ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2018年1月ー

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

安倍官邸・旧科技庁官僚にハイジャックされた日本の大学教育と科学技術政策!

2018.8.1 かと  暑く憂鬱な夏です。先ずは、安倍晋三の不作為により甚大な被害を受けた西日本豪雨の被災地の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。 その後の逆走台風もあって、2年後の東京オリンピックが本当にスムーズに開けるか、世界が異常気象のなかで心配しています。しかも、そのスポーツの世界では、安倍内閣の小型版のような、トップとその取り巻きによる権力の私物化・忖度・パワハラ・腐敗が蔓延、柔道レスリングボクシングにアメリカン・フットボールと、軒並み「プチ・シンゾー」が差配してきました。本命ファシスト安倍晋三「森友・加計問題」さえうやむやにされようとしていますから、オリンピックを控えたスポーツ界の 汚点は、トカゲの尻尾切りで終わるでしょう。スポーツのファシズム化の頂点は、1936年のベルリン・オリンピック、安倍晋三は、その開会式で、ヒトラーに似たパフォーマンスを見せたいのでしょう。かの「赤坂自民亭」も、被災地訪問の演技映像も、9月の自民党総裁選での3選を睨んだ世論工作・地方自民党工作だったようです。そして、マスコミは、国会開会中も閉会後も、「プチ・シンゾー」を叩くことによって、アベ政治の構造的腐敗を隠蔽し、庶民の憂さ晴らしへと導いています。

かと 学生スポーツもオリンピックも、文部科学省の管轄です。 その文部科学省が、醜態をさらしています。佐野太・科学技術学術政策局長の私立大学支援助成金の見返りでの息子の「裏口入学」受託収賄川端和明・国際統括官のJAXA(宇宙航空研究開発機構)出向中の業者による140万円接待、しかもその宴席には戸谷一夫・事務次官も同席していたことまで、明るみに出ました。文部科学省トップの戸谷・佐野・川端には、共通する特徴があります。三人とも、もともと科学技術庁に入って原発や宇宙開発の大型予算を担当、2001年の中央省庁再編によって文部科学省官僚になり、トップにまで上り詰めた、教育現場とは縁の薄い理工系官僚だったことです。背景には政治家の影がみえますが、文科省の一大スキャンダルです。

かと 戸谷次官の前は前川喜平次官でしたから、加計学園問題で官邸に抵抗し『面従腹背』という著書まで出した前川前事務次官まで遡る、官邸・検察による「文科省つぶし」という見方もありますが、皮相です。前川は、初等中等教育局長から事務次官へと言う、かつての文部省官僚の王道を歩んできた文部省出身教育官僚です。もともと科学技術庁設置は、1956年の原子力委員会発足に伴い、総理府外局としてのものでした。組織と予算の半分以上は原子力関連で、それにロケット宇宙開発、海洋開発を科学技術発展の名目で担当し、3.11福島第一原発事故で白日のもとに晒された政財官学「原子力ムラ」形成に、大きな役割を果たしました。戦前からある文部省は、義務教育である初中等教育中心で、研究を伴う高等教育は二の次となり、基本的に「学問の自由」「大学の自治」に委ねる時代が、20世紀には長く続きました。文部省の科学技術研究予算ではまかなえない、巨額な予算と民間企業の利権・ブローカーが動く原子力開発とロケット開発、つまり、いつでも核兵器と核搭載ミサイルを持つことができる「潜在的核武装」を「国策」として推進してきたのが科学技術庁で、その「国策」に役立つ限りで、大学の原子力・宇宙海洋研究者をも巨額のプロジェクト型予算と研究利権で組織してきました。2001年の文部省と科学技術庁の合併は、文部省にとっては伝統的に手薄な領域であった大学教育と科学技術研究組織化に、科学技術庁出身官僚が食い込み、ついには科技庁型の期限付プロジェクト型研究・予算配分、競争的研究資金依存と、経済界の要請に応える実践的労働力養成教育を、差配することになりました。これが今日の大学の学問的荒廃と基礎研究の衰退を招いたのではないか、というのが、私の論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」の一つの分析で、6月1日付け本欄でも主張してきたところです。

かと こういう眼で、21世紀省庁再編・文科省発足後の事務次官人事を見ると、鮮やかに、科技庁出身官僚の台頭を見出すことができます。文科省HPの歴代事務次官リストを経歴まで含めて調べてみると、 発足から2代の2005年までは教員・職員が圧倒的に多い文部省初中等教育局長出身次官が「ゆとり教育」を進めましたが、05年に第3代で東大工学部卒・原発を担当した科技庁出身・結城章夫次官が誕生しました。結城次官は退職後山形大学学長となり、旧科技庁の大学支配の先駆となりましたが、文科次官の方は、以後、文部省出身と科技庁出身が交互に就任する、いわゆる「たすきがけ人事」が進められ、「脱ゆとり教育」に変わります。前川次官から戸谷次官への交代は、この慣行にならったもので、これ自体は厚生労働省、国土交通省、合併後の銀行や大企業トップ人事で、よくみられるものです。

かと 問題は、この「小が大を呑む」ような旧科技庁官僚・行動様式の文科省教育・研究支配、いわばハイジャックが 、21世紀日本の科学技術政策、ファシスト安倍政権の強力な官僚支配、軍事化政策によって後押しされていると考えられることです。7月31日の朝日新聞「自民党総裁選2018」に、「『官邸官僚』握る政権」「官邸 人事で支配」という調査報道が出ています。 「以前は省内の力学 安倍政権で完全に変わった」と、2014年内閣人事局発足による各省庁次官等600人の幹部人事掌握=「静かなる革命」ばかりでなく、官邸に優秀な官僚が集中するシステムが完成しました。 2001年省庁合併時と比べると、「内閣官房の職員数は01年度の1054人から今年度は2.8倍の2971人に拡大。内閣府の職員も発足当初の2412人から1.4倍の3318人に膨らんだ。官邸が重視する案件ごとに内閣官房や内閣府に会議や事務局を立ち上げたことも、拡大の要因だ」と。 このような官邸権力集中の変化に、もともと弱小官庁だった文部科学省は、ひとたまりもありませんでした。官邸や経産省の意向を受けた旧科技庁官僚が台頭し、前川喜平のような伝統的文部官僚は、個人情報を握られ、「面従腹背」せざるを得なかったのです。それ自体は正当な東京地検による旧科技省文科省幹部の汚職告発も、本丸である安倍晋三の森友・加計疑惑、財務省の公文書改竄・セクハラ・スキャンダルから世論の関心をそらし忘れさせるための、官邸主導の国策捜査パフォーマンス、司法誘導とみることもできます。何しろ法務省ばかりでなく、裁判所にさえ、ファシズムの足音は、近づいていますから。

かと   以上の文科省の大学・科学技術政策については、私の論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」をご参照ください。 その歴史的背景の一つを、戦前・戦時の「国策」科学動員に見る私の関東軍731部隊研究、『「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後日本』(共に花伝社)も、夏休みの読書の一冊にぜひ。『週刊金曜日』7月13日号掲載「戦後保守政権の改憲動向」をアップ。前回更新でよびかけた国立国会図書館憲政資料室「太田耐造関係文書」の批判的・学術的解読は、何人かの若い研究者も加わって、始めることができそうです。何よりも、酷暑の夏を乗り切るには健康第一、皆さん、よい夏の想い出を、じっくりおつくりください。

「安倍晋三が総理でなければ、救える命があった」!

2018.7.15 かと  東京は6月末には梅雨明けし、連日猛暑が続きます。日本列島全体は、異常気象で、7月は5日頃から、西日本の各地で記録的な豪雨、広島・岡山・愛媛などを中心に、土砂崩れや河川氾濫・堤防決壊などで200人以上の人名が奪われ、インフラも破壊され、一週間経っても数千人が不自由な避難所生活を強いられています。気象庁は「平成30年7月豪雨」と名付けましたが、多くのメディア が使う「西日本豪雨」の方がふさわしい、惨状です。無論、2011年の「東日本大震災」との対比で、この国のおかれた自然との厳しい関係が、全国土にわたることがわかります。大きな地震も、大阪や千葉でありました。そこに猛暑、2020年の東京オリンピックは7月24日から8月9日ということですが、2年後は、果たして異常気象や地震・台風から逃れることができるでしょうか。それでなくても、猛暑に慣れない国からも、選手や訪問客がくるはずですから、心配です、

かと  震災や水害も、国民生活にとっては、大きな危機です。 かつて1995年1月の阪神淡路大震災のさい、自社さ連立政権の社会党村山首相は、初動対応が遅いと批判されました。いまでもネトウヨサイトでは、「村山富市が総理でなければ救える命もあったなどと、自衛隊への災害派遣が遅かったと非難されています。2011年の東日本大震災・福島第一原発事故のさいは、民主党政権菅直人首相の危機対応が、やり玉にあげられました。サンケイ新聞は「菅直人首相自身のパニックと暴走が招いた悲劇」とまで書いて、自民党政権の復活を促しました。今回の西日本豪雨の危機管理は、どうであったでしょうか。 左の写真は、公営放送ではとりあげられませんが、インターネット上で大きな話題になり、いくつかのメディアもとりあげた、7月5日夜の「赤坂自民亭」出席者に、自民党議員名を付したものです。当初は「女将」役の上川陽子法務大臣が、翌7日朝にオウム真理教事件7被告の死刑を執行した、その人権感覚が問題とされました。やがて西日本豪雨の被災・被害が拡大するにつれて、この5日午後には気象庁が異例の「記録的な大雨」を警告する記者会見を開いており、11万人に「避難指示」が出ていたことが、知られました。 安倍首相や小野寺防衛相が、本気で危機管理を心がけていれば、7日早朝の各地の河川氾濫などへの備えができて、多数の人命が救われたのではないか、というウェブ上の声が広がってきました。ネトウヨの村山首相批判をもじっていえば、「安倍晋三が総理でなければ救える命があった」という批判です。

かと  政府の非常災害対策本部が設置されたのは、すでに人的被害が 広がった8日午前、それもわずか20分間でした。安倍首相自身が、7月6日は平常通りで、夜は規制改革推進会議の大田弘子議長らと会食7日はすでに死者・行方不明数十人になっていましたが、午前10時1分から同16分までわずか15分の「7月5日からの大雨に関する関係閣僚会議」、あとはのんびり「私邸で過ごす。来客なし」です。 8日にようやく「9時2分から同22分まで、非常災害対策本部会議」発足、しかしたった20分です。来日中のポンペオ米国務長官、康京和韓国外相の表敬を受けて、「午後2時29分、私邸着。来客なし」です。どうやら安倍晋三は、11−18日に予定していたパリ祭軍事パレード見学を含む外遊を何とか実現しようと、被害を小さく小さく見積もって、自宅にこもっていたようです。そのため「赤坂自民亭」に出席した小野寺防衛相は、自衛隊員を待機させても、最高司令官の意向に逆らえず、被災が拡大し人命が奪われても、災害出動は最小限。9日に首相が外遊を断念してから、各地の瓦礫処理・給水・遺体発掘の事後処理にまわされました。土石流や河川・ダム放流、交通確保に責任を負う公明党の石井国交相は、カジノ法案の強硬突破を優先させました。国会も、カジノと参院自民党の党利党略定数増案が優先。首相の外遊中止の理由自体、不透明です。サンケイ新聞は、二階自民党幹事長の 口を使って「首相自身の判断」とわざわざ書いていますが、朝日新聞では「官邸は最後まで実現模索」、どうやら側近の西村康稔官房副長官の流した「赤坂自民亭」ツイッターへの世論や被災地のすさまじい反発を見て、ようやく取りやめたようです。何しろこの西村副長官、兵庫が選挙区で、2014年広島土砂災害の現地対策本部長の経験を基に 『命を守る防災・危機管理』(プレジテント社)を書いていた、ご当人ですから。その推薦文を書いていた安倍晋三は、ようやく11日になって、岡山の被災地を訪問、避難所には急遽クーラーが設置され、首相の「やってる感」を演出、 何やら戦後行幸を始めた頃の、「天皇=箒事件」を想い出しました。やっぱり安倍晋三は、国民の生命財産と人間の尊厳よりも、自分の私利私欲で権力を私物化する、ファシストです。

