明性・公開制、F異論者処分への多段階の党内第3者による仲裁裁判制度等が設けられ、実際に機能してきました。

● 20世紀に入って最大の問題が、専従活動家が増殖した党中央官僚制と、選挙で有権者の支持で選ばれた国会議員団との関係でした。多様な社会主義政党や労働組合を基盤にした第二インターナショナルの中心であったドイツ社会民主党は、第一次世界大戦の戦時公債への態度をめぐって、党官僚・議員団を横断する分裂が決定的になり、独立社会民主党やローザ・ルクセンブルグらの最左派スパルタクス団を生み出しました。そこに、ロシアで秘密結社の系譜から暴力やテロをも用いた革命を成功させたレーニンらのボリシェヴィキが、「第二インターナショナルの崩壊」をうたって、第三インタナショナル=コミンテルンを作り、その暴力革命を可能にする前衛党を世界に広めようとしました。それがコミンテルン加入条件21箇条(1920年)、コミンテルン模範規約(1925年)に書き込まれた、ロシア起源の組織原理=「民主集中制」でした。それを受容して、世界共産党=コミンテルン日本支部として創立されたのが、日本共産党です。ですから共産党の党内コミュニケーションには、軍事用語があふれていました。「プロレタリア独裁」や「労働者階級」とは言わなくなりましたが、すでに世界は冷戦さなかの1961年でも冷戦崩壊の1989年でもなく、「もしトラ」でトランプ再登場のアメリカの可能性も出てきました。こうした21世紀世界の本格的構造分析と変革条件の探求・政策対応を求められています。しかし日本共産党には、戦略・戦術・陣地・前衛・戦闘的等々の軍事用語がジャルゴンとして残され、党中央官僚に異論を表明するSNSをひそかに監視し摘発する、憲兵隊風秘密組織もできているようです。ただしそのジャルゴンを使ってでも世界を分析できる理論枠組と理論活動家は、消え去ろうとしています。

● 私の「民主集中制」理解は、すでに1989年の著書以来公開し、百科事典の辞書的な定義のほか、19世紀社会主義や「民主主義」一般に比して歴史的特徴として、@厳格な「鉄の軍事的規律」、A上級の決定の下部の無条件実行、B厳しいイ デオロギー的・世界観的統一と異論・離反者の犯罪視、C 党員の水平的交通および「分派」禁止、D党財政の中央管理と秘密主義、E党外大衆組織さらには国家組織への党内「伝導ベルト」を通じての指導と支配の確保、としてきました。それらは、1989年の東欧革命時に、ほとんどの国で共産党が独裁国家・指導者崇拝を産んだ重要因として廃棄され、わざわざ「集中制」を主語にしなくても、十分な情報と平等な熟議の上での決定の実行を意味する「民主主義」だけでよいことになりました。何よりも、一人一人の党員個人の個性・自発性・人権と入退会・言論の自由に立脚する「党員主権」という考え方が、民主化を推進した後継の社会党・左翼党・民主党等々の原理になりました。日本で1989年に新語・流行語大賞で普及した「セクハラ」、2000年から一般化した「パワハラ」の排除が、一般企業や官庁組織と同様に、ポスト共産主義政党の重要な組織規範となりました。日本共産党が、2024年のバブルのなかで政治改革・政党再編に参与しようとするなら、まずは軍事革命政党・集権制・指導者崇拝・人権侵害のイメージを払拭し、主権者たる国民に開かれた、党員主権と民主主義の政党へと脱皮することが必要でしょう。コミンテルン起源のいわゆる「二段階革命」をなお唱え、「社会主義革命」に先行する「民主主義革命」に固執するのならば、なおさらです。丸山真男風に言えば、主権者である国民を主人公とした、日本政治全体の「永続民主主義革命」の可能性の探求が必要なのです。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

30年前を他山の石として、SNS時代の政治改革を

 

2024. 2.1 ●  新年に能登半島を襲った地震・津波は、多くの被災者の生命を奪い、1か月たっても水や電気のライフラインが復旧せず、大雪の中でボランティアの片付け手伝いも難しい、緊急事態が続いています。東京のホテルや料亭で毎晩グルメを漁り続ける首相も、被災時に東京の自宅にいて被災地に視察に入ったのは首相と同じ2週間後の県知事も、初動の遅れとライフライン・住民避難誘導の危機管理の甘さは、ちょうど同じ冬期の1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災・大津波や2016年熊本地震の経験を活かせなかった、大惨事です。震度7を経験した志賀町は、北陸電力の原発のあるところ、活断層の有無と危険度がずっと問題になっていたところで、2011年以降停止していたのが不幸中の幸い。それでも燃料プールには1号機に672体、2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵され、冷却されていました。

