ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2021年1月ー12月)
ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。
- ROOM 1 =1997年8-9月分過去ログ
- Room 2 =1997年10-12月
- Room 3 =1998年1-3月
- Room 4=1998年4-6月
- Room 5=1998年7-9月
- 特別室「ベルリン便り」=98年10-12月、99年8-9月、2000年8月
- Room 6=1999年1-4月
- 特別室「メキシコ便り」=1999年5-7月・2000年5月
- Room 7=1999年10-12月
- Room 8=2000年1−6月
- Room 9=2000年7−12月
- Room 10=2001年1−6月
- Room 11=2001年7−12月
- Room 12=2002年1−6月
- Room 13=2002年7−12月
- Room 14=2003年1−6月
- Room15=2003年7-12月
- Room16=2004年1-6月
- Room17=2004年7-12月
- Room18=2005年1-6月
- Room19=2005年7-12月
- Room20=2006年1-6月
- Room21=2006年7-12月
- Room22=2007年1-6月
- Room23=2007年7-12月
- Room24=2008年1-6月
- Room25=2008年7-12月
- Room26=2009年1-6月
- Room27=2009年7-12月
- Room28=2010年1-6月
- Room29=2010年7-12月
- Room30=2011年1-6月
- Room31=2011年7-12月
- Room32=2012年1-6
- Room33=2012年7-12月
- Room34=2013年1-6月
- Room35=2013年7-12月
- Room36=2014年1-12月
- Room37=2015年1-12月
- Room38=2016年1-12月
- Room39=2017年1-12月
- Room40=2018年1-12月
- Room41=2019年1-12月
- Room42=2020年1−12月
- ●Welcome to KATO Tetsuro's Global Netizen College! English is here
オミクロン株にそなえて、今こそ全国でPCR無償検査体制を!
2021.12.1 前回更新は、総選挙開票直後で、ドイツと対比しながら、「この国では直前の自民党総裁選という擬似政権交代で、安倍・菅政権の基本政策継承ばかりでなく、モリ・カケ・サクラ等数々の権力犯罪の隠蔽と不訴追が決まっており、日本学術会議の会員任命拒否やコロナ対策での科学者の提言無視も、首相の交代でうやむやにされます。……政治を変えることによる格差是正・社会構造変革には踏み出せません。あきらめているようです。個々の政治家の勝敗は別にしても、自民は絶対安定多数議席確保、与党公明党も完勝、立憲民主党と共産党は野党共闘にもかかわらず議席減の敗北・共倒れ、自民党への不満の受皿は、改憲勢力日本維新の4倍化大勝、国民民主党の微増にまわったかたちです」と書きました。それから1か月、10月のメディアは自民党総裁選を首相予備選挙として大々的に報じたのに、総選挙で議席を減らした立憲民主党の代表選は、一向に盛り上がりません。メディアの無視もありますが、4人の候補者で総選挙総括の活発な論戦になるかと期待していたら、来年参院選を控えて共産党との野党共闘・候補者調整の効果を無視できず、かといって労働組合・連合との関係を清算するわけにもいかず、旧枝野執行部との距離の取り方が多少違う程度で、基本路線の抜本的検討には向かいません。案の定、相対的に若いが連合寄り・改憲論議容認の泉健太代表選出で決着。共闘相手の共産党には厳しい結果ですが、日本政治の閉塞構造そのものは、大きく変わりません。執行部への女性登用ばかりでなく、コロナ対策や予算編成で、野党第一党としての意味を持てるでしょうか。お手並み拝見です。
山岡淳一郎『コロナ戦記』(岩波書店)が出ました。改めてこの国の初期のパンデミック対策、ダイヤモンド・プリンセス号対応、永寿総合病院クラスター対応などを振り返ると、東京オリンピックや与党の政治日程に翻弄されてきた、この国のコロナ対応のボタンの掛け違いが悔やまれます。結局オリパラ開催時がピークであったコロナウィルス感染第5波の鎮静化が、総選挙での自民党勝利・岸田内閣成立の追い風になりましたが、感染者減少に浮かれて旅行や忘年会の日程が入ってきた途端に、国際的には新たな変異株オミクロンの急速な拡大です。日本にも入ってきて、年末から年明けと想定されていた冬期のリバウンド、第6波到来のきざしです。ところが政府の備えは、第5波収束の科学的理由さえよくわからないまま、3度目のワクチン接種計画も曖昧で、相変わらずのその場しのぎです。一部アフリカ諸国のみに絞ろうとした外国人の入国制限を全世界に広めたのは、ようやく国際水準でいいことですが、水際対策と言っても、日本人には緩やかです。空港検疫での最初の検査は、いまだにPCR検査ではなく、抗原定量検査です。