かと  佐藤卓巳さんの新刊『ファシスト的公共性ーー総力戦体制のメディア学』(岩波書店) は、すぐれた歴史書であると共に、ポピュリズムやフェイク・ニュース、権力のメディア支配の今日的様相にも肉迫した、好著です。敢えて「ポピュリスト的公共性」ではなく「ファシスト的公共性」をタイトルにしたとのことで、説得的です。国立国会図書館憲政資料室に、昨年「太田耐造関係文書」が寄贈され、公開されています。いわゆる「思想検事」の中核で、戦前・戦時の思想言論統制、社会運動弾圧、諜報とメディア支配を差配した元大審院検事・太田耐造の収集資料です。その目録を見ると、佐藤卓巳さんの日本メディア史や、私の『ゾルゲ事件』(平凡社新書)で扱われた問題についての、貴重な第一次資料の宝庫です。総計1104点の膨大な記録で、私の当面進めている関東軍731部隊研究、『「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後世界』(共に花伝社)に関わる直接資料はほとんどありませんが、志ある若い研究者の皆さんにとっては、さまざまな角度から「安倍ファシズム」に対抗する際の、研究上のヒントがみつかることでしょう。「太田耐造関係文書」の批判的・学術的解読は、いまや現役科学技術・学術政策局長による「裏口入学」受託収賄疑惑で地に堕ちた今日の文科省の、旧科技庁官僚主導の大学・科学技術政策に抗して、20世紀日本の人文・社会科学の最良の伝統を受け継ぎ発展させる、学問的挑戦ともなりえます。

かと  私の論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」に対する、地球の反対側の友人からの、嬉しいメール。メキシコでは、ワールドカップの最中に行われた大統領選挙で、既成政治の打破を唱えた新興左派野党、国家再生運動(MORENA)のロペスオブラドール元メキシコシティ市長(64)が当選かつて私の勤めていたメキシコ大学院大学にも、昨年の 隣国韓国に似た、新たな息吹が生まれたようです。「7月1日の大統領および上下両院選挙で数年前にAndres Lopez Obradorという中道左派の改革を主張するリーダーを中心に結成されたMovimiento de Renovacion Nacional (MORENA)と左派労働党・キリスト教系保守社会の出会い党の連合が絶対多数を獲得して12月1日から政権交代が実現することになりました。選挙戦は百数十人の死者が出る無残なものでしたが、これまでにあまりない高投票率で選挙日は平穏に過ぎ、対抗候補者も圧倒的な差の前に最終結果がわかる前に敗北を認めたために、一昨夜はZocaloの広場をいっぱいに埋めるお祭り気分でいっぱいだったようです。Andres Lopez Obradorは、少数の超大特権企業と汚職成金の政治家・高級官僚の支配体制をMafia del poderと名指しで指摘し、麻薬カルテルによる暴力・買収の取締りには、まず汚職と権力者の犯罪の免責を除く上からの浄化を主張し、貧者第一の政治を行うと約束しています。新政府の構成員には、大企業家・組合リーダー・著名作家・学者科学者・元最高裁判事・多数の映画監督・芸術家・歌手などさまざまな前歴を持った人が招かれていますが、高い能力と信頼される人格を基準に選ばれているようです。…女性の参加も50%に近く顕著です。個人としても権威と奢侈を誇る大統領専制、いわゆるTlatoaniスタイル、を避け、国民の半数以上が貧困ライン以下にある国の政府にふさわしく、専用機を売り払い一般の市民のように航空会社のサービスを利用し、官邸Los Pinosは廃止し、Chapultepec公園の文化センターとして一般に公開するといいます。レフ・バレセやムヒカ大統領のように質素に勤労庶民の生活スタイルを維持するということです。これらの公約がどこまで守られるか、実現できるか、国民の今までにない注視の的になることでしょう。選挙管理委員会が正式に勝利を認めてすぐにTrump大統領が祝福の電話をかけ、北米共同市場協定や移民について話し合いで解決しようと呼びかけ、ドルの高騰もなく、市場も落ち着いています…」。権力の私物化・圧政と対米追随・メディア支配に対する、民衆のアンチ・トランプ対抗運動の勝利。21世紀の世界史は、動いています !

「時代閉塞の現状」への「批評」とは?

 

2018.7.2 かと  「カレッジ日誌」によると、本サイトが、この国の政治を 「ファシズム前夜」と規定し、安倍晋三を「ファシスト」と呼んで、1年以上になります。先進資本主義国で日本国憲法を持つ国を、「ファシズム」という20世紀の歴史的概念でなぞらえ、まがりなりにも国会もメディアも機能しているもとで、選挙で選ばれた首相をヒトラー、ムッソリーニと同等に扱うのは大げさだという批判も、いただきました。確かに安倍晋三は、嘘つきで強権的ではあるが小心者で、ヒトラーほどのカリスマ性はない、オトモダチに囲まれてゴルフやワインを好み、野党からでもメディアからでもちょっと批判されるとやたらに吠える情緒不安定、外交では米国大統領トランプのいうままの番犬なのに、朝鮮半島問題でも貿易問題でもコストのツケだけ回される片想い、等々。それらはもちろん、まちがいではありません。しかし、森友・加計問題でも、過労死・高プロ問題でも、個々の論点・政策での賛否を問えば圧倒的に世論の批判・反対が多いのに、安倍内閣自体の支持率は3割以上を確保し、時に支持が不支持を上回るまでに回復し、長期政権の様相を呈しています。制度的には、小選挙区制のもとでの自公絶対多数の所産であることは明らかですが、世論は、野党に政権交代の希望を託していません。社会全体を見ると、本サイトが長く参照を求めている「ファシズムの初期兆候」が蔓延しています。 時代の、閉塞です。

かと  この閉塞状況を産み出しているものを、グローバル世界市場のもとでの相対的地位の低下、経済成長鈍化と格差拡大、権力を私物化する長期政権と野党の無力といった政治経済的要因に求めるのは容易ですが、私が気になるのは、それを受け入れる国民意識のあり方、特に安倍政権を支持する若者の内面です。20世紀「ファシズム」研究が、「ビヒモス」のようなナチス第三帝国体制ばかりでなく、ヒトラー独裁に従う「自由からの逃走」の心理、時々の「空気」に同調する「凡庸な悪」に注目してきたのは、時代の閉塞の内面化が、ファシズムと戦争の遂行には不可欠であったからです。その伝でいくと、「ファシスト」安倍晋三の強固な支持層が3分の1に及び、特に若年層の現状維持気分が強いのは、平和を求める日本国憲法擁護勢力にとっての脅威です。 

かと 晩年、といっても24歳の石川啄木が「時代閉塞の現状」(1910年)を書いて、もう100年以上たちました。「大逆事件」の直後でした。ーー「かの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委ねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され(法規の上にも、教育の上にも、はたまた実際の家庭の上にも)、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、すべて国家についての問題においては(それが今日の問題であろうと、我々自身の時代たる明日の問題であろうと)、まったく父兄の手に一任しているのである。これ我々自身の希望、もしくは便宜によるか、父兄の希望、便宜によるか、あるいはまた両者のともに意識せざる他の原因によるかはべつとして、ともかくも以上の状態は事実である。国家ちょう[という]問題が我々の脳裡に入ってくるのは、ただそれが我々の個人的利害に関係する時だけである。そうしてそれが過ぎてしまえば、ふたたび他人同志になるのである。」

かと 見逃せないのは、啄木が、そこに「教育」の問題を見出していることです。ーー「今日においては教育はただその「今日」に必要なる人物を養成するゆえんにすぎない。そうして彼が教育家としてなしうる仕事は、リーダーの一から五までを一生繰返すか、あるいはその他の学科のどれもごく初歩のところを毎日毎日死ぬまで講義するだけの事である。もしそれ以外の事をなさむとすれば、彼はもう教育界にいることができないのである。」「我々は今最も厳密に、大胆に、自由に「今日」を研究して、そこに我々自身にとっての「明日」の必要を発見しなければならぬ。必要は最も確実なる理想である。」「私の文学に求むるところは批評である。」 ーー啄木にとっての「明日」であった21世紀には、「時代の閉塞」が大学にまで及んでいます。私が論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」で問題にしたのは、その制度的基盤の崩壊で、大学の「教育」「批評」機能の衰退です。

かと マスメディアの政権追随と「批評」機能喪失は、すでにこの国の日常的風景です。スポーツと芸能人のスキャンダル、犯罪と災害が定番で、公共放送の夜のニュースでさえ、首相の「お言葉」以外がトップにくることは、滅多になくなりました。首相の「嘘」を暴く情報はウェブ上に数多くありますが、それが政権中枢を揺るがす前に、左翼や隣国を嘲笑しながらフェイクとヘイトをバラ巻く怪しげな情報操作で中和され、大手メディアや国会での、熟慮を踏まえた討論の場には届きません。まともな「批評」とは、イギリスの公共放送BBC伊藤詩織さんのレイプ事件を扱ったドキュメンタリーJapan's Secret Shame(日本の隠された恥)」のように、興味本位ではなく、政権のメディア支配、警察統制、日本の法制度の不備をも真正面からとりあげて「今日」を報じるはずですが、残念ながら海外では流布しても、国内では無視されます。政府の賞揚する「明治維新150年」 についても同じです。政府の推奨するイベントカレンダーを見ると、台湾・朝鮮の植民地支配、満州事変・日中戦争から東南アジアへの侵略戦争がすっぽりと抜けて、「近代化」というよりも「富国強兵・殖産興業」の歴史観の復活です。ただし、この面ならまだ、海外のメディア に頼らずとも、史実や資料の発掘で、じっくり「批評」 する余地があります。テレビやネット情報に一喜一憂することなく、書物を読み、「明日」につなぐ「批評」の立脚点を構築していきたいものです。吉田裕さん『日本軍兵士』(中公新書)白井聡さん『国体論』(集英社新書)は、そのような「異なる歴史観」「明日の必要」に応えて、広く読まれているようです。私の「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後世界』(共に花伝社)も、それらの「後衛」として、読まれてほしいものです。FTP不調で、一日更新が遅れました。本サイトも徐々に、「今日」用から「明日」用に切り替えていきます。

朝鮮半島から東アジアの緊張緩和・非核化へ

2018.6.15 かと  世界史は、動き始めました。6月12日シンガポールでの米国トランプ大統領と北朝鮮金正恩労働党委員長の米朝トップ会談は、「新たな米朝関係の確立と、朝鮮半島における持続的で強固な平和体制の構築に関連する諸問題について、包括的で詳細、かつ誠実な意見交換をした。トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」という共同声明を、世界に発しました。「新たな米朝関係の確立が、朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できることを認識し、トランプ大統領と金委員長は次のことを言明する。1 米国と北朝鮮は、両国民が平和と繁栄を切望していることに応じ、新たな米朝関係を確立すると約束する。2 米国と北朝鮮は、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する。 3 2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力すると約束する。 4 米国と北朝鮮は(朝鮮戦争の米国人)捕虜や行方不明兵士の遺骨の収集を約束する。これには身元特定済みの遺骨の即時返還も含まれる」と続きます。

かと  この米朝共同声明の内容を、北朝鮮の非核化の内容が具体的でない、朝鮮戦争終結の明確な宣言が入っていない、アメリカは譲歩しすぎた、日本にとって死活の拉致問題が入っていない、等々と不十分性をあげつらうことは容易です。事実、日本のメディア報道の主流は、懐疑的です。なにしろトランプ大統領の中間選挙対策ときまぐれ、金王朝の独裁者の半年あまりでの変身と取引dealの産物ですから、アメリカの主流メディアも辛口です。シンガポール会談の直前、カナダでのG7サミット会合で、トランプは「アメリカン・ファースト」を貫き、米国の保護貿易・高関税を強弁し、EU首脳ばかりでなくホスト国カナダとも対立しました。パリ協定やプラスチックごみによる海洋汚染協議に反対し、途中で退席して、共同声明への署名も拒否しました。かつての「西側同盟」が機能せず、覇権没落期アメリカの特異な大統領の思惑と、中国・韓国との関係を修復した北朝鮮独裁者の決断が、世界史的に見ると、大きな転換の端緒を切り開いたかたちです。思えば20世紀の冷戦においても、ベトナム戦争中の「反共の闘士」ニクソンが米中関係を転換し、ハリウッド上がりと嘲笑されたレーガン大統領が東西冷戦終結を演出しました。この声明でも引かれた南北朝鮮「板門店宣言」と、翌日の韓国文大統領の統一地方選挙圧勝を受けて、朝鮮半島の「軍事的緊張緩和」「平和」から「非核化」への流れは、確実に進むでしょう。

