ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2024年1月ー

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

政治の情報戦への転換のなかで、ポピュリズムの台頭にも注意を!

2024.11.13 ● アメリカ大統領選挙結果が決まりましたので、追加更新。米国民主党系メディアの後追いが多い日本のメディアの予想に反して、共和党のドナルド・トランプの圧勝でした。接戦で、1ヶ月は開票の正当性をめぐり暴力沙汰を含む政争が続くのではと言われていましたが、投票総数でトランプ50.2%、カマラ・ハリス48.1%、激戦と言われた7州はトランプの全勝で、州毎の選挙人数では312対226,民主党のハリスは、現職バイデンから途中で代わったにわか作りでカラードの女性、世論調査では、かろうじて女性はハルス、男性はトランプと出ていましたが、黒人とヒスパニックでの民主党優位は大きく切り崩され、世代別でも、Z世代に強固なトランプ支持層が生まれていました。私にとってショックだったのは、民主党のブルーであふれていた常勝カルフォルニア州でのカウンティ(郡)別投票結果。かつて住んだことのある「多様性のるつぼ」カルフォルニアで、民主党のブルーは大都市部に追いやられ、共和党のレッドが虫喰い状に増えていました。
● ひょっとしたらと思って、全米のカウンティ別結果を見ると、レッドの大きな海の中に、点々と小さなブルーの島が浮かんでいる状態です。かつてワシントンDCで体験した2016年選挙のトランプ登場時とは、大違いでした。アメリカ社会における深い分断、政党支持分布線の引き直しは、歴史的で深刻です。客観的存在としての労働者階級は、人種別・性別・世代別を問わず、いまや民主党の安定した基盤ではなくなったのです。上院も下院も共和党が多数で、トリプルレッドの時代に入りました。政党配置は違いますが、おそらく日本でも、似たような地殻変動が起こっているはずです。アメリカでも日本でも、インフレ・物価高など国民の生活危機こそ、政治転換の深層の誘因でした。トランプには、落ち目の日本など眼中にありませんから、「アジアNATO」などといった自民党石破政権の牧歌的希望が通るはずはありません。せいぜい防衛予算目当ての軍需が「ディール」の対象となるくらいでしょう。自民党政権の敗北で、兜町の株価は動きませんでした。トランプのアメリカでは、フェイクニュースも蔓延しますから、通貨変動が激しくなります。これからの日本は、トランプに翻弄されることでしょう。不気味ですが、冷静に見続けましょう。

2024.11.1 ● 世界の「選挙の年」のハイライト、アメリカ大統領選選挙は11月5日が一般投票日です。日本の総選挙の方は、一足先に、10月27日に結果が出ました。石破首相は、自民党総裁選では国会予算委員会後の解散、日米地位協定見直し、裏金・統一教会問題等の政治改革も匂わせていたのに、いざ僅差で自民党総裁に選ばれると、豹変して早期解散、裏金議員非公認も曖昧なまま総選挙に突入、終盤には、せっかく公認をやめた裏金議員への「政党活動」援助2000万円までばれて、史上まれに見る自民党大敗、衆院与党過半数議席喪失です。後ろ盾の創価学会が池田大作名誉会長の死で、活力を失った公明党は、自民党と心中して、選んだばかりの石井啓一代表・佐藤茂樹副代表が落選する醜態です。野党で高齢化・セクト化して失速し供託金4億2900万円を無駄にした末期症状の共産党と併せて、20世紀型組織政党の没落です。私のネオ・グラムシ風政治モデルでいえば、19世紀の機動戦・街頭戦、20世紀の陣地戦・組織戦から、21世紀の情報戦・言説線への、日本における本格的転換です。

 もっとも機動戦→陣地戦→情報戦の理論モデルは、あくまで政治の形態・政治舞台についてのものです。街頭演説から紙媒体を経てインターネット・SNSへ、音声・文字媒体から映像・イメージへといった一般的傾向についてはわかりやすく、比例区での年代別投票先から自民・公明・共産党支持層の高齢化、若年層の維新・国民・れいわ支持はいえますが、例えば投票率の低下はSNSや米国ワールド・シリーズによっては説明できません。政治の内容=論点・政策・イデオロギー等は、それぞれの国を政治舞台とした経路依存性(パス・ディペンデンシー)や近代化・民主化の軌跡、地政学的国際環境なども影響します。保守と革新、右翼と左翼、中央と地方、中央集権と分権自治、階級・民族・性差・世代・資産・所得格差と言った社会的分断線、戦争と平和、自由と平等の民主主義観、新自由主義か新ケインズ主義かといった政治の内容・政策的方向性は、国によって異なり、選挙制度・選挙のタイミングにもよります。今回の日本の総選挙で言えば、右と左の両極にポリュリズム的勢力があらわれ、中道勢力の中での「右寄りシフト」が進みました。

●  情報戦の時代は、左右両極にポピュリズムを生み出しました。第50回総選挙の論題設定(アジェンダ・セッティング)では、当初共産党が自民党派閥の政治資金問題から裏金問題をクローズアップし、終盤には非公認候補支部への2000万円送付を暴き出しました。選挙中の政治資金の動きですから、本来論題設定が得意なマスメディアが調べ書くべきことを、党機関紙「しんぶん赤旗」が代行したかたちで、メディアの怠慢です。しかし、情報戦の論題設定と政策提言の受容・非受容、投票行動は別です。「裏金」という大きな論題で自民党・公明党を追いつめ、政策活動費10年後領収書公開と言ったピント外れと万博・兵庫県知事辞職問題等で大阪以外では大きく後退した維新の会を除けば、論題設定者であった共産党は、稚拙な情報戦で敗北です。そもそも論題を設定しても、それが他党やメディアによって争点にされなければ、選挙の焦点にはなりません。党幹部が小選挙区で立候補し有権者に訴える背水の陣をとらず、「自由時間」とか「共産主義」というピント外れの政策しかうちだせませんでした。せっかくスクープした機関紙の読者数・党員数の激減の流れをとめられず、党首公選をめぐる除名・除籍問題での党内矛盾激化と連動する高齢化した党員の活動量低下、相次ぐ地方議員離反・サボタージュなどで、かつて日本社会党・社民党の辿った泡沫政党化へ向かっています。逆に、「裏金」争点に「手取りを増やす」とSNSを駆使して若者をつかんだ国民民主党、「消費税ゼロ」一本で対抗した山本太郎のれいわ新撰組が、大きく得票と議席を伸ばしました。立党4年の国民民主党は、連立政権のキャスティングボードを握って、自民・立憲双方からアプローチです。立党5年のれいわは、賞味期限が過ぎた老舗共産党以上の比例票・議席増で、左派ポピュリズムの最先端になりました。公明・維新は党首交代がありそうですが、共産党中央常任幹部会は、一党員らしい「かぴぱら堂」さんのような具体的敗因分析もできません。幹部批判を許さない共産党の閉鎖性・指導者独裁体質は、ロシア革命・コミンテルンの伝統の残骸となって、消滅途上にあります。

● 立憲民主党は、小選挙区での自民党の自滅で議席数では大きくのびましたが、比例区の得票数・得票率でいえば、前回から微増にとどまります。注目すべきは、れいわのような左のポピュリズムだけではありません。中道右派のポピュリズムは、かつては自民党寄りの維新の党が一時独占していましたが、今回は300万票を失う惨敗で、大阪中心のローカル政党に戻りました。夏の東京都知事選の石丸旋風を受け継いだのは国民民主党で、今回は若者の支持を得て議席を4倍増、台風の眼となりました。「日本をなめるな」の参政党や、レイシズムの保守党の動きも注目です。今回は参政党のみならず、新参の保守党も得票率2%を越えて、政党交付金を得る要件を満たしました。両党を合わせると、政党法のあるドイツの政党の議席獲得要件である5%を越え、日本共産党と拮抗する勢いです。その民族主義的・排外主義的政策内容からすれば、移民反対・ナチス容認のドイツ極右民族派AfD(ドイツのための選択肢)と似てきます。共産党以上の左派ポピュリズム政党となったれいわ新撰組は、ウクライナ戦争勃発後に反EU・反移民を掲げて左翼党(リンケ)から離脱し、旧東独州議会選挙で左翼党以上の指示をえたドイツのBSW(ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟)と似てくる可能性を持ちます。しかし、忘れてならないのは、ドイツの左右のポピュリズムは、EUという大き政治舞台の中で開かれた情報・組織戦にさらされるのに対して、「失われた30年」で国際的存在感をなくした日本の民族主義的ポピュリズムは内向きで、むしろ「戦前への回帰」を想起させます。右であれ左であれ、国連や東アジアの中国・台湾・朝鮮半島情勢以上に、日米同盟という非対称の安全保障枠組みに大きく規定され、政治も経済も依存せざるをえなくなっています。日本の総選挙結果は、実際は11月5日のアメリカ大統領選挙の結果によって包み込まれており、その結果次第では、与野党の合従連衡や政党再編にもつながる可能性も否定できません。ウクライナ、ガザ、イスラエル、イラン、ミャンマー等の紛争をはらみ、民主主義から権威主義への趨勢を孕んだ世界の「選挙の年」はまだ未決で、未完成です。

● アメリカ大統領選投票直後の11月7日は、リヒアルト・ゾルゲと尾崎秀実が1944年に国防保安法違反ほかで死刑に処されて80周年です。私たちの尾崎=ゾルゲ研究会は、11月6−9日に、中国やロシアからゲストを招き、 愛知大学人文科学研究所と共同で、国際ワークショップ「ユーラシア大陸の秩序再編とインテリジェンスをめぐって」を開きます。その研究会は、東京・茗荷谷(地下鉄丸ノ内線茗荷谷駅3分)の拓殖大学文京キャンパス茗荷谷校舎E館901教室で、7日午後3時から6時(会場の癒合で2時間早まりました)に、加藤哲郎「ゾルゲ事件研究の現段階」「要旨」と配付資料はここに、当日報告パワポはここから)、上海師範大学・蘇智良教授「上海から東京へ:陳翰笙のインテリジェンス生涯」、モスクワ大学A・フェシュン教授の「尾崎とゾルゲとの個人的・事務的関係 」の3本が基調報されます。 翌8日は、同じ会場で10時から中国の陳麗菲 、洪小夏、徐静波、馬軍、徐青、臧志軍氏、日本の長堀祐造、田嶋信雄、 鈴木規夫、名越健郎、清水亮太郎氏らの報告と討論が行われます。詳しくは、新設された尾崎=ゾルゲ研究会ホームページに、公開研究会出席とオンライン参加用の窓口が開かれましたので、ご覧になって、申し込んでください。または、愛知大学の尾崎=ゾルゲ研究会事務局(20221107os@gmail.com)にお問い合わせください。

 獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)に続いて、2024年9月に、 獣医学者の小河孝さん、歴史学者の松野誠也さんと共著で、『検証・100部隊ーー関東軍軍馬防疫廠の細菌戦研究』という書物を刊行しました。やや高価な学術書ですが、本サイトに幾度か寄せられた、旧100部隊員の遺言を受けた「匿名読者」との対話編も入っていますので、多くの皆さんに読んでいただければと願います。

6月1日(土曜日)、東京・目白の学習院大学で、日本平和学会の平和文化研究会として、尾崎・ゾルゲ研究会もコラボして、劇団民芸・木下順二作「オットーと呼ばれる日本人」の合評会を兼ねた研究会を開きました。第6回尾崎=ゾルゲ研究会(OS通信号外)となります。
● 第6回  尾崎=ゾルゲ研究会研究会 尾崎=ゾルゲ事件と『オットーと呼ばれる日本人』との交錯をめぐって」
報告1  20世紀共産主義の総括へ―『オットーと呼ばれる日本人』劇評1島村輝(フェリス女学院大学教授) 報告2  レ・コミュニストとは何者であったのか?―『オットーと呼ばれる日本人』劇評2鈴木規夫(愛知大学教授)

討論   加藤哲郎(一橋大学名誉教授)  司会   渡辺守雄(筑紫女学園大学教授)

渓流斎日乗さんの参加記が出ています。 ● 尾崎=ゾルゲ研究資料蒐集、聞き取り調査などの実施について引き続き、是非ともご協力のほどお願い申し上げます。ご用の向きは、以下の事務局へご一報頂ければと存じます。 尾崎=ゾルゲ研究会事務局:愛知大学名古屋校舎鈴木規夫研究室気付 norioszk@vega.aichi-u.ac.jp/ 20221107os@gmail.com

世界の「選挙の年」に、日本もアメリカも「右寄りシフト」するのか?

