LIVING ROOM 22 (Jan. to June 2007)

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記などが、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。


100 万アクセス、ありがとうございました!

政府への信頼・忠誠(Loyalty)が揺らぐとき、

人は離脱(Exit)に走るのか、発言(Voice)で応えるか?

2007.6.13 本日、本サイト「ネチズンカレッジ」は、百万アクセスを越えました。月2回更新の、学術データベースと硬派の評論中心の発信サイトとしては、日本では異例のことと思います。この十年の皆様のご愛顧、特にブックマークして繰り返しアクセスいただいたリピーターの皆様に、厚く御礼申し上げます。今後もマイペースで更新・発信していきますので、よろしくお願い申し上げます。

2007.6.15  それにしても、政治は変化の速い世界です。久しぶりの花伝社の論集では情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』を、渡辺雅男・渡辺治編『「現代」という環境』(旬報社)所収のビギナー向け講演ではインターネットーー情報という疑似環境」を公刊したばかりですが、最近読んだ梅田望夫・茂木健一郎『フューチャリスト宣言』(ちくま新書)によれば、この変化はいっそう加速しそうです。2週間前の前回更新時に社会保険庁の年金記録5000万件紛失と論じた問題が、またたくまに日本列島を覆う深刻なテーマになり、不安と怒りが、インターネット上にも溢れています。例えば日本の年金制度産みの親、花澤武雄『厚生年金保険制度回顧録』の言葉、「この法律ができるということになった時、すぐに考えたのは、この膨大な資金の運用ですね。何十兆円もあるから、一流の銀行だってかなわない。これを厚生年金保険基金とか財団というものを作って(中略)そうすると厚生省の連中がOBになった時の勤め口に困らない。何千人だって大丈夫だ」「将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ」等々。2004年の年金国会の議論を紹介するサイトに必ず載ってます。しかも2004年は、支払い義務のある年金の未払いの問題だったのに、今回は、支払いの末にもらえるはずの年金が、社会保険庁のあきれるばかりの怠慢でもらえなくなる話。庶民の怒りは、倍加しています。マスコミの世論調査も敏感に反応し、安倍内閣の不支持率は、軒並み支持率を大きく上回りました。7月参議院議員選挙で、憲法改正を前面に押し出す一時の構想は、破綻しました。それどころか、来年5月までに5000万件の不明記録を調べ直すという国会での首相答弁で、火消しに躍起になったのが裏目に出て、次々と新たな問題が噴出して、公的年金と政府そのものへの深刻な不信が強まっています。国家の正統性危機、政府の統治能力危機、でもなぜかデモも暴動も起こらない、出口の見えない危機です。注意しなければならないのは、この間国会で相次ぐ強行採決の流れ、会期延長までしてごり押しの国会運営。新しい法案がわずか数時間の討論で、与党が圧倒的多数の衆議院を通過し、国権の最高機関たる国会の役割そのものに、不信とあきらめが出ています。日本国憲法第41条【国会の地位、立法権】 に曰く、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」、内閣は「法律を誠実に執行し、国務を総理する」(第73条)。その法にもとづく社会保険庁の仕事は、「主権の存する日本国民 」の利益はほとんど考えず、もっぱらグリーンピアのような無駄遣いに運用していたという話し。こんな政府に老後は任されないという年金不信・未払い増加は当然でしょう。国家の正統性が揺らぎ、忠誠(Loyalty)の調達が困難になり、離脱(Exit)が始まる事態です。おまけに政府への抗議、社会保険庁への告発、庶民の発言(Voice)も高まっています。畏友有田芳生さんも、ついに政治家としての発言を開始しました。

そうです。2005年に新訳の出たアルバート・ハーシュマンの名著『離脱・発言・忠誠(Exit,Voice and Loyalty)ー企業・組織・国家における衰退への反応』(ミネルヴァ書房)を読んだ人は、組織の提供するサービスの低下が、離脱と発言という二つの形態で現れ衰退にいたるという、あの単純な理論モデルを想い出すでしょう。でも、ハーシュマンの当初の想定では、離脱が多くなれば発言は沈静し(粗悪な商品は消費者が離れる)、離脱より発言という労力とコストのかかるオプションが高まれば、それはなお組織への忠誠が高いケースで、組織内改革にいたるはずでした。いいかえれば、離脱と発言はバーターの関係になるはずでした。ところがハーシュマン離脱と発言の相乗効果を認め、自己の理論を修正したケースが歴史的に発生しました。1989 年の東ドイツの革命です。大量の国外逃亡というエクソダス=離脱と、ライプチヒのトーマス教会から始まる抑圧されていた民衆の抗議行動=発言が、同時並行的に起こり、相乗し、ついにはベルリンの壁を開放し、東ドイツ国家そのものを消滅させたのです。ベルリンの壁崩壊も知らない若い皆さんには、あの映画「グッバイ・レーニン」の世界といった方がわかりやすいでしょうか。ハーシュマン自身による理論の修正は、『方法としての自己破壊』(法政大学出版局、2004) に収録された論文「退出、告発、ドイツ民主共和国の運命」で読めます。あるいは政治学者山川雄巳教授の論文「東ドイツの崩壊とハーシュマン理論」(立命館法学、1996 年1号)をインターネット上で読めます。あるいはウェブ上の井庭崇さんの立教大学講義pdfファイルで、わかりやすく説明されています。もちろん大塚昌克『体制崩壊の政治経済学 東ドイツ1989年』(明石書店、2004)のようなハーシュマン理論そのものの破綻という批判もありますが。

 私が注目するのはむしろ、名著『情念の政治経済学』(法政大学出版局、1985)で知られる経済思想家ハーシュマンが、なぜ1989年東ドイツ革命に正面から取り組み、自己の理論を修正してまで理解しようとしたのかという、学問の根底に流れるエートスの方です。『離脱・発言・忠誠』の新訳者矢野修一さんが、訳者補説で、あるいは矢野修一『可能性の政治経済学 ハーシュマン研究序説』(法政大学出版局、2004)で詳しく解説しています。ハーシュマンは、1915年ベルリン生まれ、1932年にベルリン大学に入学した直後にナチスが政権をとりパリに亡命したユダヤ人でした。ロンドン政治経済大学(LSE) に移ってハイエクの講義を聞き、スペイン共和国政府支援の義勇軍にも加わりました。イタリアでは義兄コロルニを助けて反ファシズム運動に加わり、第二次世界大戦ではアメリカ陸軍に加わりファシズムと闘います。戦後の開発経済学への貢献には、戦時のガーシェンクロンとの出会いがありました。イタリア・反ファシズムの闘士だったコロルニとのつながりで、スラッファやアマルティア・センとも姻戚関係にありました。そうした体験が、ハイエクの経済理論に疑問を持ち、『離脱・発言・忠誠』をミルトン・フリードマンを直接の論敵として書く動機になります。今日猛威を振るうハイエク、フリードマン風新自由主義へのリベラリズムからの内在的批判として、ハーシュマンは読まれるべきなのです。そして、日本が「美しい国」どころか、離脱と発言の相乗効果の中で自壊する前に立て直さなければいけない、経世済民の警告としても。

 「ネチズンカレッジ」の百万ヒットに合わせて、9.11以後の非戦ポータルサイト「IMAGINE! イマジン」も、30万ヒットを記録したようです。皆様の日頃のご愛顧に、心より感謝いたします。でも心配なのは、ハーシュマンの経験によると、離脱と発言が相乗し、国家への忠誠が弱まる極限状態では、究極の国家装置、警察と軍隊という暴力装置が、民衆と緊張状態に入ること。もちろんそれは、民主主義が機能し作動していると、選挙という発言による政権交代や指導者の置き換えになりますが、21世紀の情報戦の時代には、国家による民衆監視、発言可能性を事前に識別し、予防的危機管理に用いる動きにつながります。共産党が暴いた自衛隊情報保全隊による国民監視は、まさにその現れ。問題の原資料も、インターネット上で読めます。膨大ですが、じっくり検討する価値があります。なにしろ監視対象は共産党系だけではなく、民主党系、社民党系、新左翼系も含んでいます。映画監督の山田洋次さんも監視されていた、とされています。「自衛隊派兵反対」「9条改正反対」に関する運動だけでなく、消費税増税反対、年金問題等に関する運動、イスラム教関係団体も監視されていますから。言うまでもなく、憲法第第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」、第20条「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する 」、第21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」への重大な挑戦です。

2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、大きな謎であった1950年毛沢暗殺未遂事件についても、朱振才建国初期北京反間諜大案紀実』(2006年 )が中国から届いて、1950年夏の北京で「毛沢東暗殺未遂事件」とは別の「崎村茂樹経済間諜事件」があったことが判明しました。まだ同事件で崎村茂樹と一緒に検挙された三沢赳」の謎等が残りますが、この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、昨夏90万ヒット記念で始めたものですので、それから10万人の皆様がアクセスし、多くの貴重な情報が寄せられ、<6つの謎についてもおおまかな見通しがつきましたので、一応の打ち止めとします。ただし本サイト上でのまとめは、夏休みの補充調査を経てから、明らかにしていくことにします。関連資料として、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)、「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)等をご参照下さい。

 図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、「写真という複製芸術が 親米の受け皿を準備した」と題して5月29日号に掲載した柴岡信一郎『報道写真と対外宣伝 15年戦争期の写真界』(日本経済評論社)吉見俊哉『親米と反米 戦後日本の政治的無意識』(岩波新書)をアップ。この書評を楽しみに、繰り返しアクセスして頂いている皆さんも、多いようです。2月27日号の鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書) を書評した「美しい日本語は「国語」とは違う、『武士道』だって方言で読める」4月23日号で「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」としたアンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)等と共に、今後も御贔屓ください。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベースジョルダンサンドさんアメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論する」、高坂邦彦さん「筐底拾遺」中戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用してあります。岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。新年にアップした論文「グローバリゼーションと国民国家」は、2005年社会理論学会第13回大会の基調報告です。『情況』5/6月号の「ポスト国民国家時代における労働市場の変容と男性性」は、近くアップします。教育センター2007年3月加藤ゼミ卒業学士論文が入ってます。

 
100 万アクセス、ありがとうございました!

なぜ、この国には自殺が多いのか? 

「消えた年金」と 「不安定労働増大」は亡国への道では?

2007.6.13 本日、本サイト「ネチズンカレッジ」は、百万アクセスを越えました。月2回更新の、学術データベースと硬派の評論中心の発信サイトとしては、日本では異例のことと思います。この十年の皆様のご愛顧、特にブックマークして繰り返しアクセスいただいたリピーターの皆様に、厚く御礼申し上げます。今後もマイペースで更新・発信していきますので、よろしくお願い申し上げます。
2007.6.1   久しぶりで出した
花伝社の論集情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』とならべて、3月に出た渡辺雅男・渡辺治編『「現代」という環境』(旬報社)所収のインターネットーー情報という疑似環境」と、最新『情況』5/6月号の「ポスト国民国家時代における労働市場の変容と男性性」を、それぞれ版元から当研究室刊行物一覧にリンクしようとしたら、旬報社のホームページは2月から更新なし、情況出版はホームページそのものが消えていて、つながりません。どうも伝統左翼系のインターネット活動は、2ちゃんねるなど右派ナショナリストのサイト攻撃に押されて、ブログやSNS(ソーシャルネットワーク)の、仲間内の議論の世界に閉じこもりつつあるようです。由々しいことです。もちろん五十嵐仁「転成仁語」や吉田悟郎「ブナ林便り」のように、なお健筆を振るうサイトはありますが、WORLD PEACE NOWCHANCE!平和を創るネットのような市民派サイトも、一頃の勢いがなくなり、総じてナショナリズムの攻勢に比して、守勢に立たされているようです。それはおそらく、イラク戦争の内戦・泥沼化、中国や北朝鮮の行方の混迷、それに国内政治での憲法問題の不透明と関係があるでしょう。即効的政治で時に大きな力を発揮するインターネットは、日常性の中に定着するさいには、「お気に入り」に登録されないと、なかなかアクセスされません。かつて9.11以後「IMAGINE! イマジン」で連日非戦平和情報を提供してきた本サイトも、時評よりもデータベース提供に重点を移して、今月中には累計百万ヒットでしょう。ちょうど丸山真男の1周忌に立ち上げて十周年ですが、一つの区切りになります。

 びっくりしたのは、安倍内閣の抱える地雷だった松岡農水相の自殺、何が直接のきっかけかは闇の中ですが、例の「ナントカ還元水」の政治資金疑惑もさることながら、緑資源機構に対する東京地検捜査で、本丸の林業行政疑惑での追及に耐えきれないと考えたであろうことは、容易に推定できます。立花隆さんきつこの日記さん、五十嵐仁さんらがそれぞれ書いていますが、10日ほど前に地元熊本で松岡大臣の側近の一人が自殺し、松岡大臣自殺の翌日には、談合疑惑のキーマンで取調を受けていた元理事の自殺、どうやらいつもの「くさいものに蓋」ではないかと、海外メディアは一斉に「 スキャンダルの最中に自殺」と伝えました。日本政治のダーディな部分がまた顕在化したという見方です。遺書の全文判明なんてニュースも、どこまで本当か、疑ってかかる必要があります。安倍首相宛や飯島勲前首相秘書官宛もあるのですから。とにかく説明責任を果たさず自殺した灰色政治家に、「同情票」も少ないでしょう。安倍内閣にとっては、大きな失点であることは変わりません。国民の関心は、もう一つの安倍内閣の問題、社会保険庁の年金記録5000万件紛失の方に集中しています。ここでの政府の責任は、どう申し開きもできない失態、「振り込め詐欺」の国家版ですから。ようやく下げ止まりちょっと持ち直してきた安倍内閣支持率急落のきざし、参院選の結果にも、大きく響くでしょう。「美しい国」どころか「国家の品格」は国内的にも国際的にも確実に失われ、政府というものの意味が問われています。

 でも、「美しい国」での政治家の自殺に触発され調べてみると、この国は、更に深いところで亡国への道を歩んでいることが見えてきました。自殺統計です。厚生労働省の「自殺死亡統計の概況」は、明治以来いくつかの山を持ちつつ自殺が増加し、平成に入って年ほぼ3万人以上の新しい山を作ってきていることがわかります。都道府県別・職業産業別・曜日時間別と、実に細かい統計がとられています。同じ厚生省管轄だった社会保険庁は、なぜ5000万件もの「宙に浮いた年金」を隠し放置していたんでしょうか。わかりやすいのは国際比較です。かつて「自殺大国」はハンガリーと日本と相場が決まっていたのですが、ハンガリーの方は市場経済への移行で減少傾向にあり、代わりにロシアやリトアニア、ベラルーシ等が増えているようです。旧ソ連の解体で生まれ、市場経済にうまく適合できなかった国々で自殺が増え、日本が辛うじて「世界一の自殺国」の汚名を隠せるランキングです。でも先進資本主義国で断然のトップであることには変わりはありません。日本のデータで定説になっている現象があります。自殺者数と失業者数との相関で、月別推移を採ると鮮やかに似たグラフを描きます。これは1980年代以降ですが、他の国では宗教的要因や老人の孤独が自殺と関わるのですが、日本では経済指標、労働のあり方と自殺が直結する構造が見えます。マスコミ報道では「こどもの自殺」がいじめや家庭崩壊との関連でクローズアップされますが、実際にはむしろ働き盛りの自殺が多いのが日本の特徴です。ただしそれが、失業と強く連関し、老後の不安と重なることも明瞭です。失業保険や年金などの福祉制度は、実は、「自殺大国日本」の汚名を返上する最も確実な道だったのですが、こんな大切な問題を、泥縄選挙目当て特例法案強行採決で先送りにしようとする自民・公明政権は、どうやら進んで亡国への道を選んでいるようです。

 「消えた年金」は、政治と政府への信頼を失わせ、「美しい国」どころか、国家ぐるみの詐欺があったと実感させます。政治学用語でいえば、支配の正統性を大きく揺るがすものです。一般財源となる税金以上に、政府の管理責任は明瞭ですから。それは、「最低加入(支払い)期間25年」という長期労働を前提とした受給資格と結びついていて、労働の仕組みとリンクし、失業や不安定労働の増大と連関しています。格差社会の拡大は、自殺の増大にも、年金制度不信にも、作用することになります。所得の低い階層では、老後の安心に結びつく保証のない年金支払いよりも、当面の生活費捻出を選ぶでしょう。日本国憲法第25条は、GHQ草案にもなく、1946年の国会審議過程で日本側から提案され採択された条項です。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」は、 改憲の課題ではなく、いますぐにも実践さるべき「美しい国」の根本的条件です。「知憲」=「まず憲法を読むこと」を本サイトが重視するゆえんです。次のの課題は、「憲法制定過程を知ること」。「おしつけ論」や「賞味期限切れ」論を確かめるために、ウェブ上では、国立国会図書館の日本国憲法の誕生と、松山大学田村譲教授「たむ・たむページ」の「憲法関連のページ」を虚心に学ぶことをお勧めします。