かと 「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」です。トランプ大統領は「米韓軍事演習中止」にまで踏み込んで、軍事・安全保障の担当者たちを、あわてさせました。しかし、緊張緩和から朝鮮戦争終結に米中露の後ろ盾ができれば、朝鮮半島からの国連軍=米軍撤退は、論理的帰結です。その後方司令部が横田基地にある日本の選択が、次の問題になります。朝鮮戦争中に作られた日本の安全保障の枠組、日米安保条約、沖縄など米軍基地、自衛隊の存在意義が、すべて問われることになります。もっともトランプ流「取引」の産物ですから、その前に、北朝鮮の段階的「完全非核化」の費用、韓日両国の自国の安全保障費用・米国製武器購入に、膨大な請求書がまわってくることも不可避ですが。G7で、日本の安倍首相は、トランプと他国首脳の対立を仲介したと、NHKなどで宣伝されましたが、上の写真を見れば、どうみてもアメリカ側で、ネオコン好戦派・ボルトン補佐官に寄り添っている姿を、世界に晒しています。事実、G7の 海洋プラスチック汚染削減文書には、米国と日本だけが署名しませんでした。米朝シンガポール会談実現には全く出番がなく、ただ「拉致問題」をトランプの口から語らせることの念押しに、全精力を傾けました。核兵器禁止条約に反対し、年頭から転換が始まっても各国に北朝鮮への「圧力」と「国交断絶」を説いて回ったツケが、ようやく見えてきた拉致問題での日朝会談の入り口での困難にも、刻印されたかたちです。日本外交の大きな道筋、21世紀世界への参入の仕方が、問われています。

かと  もっとも、懲りないファシスト安倍晋三ですから、去年はミサイル危機を煽ったその口で、今度はトランプから引き継いだ拉致問題解決は自分しかできないと強弁し、私物化した政権の存続をはかるでしょう。21世紀の「非核化」とは、本来米軍基地も原発もない世界への第一歩なはずですが、東電の福島第2原発廃炉の代わりに新潟柏崎原発を再稼働させ、東芝を破綻させた原発輸出に懲りずに日立のイギリス原発税金を投入する魂胆でしょう。国会ではカジノと過労死推進法案を強行し、「骨太の方針」では、財政再建を5年も先送りし、相変わらず消費者を忘れた「成長」の皮算用。忘れてはなりません。トランプ張りに日朝会談を実現し、拉致問題に取り組むためには、かつての日韓交渉と同様に、日本側の歴史認識の表明が、必要になります。安倍首相にはほとんで期待できませんが、私たちの20世紀の歴史認識、朝鮮半島の植民地化と侵略戦争の反省が、不可欠です。私の「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後世界』(共に花伝社)、それに最新論文「大学のグローバル化と日本の社会科学」も、その一助になれば幸いです。

どこで、ボタンを掛け違えたのか?

2018.6.1 かと  6月12日の米国トランプ大統領と北朝鮮金正恩労働党委員長のシンガポール会談は、予備交渉過程で、トランプ大統領の一事中止発表2度目の南北朝鮮首脳板門店会談など、世界を驚かせるせめぎあいもありましたが、実現しそうです。「蚊帳の外」にいる日本は、トランプのブラフの一時的中止発表を世界で唯一公式に支持を表明する、醜態を演じました。安倍首相の言う「強固な日米同盟」とは、この程度のものです。国会での森友・加計問題追究から逃れるため、大切な会期中にロシアを訪問しました。領土問題など懸案の議論も成果もほとんどなく、何に対する慰労か、昭恵夫人に秋田犬とのモスクワ・スナップをプレゼントするだけに終わりました。その直後に、ロシアの外相は北朝鮮を訪問し 金委員長と会見南北朝鮮閣僚級会談も再開、北朝鮮ナンバーツーが訪米し、ホワイトハウスでトランプに金委員長親書を渡す急展開です。日本は、「蚊帳の外」から「仲間はずれ」へと、文字通り「一人ぼっち」に。先を読めない日本外交の、歴史的失態です。東西冷戦崩壊以降の、20世紀から21世紀への大きな世界史的転換の方向を読み間違えた、ツケがまわってきました。

かと 外交は、内政の延長上にあります。首相官邸一極集中のもとで、公文書隠蔽から改竄、セクハラ・パワハラまで、権威失墜でふがいないエリート官僚たち、そのトップの大臣たちの国際的にも恥ずかしい暴言の数々。ウソにウソを重ねる首相を追い込めず、党首討論で独演弁明会を許す野党の非力、その間にデータも効果も怪しげな法律が通過する立法府。ようやく同一労働同一賃金に近づいても、国策の原発事故の犠牲者を守ることはできず、沖縄基地の米軍犯罪や首相を守るための公文書改竄は見逃す司法。そして、そうした権力に正面から立ち向かえず、芸能人やスポーツのスキャンダルに多大な時間とエネルギーを費やすマスメディア。ジョージ・オーウェルの「動物牧場」や「1984年」が身近に感じられる、この国の閉塞です。バブル経済がはじけた後の非正規労働者激増、貧困・格差拡大、IT革命・自然エネルギー転換に乗り遅れ、原発やガソリン自動車にこだわり続けての成長失速と「失われた20年」。こちらは、世紀末の政治的転換期に、小選挙区制による二大政党制での政権交代に突破口を見出した、「政治改革」の見通しの甘さのツケでしょう。

かと 20世紀末の世界史的転換を読み違えたツケは、そうした転換と見通しを学術的に提供し、知的遺産を次世代に継承すべき大学においても、顕著にみられます。加計学園獣医学部や日本大学危機管理学部のまやかしもさることながら、文部科学省主導のいわゆる「大学改革」そのものが、大いなる幻影のうえに成り立っていました。冷戦崩壊後の世界を「グローバル化」と捉えたのは、それ自体は間違っていなかったでしょう。けれどもそれを、日米同盟に便乗した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の成功体験の延長上に想定したことが、ボタンの掛け違いの始まりでした。一方で少子高齢化と大学進学率の高止まりは前提されていましたから、「大学改革」の方向は、大学院増設や社会人入学、実学教育奨励、留学生の大量受入に設定されました。700以上になった国公私立大学を、科学技術と学問のグローバル化で世界の一流大学と競争しうる約30のG大学と、サービス化の進む産業構造変化に対応する労働力供給とローカルな地域貢献に専念するL大学に大きく分けて、それぞれに企業経営をモデルにしたトップダウン型の大学運営・財務を義務づけました。大学設置基準の大綱化、国立大学の法人化、旧帝大等の大学院重点化が制度的受け皿になりましたが、私は、2001年の中央省庁再編による文部科学省成立が大きなインパクトを持ったと考えています。義務教育である初中等教育を中心に国民の基礎的知識・教養底上げを担当してきた文部省と、原子力・宇宙開発・海洋開発など巨額予算で高度な国策研究を担ってきた科学技術庁が合体して、高等教育・研究機関である大学の役割と機能が、科学技術庁主導型に大きく変わったのではないかと思われます。

かと そのことを、3月末に刊行された信州大学イノベーション・マネジメント研究』という経営学の専門雑誌(2017年度第13号、2018年3月) に寄稿を求められ、「大学のグローバル化と日本の社会科学」 と題して、発表しました。 「海外から注目される戦前日本の軍産学協同」「日本政府と文部科学省のグローバル化対策ーー忙しすぎる若手研究者」「 世界大学ランキングの陥穽ーー自然科学評価手法の人文社会科学への強制」「留学生30万人計画の内実ーー大多数がアジア人で人文社会科学を学ぶ」「ノーベル賞に幻惑された科学技術政策の軍事化」「社会科学から貢献できる大学史・学問史の見直し」として、もともと「大学の自治」として文部省の干渉・介入を最小限にしてきた大学教育・研究に、日本政府の科学技術基本計画、経産省の成長戦略や財務省の財政政策が入りこみ、研究の世界には、英語教育・研究発表への選別的・重点的予算配分、科学技術庁型の大型プロジェクト研究、競争的外部資金獲得、期限付雇用と短期的業績評価、経営学的手法での大学運営と予算管理等々、科学技術庁型「改革」が推進されました。 それらがことごとく裏目に出て、「2020年までに世界大学ランキングトップ100に10校以上のランクインをめざす」という「第5期科学技術基本計画」閣議決定にまで書き込まれた空想的目標は、大学の荒廃と研究者の過剰負担、基礎科学・哲学・歴史学など長期的視野での研究の衰退など、無残な結果をもたらしつつあることを解析しました。そればかりではありません。ちょうど昨年前著『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』を公刊し、10日前に発売された新著『731部隊と戦後世界ーー隠蔽と覚醒の情報戦』(共に花伝社)をまとめる合間に執筆したものですから、こうした「大学改革」が科学技術の「国策」軍事化と研究者の戦争協力の方向へとシフトしつつあることに、警鐘を鳴らしています。経営学の専門雑誌に書いたもので、一般には入手が難しいですから、ここに「大学のグローバル化と日本の社会科学」 の最終校正原稿をpdf でアップロードします。特に大学・研究機関関係者の方々は、アマゾン等で購入できる 『「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後世界』と合わせて、ぜひご笑覧ください。

「朝鮮戦争終結」と「完全非核化」のはざまで進むファシズム化

2018.5.15 かと  6月12日に、米国トランプ大統領と北朝鮮金正恩労働党委員長のシンガポール会談が、本決まりになりました。歴史的な会合で、中国の習近平主席韓国の文在寅大統領の列席も、取り沙汰されています。ただし米国側では、軍産学複合体をバックに、CIA出身のポンペオ国務長官や「リビア方式」の核廃棄を主張するネオコン・ボルトン国家安全保障担当補佐官が動いていますし、中東イランイスラエル・パレスチナでは、新たな緊張を高めています。北朝鮮金委員長には、2度目の中国習主席との大連会談など、予測不能な行動がみられ、5ヵ国の報道陣が立ち会う核施設の廃棄についても、これまでの経験から完全な非核化につながるのか不透明との見方もあります。さまざまな情報戦が世界的規模で続いており、具体的な「成果」は予断を許しません。しかし確かなことは、この世界的規模の外交ゲームで、近隣国で唯一日本だけが主体的なプレイヤーになれず、「蚊帳の外」にいることです。 逆にアメリカから主体的参加を要請されたのは、イラン核合意を破棄した対イラン経済制裁への参加、英独仏もロシア・中国も批判しているアメリカ大使館のエルサレム移転アメリカ・イスラエルの一方的イラン核合意破棄への、「圧力一辺倒」が得意な日本の動員です。連休にも中東に行っていた安倍外交の時代錯誤、ここに極まれりということでしょうか。

かと  そして、日本での論調が「北朝鮮の完全な非核化」と「拉致問題」に集中しているのに対して、国際社会は、北朝鮮の「体制保証」に関連した「朝鮮戦争の終結」に注目しています。歴史的なタイムスパンでいえば、北朝鮮の拉致問題も核保有も、戦後朝鮮半島の南北分裂と朝鮮戦争・国家対立の流れの所産です。この「朝鮮戦争の終結」に照準すると、1953年の休戦協定当事国である米国・北朝鮮と共に中国の参与は納得できます。当時の協定には李承晩が調印拒否した韓国、背後で金日成・毛沢東を支援したスターリンのロシア(旧ソ連)も、準当事国です。米国の占領からようやく抜けだし、基地を残した米軍への軍需物資供給(朝鮮特需)から経済復興の足がかりをつかみつつあった日本は、その後の経済成長・経済大国化にもかかわらず、もっぱら米国の世界戦略に従属する、東アジアのバイプレーヤー(脇役)に留まりました。