2024.10.11 ●  衆議院が解散・総選挙となりました。15日公示、投票日は27日です。その翌週11月5日は、アメリカ大統領選挙です。ウクライナでも中東でも戦争は続き、アメリカではウクライナへの軍事援助やイスラエルのジェノサイドへの容認が、一つの争点です。日本の総選挙では、なぜかほとんど無視され、国会党首討論でも語られませんでしたが、この国の今後は、この二つの戦争を背景にした二つの選挙で、道筋が大きく変わってくるでしょう。中東全面戦争化、ハリケーン・地震台風被害や指導者の重大失言など米日とも「オクトーバー・サプライズ」もありえますから、裏金・統一教会を資源とした長期の安倍晋三政治の時代から、どれだけ脱却できるのかが、ポイントとなるでしょう。

● 今年のノーベル賞は、北欧らしい、粋な計らいです。物理学賞も化学賞もAIがらみで、気候変動による地球と人類の変調と、新時代の科学のあり方に、問題提起しています。文学賞はアジア初の女性受賞で韓国・光州生まれハン・ガン(韓江)さん。新時代の女性のあり方の予兆です。そして平和賞は、ようやくというべき日本被団協。米国オバマ大統領の「核廃絶プラハ演説」が2009年、国際的NG0の ICAN受賞が核兵器禁止条約のできた2017年でしたから、ウクライナと中東の二つの戦争で核兵器使用がささやかれ、東アジアでも危機が深まっている時機に、なぜか政府は核兵器禁止条約に調印も批准もしない戦争被爆国日本の高齢化した「ヒバクシャ」に、「核のタブーの確立」と核廃絶への覚醒の使命を付与したものでしょう。日本の社会主義・平和運動を「原爆反対・原発推進の論理」として批判的に描いてきた私としても、嬉しい限りです。このさい野党は、平和・安全保障政策の基本方向として、石破首相のアジア版NATOとは真逆の核兵器禁止条約調印・批准を、物価抑制や健康保健証継続と共に、与党の自民党、特に公明党に迫っていく候補者調整を、進めたらどうでしょうか。

● アメリカ大統領選投票直後の11月7日は、リヒアルト・ゾルゲと尾崎秀実が1944年に国防保安法違反ほかで死刑に処されて80周年です。私たちの尾崎=ゾルゲ研究会は、11月6−9日に、中国やロシアからゲストを招き 愛知大学人文科学研究所と共同で、国際ワークショップ「ユーラシア大陸の秩序再編とインテリジェンスをめぐって」を開きます。研究会は東京・茗荷谷(地下鉄丸ノ内線茗荷谷駅3分)の拓殖大学文京キャンパス茗荷谷校舎E館901教室で、7日夕4時から7時(会場の癒合で1時間早まりました)に、加藤哲郎「ゾルゲ事件研究の現段階」「要旨」と配付資料はここに)、上海師範大学・蘇智良教授「上海から東京へ:陳翰笙のインテリジェンス生涯」、モスクワ大学A・フェシュン教授の「尾崎とゾルゲとの個人的・事務的関係 」の3本が基調報されます。 翌8日は、同じ会場で10時から中国の陳麗菲 、洪小夏、徐静波、馬軍、徐青、臧志軍氏、日本の長堀祐造、田嶋信雄、 鈴木規夫氏らの報告と討論が行われます。詳しくは、新設された尾崎=ゾルゲ研究会ホームページに、公開研究会出席とオンライン参加用の窓口が開かれましたので、ご覧になって、申し込んでください。または、愛知大学の尾崎=ゾルゲ研究会事務局(20221107os@gmail.com)にお問い合わせください。


2024.10.1 ● グローバルな「選挙の年」の一環である、日本の総選挙の前哨戦、立憲民主党代表選と自由民主党総裁選が終わりました。11月のアメリカ大統領選挙より前に、10月中の衆議院解散・総選挙となりそうです。世界全体では、6月のメキシコ女性大統領誕生7月のイギリス労働党勝利のような変化は少なく、フランス国民議会選挙ドイツの州議会選挙で見られたような、移民問題などでの市民間対立、国家の権威主義化への傾斜、政治の対立軸の「右寄りシフト」はまねがれないでしょう。立憲民主党は、中道保守寄りの野田佳彦前首相を立党時代表の枝野幸男や現代表の泉健太らを退けて選びました。背後に、小沢一郎の影が見えます。自由民主党は、かつての軍事オタクで国防族あがりの石破茂を、首相になっても靖国参拝を公言する極右の高市早苗を選挙向けの顔として危惧し、決選投票で選びました。派閥解消効果はあったとはいえ、終盤には麻生・菅・岸田の3総理経験者の動きがあり、背後には森喜朗とアメリカ・ジャパン・ハンドラーの影もありました。テレビ・新聞は連日自民党総裁選を伝え、当初の小林・小泉ブームからメディア・ジャックがありました。後半追い上げた高市と共に警戒され敗れたのは、派閥を残した麻生副総裁裏金問題の元祖・森喜朗でした。 極右に比べれば「国防族」議員がリベラルに見えるという、情報戦の対立軸の「右寄りシフト」です。

● 立憲民主党が先に野田代表を決めたことが、9名が乱立した自民党総裁選に作用したことは、否めないでしょう。日本語の答弁能力が心許ない小泉進次郎の失速には、選挙を想定した100万自民党員の「顔選び」のリスク回避が働いたのでしょう。かといって高市早苗に乗り換えるには、靖国ばかりでなく、選択的夫婦別姓、対中国・韓国関係等での政策選択の幅が狭まります。高市は、安倍晋三の遺言執行人を任じていますから、推薦人をはじめ支持者には裏金議員統一教会とつながる壺議員がうようよいて、党内向けには数の力になっても、世論調査では内向きの負のシンボルです。政治改革には後ろ向きで、不適格です。党内力学の消去法で選ばれたのが、アベノミクスのもとで反主流に甘んじていた国防族・石破茂でした。もっともほぼかたまった党執行部・閣僚候補の選択の仕方を見ると、旧態依然の疑似政権交代力学で、そのまま解散・総選挙に臨むことになりそうです。私の注目点は、麻生最高顧問・菅副総裁や小泉選対委員長もありますが、村上誠一郎総務大臣と、内閣官房事務方副長官の元総務事務次官佐藤文俊、および防衛官僚上がりの首相政務秘書官槌道明宏です。

● 4半世紀前のリクルート事件・佐川急便事件などの金権政治スキャンダルは、自民党の長期支配と対抗軸の日本社会党を終わらせ、与野党の再編をもたらしました。いわゆる「55年体制の崩壊」です。細川内閣・村山内閣・羽田内閣と小選挙区制から政党助成法にいたる「政治改革」を進めましたが、社会党解体から自民党の再編で、第二次小渕内閣以降の自公連立政権に代わりました。その間、小沢一郎が、陰の演出者といわれました。15年前は、2大政党制をめざした「政治改革」の枠内での本格的政権交代でしたが、鳩山・菅・野田と民主党の短命政権が続き、東日本大震災・福島原発事故対応で手一杯で、中途半端なまま安倍晋三自公政権の復活を許しました。鳩山内閣の崩壊には、沖縄普天間基地移転問題もありましたが、やはり「政治とカネ」が絡んでいました。野田内閣は、社会保障財源を消費税増税に頼り、民主党を分裂させ、世論から見放されました。それから、あのアベノミクスと日本経済の本格的低迷が続きました。

● 2024年の政治危機は、55年体制を終わらせた「政治とカネ」スキャンダルに勝るとも劣らない広がりと闇です。本来なら、野党のチャンスです。しかし、自民党の側は、高市早苗や旧安倍派国家主義者が百田尚樹らの日本保守党にでも流れれば別ですが、どうやら、石破茂の「挙党一致」風疑似政権交代で乗り切ろうということのようです。野党の側も、政権交代の熱気はなく、一時上向いた日本維新の会は、兵庫県知事スキャンダルや大阪万博の不人気で勢いを失い、日本共産党は。高齢者向けの「革命政党」への先祖帰りで、日本国憲法に適応できない党規律・党内人権侵害顕在化で党役員や議員にも異論続出です。現執行部に忠実に立候補できるのは、どうやら70歳以上のオールド・ボリシェヴィキが大半です。立憲民主党からも若者からすっかり見放され、「市民と野党の共闘」は、夢のまた夢になっています。この野党の選挙協力体制の構築不可能を読み込んで、石破自公新内閣は、アメリカ大統領選後の11月10日投票ではなく、10月9日解散・15日公示・27日投開票という日程で、乗り切ろうとしています。「メディアジャック」の効果もあり、新総裁選出後は内閣支持率・政党支持率がご祝儀相場で多少は上昇しますから、速攻の逃げ切り体制です。相当数の裏金議員壺議員が公認され再選されるでしょう。

 この10月末選挙では、本来なら企業・団体献金の禁止など政治資金規正法の再改正が論議さるべきですが、短い国会では世襲政治の問題も政策活動費、官房機密費の問題も触れられないでしょう。ですから、野党が重要イシューとして提起しなければ、総選挙での争点になることはありません。経済金融政策におけるアベノミクスとの決別が、物価高と生活苦、賃上げの不均衡と格差是正、日銀の独立性や財政再建、為替相場と外国人投資、防衛費の膨張、それに外国人労働力・移民問題等に関わってきますが、個別問題は、なかなかとりあげられないでしょう。金子勝さんの最新刊『裏金国家』(朝日新書)が、「失敗の本質としてのアベノミクス」「自浄能力なき隠蔽国家」「惨事便乗型防衛費倍増」「仲間内資本主義」「政治献金天下りによるオリガルヒ経済」「円安インフレと格差拡大」などのキャッチーなキーワードで活写していますが、冷戦終焉・バブル崩壊後の日本の21世紀の歩みの全体が、外交・安全保障を含む今日の日本の宿痾を作り出しており、小手先の対症療法では効かない深刻なものです。アメリカ大統領選挙とウクライナ、中東の戦争次第では、衰退期日本の内向きの選挙結果も、予見できない惨禍に巻き込まれる恐れなしとしません。株価の乱高下は当然ですが、主権者たる国民自身の、自省と熟慮が求められるゆえんです。

●  獣医学者の小河孝さん、歴史学者の松野誠也さんと共著で、『検証・100部隊ーー関東軍軍馬防疫廠の細菌戦研究』という書物を、9月5日に刊行しました。やや高価な学術書ですが、本サイトに幾度か寄せられた、旧100部隊員の遺言を受けた「匿名読者」との対話編も入っていますので、多くの皆さんに読んでいただければと願います。

自由とは、「国家の自由」を制限する、社会の中での「異論の自由」の権利の行使である

2024.9.1  9月T日は、防災の日、1923年の関東大震災から101年です。例年各地で災害訓練が行われますが、実際には、訓練どころか、各地で台風10号など豪雨の被害がでています。雨が降らない日は猛暑で、熱中症が相次ぎました。今年の日本の夏は、猛暑・豪雨に加えて台風・地震も多く、気候変動を実感させるものでした。お盆までは、本サイトが危惧した通り、圧倒的なパリ・オリンピック「がんばれ日本」報道と、アメリカからのプロ野球報道がメディアを占拠しましたが、その後は、岸田首相の唐突な次期総裁選不出馬会見で、自民党内の政争が始まり、それに対抗すべき立憲民主党代表選が加わりました。アメリカ大統領選挙における共和党「確トラ」を覆す、民主党大会でのバイデンからタマラ・ハリスへの候補者差し替え劇もあり、いよいよ11月のアメリカ大統領選挙の行方から眼を離せない状況が続きます。ウクライナの戦争にも、ガザにおける虐殺にも、大きな影響を与えます。離島の戦争遺跡や自衛隊防衛力強化、特攻攻撃の無意味と犠牲者、昭和天皇の戦争責任の問い直し、女性にとっての戦争、無差別爆撃の国際法違反を改めて問う弁護士たちなど、8月の戦争にちなんだテレビや新聞のドキュメンタリーにも、見るべきものがありました。私も、中日新聞731部隊とハバロフスク裁判の問い直しで、ささやかながら発言しました。

 地震や台風のような天災には、時に国家権力による「ショック・ドクトリン」の執行がありうるので、要注意です。ナオミ・クラインのベストセラーは「惨時便乗型資本主義」と訳されましたが、災害に乗じた戒厳令や緊急事態の権力集中は、現存社会主義国や発展途上国でもよくみられます。アフリカの飢饉と内戦、北朝鮮の水害や中国政府の地震に便乗した治安強化・思想統制には、「ショック・ドクトリン」と同じ、民衆にとっての二次被害が孕まれます。この点で見逃せないのは、自民党改憲草案には、緊急事態条項と自衛隊の「国防軍」昇格、天皇制や保守的家族観の強化などがワンパックで入っており、権力による人権制限の余地が大きくなっていることです。そして、世論の不支持で何もできず退陣を余儀なくされたかに見える岸田内閣が、5月の国会審議末期のどさくさにまぎれて、災害時などに国の「指示権」強化をうたった地方自治法改正を成立させていたことです。もっとも災害時の地方自治体の防災・救援では、国による自衛隊派遣等ばかりでなく、直接被害を被る市町村と都道府県の関係が問題で、正月の能登半島地震にあたっては、自民党総裁選で暗躍する森喜朗元首相の愛弟子である馳浩知事による初動対応の遅れが、8か月たっても一時避難所での生活を被災者に余儀なくさせる一因となりました。阪神・淡路大震災で学んだはずの兵庫県知事がパワハラ・おねだり疑惑でスキャンダルとなり、東京都知事が関東大震災時の中国人や朝鮮人虐殺について認めず、慰霊の意さえ表さない状態を見ると、総選挙・国会での総理大臣選出ばかりでなく、都道府県知事を選ぶ際の民主主義のあり方が、問われているように見えます。アメリカ大統領選での接戦州の重要性はよく知られていますが、連邦制のドイツでは、州レベルでの政治での右翼台頭の地殻変動が、国政を動かしかねない勢いです。

  日本の自民党総裁選の様相は、10人以上の候補者をならべて国政選挙並みの関心を集めそうですが、本来裏金問題など政治とカネの問題で、岸田内閣が改革どころか真相解明さえできず、支持率低迷のもとで退陣を余儀なくされたにもかかわらず、企業団体献金禁止のような抜本的政策を出す候補は皆無で、裏金議員の公認・復権の道を開こうとする有力候補が出てくる始末、いずれ、11月10日投票がささやかれる、総裁選挙後の解散・総選挙を仕切る「選挙管理内閣」用の「自民党の顔」選びですが、今度こそ、9月のメディアジャックになりそうです。対抗する野党は、政権交代のチャンスなのに、どうにも元気がありません。立憲民主党代表選は、自民党と同じ時期に、自民党と同じ国会議員20人の推薦を立候補要件にしたのが、そもそも高いハードルになっていて、前代表・元首相・現代表 の争いになりそうです。政治改革や経済政策で新味が出てくれば、多少はメディアの関心をひくのでしょうが、まだ政権交代は見えません。本来こういう時こそ、路線論争を行って政局に参加すべき与党の公明党、野党の共産党は、ともに立党以来党員主権の公開でのリーダー選びをしたことがありませんから、蚊帳の外です。もっとも公明党は、一応制度的には代表選挙があり、9月18日公示で28日の党大会で決まります。支持母体の創価学会との関係もあり、山口代表への対抗馬が出てこないだけです。もう一つの共産党は、昨年党大会前に党首公選を訴えたベテラン党員二人を突如「除名」し、その手続きに疑問を持った党役員や議員をも「除籍」などで切り捨てて、「革命政党」の暴力革命のために生まれた軍隊的「鉄の規律」「民主集中制」を守ろうと、時代錯誤のハリネズミ状態です。