2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、研究も進んでいます。その内容は、ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。その検討結果の一部は、去る3月10日、早稲田大学国際会議場で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。1943−45年のドイツ、スウェーデンと共に、もうひとつの崎村茂樹の大きな謎である1950年毛沢暗殺未遂事件については、日本語情報は2004年7月の共同通信時事通信読売新聞報道が最新で 、かつての中島辰次郎情報にもと づいて黒井文太郎謀略の昭和裏面史』(宝島社文庫)がこの1月に 発売され、7ページほど出ています。しかし中国語では、実行犯として死刑にされた山口隆一や計画立案者とされる日高富明、中島辰次郎らをも扱った新しい書物朱振才建国初期北京反間諜大案紀実』が昨2006年 刊行され膨大なサイトで取り上げられています。山口隆一のスポンサーとして渋沢敬三、逮捕・処刑の糸口を作った日本人として吉澤国雄医師らの名も新たに登場しました。ようやくこの本を入手したところ、なんと1950年夏の北京で、「毛沢東暗殺未遂事件」とは別の「崎村茂樹経済間諜事件」があったことが判明しました。この本は、第5章の「毛沢東暗殺未遂事件」についても詳しいですが、これとは別に、「付録」中に「崎村茂樹経済間諜事件」についての以下の記述があり、両事件は、新中国北京公安局により別個の事件として扱われていることがわかりました(許寿童訳)。

 1950年8月8日に解決した「崎村茂樹」事件は、もっぱら中国経済情報を収集した重大な間諜事件である。日本人の崎村茂樹はアメリカ国務院[国務省]情報部門の間諜だった。1948年2月、彼は駐北京アメリカ領事館の通訳となり、経済情報の研究を行った。北京解放後、彼は相変わらずアメリカの間諜となって、北京の公安機関がスパイ粛清、反革命活動の取り締まり、混乱状態の秩序の建て直しに忙しい隙間を狙って、中国人を装ってもう1人のアメリカ間諜の三沢赳と一緒に毎日東単や王府井の商店に行って市場調査を行い、下着、靴下、歯磨き、コーヒー、牛乳、お茶および闇市の黄金、銀貨、ドルなどの情報を集めて、電報で定期的にアメリカ国務院に送った。1949年4月から5月にかけて、二人は中国では銅線、変圧器、磁石、X線管など電気製品の部品を製造できないという情報をアメリカ国務院に報告したが、これは同年7月アメリカ政府が中国に対して経済封鎖を行う根拠の一つになった

この「三沢赳」がどういう人物か、皆目分かりません。市場の商品の価格は重大な国家機密だったようです。日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。

 図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、2月27日号の鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書)「美しい日本語は「国語」とは違う、『武士道』だって方言で読める」に続いて、4月23日号にアンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)を、「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」と取り上げたところ、本サイトに収録前の雑誌発売中に2ちゃんねるの標的になりました。どうやら「英文日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に、南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である。自分の知性の貧困を証し軽蔑されるだけである。知的遺産の共有こそ対話の出発点である」という私の書評の結論が、「愛国者」の皆さんには、お気に召さなかったようです。そういう人に限って、ゴードンもバーシェイも1頁も読んでいないのがこの世界。日本国憲法を読まずに「改憲」を叫んでいる人々です。そういう人にはぜひ、昨年9月の「きつこのブログ」ですっかり知られるようになった、安倍晋三『美しい国へ』( 文春新書、2006年7月)と、なぜかよく似たタイトルの久保木修己遺稿集『美しい国 日本の使命』(世界日報社、2004年12月)の併読をオススメします。久保木修己って誰か知らない方は、グーグルに入れてみること。もともと立正校正会から出発しましたが、文鮮明に惹かれて統一教会へ、日本統一教会初代会長として数々の悪徳商法に関わり、安倍首相の祖父岸信介とはきわめて緊密な関係。「国際勝共連合」の初代会長でもあり、1998年に亡くなりましたが、『美しい国 日本の使命』は、その7回忌に出版されました。いやタイトルは偶然の一致と思う人は、しっかり中身も比較しましょう。安倍首相の「美しい国」が、意外なルーツを持っていることに気がつくでしょう。ついでに言えば、中国語では日本語の「米国」が「美国」、さて安倍晋三「美国へ」は、アジアの人々にどんなイメージを与えるでしょうか。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、1月30日号のチョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を扱った「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします)、等と共にどうぞ。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース、最新のジョルダンサンドさんアメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論する」のほか、高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」、それにもう一つの高坂邦彦さんの寄稿、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用してあります。特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、ご参照ください。ポパーを読む方に私自身がお薦めした、アンドリュー・E・バーシェイ 著『近代日本の社会科学』(NTT出版 )。20世紀の日本の社会科学を全体的に鳥瞰し、総括した浩瀚な書です。カリフォルニア大学バークレイ校前日本研究所長バーシュイ教授が、世界の普遍的な社会科学に貢献したと認めた近代日本の2大学問成果とは、宇野弘蔵マルクス主義による独創的な経済学と、丸山真男政治思想史でした。ハーバード大学ゴードン教授の歴史学『日本の200年』(みすず書房)と同じく、グローバル化した知的世界での、日本の学問のあり方について示唆するところ大です。岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」におけるインターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですがご笑覧を。この記事に若干の資料を加えて、渡辺雅男・渡辺治編『「現代」という環境』(旬報社)という本に入り、発売されました。新年にアップした論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。教育センター2007年3月加藤ゼミ卒業学士論文が入りました。

 
国民投票法案成立はどんなメッセージを世界に伝えるか? 

5月は日本国憲法をじっくり読み考える時なのに!

2007.5.15 もうすぐ百万ヒット、というところで、久しぶりで、単行本を出しました。数年に1冊のペースで作ってきた花伝社の論集、6冊目の今回は情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、つまり、本ウェブサイトの実践記録と現代への発言で「情報政治学を初めて提唱」と宣伝されています。活字の世界のシチズンたちに、インターネット・ネチズンになるよう勧める本ですが、本サイト収録論文も大幅に手を入れていますから、ぜひ花伝社サイトからご購入ください。こちらは21世紀の現代情報政治ですが、あわせて20世紀の情報戦を扱う『情報戦の現代史』(仮題)も準備中です。乞うご期待!

 護憲・活憲・知憲・論憲・加憲・創憲・改憲 の憲法問題は、いよいよ正念場。世界も注目しています。アメリカ・ハーバード大学・ライシャワー研究所サイトには、Constitutional Revision Research Project(日本改憲研究プロジェクト)特別ページが立ち上がりました。下に残してありますが、5月3日の憲法記念日に、米国ジョージタウン大学ケビン・ドーク教授サンケイ新聞』5月 25ー27日や『諸君』2006年8月号での首相靖国参拝容認論に対する、アメリカ人の同大学同僚ジョルダンサンドさん反論アメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論するを、「学術論文データベースに入れました。そしたら安倍首相が4月の靖国神社春季例大祭に「真榊(まさかき)」と呼ばれる神事に使うサカキの鉢植え5万円を「内閣総理大臣」名で奉納したというニュース、中曽根元首相が公式参拝して近隣諸国から批判され参拝をやめたさいに奉納したことがあるという、曰く付きの手法です。それでも説明責任はあります。新たに昭和天皇の A級戦犯合祀が御意に召さずも明らかになった折りですから。でも安倍首相は、靖国は「奉納したかどうかは答えない」という態度で「参院選は議論を進めていくうえでよい機会だ。自民党はすでに(新憲法)草案を取りまとめている。これをもとに色々な議論があると思う」と述べ、7月の参院選で改憲を争点とする考えを強調。問題発言大臣を抱え込んだまま、世論調査でも支持率は下げ止まり。この首相、お祖父さんに似て、ナイーブそうに見えて、打たれ強いようです。韓国政府の非難を受け流して、今度は自分の任期中の憲法改正への強い希望を語り、国民投票法案を、必要最低得票率公務員への拘束・メディア規制の問題も曖昧にしたまま、自民・公明の与党のみで成立させました。「国民」とはいったい誰のことでしょうか。憲法という、国民が政府のあり方を立憲的にしばるしくみを改めようというのに、その政府が、手続き段階で横暴を重ねているのですから、その実際に向かう方向は「いつか来た道」と疑われても当然。21世紀の日本の憲法問題の動きは、私たちの20世紀歴史観を、世界に発信する意味を持ちます。

 5月は「日本国憲法をじっくり読み考える時」と前回うちあげましたので、第99条【憲法尊重擁護の義務】[ 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ]はなぜ入っているのかを、考えてみましょう。「公務員の憲法擁護義務」とよばれるものです。本サイトお勧めの原秀成さん『日本国憲法制定の系譜』第3巻によると、高野岩三郎。鈴木安蔵らの憲法研究会憲法草案要綱」は、違憲立法審査権のみならず、議会に「大臣並官吏」に対する公訴権も認めていました。この条項は「尊重」義務ばかりでなく、「擁護」義務を政府に課すものです。水島朝穂さんの解説がわかりやすいので、下にかかげておきます。

 この条文は、第10章「最高法規」に配置されている。それは、立憲主義の本質を顕現する条文といえるだろう。権力担当者に対して憲法尊重擁護義務をことさらに要求することで、憲法の最高法規性を確実なものにしようとしたわけだ。それは、まず、義務を課される相手方がきわめて具体的で、「名指しされている者」と「されていない者」との違いが明確だという点からもいえる。まず、象徴の地位にある天皇がトップにきている。「もしも」の事態を想定して「摂政」にまであらかじめ定めておくという周到さである。そして、国務大臣(内閣総理大臣も当然に含まれる)、国会議員、裁判官ときて、最後に、「その他の公務員」という形で、すべての公務員に高度の憲法的拘束を要求している。もっとシンプルに、「すべての公務員は、憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という定め方をしなかったのはなぜか。思うに、憲法は、あえて天皇(摂政)と三権(立法、司法、行政)の担当者を名指しすることで、「憲法を守らない可能性がある者」(山内氏)を具体的に列挙し、警告を発したのである。……だが、いま、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を高く掲げ、憲法改正を参議院選挙の焦点にしようとしている。しかも、憲法の単なる「改正」ではなく、「新憲法の制定」を首相が主張する。厳密にいえば、99条の憲法尊重擁護義務違反だろう。「戦後レジーム」なる言葉で表現されているものが何を意味するのか。戦後改革の理念とその具体化まで含むのであるならば、そこからの「脱却」とは、日本国憲法制定以前への「回帰」をも含むのか。「占領の屈辱」を晴らそうという「祖父の執念」が見え隠れする。安倍内閣は、日本国憲法のもとで生まれながら、かつ、この体制の「転換」を主張する。「脱却」すべき対象として真に想定されているのは、戦後民主主義、平和主義、立憲主義ないし個人の尊厳、総じて日本国憲法の価値そのものだとすれば、そこでの「レジームチェンジ」は誰のためか。ドイツ人から見れば、「戦後ボン基本法体制からの脱却」といったら、ボン体制が否定したナチズム(国民社会主義)かスターリニズム(国家社会主義)への逆走と理解されるだろう。
 以上が99条で「名指しされている者」たちの問題である。最後に、「名指しされていない者」がいる。それは「国民」である。これをあえて除くことで、99条の立憲主義的な意味は一気に高まったといえよう。だが、99条も安泰ではない。改憲論がターゲットにする条文は9 条2 項ばかりではなく、実は99条も対象になっている。1994年11月に公表された「読売改憲試案」は99条をスパッと削除し、そのかわり、前文に、「この憲法は、日本国の最高法規であり、国民はこれを遵守しなければならない」という一文を新たに挿入した。これでは、権力制限規範から、国民に対する行為規範への「憲法の逆転」を意味しはしないか。私のいう「権力にやさしい憲法」への道だろう。

 東京・永田町の衆議院憲政記念館で、5月20日まで、『日本国憲法施行六十周年記念展示』が開かれています。そこにはマッカーサー草案とその外務省訳、高野岩三郎の「日本共和国憲法私案要綱草稿」などが展示されています。この展示会に、私が発見して『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)で詳しく論じた1942年6月米国「日本計画」も入ってます。マッカーサー草案「16 Constitution of Japan」とならぶ英文展示「15 JAPAN PLAN(複製)1942年6月3日 米国国立公文書館原蔵 一橋大学附属図書館所蔵」です。「まず憲法を読むこと」の次の「知憲」の課題は、「憲法制定過程を知ること」。「おしつけ論」や「賞味期限切れ」論を確かめるために、ウェブ上では、国立国会図書館の日本国憲法の誕生と、松山大学田村譲教授「たむ・たむページ」の「憲法関連のページ」を虚心に学ぶことをお勧めします。

2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、研究も進んでいます。その内容は、ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。その検討結果の一部は、去る3月10日、早稲田大学国際会議場で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。1943−45年のドイツ、スウェーデンと共に、もうひとつの崎村茂樹の大きな謎である1950年毛沢暗殺未遂事件については、日本語情報は2004年7月の共同通信時事通信読売新聞報道が最新で 、かつての中島辰次郎情報にもと づいて黒井文太郎謀略の昭和裏面史』(宝島社文庫)がこの1月に 発売され、7ページほど出ています。しかし中国語では、実行犯として死刑にされた山口隆一や計画立案者とされる日高富明、中島辰次郎らをも扱った新しい書物朱振才建国初期北京反間諜大案紀実』が昨2006年 刊行され膨大なサイトで取り上げられています。山口隆一のスポンサーとして渋沢敬三、逮捕・処刑の糸口を作った日本人として吉澤国雄医師らの名も新たに登場しました。ようやくこの本を入手したところ、なんと1950年夏の北京で、「毛沢東暗殺未遂事件」とは別の「崎村茂樹経済間諜事件」があったことが判明しました。この本は、第5章の「毛沢東暗殺未遂事件」についても詳しいですが、これとは別に、「付録」中に「崎村茂樹経済間諜事件」についての以下の記述があり、両事件は、新中国北京公安局により別個の事件として扱われていることがわかりました(許寿童訳)。

 1950年8月8日に解決した「崎村茂樹」事件は、もっぱら中国経済情報を収集した重大な間諜事件である。日本人の崎村茂樹はアメリカ国務院[国務省]情報部門の間諜だった。1948年2月、彼は駐北京アメリカ領事館の通訳となり、経済情報の研究を行った。北京解放後、彼は相変わらずアメリカの間諜となって、北京の公安機関がスパイ粛清、反革命活動の取り締まり、混乱状態の秩序の建て直しに忙しい隙間を狙って、中国人を装ってもう1人のアメリカ間諜の三沢赳と一緒に毎日東単や王府井の商店に行って市場調査を行い、下着、靴下、歯磨き、コーヒー、牛乳、お茶および闇市の黄金、銀貨、ドルなどの情報を集めて、電報で定期的にアメリカ国務院に送った。1949年4月から5月にかけて、二人は中国では銅線、変圧器、磁石、X線管など電気製品の部品を製造できないという情報をアメリカ国務院に報告したが、これは同年7月アメリカ政府が中国に対して経済封鎖を行う根拠の一つになった

この「三沢赳」がどういう人物か、皆目分かりません。市場の商品の価格は重大な国家機密だったようです。日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。


2007.5.3  憲法記念日特集の臨時更新です。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」最新4月23日号の「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」で、アンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)を、「英文日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に、南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である」と述べたところ、2ちゃんねるの標的になった話を下に書きました。そうしたナショナリスティックな議論の依拠する一つに、昨年『サンケイ新聞』5月 25ー27日や『諸君』2006年8月号で首相の靖国参拝を肯定し、ついには安倍首相の『美しい国へ』でも引用された、米国ジョージタウン大学ケビン・ドーク教授の言説があります。グーグルで「ケビン・ドーク」と検索すると、いっぱい出てきます。もちろん日本のキリスト者からの反論もありますが。この「米国知日派学者」ドーク氏の議論に、同じ大学で日本史を担当するジョルダンサンドさんが、米国の日本研究者の多くはドーク氏の見解を支持するわけではないことを日本のネチズンに知ってほしいと、アメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論するという日本語の論文を、下記のようなメールを添えて、本ネチズンカレッジ「学術論文データベース」に寄せられました。短文ですが学術的ですし、私たちの歴史観に関わるものですので、60年目の憲法記念日を機に公開します。「転載自由・リンク歓迎」ということですので、皆様のウェブサイトやブログでも、大いに議論し活用していただくことを、本ネチズンカレッジからも、お願い申し上げます。