オミクロン株を見分けるゲノム解析は、相変わらず厚労省管轄の感染症研究所の独占で、文科省管轄の大学や民間の高度な技術・機器・人材は十分に活かされていません。昨年の第一波以来の「日本モデル」の根本的欠陥、感染研・地方衛生研・保健所ルートでの「法定検査」独占、無症状感染を無視したPCR検査の限定とクラスター対策、医療崩壊を招いた感染症軽視と病床確保のゆがみが、基本的に続いています。岸田首相は、安部・菅内閣のコロナ対策との差異化をはかって、無症状・一般人を含む無償PCR検査の拡充を言い出しましたが、各都道府県の必要に応じて、となっています。オミクロン株が出てきた今こそ、昨年から世界中で普通に行われてきた、誰でもいつでもどこでもPCR検査ができる体制を、構築すべきです。ドラッグストアでもドライブスルーでも、拡充すべきです。これまでのワクチン一本足対応を改め、後手後手だった日本の感染対策を、世界標準の徹底した検査体制で補うことが、GoToトラベルやインバウンド観光再興よりも前に、この国のなすべきことです。
日本大学理事長の金権まみれの闇に、ようやく司直のメス。明らかに、半世紀前の日大闘争時の古田重二良会頭問題の再現。田中理事長は、当時は相撲部で学生横綱、大学執行部に反対する学生たちに暴力で襲いかかった体育会系学生の中心だったようです。今回は、コロナ禍でのオンライン授業中で、学費・授業料を私消された学生たちや、かつて古田会頭体制を打倒したOB・OGたちの運動がないことが、寂しい限りです。パンデミック第6波は確実にやってくるでしょうが、「ヒロシマ連続講座」の竹内良男さんと組んだ私の「パンデミックと731部隊」という対面の連続市民講座も、毎回会場を変えて、おそるおそる再開です。9月の第1回「オリンピックに翻弄された日本のパンデミック対策ーー731部隊から感染研・ワクチン村へ」の模様は、you tube で公開されています。10月の第2回「映画『スパイの妻』と731部隊ーー『幻の東京オリンピック』の影で進められた細菌戦と人体実験」も、you tube になりました。第3回11月6日は多磨霊園でのフィールドワーク、第4回12月4日は、医師たちの731部隊と獣医師たちの100部隊についての、獣医学者小河孝さんと組んでの「人獣共通感染症への戦争動員」ジョイント講演ですが、これからの詳細は、主催者の方に問い合わせてください。学術論文データベ ースに、木俣 雅晴さん「オーギュスト・ブランキの革命思想」の投稿があり、審査の上採用し収録しました。私自身の3月NPO法人731資料センター第10回総会記念講演「「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」(NPO法人731資料センター『会報』第37号、2021年10月)が活字になりましたので研究室に、『東京新聞』8月8日号掲載、城山英巳さん『マオとミカドーー日中関係史の中の「天皇」』(白水社)の書評を図書館に、それぞれ収録しておきます。
巣ごもりの中で縮みあがる日本政治の閉塞!
2021.11.1 この更新、総選挙結果を見ながら書き始めたのですが、日本の「失われた四半世紀」を裏付けるような、憂鬱な政治の継続です。投票率は55.9%、直近のドイツ連邦議会選挙は76.6%でしたから、この国の主権者の政治参加の消極性は、相変わらずです。政権交代をもたらしたドイツとは異なり、この国では直前の自民党総裁選という擬似政権交代で、安部・菅政権の基本政策継承ばかりでなく、モリ・カケ・サクラ等数々の権力犯罪の隠蔽と不訴追が決まっており、日本学術会議の会員任命拒否やコロナ対策での科学者の提言無視も、首相の交代でうやむやにされます。官邸の独断で進められた布製「アベノマスク」8200万枚115億円分が配られず倉庫保管料が6億円と会計検査院に指摘されても、東京都のコロナ感染者数が今年4−10月で4512人も過少集計され死者も9人増えていたと今頃発表されても、第5波ピーク時に強行したオリンピック・パラリンピック費用3兆円以上と施設維持費のツケがまわってきても、感染がピークアウトすると、たちまち「みそぎ」の気分です。とっくに日本国籍を離れた米国人科学者のノーベル賞受賞や、米国大リーグでのびのびプレイする日本人の活躍にうっぷんをはらしながら、政治を変えることによる格差是正・社会構造変革には踏み出せません。あきらめているようです。個々の政治家の勝敗は別にしても、自民は絶対安定多数議席確保、与党公明党も完勝、立憲民主党と共産党は野党共闘にもかか
わらず議席減の敗北・共倒れ、自民党への不満の受皿は、改憲勢力日本維新の4倍化大勝、国民民主党の微増にまわったかたちです。党によっては、選挙後の指導責任追及・世代交代が避けられないでしょう。菅内閣が東京オリンピック・パラリンピックを強行開催したとき、日本の新型コロナ感染は第5波でピークでした。それで菅内閣は行き詰まり、9月の自民党総裁選、岸田新内閣の登場で化粧直しをして、公示後2週間での投票日になりました。その間、自民党総裁選がメディアの選挙報道を独占し、首相予備選風雰囲気を作りました。そこから第5波は、理由ははっきりしませんが急激に感染者数を減らし、緊急事態宣言も全面解除です。政府はワクチン接種70%の効果と宣伝します。安倍内閣期の総選挙もそうでしたが、北朝鮮が与党を応援するかのようにミサイルを近海に発射し、尖閣から台湾の中国脅威論が、メディアでは特に現実味を帯びました。