  民主主義にとって、自由と人権とは、遠い未来の話ではなく、現在の切実な課題です。党員たちの討論の自由と人権、SNSを含むコミュニケーションの自由、表現の自由を奪った日本共産党の志位和夫議長が、マルクスから「自由とは自由に処分できる時間のこと」という生産力主義的自由観を引きだして、「共産主義と自由」プロパガンダで、高齢化・衰退局面を脱出しようとしているのは、生活苦と低賃金・物価高に直面した日本で、皮肉で空想的なことです。生産力主義的というのは、1928年第6回世界大会採択の「コミンテルン綱領」における自由論・労働論・全面的発達論と、論理構成がほぼ同一であるからです。しかし今や、マルクス、エンゲルスの全文献が、新MEGAを含めて、インターネットで読める時代です。電子版をダウンロードできますから、その時々のドイツ語のFreiheitの用例については、簡単に検索ができ、研究も進められています。英語版 Marx Engels Collected Works,から引く場合は、Freedom ばかりでなく  Liberty の用例にも、注意しなければなりません。その場合、ひとまず、マルクスに大きな影響を与えたヘーゲル=エンゲルス的な「自由とは必然性の洞察である」という命題との関係から出発するのが、一般的な学問的手続きで、いろいろな展開がありえます。旧ソ連においても、ルナチャルスキーの建神論コロンタイの自由恋愛論ソルジェニツィンサハロフ、それに志位氏が好きらしいショスタコーヴィッチの自伝なども、「共産主義と自由」を論じる際の重要な素材です。志位氏は、日本政治の重要な時期に、理論的には貧しい自由時間論をひっさげてベルリンに向かったようですが、何よりも、ドイツで東独国家・共産主義党独裁を崩壊させたローザ・ルクセンブルグの「自由とは、常に思想を異にするもののための自由である」の神髄こそ、学んでくるべきでしょう。

● カール・マルクスの自由論には、「自由は、国家を社会の上位にある機関から、社会に完全に従属する機関に変える」ことであり、「今日にあってすら、さまざまな国家形態は、それが『国家の自由』を制限する程度に応じて、より自由ないしより不自由である」という『ゴータ綱領批判』の言明があり、それはロシア革命を導いたレーニン『国家と革命』の「国家が存在するあいだは『自由』を論じることはできない」というコミンテルン共産党の国家観・自由観と鋭く対立します(私の35年前の『東欧革命と社会主義』第3章)。このマルクスのパリ・コミューン後の自由論からすれば、今日の政治の中で、5年で43兆円にのぼる防衛力整備計画、健康保険証廃止を強行するデジタル庁6000億円予算、アベノミクスの総括なきまま11兆円に及ぶ国債利払いの総額117兆円の来年度概算要求を、世代交代風ポーズの総裁選挙の裏側で、粛々と進める岸田自民党内閣の国策=「国家の自由」の制限こそ、今日における「より自由」な社会のあり方なはずです。私は今日の東アジアの平和のためにも、戦前・戦中の日本国家の優生思想と加害責任を認めることが重要と考え、「国家の自由」に対抗する「社会の自由」がなお残されている中で、獣医学者小河孝さん、歴史学者松野誠也さんと共著で、『検証・100部隊ーー関東軍軍馬防疫廠の細菌戦研究』という書物を、9月5日に刊行します。100部隊どころか731部隊の細菌戦・人体実験さえ認めない日本の「国家の自由」に対する、ローザ・ルクセンブルク風「異論の自由」の行使です。やや高価な学術書ですが、本サイトに幾度か寄せられた旧100部隊員の遺言を受けた「匿名読者」との社会内対話も入っていますので、多くの皆さんに読んでいただければと願います。

スポーツウォッシングに負けず、戦争と平和を考える8月に

2024年8月1日 ●猛暑が続きます。地震が多く、地域によっては集中豪雨などの災害も。8月は、日本のメディアでは、集中的に「戦争と平和」が扱われる季節です。テレビでは、NHKをはじめ各局が特集番組で歴史ドキュメンタリーやドラマを放映してきました。ところが今年は、ETV特集やBSスペシャル番組はあっても、全体としては少ないようです。8月6日の広島や9日長崎原爆投下日が、パリ・オリンピックと重なって、パリからの実況中継が、各局の夏の放映のメインとなっています。巨大スポンサーであるアメリカ・テレビ局の スポーツ番組編成に合わせ、世界的な気候変動のもとでも、アスリートたちの心身を酷使しています。2021年の東京オリンピックも、無観客でしたが、メディアの上では、各国別のメダル獲得競争、特に日本選手の金メダル獲得に焦点を合わせた番組編成になりました。戦争の悲惨さ、核兵器の脅威も、日本の東アジアへの侵略責任も、「メダル・ラッシュ」「ガンバレ、ニッポン」の歓声の陰に隠されました。オリンピック開催は、本来都市が招致するものですが、商業化し肥大化する中で、世界の映像ネットワーク収入と開催国の財政援助がなければ運営できず、政治経済ばかりか外交的・軍事的性格をも併せ持つものとなってきました。
● しかも今回は、ウクライナとパレスチナと、二つの大きな戦争が続いているさなかのオリンピックです。世界は「選挙の年」ですから、 為政者に都合の悪い政治や社会の歪みをスポーツを利用して覆い隠す「スポーツウォッシング(Sportwashing)」が、金メダル競争の裏側で進んでいるようです。足元のフランス政治が安定せずテロ未遂も発生、アメリカでは大統領選挙で共和党大会から民主党大会への重要な局面です。テレビ討論とトランプ暗殺未遂で「確トラ」と言われていたのに、老人バイデン大統領が副大統領カマラ・ハリスに民主党候補を「禅譲」し、激戦州でも拮抗して、混沌としてきました。共和党大会ではプロレスラーがトランプを神格化し、イーロン・マスクが公然とトランプを支持しましたが、ハリウッドの芸能人ばかりでなく、やがて金メダリストの応援ツイートが話題になるでしょう。メキシコ、インドの選挙は終わりましたが、イギリスでは労働党に政権がりました。改革派が勝利したイラン大統領選の結果は、テヘランでの就任式でのイスラエルによるハマス最高幹部暗殺で、和平に結びつくどころか、中東危機の拡大となりそうです。事前の世論調査結果などから、現大統領が不正選挙で権力の座にすがりついているかに見える、ベネズエラの行方はなお不透明です。 これらにスポーツがどう関わるか、注意しておきましょう。
● 日本の政界は、9月の自民党総裁選・立憲民主党代表選に向けて夏休みに入ったのか、アメリカ大リーグの大谷翔平の活躍とオリンピック協奏曲の陰で、2割を切るにいたった岸田内閣の支持率が、わずかに盛り返す珍現象です。もっとも、さすがに岸田自民党総裁の再選はないと見通してのことでしょうが。国会議員は「視察」という名で海外に逃避できますが、円安の日本人庶民は、引きこもるしかありません。食料品など日常生活必需品の物価は、異常気象も重なって、値上げが止まりません。「核抑止」の日米防衛協力で防衛予算は膨れ上がる一方、コロナ対策でも将来の年金制度についても国民の負担は増え続け、生活破壊が続きます。肝心の立法府が夏休み状態で、落ち目の内閣と官僚制が結んだ閣議決定という名で、方向性を喪った行政府の横暴が続きます。国会での政治資金規正法改正を中途半端にしてお茶を濁した、自民党の政治腐敗は、留まるところをしりません。

● 自民党には「スポーツ族」議員がいます。野党の強い選挙区に、人気と知名度を頼りに投入されます。裏金議員の多くが、次期参院選挙で公認されることになり、そこには1000万円のキックバックを受けた、東京オリンピック担当大臣橋本聖子も入っています。その冬季オリンピックのメダルの流れで議員になった堀井学は、選挙区内への香典配りで公選法違反、その原資が裏金だったようです。能登半島地震のさいも東京で初動対応が遅れた石川県の責任者・馳浩知事は、東京で開かれた震災関係職員の会合で「低所得者が避難所に滞留している」と無責任な本音の吐露、さすがに金権自民党とスポーツ族汚染の元兇、森喜朗の秘蔵っ子です。統一教会癒着の元凶だった旧安倍派荻生田光一は、横綱照ノ富士の優勝パレードでオープンカーの真ん中にいます。こうした懲りない面々の典型が、「スポーツ族」ではありませんが、参院岩手選挙区の広瀬めぐみ議員。立憲民主党・小沢一郎の足下で、小沢の地盤切り崩しのために登用され、同県選出初の女性参院議員となったのですが、自民党海外研修ではエッフェル塔など観光三昧、選挙区を離れた東京では赤いベンツで不倫発覚、ついには公設第二秘書への公的給与私消の詐欺疑惑で強制捜査です。弁護士ですから、当然違法を知っての確信犯です。自民党を離党しても議員を続ける破廉恥犯ですが、恥ずかしながら、私の出身高校の後輩でした。日本の立法府の、憲法に沿った浄化は、徹底的に進めるべきです。まずは選挙での落選運動です。

● それでなくとも衰退著しい日本のジャーナリズムは、スポーツウォッシングで出番が少なくなっていますが、情報を受け止める私たちの方は、それに流されてはいられません。SNSまで広がった膨大な情報の海のなかから、自分にとって重要と思われるニュースやドキュメンタリー、論文や書籍を批判的に抽出して、日常的に知性を磨くのが、21世紀における市民の主体性のあり方です。広島・長崎の原爆、空襲・敗戦と玉音放送ばかりでなく、引揚やシベリア抑留、焼け跡・闇市やGHQの占領政策、日ソ戦争・朝鮮戦争やビキニ水爆実験、優生保護法やハンセン氏病の戦後など、トピックとしては記憶に残っている歴史の一コマを、より深く掘り下げ、最新の知見でヴァージョンアップするのが、夏の学びの喜びです。その素材は、インターネット上にあふれるほどに存在し、書物でより深く学びにも、格好の季節です。戦争の悲惨さを、自分の家族・親族や国民的体験から学ぶのも大切ですが、19世紀からの台湾・朝鮮・満州国と植民地支配にまで広げ、大陸から南方まででかけて他国の人々を傷つけ虐殺してきた歴史も、正面から見据えるべきです。もちろん、朝ドラから関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺に目を向けるのは、その第一歩です。

● この間、本サイトでは、一昨年の加藤哲郎・小河孝共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』の延長上で、その100部隊にかつて所属し人体実験にも関わったという「旧隊員の遺志」による「匿名読者」からの資料・情報提供の手紙を、第4信まで紹介し、私たちとの対話継続と本格的資料の公開を求めてきました。その後、予告された第5信はまだ届いていませんが、「100部隊=関東軍軍馬防疫廠」の人体実験・細菌戦について、私たちの歴史学・獣医学・政治学からの研究に「匿名読者」からの第4信までの情報も批判的に採り入れて、小河孝・加藤哲郎・松野誠也共著『検証・100部隊ーー関東軍軍馬防疫廠の細菌戦研究』(花伝社)という新著を、8月末に刊行します。「満州事変」から敗戦に至る南京虐殺、三光作戦、毒ガス・細菌戦、従軍慰安婦など、日本軍の加害体験も、この夏の「戦争と平和」の思索の一部に、とりわけ「戦争を知らない世代」の知性が、採り入れてくれることを願います。

若者たちの力で、マイナ保健証や大阪万博を政権交代選挙の争点に

 

2024年7月1日 ●6月はじめは、私にとってはドイツに次いで海外で身近な国、メキシコ大統領選挙とインドの総選挙がありました。メキシコでは初の女性大統領が誕生し、インドでは事前の予想に反してモディ首相の与党が大幅に議席を減らし「世界最大14億人の民主主義」の面目を保ちました。両国に友人や教え子の多い私にとっては、嬉しい結果でした。ただし本HPトップは、8月刊行予定の小河孝・加藤哲郎・松野誠也共著『関東軍軍馬防疫廠100部隊――戦争と獣医学』(仮題、花伝社)編集過程で、「旧隊員の遺言」によると称する「匿名読者」による情報提供の投稿があり、その第3信・第4信との対話編として「旧隊員遺品資料の全面公開を!」の呼びかけにしました。その後第5信はなく、また新著の校正も進んでいますので、本HPトップは、通常スタイルに戻します。

● 7月は6月以上の選挙ラッシュです。7月5日にイラン大統領選の決選投票があり、日本の天皇が公式訪問したばかりのイギリスでは、7月4日投票の総選挙です。与党保守党の敗北と労働党への政権交代の可能性が高いといわれます。フランスでは、パリ・オリンピックを前に、マクロン大統領が欧州議会選挙での極右の台頭に対抗して、国民議会の解散・総選挙に突入です。イギリスと同様に、移民受け入れの問題が、争点になっていますが、マクロン与党の敗北の見通しが濃厚です。アメリカ大統領選挙は11月ですが、6月末のバイデン対トランプのテレビ討論会でも、国境と移民の問題は大きな論点でした。もっとも4年前と同じ候補者ですから、討論会の焦点は、81歳現職対78歳前職の「老老対決」のパフォーマンスに当てられました。案の定、81歳は年齢相応のミスを重ねて、世論調査では圧倒的にトランプ勝利でした。ニューヨーク・タイムズは、民主党のバイデンに立候補辞退を促す社説を載せました。世論調査で7割が候補者差替えを望んでも、バイデンが降りない限り、民主党候補は変わりません。権力にしがみつく現職の強みです。そうした世界の流れのなかで、かつて日本でも岸田首相による解散・総選挙がささやかれていましたが、実際には自民党の裏金問題がうやむやにされて国民に見放され、内閣支持率は10%台まで下落して解散もできず、9月の自民党総裁選挙まで、党内抗争が渦巻く低空飛行が続きそうです。