はじめまして。私は米国ジョージタウン大学で日本歴史を教えているジョルダン・サンドというものです。2006年、ジョージタウン大学の同僚であるケビン・ドーク氏が『サンケイ新聞』や『諸君』などの日本のメディアで、首相の靖国参拝を支持する発言をして、安倍晋三首相の『美しい国へ』(文春新書)にも引用され、注目を受けました。それに対する反論を書いてみたものです。ドーク氏の議論は複数のサイトで引用されているので、「ケビン・ドーク」を検索するとすぐ出ます。同じ検索で、私の反論も上がってくるようにできたらよいと思っています。研究論文ではなくて、ただの常識論に過ぎませんが、ドーク氏の議論が多少の話題性を持ったので、反論する意味もそれなりにあると思っています。私として一番望んでいるのは、ドーク氏の議論を読んだ、あるいは間接的に知った人々がこの反論も読んでくれることです。今のところドーク氏は英語では靖国問題について何も発表していませんので、私もとりあえず、日本語のみで反論したいと考えています。加藤さんのサイト「ネチズンカレッジ」に載せていただけらばありがたいですが、学術論文ではありませんので、ふさわしいかどうかわかりません。もちろん転載自由」にして利用できる人がいれば利用してもらいたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 
Jordan Sand
Associate Professor of Japanese History and Culture
Georgetown University

 
図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、2月27日号の鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書)「美しい日本語は「国語」とは違う、『武士道』だって方言で読める」に続いて、4月23日号にアンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)を、「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」と取り上げたところ、本サイトに収録前の雑誌発売中に2ちゃんねるの標的になりました。どうやら「英文日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に、南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である。自分の知性の貧困を証し軽蔑されるだけである。知的遺産の共有こそ対話の出発点である」という私の書評の結論が、「愛国者」の皆さんには、お気に召さなかったようです。そういう人に限って、ゴードンもバーシェイも1頁も読んでいないのがこの世界。日本国憲法を読まずに「改憲」を叫んでいる人々です。そういう人にはぜひ、昨年9月の「きつこのブログ」ですっかり知られるようになった、安倍晋三『美しい国へ』( 文春新書、2006年7月)と、なぜかよく似たタイトルの久保木修己遺稿集『美しい国 日本の使命』(世界日報社、2004年12月)の併読をオススメします。久保木修己って誰か知らない方は、グーグルに入れてみること。もともと立正校正会から出発しましたが、文鮮明に惹かれて統一教会へ、日本統一教会初代会長として数々の悪徳商法に関わり、安倍首相の祖父岸信介とはきわめて緊密な関係。「国際勝共連合」の初代会長でもあり、1998年に亡くなりましたが、『美しい国 日本の使命』は、その7回忌に出版されました。いやタイトルは偶然の一致と思う人は、しっかり中身も比較しましょう。安倍首相の「美しい国」が、意外なルーツを持っていることに気がつくでしょう。ついでに言えば、中国語では日本語の「米国」が「美国」、さて安倍晋三「美国へ」は、アジアの人々にどんなイメージを与えるでしょうか。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、1月30日号のチョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を扱った「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします)、等と共にどうぞ。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース、最新のジョルダンサンドさんアメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論する」のほかに、高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」、それにもう一つの高坂邦彦さんの寄稿、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用してあります。特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、ご参照ください。ポパーを読む方に私自身がお薦めした、アンドリュー・E・バーシェイ 著『近代日本の社会科学』(NTT出版 )。20世紀の日本の社会科学を全体的に鳥瞰し、総括した浩瀚な書です。カリフォルニア大学バークレイ校前日本研究所長バーシュイ教授が、世界の普遍的な社会科学に貢献したと認めた近代日本の2大学問成果とは、宇野弘蔵マルクス主義による独創的な経済学と、丸山真男政治思想史でした。ハーバード大学ゴードン教授の歴史学『日本の200年』(みすず書房)と同じく、グローバル化した知的世界での、日本の学問のあり方について示唆するところ大です。

岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」におけるインターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですがご笑覧を。この記事に若干の資料を加えて、渡辺雅男・渡辺治編『「現代」という環境』(旬報社)という本に入り、発売されました。新年にアップした論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。「健物貞一探索・遺児アラン訪問記」(『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」)と一対の『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)もどうぞ。このほかにも図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言「インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等が入ってます。

新学期の教育センター2007年3月加藤ゼミ卒業学士論文が入りました。


5月は日本国憲法をじっくり読み、考える時、

首相が「申し訳ない」としか言えず「勿体ない」

2007.5.3  憲法記念日特集の臨時更新です。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」最新4月23日号の「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」で、アンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)を、「英文日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に、南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である」と述べたところ、2ちゃんねるの標的になった話を下に書きました。そうしたナショナリスティックな議論の依拠する一つに、昨年『サンケイ新聞』5月 25ー27日や『諸君』2006年8月号で首相の靖国参拝を肯定し、ついには安倍首相の『美しい国へ』でも引用された、米国ジョージタウン大学ケビン・ドーク教授の言説があります。グーグルで「ケビン・ドーク」と検索すると、いっぱい出てきます。もちろん日本のキリスト者からの反論もありますが。この「米国知日派学者」ドーク氏の議論に、同じ大学で日本史を担当するジョルダンサンドさんが、米国の日本研究者の多くはドーク氏の見解を支持するわけではないことを日本のネチズンに知ってほしいと、アメリカよりみた『靖国問題』−ドーク氏に反論するという日本語の論文を、下記のようなメールを添えて、本ネチズンカレッジ「学術論文データベース」に寄せられました。短文ですが学術的ですし、私たちの歴史観に関わるものですので、60年目の憲法記念日を機に公開します。「転載自由・リンク歓迎」ということですので、皆様のウェブサイトやブログでも、大いに議論し活用していただくことを、本ネチズンカレッジからも、お願い申し上げます。

はじめまして。私は米国ジョージタウン大学で日本歴史を教えているジョルダン・サンドというものです。2006年、ジョージタウン大学の同僚であるケビン・ドーク氏が『サンケイ新聞』や『諸君』などの日本のメディアで、首相の靖国参拝を支持する発言をして、安倍晋三首相の『美しい国へ』(文春新書)にも引用され、注目を受けました。それに対する反論を書いてみたものです。ドーク氏の議論は複数のサイトで引用されているので、「ケビン・ドーク」を検索するとすぐ出ます。同じ検索で、私の反論も上がってくるようにできたらよいと思っています。研究論文ではなくて、ただの常識論に過ぎませんが、ドーク氏の議論が多少の話題性を持ったので、反論する意味もそれなりにあると思っています。私として一番望んでいるのは、ドーク氏の議論を読んだ、あるいは間接的に知った人々がこの反論も読んでくれることです。今のところドーク氏は英語では靖国問題について何も発表していませんので、私もとりあえず、日本語のみで反論したいと考えています。加藤さんのサイト「ネチズンカレッジ」に載せていただけらばありがたいですが、学術論文ではありませんので、ふさわしいかどうかわかりません。もちろん転載自由」にして利用できる人がいれば利用してもらいたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 
Jordan Sand
Associate Professor of Japanese History and Culture
Georgetown University


2007.5.1 福島の参院補選では民主党、沖縄では自民党・公明党の与党推薦候補が野党連合候補を破って、新聞は統一地方選結果を「一勝一敗」イーブンと書いています。でも、深部での自民党離れは、とどまるところを知りません。前半の都道府県議選に続いて、後半の 区市町村議選でも、自民党は草の根で敗北し、地方組織の足腰の弱さが弱点だった民主党が躍進しています。7月の参議院選挙の行方は、面白くなってきました。安倍首相はその不安を払拭するかのように、アメリカにでかけて「ジョージ」との信頼関係構築を演出、焦点の従軍慰安婦問題(英語では、かつてのcomfort women ではなく 、BBCやCNNをはじめsex slave=性奴隷という表現が増えてきました)では、「申し訳ない」「 sense of apology」を連発したようです。まだJMMには掲載されていませんが、アメリカ在住の冷泉彰彦さんが、メーリングリストで安倍首相訪米の様子を伝えてきました。この「sense of apology 」という和製英語、海外のメディア不可解な表現と伝えています。慰安婦の強制連行や軍部の関与は、27日の戦時補償裁判の最高裁判決でも確定した歴史的事実最高裁判決の問題点は、個人補償の請求権を斥けたことです。つまり問題は明快なのに、はっきり謝罪するのがいやだから、まわりくどいいい方で責任逃れをしたというのが、ワシントンからの話し。立花隆さんは、『ニューズウィーク』米国版の「日の丸ナショナリスト アベ」報道と、 同誌日本語版の違いをクリアにしています。田中宇さんの解説「意味がなくなる日本の対米従属」もシャープです。一方日本のマスコミは、外務省から与えられた材料で「申し訳ない」と訳しただけの不思議。似たような言葉で「もったいない」という日本語がありました。こちらはWikipediaにも取り上げられた仏教用語。ケニア出身の環境保護活動家であり、2004年に環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが、環境問題を考えるにふさわしい精神として感銘したと世界に広めつつあります。せっかく日本の首相の 歴史認識を世界にはっきりと示せる機会を、「申し訳ない」でお茶に濁して「もったいない」。当事国韓国のマスコミは、一斉に安倍発言批判を始めました。中東諸国への、日本経団連180人の代表団を引き連れた軍事的石油外交にも要注意。

 4月29日の NHK特集「日本国憲法 誕生」は、多くの皆さんがみたことでしょう。東京のGHQばかりでなく、ワシントンの極東委員会の動きに注目し、民間の憲法草案や初めて男女平等普通選挙が認められた国会での修正の動きにも目配りして、日本国憲法条文の確定過程を追いました。東京・永田町の衆議院憲政記念館で、4月26日から5月20日まで、『日本国憲法施行六十周年記念展示』が開かれています。そこにはテレビにも出ていた、マッカーサー草案とその外務省訳、高野岩三郎の「日本共和国憲法私案要綱草稿」などが展示されます。この展示会に、先日、私の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)を使わせてくれと公式依頼がありました。それが、マッカーサー草案「16 Constitution of Japan」とならぶ英文展示「15 JAPAN PLAN(複製)1942年6月3日 米国国立公文書館原蔵 一橋大学附属図書館所蔵」で、私の『象徴天皇制の起源での発見資料「日本計画」の画期性が、公的に認定されたかたちです。もっと詳細に、憲法典の各条項までそのルーツを辿りたければ、原秀成さんの大著『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)をオススメします。全5巻のうち第3巻までしか出ていませんが、人権宣言から各種国際法、植原悦二郎の英文著作まで、日本国憲法に結実した20世紀前半の国内外の知恵を大河小説風に、しかし厳密に描き出しています。やや気になるのは、この原さんの画期的研究に対する、既成アカデミズムの憲法学会や歴史学会の態度。私の米国OSS日本計画」紹介やT・フジタニさん(カリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授)によるライシャワーの「傀儡天皇制」資料発見については、好意的書評や右派ナショナリストからの批判(『正論』昨年9−10月号)が出て、今回憲政記念館の展示までこぎつけたのですが、原さんの研究には本格的な学問的書評が見あたりません。原さんが、この日本国憲法制定史研究の仕事に専念するため、アカデミズムを離れて「民間」にいるため、学会が無視しているわけではないことを願いますが。ちなみに、マッカーサー3原則段階から日本国憲法制定過程でGHQに最も注目されたのが、国体護持の日本政府案でも天皇制打倒の共産党草案でもなく、鈴木安蔵、森戸辰男ら憲法研究会案、つまり民間での研究でした。昭和天皇の靖国神社参拝取りやめの理由は、昨年7月の日経新聞富田朝彦宮内庁長官メモ発掘に続いて、4月26日朝日新聞の卜部亮吾侍従日記の発表によって、「 A級戦犯合祀が御意に召さず」であったことが確定しました。日本国憲法についても、古くなったどころか、いまようやく全面的歴史的検討が可能な史資料的環境が整い、たんなる「占領軍の押しつけ」でなかったことが、明らかになりつつあるのです。むしろ、統一地方選挙中の長崎市長銃撃や富田メモを発表した日経新聞への火焔瓶など、言論と政治活動の自由へのテロが、危惧されます。

 朝日新聞が「護憲か改憲か」の2項対立を突破するためか、「○憲」「○○憲」をクイズ風に問いかけ、4月29日の紙面に掲載しました。陳腐な試みというべきです。本サイトでは護憲・活憲・知憲・論憲・加憲・創憲・改憲を一昨年から置いてますし、巷にも「活憲」や「創憲」の本は溢れています。案の定、「廃憲」「怪憲」とか「尊憲」「診憲」といった思いつきが並んだだけ。憲法論議の活性化にはほど遠い、紙面の埋め草です。原武史さんの「読憲」が「知憲」に近く、現状の本質的問題を衝いています。つまり「論憲」や「談憲」の前に、私が「護憲・論憲・改憲の幅と収縮可能性」(日本民主法律家協会『法と民主主義』2006年1月号)でつとに述べたように、「あなたは、日本国憲法を読んだことがありますか」という質問項目に「よく読んでいる」2.7%、「たまに読んでいる」5.9%、「何度か読んだことがある」19.1%、「一度は読んだことがある」28.7%に対して、実は「読んだことがない」という回答が最も多く42.8%もあった事実こそ、今日の上滑りの憲法状況が示されています。それに比べれば、1946年は、なんと「論憲」「活憲」の雰囲気で溢れていたことか。いまではインターネット上でも簡単に読むことが可能です。本サイトは、「知憲」「読憲」をまずオススメします。そのさい、今日の政治的改憲論議や格差社会論との関わりで、第1条と第9条のほか、第25条と第96条をじっくり読むことを、お願いします。これらを変える必要があるのか、どう変えようという提案があるか、それは何のためにかを、考えて頂きたいと思います。

 図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、2月27日号の鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書)「美しい日本語は「国語」とは違う、『武士道』だって方言で読める」に続いて、4月23日号にアンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書俣)アンドリュー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学  丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版)を、「海外の知的エリートは、日本近代をどう学ぶか」と取り上げたところ、本サイトに収録前の雑誌発売中に2ちゃんねるの標的になりました。どうやら「英文日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に、南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である。自分の知性の貧困を証し軽蔑されるだけである。知的遺産の共有こそ対話の出発点である」という私の書評の結論が、「愛国者」の皆さんには、お気に召さなかったようです。そういう人に限って、ゴードンもバーシェイも1頁も読んでいないのがこの世界。日本国憲法を読まずに「改憲」を叫んでいる人々です。そういう人にはぜひ、昨年9月の「きつこのブログ」ですっかり知られるようになった、安倍晋三『美しい国へ』( 文春新書、2006年7月)と、なぜかよく似たタイトルの久保木修己遺稿集『美しい国 日本の使命』(世界日報社、2004年12月)の併読をオススメします。久保木修己って誰か知らない方は、グーグルに入れてみること。もともと立正校正会から出発しましたが、文鮮明に惹かれて統一教会へ、日本統一教会初代会長として数々の悪徳商法に関わり、安倍首相の祖父岸信介とはきわめて緊密な関係。「国際勝共連合」の初代会長でもあり、1998年に亡くなりましたが、『美しい国 日本の使命』は、その7回忌に出版されました。いやタイトルは偶然の一致と思う人は、しっかり中身も比較しましょう。安倍首相の「美しい国」が、意外なルーツを持っていることに気がつくでしょう。ついでに言えば、中国語では日本語の「米国」が「美国」、さて安倍晋三「美国へ」は、アジアの人々にどんなイメージを与えるでしょうか。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、1月30日号のチョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を扱った「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします)。12月のマルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)、11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)、等と共にどうぞ。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」、それにもう一つの高坂邦彦さんの寄稿、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用しました。特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、ご参照ください。ポパーを読む方に私自身がお薦めした、アンドリュー・E・バーシェイ 著『近代日本の社会科学』(NTT出版 )。20世紀の日本の社会科学を全体的に鳥瞰し、総括した浩瀚な書です。カリフォルニア大学バークレイ校前日本研究所長バーシュイ教授が、世界の普遍的な社会科学に貢献したと認めた近代日本の2大学問成果とは、宇野弘蔵マルクス主義による独創的な経済学と、丸山真男政治思想史でした。ハーバード大学ゴードン教授の歴史学『日本の200年』(みすず書房)と同じく、グローバル化した知的世界での、日本の学問のあり方について示唆するところ大です。

岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」におけるインターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですがご笑覧を。この記事に若干の資料を加えて、渡辺雅男・渡辺治編『「現代」という環境』(旬報社)という本に入り、発売されました。新年にアップした論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。「健物貞一探索・遺児アラン訪問記」(『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」)と一対の『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)もどうぞ。このほかにも図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言「インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等が入ってます。

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、研究も進んでいます。その内容は、ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。その検討結果の一部は、去る3月10日、早稲田大学国際会議場で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。1943−45年のドイツ、スウェーデンと共に、もうひとつの崎村茂樹の大きな謎である1950年毛沢暗殺未遂事件については、日本語情報は2004年7月の共同通信時事通信読売新聞報道が最新で 、かつての中島辰次郎情報にもと づいて黒井文太郎謀略の昭和裏面史』(宝島社文庫)がこの1月に 発売され、7ページほど出ています。しかし中国語では、実行犯として死刑にされた山口隆一や計画立案者とされる日高富明、中島辰次郎らをも扱った新しい書物朱振才建国初期北京反間諜大案紀実』が昨2006年 刊行され膨大なサイトで取り上げられています。山口隆一のスポンサーとして渋沢敬三、逮捕・処刑の糸口を作った日本人として吉澤国雄医師らの名も新たに登場したようです。ようやくこの本を入手し、なんと1950年夏の北京で、「毛沢東暗殺未遂事件」とは別の「崎村茂樹事件」があったことが判明しました。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。新学期の教育センター2007年夏学期加藤担当講義案内が入りました。


市町村選挙は民意を示すバロメーター、

格差社会のしわよせはどこに集中しているか!