それでなくても不安定なアフガニスタン、ミャンマー、スーダン情勢のなかで、「敵基地先制攻撃」から「防衛費GNP2%」にいたる国家安全保障論が、世論の大きな抵抗を受けることなく跋扈しました。全ては自公政権維持への追い風でした。国際的に見れば、9月の国連総会からG20、COP26にいたる気候変動・温暖化に抗する流れ、核軍縮の努力、 台湾問題に限らない米国と中国のヘゲモニー争いとメルケルなきEU、変異株が猛威をふるうイギリス、ロシア、政権危機に近いブラジルなど激動はつづいていますが、GDP3位とはいえ一人あたりでは韓国以下の30位までさがった日本は蚊帳の外、ジェンダー・ギャップ指数は153か国中121位(2019年)の途上国なのに「選択的夫婦別姓」「女性議員比率9.9%、世界166位」すら大きな争点にならない人権発展途上国です。コロナ以前から巣ごもりして、世界地図の上での自分たちの位置も見えずに、近隣国を嫌悪しヘイトしている内に、世界の大きな流れにも乗り遅れ、ミサイルや新型ウィルスの「外敵」に萎縮し縮みあがる、内向きの国になったようです。
第6波は確実にやってくるでしょうが、サイクルの合間で、おそるおそる学習会や市民運動イベントも再開です。私も「ヒロシマ連続講座」の竹内良男さんと組んで、「パンデミックと731部隊」という連続市民講座を対面で開始しました。9月25日から月1回で、来年3月までの予定です。9月の第1回「オリンピックに翻弄された日本のパンデミック対策ーー731部隊から感染研・ワクチン村へ」の模様は、you tube で公開されています。10月の第2回「映画『スパイの妻』と731部隊ーー『幻の東京オリンピック』の影で進められた細菌戦と人体実験」も、you tube になりました。第3回11月6日は多磨霊園でのフィールドワーク、第4回12月4日は、医師たちの731部隊と獣医師たちの100部隊についての、獣医学者小河孝さんと組んでの「人獣共通感染症への戦争動員」ジョイント講演です。学術論文データベ ースに、木俣 雅晴さん「オーギュスト・ブランキの革命思想」の投稿があり、審査の上採用し収録しました。私自身の3月NPO法人731資料センター第10回総会記念講演「「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」(NPO法人731資料センター『会報』第37号、2021年10月)が活字になりましたので研究室に、『東京新聞』8月8日号掲載、城山英巳さん『マオとミカドーー日中関係史の中の「天皇」』(白水社)の書評を図書館に、それぞれ収録しておきます。
「監視資本主義」「デジタル・ファシズム」下でのパンデミック対策と人間の安全保障
2021.10.1 8月のオリンピックとコロナ・デルタ株第5波感染爆発のあとは、自民党総裁選挙という擬似政権交代イベントでした。それも結果は世代交代でも人心一新でもなく、安倍・麻生が背後から支えコントロールする、岸田新総裁の誕生です。「新しい日本型資本主義」なそうですが、金権疑惑の幹事長以下の布陣からして、「新自由主義の見直し」「アベノミクスからの脱却」はなさそうです。アメリカ大統領選予備選やドイツの首相候補選びの予備選に似ていないこともありませんが、日本では野党党首がまともな選挙なしで選ばれたり、その党首たちが詰めた政策協議なしで野合したりで、選挙制度と政治的意味が違います。現首相がコロナ対策で失敗した辞意表明ですから、これまでの感染対策の問題点析出と対抗策が争点になるかと思えば、すべてはワクチンと新薬開発頼みで、オリンピック・パラリンピック強行と感染爆発の併行は、問題にもなりませんでした。13万食の弁当廃棄や3兆円ともいわれる費用の赤字補填も、まるでなかったかの如くです。そして原発再稼働に反対したり、モリ・カケ・桜問題を追及しようとすると、すぐにつぶされます。この9月の自民党内権力闘争に、日本の大手メディアは、コロナ感染の治療なき自宅死や、アフガン、ミャンマーも、ドイツ総選挙も米仏対立も、核廃絶・気候変動を含む国連総会政治などすべてがかすんでしまうような大報道、総選挙日程は目前ですから、広告費無しで膨大な政府与党の「やってる感」宣伝、コマーシャルができた計算です。新政権にはご祝儀相場の支持率高騰がこの国のならいです。第5波の鎮静化と全国の緊急事態宣言解除、飲食店・旅行再開と相まって、野党には厳しい世論の反転があるでしょう。
とはいえ、第6波は冬を迎える季節に、確実にやってきます。世界は20世紀の「スペイン風邪」と似た、パンデミック3年目に入ります。先進国にはワクチンが相当ゆきわたったのに、感染者2億2千万人、死者500万人と、勢いは衰えていません。感染源をめぐる米中情報戦も、巨大製薬資本のワクチン・新薬開発競争も、それらに関連する科学技術や文化宗教をも利用した「大国の援助」覇権合戦も、21世紀の今後の有り様を大きく変えようとしています。日本も「大国」ではないか、と思う人は、例えば隣国韓国と比べてみましょう。一人当たりGDPでも、労働生産性でも、労働者の平均賃金でも、外国人への開放度でも、いまや日本は韓国以下です。外国人労働者や難民を制限し、コロナで観光客も激減したもとで、アジアや中南米の出稼ぎ労働者にとっては、魅力のない閉鎖的ナショナリズムの国になりつつあります。自民党の中核に、日本会議やネトウヨに支えられた、安倍晋三・麻生太郎・高市早苗ら靖国参拝、嫌中・嫌韓、「大東亜戦争」もナチスさえも容認しかねない強固な反共国家主義者が3分の1はいることが明らかになったのは、自民党総裁選劇の副産物でした。菅義偉首相は、後手後手の感染対策が国民に理解されず、感染拡大を招いて退陣せざるをえませんでした。記者会見にいつも同席していた「専門家」尾身茂会長はどう責任をとるのでしょうか。自身が理事長の独立行政法人・地域医療機能推進機構(JCHO)が、コロナ対策などで給付された300億円以上の補助金を受け取りながら、コロナの重症患者を率先して受け入れることなく、専用病棟設営を長くネグレクトしてきたことが、第5波の医療崩壊を経て、ようやく問題にされています。