●  そのため、7月7日投票の七夕東京都知事選挙が、この国のマスコミでは、欧米の国政選挙に代位する政治決戦と位置づけられました。ただし、政権与党の自民党・公明党は候補者を出さず、現職小池知事三選の後方支援にまわりました。対する野党は、立憲民主党の蓮舫参院議員が、離党した上で野党共闘のつなぎになるべく対抗馬となりました。ただし「オール都民連合」を作る前に、党内矛盾をかかえた共産党が政策協定もなしに蓮舫支援にしゃしゃり出て、労働組合連合東京が小池支持にまわるなど、無党派層の多い都民、特に若者の支持を広げるためには、やや稚拙な前半戦になりました。無党派層では、現職小池が3割、若くてSNSを駆使する石丸候補が蓮舫に匹敵ないしそれ以上の支持獲得という報道もあり、「若者支援」は、若者自身の運動・活動にならないと難しいようです。アメリカ・イギリス・フランス選挙ほどの華々しさはなく、1ドル=160円まで下落した円安のもとで、世界の注目度も高くはありません。世界146カ国中125位というジェンダーギャップ指数、とりわけ低い女性政治家比率の世界で、女性が首都東京の知事になりそうなことが、注目点のようです。

● 1ドル=160円は、1986年12月以来、37年半ぶりだとのことです。もっともそれは、80年代前半200円以上であったドルが、85年9月のプラザ合意で円高・ドル安に誘導され、88年には120円までドル安になる過程での一コマでした。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が語られ、バブルがはじける前の日本経済には勢いがあって、家電のみならず自動車でも半導体でも世界をリードし、95年の1ドル=79円まで、円高・ドル安基調が続きました。私は実は、1986年12月はアメリカ滞在中でした。1ドル=160円は、1ドル=360円の固定相場制から1973年に変動相場制に移行し、ベトナム戦争でのアメリカ敗北と日本経済のグローバル化に伴う円高が、ついに160円まで来たかという感慨であり、翌87年10月のレーガン政権下のウォール街株価暴落「ブラックマンデー」にあたっては、日本企業がアメリカ経済を救ったとさえいわれました。つまり、同じ1ドル=160円でも、円高進行途上での160円は、世界から見放された37年後の衰退期の円安160円とは、真逆の流れだったのです。

● この37年間の流れは、日本経済の体力衰退の証しです。ですから、日本資本主義そのものの体質を変えない限り、国際競争力はますます低下し、1ドル=200円も遠くはありません。しかし、後半10年余の責任は、明確です。アベノミクスと称した政府・自民党の経済政策と、それに追随した財務省・日本銀行の金融政策がもたらした災禍です。安倍晋三の誤診を真に受け、治療方法を誤ったツケが、現在の1ドル=160円です。思えば円高の最高値1ドル=79円の1995年が、日本における非正規雇用増大のきっかけとなる、経団連(当時の日経連)「新時代の日本的経営」が提言された時でした。以後、日本の労働者の実質賃金・可処分所得は上がることなく、産業技術と企業経営のイノヴェーションも進まないまま、冷戦が崩壊してBRICS、なかでも中国・インドの台頭などで多極化した世界から、取り残されてきたのです。

●  東京都知事選の選択は、都民のみが有権者ですから、もとより国政の行方を決めるものではありません。9月の自民党総裁選で不人気の岸田首相が退陣しても、看板替えのみで基本政策は変わらない、昔ながらの自民党内政権交代の可能性が強いです。公明党や日本維新の会の入る与党連合の再編はありえますが、基本政策の変更にはならないでしょう。安全保障や改憲では、岸田内閣以上に保守色が強まるでしょう。だとすれば、自公連合に対する野党連合が、「失われた30年」を真摯に認めて、日本資本主義をよりましなかたちで再建する対抗政策を提示し、2025年10月までには確実な、次期衆議院選挙で勝利する必要があります。その政権交代の準備が整っているかというと、理論的にも政策的にも、おぼつかない現状です。かつてはこういう時に裏方で理論的力を発揮した日本共産党の衰退と高齢化・自閉もあり、出口の方向性と政権イメージが見えません。ウクライナやパレスチナの戦争への政策は、国際社会の中での日本の役割がここまで小さくなると、たとえ政権交代があっても、実効的影響力はないでしょう。ロシア・中国・北朝鮮を安全保障の脅威と見る世論が強い中で、野党の政策調整は容易ではありません。

● 総選挙が2025年までないのであれば、野党が積極的に、争点を提示し設定すべきです。沖縄基地問題、原発再稼働、消費税率などでの合意が難しいのであれば、例えば24年12月2日には発行が停止され、マイナンバーカードに置き換わるという現行健康保険証をどうするのかという具体的問題で、野党の政策調整を試みたらどうでしょうか。デジタル庁が推進し、補助金まで出して普及しようとしているのに、「マイナ保険証」の利用率はまだ6.5% 、あと半年で置き換わる見通しはほとんど立っていません。立憲民主党は健康保険証の延長法案を準備しています。これを今から政権交代のための争点とし、若者も共感できる国民運動を組織できれば、自民党総裁選にも間接的影響を及ぼすでしょう。あるいは 大阪万博をどうするかでもいいでしょう。膨大な経費膨張と建築工事の遅ればかりでなく、メタンガス爆発事故猛毒ヒアリ550匹出現のニュースが続いて、こどもたちの無料招待にも不安を感じる人々が増えています。こうした国家的イベントを中止したり延期したりする勇気と決断力を、子育て支援や授業料・奨学金返済免除等の生活援助に結びつけ、自公政権に代わる新政権発足の目玉とするような、構想力が求められます。SNSを駆使してメディアを巻き込み、若者たちの声と運動にし、総選挙の大きな争点にしていくような、社会運動のヴァージョン・アップが求められています。若者たちに期待します。

100部隊「匿名読者」から第3信・第4信拝受、資料全面公開か、ご自分で資料集編纂を!

2024年6月20日追記 ●  小河孝・加藤哲郎・松野誠也共著の学術書『関東軍軍馬防疫廠100部隊――戦争と獣医学』(仮題、花伝社8月刊予定) の初校校正中に、再び「匿名読者」から、6月6日付第4信を花伝社宛てで受け取りました。6月1日更新の「ネチズンカレッジ」トップをご覧になったうえで、私たちの「某隊員=M技師」という推論は誤りで、別の「あまり名前が出てこない」100部隊2部6科員からの遺言であると、訂正を求めるものでした。このご教示には感謝し、新著での「M技師」の実名公表は、差し控えます。
 第4信では、「ゆくゆくは資料を譲渡したい」、海外出張から帰国したら第5信もいただけるとのことですが、ここまでの内容は、現在校正中の新著で参照できますが、以後は製本行程に入りますので、私たちの新著は、そのまま刊行します。旧隊員の遺品資料の全体を公開すべきという私たちの要望には、まだ応えていただけないとのことですが、今後の100部隊研究の深化のためにも、引き続き交信継続を願い、お手元の資料の全面公開を求めます。


2024年6月1日  ●昨2023年9−11月にかけて、本「ネチズン・カレッジ」サイト・トップでは、小河孝教授との共著『731部隊と100部隊』に対する「匿名読者」からの手紙にもとづき、示唆された「関東軍軍馬防疫廠100(イチマルマル)部隊」についての新たな資料について、広く情報提供を求めてきました。ただし8月の第1信、9月の第2信の後は、「元100部隊の某隊員から遺言を託された匿名読者」からも、他の関係者からも応答がなかったので、2024年に入ってからは、本サイトはこの問題には触れずに、獣医学者の小河孝教授と、新たに100部隊「職員表」を見つけた若手の歴史研究者・松野誠也さん(明治学院大学)に加わってもらい、3人の共著による学術書『関東軍軍馬防疫廠100部隊――戦争と獣医学』(仮題、花伝社8月刊予定)執筆に取り組んできました。その原稿締切直前に、昨年と同じ筆跡の「匿名読者」からの5月3日付け第3信が、みたび出版者気付で、加藤・小河宛に送られてきました。
● そこには、「ネチズンカレッジ拝読させていただきました。まず公表していただいたこと、そして戦争と医学・医療研究会にも取りあげて頂いたことを、某隊員に成り代わりまして御礼申し上げます。昨年送付いたしました資料・書類は私の説明不足な点があり、失礼をいたしました。以下の事について書籍・資料等を再確認調査いたしましたので、送らせて頂きます」と丁寧な文体で、おそらく他意はないと思われるが、またしても自分自身で「某隊員」の資料を解読し私たちに「解説」する手紙文と、新たな資料の所在地を示す文章等が入っていました。 たぶん高齢の方でしょうが、本サイトにアクセスすることはできる方のようです。
● 私たちの執筆中の共著書は、確かに昨年の「匿名読者」による「某隊員」遺品資料に触発されて企画されましたが、もともと1987年の三友一男『細菌戦の罪』(泰流社)以外に資料も研究も少ない100部隊について、国内外の資料を改めて収集し、特にその731部隊とならぶ細菌戦と人体実験を、学術研究の対象とすることを目的としていました。そのため、松野氏が歴史学・軍事史研究から、小河教授が獣医学の立場から、そして私が政治学・情報戦の視角から、それぞれに研究してコラボする原稿が、ほぼできあがっていました。そこで、「匿名読者」氏の新たな資料や史実の解読の示唆に応えるには、更に数ヶ月の調査と分析を必要とするため、私たちは、敢えて、本サイト及び執筆中の新著の末尾に、この「匿名読者」第3信への返答を「あとがき」風に加筆し、これまでの資料提供に対する御礼と、私たちなりの最新の解読結果を示すことにしました。
● これまでの「匿名読者」の情報提供は、旧隊員でなければ知り得ぬ隊友会や会誌の情報を含むものとしては有益ですが、その旧隊員「遺品」資料の全体は示されることなく、「匿名読者」により切り取られ「解説」された断片が、示されたものでした。写真版で偽書ではないと判断できましたが、私たちの学術研究にとっては、ある特定の解釈の方向に誘導される懸念があり、批判的に扱わざるをえないものでした。もう一つ、「某隊員」の遺品といいながら、その第一次資料所有者の氏名が明らかにされず、その「遺言」に従ったという「匿名読者」の連絡先も不明のままでしたから、その資料と解読の信憑性を担保するものがなく、学術的には使いにくく、限定的に取りあげるしかないものでした。
● そこで私たちは、「留守名簿」「職員表」など100部隊研究の基礎資料と第1・第2信発送元の消印住所、何よりも100部隊2部6科での人体実験に関わったと思われる「某隊員」遺品という限定的資料から、すでに「某隊員」を「M技師」と推定し、そのように理解すると合理的に解釈できる他の資料等をも使って分析を進めていました。昨年の本HPでは、私のメールアドレスなど連絡先を明示していたにもかかわらず、「匿名読者」からの直接連絡はなく、今回も出版社宛手紙というかたちで送信してきたのは遺憾ですが、第3信は、われわれが推定してきた「某隊員」が「M技師」であると確信できる内容を含んでいましたので、夏に刊行する新著では、その追跡経過と根拠を含め、故人である「旧隊員=M技師」の本名を明記し公表することを、ここに予告しておきます。
● 「匿名読者」に他意はないと思われますが、「某隊員」の遺言に沿って「真実の記録」を遺したいのであれば、これまでのような資料の断片的公開・恣意的「解説」は止めて、「M技師遺品」の全体をわれわれに示し閲覧可能にする、ないし、ご自分で資料集を編むなり、解説書を書くなりして世に出すことこそ必要ではないでしょうか。改めて、御礼とコメントをここに記し、メールアドレス katote@jcom.home.ne.jp への直接の連絡をお待ちします。

●今回の6月1日更新は、上記の執筆中の100部隊新刊書書き下ろし原稿締め切りに重なり、しかも、直前になって「匿名読者の第3信」が飛び込んできたために、パレスチナもウクライナも、政治資金規正法や東京都知事選・共産党パワハラ問題などもすべて省略し、「匿名読者」との対話編にしています。新著の実際の原稿は、すでに小河・加藤・松野ともほぼ完成し、日本における関東軍軍馬防疫廠=100部隊研究の基礎文献になることを目指しています。私自身の担当分「情報戦としての細菌戦」では、日本映画「ラーゲリより愛を込めて」、韓国映画「京城クリーチャー」、それにコロナ禍で亡くなった外交官の遺書『危機の外交 岡本行夫自伝』(新潮社)を取り上げて、東アジアで現在も続く戦時日本の侵略・植民地支配の影を追います。故岡本行夫氏の亡父は、731部隊のロシア語通訳でした。戦争体験の継承の、新しいかたちを探ります。関東軍の細菌戦から戦後の米ソ生物兵器開発におけるバイオハザード、オウム真理教と9.11直後の米国で実践されたバイオテロの問題もとりあげる予定です。8月発売予定ですが、乞うご期待です。

島根の地殻変動を、能登の被災者救援やパレスチナ支援の運動につなぐ想像力を!