2007.4.15  東京都知事選挙の最中に、新宿にも渋谷にも行きましたが、とうとう候補者カーに遭うことはありませんでした。したがってマニフェストにも、お目にかかることはありませんでした。結果は案の定、石原慎太郎知事の圧勝で3選。選挙中は腰を低くしていたそうですが、当選後の記者会見は、いつもの慎太郎節でした。東京都の人口は 1270万人、日本のGDPの6分の1を占め、圧倒的に第3次産業の比率が高い特異な都市です。韓国やインドのGDPより大きく、唯我独尊の都知事には、一人一人の都民は米粒ほどにも見えていないのでしょう。すでに選挙結果もウィキペディアに出てますが、自民・公明の国政与党の圧勝に見えます。でも統一地方選前半戦全体の結果では、わかりやすい都道府県議選レベルでは、自民党の退潮はとまらず、逆に民主党が議席を延ばしています。後半戦は市町村レベルでの首長と議員の選挙、こちらは身近で、公示前から候補者の顔が駅前で見えてます。争点もオリンピックのような茫漠とした話ではなく、地域のくらしや福祉、学校や議員の活動度など、見分けやすいはずです。民意をより正確に反映できる場ですから、ぜひとも1票を行使しましょう。投票日は22日です。

 野党がそこで争点にしようとしている格差の問題が、単純に階級・階層論で割り切ることが出来ず、都知事選挙でも大きな争点にならなかったのは、税金の無駄遣い、福祉の水準、景気の回復が、大きな地域格差を伴って、深刻度が違うからです。たとえば一人当たり都道府県民所得は、東京がダントツの1位で、2位の愛知県より3割大きく、最下位はいつも沖縄で、東京の半分以下です。おまけに地域ごとの所得格差、ジニ指数を見ると、地域内の所得格差が最も小さいのは長野、山梨、滋賀。所得格差が大きいのは徳島で、沖縄、大阪、熊本がこれに続き、金持ちが多く所得格差も大きいと思われる東京は、統計上の所得格差はそれほど大きいわけではありません。いいかえれば、所得格差も失業率も地域ごとに違い、沖縄のように所得も低く格差も大きい社会もあるのです。その沖縄と福島では、22日の区市町村選挙と一緒に、参議院議員の補選、夏の参院選での帰趨を占うには、こちらの方が本命です。格差は果たして争点に浮上できるでしょうか。

 そんな地方の動きをよそに、永田町では国民投票法案の政府与党による衆院強行突破、危うい局面です。「18歳から投票権」に惑わされてはいけません。「有効投票総数の過半数の賛成で憲法改正案は成立」がポイントです。投票率が50%台なら、全有権者の30%の賛成でも憲法改正につながります。「美しい国」の本性が、こんなかたちで現れると、石原都知事の3選とあわせて、国際社会に対しては要注意の黄信号点滅。安倍首相の初渡米を前に、国際社会では日本の従軍慰安婦=性奴隷問題がホットな話題ですが、国内的には朝日新聞が、4月1日に、従軍慰安婦をめぐる本社の報道について」という社告を出し、15年前の報道の事実誤認を認めて、執筆した記者を諭旨解雇、社長が辞任するというニュースが流れました。ただしこれ、インターネット世界では著名な池田信夫さんが仕掛けたエープリルフール。ウェブ情報戦の劇場性と危うさを証明したかたちです。こちらは本物の、東京新聞・中日新聞4月12日記事。田中宇さん国際ニュース解説「日米同盟を揺るがす慰安婦問題」、林博史さん「日本の現代史と戦争責任についてのホームページ」と共に、必読です。

軍指示で慰安所開設 「靖国合祀」の経営者、占領下インドネシアで  2007年4月12日 朝刊

 【ベルリン=三浦耕喜】日本占領下のインドネシアで民間の慰安所を経営していた日本人男性に靖国神社への合祀(ごうし)が認められていた問題で、同慰安所の開設が軍の指示によるものだったとオランダ軍による戦犯裁判の判決文に記されていることが十一日、明らかになった。憲兵によって逮捕、監禁された女性の証言も記載されており軍が関与した「強制性」を示す資料ともなっている。判決文はベルリン在住のフリージャーナリスト梶村太一郎氏(60)がオランダの資料館から入手、近く週刊誌上で発表する。

 同戦犯裁判は、インドネシア・バタビア(現ジャカルタ)で民間の慰安所「櫻(さくら)クラブ」を経営していた男性が「婦女子強制売淫」の罪に問われたもの。男性は一九四六年十月に禁固十年の有罪判決を受けた後、服役中に死亡した。

 判決文では、慰安所を開設した経緯について「被告は一九四三年六月二日、軍政監部(原文でもGunseikanbu)から売春宿を開設するよう指示を受けた」と記載。「被告は異議を申し立てたものの、二度目の指示で従った」と、軍の強い意向があったことを指摘している。

 慰安所は憲兵の監視下に置かれ、オランダ人抑留所などから集めた欧州系の女性二十人ほどを雇用。判決に記された証言によると、慰安所には売春部門と食堂部門があり、どちらで働くかは当初は自由意思だったが、次第に食堂部門の未成年の少女にも売春を強要。拒むと「憲兵を呼ぶ」と脅され、逃亡して実際に憲兵に逮捕、監禁された女性もいた。これらを根拠に、判決文では「多くが自らの意思に反して売春を強制されたことは確実」と認定している。

 男性に対しては、厚生省(当時)と靖国神社が一九六七年に合祀を決めていたことが、先月二十八日に国会図書館が公表した資料の中で明らかにされている。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」、それにもう一つの高坂邦彦さんの寄稿、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用しました。特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、ご参照ください。ポパーを読む方に私自身がお薦めした、アンドリュー・E・バーシェイ 著『近代日本の社会科学』(NTT出版 )。20世紀の日本の社会科学を全体的に鳥瞰し、総括した浩瀚な書です。カリフォルニア大学バークレイ校前日本研究所長バーシュイ教授が、世界の普遍的な社会科学に貢献したと認めた近代日本の2大学問成果とは、宇野弘蔵マルクス主義による独創的な経済学と、丸山真男政治思想史でした。ハーバード大学ゴードン教授の歴史学『日本の200年』(みすず書房)と同じく、グローバル化した知的世界での、日本の学問のあり方について示唆するところ大です。

岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。新年にアップした論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」には、2月27日号の、鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだったに続いて、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書)「美しい日本語は「国語」とは違う、『武士道』だって方言で読める」としてアップ。1月30日号のチョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を扱った「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします)。12月のマルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)、11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)、等と共にどうぞ。「健物貞一探索・遺児アラン訪問記」(『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」)と一対の『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)もどうぞ。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」におけるインターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版で、まもなく本になりますが、ご笑覧を。 このほかにも図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言「インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等が入ってます。

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、研究も進んでいます。その内容は、ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。その検討結果の一部は、去る3月10日、早稲田大学国際会議場で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。1943−45年のドイツ、スウェーデンと共に、もうひとつの崎村茂樹の大きな謎である1950年毛沢暗殺未遂事件については、日本語情報は2004年7月の共同通信時事通信読売新聞報道が最新で 、かつての中島辰次郎情報にもと づいて黒井文太郎謀略の昭和裏面史』(宝島社文庫)がこの1月に 発売され、7ページほど出ています。しかし中国語では、実行犯として死刑にされた山口隆一や計画立案者とされる日高富明、中島辰次郎らをも扱った新しい書物朱振才建国初期北京反間諜大案紀』が昨2006年 刊行されたらしく、膨大なサイトで取り上げられています。山口隆一のスポンサーとして渋沢敬三、逮捕・処刑の糸口を作った日本人として吉澤国雄医師らの名も新たに登場したようです。ようやくこの本を入手しましたが、解読はこれからです。私の探求する崎村茂樹自身は登場しないようですが、英語イタリア語朝鮮語でも事件は取り上げられており、なぜこれまで日本で本格的に研究されていないのかが不思議です。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。新学期の教育センター2007年夏学期加藤担当講義案内が入りました。


「従軍慰安婦」を否定する偏狭なナショナリズムは、

グローバル情報社会で日本を孤立させるだけ!

2007.4.1   どうやら東京のサクラは、満開なようです。ようやく日本の新聞も報じはじめた、アメリカカナダの議会における戦時日本の「従軍慰安婦」での非難決議問題。安倍首相初訪米を前に、駐日大使シーファ氏知日派のマイケル・グリーン氏さえ、日本政府の反応を危惧しています。「産む機械」の厚生労働大臣、「人権メタボリック症候群」の文部科学大臣、「水道水を飲む人はほとんどいない」という農林通産大臣に続いて、今度は下村官房副長官の「旧日本軍の強制はなかった」発言です。日本大使館のワシントン・ポスト紙への抗議も不可解です。「内政干渉」などという反発も出ていますが、根本は、安倍首相の外交姿勢に、米国のみならず世界から疑問が出ているからです。靖国神社A級戦犯合祀での厚生省の関与や、新年度教科書検定での沖縄戦集団自決への日本軍の関与問題と相俟って、21世紀日本がどれだけ20世紀前半の歴史に謙虚であるかが問われているのです。インターネット上には、こんなカナダ経由米国からの公開質問状も出ています。

 2007年3月7日   国際女性の日の晩  安倍晋三内閣総理大臣への招待
安倍首相殿、
私達はまだ面識がありませんが、安倍首相にリラ・フィリピナの女性達に会っていただきたくご招待申し上げます。2007年3月2日首相は、「強制だったことを証明する証拠はない。第二次世界大戦下での軍による性奴隷が強制だったことを裏付けるものは何もない」とおっしゃられました。私は1998年から現在に至まで生存中のフィリピンの従軍慰安婦から情報を集めています。どうか、マニラのクエゾン市にある小さなコテージ、ロラス・ハウスにお越し下さい。そこには、元慰安婦達が集まり、首相が強制だったことを証明するのに必要な証拠があります。
もし、そこに81歳のピラー・フリアスがいたら、1942年に彼女が拉致される前に日本人の兵士達と2つの乱闘があったことを語るでしょう。最初の乱闘では、兵士達が彼女を取り囲んで日本語で叫びました。混乱したピラーは反応しませんでした。いらついた兵士が吸いかけのタバコをこの女性の顔に押し付けて、肌に火傷の痕を残しました。彼女が泣き叫ぶと、その兵士は怒って今度は彼女の鼻をナイフで切りつけました。彼女の顔から血が飛び散って彼女が泣くと彼女の髪の毛を鷲掴みにして、バケツの水の中に彼女の頭を深く突っ込みました。その水は真っ赤に染まりました。兵隊達は彼女の家族の 牛やにわとりや豚などの家畜を盗んだ上に、お米や乾燥食品も奪っていきました。2度目の乱闘では、彼女は違う兵士達に5度もレイプされました。17歳で流血している彼女の腰をロープで縛って他の3人の女性達と共にフィリピンのゲリラ部隊を射撃する時に同行させられました。頑丈な麻のロープで一緒にしばられて、4人の少女達は毎晩レイプされました。毎回違う兵士達に一晩に5回レイプされました。……1993年からリラ・フィリピーナの女性達は彼女の家族をろうばいさせてきました。通りを行進して彼女達の身体と心と残された人生に刻まれた犯罪を認知した人の署名集めをしているからです。彼女らは日本まで行って性的虐待の個人的ないきさつを伝えるために日本の裁判所に出廷しました。これは簡単なことではありません。このような経験から来る恥の文化を理解していれば、又、クエゾン市のこの家の存在やマニラの日本大使館の正門や日本の裁判所が十分な証拠だということがわかるでしょう。
 彼女らは80代で死が近づいています。もし彼女らが死に絶えてしまえば、戦争犯罪は決して起こらなかったふりをするのは、もっと簡単になるでしょう。でも、ピラー・フリアスのように女性達には多くの友や支援者がいます。みんな過去に彼女らに何が起こったか知っています。みんな彼女らの傷跡に触れ、彼女らの生活に及ぼした旧日本軍の影響を確認しました。
知っている人はたくさんいます。彼女らの経験を記録している人々や彼女ら自身はこのような暴行が再びどこかの娘さんや従姉妹や子供に起こるのを防止するために闘っています。
 この夏、私が始めた仕事を片付けるためにリラのロラスを訪問する予定です。安倍首相、そこで私に会って下さい。私たちと一緒に座って下さい。私たちの話を聞いて、それでも、慰安婦達の人生は何の価値もなかった。身体にきざまれた、心に深く傷を残した傷痕が彼女らの人生に影響を与えたことはあなたにとって何の価値もないと判断されるでしょうか。もし、そう判断されたなら、そのときは、強制の証拠がなかったと主張して下さい。     敬具
マイアミ大学英語学部助教授   M. エヴリナ ギャラン

 情報戦の時代に、事態の背後に「アメリカ民主党の反日勢力」「ホンダ議員の背景に韓国系住民が多い選挙区事情」「アメリカは果たして同盟国か」、はては「極東軍事裁判の茶番劇」とかと反発するサイトもあります。「日本の主張はアメリカには理解できない」などと言う人は、例えばアンドルー・ゴードン『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書房)をじっくり読むべきです。この本の原書、Andrew Gordon, A modern History of Japan, Oxford UP 2003 は、ハーバード大学現歴史学部長で私の友人でもあるゴードン教授の執筆した、日本近現代史の優れた教科書です。かつてのエドウィン・ライシャワー『ザ・ジャパニーズ』のように、アメリカばかりでなく、世界の大学で日本に関心を持った学生が最初に読む必読書です。対日外交を担当する外交官や日本企業と交渉するビジネスマンも座右においています。そこには徳川時代から今日にいたる日本の歴史が、政治経済ばかりでなく、庶民の日常生活や大衆文化にいたるまで、さまざまな事例を挙げて書かれています。日本の高校日本史教科書より、はるかに詳細で具体的です。もちろん南京大虐殺も従軍慰安婦も、原爆も東京裁判も日本のベトナム反戦運動入っています。アメリカの日系人強制収容は率直に誤りとされ、GHQによる占領下での言論弾圧・検閲も書き込まれています。グローバルな情報社会で、今日日本に関心を持っている世界の人々は、日本の「戦争を知らないこどもたち」よりもはるかに系統的に、日本の20世紀を学んでいます。いたずらな反発よりも、自国の歴史をしっかり学び、なぜ今「従軍慰安婦」や「靖国神社」が世界中から問題にされるのかを考える時です。安倍首相のいう「戦後レジームからの脱却」の仕方が問われているのですから。歴史認識の問題は、東京都知事選で誰が当選するか、与党公明党や最大野党民主党が憲法改正にどのような態度をとるかという、より「大きな政治」にも、リンクしているのです。最新の田中宇さん国際ニュース解説「日米同盟を揺るがす慰安婦問題」が、米国国内事情を含め、詳しい背景を論じています。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース、前回更新で高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」を収録しましたが、もう一つの高坂邦彦さんの寄稿、ポパー哲学入門 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 」もリンクのかたちで採用しました。 『歴史主義の貧困――社会科学の方法と実践』(中央公論社, 1961年)や『開かれた社会とその敵』(未来社, 1980年)で知られるカール・ポパーは、科学研究における「反証可能性」の問題を提起しマルクス主義に対抗した科学哲学者ですが、「ポパー哲学入門」は、その論理をわかりやすく説明しています。私自身の方法とは異なりますが、「学術論文データベース」の趣旨には合致しますので、周初「台湾における市民社会の形成と民主化」(日本語版監修・淵邊朋広)と私の解説論文「日本における『市民社会』概念の受容と展開」、社会人の宮内広利さんの寄稿が長大論文シリーズで入っており、宮内広利「マルクス<学>の解体」宮内広利「アジアから吹く風とレーニン」宮内広利「革命の遊牧民 トロツキー」に、宮内広利「地上の天国に一番近づいたとき――パリ・コミューン考」、宮内広利「世界史としてのフランス革命」、「記憶の社会史〜全共闘運動とは何だったのか」に続いて、収録いたします。特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、ご参照ください。ポパーを読む方に私自身がお薦めしたいのは、つい最近山田鋭夫さんの邦訳の出た、アンドリュー・E・バーシェイ 著『近代日本の社会科学』(NTT出版 )。20世紀の日本の社会科学を全体的に鳥瞰し総括した浩瀚な書で、カリフォルニア大学バークレイ校前日本研究所長バーシュイ教授が、世界の普遍的な社会科学に貢献したと認めた近代日本の2大学問成果とは、宇野弘蔵マルクス主義による独創的な経済学と、丸山真男政治思想史でした。ハーバード大学ゴードン教授の歴史学と同じく、グローバル化した知的世界での、日本の学問のあり方について示唆するところ大です。