●  北電は「安全上の問題はない」と直後に発表しましたが、その後変圧器の油漏れや3メートルの水位上昇、放射能計測ポスト13箇所のデータ欠落など、次々に問題が見つかりました。この地域の活断層の予測は建設設計時とは大きく変わってきましたから、もし稼働中であったら、福島原発なみの事故もありえたでしょう。今回100人以上の犠牲者を出した珠洲市は、1976年の関西電力の原発計画を住民の粘り強い反対運動によって2003年に凍結させた立地断念地点です。東京電力の福島もそうですが、関西の電力を能登半島に求めたのも、もともと原発には人間にとっての大きな危険が予測されたからでした。志賀原発ばかりでなく、柏崎原発も、敦賀から高浜に至る「原発銀座」についても、改めて本格的な安全審査が必要になるでしょう。

●   原子力発電は、日本のポスト高度経済成長時代の、基幹産業の一つでした。石炭から石油へ、その石油が中東への輸入に頼り危機になると、今度は石油から原子力と称して、1980年代以降のエネルギー転換を主導してきました。そのバブル期に向かう日本の国際的地位上昇の推進力になったもう一つの産業が、トヨタをはじめとする自動車産業でした。石油危機と排ガス規制・低燃費による欧米での小型車志向に乗って輸出を増やし、アメリカ車はもちろんドイツ車の市場にも浸食して、文字通りの基幹産業になりました。原発推進が2011年福島原発事故で挫折し再生エネルギーへの転換が不可避になっても、日本の自動車産業は「失われた30年」の例外部門としてシェアを拡大し、2023年までトヨタは4年連続世界一で、ホンダ・日産・スズキも世界的メーカーです。

●  ただし、ここにも脱炭素・EV化の波が迫ってきて、車種別ではテスラのEV車がトヨタ・カローラを上回り、EV車では中国車が大きく伸びています。そこに、トヨタ傘下の豊田自動織機が自動車エンジンの性能試験のデータを「きれいに見せる」不正書き換えで型式指定申告、ランドクルーザーなど10車種が出荷停止になりました。すでに同じ傘下の日野自動車・ダイハツ工業も認証制度の不正が明るみに出ていましたから、トヨタグループ全体での数十年の不正です。どうやら「失われた30年」のほとんど唯一の売りであった自動車輸出は、原発同様に、安全性をないがしろにした利益優先の大企業体質でもたらされたものであったようです。株式市場は不動産バブルと外資による日本買い、日銀マイナス金利で好況に見えますが、このトヨタ失速で失う国際的信用は大きく、日本経済はさらに世界から取り残されます。

● その日本経済の中心にある経団連会長によれば、自民党に対する政治献金は、「社会貢献」なのだそうです。なるほど低賃金・物価高のもとで内部留保を蓄積してきた大企業にすれば、「失われた30年」を金融政策やアベノミクスでごまかしてきた自民党政治に一部を「献上」し、地方議員や投票買収の「裏金」に使ってもらうのは、自社・自産業維持の担保・保険金なのでしょう。軍需産業やベンチャービジネスでは、なおさらです。震災復興が必要なのに、経済効果さえ怪しい大阪万博に固執するのも、財界としては、ギャンブルがらみのカジノ資本主義に近づく、一階梯なのでしょう。しかし、ますます貧困化する科学技術政策・大学政策、家族定住を認めないまま低賃金長時間労働に閉じ込めようとする外国人労働者政策・難民政策を見れば、この国の没落は、加速するでしょう。

● 医療や介護の労働価値を高める北欧型福祉・社会保障、従属や追随を拒否するインド風自主外交、トランプによって攪乱されるが日本よりはましなアメリカの権力分立と政治資金の透明性、教育や文化への集中投資で生き残る小国シンガポールや韓国の知恵、体育館に集住避難させる日本と同じ地震国でありながら、被害者救済や避難設備・生活支援で隔絶したイタリアの人権を踏まえた災害対策など、いくらでも学べる海外の事例があるのに、この国は、外国人と見れば警官がすぐに職務質問し、ミス日本に日本国籍だが日本人の血筋がないと差別しSNSでいじめ、群馬では2004年から公園内にあった朝鮮人強制連行の慰霊碑を自治体が撤去、なんとも多様性を無視し忌諱する国です。その頂点が、現職外務大臣をルッキズムで評する自民党副総裁がまかり通ることでしょうか。