かと  現在安倍首相の改憲の焦点である実力組織・自衛隊も、もともと朝鮮戦争の産物でした。国連軍の名で在日米軍が参戦した国内治安の空白、占領統治維持のために日本人による警察予備隊がつくられ、保安隊・自衛隊と大きくなり、制度化してきました。極東米軍の補完部隊として、今日では海外派遣「日報」記録の隠蔽文民統制の形骸化が語られ、隊友会の日本会議協力さえ問題になっています。「軍部」の復活です。朝鮮戦争が生んだ戦後日本社会のゆがみの一つに、731細菌戦部隊の復活と1980年代の薬害エイズ事件があります。1950年、朝鮮戦争が始まった直後に、日本ブラッドバンクという血液銀行が発足しました。発案者は内藤良一、二木秀雄・宮本光一という旧関東軍731部隊の残党、つまり中国人・ロシア人・朝鮮人に国際法違反の人体実験で数千人、細菌爆弾の実験と撒布で数万人の犠牲者を出した秘密部隊の再結集でした。株主に約10人の731部隊関係者、役員に北野政次第二代隊長等を集め、元陸軍軍医学校防疫研究室責任者内藤良一を中心に、米軍傷病兵輸血用の乾燥人血漿を作って、大儲けしました。1964年にミドリ十字となって厚生省御用達の大手血液製剤企業になり、1980年代に非加熱血液製剤で大量のHIV患者を出します。つまり、朝鮮戦争こそが、731部隊復権の契機であったことを、私は前著『「飽食した悪魔」の戦後』及び新著『731部隊と戦後世界』(共に花伝社)で、明らかにしています。新著はまもなく発売で、 アマゾン等で予約できますので、ぜひご笑覧ください。

かと  実は、1951年9月のサンフランシスコ講和条約と同時に調印された日米安保条約地位協定(52年当時は行政協定)締結も、したがって今日の沖縄基地問題も、米ソ冷戦を背景とした朝鮮戦争の勃発を、直接の契機としていました。日本国憲法第9条と日米安保条約・自衛隊という二つの法体系上の矛盾も、朝鮮戦争が終結せず「休戦」状態だったことと、深く結びついていました。6月12日の米朝首脳会談が「朝鮮戦争終結」の第一歩になれば、日米安保条約が前提としてきた国際的枠組が、1989年の冷戦終焉に匹敵する、重大な転換期を迎えます。 いうならばアジアも、ようやく21世紀に入るのです。まともな民主主義の政権・政党なら、「パクスアメリカーナ」の終焉、中国の台頭、そして朝鮮戦争の終結という東アジアの新しい時代に、日本はどう進むべきかの長期の平和構想・政策路線を提示するでしょう。しかしこの国では、安倍内閣が対米従属の軍事化と原発・自動車等20世紀型商品輸出の拡大以外の戦略をもたず、中国・朝鮮への侵略と植民地化の真摯な反省を示すことなく、むしろ20世紀の戦争を正当化するような政策と言説を繰り返してきました。国民の3分の1がそうした内閣を強固に支持し、それに対抗する野党は、分裂したまま対抗軸を示し得ていません。全体として、内向きのファシズム化が進行しています。外国人観光客や留学生は増えていますが、排外主義的言説やヘイトスピーチも横行しています。そして、恐ろしい言論統制が、始まりつつあります。自民党の右翼国会議員が文科省管轄の科学研究費の配分・研究テーマを国会で問題にし、産経新聞社の『正論』は「大学政治偏向ランキング」なる荒唐無稽な「学者狩り」を掲載しました。国会運営の横暴と共に、虚言癖の「裸の王様」の強権政治が続いています。

世界史は動いた! 日本の歴史認識が問われている!

 

2018.5.1 かと  中東は不安定ですが、東アジアは、緊張緩和に大きく動きました。日本の首相は、国会での公文書改竄・背任疑獄追及をおそれて中東へ、 UAE、ヨルダン、イスラエルとパレスチナに「和平に貢献」のため、出掛けたそうです。世界のメディアが、一月遅れの悪い冗談(May Fool)と受け止めるでしょう。トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題から、パレスチナとイスラエルの衝突は激化し、連日のように死者・負傷者を出す「戦闘状態」が続いています。そこにトランプの番犬でしかない安倍晋三が出かけていっても、紛争激化に「貢献」できるだけです。 第一、自国が最も積極的に関わるべき東アジアで、南北朝鮮の対話と和平を一貫して妨害し、トランプ大統領からも情報をもらえず「蚊帳の外」に置かれてきた国に、いまさら「和平への貢献」と言われても、相手国が戸惑うだけでしょう。この1月から劇的に動いた朝鮮半島和平の動きに、国会から逃れて「対話より圧力」の外交をセールスしてきたのが、世界で日本の安倍内閣だけだったのですから。これは、「独自外交」でも「自主外交」でもなく、「孤立外交」「迷走外交」です。

かと  韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長の板門店南北首脳会談は、大きな世界史的意味を持つものです。日本のメディア論調では、北朝鮮の「非核化」が不明確で 「核隠し」ではないかとか、「拉致問題」が入っていないといった議論が支配的ですが、軽薄で感情的なアメリカ大統領トランプの直感的ツイートさえ認める「KOREAN WAR TO END! 」が、素直な世界的反響でしょう。4月27日の板門店宣言は、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一の為の板門店宣言」です。「1.南と北は南北関係の全面的で画期的な改善と発展を築くことで、途切れた民族の血脈を繋ぎ、共同繁栄と自主統一の未来を早めていくことである。南北関係を改善して発展させることはすべての同胞の一様な願いであり、これ以上延ばすことのできない時代の切迫した要求である」、「2.南と北は朝鮮半島で尖鋭な軍事的緊張状態を緩和して戦争危険を実質的に解消するために共同で努力していく」、「3.南と北は朝鮮半島の恒久的で堅固な平和体制構築のために積極的に協力していく。朝鮮半島で非正常的な現在の停戦状態を終息させて確固たる平和体制を樹立することは、これ以上延ばすことのできない歴史的課題である」が3本柱で、その3本目の下に「(3)南と北は停戦協定締結65周年になる今年に終戦を宣言して、停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で堅固な平和体制構築のための南北米3者もしくは南北米中4者会談開催を積極的に推進することにした。(4)南と北は完全な非核化を通じて核なき朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認し」とあるのです。 「完全な非核化」の内実は、次に予定されている米朝会談、米韓会談、中国・ロシアの対応等核保有国との交渉に委ねられます。 アメリカの「核の傘」に安住する日本に、ほとんど発言の余地はありません。成果ゼロだった4月の日米会談同様、いや「成果だ」と騒ぐ拉致問題の米朝会談での言及への代償は、起こりうる経済的取引の相当部分を負担することだけでしょう。

かと  なぜそんな結果になったかを、1月平昌オリンピック以来の情勢の読み違い、中朝会談も米朝秘密交渉も事後に知った情報収集の貧しさに帰するのも、不十分でしょう。それは、安倍首相と日本政府の歴史認識の貧しさによるものです。板門店宣言も、トランプの直観も、米ソ冷戦時代の1950-53年朝鮮戦争の終結、同一民族の南北分断国家固定化の歴史を清算する民族統一への歩みを、謳っています。そしてその民族分断の背景にあったのは、日本による朝鮮半島の併合・植民地支配でした。今眼前で進むのは、日本軍国主義の侵略戦争の敗北によってようやく「解放」された朝鮮半島の人々の、東西冷戦に振り回され引き裂かれた歴史の取り戻し、「38度線の壁(軍事境界線)」の「開放」なのです。ちょうど、1989年のベルリンの壁の崩壊と90年東西ドイツ(再)統一が、第一次世界大戦とロシア革命以後のヨーロッパの歴史を大きく変えたように、いま私たちが眼前で目にしているのは、日清・日露戦争に始まり、日本帝国主義の東アジア侵略と米ソのアジア支配によって作られた秩序の再編過程であり、「アジアの長い20世紀」の最終局面なのです。そして、その主要なアクターから日本が排除され、米中関係を基軸とした大きな枠組の中で、南北朝鮮の新しい指導者が、主体的に新秩序を志向し構築しようとアピールしている姿が、テレビやインターネットを通じて世界に同時中継された、事実なのです。もちろん30年近く前の欧州冷戦崩壊・東西ドイツ統一の歩みとは、相当異なる形をとり、バックラッシュを含む紆余曲折を経るでしょうが、南北両国はそれに学びつつ、基本的には不可逆的な、長い民族統一過程が始まったと見るべきでしょう(ワシントン・ポスト4.28の「南北朝鮮はドイツの再統一から何を学びうるか」が示唆的です)。

かと いま、日本政府と国民に求められているのは、安倍首相の改憲案や森友学園問題の背後にある一国主義的・戦前回帰的歴史観とは正反対の、20世紀東アジアで果たした日本の植民地支配と侵略の時代を率直に認めて反省し、その後の米国占領下の復興と対米依存の経済大国化の歴史をも相対化して、中国・朝鮮民族を蔑視することなく、21世紀世界の中で生き残る国のあり方を、自主的・主体的に練り直すことです。ファッショ化する安倍内閣や「国民全体への奉仕」を忘れた官僚たちに頼ることなく、主権者としての国民と、国論を決定する民主主義・立憲主義を、再構築することです。それは同時に、新しく開かれた世界史の中で生きる覚悟を、試されることでしょう。北朝鮮は韓国に合わせ、5月5日から時計を30分早める「時間の統一」を決定しました。この国も、次の改元元号をあれこれすることよりも、「世界史の時間」に合わせて公文書を含め西暦年号に統一するような覚悟が、求められています。私なりの歴史認識の再構築の一環として、連休明けの5月9日(水)から明治大学リバティアカデミー始まる「731部隊と戦後日本」と題する市民向け連続講座にあわせ、同題の書物『731部隊と戦後日本ーー隠蔽と覚醒の情報戦』(花伝社)を、5月中に刊行します。 昨年刊の学術書 『「飽食した悪魔」の戦後 を平易に要約し、前回更新で紹介した 1945年1月作成731部隊「留守名簿」3607人の発見等 、その後の研究の進展による修正・追加を書き加えたものです。アマゾン等で予約できますので、ぜひご笑覧ください。

権力は腐敗する、支持率26.7%の

膿まみれファシスト権力は、暴力に訴える可能性あり!

2018.4.15 かと 戦争が始まりました。今度はシリアです。 アサド政権が反政府側に「少なくとも50回」サリン・塩素ガスなど化学兵器を使ったという理由で、ロシアを後ろ盾にするシリア軍に対して、米英仏軍が100発以上のミサイルで「報復」攻撃しました。しかし、「ファイクニュース」常習の米国トランプ大統領の見立てですから、イラクに対する「サダム・フセインの大量破壊兵器」の時のような、危うさを感じます。そんなトランプ大統領のところに、日本の安倍首相がのこのこ出掛けて、共に国内政治でのストレス発散のためか、ゴルフをしながら何を約束させられるのでしょうか。1年前にトランプは、習近平とのフロリダ会談の最中にシリアへの巡航ミサイルトマホーク59発爆撃を命じました。習近平は咄嗟に対応できなかったといいます。今回は「第2のキューバ危機」が語られ、CNNによると「絨毯(じゅうたん)爆撃を含む大規模な空爆も視野に入れていたトランプ大統領に対し、ロシアとの本格的な衝突を懸念したマティス国防長官が最後まで抵抗し、化学兵器関連施設への限定的なミサイル攻撃で落ち着いた」といいます。つまりトランプは、さらなる攻撃を予定しています。シリアの化学兵器には北朝鮮が部品提供しているともいわれますから、今週フロリダで会う戦争好きの安倍晋三なら、昨年の習近平とは違って、その場で戦闘勃発を聞いても、直ちにアメリカの武力行使を支持し、米国製武器を買い付けてくれる、FTA・自動車など貿易でも譲歩する、場合によってはシリアまで自衛隊を派遣してくれると、トランプは取引(ディール)を計算しているのかもしれません。