岩波書店から3月に刊行された、昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録、松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていることで、私は「<天皇制民主主義>論」を報告し、鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。新年にアップした論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」には、2月27日号の、鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」に続いて、3月27日号で安田敏朗『「国語」の近代史 帝国日本と国語学者たち』(中公新書)太田愛人『「武士道」を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』(平凡社新書)を取り上げていますが、次回アップ。1月30日号のチョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を扱った「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします)。12月のマルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)、11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)青沼陽一郎『帰還せずーー残留日本兵 60年目の証言』(新潮社)ジェームズ・R・リリー『チャイナハンズ 元駐中米国大使の回想 1916−1991』(草思社)金ギョンイル『李載裕(イ・ジェユ)とその時代  1930年代ソウル革命的労働運動』、「健物貞一探索・遺児アラン訪問記」(『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」)と一対の『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)と一緒にどうぞ。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」におけるインターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですが、ご笑覧を。 このほかにも図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言「インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等が入ってます。

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届き、研究も進んでいます。その内容は、ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。その検討結果の一部は、去る3月10日、早稲田大学国際会議場で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。1943−45年のドイツ、スウェーデンと共に、もうひとつの崎村茂樹の大きな謎である1950年毛沢暗殺未遂事件については、日本語情報は2004年7月の共同通信時事通信読売新聞報道が最新で 、かつての中島辰次郎情報にもと づいて黒井文太郎謀略の昭和裏面史』(宝島社文庫)がこの1月に 発売され、7ページほど出ています。しかし中国語では、実行犯として死刑にされた山口隆一や計画立案者とされる日高富明、中島辰次郎らをも扱った新しい書物朱振才建国初期北京反間諜大案紀』が昨2006年 刊行されたらしく、膨大なサイトで取り上げられています。山口隆一のスポンサーとして渋沢敬三、逮捕・処刑の糸口を作った日本人として吉澤国雄医師らの名も新たに登場したようです。私の探求する崎村茂樹自身は登場しませんが、英語イタリア語朝鮮語でも事件は取り上げられており、なぜ日本で本格的に研究されていないのかが不思議です。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文 Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。新学期の教育センターは、2007一橋大学加藤ゼミナール案内ほか2007年夏学期加藤担当講義案内が入りました。


「プラハの春」のサクラは満開まで20年、

いま言論を武器に発言し抵抗することが、次世代の平和につながる!

 2007.3.15  もうしばらくすると、日本列島の各地で、サクラが咲いて、散っていくでしょう。気象庁の計算ミスで遅れても、確実にやってくるでしょう。春です。私にとっての春とは、1968年の「プラハの春」。学生時代のことです。先日、早稲田大学での20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、まだ外務省に籍のある佐藤優さんとご一緒しました。すぐれたインテリ・アナリストです。『獄中記』(岩波書店)を読めばわかるように、神学を学んだ勉強家で、骨太の思想家です。「グローバリゼーションと国民国家」で取り上げた萱野稔人『国家とはなにか』(以文社)と共に、21世紀初頭の新しい国家論者でもあります。社会主義・共産主義の歴史知識や日本資本主義論争への関心にも感心。とはいっても佐藤さんは、外務省では、出世コースのキャリア組ではありませんでした。現地情報を集め分析し本省に送る実務担当者でした。そんな人々の中にこそ、すぐれた人々がいるのを、私は中央アジアの旅と、春江一也『プラハの春』(集英社文庫)で知りました。20世紀の歴史を記録する、こんな方法もあるのだと。それは、もちろん小説でした。著者春江一也さん自らの在プラハ日本大使館での68年体験をもとにした、外務省書記官を主人公にした恋愛小説です。でもそこで背景となる「人間の顔をした社会主義」を求め、ソ連軍の軍事介入で挫折した1968年「プラハの春」の史実は、月日単位で正確です。「二千語宣言」やドプチェク、スボボダ、オタ・シクらの当時の見解も、うまくまとめられています。『戦車と自由』(みすず書房)のような資料集もしっかり参照されていますから、春江さんの続編『ベルリンの秋』『ウィーンの冬』につながる、ある種の大河小説です。「プラハの春」は、軍事占領に対するチェコスロヴァキア民衆の抵抗が、情報戦だったことを教えてくれます。詩や文学や風刺画や音楽が、いかに民衆の非暴力抵抗の強力な武器であったかを、描いています。たとえ最終的勝利は、それから20年後であったにしても春江一也さん公式HPでは、「モルダウ」を聞けます。

 「プラハの春」のような情報戦の政治的効果は、「小泉劇場」ほどには直接的ではありません。言論の自由に依拠した非暴力抵抗は、戦車や銃剣に対して、無力なように見えます。実際、情報戦では、外国の軍隊や独裁者によって沈黙が強いられ、ジャーナリストや文化人が犠牲になることも少なくありません。「国境なきジャーナリスト」の調べでは、2006年中に81人のジャーナリスト、32人のメディア関係者が、戦争、麻薬、汚職、選挙など政治がらみ報道ゆえの犠牲になったといいます。イラクやメキシコでは、今日でも、ジャーナリストであることは、生命を賭して真実を報道することです。そんなジャーナリズムの緊張感が感じられないのが、日本のマスコミ。「産む機械」の厚生労働大臣、「人権メタボリック症候群」の文部科学大臣に続いて、永田町のマスコミ関係者なら昔からいろいろネタを持っているはずの「政治とカネ」の本命、松岡農林水産大臣が水光熱費疑惑で「水道水を飲む人はほとんどいない」なんてひどい弁明しても、ただその「適切」発言を報道するだけ。どうして緻密な取材をもとにもっと突っ込めないんでしょう。そのうえ、アメリカのジャーナリストたち大きく報じている戦時日本の従軍慰安婦問題については、なぜか割とおとなしい扱い。東京都知事選でも、国民投票法案の問題でも、深みのある解説記事が見られません。インターネット上のメーリングリストでまわってきた、朝日新聞世論調査への批判。大マスコミには、ネチズンの苛立ちが届いているでしょうか。あと10年、2020年頃の、次世代の日本の言論状況はどうなっているでしょうか

朝日新聞は国民投票法案に関する世論調査結果を発表しました。結果は、 国民投票法案が必要と思う   68%、 必要でない   19%  だったそうです。
 一方私たちが2月24日〜3月10日にわたって全国36箇所で行った街頭シール投票では、国民投票法案に賛成 758(13%)  反対 3977(69%)  わからない 997(17%)、投票総数  5732  でした。
 賛否が完全に逆転しています。なぜこんな差がでたのか。それは質問の仕方の違いのためです。朝日は電話で「国民投票の手続きを作ることは必要だと思いますか」と聞いています。私たちは、いま国会に出されている手続き法案の内容を示して、その賛否を問いました。それだけで、これだけの違いが出るのです。

情報戦とは、こういう土俵の上で展開されるものです。だからこそ、戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にして起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」のです(丸山真男)。

 図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベース、久々の力作をご寄稿いただきました。リンクのかたちですが、高坂邦彦さん「筐底拾遺」中の戦前日本の外交評論と憲法解釈 ―清澤洌と植原悦二郎―評伝・植原悦二郎 」及び姉妹編評伝・清澤洌」を収録させていただきます。 特にリベラリスト植原悦二郎は、原秀成さんの大作『日本国憲法制定の系譜』(日本評論社)全5巻でも改めてスポットがあてられているのに、清澤洌ほどには知られてこなかった人物ですから、高坂さんの講演記録「政治学者・憲法学者としての植原悦二郎の業績 ―明治憲法のイギリス・モデル解釈―」と共に、貴重な学術的成果です。昨年開始した学術論文データベースには、周初「台湾における市民社会の形成と民主化」(日本語版監修・淵邊朋広)と私の解説論文「日本における『市民社会』概念の受容と展開」の後、社会人の宮内広利さんの寄稿が長大論文シリーズで入っており、宮内広利「マルクス<学>の解体」宮内広利「アジアから吹く風とレーニン」宮内広利「革命の遊牧民 トロツキー」に、宮内広利「地上の天国に一番近づいたとき――パリ・コミューン考」、宮内広利「世界史としてのフランス革命」、「記憶の社会史〜全共闘運動とは何だったのか」を収録してきました。実はこの間、他に3人ほどの方からご投稿があったのですが、それぞれ審査のうえ、お断りしました。そして今回、高坂邦彦さんの作品を、採用・収録させていただきました。皆様もご寄稿ありましたら、katote@ff.iij4u.or.jp 宛てWord Fileかpdfファイルでお送り下さい。高坂邦彦さんのような、リンクでのご寄稿も歓迎します。図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、2月27日号の、鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」を追加アップして、マイナーチェンジに留めます。岩波書店から昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録が出ました。松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていること』で、私は鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届きました。その内容は、前回ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、同時に日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から、崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。これから本格的解読に入りますが、その検討結果の一部は、来る3月10日(土)1ー5時、早稲田大学国際会議場・第一会議室で開かれた20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告しました。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」における「インターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですが、ご笑覧を。  

 私自身が新年にアップした新しい論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」新年1月30日号は、チョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を、「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」としてアップ。チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします。12月には、ナチス・ドイツにもあった欧州貴族社会と日本的世間と題して、マルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)をとりあげました。11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)青沼陽一郎『帰還せずーー残留日本兵 60年目の証言』(新潮社)ジェームズ・R・リリー『チャイナハンズ 元駐中米国大使の回想 1916−1991』(草思社)金ギョンイル『李載裕(イ・ジェユ)とその時代  1930年代ソウル革命的労働運動』大門正克編著『昭和史論争を問う 歴史を叙述することの可能性』(日本経済評論社)、三島憲一『現代ドイツ――統一後の知的軌跡』(岩波新書)、等とあわせてどうぞ。図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等も入ってます。『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)は8月の健物貞一探索・遺児アラン訪問記」と一対です。『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」と一緒にどうぞ。教育センターには、2007一橋大学加藤ゼミナール案内が入りました。


「中国の24番目の省」でも「アメリカの 51番目の州」でもない道を、

まずは4月の地方自治政府の選択で!

2007.3.1   伊吹文部大臣の2月25日「教育再生の現状と展望」と題した講演での発言「毎日バターばかり食べていれば、皆さんはメタボリック症候群(内臓脂肪症候群)になる。人権だけを食べ過ぎれば、日本社会は人権メタボリック症候群になるんですね」 。翌26日自民党中川政調会長の講演での発言「一衣帯水の目の前の巨大な国家(中国)が年率10%で(経済)成長し、軍事費が年15%、18%で成長している。あと15年で台湾がおかしくなったら、ここ(日本)は中国の何番目かの省になるかもしれない」ーー「産む機械」発言の柳沢厚生労働大臣ばかりでなく、安倍首相のまわりには、政治家の命である言葉を大切にしない、放言癖の政治屋がそろっているようです。「美しい国へ」という厚化粧の裏が、次々と透けてきます。しかし、こうした政治屋の発言を嘆き、首相よりもマスコミ露出度の高い宮崎県知事の劇場政治を眺めている間にも、世界は大きく動いています。アメリカもイギリスもフランスも、新しい政治の方向に動きはじめています。

 そんな中で注目すべきは、リチャード・アーミテージ米国元国務副長官が、2月16日に発表した「アーミテージ・リポート2」。タイトルは「米日同盟――2020年までアジアをいかにして正しい方向に導くか」で、焦点は中国。中国が「政治的な自由を拡大した責任あるステークホルダー(利益共有者)になる可能性がある」とする一方、「自由に欠ける政治体制のままで重商主義に走り、周辺国に脅威を与えることも考えられる」と見通したうえで、取り組むべき世界規模の課題として、(1)テロ(2)大量破壊兵器の拡散(3)エネルギー需要の拡大と環境保護の3点、アジア特有の問題として、(1)中印の台頭(2)(役割拡大に動き出した)日本の覚醒(かくせい)(3)台湾、朝鮮半島といった「伝統的問題」(4)ナショナリズムの競合の4点をあげます。 こうした課題に対応するための望ましい地域の枠組みとして、米国は日本との緊密な同盟関係を基礎とする一方で、「日米中3カ国の関係向上」も必要だとしている。 ここから、日米関係については、経済では米国との包括的な自由貿易協定(FTA)の交渉開始。安全保障では、(1)効果的な決定が下せるような政府組織の強化(2)同盟関係の抑制要因を論議する憲法改正論議の促進(3)自衛隊の海外展開を規定する恒久法の制定(4)防衛予算の増額(5)国連安保理常任理事国入り、の各点を挙げているそうです。安倍首相が、珍しくリーダーシップを発揮した最新の決定は、日本版NSC=国家安全保障会議の設立策。「内閣情報分析官」の設置、新たな国家機密保持法の制定とセットで何やらきな臭く、「中国の24番目の省」どころか「アメリカの51番目の州」の方向へ、まっしぐらのようです。

 ですが、実際に「アーミテージ・リポート2」や安倍首相の思惑通りに向かうかどうかを決めるのは、日本国民自身です。4月の統一地方選挙と7月の参院選と、二つの大きな政治イベントが控えています。東京都知事選挙も、浅野史郎前宮城県知事の出馬の方向が出てきて、石原知事3選とは別の可能性も見えてきました。先日の宮崎県知事選や、「産む機械」発言直後の愛知県知事選や世論調査の内閣支持率の動きを見ると、投票率と無党派層の動向次第では、政治的地殻変動が、ありえないわけではありません。もっと足元の、市町村首長・議会選挙で、新しい風が吹くかどうかも重要です。市町村だって、現行日本国憲法第8章の英文を直訳すれば、立派なlocal self-government=「地方自治政府」です。「格差社会」の問題には、身近な生活実感からの投票が、敏感に反応します。安倍首相が「裸の王様」に終わるかどうかは、この半年の政治の動きで決まります。明日も大学院入試で、全面展開はできません。図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」に、2月27日号の、鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社)『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常 夫訳、日本評論社)を取り上げた「『敵性人』の体験こそが知の巨人のルーツだった」を追加アップして、マイナーチェンジに留めます。岩波書店から昨年夏の慶應大学経済学部の公開講座の記録が出ました。松村高夫・高草木光一編『連続講義 東アジア 日本が問われていること』で、私は鈴木邦男さんと「天皇制と民主主義」を対論しています。ぜひご笑覧を。

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ドイツから待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届きました。その内容は、前回ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、同時に日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から、崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。これから本格的解読に入りますが、その検討結果の一部は、来る3月10日(土)1ー5時、早稲田大学国際会議場第一会議室で開かれる、20世紀メディア研究所主催特別研究会日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、「情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告します。この日は、かの「外務省のラスプーチン」佐藤優さんとご一緒で、佐藤優さんの報告「近年の在外公館の対ロ・インテリジェンス活動」の後、私と佐藤さんとの対論形式で山本武利早稲田大学教授が司会するシンポジウムも予定されています。無料ですので、関心のある方はどうぞ。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。 


役者の下手な「安倍劇場」は、「小泉劇場」のロングランを受け継げず、

「森劇場」の道を辿るのか?