2024. 5.1 ●4月28日投票の衆議院補欠選挙は、島根1区・長崎3区・東京15区と、すべて立憲民主党の勝利となりました。特に保守王国島根での、統一教会に汚染された自民党との直接対決で、立憲民主党女性候補が圧勝したのは、地殻変動でしょう。旧来の自民党支持層の中でも、超円安・物価高に帰結したアベノミクスの失敗と、金権・腐敗・裏金まみれの自民党政治を見限り、無能で厚顔無恥、国民感覚から離れた岸田首相に国を任せるわけにはいかないと、選挙で制裁を加えました。とはいえ、投票率はのきなみ低下で、政治不信・アパシーが多数派です。『ニューズウィーク』日本語版は、低投票率と東京15区の「選挙妨害」を、今後を占うトリプル補選の特徴としてあげました。与党の溶解はみられますが、野党のチャンスと言うほどの地殻変動はみられません。政治改革・政治資金規正法改正の見通しも曖昧です。そして、1ドル=160円の生活苦の元凶を作った黒田前日本銀行総裁に瑞宝大綬章、日本政治の混迷は、続いています。

●日本の大学では、長かったオンライン講義がようやく縮小され、教員と学生の対面、学生同士のキャンパス・コミュニケーションも復活しましたが、そのキャンパスには「国際卓越研究大学」など文科省および学外からの大学運営への介入による自主性喪失・序列化・財政誘導で、学生の意向どころか教職員の権限も削られ、大学の自治と学問の自由の危機が続いています。他方で欧米の「国際卓越大学」では、学生たちのパレスチナ支援の運動が広がっています。イスラエルのジェノサイド、ガザ攻撃への抗議です。コロンビア、イエール、ハーバード、ニューヨーク大、UCLAやバークレーなど全米62大学以上に広がり、すでに900人以上が逮捕されています。ロンドンでは30万人の街頭デモへと広がり大英博物館前で座り込み、パリ政治学院などヨーロッパ大陸にも広がっています。日本では、小さな集会はありますが、大衆的抗議運動にはなっていません。日本の学生たちは、他国の戦争での子どもたちの命に思いを寄せる余裕も、なくなったのでしょうか。日本経済の衰退、国際競争力の低下のもとで、イマジネーション=想像力の働く世界が狭くなっています。アメリカの学生たちの動きは、秋の大統領選にも影響し、ガザ地区ばかりでなくウクライナ戦争の行方にも、繋がってくるでしょう。

● 円安のゴールデンウィークで、インバウンド観光客は盛況、海外旅行をあきらめた国内近場観光も賑わっています。しかし日本は、このところ地震が続いています。新年の能登半島に続いて、4月には四国でも、共に原発の立地を含む地域でした。昨年末のフィリピン、3月のインドネシア・ジャワ、4月の台湾・花蓮地震など、日本の周辺でも活発な地震・火山活動が見られます。温暖化など気候変動とあわせて、私たちの生活基盤の根幹でも、戦争に準じる生命のリスクが高まっています。4月の台湾の地震で思い知らされたこと。日本の正月の能登半島地震が、いまだに復興どころか瓦礫の整理もできず、被災者用の仮設住宅がようやくできつつあっても、老人・身障者ら弱者の介護のボランティアまでは手は回らず。ほぼ同じ震度の台湾・花蓮地震では、官民連携しての備えのもとで、地震の3時間後に仮設住宅やトイレが準備され、被災者救援、道路や建物の復旧も、日本とは比較にならない素早さでした。日本では体育館に毛布の雑魚寝避難所暮らしが見慣れた風景で、よくイタリアの人間の尊厳とプライバシーを尊重した仮設住宅と比較されてきましたが、アジアでも台湾には、イタリアに勝るとも劣らない災害への備えと救援・復旧・復興政策がありました。それは、政治の違いでした。なにしろ能登の被災地に首相や知事が入ったのは1月14日と地震の二週間後、国も県も、職員自身が被災した市町村自治体に責任をおしつけて、半ば見捨ててきたのですから。原発推進ばかりでなく、裏金政治腐敗や東京オリンピック汚職の元兇・黒幕が能登出身だったことと、無関係ではないでしょう。

● 4月28日の自民・公明不戦敗、立憲民主党完勝の政治に、野党の立憲・維新のほか少数政党が勢揃いした東京15区で、日本共産党とれいわ新撰組は表に出ませんでした。れいわ新選組は、党としての推薦は行わず、山本太郎代表は無所属ながら次点になった須藤元気候補を応援し、櫛渕万里共同代表は当選した立憲民主党・酒井菜摘候補を応援しました。選挙結果としては、上々です。日本共産党は、島根・長崎では「自主支援」であまり動きませんでしたが、東京15区については、29日の「しんぶん赤旗」によると、「野党の連携」による「市民と野党の共同候補」の勝利、としました。事実として共産党が立候補予定者をおろし、立憲民主党の酒井候補支援にまわったことが、大差での当選に結びついたことはまちがいないでしょう。しかし「野党共闘」と正面からいえないのは、立憲民主党との関係で、労働組合・連合は「労働者階級の革命政党」共産党と組むことを、拒否しています。5月1日は労働者の祭典、メーデーです。共産党は「労働者階級の前衛」という言葉は使わなくなりましたが、なおノスタルジアがあるようです。久しく階級分析はみられず、労働者党員の比率も出さなくなったとはいえ、「階級闘争」や「革命」は、目指しているようです。このジレンマを「革命」の方向で内向きに純化するのか、市民に開かれた「共闘」の方向で自己変革をはかるのか、正念場のようです。

● 連休中に目立たないかたちで出た『日本共産党の改革を求めて #MeToo #WithYou』(あけび書房)という新刊書は、私としては、有田芳生さんらと30年前に書いた「日本共産党への手紙」に対して、良心的な一般党員の方々から、実態を訴える返事をもらったような、興味深い内容です。同党の自己変革の障害になっている「民主集中制」の内実が、党員主権の公開討論を妨げているだけでなく、パワハラやセクハラまで生み出している実態を、一般党員の目線で具体的に描き、説得的です。どうやら志位議長以下幹部たちの官僚化と高齢化が進み、思考のフィードバックができないようです。さらにいえば、共産党の言う「革命」が、1917年のロシア革命の圧倒的影響下で目標になってきた以上、ご高齢の党員・幹部の皆さんは、池田嘉郎さんら最新の研究から、改めて学ぶべきでしょう。

● 有料サイトですが、新潮社Foresight池田嘉郎さんの連載「悪党たちのソ連帝国」が、大変刺激的です。「革命を経たとはいえ、ソヴィエト・ロシアは皇帝たちのロシアに似ていた。第一に、広大な領域と多様な住民集団をもつ点で。第二に、統治者を縛る法がない点で。この二つの指標をもって、筆者は「帝国」という言葉を使いたい。ソヴィエト・ロシアは20世紀の帝国であった。そしてレーニンは帝国の創始者である」「レーニンが解体したはずの「ロシア帝国」は、いかにして強大な「ソ連帝国」として再建され、現在の「プーチン帝国」にいたったのか――ソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする」という意欲作です。かつてロシアや中国の「革命」にあこがれ、「革命未だならず」と嘆息している皆さんは、ぜひお読みください。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

   

● 昨年クリスマスの頃から、韓国と日本の若者のあいだで、時ならぬ731部隊ブームだといいます。NETFLIXの韓流ドラマ「京城クリーチャー」が上映され、1945年5月、日本敗戦直前の植民地ソウルの病院で、731部隊の医師がひそかに炭素菌の人体実験で怪物を作りだし、病院からあばれだして危害をくわえるようになる、というストーリーです。パク・ソジュンら観流ドラマのスターたちが出演し、クリスマスから新年に全10話のドラマがアップされ、NETFLIXとしても話題のヒット作となったそうです。私は実は、731部隊の研究者として、ハフポストの取材を受け、3月30日にウェブ上に掲載された長文の記事「731部隊を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演京城クリーチャーが問いかけるもの」中で、インタビューに答えています。ただし、ソウルで731部隊が人体実験をした事実はなく、ハルビン郊外平房本部での人体実験でもこれまで資料で裏付けられた朝鮮人「マルタ」犠牲者は4人のみといいますから、ドラマ自体はフィクションです。大ヒットによって、すでに第二シリーズ制作も決まっているようです。

●詳しくはぜひドラマそのものを見て、ハフポストの記事にも注目してほしいのですが、インタビューで語っていないことを付け加えると、私はこの映画に、かつて日本映画が、原爆が産んだ怪獣として「ゴジラ」を描いたことを想い出しました。「反日プロパガンダ・ドラマ」などという日本人の感想もあるそうですが、往々にして加害者は、被害者の苦しみや恨みをなかなか理解できず、すぐに忘れます。「京城クリーチャー」は、植民地時代の日本軍の横暴、暴虐を、クリーチャー=妖怪・怪物にシンボライズしたものでしょう。私個人は同姓で複雑でしたが、炭素圏人体実験でバイオテロの怪物をつくりだす日本人医師が「加藤中佐」なのは、明らかに朝鮮半島史上の日本侵略の象徴「加藤清正」をイメージさせるためでしょう。歴史的事実と異なるにしても、こういうドラマからでも若い世代が731部隊や日本の戦争加害に関心を持ってくれるのは、好ましいことです。

●同様なことは、話題のアカデミー賞映画オッペンハイマー」についても、いえることです。広島・長崎の原爆被害が描かれていないから日本人にとっては好ましくないと言った「被害者日本」を強調する批判もみかけますが、人類絶滅兵器を作ってしまった科学者の苦悩を描いたものと素直に受け止めれば、学ぶところが多いはずです。ゾルゲ事件関係では、尾崎秀実を主人公にした1962年の木下順二オットーと呼ばれる日本人」を、久方ぶり劇団民芸が5月に新宿紀伊國屋サザンシアターで上演するそうです。今日のゾルゲ事件研究から見れば、木下順二の描く1932年上海のベースが川合貞吉回想なので、ゾルゲ・尾崎秀実、スメドレーの宋夫人=スメドレー宅会合は歴史的事実として疑わしいのですが、木下順二オットーと呼ばれる日本人」は、2009年に米国の日本文学研究者たちによって英訳されて、「Patriots and Traitors(愛国者と裏切り者)」と題するゾルゲ事件に関する論集に収録されました。米国では主流の陸軍ウィロビー報告『赤色スパイ団の全貌』や、それを継承するプランゲ『ゾルゲ 東京を狙え』ではなく、米国ではマイナーな、ゾルゲではなく尾崎秀実が主人公で東アジアを見つめたチャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』を下敷きにしているのが、「Patriots and Traitors」のユニークな特徴で、ピッツバーグ大学の米国人日本文学研究者たちは、日中戦争のなかでの尾崎秀実の思想と行動を、マッカーシズム最盛期米国でのオッペンハイマーの苦悩と対比しています。

●「京城クリーチャー」とも関わるNPO法人731部隊細菌戦研究センターの総会が、4月13日(土)午後、東京田町の港区立男女平等参画センター(リーブラ)・学習室Cで開かれました。日本における731部隊研究の最新の論点である長野県飯田市の平和祈念館における細菌戦・人体実験関連展示パネルの自治体による扱いの問題など、全国の731部隊研究者と中国からの研究者も集って討論しました。4月20日(土)は午後3時から、霞ヶ関ビルの愛知大学東京センターで尾崎=ゾルゲ研究会例会があり、「オットーと呼ばれる日本人」とも関連するジョーこと宮城与徳を日本に送り出した米国共産党について、京大・進藤翔大郎さんが報告しました。

21世紀の日本は、毒性健康食品や時代遅れの政党をうむ怪物になったのか?

2024. 4.1 ●いつの頃からでしょうか、日本の大きな新聞広告やテレビCMと言えば、自動車か家電製品・化粧品だった世界に、健康食品がやたら目立つようになり、定着しました。高度経済成長の時代は、家庭電化の「三種の神器」(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)から3C(カラーテレビ、クーラー、マイカー)へという消費文化の充実で、近代化による物質的価値の充足がうたわれました。それがほぼ1975年頃、石油危機で国際環境が揺れて安定成長の時代に入ると、「大量生産から多品種少量生産へ」「モノの価値からココロの価値へ」「スモール・イズ・ビューティフル」といった謳い文句に合わせて、「健康」「環境」「美」「生きがい」といった脱物質主義的・主観的価値をも組み込んだ商品市場が、冷戦崩壊でグローバル化した世界に広がっていきました。政治の世界にも、ドイツ「緑の党」に始まる社会構造と価値観の変化と多様性を反映した動きが現れ、そうした動きに取り残されたモノクロのソ連・東欧社会主義は崩壊しました。とりわけ「エコロジー」「女性・ジェンダー」や「マイノリティの承認」は、社会運動から既存の議会政治・政党政治にも浸透し、21世紀の民主主義として、地球大に広まりました。

●「健康」「美容」価値が商品化して、医薬品でなくても大きな市場ができると、広告も、効用ばかりでなくイメージで売ることになりました。「栄養成分を補給し、 または特別の保健の用途に適するもの、 その他健康の保持増進及び健康管理の目的のために摂取される食品」というサプリメントが、医薬品と日常的食品の隙間に、入り込みました。本来「supplement 補助・補完」の役割とされていた健康食品市場が広がると、朝食はサプリメントだけといったライフスタイルも生まれ、日本では、安倍晋三内閣の「アベノミクス」のなかで、もともと1991年施行の「有効や安全について国が審議を行い、消費者庁長官が許可を与えた食品」である特定保健用食品トクホのほかに、2015年から「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに 機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた」機能性表示食品という新たなカテゴリーが作られ、老舗の大手医薬品企業も「健康食品」市場に進出することになりました。そこがいま、小林製薬の「紅麹」製品への毒性物質混入によるとみられる服用腎臓障害で、3月末現在5人の死亡と100人以上の入院です。被害者は、日本国内にとどまりません。台湾など海外にも広がって国際問題です。

● 安倍晋三が政治的に作り出した「機能性表示食品」は、医薬品と食品のあいだのファジーな領域を、企業利益を産む市場にして投資をよびこもうとしたものです。その政界では、政党助成法と政治資金規正法のはざまの裏金ビジネスが暴かれ、自民党旧安倍派等の金権議員たちが、次の選挙での国民の審判を受けようとしています。旧田中派の末裔・二階俊博の政治とは、記載漏れの政治資金から3500万円を書籍代を出したというのですが、どうやら政策研究や知性の研鑽のためではなかったようです。5000冊・1045万円も購入した二階ヨイショ本に書かれた人心掌握の極意とは、「GNP=@G義理とAN人情とBPプレゼント」なそうで、党幹事長時代の50億円もの「政策活動費」の使途も、大同小異であったでしょう。政治と社会の架け橋である政党は、本来社会構造と価値観の変化にあわせて、たえずメタモルフォーゼ=形態転換していかないと使命を果たせないはずですが、支配政党の自民党は、どうやら20世紀の大量生産・物質的価値観時代の手法でファジーな領域まで埋め合わせ、行き詰まりつつあるようです。

● 同様の時代遅れと行き詰まりは、20世紀のロシア革命・コミンテルン以来の伝統に固執する「革命政党」=共産党にも顕著です。「党の上に個人をおかず」の民主集中制組織から脱しきれず、ようやく女性委員長を立てたのに、高齢幹部たちの院政とセクハラ・パワハラが横行、基本的人権である「個人の言論・出版の自由」を「組織の結社の自由」で押さえ込む、旧ソ連東欧・現代中国・北朝鮮でおなじみの悪弊を、繰り返しています。先月も書きましたので繰り返しませんが、20世紀のレーニン由来の暴力革命に即した軍事的規律=「民主集中制」は、もともと19世紀前半のブランキ派秘密結社の組織原理の復活でした。秘教的な入党儀式と権力者の暗殺・テロル実行も辞さない権力破壊、「裏切り者は死刑」の指導者独裁組織に対して、選挙で選ばれる代議員による立法機関「大会」と大会決定の執行機関である中央委員会を分離し、「裏切り者は死刑」を廃して指名手配の「除名」を最高刑にし、再入党可能な「除籍」制度を設けたのは、ほかならぬマルクス・エンゲルスの共産主義者同盟でした。敵権力指導者の暗殺テロルを、労働者の階級闘争による国家権力奪取に改めたのが、その綱領「共産党宣言」でした。以後のドイツをはじめとしたヨーロッパの社会主義勢力の主流は、複数指導者制、任期制、集団合議制、仲裁裁判制度など党内立法・司法手続きの導入による権力分立と党財政透明化、中央上納額制限を含む中央指導者の定期的監視・制御、党議員団と党官僚制の相互規制、機関紙編集の独立性と地域・工場基礎組織の自立性・財政自主性・ローカル新聞発行権など、総じて「党員主権」「社会主義的民主主義」の方向に向かっていきました。