かと  首相訪米には、経産省柳瀬唯夫審議官も同行する可能性大です。かの「加計疑惑」のキーパースンで、「首相案件」発言者、安倍・加計会食の証言者と、愛媛県作成文書や農水省文書で確認されている元首相秘書官です。この間「記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはない」で野党の追及をかわしてきましたが、もしもアメリカに同行するのなら、帰国後に不可避となった国会喚問に備えて、機中でたっぷり密議し「アベノミクス」推進策としての加計学園獣医学部実現の物語をつくるのでしょう。 この2週間で、「森友疑惑」は財務省の公文書改竄から国有地売却8億円背任の口裏あわせまで発覚、防衛省によるイラク派遣自衛隊の「戦闘」記述の入った「日報」、厚生労働省の野村不動産「過労死」隠し、さらには財務省事務次官厚生労働省健康局長のセクハラまでが明るみに出て、安倍内閣のもとで官邸に支配され従属した官僚制の腐敗が、次々と噴き出しています。 ファシスト安倍首相は、他人ごとのように徹底的に調査して膿を出し切る」と繰り返していますが、首相の存在自体が現代日本の腐敗の病原菌で、自ら産み出した病気による膿であることを、国会を離れ外国に逃れて、必死でごまかそうとしています。しかし、財務省事務次官のセクハラ一つとっても、まともな国なら、即辞任です。安倍政権打倒の運動も、4.14国会前3万人と、15年安保法反対運動の頃近づいてきました。首相の頼みの内閣支持率も、NNN15日発表では3割を切り26.7%、第二次安倍内閣で最低です。不支持率は53.4%「辞任すべき」34.8%です(共同通信では内閣支持37%、不支持52.6%、「首相の説明納得できず」79%朝日新聞は支持31%・不支持52%)。末期症状の権力が、メディア支配と共に使う最終的担保が、暴力です。すでに国会前集会・デモへの警察による規制が著しく強化されていますが、学校教育の内容への文部科学省の介入特定秘密保護法共謀罪も、ある種の暴力です。公務員の内部告発を困難にしたり、警察・検察が当然立件すべき犯罪を敢えて見送るのも消極的暴力です。この国はいま、民主主義国家としての最低限の資格が問われる水準まで、ファシズム化が進行しました。4.14国会前集会の正式名称は「安倍政権は退陣を! あたりまえの政治を市民の手で!」、安倍首相のいう「こんな人たち」の意思表示、抵抗と変革の時です。

かと  「公文書」は国民共有の知的財産です。その隠蔽・改竄は、民主主義の基礎・前提を掘り崩すものです。自衛隊イラク派遣時の現地「日報」は、15年前の「古い」記録ではなく、本来15年安保法案審議に用いらるべきであった、また今日の安倍内閣下のシビリアン・コントロールの検証に用いることができる、貴重な「新しい」記録です。第一次資料としての「公文書」の信憑性を前提とする学術研究にとっては、なおさらです。池内了・名古屋大名誉教授、西山勝夫・滋賀医科大名誉教授ら「満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」は、ペストを投与した人体実験の疑いがある論文を執筆した旧関東軍731部隊将校に対して1945年に京都大学が医学博士号を授与していたとして、学位の取り消しを求めるアピールを発表しました。京大医学部出身の平澤正欣軍医少佐(1945年戦死)による「イヌノミのペスト媒介能力に就て」という博士論文において、「特殊実験」の動物が「サル」とされているが、「サルが頭痛に苦しんでいることを把握するのは困難」「サルの体温グラフが実際のサルの体温変動と異なる」「『特殊実験』とは当時人体実験を指した」などの理由で、人間の生体実験によるものと判定したものです。これはまさに、「博士論文」が国会図書館納入を義務づけられた「公文書」であるために、70年後の検証が可能になったものです。同会は、4月14日に京都大で記者会見し、国立公文書館から関東軍防疫給水部・731部隊「留守名簿」の開示を受けたことも発表しました。これも画期的な「公文書」発掘です。昨年刊の私の著書 『「飽食した悪魔」の戦後 で詳述しましたが、731部隊の悪行が1981年森村誠一『悪魔の飽食』のベストセラーで広くしられるようになるまで、731部隊の全容は不明で、大体2300−2600人という推定でした。それが、1982年に国会質疑で問題になり、当時の厚生省が軍人恩給給付用軍籍簿の記録で3559人と回答し、初めて公式の数字になりました(その後2012年までの厚生労働省回答で1人増え、3560人)。ところが今回同会が情報開示させた1945年1月作成の731部隊別名満洲659部隊「留守名簿」には、3607人(これまでより47人増)の実名が記載されており、軍医・技師・看護婦など役職と階級・留守宅が入っていて、軍医52人、技師49人、看護婦38人、雇員1275人、衛生兵1117人など731部隊の全体構成が、ようやく判明したのです。「公文書」が焼却・廃棄されずに記録として残されていた幸運と、科学者・研究者による粘り強い情報公開請求の成果です。ちょうど私も、連休明けの5月9日(水)から明治大学リバティアカデミー「731部隊と戦後日本」と題する市民向け連続講座を予定しており(まだ定員まで若干の空きがあるようです)、新しい書物も準備していましたので、我が意を得たりのニュースでした。「公文書」を隠すばかりでなく、改竄までしてきた安倍晋三内閣が、後生の世界と日本の歴史家にどのように評価されるかは、この一事からしても、明らかです。

かと2018.2.15[再録] 本サイトの「イマジン」コーナーに、戦争の記憶大正生れの歌探索記」が入っています。2001年9.11直後に立ち上げ、ちょうど老年期に入った「大正生れ」の方々から大きな反響をえたもので、作詞・作曲者を歴史探偵したり、替え歌・別ヴァージョンを収集したりと、「イマジン」の目玉の一つでした。しかし2009年に作者の小林朗さんが亡くなった頃から、問いあわせも少なくなり、アジア太平洋戦争の「戦友会」や「大正会」という同世代の交流会も次第に消滅して、もう役割を終えたと思われ、本サイトの窓口も、最小限にしてきました。ところが平昌オリンピックのさなか、丁寧な長文のリクエスト・メールが届きました。神奈川県川崎市の91歳というSさんからで、昔、会社員の現役時代、「大正生れの歌」 を聞いて大変感動し、何とかもう一度聞きたいと思ってきたが果たせなかった。最近パソコン操作を覚えて、「ネチズンカレッジ」にこの歌についての記述があるのを見つけ、何とかそのものをもう一度聞けないか、というリクエストでした。幸い私の手元には、作詞作曲者の故小林朗さんからもらったSPレコードやカセットテープ版の歌があったので、これらをお送りしたところ、懐かしく、嬉しくて、涙した、という感謝感激の御礼が届きました。

かと  この91歳Sさんのリクエストを機に、改めて大正生れの歌・探索記(2018年版) を作り、あわせてMIDI版の歌がリンク切れになっていたものを、カセットテープからmp3デジタル音源に転換し、iTunesで簡単に聞けるように更新しました。軍歌調で、よく戦友会でも歌われたようですが、作者の小林朗さんによれば、「大正生れ」はアジア・太平洋戦争敗戦時20-35歳の、最も犠牲の多かった世代であり、自分自身も徴兵され、多くの友人を喪いました。戦後は日中友好のボランティア活動に尽くした小林さんの、鎮魂の想いと平和の願いを歌ったものでした。改めて本サイトに歴史資料として残し、いま安倍ファシズムのもとで、ひょっとしたら甚大な被害者になりかねない「平成生れ」の皆さんにも味わってもらおう、と思います。「平成生れ 」の鎮魂歌を作らせないためには、安倍内閣の9条改憲の狙いを見定め、「平成生れ」世代に、日本国憲法の平和主義・民主主義・立憲主義の意義を、理解して貰わなければなりません。日本「本土」と沖縄米軍基地との歴史的関係を、見つめてもらう必要があります。幸い「学術論文データベ ース」の常連寄稿者・神戸の深草徹弁護士から、ka深草徹「「9条加憲」は自衛隊を普通の軍隊とする一里塚 — 国民は托卵を拒否する」(2018.2)という新規寄稿がありました。さっそくアップです。また、この間の私の731部隊研究の論文・講演記録等を、 昨年公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)をもとにした1月20日第304回現代史研究会報告レジメとパワポ原稿と共に、「ネチズンカレッジ」カリキュラム現代史研究・専門課程5」に加えました。あわせてご参照下さい。

漂流する国で進む、閉ざされたファシズム化

2018.4.1 かと 日本はいま、国際社会を漂流しています。2018年の年明けから、平昌冬期オリンピックのIOCを介した南北朝鮮交流を契機に、日本の安倍晋三内閣は、迷走を続けています。南北朝鮮首脳会談、米朝首脳会談、中朝秘密会談の流れを読めなかったのは、 情報機関が弱いとか、外務省の怠慢だけではないでしょう。一方でトランプ大統領のアメリカを従来通りの日米同盟と過信し、他方で経済力も弱まり「美しい国」からの「圧力一辺倒」しかアピールできなかった、無策の結果でしょう。トランプから安全保障ばかりでなく貿易でもこけにされ、「安倍首相はいいやつだが、その顔はほくそ笑んでいる。それは『こんなに長いこと、アメリカを出し抜くことができたとはね』という笑みだ。そんな日々はもう終わりだ」と公言される屈辱。「戦争をしない国」「唯一の被爆国」の看板はとっくに神通力を失っていましたが、福島原発事故後も世界の再生可能エネルギー転換への波に乗れず、原発再稼働原発輸出の時代錯誤、権力を私物化した船長に牽かれる、漂流船の悲劇です。

かと 佐川前国税庁長官を証人喚問に引き出しても、財務省も官邸も責任をとらない、森友問題の深い闇佐川証言に「納得できない」人は7割いても、納税者一揆内閣支持率低下は、どうやら一時的打撃に終わりそうです。日経新聞欧州総局からの悲鳴が聞こえます。 曰く、「公文書の信頼失墜、日本の学術研究に打撃」=<財務省は、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する文書を書き換えたことを明らかにした。行政への信頼が失墜しただけではない。アカデミズムの世界で「1次資料」と呼ばれる公文書のずさんな取り扱いは、後世における正確な歴史検証を妨げ、グローバル水準での学術研究に水を差す。日本の大学の地盤沈下がさらに進む恐れがあり、将来に禍根を残す> 。そうです、公文書の改竄は、「普通の国」なら、政権交代をもたらす深刻な「国難」です。財務省ですから、国際信用も失墜です。昨年の総選挙は、北朝鮮核危機切迫の「Jアラート」をあおり、森友・加計問題を隠して野党分断の策を弄した、ファシスト安倍晋三の勝利でした。その前提が二つながら崩れたのに、「裸の王様」は、憲法改悪まで国民から負託されたと思い込み、まわりをイエスマンで固め、内閣ばかりでなく、国会も、マスコミも、官僚制をも抑え込んで、放送法さえ都合良く書き換え、公営放送に介入し、漂流船の舵取りを続けます。船長を代えないと、座礁か沈没かの悲劇まで、時間の問題です。

かと こんな印象も、久しぶりで外から日本を眺めたから。一年ぶりで、ヨーロッパに行ってきました。昨年はドイツでしたが、今年はイギリスでした。あわただしい旅でしたが、ウェブの情報を除けば、 朝鮮半島は見えても、日本は見えませんでした。ロシアの元諜報員暗殺未遂事件と主権侵害に対する、英国はじめ各国政府のロシア外交官追放、それに対するプーチンの報復が、最大のニュース。 その後、トランプの米大使館エルサレム移転決定がらみの、イスラエルとパレスチナのガザ衝突が、深刻になっています。 安倍晋三は、ロシアのプーチンに媚びを売り、遅ればせながら北朝鮮に近づく弥縫策で、船を進めようとしています。海図なき航海です。昨3月31日、重要なニュースを、共同通信が報じました。「3月9日に習近平主席がトランプ大統領と電話会談をして、朝鮮戦争の当事国である米中と韓国、北朝鮮の4ヵ国による平和協定の締結を含む、『新たな安全保障の枠組み』の構築を提案していた」というもの。6ヵ国協議の日本とロシアが入らないのもポイントですが、問題は、その歴史的射程の長さ。「国連軍と北朝鮮、中国が1953年に締結した朝鮮戦争休戦協定の平和協定への移行を念頭に置いているとみられる。習近平は日本に言及しておらず、南北、米朝の首脳会談後の交渉を、4ヵ国を中心に進める考えを示唆した可能性がある」と。 1950年代朝鮮戦争開始時まで、時計の巻き戻し、歴史の見直しです。沖縄の米軍恒久基地化も、昭和天皇のメッセージを背景に、その頃定まりました。その頃から沖縄現代史を探究し、本土の歴史と結びつけてきた沖縄大学元学長新崎盛暉(あらさき・もりてる)さんが、亡くなられたとのことです。 私も幾度かお世話になりました。心から、ご冥福をお祈りいたします。合掌!