2007.2.15  膨大な試験答案、学士論文、修士論文、博士論文を読まなければならない超繁忙期で、今回はマイナーチェンジに留め、前回更新を残します。1月末のブッシュ一般教書演説世界経済フォーラム(WEFダボス会議)、世界社会フォーラムWSF)を受けての世界の動きを、日本のマスコミは、北朝鮮の核と拉致、6者協議に焦点を当てていますが、その北朝鮮の強気アメリカの譲歩を理解する鍵は、イラクの泥沼化イランです。例えばCNNの「米統合参謀本部議長、イラン政府のイラク介入説を疑問視」が、なぜ外電トップになるかを考える時です。田中宇さんが「イラク開戦前と似た感じ」で詳しく論じていますが、ブッシュ政権のターゲットはイランで、戦争も辞さない緊迫。なんとかイランをイラクの「黒幕」に仕立てる口実を探して、例の幻だったイラクの「大量破壊兵器」の代わりに、「爆弾密輸の「証拠」公表  イラン公認と米当局者」などと情報操作 をしています。 田中宇さん曰く、

世の中には「アメリカは昔から、でっち上げの理由を使って戦争してきた。イラク侵攻とイラン侵攻の理由の作り方が似ていても、別に驚くことはない。きみはアメリカを知らないね」と、したり顔で言う専門家もいるが、私が気にしているのはその点ではない。アメリカが毎回、でっち上げの理由で戦争をやっても、その理由がうまく人々に信用されて「アメリカは常に正義で、常に勝つ」という神話が世界的に信じられている間は、アメリカの世界支配はうまく機能する。
 しかし、ここ数年間のように、開戦の理由がでっち上げだとばれてしまうのと並行して、戦争も失敗して泥沼に陥り、アメリカの軍事力が浪費される事態が、イラクの次にイランでも繰り返されるのだとしたら、世界支配力(覇権)の裏づけとなっている「軍事力」と「信頼性」が失われ、アメリカは世界を支配できなくなる。アメリカの信頼性は、ドルの強さと表裏一体なので、今の状況が続くと、いずれどこかの時点でドルも大幅下落する。
 ブッシュ政権の危険さは、ウソをついていることではない。ばれるようなウソをつき、ばれたのにまだ同じウソを繰り返して、アメリカの信頼性を急速に浪費しているところにある。米国民は、ブッシュ政権の危険さに早く気づき、弾劾などでブッシュとチェイニーを早く失脚させないと、アメリカを壊され、アメリカ中心の世界体制や日米同盟も崩壊する(今から弾劾しても、たぶんもう遅すぎるだろうが)。
 親米の人ほど、ブッシュを危険視すべきなのに、実際には逆に、親米を看板にしている人ほど、ブッシュは危険だと指摘する人を「反米論者」「左翼」として攻撃する。間抜けである。

同感です。アラブ世界が求めるのは「アメリカ抜きの中東」、その跳ねっ返りが、アジアではさしあたりおとなしくしてくれという北朝鮮6者協議の合意に。中国の外交手腕を、国際社会に印象づけました。ブッシュに頼り切った日本外交の右往左往は、イラク開戦時のブッシュ=小泉盟約を問い直さない限り、続きます。そんな状況下で、久間初代防衛大臣の「イラク戦争は間違っていた発言」に注目。「閣内不一致」で責めて、あの柳沢発言と一緒にするのはかわいそう。野党は、国会で大いに久間防衛大臣を挑発・激励し、いいたいことを言わせて「ほめ殺し」してみては。

 それにしても、愛知知事選の自公辛勝で皮一枚つながったままの柳沢伯夫大臣、労働と厚生という「格差社会」で一番ホットなイシューを担当していながら、問題の所在をほとんどわかっていないようです。語録には、「女性は子供を産む機械」の後も、「子供を二人以上持つことは『健全』」が加わり、これから少子化対策でも労働基準法改正でも、話せば話すほどボロが出てくるでしょう。世論調査での安倍内閣の支持率は、前回予想通りの動き。爆弾柳沢厚生労働大臣を抱えたまま、フジテレビ=サンケイ新聞の2月11日発表は、支持率36%に激減、不支持率52%と過半数、更には民主党支持率が自民党を上回るという強烈なものでした。これから続々出てくるでしょうが、特に20−30代の若い無党派層の「安倍離れ」に注目です。おまけにネット上では、そうしたマスコミの世論調査そのものも信頼できるかという声も。4月の統一地方選・参院補選、7月参院選まで、どこで下げ止まるでしょうか。これこそ「小泉劇場」とは一味違った「安倍劇場」で、昔の「森劇場」をご存じの方は、想い出してみましょう。

  幸いウィキペディアには、20世紀日本の最期を飾った「森語録」の数々が保存されています。現代政局の黒幕・キングメーカー(のつもり)の森喜朗氏、2000年5月15日の「神の国」発言ばかりでなく、「無党派層は寝ていてくれればいい」とか、「拉致された日本人を行方不明者として第三国で発見するという解決策を北朝鮮との協議で提案」とか、「IT革命(アイティーかくめい)のことをイット革命」とか、イマドキの閣僚から出てもおかしくない失言を繰り返し、火消し役の官房長官を嘆かせました。いうまでもなく、時の官房長官とは、当初は現自民党幹事長中川秀直氏、その後のオトボケさばきが、昨年安倍首相の総裁選でのライバルになりかけた福田康夫氏でした。「安倍劇場」の場合は、首相自身の「美しい国」風ワンフレーズの減価によってよりも、まわりに頻出する黒い金と柳沢大臣風閣僚発言の集団演技で、あまり見せ場のないまま、じり貧型終幕に向かう可能性があります。もっともこんなシナリオは、情報戦の相手があってこそ。教育基本法改正も防衛庁の省昇格も、あっという間に決まってしまいました。野党の裏番組「小沢劇場」の出来次第では、低空飛行が長く続く可能性も、内閣改造や外交演技による一発逆転も、ないわけではありません。そのさいには、5月3日までと政治日程化した国民投票法案」が焦点になります。「劇場政治」を動かすのは、世論であり、視聴者です。たとえばそのネタは、柳沢厚労相久間防相松岡農水相伊吹文相らのほか、先日のダボス会議では、甘利経産相が新たなミソをつけてきました。安倍首相自身の安晋会からも、新たなアパホテル問題が明るみに出ました。ただし、情報戦の視聴率競争に圧倒的影響力を持つのは、今日の日本では、テレビ・新聞のマスコミで、インターネットではありません。インターネットの可能性は、もう一つ先にあります。有権者が「劇場」の観客・視聴者から離れ、自ら政治の主役=市民になるとき。そんな可能性を述べた、1月27日の一橋大学社会学部・読売新聞立川支局共催公開市民講座「現代という環境」における「インターネットーー情報という疑似環境」と題する講演、2月2日付け読売新聞多摩版に、全頁を使っての講義録でました。読みにくいスキャナー版ですが、ご笑覧を。 


不二家とよく似た「老舗」自民党には、女性を"birth-giving machines" とよぶ大臣がいる、

だから"Karoshi"は「切腹」文化から説明される 

2007.2.1   毎年1月末に、その年の行方を占う3つの世界的イベントがあります。第1は、アメリカ合衆国大統領の年頭一般教書演説(State of the Union Address)。テレビでも新聞でも大きくとりあげられ、世界の動きに巨大な影響力を持ちます。今年は、中間選挙で与党共和党の敗北した後の年頭教書です。イラク撤兵の条件をつくるための2万人の米兵増派案は、絶対多数の民主党からばかりか、足元の共和党議員からも批判を受け、ブッシュ政権のレームダック状態を露わにしました。支持率20%台まで落ちこんだ、こんなブッシュ政権に、運命共同体的に従う忠犬日本外交は、世界の笑いものになりかねません。第2は、寒いスイス・アルプスの山奥ダボスの快適なホテルで、毎年2000人の多国籍企業経営者、銀行家、政治家、エコノミストが集い、世界経済運営の意見調整をする「世界経済フォーラム(WEF)」、通称ダボス会議です。1990年代には、新自由主義市場体制の世界化を提唱し、グローバリゼーションの推進力になりました。今年は、日本から3人の大臣が出席したようですが、テレビではとりあげられず、新聞でも経済欄の地味な扱いです。世界経済の中での中国と印度への期待の高まり、それに伴う日本の存在感の衰退を如実に示しています。世界経済全体は、ブリックスBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)が引っ張って、新たな高度成長期、今年の世界経済フォーラムでは、WTOの多角的貿易交渉を再開し、BRICsを組み込んだグローバル世界市場構築が目指されました。 第3は、世界社会フォーラムWSF)、2001年からダボス会議に対抗して始まった「もう一つの世界は可能だ」の地球市民連帯の祭典です。今年はアフリカのケニアで開催されたので、フォーラム発祥の地ブラジル等中南米からの参加者が減って全体も動員力低下、参加費の高さや商業主義 が問題になり、それでも地球的格差社会に反対する6万5000人が参加したと、テレビにも新聞にも出ませんが、インターネット上では報道されています。いや失礼、レイバーネットATTACブログばかりでなく、国政では蚊帳の外の共産党『赤旗』も特派員を派遣したようです。

 テレビや新聞が報じたように、ブッシュ大統領の一般教書演説に、米国史上初めての女性下院議長ナンシー・ペロシも、民主党次期大統領候補最有力の上院女性議員ヒラリー・クリントンも、恒例に反して拍手をしませんでした。ドイツに続いて、今年はフランスでもトップは女性になる可能性があります。世界のグローバリゼーションを主導する今年のダボス会議で、新聞が報じた面白い場面がありました。世界一の大富豪兼アフリカ飢饉支援や人権擁護の大篤志家でもある、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は、サウジアラビアについてのビジネスセミナーで「女性の権利抑制がサウジアラビアの経済成長を妨げている」と批判しました。「もしサウジアラビアが同国の半分の国民の才能を有効に発揮させることができないなら、経済大国とはなり得ないだろう」と。やはりダボスに来ていたサウジアラビアのファイサル王女は、「女性にも運転免許を与えたい」と答えたそうです。こんな状況下で世界に流れた日本からのビッグ・ニュースは、Windows Vistaで買い換え需要の「夢よもう一度」を狙うビル・ゲーツも、男性のみの運転免許資格制限を憂い女性の社会進出を肯定したファイサル王女もびっくりの柳沢伯夫厚生労働大臣の仰天発言「女性は産む機械でした。

 柳沢伯夫厚生労働相(71)は27日、松江市で開かれた自民県議の決起集会で、少子化問題について「産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と説明した。女性を機械に例える異例の発言に、女性識者らから「反感を感じる」などと批判が続出。夏の参院選に向け、野党側からも“集中攻撃”を浴びるのは確実だ。

 郵政造反議員の復党問題や事務所経費問題などで支持率低下にあえぐ安倍内閣から、今度は世の女性らを敵に回す“爆弾発言”が飛び出した。

 柳沢厚労相による問題の講演は、松江市で開かれた自民党県議の決起集会での「これからの年金・福祉・医療の展望について」。約30分間の講演で出生率の低下に言及し「機械って言っちゃ申し訳ないけど」、「機械って言ってごめんなさいね」などと、やんわりとした言葉を挟みながら「15〜50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と述べたのだ。

 産む機械」なんて日本語に、外国語でも定訳があるわけがありません。インターネットのグーグルで調べると、その深刻な世界的反響がわかります。米国ワシントン・ポストやフォックスニュース、英国BBCロイター電、ガーディアン紙は、日本の共同通信Japan Timesにならって、「産む機械」"birth-giving machines"と訳しました。ただしAFP通信からは、"child-bearing machines" と報じられて、英国タイムズ紙など世界中に配信されました。朝日新聞asahi.comが見出しに使った"baby mashines""baby-making machines" はあまり流布せず、ニューヨークタイムズは、"baby-making divices"と訳しました。フランス語では"machines a faire des enfants"、ドイツ語では"Gebaermaschinen"、 スペイン語では "Macchine perfarfiglie"、ポルトガル語で"maquinas de procrear"のようです。中国語では「婦女是生育机器」、"voortplantingsmachines"とあるのはベルギー語、"broedmachines"はオランダ語でしょうか。記事中で sushi 、geishaという言葉が出てきたり、関係ない日本女性の写真やヌードを載せているものもあります。ワシントン・ポストの英語で行くと、こうです。

TOKYO -- Japan's health minister described women as "birth-giving machines" in a speech on the falling birthrate, drawing criticism despite an immediate apology."The number of women between the ages of 15 and 50 is fixed. The number of birth-giving machines (and) devices is fixed, so all we can ask is that they do their best per head," Health, Labor and Welfare Minister Hakuo Yanagisawa said in a speech Saturday, the Asahi and Mainichi newspapers reported.

 世界人口では英語人口は9%ですが、インターネット上では35%です。おまけにHakuo Yanagisawa=柳沢伯夫の名 は、日本国内以上に、ダボス会議に出席するような世界のVIPたちには、それなりに知られていました。大蔵官僚出身で、金融再生委員長、金融担当大臣を歴任し、日本の銀行の政府資金投入による再編・再生、外資の日本の金融市場参入に深く関わってきたからです。「女性は産む機械」発言が早速書き加えられたWikipediaには、「『アジア・ウィーク』誌において「アジアのパワフルな政治家」第8位に選ばれ、『ビジネス・ウィーク』誌でも「アジアの星」に選ばれた」国際派とあります。つまり、国際的にはShinzo Abe安倍晋三なみに知られた(知られていない?)日本の政治家の、人類の半分を侮辱し敵にまわした公式発言として、ウェブ上の歴史に記録が残るのです。

 この金融権化のような政治家を、自民党総裁選時の選対本部長への論功行賞か、人材不足だったのか、安倍首相が厚生労働大臣に任命したのが、問題の発端です。柳沢大臣は、当然やめるべきです。やめざるをえなくなるでしょうが、このさい参議院選挙まで居座ってもらうのも、一案かもしれません。というのは、この人、厚生労働大臣ですから、先日まで今国会の焦点になるはずだった労働時間規制撤廃=過労死倍増のホワイトカラー・エグゼンプションの主務大臣でもあり、安倍内閣は、あまりの世論の反発にあって、今国会上程を見送ったばかりでした。世論調査70%台で発足した安倍内閣が、毎月10%近く支持率を下げ、50%台から40%台へと下落するのに「貢献」したのが、安倍首相の無為無策と共に、柳原大臣の労働政策の「功績」でした。ここで疫病神を辞めさせずにもうひとふんばりすれば、安倍内閣支持率は、2月中にまちがいなく40%台から30%台へと突入し、小泉内閣前の森喜朗内閣の水準に戻ります。安倍内閣の辛うじての40%も、女性の支持に支えられていましたから、「産む機械」大臣を温存すれば、不支持率が支持率を上回るのは必至です。与党公明党の支持基盤も崩れるでしょう。すでに1月末フジテレビ=サンケイ新聞調査で、その兆候も現れています。内閣調査室はこんな時、こっそり非公開の世論調査をして、仰天しているでしょう。安倍内閣は夏の参院選挙まで持たないという結果がでるはずですから。何かと似てますね。そう、「老舗」のブランドと2世・3世経営にあぐらをかき、食品産業としての最低限のモラルさえ忘れ大腸菌入り菓子を子どもたちに売っていたペコちゃん、ポコちゃんの不二家消費者を甘く見て世論の動きを読めず、隠蔽体質とリーダーシップの欠如がじり貧を招いています。そして、この不二家食品衛生問題の監督官庁の責任者も、ほかならぬ柳沢伯夫厚生労働大臣です。宮崎の「そのまんま現象」は、それに拍車をかけます。無党派・女性の支持は、鳥インフルエンザに素早く対応し、夜中でも現場にかけつける知事の行動力が続く限りで、頼りない「老舗」「旧型自民党」に背を向けるでしょう。4月に統一地方選、7月参院選です。国際派柳沢大臣には、ぜひともそのまま留まって、国内では居づらいでしょうから、ILO(世界労働機構)やWHO(世界保健機構)の国際会議に出て貰い、労働や福祉のグローバル世界で、どれだけ女性たちが活躍しているかを、じっくり体験してもらいましょう。誤解だと一言弁明するたびに、彼のお得意の金融信用市場では、日本国債や円の価値は、確実に下落していくでしょうから。その間に、本間政府税調会長佐田行政改革担当大臣に続く、閣内のスキャンダルが更に出てくるでしょうし、「きっこの日記」を愛読している方なら先刻ご存じのように、京都で耐震構造計算書偽造を摘発されたアパホテル・グループの背後に、安倍首相自身の「安晋会」疑惑が浮上してくるでしょうから。

 「産む機械」発言の罪深さは、「頑張れ」と責任を押しつけられた「15歳から50歳」の女性たちへの侮辱だけではありません。「産まぬ機械」にされた子どものいない女性たち、50歳以上の女性たちにも、「産ませる機械」にされた男性たちにとっても、驚くべき「品格なき」発言です。女性の権利が弱かった韓国でも、一人っ子政策の中国でも、大きく報道されあきれられているのは、当然です。スペイン語の報道などを見ると、ユニークな日本文化でも持ち出さないと理解できない世界の反応がわかります。こんなことが続くから、ホワイトカラー・エグゼンプションがらみでクローズアップされた「過労死」問題が、せっかく"Karoshi" として世界最大の「みんなで作る」百科事典Wikipedia英語版に入ったのに、その説明には「This term has special significance in Japanese culture due to historical traditions of seppuku.」つまり、「日本文化における切腹という歴史的伝統」の産物として「アジア諸国に輸出」されているとステレオタイプによって説明されるのです。いやこのステレオタイプからすれば、男たちを「働く機械」「納税機械」にたとえた方が、Hakuo Yanagisawa=柳沢伯夫の思想は、外国にもわかりやすく伝わったでしょう。こういう日本社会の問題に対する文化論的説明を、米国MITの歴史学者ジョン・ダワーは、「ユニークな中でもユニークな(uniquely unique)」日本観と呼びました。ちょうどいまの「格差社会」「下流社会」にあたる「マル金・マルビ」「ニューリッチ対ニュープア」が話題になったバブル経済の頃、ダワー博士は「外国人が日本人のようになりたいとは思わない」理由を、「日本人の5つの欠如」として挙げました。私の『戦後意識の変貌』という岩波ブックレット(1989年)に入っていますが、第1に「喜びなき富」、第2に「真の自由の欠如した平等」、第3に「創造性の欠如した教育」、第4に「家庭生活の欠如した家族」、第5に「リーダーシップなき経済大国」というものです。「5つの欠如」にまだまだ思い当たる節があり、なるほどと納得されるとすれば、「産む機械」発言や「現代のサムライ=企業戦士の切腹=過労死」を産む土壌は残されており、それが地球社会における日本の今日の困難をもたらしているのです。