この間、上昌広さんの「世界は『医療』、だが日本は『防疫』」(サンデー毎日2021年9月5日)という、日本の感染症対策における「明治以来の旧内務省・衛生警察の基本思想」について考えてきました。上医師の発言は、厚労省医系技官・感染症研究所ー地方衛生研究所ー保健所によるPCR「法定検査」独占・データ独占体制、政府の専門家委員会・分科会への一部感染症「専門家」動員・研究費内輪配分について、戦前731部隊=関東軍防疫給水部からの歴史的影を見出したもので、私も本サイトや『パンデミックの政治学』(花伝社)等で主張してきたものです。上さんの「衛生警察」をヒントにこれを追及していくと、日本陸軍と内務省の創成にかかわった山縣有朋の「社会破壊主義論」に行き着きました。1910年、大逆事件に際しての明治天皇への建白書で、「社会主義は〈天賦神聖ノ国体〉と〈民族道徳ノ根本〉に〈爆弾〉を投げつけるものだから〈全力ヲ尽クシテ其ノ根絶〉を計らなければならない。そのためには〈言論学問ノ自由〉を犠牲にしても〈集会結社演説著作〉を取り締まるべきである」「不穏な思想は〈萌芽ノ間ニ摘去〉しなければ、国家の大患となる恐れがある」、要するに、「天皇絶対の国家主義思想に反するものはすべて排除し、改悛の見込みのない者は殺してしまえ」という、社会主義など急進主義思想を「伝染病」にたとえ、伝染病罹患者を調査・摘発・隔離して言論思想を取り締まる、という考え方です。端的には、戦前内務省の「防疫」のための感染症対策としての「検疫」と、外来思想流入による天皇制国家主義の揺らぎにたいする「検閲」が、同一の発想にもとづくものではないかという、日本の感染症対策と治安維持政策の類似性・相同性の問題です。
この延長上で、治安維持法下での「転向」や「思想更生」を含む戦時国防保安法・軍機保護法体制と、徴兵検査・伝染病予防法から1940年国民優生法・国民体力法、内務省から厚生省を分離し結核やハンセン氏病、精神病患者を隔離した「民族衛生」運動と1942年国民医療法=「医療新体制」を比較し、経済学の「1940年体制論」とはやや異なる意味で、「1940年防疫・治安維持体制論」を戦前・戦時・戦後への断絶・継続の問題として、考えてみたいと思います。ポイントは、戦前日本の中核官庁であった内務省の敗戦による解体、すでに1938年に分離されていた厚生省の戦後への継承、旧内務省の柱であった警察組織の再編と1980年代中曽根首相・後藤田官房長官時代以降の「新・内務官僚の復活」、安倍内閣の下での「国家安全保障会議(日本版NSC)」発足と警察官僚の官邸への浸透、そこに2020年パンデミックの到来で、国家安全保障を優先し人権・生存権保障をないがしろにした感染症対策と、コロナ禍に便乗した日本学術会議会員任命拒否やデジタル庁設置の動き、等々の歴史を総ざらいしてみたい誘惑にかられます。もちろん、現在の動きは、「1940年体制」の単純な復活ではありえません。国家主義・ナショナリズムといっても、戦後は日米安保体制に組み込まれた歴史修正主義です。むしろ、中曽根内閣以降明確になった新自由主義とグローバリズム、冷戦崩壊と軌を一にしたIT革命とインターネット普及といった世界史的環境変化が重要です。気候変動は目に見える災害・生態系変化をもたらし、戦争のかたちさえ、宇宙戦争・サイバー戦争から無人機・ドローン爆撃・AIロボット兵士が生まれています。日本のパンデミック下の感染症対策と情報統制・メディア操作・国家安全保障体制の一体化は、世界史的な「監視資本主義」(ショシャナ・ズボフ)、「デジタル・ファシズム」(堤未果)の一環ではないのか? 総選挙は11月になりそうです。私たちの「個人情報保全」が基本的人権の一部になり、「人間の安全保障」からの感染症対策が争点になるような国政選挙を期待します。
東京も緊急事態宣言が解除されて、徐々にですが、政治活動や文化活動の制限が弱まってきます。大学の新学期のオンライン講義はまだ圧倒的なようですが、自治体の公共図書館利用や、公共施設での市民活動、研究会、講演会などが可能になってきました。私も「ヒロシマ連続講座」の竹内良男さんと組んで、「パンデミックと731部隊」という連続市民講座を対面で開始しました。9月25日から月1回で、来年3月までの予定です。会場定員を30人にしぼった第1回「オリンピックに翻弄された日本のパンデミック対策ーー731部隊から感染研・ワクチン村へ」の模様は、すでにyou tube で公開されています。第2回「映画『スパイの妻』と731部隊ーー『幻の東京オリンピック』の影で進められた細菌戦と人体実験」も、you tube になりました。こちらは徐々に定員が増えるかたちでかまわないのですが、直近の総選挙における選挙運動と政治活動は、SNSばかりでなく、国会前や街頭でも自由に展開されてほしいものです。
デルタ株で感染爆発・医療崩壊したこの国の行方は?