財務省公文書偽造は「権力の私物化」を納税者が追いつめるチャンス

2018.3.15 かと以下は、ある全国新聞の3月13日付け「主張」「公文書書き換え 国民への重大な裏切りだ 「信なくば立たず」忘れるなです。長文ですが、引く意味があります。  

「学校法人「森友学園」への国有地売却問題をめぐり、財務省が売買の決裁に関するものなど14文書を書き換えていたことを認め、調査結果を国会に報告した。安倍晋三政権はこの1年、土地売却や財務省の対応などに問題はないと答えてきた。これを覆す事態である。 公文書とは、国などの行政機関の活動の基盤となり、歴史の証しともなるものだ。それを正しく取り扱うことは、民主主義の根幹を成す。だからこそ、偽造や変造は刑法上の罪にあたり、重い罰則が設けられている。

≪政権の問題ととらえよ≫  驚くべきことに、国土交通省と会計検査院は、それぞれ財務省による書き換えに感づいていたという。中央省庁が不正を働き、見て見ぬふりをしていた。国が根底から揺さぶられているといってよい。書き換えの事実関係を解明し、信頼を取り戻すことに努めるしかない。安倍首相は「行政全体の信頼を揺るがせ、行政の長として責任を痛感している。国民に深くおわびする」と語った。信頼回復に向けて「全力を挙げて取り組む」という以上、関係者の国会招致などにも積極的にあたるべきだ。麻生太郎副総理兼財務相は謝罪した上で、書き換えの最終的な責任者として、すでに9日に辞任させた佐川宣寿前国税庁長官(当時の理財局長)の名前を挙げた。佐川氏は理財局長当時の国会答弁で、学園側との価格交渉は行っておらず、交渉記録は廃棄したと説明した。事実と異なり、その整合性をとるために、文書の方を書き換えたということなのか。都合の悪いことを隠すため、公文書をこっそりと書き換えるのは改竄(かいざん)というべきである。国会答弁を取り繕うために不正を働き、どんどんボロが出てきた。「役所の中の役所」ともいわれる財務省の官僚が、公文書の書き換えで公正であるべき行政をねじ曲げていた。お粗末ではすまない行いである。行政内部の問題にとどまらないのは、安倍政権が国会答弁や記者会見で、事実に基づかない説明を続けてきたことである。結果として、政権そのものに対する国民の信頼を傷つけたことを、直視しなければならない。国会議員に提示する文書の書き換えは、立法府の軽視である。与野党を問わず、厳しく対処しなければならない。……残された疑問で大きなものは、なぜ書き換えをしたか、なぜこの国有地売却を実行したかである。書き換えや土地売却をめぐり、佐川氏以外に政治家の働きかけなどはなかったのかを解明する必要がある。佐川氏の辞任は説明責任を逃れる免罪符とはならない。与野党は協力して、国会招致を実現すべきである。佐川氏を国税庁長官に起用した麻生氏の責任も重大である。佐川氏への疑問が拡大する中でも「適材適所」と擁護していた。日本は、北朝鮮核危機という国難に直面している。そのときに政権が国民の信頼を失うことが、いかに政策遂行の妨げとなるか。安倍首相には、重大な失政と認識して対処してもらいたい。」

かと 種明かしをしましょう。これは、かの産経新聞の3月13日「主張」です。「公文書偽造」とまでいわなくても、3月2日に朝日新聞がスクープした「書き換え」ではなく、自民党幹部のいう「訂正」でもなく、「改竄」と認めています。「北朝鮮核危機という国難」で締めたり、消された安倍昭恵が出てこなかったり、他紙と比べればまだもどかしく、同日付産経紙面全体との齟齬もありますが、それでもこの産経「主張」は、まだジャーナリズムが生き残っている兆候でしょう。NHKが官邸前の抗議行動をようやくニュースにし、朝日新聞の14日朝刊は「今後の開示請求に備えて」財務省理財局が犯罪に手を染めたプロセスの、秀逸な調査報道です。朝日・毎日に負けじと、読売も自殺した財務相近畿財務局職員のメモをスクープしました。次は、日経新聞の番です。3月13日「社説」は「行政の信頼損なう「森友文書」の解明急げ」と悠長な筆致ですが、労働時間の統計データばかりか、首相夫人の関与で国有財産の8億円もの値引きが行われているのですから、こんなトップが居座る政府の元で、本当にまともな経済活動ができるかどうかを、ぜひ財界首脳に広く質してもらいたいものです。ちょうど春闘の時期、日本の民主主義と共に、アベノミクスの根底が崩れる事態です。

かと 国際情勢も、朝鮮半島南北首脳会談から米朝会談の方向へと、劇的な展開です。5月までの事前協議開催場所米国国務長官の解任と前CIA長官の就任中国ロシアの対応など、まだまだ不安定なところはありますが、「圧力」から「対話」の流れ自体は、疑いありません。この間確実なのは、東アジアのもう一つの当事国である日本の安倍内閣は、威勢のいい「圧力一辺倒」の危機アジリだけで、世界の趨勢から取り残され、蚊帳の外だったことです。思い起こせば、昨年10月総選挙での与党の圧勝は、野党の分裂・解体ばかりでなく、北朝鮮との戦争切迫の危機感、森友・加計問題の国会審議引き延ばし・逃げ切りの結果でした。その二つの条件が、二つながら崩れた安倍独裁の内憂外患の危機ですから、野党と心ある市民にとっては、権力の私物化とファシズム化にブレーキをかける、絶好のチャンスです。世論と、市民の運動の出番です。

かと 私にとって、例年この時期は、海外での調査と所得税の確定申告が重なる憂鬱な時期です。国家公務員だったある時期から印税・講演料などがあって、源泉徴収があっても確定申告が必要になり、いったん税務署に提出すると、勤務先が変わったり年金生活に入っても、毎年税務署は追いかけてきます。近年は医療費もかさむようになり、控除のために領収証を保存し申告するようになりました。電子申告e-taxが導入された時には勇んで試みたのですが、当初はすべてwindows 仕様で、mac 族は特別の機器とソフトが必要なことがわかり、ばかばかしくてやめました。そのうえ今年からマイナンバーが必須で、しかも医療費控除の申請方法が変わり、何より国税庁長官があの佐川宣寿であったことから、投げ出したくなりましたが、やむなく貴重な時間を割きました。高福祉高負担の北欧はもとより、アメリカでさえも、税の自己申告とその使途の監視は、taxpayer の権利行使・異議申し立ての重要な要件です。佐川国税庁長官の辞任と8億円背任容疑、行政府中枢での公文書偽造が、この憂鬱な時期に重なりました。日本において、納税者一揆が、永田町・霞ヶ関を動かせるか? 週末からしばらくイギリスですが、桜の便りよりも、国会前と世論の変化に注目しようと思います。

「権力の私物化」を公正に裁ける国へ

2018.3.1 かと 53%の大学生の一日の読書時間がゼロ大学生協連の一万人調査の結果です。2時間以上読書の学生がまだ5%いるのが救いですが、 学生の貧困化とスマホを含む情報源多様化の、相乗効果のようです。 教える側の大学教員には、非常勤講師をかけもちする年収200万円以下の「高学歴ワーキングプア」が構造的に定着。これでは「科学技術立国」をいくら唱えても、学術研究での日本沈没は、時間の問題です。不安定・低賃金の非正規雇用労働者が2000万人以上、2015年で37.5% ですから、三人に一人をこえます。女性は非正規が1400万人で正規よりも多く、65歳以上も300万人、そして、いまや200万人を越えた在留外国人の多くが、 事実上の外国人労働者・移民労働者になっています。ここから「アンダークラス」という新たな階級的規定を設けるかどうかはともあれ、かつての「一億総中流」ニッポンは、完全に崩壊しています。1995年日経連「新時代の『日本的経営』」を明示的な転換点として、日本の労働世界は、劇的に変わりました。結婚・出産で女性労働者が退職を強いられるM字型曲線の谷が緩やかになったと言いますが、それは女性の雇用機会が増え職場の男女平等が進んだというよりも、結婚しても生活・育児のために二人で働かざるを得ない男女が増えたということでしょう。いま国会で問題となっている裁量労働制の営業等職種への拡大は、もともと1995年日経連提言以来の財界の要請に安倍内閣が答えたものであり、過労死過労自殺の温床になるばかりでなく、日本型格差社会の固定化・貧困化を導くでしょう。安倍首相労働時間データ捏造による改憲世論の支持率低下をおそれて一歩後退しても、日本経団連は強気の推進姿勢です。

かと 韓国・平昌オリンピックの第一ラウンドが終わり、パラリンピックの第二ラウンドに移ります。日本選手のメダル獲得報道の合間に、時々韓国を批判する報道が目につきました。曰く、日本のメディアを棚上げにして「TV中継は韓国が強い競技に集中」「閑古鳥が鳴く平昌五輪、THAAD制裁の余波続く」「治安を問題視した日本を「平昌に水を差す」と非難…韓国の安全・防寒対策の現状は?」「北朝鮮、平昌五輪の“ほほえみ外交”という虚飾の裏側──それでも止まぬサイバー攻撃と、韓国の思惑」等々、特に南北朝鮮の交流・融和と「平和オリンピック」成功を揶揄する日本側報道が目立ちました。本サイトは前回、オリンピック憲章に沿った場外「平和」レースで、国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長、開催地韓国の文在寅大統領、それに北朝鮮の金与正特使の3人が メダリストとしましたが、その意味は、第一ラウンド終了で、いっそうはっきりしてきました。一つは、このIOCが仲介した緊張緩和策、昨年から南北朝鮮政府が秘密裏に準備し、綿密に計画されてきたものと思われることです。北朝鮮の核・ミサイル保有に対する韓国政府の対抗策は、米国からも中国からも相対的に自立し、もちろん「圧力」「制裁強化」一辺倒の日本の安倍内閣や国内保守勢力の妨害を予測し排除した、「対話」重視の戦略的・自律的選択でした。第二に、米国政府もこの文大統領の「対話」政策をCIAルートで察知・了解し、2月10日には北朝鮮金永南常任委員長・金与正特使と米国ペンス副大統領の青瓦台での会談までセットされていたことが明るみになり、北朝鮮側の2時間前ドタキャンで実現できなかったとはいえ、動かしがたい事実となったことです。北朝鮮側は、閉会式に出席した金英哲党副委員長が「米中対話の十分な用意」を述べ、あのトランプ大統領も「適切な環境の下でなら我々も対話を望んでいる」と公言しました。日本政府は、ほとんど蚊帳の外でした。ソウルまででかけた安倍晋三の外交的失敗で、「雑談程度」なら北朝鮮と「対話」するという軌道修正です。

かと  もちろん、まだ東アジア緊張緩和の第一歩で、北朝鮮非核化には、長い距離があります。中国政府ロシア政府は素早く動き、スウェーデン政府の影の動きも取り沙汰されています。確かなことは、この新たな東アジア情勢を作りだしたものは、韓国における昨年5月の朴槿恵大統領から文在寅大統領への政権交代によるものであり、南北融和は、文大統領の公約であり国民への約束であったことです。 韓国政治ではしばしば起こることですが、朴前大統領は、巨額の収賄と「国家の危機」を招いた「大統領権限の私物化」の罪を告発され、懲役30年、罰金118億円を求刑された刑事被告人になっています。ロシアでも中国でも、アメリカでさえ、元の政権の失政と腐敗を告発して権力を握り「独裁」に近づくのは、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」というアクトン卿の警句通りです。それでも「腐敗した権力」を、証拠にもとづき司法手続きで裁くのは、民主主義国家の最低限の資格です。隣国韓国では、「権力の私物化」への司法的決裁が進んでいます。中国の場合は、腐敗幹部摘発の実績をもとに、憲法改正までして新たな「権力の私物化」を恒久化しようとしています。北朝鮮の場合は、粛清という古典的手法です。「権力の私物化」は、韓国ではもう一つ、前大統領時代に権力に批判的な文化人約1万人の「ブラックリスト」が作成された事件で、ソウル高裁は前文化体育観光相の趙允旋被告に対し、禁錮2年の実刑判決を言い渡しました。趙被告にブラックリスト作成を命じたとされる元大統領室長に対しても、一審判決の禁錮3年より重い禁錮4年が言い渡されました。もう一つの東アジア国家、日本でも、「権力の私物化」と腐敗は進行しています。安倍内閣のファシズム化のもとで、日本の「ブラックリスト」はどうなっているのでしょうか。「オトモダチ・リスト」「 安全牌文化人リスト」はできているようです。安倍晋三「側近政治」に、公正な裁きが下るのは、いつのことになるのでしょうか ?