● 今日のEU議会における有力潮流である社会民主党など社会民主進歩同盟と旧共産党を含む欧州左翼党は、ともにそれ自体多元的・重層的な政治組織ですが、おおむね「党員主権・民主主義」にメタモルフォーゼしています。ブランキ型秘密結社を直接継承したロシア・ナロードニキの地下活動の流れから生まれ、レーニンのボリシェヴィキがロシア革命の「勝利」により歴史を反転させた20世紀「民主集中制」=コミンテルン型共産党は、二つの世界大戦を含む「戦争の時代」に一時的隆盛でしたが、アジアのわずかな共産党・労働党を除いて、1989-91年にかけて総崩れになったのです。こういう歴史の語りが得意だったはずの日本共産党の、今日の理論的頽廃・貧困は、驚くべきものです。日常的に地域住民に接する地方党議員に対する中央党官僚によるパワハラ・セクハラを含む抑圧的統制、制御不能なSNS上での、トップの「赤い貴族」告発と中央指導部批判の氾濫、「さざ波通信」に続く、86歳の宮地健一さんの「共産党・社会主義」問題サイト復活をはじめ、平山基生さん大窪一志さん高橋祐吉さんら実名での古参社会主義者のつぶやき、「野党共闘」で最も頼りにしてきた西郷南海子さん山口二郎さん上瀧浩子さんらの苦言と提言が続いています。中央指導部の無為無策と、機関紙財政危機、低賃金専従労働者の無権利・過剰と老齢化・過労死により、溶解が始まったようです。

   

● 昨年クリスマスの頃から、韓国と日本の若者のあいだで、時ならぬ731部隊ブームだといいます。NETFLIXの韓流ドラマ「京城クリーチャー」が上映され、1945年5月、日本敗戦直前の植民地ソウルの病院で、731部隊の医師がひそかに炭素菌の人体実験で怪物を作りだし、病院からあばれだして危害をくわえるようになる、というストーリーです。パク・ソジュンら観流ドラマのスターたちが出演し、クリスマスから新年に全10話のドラマがアップされ、NETFLIXとしても話題のヒット作となったそうです。私は実は、731部隊の研究者として、ハフポストの取材を受け、3月30日にウェブ上に掲載された長文の記事「731部隊を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演京城クリーチャーが問いかけるもの」中で、インタビューに答えています。ただし、ソウルで731部隊が人体実験をした事実はなく、ハルビン郊外平房本部での人体実験でもこれまで資料で裏付けられた朝鮮人「マルタ」犠牲者は4人のみといいますから、ドラマ自体はフィクションです。大ヒットによって、すでに第二シリーズ制作も決まっているようです。

●詳しくはぜひドラマそのものを見て、ハフポストの記事にも注目してほしいのですが、インタビューで語っていないことを付け加えると、私はこの映画に、かつて日本映画が、原爆が産んだ怪獣として「ゴジラ」を描いたことを想い出しました。「反日プロパガンダ・ドラマ」などという日本人の感想もあるそうですが、往々にして加害者は、被害者の苦しみや恨みをなかなか理解できず、すぐに忘れます。「京城クリーチャー」は、植民地時代の日本軍の横暴、暴虐を、クリーチャー=妖怪・怪物にシンボライズしたものでしょう。私個人は同姓で複雑でしたが、炭素圏人体実験でバイオテロの怪物をつくりだす日本人医師が「加藤中佐」なのは、明らかに朝鮮半島史上の日本侵略の象徴「加藤清正」をイメージさせるためでしょう。歴史的事実と異なるにしても、こういうドラマからでも若い世代が731部隊や日本の戦争加害に関心を持ってくれるのは、好ましいことです。

●同様なことは、話題のアカデミー賞映画オッペンハイマー」についても、いえることです。広島・長崎の原爆被害が描かれていないから日本人にとっては好ましくないと言った「被害者日本」を強調する批判もみかけますが、人類絶滅兵器を作ってしまった科学者の苦悩を描いたものと素直に受け止めれば、学ぶところが多いはずです。ゾルゲ事件関係では、尾崎秀実を主人公にした1962年の木下順二オットーと呼ばれる日本人」を、久方ぶり劇団民芸が5月に新宿紀伊國屋サザンシアターで上演するそうです。今日のゾルゲ事件研究から見れば、木下順二の描く1932年上海のベースが川合貞吉回想なので、ゾルゲ・尾崎秀実、スメドレーの宋夫人=スメドレー宅会合は歴史的事実として疑わしいのですが、木下順二オットーと呼ばれる日本人」は、2009年に米国の日本文学研究者たちによって英訳されて、「Patriots and Traitors(愛国者と裏切り者)」と題するゾルゲ事件に関する論集に収録されました。米国では主流の陸軍ウィロビー報告『赤色スパイ団の全貌』や、それを継承するプランゲ『ゾルゲ 東京を狙え』ではなく、米国ではマイナーな、ゾルゲではなく尾崎秀実が主人公で東アジアを見つめたチャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』を下敷きにしているのが、「Patriots and Traitors」のユニークな特徴で、ピッツバーグ大学の米国人日本文学研究者たちは、日中戦争のなかでの尾崎秀実の思想と行動を、マッカーシズム最盛期米国でのオッペンハイマーの苦悩と対比しています。

●「京城クリーチャー」とも関わるNPO法人731部隊細菌戦研究センターの総会が、4月13日(土)午後、東京田町の港区立男女平等参画センター(リーブラ)・学習室Cで開かれます。日本における731部隊研究の最新の論点である長野県飯田市の平和祈念館における細菌戦・人体実験関連展示パネルの自治体による扱いの問題など、全国の731部隊研究者と中国からの研究者も集って討論します。4月20日(土)は午後3時から、霞ヶ関ビルの愛知大学東京センターで尾崎=ゾルゲ研究会例会があり、「オットーと呼ばれる日本人」とも関連するジョーこと宮城与徳を日本に送り出した米国共産党について、京大・進藤翔大郎さんが報告します。どちらも公開で、尾崎=ゾルゲ研究会はオンラインも可能ですから、ご関心の向きはどうぞ。私もリハビリしつつ参加します。

バブル景気と政治改革:1989年から2024年へ

2024. 3.1 ●東京証券取引所の日経平均株価は、1989年12月29日以来34年ぶりの高値で、4万円台の大台も間近とのこと、バブル景気の再来です。確かに1989年、東欧革命・冷戦崩壊の頃は、「24時間たたかえますか」の世界で、株価と地上げの不動産地価が高騰、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた余韻が残っていました。世界企業時価総額ランキングで、NTT以下日本企業・銀行がトップテンのトップファイブを独占したほか(NTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、IBM、三菱銀行、エクソン、東京電力、ロイヤルダッチシェル)、半導体の世界市場では50%のシェアでした。半導体売り上げ企業ランキングでも,1986-1991年まではNEC・日立・ 東芝が上位3位を独占したほか,10位以内に富士通・三菱電機・松下電子がランキングされ、6社が10位以内に入るという「電子立国」日本でした。日本株の外国人保有比率は、5%以下でした。国内市場の景気に熱気があり、労働組合のナショナルセンター「連合」が生まれたばかりでしたが、賃上げも1988年23%、消費が過熱していました。今日の「政治とカネ」問題の土台となったリクルート汚職事件が起きたのも1988年、冷戦崩壊後のグローバルな世界への対処が議論され、バブル経済に寄生し腐敗した政治の改革論議も熱気がありました。

●2024年の4万円株価は、世界の半導体景気が主導しているそうです。超高層タワーマンションの売れ行きも好調で、1989−90年に似ています。ただし、日本企業や高級不動産への投資の中心は、海外投資家です。日本株の30%は外国人が保有し、それが売買額の3分の2を占めます。当然株高の恩恵も、そうなります。1ドル=150円の円安と、米国ウォールストリートの市況、中国不動産市場のリスクヘッジに動かされています。円安輸出企業以外の国内製造業は、技術革新が遅れ内部留保の取り崩しと物価へのしわ寄せ、中小零細企業に至っては価格転嫁もできずに悲鳴をあげていて、とても「好景気」「賃上げ」どころではありません。いわば庶民の生活感から大きく離れた、「バブルな好況イメージ」のバブルです。他力本願で、いつはじけてもおかしくありません。日本に投資している海外マネーは投機ですから、あっという間に逃げ出すこともありうるでしょう。インテルやサムソンのリードする世界の半導体市場での日本の製造装置のシェアは3割程度ですが、製品市場では6%まで落ち込み、台湾のTSMCのような専業ファウンドリーメーカーはありません。日本政府は、そこで1兆2千億円の補助金を出して、熊本にTSMCの工場を誘致しました。40年前に、どこかで見た光景です。勢いのあった日本の自動車企業等を誘致しようと、アジアはもとより、アメリカの州政府やイギリス、オーストラリア政府なども税や立地の優遇措置を準備して日系企業を誘致し、「国内産業空洞化」が言われていました。現在の立場は、真逆です。日没する国の庶民は、かつて日本車をハンマーで壊した米国労働者のようなエネルギーはありません。株価や不動産に浮かれる余裕はないのです。

● ロシアのウクライナ侵略戦争は、3年目に入りました。思えばこれも、34年前の東欧革命・冷戦崩壊・ソ連解体によるグローバルな世界再編の一つの帰結でした。冷戦崩壊の主役は、ソ連共産党のエリート官僚であったミハイル・ゴルバチョフと、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンでした。ソ連共産主義の中で育ったゴルバチョフが、経済的停滞・政治的閉塞からペレストロイカ、グラースノスチ、新思考外交で脱出しようとしたところで、イギリスのサッチャーがレールを敷いたグローバルな新自由主義市場圏に組み込まれ、ハリウッド俳優上がりのレーガン主導で飲み込まれました。21世紀になると、そのグローバルな世界資本主義に、中国が共産党独裁を残したまま本格的に参入し、アジアの周辺国をも巻き込んで「世界の工場地帯」になりました。かつて技術力で欧米資本主義とドッキングできた日本資本主義は、G7に代表される欧米日同盟に残ったまま、中国経済圏の周辺にも組み込まれました。GDPは、中国ばかりでなくドイツにも抜かれ、やがてインドにも追い越されようとしています。そんな折りに、俳優上がりのゼレンスキー大統領の国ウクライナが、共産党官僚制の一部であったKGBを引き継いだプーチン首相のロシア帝国主義に攻め込まれ、NATOから武器を供与されて長期戦になりました。しかし、先は見えません。そのNATOの有力国を後ろ盾に、かつてのホロコースト被害を看板にアラブの地に立国したイスラエルは、パレスチナ人へのジェノサイドで世界史的加害者になっています。フィンランド、スウェーデンのNATO加入で、欧州の国際秩序が変わりました。秋のアメリカ大統領戦挙で、トランプが勝利したらどうなるか、兜町の株価水準は同じでも、1989年の民主化で浮遊し始めた希望ある世界とは、全然ちがいます。2024年の、再編を繰り返して多元化し権威主義的国家が勢いを増す世界は、1989年とは大きく環境が違い、方向性が見えてきません。不気味なのは、能登半島地震・津波でも株価が低落しなかったように、金融市場の暴走状態が続くことです。台湾の半導体ばかりでなく、総じて戦争や危機に関わる銘柄が、海外からの投機の対象になっています。

● リクルート事件の後始末であった1994年の政治改革の抜け穴から、政治とカネの問題が再び吹き出し、2024年自民党裏金騒動になっています。折からの確定申告期に、SNSでは「#確定申告ボイコット」が10万件以上、内閣支持率・自民党支持率史上最低の政界再編クライマックスを迎えようとしています。しかしこれが1990年代と異なるのは、自民党内での権力闘争と野党再編が結びつかず、どん底の自公・岸田内閣に代わる、新たな政治像・政党編成が見えてこないことです。30年前の細川内閣村山内閣を生み出したような、政治家たちのエネルギーは、小選挙区制と世襲議員が増えたためでしょうか、与野党を問わず、出てきません。「失なわれた30年」の経済と同じように、政治の時代閉塞です。権力の味に溺れた自民党・公明党はともかく、かつて日本社会党が果たした役割を果たすべき、立憲民主党・日本共産党に、元気がありません。立憲民主党の前身民主党は、まがりなりにも2009年に政権交代を実現しましたが、共産党の方は、34年間ひたすら衰退の一途です。欧米では、1989年東欧革命をきっかけに、共産党はプロレタリア独裁、生産手段国有化・集権的計画経済、前衛党・民主集中制といったレーニン・コミンテルン以降の伝統ときっぱりと訣別して、多くは名前を変えて、社会民主主義や協同組合主義・アナーキズム・コモンズ等へと転身していきました。それに対して、日本の共産党は、アジアの中国共産党・朝鮮労働党などと共に、コミンテルンの伝統を守り続けてきました。博物館的意味で、希少価値のある政党です。それが、自力更生もできず、存亡の危機にあります。