2021.9.1 予想通りとはいえ、あまりにも残酷です。一方でオリンピック・パラリンピックを「祝祭」として強行しながら、緊急事態宣言の発動と連日2万人を越えるコロナウィルスの新規感染爆発。「オリパラ関連」感染者数は、453人プラス257人プラス現在進行形で、なぜかいまだに国内感染とは別枠とされる「ダイヤモンド・プリンセス号」感染712人と比肩しうる水準です。東京・大阪などは医療崩壊で、いのちの選別が進みます。「自宅療養」という名の医療から見捨てられた感染者が10万人以上、自宅死亡者は1−6月で全国84人、第五波では8月の首都圏だけで30人以上です。コロナの「重症者」とは、東京都と厚労省で定義が違いますが、いずれにしろ一般疾病でいう「重篤」「危篤」と同じなそうです。その数が日々増大し、酸素ステーションとか「野戦病院」とか、海外では昨年春の第一波から当たり前で、日本でも準備すべきといわれてきた切迫した危機が、ようやく叫ばれています。感染症に対する日本の危機管理の失敗の証しです。今頃になって、無症状感染者把捉のためのPCR検査の一部拡大をいいだす御用学者「専門家」の反省なき悲鳴も。
世界の感染者数は、8月4日に2億人をこえ、変異株が増えて、越年する勢いです。3年間で5億人感染・5000万人死亡とされる20世紀「スペイン風邪」パンデミックの規模に、近づいています。人類史的な疫病被害です。2億人を越えた8月の人口百万人あたり感染者数では、イスラエル、英国、米国が突出しています。日本の感染対策は、マスクの他は輸入ワクチンのみに頼って「ワクチン一本槍・一本足打法」といわれますが、ワクチン2回接種率が高い国々で、デルタ株ウィルスは猛威をふるい、2回接種者にも感染・重症化・死亡者が増えています。集団免疫など、ほど遠い状態です。そのうえデルタ株蔓延の緊急事態宣言下でオリパラを強行した8月の日本は、人口比でイスラエル、英米仏国には及びませんが、ロシア、ブラジル、ドイツ、スウェーデン、インドネシア、チリ、インドなどを上回る感染爆発高位国です。アジアでは最悪です(東京新聞8月28日)。
そのうえ若者・子供たちに感染が広がり、ワクチンの数は足りず抽選への長い列、パラリンピック観戦に学徒動員した教師たちの感染・休校、ワクチンへの異物混入と接種後死亡者数の怪しい数字、総じてデルタ株段階での世界の「人体実験」の最前線です。世界には、まだ検査もワクチンも及ばないアフリカなどの感染拡大、感染統計さえ出せない軍事独裁下のミャンマーの様な例があります。何よりも、ベトナム戦争以上に明白なアメリカのアフガニスタン戦争敗退とタリバン支配の復活、モスクワ五輪西側不参加をもたらした旧ソ連のアフガン侵攻から数えれば40年戦争の「人新生」の世界史的事件です。ここでも日本政府は、危機の国際感覚も喪失して右往左往。G7・OECD内での「外交後進国」であることを証してしまいました。
感染症対策でも国際政治でも異様に遅れたこの国の無為無策をつくったのは、いうまでもなく、安部・管内閣と続く自公政治の劣化と頽廃です。長く政治学教育にたずさわってきた身としては、憂鬱で忸怩たる想いを抱かざるをえません。国会も開けない自民党内「コップの中の嵐」による「みえない明かり」の擬似可視化よりも、アメリカ帝国主義の衰退と中国共産党独裁の生産力主義、その流れの全体を突き崩すグローバルな気候変動や地球温暖化への新しい世代の取り組みに、長期的な再生エネルギーによる「明かり」を見出したいものです。もっともコロナ対策や8月恒例の「戦後77年」では、地域コミュニティレベルの創意や草の根の戦争体験継承に、かすかな光を見ることはできます。かすかな光を束ねて政権交代まで実現できれば、1年前のアメリカ並みの「普通の政治」に戻れるのでしょうが……。若い世代に期待します。
東京2020五輪強行は、感染爆発の金メダル?!
2021.8.1 日本のCOVID 19パンデミックに対する感染・危機管理対策は、 昨年夏に予定されていた東京2020オリンピックに翻弄されてきました。昨年3月24日、オリンピックの1年延期が決まったとき、東京都の新たな感染確認は17人、これでもそれまで最多で、国内累計は1128人、ただしクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」乗客乗員712人は別枠とされていました。それから16か月、東京で連日3千人、4千人、全国で毎日1万人以上の感染爆発なのに、オリンピックは強行されています。「復興オリンピック」招致の口実は、福島第一原発核事故が「アンダーコントロール」なはずでした。しかし実際には汚染水処理もまともにできず、福島県外避難者が3万人近くにのぼります。招致のプランでは、この時期の東京は「温暖」とのことでした。しかし実際には高温多湿の灼熱地獄、熱射病で倒れたり出場できないアスリートも出ています。五輪関係者4万人は、スカスカの「バブル」で、大会関係者も報道陣も街にくりだし、選手もコンビニへ。集団飲食も観光外出も。毎日選手を含め数十人、すでに200人以上の感染者、しかし空港検疫から検査そのものがいい加減で、濃厚接触者も特定できず。多くのボランティアも送迎バスの運転手も食事の運搬人もワクチン未接種どころかPCR検査も不十分ですから、これからアスリートのクラスターや東京発の変異株が世界に広がってもおかしくありません。ジェンダーや多様性の看板は開会式にいたる組織委員会のお粗末でボロボロ、バッハ会長等IOC貴族のマネー体質、電通やパソナの中抜きビジネスも明るみに出て、その日の食事も摂れない人々、補償もないまま仕事を奪われた飲食業、アーティスト、非正規労働者、シングルマザー・ファザーにとっては、憤怒と怨恨の対象でしかありません。