「アリラン」「イマジン」「大正生れ」でつむぐ平和

2018.2.15 かと 平昌オリンピックの真っ最中です。オリンピック憲章には、「オリンピズムの目標は、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、 人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある」とあります。日本のメディアは、もっぱら日本選手のメダル獲得とメダルの色に注目し、連日、新聞もテレビも、大きなスペースと時間を割きます。しかし、オリンピック憲章に沿った 「平和な社会を推進すること」への貢献という場外レースでは、国際社会の判定は、日本のメディア報道とは、正反対です。金銀銅のメダルの色には議論がありますが、国際オリンピック委員会(IOC)トーマス・バッハ会長、開催地韓国の文在寅大統領、それに北朝鮮の金与正特使の3人が 、緊張緩和の主役・プレイヤーとみなされます。最下位かブービー賞かの議論はありえますが、ペンス副大統領を派遣したが何もできなかった米国、それに追随して韓国大統領に内政干渉まがいの要求を出してかつての朝鮮半島への侵略・植民地支配を想起させ、対話の現場で「対話より圧力」「微笑み外交に目を奪われてはならない」と繰り返して、アメリカの忠犬の遠吠えとひんしゅくを買った安倍晋三首相の日本が、マイナス判定でしょう。トランプ大統領のツイッター政治、メディア批判は大手メディアからも反撃を受けていますが、日本の安倍首相はメディアは押さえ込んだと慢心してか、SNSでの暴言をまねています。何よりも、北朝鮮の核・ミサイル開発への「対話と圧力」が焦点になっている最中に、IOC・南北朝鮮が対話による平和維持・緊張緩和をすすめている最中に、米国トランプ大統領が「使える核」を増やす新核戦略(NPR)を発表し、「唯一の戦争被爆国」を一枚看板にしてきた日本政府がそのNPRを真っ先に歓迎するのですから、 昨年の核兵器禁止条約・ノーベル平和賞ICAN受賞への冷淡な態度に続く、日本外交の権威失墜です。

かと オリンピック政治の力関係は、明らかに「対話」の方に傾きIOCバッハ会長の北朝鮮訪問南北首脳会談の可能性が現実に近づき、米朝直接交渉への模索さえ生まれているようです。これを、北朝鮮・金正恩の「微笑み外交」に乗せられた韓国・文在寅大統領の融和主義=米日離れとして非難するのが、日本のメディアとネトウヨ・ヘイトの常道ですが、バックに中国ロシアIOCバッハ会長、メルケル独首相とEUなどがいます。日本にとっては唯一のパートナーであるアメリカは、今や国際政治の中でパワーが衰退し、中国・ロシア・インドや中東・南米諸国も、世界平和の重要なアクターになっています。今回の南北融和に「アリラン」の歌触媒になっていることは、注目すべきです。つまり、日本帝国主義に支配されていた時代についての南北朝鮮の共通の歴史的記憶が、「アリラン」を一緒に唱うことで、よみがえってくるのです。朝鮮半島にくらす人々の、ナショナルなノスタルジアの故郷です。開会式のハイライトで唱われたのは、ジョン・レノンの「イマジン」でした。イマジンは、19世紀のフランス革命歌「ラ・マルセイエーズ」、20世紀のロシア革命ソ連国歌・国際連帯歌「インターナショナル」に代わって、冷戦崩壊と米国9.11以降にグローバルに定着した、21世紀の平和・非戦歌です。本サイトも、21世紀に入って、特別コーナー「イマジン」を立ち上げました。すぐれた歌は、時代も民族も超えて、平和を愛する人々の接着剤になりうるのです。

かと  本サイトの「イマジン」コーナーに、戦争の記憶大正生れの歌探索記」が入っています。2001年9.11直後に立ち上げ、ちょうど老年期に入った「大正生れ」の方々から大きな反響をえたもので、作詞・作曲者を歴史探偵したり、替え歌・別ヴァージョンを収集したりと、「イマジン」の目玉の一つでした。しかし2009年に作者の小林朗さんが亡くなった頃から、問いあわせも少なくなり、アジア太平洋戦争の「戦友会」や「大正会」という同世代の交流会も次第に消滅して、もう役割を終えたと思われ、本サイトの窓口も、最小限にしてきました。ところが平昌オリンピックのさなか、丁寧な長文のリクエスト・メールが届きました。神奈川県川崎市の91歳というSさんからで、昔、会社員の現役時代、「大正生れの歌」 を聞いて大変感動し、何とかもう一度聞きたいと思ってきたが果たせなかった。最近パソコン操作を覚えて、「ネチズンカレッジ」にこの歌についての記述があるのを見つけ、何とかそのものをもう一度聞けないか、というリクエストでした。幸い私の手元には、作詞作曲者の故小林朗さんからもらったSPレコードやカセットテープ版の歌があったので、これらをお送りしたところ、懐かしく、嬉しくて、涙した、という感謝感激の御礼が届きました。

かと  この91歳Sさんのリクエストを機に、改めて大正生れの歌・探索記(2018年版) を作り、あわせてMIDI版の歌がリンク切れになっていたものを、カセットテープからmp3デジタル音源に転換し、iTunesで簡単に聞けるように更新しました。軍歌調で、よく戦友会でも歌われたようですが、作者の小林朗さんによれば、「大正生れ」はアジア・太平洋戦争敗戦時20-35歳の、最も犠牲の多かった世代であり、自分自身も徴兵され、多くの友人を喪いました。戦後は日中友好のボランティア活動に尽くした小林さんの、鎮魂の想いと平和の願いを歌ったものでした。改めて本サイトに歴史資料として残し、いま安倍ファシズムのもとで、ひょっとしたら甚大な被害者になりかねない「平成生れ」の皆さんにも味わってもらおう、と思います。「平成生れ 」の鎮魂歌を作らせないためには、安倍内閣の9条改憲の狙いを見定め、「平成生れ」世代に、日本国憲法の平和主義・民主主義・立憲主義の意義を、理解して貰わなければなりません。日本「本土」と沖縄米軍基地との歴史的関係を、見つめてもらう必要があります。幸い「学術論文データベ ース」の常連寄稿者・神戸の深草徹弁護士から、ka深草徹「「9条加憲」は自衛隊を普通の軍隊とする一里塚 — 国民は托卵を拒否する」(2018.2)という新規寄稿がありました。さっそくアップです。また、この間の私の731部隊研究の論文・講演記録等を、 昨年公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)をもとにした1月20日第304回現代史研究会報告レジメとパワポ原稿と共に、「ネチズンカレッジ」カリキュラム現代史研究・専門課程5」に加えました。あわせてご参照下さい。

1930年代の世界と日本を繰り返さないように!

2018.2.1 かと 通常国会が始まりました。 安倍晋三は、予想通り強気で、憲法9条改憲にまっしぐらです。平昌オリンピック開会式出席は決めましたが、韓国文大統領との首脳会談で、従軍慰安婦問題での「日韓外相合意」 履行の強要北朝鮮への「対話より圧力」での牽制は、期待できないでしょう。森友・加計問題での政府答弁のいい加減さは相変わらずで、籠池夫妻は半年も窓無し独房生活なのに、もう一方の当事者である首相夫人・安倍昭恵の役割も前理財局長・佐川宣寿の虚偽答弁も、政府・自民党にガードされたままです。ようやく森友学園国有地格安売却交渉の文書が一部出てきた段階。佐川は現国税庁長官で、一度も記者会見に応じず、確定申告の時期に税務署員が弁明に大わらわです。スパコンリニアジャパンライフ等 、首相の権力私物化と税金の怪しい使われ方の素材は山積していますが、さしあたりは、安倍内閣の弱い環、茂木経済再生担当大臣の線香配付疑惑から、野党の追及が始まりました。自民党内の旧経世会額賀派内の抗争と連動しています。ただし野党の追及は、おおむね週刊誌やメディア、ウェブ情報の後追いで、政党の独自調査にもとづく質問が、ほとんど見られません。立法事務費という調査活動費が、一人毎月65万円支給されているにもかかわらず。日本政治の劣化の兆候の一つです。

かと 米国トランプ大統領は、恒例のダボス会議に出席し、新自由主義グローバリズムの政治経済エリートの前で「アメリカ・ファースト」を 孤立主義ではないと弁明しTPPへの復帰まで口にしましたが、G7や中国・インドの指導者が集ったこの会議(世界経済フォーラム、WEF)に、安倍晋三も日本政府の閣僚もいませんでした。 20世紀の石油危機の時代に使われた石油メジャーの「セブン・シスターズ」になぞらえて、米国のアップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトと中国のアリババ、テンセントが現代テクノロジーの「セブン・シスターズ」 とよばれ、「7姉妹は全て時価総額が50兆円を超えて、データを独占し、プライバシーを侵害し、Fake Newsを生み出す有害な独占企業として捉えられていた 」という 報告もありました。WEF「グローバルリスク報告書2018」では、「異常気象、自然災害、気候変動への対応、サイバー攻撃、水資源危機、大規模な移民」を「グローバルリスク」として評価したといいます。こうした世界の支配層の動きに、日本は、蚊帳の外だったようです。

かと ダボス会議から帰ったトランプは、ワシントンの議会で初めての一般教書演説を行いました。今秋の中間選挙を意識してか、ツイッターでの乱暴な口舌は抑制し、原稿通りに「新しいアメリカの時代」 への議会の超党派での協力を訴えるものでした。しかし、トランプ大統領自身をも当事者として含むセクハラに抗議する「MeToo」運動に連帯して、黒い服で埋まった野党民主党議員席からは、恒例の儀礼的拍手もなく、演説終了後、直ちに退席しました。テレビ中継を意識してか、いつものメディア 批判は封印したものの、批判的メディアの論調は「柄にもない」というものでした。もっとも日本の国会では、首相側近の元TBS記者のレイプ問題についての国会質疑を、被害者女性が傍聴席に現れたためか、1月30日午後のNHK国会中継は放映されることはなく、それを問題にし大きく報じるメディアもありませんでしたから、アメリカの民主主義は、まだ健全というべきでしょう。日本のメディアは、東アジアの隣国への悪意と蔑視に満ちた報道で溢れ、「反中嫌韓」の排外主義的ナショナリズムに染まっています。異論を述べると「反日」とレッテルを貼られるのも異常です。「言論の自由」の根幹が、揺らいでいます。