● 自民党の派閥政治と裏金の問題は、まさにポスト高度成長期の政治に、一貫してつきまとってきたものです。1994年の政治改革の不徹底のツケが、30年後に政界を揺るがしています。中選挙区ではカネがかかるというので小選挙区制を導入し、政党助成金制度が生まれたのに、企業・団体献金については抜け穴だらけで、自民党安倍派の政治資金パーティで6億7500万円以上二階派で2億6400万円、岸田派でも3000万円の違法収入が、明らかになりました。政党が政治家個人に支出する「政策活動費」は、各党幹事長クラスの非課税資金となっており、自民党二階幹事長時代は5年間で50億円、22年の自民党茂木幹事長の9億7150万円のほか、麻生太郎副総裁に6000万円、野党でも22年に、立憲民主党の泉健太代表・西村智奈美幹事長各5000万円、維新の会藤田幹事長5057万円、国民民主党榛葉幹事長6600万円が、使途不明のまま使われてきました。そろそろ確定申告の時期、インボイス制度まで導入されて厳しく脱税を取り締まられる中小零細業者や庶民からすれば、はらわたが煮えくり返る思いでしょう。

● 20世紀後半の日本を牽引し、21世紀の第1四半期の「失われた30年」でもしぶとく生き残ってきたが、そろそろ賞味期限が怪しくなった原子力村、自動車産業、自民党に比すれば、ぐっとスケールが小さいですが、自民党に対抗する野党の一つである日本共産党も、どうやら賞味期限切れのようです。30年前の政治改革の時期には、土井たか子委員長率いる日本社会党が、自民党に対する対抗軸として生きていて、一時は「山が動いた」とまで呼ばれた躍進を遂げました。1994年村山首相の自社さ連立政権までは存続しましたが、阪神・淡路大地震対策を含む安保・自衛隊政策での政策変更で失策・失速し、社会民主党などへと分解・解体しました。もっとも、その日本社会党解体が、15年後に民主党政権を可能にしたといえなくもありませんが。

● 1990年代に東欧革命・ソ連崩壊で存亡の危機だった共産党は、解体した日本社会党支持票の一部の受け皿となることで、西欧諸国共産党が崩壊していく中でも、なんとか生き残りました。しかし、東アジアに生き残った中国共産党・朝鮮労働党とのつながりを否定しても党名から有権者は離反するばかりで、党勢の歴史的衰退は、宮地健一さん広原守明さんが分析する党員の高齢化党員数・機関紙の半減として進行し、30年後の新たな政治改革の時代に直面して、日本社会党と似たような道を辿ろうとしています。ちょうど30年前が、インターネット元年とか、ボランティア元年とか呼ばれた時期で、政党にとっての情報環境も、社会運動の編成主体も、大きく変わっています。この21世紀的環境に、どのように積極的に対応できるかが、かつての保守にとっても革新にとっても、延命の鍵となるでしょう。

● 共産党は、新聞テレビの報道では1月第29回党大会での田村智子女性委員長誕生によるイメージ刷新・巻き返しも報じられていますが、SNSを中心としたウェブ上での情報や you tube 映像を眺めてみると、志位議長の「院政」をはじめ、旧態依然です。1年前から二人の有力党員が党首公選制を求めるなど、同党の異論を排除するコミンテルン以来の「民主集中制」の問題点が吹き出し、二人は除名されても、それを支援し論じる多くのサイトが生まれました。党大会前には7人の党員・元党員の覆面記者会見、党大会では中央の措置に異議を唱えた神奈川県の代議員への集中砲火で、社会的常識からするとパワハラとしか見えない弾劾・糾弾、そして前大会以来の党勢衰退も目標未達成も「反共攻撃」のせいにして、無責任な旧主的組織保存自己推薦老醜人事、せっかく新たな政治改革の時代のきっかけを「しんぶん赤旗」が作ったはずなのに、積極的解体か、自然死かの、選択を迫られています。私の考えは、すでに30年前に「科学的社会主義の審問官ではなく、社会的弱者の護民官に」と提言し、「インターネットは民主集中制を超える」予測してありますし、健康上の理由もあって詳しくは述べませんが、自民党の金権派閥解体をさらに促すような、野党を横断した新たな政策グループ風再編が急務であるとだけ、述べておきます。