日本政治の腐蝕は、底知れません。オリンピックが始まれば、みな競技に熱中して「ニッポン・頑張れ」、金メダルが出ると「ニッポン・すごい」となるだろうというのが、緊急事態を宣言しても、感染も人流も止められない政府にとっての、起死回生策でした。しかし首相が電話やSNSでメダル獲得を誇れば誇るほど、一言も発しないコロナ対策は意味を喪失し、全ては将来のワクチン接種と治療薬に委ねられます。確かに、ナショナリズムは差別やヘイトの言説を促進します。しかしPCR検査数やワクチン接種率では、日本は超後進国。ワクチン接種はようやく高齢者で8割、対象者の3割で弾切れ。日本はまだワクチン不足で、国と自治体が責任をなすりつけあう醜態ですが、アメリカなどでは2回接種後でもデルタ株に再感染しクラスター発生という新しい問題の報告。若者のワクチン忌諱ばかりでなく、3回接種や毎年接種の必要性も出てきました。治療薬承認があっても供給不足で、なによりも自宅待機者急増中で、症状悪化しても入院できなくなる可能性大。自分でパルスオキシメーターを準備するのが、せいいっぱいの自衛策。菅政権が、「自助・共助・公助」をいいながら「公助」をケチり構築できず、「自助」=自己責任任せの無策のみで、「バブル」内でさえ「安全安心の大会」とはほど遠い現実。オリンピック開催中の中止はむずかしくても、大会関係者がパラリンピック中止を匂わせる無責任です。8月は、本来なら夏休みにお盆の帰省、昨年のGoToトラベルと同じ役割をオリンピックが担い、「五輪バブル」が、昨年の「ダイヤモンド・プリンセス号」に似た、日本公衆衛生学の後進性・「失敗の教訓」をもたらしそうです。「カミカゼ・オリンピック」ともよばれるとか。「緊急事態」は、最後ではありません。
2021.7.23 穴だらけのバブルと、傷だらけの演出と、呪われた復興ブルーインパルス。
(写真左)安倍首相、ブルーインパルス731号乗り込み上機嫌(2013年5月12日午後、宮城県東松島航空自衛隊震災復興視察)
日本外国特派員協会の会員向けの月刊誌「NUMBER1 SHIMBUN」の2020年4月号の表紙が賛否を呼んでいる。東京オリンピック(五輪)の大会エンブレムを、新型コロナウイルスに見立てたデザインを掲載。東京五輪大会組織委員会が「著作権の侵害」と抗議しとり下げたが、……先見の明。
・せっかく206か国・地域の参加。各国感染状況の紹介もほしいところ。
・案の定、隙間だらけの五輪バブル。毎日新たなアスリート・関係者の感染。せめて「ダイヤモンド・プリンセス」なみの別枠感染報道を。
・8月1日から対面とZOOM の731部隊講演を再開します(むさしの平和のための戦争展)。
2021.7.1 昨年来の新型コロナウィルス・パンデミックの中で、長く気になっている発言があります。佐藤正久参院議員・元自民党国防部会長の「新型コロナの出現当初、それが感染症なのか、バイオテロなのか、生物兵器なのかわからなかった。もし、感染症なら厚労省、バイオテロなら警察庁、生物兵器なら防衛省と縦割り行政の我が国には司令塔がない」というものです。メディアにも頻出する佐藤正久は、防衛大・陸上自衛隊化学科卒で、第一種放射線取扱主任者の資格を持つ政治家です。米陸軍指揮幕僚大に留学し、イラク派遣PKOで「ヒゲの隊長」として有名になり、2007年からは自民党参院議員、国防部会長などを歴任し、2020年10月から党外交部会長をつとめています。この発言は、感染症対策をめぐる国際政治の三重性を示唆したもので、前後の文脈を含め正確にすると、「テロリズムにまつわる特殊災害を化学兵器Chemical、生物兵器Biological、放射能汚染Radiological、核兵器Nuclear、爆発物Explosiveの頭文字をとって「CBRNE(シーバーン)災害」と呼びます。その特徴は災害発生後しばらく原因がわからないこと。実際、新型コロナの出現当初、それが感染症なのか、バイオテロなのか、生物兵器なのかわからなかった。もし、感染症なら厚労省、バイオテロなら警察庁、生物兵器なら防衛省と、縦割り行政の我が国には司令塔がない。一方、アメリカの場合、世界最大の感染症対策の総合機関であるCDC(米疾病対策センター)が、医師や研究者など1万4千人を擁し、司令塔の役割を果たしています。2009年の新型インフルエンザの流行後、有識者から日本版CDCの創設が提案されたが、当時の教訓は生かされず、今日に至っています。」 (FACTA 2020年5月号 https://facta.co.jp/article/202005031.html) 。
確かに感染症の世界史を見ていくと、20世紀に入って @ 感染症対策のほかに、A 生物兵器・バイオハザードの問題、B バイオテロ・暗殺の問題が、オーバーラップして、政治的性格が強まってきます。第一次世界大戦は、その終息期に「スペイン風邪」パンデミックで敵味方のない膨大な人的被害をうみ、戦車や航空機、毒ガス戦が登場したことから、1925年のジュネーブ議定書は、その正式名称「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及び細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書」で、一応化学兵器・生物兵器の残虐性・非人道性を認めました。しかし制限されたのは「使用」のみで、非締約国には及びません。また、開発、生産、保有が制限されない点でも、化学兵器・生物兵器の包括的禁止の観点からは不充分なものでした。包括的な制限は、1972年の生物兵器禁止条約と、1993年に化学兵器禁止条約を待たなければなりませんでした。実際には、第二次世界大戦における枢軸国・連合国双方における生物兵器と防御の研究、とりわけ枢軸国ドイツと日本の優生思想にもとづく人体実験や生物兵器開発が、戦後の米ソ冷戦下の生物兵器実験、朝鮮戦争やベトナム戦争での実戦使用の疑惑、生物兵器開発過程でのバイオハザード事故(生物災害)の頻発として引き継がれ、実在しました。