かと 21世紀初めの10年ほど、1月のダボス会議(世界経済フォーラム)と米国大統領一般教書演説に対抗する世界社会フォーラム(WSF)のグローバルな抵抗運動があり、その年の世界の行方を占う、格好の定点観測ができました。とりわけ米国9.11同時多発テロとアフガン・イラク戦争の時期には、「もう一つの世界は可能だ」というWSFの呼びかけに応えた、グローバルな非戦平和の運動がありました。本サイトの「イマジン 」には、当時の記録が集成されています。しかしWSFは、2010年代に地域別・問題別の運動に分化して、かつてのアモルフォス(非結晶)な運動を結晶化(クリスタライズ)する作用を弱めました。その間に、グローバル資本主義そのものが、国民国家単位のブロック化と競争の様相を強め、特に移民・難民・外国人労働者の受入をめぐって、内向きの排外主義とポリュリズムと軍産複合体が、各国で台頭してきました。安倍内閣のファシズム化ばかりでなく、国際環境も、20世紀の1930年代に似てきました。世界戦争前夜の悪夢です。ただし、核兵器という人類絶滅兵器の存在ばかりでなく、国際法や国際組織の多元多層化、それに人権・平和思想とインターネットをも介した情報コミュニケーションの広がりが、かの時代とは大きく異なります。トランプ政権は、科学技術政策でも「軍事」「国土安全保障」「経済的繁栄」を最優先とのことです(朝日新聞2月1日)。科学技術や学問の世界にとっても、試練の時です。昨年公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)をもとにした、1月20日第304回現代史研究会報告レジメとパワポ原稿を追加しました

 

「明治維新150年」で「戦争ができる国」に進む日本

2018.1.15 かと 案の定というべきか、安倍総理の年頭記者会見は、北朝鮮の核・ミサイル脅威から入り、「北朝鮮の脅威に備える自衛隊の諸君。その強い使命感に、そして責任感に対して、改めて敬意を表したい」で始まりました。そこから明治維新150年、「私のふるさと長州」からの「草莽崛起」で「国難」を乗り切った話。そこからいきなり、現在の「国難」少子高齢化に対して、いかにアベノミクスが立ち向かったかとして、185万雇用増と名目GDP50兆円増を挙げ、次は「働き方改革」だと言います。本当でしょうか。ちょうど明石順平さん『アベノミクスによろしく』(インターナショナル新書)で低賃金非正規雇用に頼りGDP基準年や算出基準を変更しての数字のマジックを読み、『サンデー毎日』1月21日号の90歳の長老・伊東光晴さんの 「アベノミクスは日本の死に至る病」という診断を聞き、ハンガリーから日本経済を見ている盛田常夫さんの安倍周辺エコノミスト評価を見ていたので、 いつもの三百代言・誇大広告と納得できました。

かと 首相の決意は、はっきりしています。「戌年の今年こそ、新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を国民にしっかりと提示し、憲法改正に向けた国民的な議論を一層深めていく。自由民主党総裁として、私はそのような1年にしたいと考えております。2018年は、改憲の年と、位置づけられています。その準備も、着々と進められています。自民党内にも異論があり、与党の公明党との間にもなお軋轢はありますが、「ファシズムの初期症候」満載の 安倍内閣が続く限り、この路線は強まるでしょう。野党の非力につけこんだ、選別・分断と囲い込みが進められるでしょう。

かと しかし、安倍晋三の年頭所感で、語れなかったこともあります。トランプ大統領も日米同盟も、登場しません。盟友トランプの気まぐれな国際政治の暴走、国内政治での迷走スキャンダルは、安倍ブランドにも跳ね返ってくるリスクがあります。沖縄で続くヘリコプター事故は、完全無視です。辺野古や基地問題での質問は、避けたかったのでしょう。北朝鮮の平昌オリンピック参加と南北会談トランプの歓迎談話、韓国文在寅大統領の慰安婦問題での新方針などは、安倍官邸にとっても蚊帳の外で、影響力を行使できません。国会を開けば集中砲火を浴びるに違いない、公的権力の私物化、森友・加計問題スパコンリニア疑惑に触れられることは、心底懼れているようです。だから「消費税の使い道を見直し」以外、税の話は出てきません。森友資料隠しの元凶が国税庁長官ですから、確定申告を前に、騒がれたくないのでしょう。

かと  ノーベル平和賞を受賞したICAN事務局長の来日に、日本政府は、首相との面会を断りました。安倍首相は、「まだ行ったことがない国」という理由でバルト3国・旧東欧の6カ国外遊に逃げ出しました。22日からの通常国会では、首相の委員会出席時間削減が、与野党の攻防になっています。そもそも議論したり、批判されたりするのが、いやなようです。そのくせ、右翼のオトモダチ芸能人との会食メディア対策のイベント出席には熱心です。沖縄や福島・熊本住民の苦悩は、意に介さないようです。正月も、各地で地震が続きました。異常気象の影響は地球大なのに、急速に進む「脱炭素革命」 に乗り遅れて原発を再稼働し、次期経団連会長のポストを餌に、日立の危ない原発輸出商談、トランプから高価な陸上イージスを買わされたうえで、武器輸出への参入も。「死の商人」への道です。

かと 「戦争ができる国」へと変容するこの国で、私たちは、何ができるのでしょうか。さしあたりは、「戦争とは何か」を、21世紀を担う若者たちに、具体的にイメージしてもらう必要があります。 「君たちはどう生きるか」から、「君たちは生き残れるか」へと、もう一歩進んでもらいましょう。中東シリア、イラクからミャンマー・ロヒンジャまで、ホットな素材があります。コペル君が悩んでいた時期の中国や朝鮮半島、真珠湾攻撃から沖縄戦、広島・長崎からシベリア抑留まで、歴史の書物や映画、YouTube映像も無数にあります。軍歌や反戦歌から入る道もあります。身近なところで「戦争」の実相を考えてほしいものです。私自身は、知識人向けに、昨年末公開された敗戦前後の湯川秀樹日記(1945年)の解読から、「戦争と科学者」の 問題を、再考しています。その一端は、昨年公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)と合わせて、1月20日午後の第304回現代史研究会で報告します(午後1:00〜5:00、明治大学駿河台校舎・リバティタワー7階1076号教室)。すでに「今日もなお徘徊する亡霊たち−731部隊の戦後史」と題して、レジメも公開され、明治大学西川伸一教授がコメントしてくれます。今年最初の仕事ですが、関心のある方は、ぜひどうぞ(当日の報告レジメとパワポ原稿はここをクリック)。

マルクス生誕200年、明治維新150年、米騒動100年、大学闘争50年の年に

2018.1.1 かと 新しい年ですが、松飾りや年賀の挨拶はなしです。米国と北朝鮮の瀬戸際挑発戦は続き、「国難」はずの首相はゴルフ三昧、メディアの目玉は大相撲、 ウェブを見ると従軍慰安婦問題での韓国批判のヘイトの氾濫、国内外とも「おめでとう」とはいえません。今年は憲法改正が政局になるでしょう。でも、9条を守るべき野党勢力は心許ない布陣、おまけに象徴天皇制のバージョンアップが重なって、この国の行方は混沌です。政治権力の要諦は、グローバルな地球の中での時間と空間の支配、言語やナショナリズムで仕切りを作ります。その仕切りの中で、喜んだり、悲しんだり、怒ったり、笑ったり、声をあげたり、もがいたり、沈黙したりしながら、みんな、生きていき、また死んでいきます。 今年も、安倍内閣の「ファシズムの初期症候」から逃れるわけにはゆかないようです。

かと  明治維新150年が、政府や改憲勢力から宣伝されるでしょう。明治維新が、列強のアジア進出の時代に独立国家としての存続を保持し、アジアで最初の近代化に道を拓いたと讃え、「富国強兵・殖産興業」を推進した大日本帝国と帝国憲法の意義が述べられるでしょう。その代わり、君主主権も、治安維持法も、朝鮮併合も、中国侵略も、なかったかのように。50年前の佐藤内閣時の1968年明治100年祭には、歴史学者を中心に多くの批判があり、雑誌で論争されました。とりわけ1967年から「紀元節」が「建国記念日」という名で復活した後でしたの、神話的で天皇制的な復古主義歴史観を政府が賞揚することに、批判が集中しました。他方で高度経済成長のさなかでしたので、駐米大使ライシャワーのアメリカ型近代化論が流入し、「アジアの近代化の模範」ともてはやされました。この頃は歴史観も多様で、65年日韓条約や家永三郎の教科書検定裁判もあって、アジア諸国への侵略や沖縄返還問題ともリンクして、明治100年が論じられました。

かと その明治100年が、いわゆる学園紛争の年になりました。1968年当時在学中の当事者としては、大学闘争です。なによりも、ベトナム戦争で日本からも米軍機が出撃し、中国の文化大革命、プラハの春、パリの5月、イタリアの暑い夏、アメリカの反戦運動と、世界大乱の様相でした。オリンピックの開かれたメキシコでも、トラテロルコの虐殺の直後であり、陸上200メートルのアフリカ系アメリカ人の金メダリストは、公民権運動の象徴ブラックパワー・サリュートを表彰台で世界に示しました。マルクス生誕150年は一部の雑誌特集ぐらいでも、『共産党宣言』や『ドイツ・イデオロギー』は学生たちの必読書でした。マックス・ウェーバーや丸山眞男と共に『資本論』や『経済学・哲学手稿』に挑戦するのも、一種の見栄・流行でした。『朝日ジャーナル』や漫画週刊誌、ビートルズやフォークソングのサブカルチャーも登場しましたが、米騒動50周年とは銘打たなくても、少数者・社会的弱者への目配りもありました。女性運動はウーマンリブとして輸入されたばかりでしたが、高度成長の副産物としての公害・環境破壊は広く知られ、水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくの被害者救済・裁判も進行中でした。実はこの頃、原発の本格的稼働が始まろうとし、原発立地の住民運動や科学者や学生たちの産学協同・軍学共同反対運動も広がっていました。日本の社会運動にも、無党派市民運動やベ平連・全共闘運動が登場していました。

かと それからさらに半世紀、マルクス生誕200年、明治維新150年となりました。マルクスは昨年の『資本論』150年の延長上で、新自由主義グローバリズムや地球的格差への批判的・原理的引照基準として、生き続けるでしょう。そんな世界を空間的・時間的に切断し、象徴天皇制と元号で内向きのナショナリズム・排外主義に取り込もうとする勢力は、明治150年を最大限利用するでしょう。半世紀前と違って、すでに国旗国歌法から20年近くたって、日本の近代化の光と陰をしっかり見つめた歴史像は、生まれにくくなっています。「失われた20年」と隣国中国の台頭、アベノミクスの 失政が、明治の近代化と戦後の高度成長・バブル経済を一続きにしたノスタルジアを強めるでしょう。来年の元号変更、2020年の東京オリンピックに向けて、近代化の陰でのアジアへの侵略と戦争の歴史、高度成長期の公害・環境破壊、バブル崩壊後の非正規雇用増大と格差拡大が意識的に抹消され、メディアとインターネットを総動員して健忘症(アムネジア)の国民作りが進められるでしょう。半世紀前の68年学生たちが、退職・年金生活に入り、「全日制市民」として首相官邸・国会前や各種政治集会に集まることはあっても、沖縄やパレスチナの問題に正面から取り組めるかは疑問です。むしろ、今こそ米騒動100年に立ち戻って、女性や若者たちの生活世界の原点からの抵抗に、期待せざるをえないでしょう。幸い、ロシア革命と米騒動を直結させるような歴史評価や、生活者の抵抗を政党政治と労働組合に代行させるような社会運動は、影響力を失っています。 21世紀には、21世紀にふさわしい権力との闘争があり、それは国民国家の時間と空間の仕切りを超えた、広がりと深みを持たざるをえないでしょう。

 かと  私の「行く年」は、春に公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)と11月にロシア革命100年として書いた、中部大学『アリーナ』誌20号ソヴィエトの世紀」特集への寄稿「米国共産党日本人部研究序説ーー藤井一行教授遺稿の発表に寄せて」で、ペンの力は尽きました。前者の731部隊については、講演記録「731部隊の隠蔽・免責・復権と二木秀雄」、「戦後時局雑誌の興亡——『政界ジープ』vs.『真相』」(関連資料)に加え、年末に『週刊金曜日』編のブックレット『加害の歴史に向き合う』 にも収録されました。「来る年」は、1月20日(土)の第304回現代史研究会で、「今日もなお徘徊する亡霊たちーー731部隊の戦後史」を講演します(1−5時、明治大学リバティータワー7階1076室)。戦後の日本に「希望」を与え、日本の反核平和運動の象徴であった湯川秀樹博士の1945年1月から12月の日記が、京都大学で公開されました。ウェブからも、アクセス可能です。今年は湯川日記をも手がかりに、原発細菌戦と追いかけてきた日本の科学技術発展と大学の軍産学協同の問題を、考えていきたいと思います。