 「老舗」自民党の旧体質が、安倍内閣をブッシュ大統領並み支持率、森内閣「神の国」発言時の水準にまで引きづりおろしても、新たな疑問が湧きます。「自民党をぶっつぶす」と絶叫して最後まで高い支持率を保った小泉内閣とは、いったん何だったんだろうと。私は、1月27日に、一橋大学社会学部と読売新聞立川支局共催の公開市民講座「現代という環境」における、「インターネットーー情報という疑似環境」と題する講演で、これを「情報政治、情報戦」という観点から原理的に述べました。まもなく読売新聞多摩版の全頁を使って講義録が出るそうですから、次回更新にでもアップしましょう。3教室700人の聴衆を相手にインターネットと情報とインフォアーツのススメの話をしたのですが、お年寄りの方が多かったせいか、一番受けた(ように見えた)のが、本サイトのIMAGINE DATABASE「戦争の記憶」番外篇「大正生れの歌の紹介でした。講演のパワーポイント原稿を作るために、久しぶりで大正生れの歌ページをチェックしリンクを整理したのですが、嬉しいことに、その「男性編」の歌詞とメロディを掲載し、「女性編」の歌詞を本サイトに教えてくれた「大正っ子のパソコン操作」さんサイトは、もう80歳になったはずなのに、健在でした。そればかりか、最新のITソフトを駆使して、「パソコン小唄」や「甲子園 早稲田実業優勝の瞬間」のページを新たに増設し、私との交信記録も収録して、ますます意気盛んです。「人生は楽し」という92歳の方のブログとリンクして、老人ネットワークも広げていらっしゃいます。ついでに大正生れの歌ページから入れる団塊世代の学園闘争歌「起てうえたる者よの「インターナショナル」のページもチェックしたら、なんと世界各国語版から、日本語でもハードロック風から交響曲風大合唱版まで、いろんなバージョンが増殖していました。「イムジン河」だって、「千の風になって」だって、メロディ付きできけます。政治でいえば、「老人党」や「団塊党」はすでにインターネット上で活発に活動していますから、小泉内閣から安倍内閣になって離れた無党派票が、今年の政治決戦の帰趨を決するでしょう。野党がどれだけ共同し、自民党に代わる政権担当能力を示せるかが、試されます。 

 2007年の尋ね人」として崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」は、ついにドイツから、アマゾンで予約していた待望のカレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2007.1)が届きました。その内容は、前回ベルリン日独センターらの要約として伝えた通りですが、同時に日本側では、戦時米国による日本外交暗号の解読記録「マジック文書」の中から、崎村茂樹についての重要な交信記録をみつけました。これから本格的解読に入りますが、その検討結果の一部は、来る3月10日(土)1ー5時、早稲田大学国際会議場・第一会議室で開かれる、20世紀メディア研究所主催特別研究会「日本の対ソ・対ロのインテリジェンス活動」で、情報戦のスパイとされた在欧・在ソ知識人――国崎定洞から崎村茂樹まで」と題して報告します。この日はかの「外務省のラスプーチン」佐藤優さんとご一緒で、佐藤優さんの報告「近年の在外公館の対ロ・インテリジェンス活動」の後、私と佐藤さんとの対論形式で山本武利早稲田大学教授が司会するシンポジウムも予定されています。来月のことですが、予告しておきます。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索は、私にとっては、英文Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。崎村茂樹の6つの謎についての情報は、どんな周辺的なことでもかまいませんから、 katote@ff.iij4u.or.jpまでお願いします。 

 新年に出たある本に、私は、帯に推薦文を寄せています。それは田中宏和『丸山真男の思想がわかる本』(秀和システム)で、いわゆる学術書ではありません。でも、本サイトのリピーターの方ならご存じでしょう、あのH・田中さん、そう、かの「市民のための丸山真男ホームページ」の主宰者であり、もう10年前になりますが、本ネチズンカレッジと2度の往復書簡で<「市民」と「アカデミズム」と「有機的知識人」><21世紀の有機的知識人について>について論争した、なつかしいメル友です。長く更新のない「市民のための丸山真男ホームページ」に出版社が目をつけ、今は「STOP THE KOIZUMI 世に倦む日々」 という名ブログから発信し続ける著者が、現時点でネット上にあった論文をまとめ直した本です。今回アマゾンで検索して、本名では南方熊楠の本なども書かれてきたことを知りました。「ポケット解説」とあるビギナー向けの本ですが、どうしてどうして思考を刺激し啓発する内容がいっぱい入っていて、読み応えのある好著です。すでに本サイト読者からも複数の問い合わせと感想をいただきましたが、先日丸山真男を学んだ学生たちの会では、パネルディスカッションの討論者への記念品にして好評を得ました。著者から推薦文執筆を指名されたことを、わがサイトとしては光栄とするところです。私自身が新年にアップした新しい論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。

 図書館『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、新年1月30日号に、チョン・ウォルソン(田月仙)『海峡のアリア』(小学館)船橋洋一『ザ・ペニンシュラ・クエスション 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)を、「6者協議で枠づけられた、在日の歌姫の悲願の行方」としてアップ。チョン・ウォルソン(田月仙)さん歌う高麗山河わが愛」や「イムジン河」をバックに読むことをオススメします。12月には、ナチス・ドイツにもあった欧州貴族社会と日本的世間と題して、マルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)をとりあげました。11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)青沼陽一郎『帰還せずーー残留日本兵 60年目の証言』(新潮社)ジェームズ・R・リリー『チャイナハンズ 元駐中米国大使の回想 1916−1991』(草思社)金ギョンイル『李載裕(イ・ジェユ)とその時代  1930年代ソウル革命的労働運動』大門正克編著『昭和史論争を問う 歴史を叙述することの可能性』(日本経済評論社)、三島憲一『現代ドイツ――統一後の知的軌跡』(岩波新書)、等とあわせてどうぞ。図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等も入ってます。『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)は8月の健物貞一探索・遺児アラン訪問記」と一対です。『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」と一緒にどうぞ。昨年開始した図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベースには、周初「台湾における市民社会の形成と民主化」(日本語版監修・淵邊朋広)と私の解説論文「日本における『市民社会』概念の受容と展開」の後、社会人の宮内広利さんの寄稿が長大論文シリーズで入っており、宮内広利「マルクス<学>の解体」宮内広利「アジアから吹く風とレーニン」宮内広利「革命の遊牧民 トロツキー」に、宮内広利「地上の天国に一番近づいたとき――パリ・コミューン考」、宮内広利「世界史としてのフランス革命」、「記憶の社会史〜全共闘運動とは何だったのか」を収録してきました。実は他に3人ほどご投稿があったのですが、それぞれ審査のうえ、お断りしました。宮内さんの論文を、一つの基準としていきたいと思います。皆様もご寄稿ありましたら、katote@ff.iij4u.or.jp 宛てWord Fileかpdfファイルでお送り下さい。教育センターには、2007一橋大学加藤ゼミナール案内が入りました。


今年も1月末、世界社会フォーラムが開かれます!

崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!

2007.1.15  松の内が終わると、私たちの業界は、期末試験、入学試験、大学院修士論文・博士論文審査が重なる、超多忙期に入ります。いわゆる国立大学の法人化で、大学もグローバル・ナショナルな大競争にさらされ、世界大学ランキングのような市場化指標に一喜一憂し、次々と「改革」を迫られ、非学術的仕事が倍加しています。国際社会の中で、日本がアメリカの意向をうかがい、アメリカからの規制緩和の経済的要請に唯々諾々と従う限りで、この格差社会過労死社会への驀進は、とまりそうもありません。労働時間規制撤廃のホワイトカラー・エグゼンプションは、いよいよ正念場です。時を同じくして、前回示唆した松岡農水相ばかりでなく、伊吹文科相からも、衛藤元防衛庁長官からも、辞任した佐田前行革大臣なみの、怪しげな政治資金の動き。メディアというより、ジャーナリズムの役割は重大です。

世界の動きも、アメリカや北朝鮮の方ばかり見ていては、わからなくなります。毎年1月末は、世界の資本家・銀行・政治指導者が、スイスの山奥で今年の行方を占います。いわゆるダボス会議、「世界経済フォーラム(WEF)」です。一昨年、石原慎太郎都知事が、息子に公費出張させて問題になった例の会議で、1月24-28日にダボスで開かれます。それに対抗して、これまでブラジル、インドで会合を重ねてきた、世界市場経済に対する世界市民社会のグローバルなネットワーク、世界社会フォーラムWSF2007)が、今年はアフリカのケニアで、1月20-25日に開かれます。27か国に広がったEUも、台頭著しいBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)も、アメリカ一極主義のヘゲモニーに対する障壁です。でも、ナイロビで、上図の「シャンペングラス」型の地球的格差社会を告発し、「もう一つの世界は可能だ」を構想する世界の民衆こそ、おそらく21世紀の日本の市民社会が、もっとも真剣に手をさしのべ、学ばなければならない相手でしょう。今年も残念ながら出席できませんが、日本からでかける皆さんの活躍を期待します。1月27日午後、本当は、先日亡くなられた私にとっての民主主義理論の師、福田歓一先生の偲ぶ会に行きたかったのですが、勤務先の一橋大学社会学部と読売新聞立川支局共催の公開市民講座「現代という環境」で、「インターネットーー情報という疑似環境」と題する講演を行います。マスコミには無視される世界社会フォーラムや、日本社会の底辺での様々な動きを伝えるインターネットの役割IMAGINE! イマジン100人の地球村など本サイトの経験にも触れる予定です。東京多摩地域にお住まいのネチズンの皆さんは、ぜひどうぞ(午後1時半、一橋大学国立西校舎)。

 新年早々に、「2007年の尋ね人」に指定し、「崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!」とよびかけた「国際歴史探偵」で、大きなニュースが飛び込んで来ました。「6つの謎」の2番目、「謎2 崎村茂樹はなぜスウェーデンに「亡命」したのか?」についての、ドイツからの貴重な情報です。日本ではまだ入手できませんが、ベルリン日独センターが最新刊Karena Niehoffについての伝記を入手し読んでみたところ、「謎2 崎村茂樹はなぜスウェーデンに「亡命」したのか?に直接関わる、崎村茂樹についてのドイツ語第一次資料にもとづく長い記述があるというのです。まだ私は本を読んでいませんので、解析はできていません。とりあえず、ベルリン日独センターの仮訳による新情報の要点のみを、お知らせします。 

●予定より遅れて刊行された『カレーナ・ニーホッフ伝記』 (Karena Niehoff. Feuilletgonistin und Kritikerin. Mit Aufsaetzen und Kritikenm von Karena Niehoff und einem Essay von Joerg Becker. FILM & SCHRIFT, Band 4. Muenchen ,Verlag edition text + kritik, 2006.1)によると、ニーホッフは、ベルリンで1920年12月21日にユダヤ人で俳優兼歌手の母親ローゼ・ブロツィーナーと地学、天文学を学び当時軍役についていたクルト・ニーホッフ博士の子供として誕生。両親は1920年9月23日に結婚し、翌年2月に離婚しており、実際の父親は、妻子有る化学工場主エルンスト・エーリッヒ・クンハイムと言われている。
●1930年から38年までベルリンの女学校に通うが、「半分ユダヤ人」の彼女は、ナチス台頭後に放校処分となり、ナチスから定職を持つようにという圧力がかかって、1940年から41年にかけて、脚本家ルドヴィヒ・メッツガーの助手兼秘書となった。1942年に、彼女はベルリンの反ナチス思想を持つ日本人のグループとコンタクトを持つ様になり、崎村茂樹と知りあい1942年夏以来日本鉄鋼協会のベルリン支部に勤務し、1944年夏まで彼の元で働くようになった。彼女は1943年2月1日にユダヤ人用の食料配給券を偽造使用したとして逮捕され、5日には禁固6ヶ月の判決を受けてベルリン・モアビート刑務所に監禁。そのため崎村茂樹が彼女が如何に日本鉄鋼協会の仕事に重要な役割を果たしているかを説明し、即時釈放してくれる様にと裁判所に陳情、結局彼女は、1943年7月21日に釈放された
ユダヤ系の彼女が日本人の元で働いている事、崎村が彼女を釈放するように動いた事がゲシュタポの疑惑を呼ぶ様になり、彼女は他の仕事に携わる様に奨められたが、ニーホッフは続けて崎村の元で働き、公にはドイツ語を教え、崎村の講演原稿の語学面の校正などを行う仕事をした。非公式には崎村が匿名でドイツ語で出版しようと計画していた、ナチズム前史の批判的調査として、ドイツの戦争責任を問い、ベルリン・東京枢軸を疑問視する本を一緒に編集することが彼女の仕事だった。
1944年初めに崎村は何ものかに告発されてスエーデンに逃れるが、6月に日本大使館から連れ戻される。彼は大逆罪の汚名を着せられたが、その証拠として彼が出版予定していた原稿は発見されなかった。ドイツ政府の要請によって、日本大使大島浩は崎村が日本大使館を去ってはならないと指示した。大島大使は、崎村は政治的尋問と保安警察とによって容赦なく取り扱うべきだとし、1944年6月に大使は崎村の日本送還を考慮した。英国紙「デイリー・メール」に載った「ドイツ経済は破綻するだろう」というステートメント(おそらく『ニューヨーク・タイムズ』1944年5月1日付けの「日本人が大使館から脱走」と同文)も問題にされた。
●しかし、ドイツ語資料に『ナチのビュロクラシーに対して研究者崎村の名誉回復をはかろうとした佐藤という名前の日本側省参事官が、 ニーホッフを釈放する為にも尽力した』と有り、日本大使館・在独日本人内部での崎村への対応も分かれた模様で、結局崎村はベルリン郊外に送られた。ニーホッフは1944年8月18日に釈放された。釈放の際に、ニーホッフは『崎村或いは他の日本人達と新たにコンタクトを取れば、強制収容所(KZ)へ最終的に送られることになると脅かされた』。結局彼女は、ゲシュタポからの8月31日付の新たな召喚を目前にベルリン市内に姿を消し、知人の家数箇所を転々として終戦まで過ごし、戦後、ベルリンでジャーナリストとして活動、演劇・映画関係の文芸欄担当者として活躍し、1972年にはペンクラブ会員に選ばれ、1992年9月30日に死去した。

 もしもこれが本当なら、1944年夏のドイツにおける、日本大使館の大きなスキャンダルです。日独伊枢軸による英米仏ソ中ら連合国への世界戦争は、もともと無謀な戦争でした。日独同盟さえも、最後まで一緒に戦ったわけではなく、両国の思惑はボタンの掛け違いでした。日本の真珠湾攻撃は、独英・独ソ戦争でのドイツの勝利を見越してそれに便乗し、東南アジアで英仏蘭をたたけばアメリカは譲歩してくるだろうという脳天気なものでした。ヒトラーの方は、日本の対ソ参戦によるソ連挟撃が主眼だったのに、日本はソ連に対し中立で臨み、あまつさえ44年頃には独ソ和平の仲介を日本が果たそうとする始末で、頼りにならない東方の同盟者に懐疑的でした。ですから狂信的親ヒトラーの大島駐独大使らを除けば、在独・在欧日本人も、駐独大使館員でさえ独日の敗北が近いことを痛感し、45年にはスウェーデン、スイス、バチカンなどのルートを使った和平工作に踏み出します。しかし44年段階での、しかもユダヤ人問題を介した上記の事件は、これまで全く知られていないことでした。この日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索の歴史的意義は、いっそう大きくなりました。私にとっては、英文Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s ( "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" , edited by Christian W. Spang, & Rolf-Harald Wippich , Routledge, 2005)で論じたワイマール時代からヒトラー権力掌握期の日独関係史研究の延長、一昨年の『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)から「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)と展開してきた、第二次世界大戦期情報戦研究の焦点となります。皆さんからの更なる情報提供を期待しています。

大津出身蟹江元少佐、河西太郎中佐、函館出身木村治三郎をご存じの方は、ご一報下さい!