2024. 1.3 ●正月元旦から「日本の原発銀座」に近接する能登半島地震・津波災害、羽田空港での日航機と海上保安庁機の滑走路衝突事故という波乱の予兆、危機管理の危機です。2024年が、前向きの年になるといいのですが…。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

 

戦争は続き沸騰化する地球、政治改革と万博中止と保険証存続の政権交代を

2024. 1.3 ●正月元旦から「日本の原発銀座」に近接する能登半島地震・津波災害、羽田空港での日航機と海上保安庁機の滑走路衝突事故という波乱の予兆、危機管理の危機です。2024年が、前向きの年になるといいのですが…。


2024. 1.1 ● かつてこの国は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされました。それから40年、年末に発表されたOECDの一人あたりGDPは21位、イタリアにも抜かれG7の最下位です。労働生産性では38カ国中30位、実質賃金も下がり続け、最下位グループです。まさに「失われた30年」、国別GDPもドイツに抜かれナンバーフォーで、やがてインドが追い抜くでしょう。頼みのアメリカ経済は順調でも、「アベノミクス」や「新しい資本主義」なる日本の愚策を救ってくれるわけではありません。むしろオスプレイのような欠陥商品や軍需品をさらに売りつけ、中古武器の払い下げ市場とします。自動車などの輸出利益は米国債購入にあてられて、中小企業や労働者の賃金にはまわってきません。長い眼で見ると、「先進国」「発達した資本主義国」というカテゴリーからの脱落が始まったようです。

● かつて第一次世界大戦が始まったとき、初年度の独英戦場で「クリスマス休戦」という言葉が生まれましたが、21世紀の戦争では、聖地エルサレムのすぐそばで、かつてホロコーストの被害者を自認していた国イスラエルによる、パレスチナの民衆へのジェノサイドが続いています。ガザでは、幼子がミサイルで傷つき、病院に運び込まれてもベッドも薬品もなく、すでに2万人以上の民間人の犠牲者です。ウクライナ戦争も長期化し、停戦のきっかけが見いだされないまま越年、プーチンは新年の大統領選再選をめざして、首都キーウを含む全土への年末空爆です。2024年は、プーチンのロシアばかりでなく、アメリカ大統領戦でのトランプ再登場の危険があり、アジアでは1月の台湾総統選を皮切りに、インドネシア大統領選、韓国総選挙、インド総選挙、さらにメキシコ大統領選、欧州議会選挙など世界は民意により大きく動く可能性があります。いまや国際社会での存在感を失った日本は、故安倍晋三の時代と同じように、トランプ共和党政権が復活すればいち早く尻尾を振るポチでありつづけるのでしょうか。

● 日本では7月の東京都知事選挙は決まっていますが、23年12月に急展開した自民党派閥のパーティ券による裏金づくり疑惑によって、それでなくとも危険水域だった岸田内閣の支持率は、かつての森内閣・麻生内閣末期並みの低空飛行になりました。自民党支持率も急速に低下して自民党政治の積年の腐蝕構造が、露わになってきました。日本のマスメディアで長く隠蔽されてきたジャニーズ事務所の性加害が2023年に社会問題化したのは、イギリスの公共放送BBCが詳しく調査して、世界に報道してからでした。BBCは、日本の政治資金の異常にいち早く注目し、岸田首相の息子の官邸パーティまであげて裏金スキャンダルの構造にも切り込んでいます。唐突かもしれませんが、私は東欧革命・ソ連解体期の共産党政権崩壊を想い出しました。政権が長期化して独裁化し、結党の理念はともあれ、ノーメンクラトゥーラであった親の威光や官僚的テクノクラートが権力維持を自己目的化して民衆の支持を失い、マネーと抑圧で支持を調達しようとしたがかなわず、民衆からの圧力と示威行動・反乱で権力を追われました。その一党支配と圧政の記憶が世界的規模で残り、20世紀のある時期まで新時代の希望を意味することもあった共産主義と共産党という党名は、21世紀には抑圧と不自由の象徴になってしまいました。