● おそらく1989年の東欧革命・ソ連崩壊期に日本共産党が生き残ったのには、共産党自身の宣伝する自主独立や議会政党としての定着ばかりでなく、中国・ベトナムなどアジア共産主義へのかすかな希望、日本の高度成長と近代化の遺産への寄生があったからでしょう。日本資本主義そのものに勢いがあったので、資本主義批判にも理論的・政策的活性化があり、再分配を組み込む余裕があったのです。まだ「アメリカ帝国主義」が学界のテーマであり、非正規労働・外国人労働者が少なく、一国「階級分析」が通用する時代でした。ソ連を模範国にしていた過去を捨て、「生成期」といった弁明を経て、ソ連共産党解体を「もろてをあげて歓迎」する根拠を強引に合理化する、マルクス・レーニン主義の理論政策幹部も残されていました。それが、党員数・機関紙読者数、国会・地方議会得票数・議員数、何よりも活動家層の高齢化と若者への影響力喪失が続いて、2024年1月の第29回党大会では、矛盾が吹き出した様相です。2024年は、SNS情報の常態化で中国共産党の横暴・自由抑圧が露わになり、「革命政党」と名乗ってもだれも現実性を見いだせず、解党的出直しか自然死かの瀬戸際です。1989年頃は、私は政治学者として『東欧革命と社会主義』(花伝社、1990年3月)をリアルタイムで書き、かつ、東欧の「フォーラムによる革命」「テレビ時代の革命」に刺激されて、新たな社会主義組織のあり方をフランス革命期まで遡って、『社会主義と組織原理』(窓社、1989年11月)と題して歴史的に探求していました。

● いま、日本共産党の中央幹部は、せっかく1年前に善意の党改革を訴えた古参党員を「反共攻撃」「分派」として「除名」し、ハリネズミ風に自己防衛しています。これに異議を唱える地方議員や地方幹部を、パワハラや専従解雇の生活権剥奪で抑え込もうとしています。滅多にとりあげてもらえない日本共産党史を、この間学術的書物にして書き下ろし、丁寧に助言してきた理解ある政治学者に対してさえ、空虚な名指しの中傷を新聞発表する仕打ちです。19世紀前半からの社会主義を志向する運動には、もともと出入り自由な自発的共同体を目指すロバート・オーウェン「ニューハーモニー」型から協同組合・友愛互助組織をめざす動きと、アウグスト・ブランキ「四季協会」型の、現存国家権力の暴力的転覆やテロを狙う秘密結社・少数精鋭革命党の志向の分岐がありました。19世紀後半から20世紀初めは、その二つの流れが合従連衡の中で合流し、ドイツ社会民主党やイギリス労働党のような社会民主主義政党として、選挙と議会を通じた社会改革・民主化を可能にしてきました。ブランキ型秘密結社の「裏切り者は死刑」の伝統にはマルクスが介入し、@異論者は公開指名手配で追放するが生命は奪わない「除名」制度を共産主義者同盟に導入し、A将来の再加入を可能にする「除籍」ももうけられました。B秘密結社の陥りやすい中央集権・個人独裁を制御するため、組織内に選挙制ばかりでなく複数指導者制・任期制など権力分立の制度を導入し、C機関紙編集権の独立、D地方組織の独自規約制定権、E党財政・専従職員給与の透明性・公開制、F異論者処分への多段階の党内第3者による仲裁裁判制度等が設けられ、実際に機能してきました。

● 20世紀に入って最大の問題が、専従活動家が増殖した党中央官僚制と、選挙で有権者の支持で選ばれた国会議員団との関係でした。多様な社会主義政党や労働組合を基盤にした第二インターナショナルの中心であったドイツ社会民主党は、第一次世界大戦の戦時公債への態度をめぐって、党官僚・議員団を横断する分裂が決定的になり、独立社会民主党やローザ・ルクセンブルグらの最左派スパルタクス団を生み出しました。そこに、ロシアで秘密結社の系譜から暴力やテロをも用いた革命を成功させたレーニンらのボリシェヴィキが、「第二インターナショナルの崩壊」をうたって、第三インタナショナル=コミンテルンを作り、その暴力革命を可能にする前衛党を世界に広めようとしました。それがコミンテルン加入条件21箇条(1920年)、コミンテルン模範規約(1925年)に書き込まれた、ロシア起源の組織原理=「民主集中制」でした。それを受容して、世界共産党=コミンテルン日本支部として創立されたのが、日本共産党です。ですから共産党の党内コミュニケーションには、軍事用語があふれていました。「プロレタリア独裁」や「労働者階級」とは言わなくなりましたが、すでに世界は冷戦さなかの1961年でも冷戦崩壊の1989年でもなく、「もしトラ」でトランプ再登場のアメリカの可能性も出てきました。こうした21世紀世界の本格的構造分析と変革条件の探求・政策対応を求められています。しかし日本共産党には、戦略・戦術・陣地・前衛・戦闘的等々の軍事用語がジャルゴンとして残され、党中央官僚に異論を表明するSNSをひそかに監視し摘発する、憲兵隊風秘密組織もできているようです。ただしそのジャルゴンを使ってでも世界を分析できる理論枠組と理論活動家は、消え去ろうとしています。

● 私の「民主集中制」理解は、すでに1989年の著書以来公開し、百科事典の辞書的な定義のほか、19世紀社会主義や「民主主義」一般に比して歴史的特徴として、@厳格な「鉄の軍事的規律」、A上級の決定の下部の無条件実行、B厳しいイ デオロギー的・世界観的統一と異論・離反者の犯罪視、C 党員の水平的交通および「分派」禁止、D党財政の中央管理と秘密主義、E党外大衆組織さらには国家組織への党内「伝導ベルト」を通じての指導と支配の確保、としてきました。それらは、1989年の東欧革命時に、ほとんどの国で共産党が独裁国家・指導者崇拝を産んだ重要因として廃棄され、わざわざ「集中制」を主語にしなくても、十分な情報と平等な熟議の上での決定の実行を意味する「民主主義」だけでよいことになりました。何よりも、一人一人の党員個人の個性・自発性・人権と入退会・言論の自由に立脚する「党員主権」という考え方が、民主化を推進した後継の社会党・左翼党・民主党等々の原理になりました。日本で1989年に新語・流行語大賞で普及した「セクハラ」、2000年から一般化した「パワハラ」の排除が、一般企業や官庁組織と同様に、ポスト共産主義政党の重要な組織規範となりました。日本共産党が、2024年のバブルのなかで政治改革・政党再編に参与しようとするなら、まずは軍事革命政党・集権制・指導者崇拝・人権侵害のイメージを払拭し、主権者たる国民に開かれた、党員主権と民主主義の政党へと脱皮することが必要でしょう。コミンテルン起源のいわゆる「二段階革命」をなお唱え、「社会主義革命」に先行する「民主主義革命」に固執するのならば、なおさらです。丸山真男風に言えば、主権者である国民を主人公とした、日本政治全体の「永続民主主義革命」の可能性の探求が必要なのです。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

30年前を他山の石として、SNS時代の政治改革を

 

2024. 2.1 ●  新年に能登半島を襲った地震・津波は、多くの被災者の生命を奪い、1か月たっても水や電気のライフラインが復旧せず、大雪の中でボランティアの片付け手伝いも難しい、緊急事態が続いています。東京のホテルや料亭で毎晩グルメを漁り続ける首相も、被災時に東京の自宅にいて被災地に視察に入ったのは首相と同じ2週間後の県知事も、初動の遅れとライフライン・住民避難誘導の危機管理の甘さは、ちょうど同じ冬期の1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災・大津波や2016年熊本地震の経験を活かせなかった、大惨事です。震度7を経験した志賀町は、北陸電力の原発のあるところ、活断層の有無と危険度がずっと問題になっていたところで、2011年以降停止していたのが不幸中の幸い。それでも燃料プールには1号機に672体、2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵され、冷却されていました。

●  北電は「安全上の問題はない」と直後に発表しましたが、その後変圧器の油漏れや3メートルの水位上昇、放射能計測ポスト13箇所のデータ欠落など、次々に問題が見つかりました。この地域の活断層の予測は建設設計時とは大きく変わってきましたから、もし稼働中であったら、福島原発なみの事故もありえたでしょう。今回100人以上の犠牲者を出した珠洲市は、1976年の関西電力の原発計画を住民の粘り強い反対運動によって2003年に凍結させた立地断念地点です。東京電力の福島もそうですが、関西の電力を能登半島に求めたのも、もともと原発には人間にとっての大きな危険が予測されたからでした。志賀原発ばかりでなく、柏崎原発も、敦賀から高浜に至る「原発銀座」についても、改めて本格的な安全審査が必要になるでしょう。

●   原子力発電は、日本のポスト高度経済成長時代の、基幹産業の一つでした。石炭から石油へ、その石油が中東への輸入に頼り危機になると、今度は石油から原子力と称して、1980年代以降のエネルギー転換を主導してきました。そのバブル期に向かう日本の国際的地位上昇の推進力になったもう一つの産業が、トヨタをはじめとする自動車産業でした。石油危機と排ガス規制・低燃費による欧米での小型車志向に乗って輸出を増やし、アメリカ車はもちろんドイツ車の市場にも浸食して、文字通りの基幹産業になりました。原発推進が2011年福島原発事故で挫折し再生エネルギーへの転換が不可避になっても、日本の自動車産業は「失われた30年」の例外部門としてシェアを拡大し、2023年までトヨタは4年連続世界一で、ホンダ・日産・スズキも世界的メーカーです。

●  ただし、ここにも脱炭素・EV化の波が迫ってきて、車種別ではテスラのEV車がトヨタ・カローラを上回り、EV車では中国車が大きく伸びています。そこに、トヨタ傘下の豊田自動織機が自動車エンジンの性能試験のデータを「きれいに見せる」不正書き換えで型式指定申告、ランドクルーザーなど10車種が出荷停止になりました。すでに同じ傘下の日野自動車・ダイハツ工業も認証制度の不正が明るみに出ていましたから、トヨタグループ全体での数十年の不正です。どうやら「失われた30年」のほとんど唯一の売りであった自動車輸出は、原発同様に、安全性をないがしろにした利益優先の大企業体質でもたらされたものであったようです。株式市場は不動産バブルと外資による日本買い、日銀マイナス金利で好況に見えますが、このトヨタ失速で失う国際的信用は大きく、日本経済はさらに世界から取り残されます。

● その日本経済の中心にある経団連会長によれば、自民党に対する政治献金は、「社会貢献」なのだそうです。なるほど低賃金・物価高のもとで内部留保を蓄積してきた大企業にすれば、「失われた30年」を金融政策やアベノミクスでごまかしてきた自民党政治に一部を「献上」し、地方議員や投票買収の「裏金」に使ってもらうのは、自社・自産業維持の担保・保険金なのでしょう。軍需産業やベンチャービジネスでは、なおさらです。震災復興が必要なのに、経済効果さえ怪しい大阪万博に固執するのも、財界としては、ギャンブルがらみのカジノ資本主義に近づく、一階梯なのでしょう。しかし、ますます貧困化する科学技術政策・大学政策、家族定住を認めないまま低賃金長時間労働に閉じ込めようとする外国人労働者政策・難民政策を見れば、この国の没落は、加速するでしょう。

● 医療や介護の労働価値を高める北欧型福祉・社会保障、従属や追随を拒否するインド風自主外交、トランプによって攪乱されるが日本よりはましなアメリカの権力分立と政治資金の透明性、教育や文化への集中投資で生き残る小国シンガポールや韓国の知恵、体育館に集住避難させる日本と同じ地震国でありながら、被害者救済や避難設備・生活支援で隔絶したイタリアの人権を踏まえた災害対策など、いくらでも学べる海外の事例があるのに、この国は、外国人と見れば警官がすぐに職務質問し、ミス日本に日本国籍だが日本人の血筋がないと差別しSNSでいじめ、群馬では2004年から公園内にあった朝鮮人強制連行の慰霊碑を自治体が撤去、なんとも多様性を無視し忌諱する国です。その頂点が、現職外務大臣をルッキズムで評する自民党副総裁がまかり通ることでしょうか。

● 自民党の派閥政治と裏金の問題は、まさにポスト高度成長期の政治に、一貫してつきまとってきたものです。1994年の政治改革の不徹底のツケが、30年後に政界を揺るがしています。中選挙区ではカネがかかるというので小選挙区制を導入し、政党助成金制度が生まれたのに、企業・団体献金については抜け穴だらけで、自民党安倍派の政治資金パーティで6億7500万円以上二階派で2億6400万円、岸田派でも3000万円の違法収入が、明らかになりました。政党が政治家個人に支出する「政策活動費」は、各党幹事長クラスの非課税資金となっており、自民党二階幹事長時代は5年間で50億円、22年の自民党茂木幹事長の9億7150万円のほか、麻生太郎副総裁に6000万円、野党でも22年に、立憲民主党の泉健太代表・西村智奈美幹事長各5000万円、維新の会藤田幹事長5057万円、国民民主党榛葉幹事長6600万円が、使途不明のまま使われてきました。そろそろ確定申告の時期、インボイス制度まで導入されて厳しく脱税を取り締まられる中小零細業者や庶民からすれば、はらわたが煮えくり返る思いでしょう。

● 20世紀後半の日本を牽引し、21世紀の第1四半期の「失われた30年」でもしぶとく生き残ってきたが、そろそろ賞味期限が怪しくなった原子力村、自動車産業、自民党に比すれば、ぐっとスケールが小さいですが、自民党に対抗する野党の一つである日本共産党も、どうやら賞味期限切れのようです。30年前の政治改革の時期には、土井たか子委員長率いる日本社会党が、自民党に対する対抗軸として生きていて、一時は「山が動いた」とまで呼ばれた躍進を遂げました。1994年村山首相の自社さ連立政権までは存続しましたが、阪神・淡路大地震対策を含む安保・自衛隊政策での政策変更で失策・失速し、社会民主党などへと分解・解体しました。もっとも、その日本社会党解体が、15年後に民主党政権を可能にしたといえなくもありませんが。

● 1990年代に東欧革命・ソ連崩壊で存亡の危機だった共産党は、解体した日本社会党支持票の一部の受け皿となることで、西欧諸国共産党が崩壊していく中でも、なんとか生き残りました。しかし、東アジアに生き残った中国共産党・朝鮮労働党とのつながりを否定しても党名から有権者は離反するばかりで、党勢の歴史的衰退は、宮地健一さん広原守明さんが分析する党員の高齢化党員数・機関紙の半減として進行し、30年後の新たな政治改革の時代に直面して、日本社会党と似たような道を辿ろうとしています。ちょうど30年前が、インターネット元年とか、ボランティア元年とか呼ばれた時期で、政党にとっての情報環境も、社会運動の編成主体も、大きく変わっています。この21世紀的環境に、どのように積極的に対応できるかが、かつての保守にとっても革新にとっても、延命の鍵となるでしょう。