 新年の更新にあたって、リンク集 政治学が楽しくなるインターネット宇宙の流し方」と非戦平和リンクIMAGINE! イマジン」のリンク切れを整理し更新、本サイトの目玉のひとつ、「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」「在独日本人反帝グループ関係者名簿」をチェックしていたところに、戦前日本の暗号解読を数学史の立場から考察するユニークな数学者木村洋さんからメール。「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」中のカニエ・ハジメ」は、終戦時陸軍第5方面軍特種情報部樺太支部, 蟹江 元少佐, 陸軍士官学校40期ではないか、というもの。その通りでした。ついでに一緒に埋葬された「カサイ・タロ」は、終戦時 関東軍直轄関東軍情報部チャムス支部、河西太郎中佐(陸士39期)と思われます。二人については、1998年6月サハロフ博士記念人権センターのデータベース中に、「カニエ・ハジメ 1908年生まれ、シゴ(日本)県オーツ市出身、軍人家系出身、日本人、非党員、高等教育、サハリン軍事使節団長、陸軍少佐、サハリン島トヨハラ市居住。1945年9月16日逮捕、1947年2月15日、スパイ活動で銃殺宣告、同年3月4日執行。1991年10月18日の法律と、1993年3月11日のロシア検察庁の決定で名誉回復。埋葬地 ドンスコエ墓地、墓第3号」、「カサイ・タロ 1903年生まれ、東京市出身、日本人、中等教育、ツジャムシン(満州)軍事使節団長、陸軍中佐、住所不定。1945年9月4日逮捕。1947年3月5日スパイ活動で銃殺刑宣告、1947年4月9日執行。1990年8月13日の大統領令などで名誉回復。埋葬地 ドンスコエ墓地、墓第3号」とありました。蟹江 元少佐河西太郎中佐のご遺族は、その命日と埋葬地をご存じなのでしょうか。ご親族をご存じの方は、E-mail: katote@ff.iij4u.or.jp にご連絡下さい。

 ついでに他の項目もチェックしたら、かつて麻布に通って格闘した外務省外交史料館資料の大半は、いまや、国立公文書館防衛庁防衛研究所所蔵資料と共に、「アジア歴史資料センター」で簡単に現物をダウンロードできるようになりました。そこで「要視察人関係雑纂/本邦人ノ部 第十一巻」で「健物貞一」関係資料を探索したさい、「2006年の尋ね人」であった「木村治三郎」の個人ファイルがみつかりました。「木村治三郎  特思秘第五五四五号  昭和五年十月一日 北海道庁長官池田秀雄(警察部長) 内務大臣安達謙藏殿  外務大臣幣原喜重郎殿  各庁府県長官殿 朝鮮、台湾、関東庁各警務局長殿 上海、哈府内務事務官殿 旭川憲兵隊長殿 (管下各警察署長殿)  思想要注意人木村治三郎入露ニ関スル件 要旨 客年十月所在不明トナリタル当庁思想要注意人木村治三郎ハ白川四郎ナル容疑邦人ト共ニ入露シ勘察加西海岸国営「アコ」会社漁場ニ滞在シ「イーチンスヤー」地方邦人漁夫ニ対スル宣伝員トシテ活躍中ノ事実判明セリ何時邦人主義者トノ連絡ノ為メ潜入スルヤモ難計ニ付キ各港湾関係(貴庁)及ビ管下各警察署長ニ於テハ厳重警戒相成度 本籍 北海道函館市台場町37、戸主、宗吉、三男 前住所 同市東雲町二百二十五番地」とあります。「白川四郎」は「石川四郎」の誤りでしょう。この資料も、ご遺族はご存じでしょうか。他の記録もあわせて、ご遺族に提供することができます。ご一報ください。

新年にあたってアップした新しい論文はグローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、ナチス・ドイツにもあった欧州貴族社会と日本的世間と題して、マルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)をとりあげました。11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)青沼陽一郎『帰還せずーー残留日本兵 60年目の証言』(新潮社)ジェームズ・R・リリー『チャイナハンズ 元駐中米国大使の回想 1916−1991』(草思社)金ギョンイル『李載裕(イ・ジェユ)とその時代  1930年代ソウル革命的労働運動』大門正克編著『昭和史論争を問う 歴史を叙述することの可能性』(日本経済評論社)、三島憲一『現代ドイツ――統一後の知的軌跡』(岩波新書)小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』(中公新書)大野芳『近衛秀麿 日本のオーケストラをつくった男』(講談社)佐藤優『国家の崩壊』(にんげん出版)長谷川毅『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社)藤井忠俊『黒い霧は晴れたか』(窓社)佐藤一『松本清張の陰謀』(草思社)立花隆『天皇と東大 大日本帝国の生と死』上下(文藝春秋)等とあわせてどうぞ。図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言インフォアーツのススメ」のほか、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)所収論文の要約続編国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等も入ってます。『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)は8月の健物貞一探索・遺児アラン訪問記」と一対です。『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」と一緒にどうぞ。昨年開始した図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベースには、周初「台湾における市民社会の形成と民主化」(日本語版監修・淵邊朋広)と私の解説論文「日本における『市民社会』概念の受容と展開」の後、社会人の宮内広利さんの寄稿が長大論文シリーズで入っており、宮内広利「マルクス<学>の解体」宮内広利「アジアから吹く風とレーニン」宮内広利「革命の遊牧民 トロツキー」に、宮内広利「地上の天国に一番近づいたとき――パリ・コミューン考」、宮内広利「世界史としてのフランス革命」、「記憶の社会史〜全共闘運動とは何だったのか」を収録してきました。実は他に3人ほどご投稿があったのですが、それぞれ審査のうえ、お断りしました。宮内さんの論文を、一つの基準としていきたいと思います。皆様もご寄稿ありましたら、katote@ff.iij4u.or.jp 宛てWord Fileかpdfファイルでお送り下さい。教育センターには、2007一橋大学加藤ゼミナール案内が入りました。


謹賀新年、2007年が自由で希望の見える年になりますように!

崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!

 

2007.1.1   あけましておめでとうございます。2006年は、加藤哲郎・伊藤晃・井上學編著『社会運動の昭和史――語られざる深層』(白順社、2006)を刊行したほか、「戦争と革命---ロシア、中国、ベトナムの革命と日本」(岩波講座 アジア・太平洋戦争』第8巻『20世紀の中のアジア・太平洋戦争』)、「体制変革と情報戦---社会民主党宣言から象徴天皇制まで」((岩波講座『「帝国」日本の学知』第4巻『メディアのなかの「帝国」』岩波書店、2006年)、英文Personal Contacts in German--Japanese Cultural Relations during the 1920s and Early 1930s (Christian W. Spang & Rolf-Harald Wippich eds, "Japanese-German Relations, 1895-1945  War, Diplomacy and Public Opinion" (Edited by: Christian W. Spang, Rolf-Harald Wippich , Routledge)などが活字になりましたが、国立大学法人化に伴う雑事や新たな領域への挑戦が重なり、書き下ろし途上の仕事の完成ができませんでした。新年こそ身辺を整理し「自由な思索の時間」を確保したいと願っています。本年もよろしくお願い申し上げます。

 それにしても、暗い夜明けです。昨年発足した安倍晋三内閣は、初めこそ東アジア外交を修復し小泉内閣を引き継ぐ高支持率だったものの、その後は、毎月10%づつ支持率を下げる旧自民党森喜朗内閣型のパターンで、政府税調会長に続いて、行政改革担当大臣もスキャンダルで辞任、「佐田 Who?」という感じで、総裁選論功恩賞人事のいい加減さを露呈しました。他方で、防衛省への昇格にあわせてイラク特措法は早々と延長を決めたのに、同じ「暫定措置」でもサラリーマンの定率減税はなくなり、庶民増税・企業減税と労働時間規制撤廃のホワイトカラーエグゼンプションの方向は明白、教育基本法改正によりどんな具体策がでるかも不分明ですが、現場の問題をますます深刻にすることだけは確かでしょう。正月休みで、都市圏の皆さんも地方を見る機会があるでしょう。「景気回復」「史上最長の経済成長」とは、いったいどこの国のことなのかを、実感してきてください。銀行や自動車など一部の「優良」企業は「いざなぎ超え」なのでしょうが、地方の、特に中小企業や小売業の実態はどうでしょうか。「格差社会」は、確実に広がっています。「ワーキングプア」は深刻です。「階級社会」や「貧困」という古典的問題設定が、必要になってきました。この国の何かが崩れ、希望が失われています。「国家の品格」とか「美しい国」が読まれるのは、その逆証でしょう。美しい国を逆さに読むと「憎いし苦痛」なんてネタが出回ってますから。安倍首相は「今こそ新憲法」と意気込んでいますが、どうやら農林水産省あたりから、第3弾の爆弾が飛び出しそうです。そして、インターネットや携帯電話で自由のための手段を手にし広げてきたはずなのに、言論の自由閉塞してきているようです。

 「格差社会」は、日本だけの現象ではありません。「100人の地球村」の全体が、グローバリゼーションと新自由主義市場経済の浸透のもとで、グローバル・ガバナンス論のいうレイヤーケーキモデルの方向ではなくて、国連開発計画や反グローバリズムのいう「シャンペングラス・モデル」の方向に階層化されピラミッド化しています。中国やインドはもちろんのこと、20世紀の大国だったアメリカでもロシアでも一部の富裕層の繁栄をよそに、「中間層の崩壊」「大衆的貧困化」が進んでいます。ある程度秩序だっているのは、ルーマニア、ブルガリアが加盟し27か国になったEU(欧州連合)ぐらいでしょうか。そこにもグローバル化の荒波が押し寄せ、競争は激しくなっていますが、北欧のように社会保障とセーフティネットがしっかりしているところがあるだけ、アメリカ大陸やアジアよりもまし、ということでしょう。日本のマスコミは、この1月もダボスの「世界経済フォーラム(WEF)」には注目するでしょうが、アフリカケニアのナイロビで「もう一つの世界は可能だ」の希望を掲げて拓かれる、世界社会フォーラムWSF2007)は、無視するでしょう。オーマイニュースや本サイトのようなネチズン・サイトの存在意義は、こうした世界の動き、周辺の流れにも目配りできる点にあります。

大津出身蟹江元少佐、河西太郎中佐、函館出身木村治三郎をご存じの方は、ご一報下さい!

 新年の更新にあたって、リンク集 政治学が楽しくなるインターネット宇宙の流し方」と非戦平和リンクIMAGINE! イマジン」のリンク切れを整理し更新、本サイトの目玉のひとつ、「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」「在独日本人反帝グループ関係者名簿」をチェックしていたところに、戦前日本の暗号解読を数学史の立場から考察するユニークな数学者木村洋さんからメール。「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」中のカニエ・ハジメ」は、終戦時陸軍第5方面軍特種情報部樺太支部, 蟹江 元少佐, 陸軍士官学校40期ではないか、というもの。その通りでした。ついでに一緒に埋葬された「カサイ・タロ」は、終戦時 関東軍直轄関東軍情報部チャムス支部、河西太郎中佐(陸士39期)と思われます。二人については、1998年6月サハロフ博士記念人権センターのデータベース中に、「カニエ・ハジメ 1908年生まれ、シゴ(日本)県オーツ市出身、軍人家系出身、日本人、非党員、高等教育、サハリン軍事使節団長、陸軍少佐、サハリン島トヨハラ市居住。1945年9月16日逮捕、1947年2月15日、スパイ活動で銃殺宣告、同年3月4日執行。1991年10月18日の法律と、1993年3月11日のロシア検察庁の決定で名誉回復。埋葬地 ドンスコエ墓地、墓第3号」、「カサイ・タロ 1903年生まれ、東京市出身、日本人、中等教育、ツジャムシン(満州)軍事使節団長、陸軍中佐、住所不定。1945年9月4日逮捕。1947年3月5日スパイ活動で銃殺刑宣告、1947年4月9日執行。1990年8月13日の大統領令などで名誉回復。埋葬地 ドンスコエ墓地、墓第3号」とありました。蟹江 元少佐河西太郎中佐のご遺族は、その命日と埋葬地をご存じなのでしょうか。ご親族をご存じの方は、E-mail: katote@ff.iij4u.or.jp にご連絡下さい。

崎村茂樹の6つの謎>について、情報をお寄せ下さい!

 ついでに他の項目もチェックしたら、かつて麻布に通って格闘した外務省外交史料館資料の大半は、いまや、国立公文書館防衛庁防衛研究所所蔵資料と共に、「アジア歴史資料センター」で簡単に現物をダウンロードできるようになりました。そこで「要視察人関係雑纂/本邦人ノ部 第十一巻」で「健物貞一」関係資料を探索したさい、「2006年の尋ね人」であった「木村治三郎」の個人ファイルがみつかりました。「木村治三郎  特思秘第五五四五号  昭和五年十月一日 北海道庁長官池田秀雄(警察部長) 内務大臣安達謙藏殿  外務大臣幣原喜重郎殿  各庁府県長官殿 朝鮮、台湾、関東庁各警務局長殿 上海、哈府内務事務官殿 旭川憲兵隊長殿 (管下各警察署長殿)  思想要注意人木村治三郎入露ニ関スル件 要旨 客年十月所在不明トナリタル当庁思想要注意人木村治三郎ハ白川四郎ナル容疑邦人ト共ニ入露シ勘察加西海岸国営「アコ」会社漁場ニ滞在シ「イーチンスヤー」地方邦人漁夫ニ対スル宣伝員トシテ活躍中ノ事実判明セリ何時邦人主義者トノ連絡ノ為メ潜入スルヤモ難計ニ付キ各港湾関係(貴庁)及ビ管下各警察署長ニ於テハ厳重警戒相成度 本籍 北海道函館市台場町37、戸主、宗吉、三男 前住所 同市東雲町二百二十五番地」とあります。「白川四郎」は「石川四郎」の誤りでしょう。この資料も、ご遺族はご存じでしょうか。他の記録もあわせて、ご遺族に提供することができます。ご一報ください。「2007年の尋ね人」は、90万ヒットで昨夏始めた日独同盟に風穴をあけた日本人<崎村茂樹>探索です。新年にあたってこれまでの史資料を整理し、画像資料を入れて、「6つの謎」にまとめてあります。こちらも、ぜひ情報をお寄せ下さい。

新年にあたって、新しい論文をアップ。グローバリゼーションと国民国家」で、2005年の社会理論学会第13回大会の基調報告、副題が「国家論の側から」となっているのは、売れっ子の経済学者金子勝さん「金融資本のグローバリゼーションと国民国家の変容」とワンセットだったため。両方読みたい方は『社会理論研究』第7号(2006年11月)をどうぞ。『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、ナチス・ドイツにもあった欧州貴族社会と日本的世間と題して、マルタ・シャート『ヒトラーの女スパイ』(菅谷亜紀訳・上田浩二監修、小学館)和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子『言語都市・ベルリン 1861−1945』(藤原書店)をとりあげました。11月までの杉本信行『大地の咆哮 元上海総領事が見た中国』(PHP研究所)有馬哲夫『日本テレビとCIA  発掘された「正力ファイル」』(新潮社)青沼陽一郎『帰還せずーー残留日本兵 60年目の証言』(新潮社)ジェームズ・R・リリー『チャイナハンズ 元駐中米国大使の回想 1916−1991』(草思社)金ギョンイル『李載裕(イ・ジェユ)とその時代  1930年代ソウル革命的労働運動』大門正克編著『昭和史論争を問う 歴史を叙述することの可能性』(日本経済評論社)、三島憲一『現代ドイツ――統一後の知的軌跡』(岩波新書)小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』(中公新書)大野芳『近衛秀麿 日本のオーケストラをつくった男』(講談社)佐藤優『国家の崩壊』(にんげん出版)長谷川毅『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社)藤井忠俊『黒い霧は晴れたか』(窓社)佐藤一『松本清張の陰謀』(草思社)立花隆『天皇と東大 大日本帝国の生と死』上下(文藝春秋)等とあわせてどうぞ。図書館には、『月刊社会教育』第612号(2006年10月)の巻頭言インフォアーツのススメ」のほか、国家権力と情報戦――『党創立記念日』の神話学」(『情況』6月号)、モンゴルでの国際会議「ノモンハン事件ゾルゲ事件」の私の報告「国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀実グループ」(『 労働運動研究』復刊第14号、2006年8月)、紀行文「モンゴルで「小国」の自立の知恵を考える」(『情況』8月号)等も入ってます。『週刊読書人』9月8日号のアン・アプルボーム『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(白水社)は8月の健物貞一探索・遺児アラン訪問記」と一対です。『朝日新聞』報道「歴史の荒波を越え 3指導者の遺児ら対面」と一緒にどうぞ。昨年開始した図書館内「ネチズンカレッジ:学術論文データベースには、周初「台湾における市民社会の形成と民主化」(日本語版監修・淵邊朋広)と私の解説論文「日本における『市民社会』概念の受容と展開」の後、社会人の宮内広利さんの寄稿が長大論文シリーズで入っており、宮内広利「マルクス<学>の解体」宮内広利「アジアから吹く風とレーニン」宮内広利「革命の遊牧民 トロツキー」に、宮内広利「地上の天国に一番近づいたとき――パリ・コミューン考」、宮内広利「世界史としてのフランス革命」、「記憶の社会史〜全共闘運動とは何だったのか」を収録してきました。実は他に3人ほどご投稿があったのですが、それぞれ審査のうえ、お断りしました。宮内さんの論文を、一つの基準としていきたいと思います。皆様もご寄稿ありましたら、katote@ff.iij4u.or.jp 宛てWord Fileかpdfファイルでお送り下さい。  


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