● 日本における自由民主党という政党は、もともと戦後日本の社会主義・共産主義の台頭に対抗して生まれた保守勢力の連合でしたが、世界的な共産党の衰退と日本社会党の解体に乗じてイデオロギー色を薄め、権力独占と利権配分の共同体に純化しました。3世・4世の世襲議員を生み出すほどに腐朽し寄生的になり、日本語の自由と民主主義のイメージをおとしめてきました。1990年代の政治改革の限界・問題性が、政治資金規正法、小選挙区制を含めここまで明らかになってきたのですから、このさい、その世界史的前提となった冷戦崩壊の世界史的地点に立ち戻り、21世紀にふさわしい抜本的な変革が必要です。議員定数・政党助成金から歳費・政治活動費、公職選挙法を含む選挙制度やデジタル技術の導入を含め、既存の政党は、日本国憲法下の「ジャパン・アズ・ナンバーファイブ」「少子高齢化日本」を前提とした、政治システムのアイディアと構想を競い合い、20世紀後半以来の自由民主党支配に代わる、新たな国家と社会との関係を、創出してもらいたいものです。

●もっともその世界史的環境は、1990年代以降、さらに深刻化しています。地球温暖化から地球沸騰化への、待ったなしの気候変動・生態系変化が、2023年は、日本でも体感されました。集中豪雨など異常気象や食卓に上るサカナの種類でも、目に見えてきました。コロナ・ウィルスのような感染症の人類史的意味も、生産力発展・経済成長・開発至上主義的政治指導を前提としてきた20世紀までの政治とは異なる、政治システムへのアプローチを求めています。まずは政治改革に、大阪万博中止・縮小、それに健康保険証継続による野党の連合と政権交代でしょうか。コロナ禍で大病を経験した私個人は、残念ながら、新しい政治システムの行方を見定めることは難しいでしょう。友人が一人また一人と亡くなっているもとでは、新しいシステムのプランニングと構成は、21世紀末まで生き残る若い世代に、任せざるをえません。かつて1980年代のイギリスで、A・ギャンブルの『イギリス衰退100年史』が書かれ、バブル絶頂期の日本でも広く読まれました(みすず書房、1987年)。いまこそ「失われた30年」を明治以来の「開国」「近代化」過程から真摯に見直す、「日本衰退200年史」が必要で、若い皆さんに期待します。まだリハビリ中ですが、2024年も、よろしくお願い申し上げます。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

キッシンジャーも池田大作も、宮本顕治の亡霊もいなくなった

2023. 12.1  ● アメリカの元国務長官、ヘンリー・キッシンジャーが亡くなりました。100歳でした。歴代アメリカ大統領のブレーンで、もともとは国際政治学のパワー・ポリティクスの大家、中曽根康弘より年下なのに、中曽根の政治外交師範としても知られました。1971年の電撃訪中で、米中国交回復の立役者となり、20世紀冷戦の枠組みの再編に、大きな役割を果たしました。思えば米中接近は、ベトナム戦争の米敗北、米ドル基軸国際金融の再編、それに中東産油国の自立による石油危機と一緒でした。20世紀の最後の4半世紀は、東欧革命・東西冷戦終焉・ソ連崩壊・EU拡大のなかで、「リベラリズムの勝利」などとされましたが、同時に、西側世界におけるアメリカ一極支配の終焉をともなっていました。来年に迫った米国大統領選の有力候補者、民主党バイデン81歳、共和党トランプ77歳という老人支配が、この国の行く末を暗示しています。

●  湾岸戦争のころ、一時的にソ連崩壊によるアメリカ覇権の再興がいわれましたが、21世紀は、9.11米国同時多発テロから始まり、経済的には中国とアジアが世界の工場になり、BRICSとよばれる新興勢力が台頭し、リーマンショック後は世界の多極化・多層化・多元化が明らかになってきました。欧州内部も多元化しましたが、衰退するアメリカに最後までつきそってきたのは、アジアの経済大国だった日本。アメリカ自身が、トランプ大統領を生み出すまでに分裂を深めたのに、日本は、時々のアメリカの政策に従うだけで、いつの間にやら経済衰退国・政治的従属国・米軍中古武器購入国へと、「喪われた30年」を独走してきました。発展途上とは反対の、衰退途上国になっていました。キッシンジャーは、そのすべてを見てきました。 中国には100回以上訪問し最後まで注目してきましたが、日本に対しては、冷徹でした。ウクライナ戦争が二度目の越冬に入ろうとし、イスラエルのパレスチナ侵攻が泥沼化しようとしているとき、「強いアメリカ」の象徴が、静かに息をひきとりました。地球社会の温暖化・気候変動という、21世紀的問題が噴出しているというのに。