「米国陸軍フォート・デトリックでは、1943年から1969年にかけてアメリカ合衆国生物兵器プログラムの中心施設として生物兵器の開発や実験、生産が行われた。1946年頃から旧日本軍の731部隊による実験資料が持ち込まれた。最初の本格的な活動は炭疽菌の大量培養で、次いでブルセラ菌・野兎病菌の培養のための建物が建設された。1943年8月から1945年12月までに、ハツカネズミ60万頭・モルモット3万頭・サル166頭を含む17種類の動物が使用された。1950年、容量1000m3の球形の大型実験設備「エイトボール」が完成、野兎病菌を詰めた爆弾の最初の実験が行われ、次いで炭疽菌の実験が行われた。2000頭のアカゲザルがこの実験に用いられた」「1969年以降はアメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)が設置され、対生物兵器・生物テロの防護研究を行っているとされる。 同研究所は、バイオセーフティーレベル4(BSL4)の高度な設備を持ち、世界的にも知られている。防護研究用として、現在でも少量の生物兵器が配備されている。 」「ソ連崩壊後1992年に米国に亡命した旧ソ連陸軍生物兵器開発責任者ケン・アベリックは、ソ連は1941年レニングラード攻防戦でドイツ軍に対しツラレミア菌(野兎病)を撒布、戦後ソ連の生物兵器開発は日本軍731部隊から押収した設計図にもとづきスヴェルドロフスクで1946年に始まった、そこで1979年3月炭疽菌流出・感染事故があった、1982年アラル海・リバース島で500匹のアフリカサルを使いツラレミア細菌爆弾の実験に成功と証言。1989年にもマールブルグウイルス事故があった」ーーつまり、第二次世界大戦中に中国人・ロシア人等の「マルタ」数千人を人体実験で殺害し、中国大陸でペストノミ爆弾の空中散布等で数万人の犠牲者を出した日本の関東軍731部隊は、米国においても旧ソ連においても、戦後の生物兵器開発およびバイオハザード事故頻発の土台を作りました。それによって、今回のコロナウィルス・パンデミックにあたっても、米中の感染源特定情報戦をはじめ、感染症対策を細菌戦を想定した危機管理・国家安全保障の問題とみなすのが当たり前になりました。20世紀の感染症の世界史をまとめたトム・マンゴールド、ジェフ・ゴールドバーグの『細菌戦争の世紀』(原書房、2000年)の歴史的記述は、「生物戦の愚かな第一歩は、日本の731部隊からはじまった」と書きおこされています。
感染症の歴史の中で、いま一つ日本がクローズアップされた、黒い事例があります。オウム真理教の細菌兵器製造・撒布は、生物戦・バイオハザードの問題が個人化したバイオテロ・暗殺の新時代を切り開いたものとされます。9.11米国同時多発テロ下での2001年アメリカ炭疽菌事件は、当時 フォート・デトリックにあるアメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)に長年勤務し、炭疽菌ワクチン開発チームのリーダーだったブルース・イビンズによるものとされ、2008年に訴追される前に自殺して事件は終結しました。2001年9月18日と10月9日の二度にわたり、アメリカ合衆国の大手テレビ局や出版社、上院議員に対し、炭疽菌が封入された容器の入った封筒が送りつけられたバイオテロ事件で、5名が肺炭疽を発症し死亡、17名が負傷しました。イビンズは、捜査機関に対し捜査協力を行なっていた米炭疽菌研究の第一人者の科学者でしたが、一方でジョージ・W・ブッシュの再選を望む熱心な共和党の支持者であり、『ユダヤ人は選民である』として、ラビとムスリムの対話を否定する過激なキリスト教原理主義者(クリスチャン・シオニスト)という裏の顔がありました。犯人とすれば、動機は明確でした。ロシアでも、政権に批判的な政治家やジャーナリストへの薬物投与が問題とされましたが、こうした事例は、オウム真理教がサリンやVXガスのような化学兵器と共に、ボツリヌス菌、炭疽菌、エボラウィルス等を研究開発し、一部は実際に使用された経験に触発されたものだったといいます。細菌・ウィルスから遺伝子ゲノム解析へと深化し、医学・薬学・獣医学から生命科学へと扱う領域が広がったことにより、米国CDCでは、感染症対策・バイオテロ対策と共に、生物兵器として利用される可能性の高い病原体のリスクをふまえ 「容易に人から人へ伝播される」「高い致死率で公衆衛生に大きなインパクトを与える」「社会にパニックや混乱を起こすおそれがある」「公衆衛生上、特別の準備を必要とする」病原体として、炭疽菌、ペスト菌、ボツリヌス菌、野兎病菌、天然痘ウイルス、各種出血熱ウイルスなどを「カテゴリーA=最優先の病原体で、国の安全保障に影響を及ぼす」ものとしました。こうした731部隊やオウム真理教の黒い歴史に触発されて、世界の多くの国の感染対策の第一線は、バイオハザード・バイオテロを含む国家安全保障・危機管理の問題として、グローバル経済下でも厳格に出入国と検疫を管理し、莫大な補償費用を国が払ってでもロックダウンなど人流を抑え、広くPCR検査で感染者を見つけて隔離し、同時にワクチン開発・治療薬開発を進める「国策」が採られてきました。佐藤正行自民党外交部会長の発言は、こうした世界の動きから取り残された日本の感染対策を「危機管理」として嘆いたものでしょう。