● 共産党は、新聞テレビの報道では1月第29回党大会での田村智子女性委員長誕生によるイメージ刷新・巻き返しも報じられていますが、SNSを中心としたウェブ上での情報や you tube 映像を眺めてみると、志位議長の「院政」をはじめ、旧態依然です。1年前から二人の有力党員が党首公選制を求めるなど、同党の異論を排除するコミンテルン以来の「民主集中制」の問題点が吹き出し、二人は除名されても、それを支援し論じる多くのサイトが生まれました。党大会前には7人の党員・元党員の覆面記者会見、党大会では中央の措置に異議を唱えた神奈川県の代議員への集中砲火で、社会的常識からするとパワハラとしか見えない弾劾・糾弾、そして前大会以来の党勢衰退も目標未達成も「反共攻撃」のせいにして、無責任な旧主的組織保存自己推薦老醜人事、せっかく新たな政治改革の時代のきっかけを「しんぶん赤旗」が作ったはずなのに、積極的解体か、自然死かの、選択を迫られています。私の考えは、すでに30年前に「科学的社会主義の審問官ではなく、社会的弱者の護民官に」と提言し、「インターネットは民主集中制を超える」予測してありますし、健康上の理由もあって詳しくは述べませんが、自民党の金権派閥解体をさらに促すような、野党を横断した新たな政策グループ風再編が急務であるとだけ、述べておきます。


2024. 1.3 ●正月元旦から「日本の原発銀座」に近接する能登半島地震・津波災害、羽田空港での日航機と海上保安庁機の滑走路衝突事故という波乱の予兆、危機管理の危機です。2024年が、前向きの年になるといいのですが…。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

 

戦争は続き沸騰化する地球、政治改革と万博中止と保険証存続の政権交代を

2024. 1.3 ●正月元旦から「日本の原発銀座」に近接する能登半島地震・津波災害、羽田空港での日航機と海上保安庁機の滑走路衝突事故という波乱の予兆、危機管理の危機です。2024年が、前向きの年になるといいのですが…。


2024. 1.1 ● かつてこの国は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされました。それから40年、年末に発表されたOECDの一人あたりGDPは21位、イタリアにも抜かれG7の最下位です。労働生産性では38カ国中30位、実質賃金も下がり続け、最下位グループです。まさに「失われた30年」、国別GDPもドイツに抜かれナンバーフォーで、やがてインドが追い抜くでしょう。頼みのアメリカ経済は順調でも、「アベノミクス」や「新しい資本主義」なる日本の愚策を救ってくれるわけではありません。むしろオスプレイのような欠陥商品や軍需品をさらに売りつけ、中古武器の払い下げ市場とします。自動車などの輸出利益は米国債購入にあてられて、中小企業や労働者の賃金にはまわってきません。長い眼で見ると、「先進国」「発達した資本主義国」というカテゴリーからの脱落が始まったようです。

● かつて第一次世界大戦が始まったとき、初年度の独英戦場で「クリスマス休戦」という言葉が生まれましたが、21世紀の戦争では、聖地エルサレムのすぐそばで、かつてホロコーストの被害者を自認していた国イスラエルによる、パレスチナの民衆へのジェノサイドが続いています。ガザでは、幼子がミサイルで傷つき、病院に運び込まれてもベッドも薬品もなく、すでに2万人以上の民間人の犠牲者です。ウクライナ戦争も長期化し、停戦のきっかけが見いだされないまま越年、プーチンは新年の大統領選再選をめざして、首都キーウを含む全土への年末空爆です。2024年は、プーチンのロシアばかりでなく、アメリカ大統領戦でのトランプ再登場の危険があり、アジアでは1月の台湾総統選を皮切りに、インドネシア大統領選、韓国総選挙、インド総選挙、さらにメキシコ大統領選、欧州議会選挙など世界は民意により大きく動く可能性があります。いまや国際社会での存在感を失った日本は、故安倍晋三の時代と同じように、トランプ共和党政権が復活すればいち早く尻尾を振るポチでありつづけるのでしょうか。

● 日本では7月の東京都知事選挙は決まっていますが、23年12月に急展開した自民党派閥のパーティ券による裏金づくり疑惑によって、それでなくとも危険水域だった岸田内閣の支持率は、かつての森内閣・麻生内閣末期並みの低空飛行になりました。自民党支持率も急速に低下して自民党政治の積年の腐蝕構造が、露わになってきました。日本のマスメディアで長く隠蔽されてきたジャニーズ事務所の性加害が2023年に社会問題化したのは、イギリスの公共放送BBCが詳しく調査して、世界に報道してからでした。BBCは、日本の政治資金の異常にいち早く注目し、岸田首相の息子の官邸パーティまであげて裏金スキャンダルの構造にも切り込んでいます。唐突かもしれませんが、私は東欧革命・ソ連解体期の共産党政権崩壊を想い出しました。政権が長期化して独裁化し、結党の理念はともあれ、ノーメンクラトゥーラであった親の威光や官僚的テクノクラートが権力維持を自己目的化して民衆の支持を失い、マネーと抑圧で支持を調達しようとしたがかなわず、民衆からの圧力と示威行動・反乱で権力を追われました。その一党支配と圧政の記憶が世界的規模で残り、20世紀のある時期まで新時代の希望を意味することもあった共産主義と共産党という党名は、21世紀には抑圧と不自由の象徴になってしまいました。

● 日本における自由民主党という政党は、もともと戦後日本の社会主義・共産主義の台頭に対抗して生まれた保守勢力の連合でしたが、世界的な共産党の衰退と日本社会党の解体に乗じてイデオロギー色を薄め、権力独占と利権配分の共同体に純化しました。3世・4世の世襲議員を生み出すほどに腐朽し寄生的になり、日本語の自由と民主主義のイメージをおとしめてきました。1990年代の政治改革の限界・問題性が、政治資金規正法、小選挙区制を含めここまで明らかになってきたのですから、このさい、その世界史的前提となった冷戦崩壊の世界史的地点に立ち戻り、21世紀にふさわしい抜本的な変革が必要です。議員定数・政党助成金から歳費・政治活動費、公職選挙法を含む選挙制度やデジタル技術の導入を含め、既存の政党は、日本国憲法下の「ジャパン・アズ・ナンバーファイブ」「少子高齢化日本」を前提とした、政治システムのアイディアと構想を競い合い、20世紀後半以来の自由民主党支配に代わる、新たな国家と社会との関係を、創出してもらいたいものです。

●もっともその世界史的環境は、1990年代以降、さらに深刻化しています。地球温暖化から地球沸騰化への、待ったなしの気候変動・生態系変化が、2023年は、日本でも体感されました。集中豪雨など異常気象や食卓に上るサカナの種類でも、目に見えてきました。コロナ・ウィルスのような感染症の人類史的意味も、生産力発展・経済成長・開発至上主義的政治指導を前提としてきた20世紀までの政治とは異なる、政治システムへのアプローチを求めています。まずは政治改革に、大阪万博中止・縮小、それに健康保険証継続による野党の連合と政権交代でしょうか。コロナ禍で大病を経験した私個人は、残念ながら、新しい政治システムの行方を見定めることは難しいでしょう。友人が一人また一人と亡くなっているもとでは、新しいシステムのプランニングと構成は、21世紀末まで生き残る若い世代に、任せざるをえません。かつて1980年代のイギリスで、A・ギャンブルの『イギリス衰退100年史』が書かれ、バブル絶頂期の日本でも広く読まれました(みすず書房、1987年)。いまこそ「失われた30年」を明治以来の「開国」「近代化」過程から真摯に見直す、「日本衰退200年史」が必要で、若い皆さんに期待します。まだリハビリ中ですが、2024年も、よろしくお願い申し上げます。

 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日) 

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

キッシンジャーも池田大作も、宮本顕治の亡霊もいなくなった

2023. 12.1  ● アメリカの元国務長官、ヘンリー・キッシンジャーが亡くなりました。100歳でした。歴代アメリカ大統領のブレーンで、もともとは国際政治学のパワー・ポリティクスの大家、中曽根康弘より年下なのに、中曽根の政治外交師範としても知られました。1971年の電撃訪中で、米中国交回復の立役者となり、20世紀冷戦の枠組みの再編に、大きな役割を果たしました。思えば米中接近は、ベトナム戦争の米敗北、米ドル基軸国際金融の再編、それに中東産油国の自立による石油危機と一緒でした。20世紀の最後の4半世紀は、東欧革命・東西冷戦終焉・ソ連崩壊・EU拡大のなかで、「リベラリズムの勝利」などとされましたが、同時に、西側世界におけるアメリカ一極支配の終焉をともなっていました。来年に迫った米国大統領選の有力候補者、民主党バイデン81歳、共和党トランプ77歳という老人支配が、この国の行く末を暗示しています。

●  湾岸戦争のころ、一時的にソ連崩壊によるアメリカ覇権の再興がいわれましたが、21世紀は、9.11米国同時多発テロから始まり、経済的には中国とアジアが世界の工場になり、BRICSとよばれる新興勢力が台頭し、リーマンショック後は世界の多極化・多層化・多元化が明らかになってきました。欧州内部も多元化しましたが、衰退するアメリカに最後までつきそってきたのは、アジアの経済大国だった日本。アメリカ自身が、トランプ大統領を生み出すまでに分裂を深めたのに、日本は、時々のアメリカの政策に従うだけで、いつの間にやら経済衰退国・政治的従属国・米軍中古武器購入国へと、「喪われた30年」を独走してきました。発展途上とは反対の、衰退途上国になっていました。キッシンジャーは、そのすべてを見てきました。 中国には100回以上訪問し最後まで注目してきましたが、日本に対しては、冷徹でした。ウクライナ戦争が二度目の越冬に入ろうとし、イスラエルのパレスチナ侵攻が泥沼化しようとしているとき、「強いアメリカ」の象徴が、静かに息をひきとりました。地球社会の温暖化・気候変動という、21世紀的問題が噴出しているというのに。

● キッシンジャーの活躍した時代は、地球社会の急速な近代化・工業化・都市化の時代でした。日本はその先頭に立った典型で、一時は高度経済成長と自動車や半導体の生産・輸出で、経済大国を謳歌しました。その時代の日本政治には、自民党の田中角栄や中曽根康弘ばかりでなく、野党を率いるカリスマ的指導者がいました。公明党を創設した創価学会の池田大作、日本共産党の一時代を作った宮本顕治です。田中角栄の『日本列島改造論』が新幹線や高速道路による日本の一体化・平準化を進めたとすれば、池田大作の創価学会や宮本顕治の「大衆的前衛党」は、その近代化に同調しきれない農村出身の労働者や貧困層、環境や健康を気にする中間層、それに学歴競争や対米従属文化に反発する若者たちを拾い上げた面がありました。キッシンジャーと共に亡くなった、創価学会の池田大作は、1960年に創価学会第3代会長に就任し、185万世帯を会員にし、1964年には公明党を結成、公称827万人の信者をかかえて政界にも大きな影響力を持ちました。日本国外にも280万人の会員がいるとされ、池田の中国への友好姿勢は、日中両国政府間の貴重なつなぎとなりました。当初は「人間性社会主義」や「恒久平和主義」を唱え「中道政党」としていましたが、初期の指導者竹入義勝や矢野絢也とは袂を分けて、経済成長の再分配に寄生する現世利益を求めて自民党に接近、21世紀には、自公連立政権が定着しました。しかし、宗教的にも政治的にも後継者にめぐまれず、池田が生きている限りで有効であったそのカリスマ性による政治や選挙への動員力は、初期会員の高齢化や二世問題もあって、これから減退して行くでしょう。

● 池田大作に対抗し、一時は「共創協定」という相互不可侵協定まで結んだ宮本顕治の共産党は、宮本のカリスマ性によって登用された不破哲三・志位和夫という小粒のリーダーに引き継がれましたが、2007年の宮本顕治の死をまつまでもなく、共産党という党名や民主集中制という組織を共有したソ連・東欧諸国の崩壊と、「友党」であった中国共産党や朝鮮労働党の独裁支配が、日本の民衆にとっての現実的脅威になるにつれて、創価学会よりも先に衰退し、政治的・組織的影響力を喪失していきました。宮本顕治のカリスマ性は、民主集中制というコミンテルン由来の閉鎖的組織によりかろうじて継承されましたが、マルクス解釈学のみの不破哲三や、内部反対派摘発の実務家である志位和夫によっては、もはや有効性をもたなくなり、党員構成も著しく高齢化しました。若者に無視され、「100年史」という作文さえまともにできずに、史実をゆがめる半宗教的セクトになりさがりました。2023年は、「除名」問題や老幹部たちの「赤い貴族」生活で一部の関心をよびましたが、政局では蚊帳の外。現実政治のうえでは、公明党よりも早く、泡沫政党化していくことでしょう。もっとも2世どころか、3世・4世議員だらけになりそうな自民党に将来があるわけではなく、日本政治は、深い混迷期に入っていきそうです。

● 政治の閉鎖性、時代閉塞は、「失われた30年」の社会の閉塞性の反映でもあるでしょう。もともと危険性が知られていた米軍機オスプレイの墜落に、「不時着」と言ったり公式抗議も無視された日本政府、少年たちをむしばんだジャニーズ事務所、少女たちを搾取した宝塚歌劇団、それらを報じることができなかったメディア、東京オリンピックに懲りない大阪万博の公金私消、日大アメリカンフットボール部の薬物汚染、学問の府としての大学を株式会社のようにする国立大学法人法改正案、20世紀末からのツケが、いたるところでほころび、腐敗してきています。2023年は、昨年の心臓病手術・入院の後遺症で、リハビリを重ねながら、少しづつ仕事をしてきました。 コロナに感染したほか、前立腺や肺炎など身体のあちこちに不具合がみつかり、今回更新が遅れたのも、消化器系の内視鏡検査によるものでした。この状態は、おそらく来年も続き、多くの皆さんにご迷惑をかけ、またご無沙汰することになろうと思いますが、よろしくご了解ください。