● キッシンジャーの活躍した時代は、地球社会の急速な近代化・工業化・都市化の時代でした。日本はその先頭に立った典型で、一時は高度経済成長と自動車や半導体の生産・輸出で、経済大国を謳歌しました。その時代の日本政治には、自民党の田中角栄や中曽根康弘ばかりでなく、野党を率いるカリスマ的指導者がいました。公明党を創設した創価学会の池田大作、日本共産党の一時代を作った宮本顕治です。田中角栄の『日本列島改造論』が新幹線や高速道路による日本の一体化・平準化を進めたとすれば、池田大作の創価学会や宮本顕治の「大衆的前衛党」は、その近代化に同調しきれない農村出身の労働者や貧困層、環境や健康を気にする中間層、それに学歴競争や対米従属文化に反発する若者たちを拾い上げた面がありました。キッシンジャーと共に亡くなった、創価学会の池田大作は、1960年に創価学会第3代会長に就任し、185万世帯を会員にし、1964年には公明党を結成、公称827万人の信者をかかえて政界にも大きな影響力を持ちました。日本国外にも280万人の会員がいるとされ、池田の中国への友好姿勢は、日中両国政府間の貴重なつなぎとなりました。当初は「人間性社会主義」や「恒久平和主義」を唱え「中道政党」としていましたが、初期の指導者竹入義勝や矢野絢也とは袂を分けて、経済成長の再分配に寄生する現世利益を求めて自民党に接近、21世紀には、自公連立政権が定着しました。しかし、宗教的にも政治的にも後継者にめぐまれず、池田が生きている限りで有効であったそのカリスマ性による政治や選挙への動員力は、初期会員の高齢化や二世問題もあって、これから減退して行くでしょう。

● 池田大作に対抗し、一時は「共創協定」という相互不可侵協定まで結んだ宮本顕治の共産党は、宮本のカリスマ性によって登用された不破哲三・志位和夫という小粒のリーダーに引き継がれましたが、2007年の宮本顕治の死をまつまでもなく、共産党という党名や民主集中制という組織を共有したソ連・東欧諸国の崩壊と、「友党」であった中国共産党や朝鮮労働党の独裁支配が、日本の民衆にとっての現実的脅威になるにつれて、創価学会よりも先に衰退し、政治的・組織的影響力を喪失していきました。宮本顕治のカリスマ性は、民主集中制というコミンテルン由来の閉鎖的組織によりかろうじて継承されましたが、マルクス解釈学のみの不破哲三や、内部反対派摘発の実務家である志位和夫によっては、もはや有効性をもたなくなり、党員構成も著しく高齢化しました。若者に無視され、「100年史」という作文さえまともにできずに、史実をゆがめる半宗教的セクトになりさがりました。2023年は、「除名」問題や老幹部たちの「赤い貴族」生活で一部の関心をよびましたが、政局では蚊帳の外。現実政治のうえでは、公明党よりも早く、泡沫政党化していくことでしょう。もっとも2世どころか、3世・4世議員だらけになりそうな自民党に将来があるわけではなく、日本政治は、深い混迷期に入っていきそうです。

● 政治の閉鎖性、時代閉塞は、「失われた30年」の社会の閉塞性の反映でもあるでしょう。もともと危険性が知られていた米軍機オスプレイの墜落に、「不時着」と言ったり公式抗議も無視された日本政府、少年たちをむしばんだジャニーズ事務所、少女たちを搾取した宝塚歌劇団、それらを報じることができなかったメディア、東京オリンピックに懲りない大阪万博の公金私消、日大アメリカンフットボール部の薬物汚染、学問の府としての大学を株式会社のようにする国立大学法人法改正案、20世紀末からのツケが、いたるところでほころび、腐敗してきています。2023年は、昨年の心臓病手術・入院の後遺症で、リハビリを重ねながら、少しづつ仕事をしてきました。 コロナに感染したほか、前立腺や肺炎など身体のあちこちに不具合がみつかり、今回更新が遅れたのも、消化器系の内視鏡検査によるものでした。この状態は、おそらく来年も続き、多くの皆さんにご迷惑をかけ、またご無沙汰することになろうと思いますが、よろしくご了解ください。