すでに2021年も半年が過ぎ、パンデミックは続いています。カナダで摂氏50度近い異常気象のもとで、世界の感染者は2億人に近づき、死亡者は400万人を越えています。80万人感染・1万5千人死亡の日本は、東アジアでは抑え込みができていない、感染対策の劣等国です。まともなPCR検査や被災者補償ができないまま、幾度も「緊急事態宣言」を繰り返し、世界で更新を繰り返すウィルスの変異株への検疫は隙間だらけで、いまや主流になったはずのデルタ型(インド型)変異株のデータもゲノム解析の遅れではっきりしないまま、東京は、再び感染者増に転じています。「補償なき自粛」で無策の政府が、最後のよりどころとする輸入ワクチンも、ようやく医療従事者と高齢者用が目処がついた段階で、大学や職域毎の接種は計画倒れでブレーキとストップ、「集団免疫」など夢のまた夢です。そこに、731部隊、オウム真理教に続く、感染症の黒世界史の、新たな1頁が加わりそうです。いうまでもなく、2020東京オリンピック・パラリンピックの、2021年夏における強行開催です。主催者はIOCだから開催国はどうにもならないと言ったり、G7で世界の首脳から支持を得たから開催できるといったり、責任の所在も曖昧です。「復興オリンピック」とは誰もいわなくなりましたが、「平和の祝祭」と開き直ることもできません。国民に酒食の「自粛」を訴えながら、スポンサーやオリンピック貴族など「関係者」には特別のラウンジやレストランも準備。「緊急事態」で夜の終電を早めてきたはずなのに、オリンピックだけは夜のイベントに観客も入れて夜中まで電車を走らせるとか、全くちぐはぐです。世界にとっても日本でも、あらゆる変異株を持ち込み拡散する、一大感染拡大イベントになりそうです。国民とオリンピック・アスリート、「関係者」は隔離し動線を別にする「バブル方式」といいながら、空港検疫さえまともにできず、受入自治体や運転手を濃厚接触にしてしまった穴だらけ。直前に「無観客」になったり、参加を拒否する国やアスリートがでてきたり、開催中の「バブル内蔓延」で中止になってもおかしくない、オリンピックの虚像が暴かれる機会になりそうです。それに感染者・感染国差別、ワクチン拒否者・エッセンシャル職種差別、外国人労働者「非国民」差別・経済格差拡大の副作用も不可避です。デジタル大辞泉で「バブル(bubble)」を引くと、「 1 泡。あぶく。また、泡のように消えやすく不確実なもの。2 「バブル経済」の略。「バブル時代」「バブル崩壊」、3 外部と遮断された状態のたとえ。「フィルターバブル」「バブル方式」」と出てきます。IOC・日本政府や組織委員会は、この第三の意味で使っているそうですが、せめてこどもたちの「学徒動員」をやめて、オリンピックのための「バブル会計」の内容を明確にすることを求めます。一部で予測されている「オリンピック強行・パラリンピック中止」の愚まで進む前に、「バブル」の本来の第一義に沿って、「2020東京オリンピック」は泡と砕け、消えていくのが、世界史の本来の姿でしょう。
オリンピック強行で「東京2021変異株」拡散のディストピア?
2021.6.1 熟慮のうえで、ファイザー社のワクチンを打ってきました。近くの市役所で、15分ごとの予約枠があり、30人分くらいのイスに順番で座り、医師と看護師が巡回して予診票により簡単に質問し、一人実質2−3分の流れ作業で接種していくスタイルでした。この予約取りには、電話でもネットでも苦労した人が多いようです。娘さんでしょうか、付き添いがついている老人がいます。3週間後の2回目接種は、別個に予約しなければならないのですが、1回目接種後の待機時間に看護師に聞いている人もいました。初めて知ったようです。私の町はスムーズな方のようですが、それでも市報やホームページの説明はわかりにくく、老人たちの口コミネットワークとこどもたちのスマホによる援助が役に立ったようです。いま日本全国で、新型コロナウィルス・ワクチン接種の壮大な実験が進められています。高熱や倦怠感の副反応は多く、因果関係はまだわかりませんが、接種後死亡者85人が出ているようです。それでも、世界で1億7千万人感染・350万人死亡、日本でも73万人感染・1万3千人死亡、イギリス株からインド株への変異種感染が東アジアでも増えていて、世界のワクチン開発・生産・供給競争から取り残された超後進国日本で、高齢者のワクチン願望が切実になるのは当然です。
ワクチン接種には、ためらいもありました。日本におけるワクチンの歴史と、新型コロナウィルスCOVOD-19に対するmRNA ワクチンの有効性・安全性の問題です。日本でワクチン接種が本格化したのは、1948年の予防接種法以降のことです。日本敗戦で上陸した連合国の若い兵士40万人を待っていたのは、恐ろしく貧しく不潔で伝染病が蔓延する社会でした。「外地」からの引揚者も感染症を持ち込み、占領軍の統治は、「DDT革命」、公衆衛生を教え諭すことから始まりました。そこでGHQ・PHW(公衆衛生福祉局)サムス准将が、米軍軍医だけでは足りず、日本の感染症対策に動員したのが、関東軍防疫給水部(731部隊)の残党でした。人体実験・細菌戦を繰り返した731部隊は、当時の日本医学の最先端でしたから、大学医学部や医学研究の世界ばかりでなく、医薬産業やワクチン業界にも入り込み、勢力を残しました。1948年の予防接種の初発に、京都・島根でジフテリア予防接種による乳幼児83名の死亡事件がありました。そのワクチンを製造した大阪日赤医薬学研究所の工藤忠雄は、旧731部隊員でした。朝鮮戦争前後のこの時期の「ワクチン村」には、多くの旧731部隊員が蠢いていました。杜撰なワクチンを製造した大阪日赤医薬学研究所ばかりでなく、武田薬品、阪大微生物研究所、北里研究所、東芝生物理化学研究所・デンカ生研、目黒研究所などのワクチン関連メーカーは、厚生省・東大伝染病研究所(現医科研)・予防衛生研究所(現国立感染研)と組んで、旧731部隊の技術と人材を継承していました。731部隊の姉妹部隊である関東軍軍馬防疫廠=100部隊の獣医学関係者も、人獣共通感染症の動物用ワクチンの製造・販売で、こちらは農林省管轄でしたが、「ワクチン村」のメンバーでした。この旧軍の伝統を引く閉鎖的「ワクチン村」が、さまざまなワクチン禍事件と被害・薬害訴訟を重ねながら、護送船団方式で日本のワクチン産業を守ってきました。1970年代以降に感染症が医療の本流から外れて後も、細々と続いてきましたが、それは21世紀には無力でした。国産ワクチン待望論もありますが、私の場合は逆で、日本の731部隊型「ワクチン村」の衰退の確認が、ファイザー・ワクチン接種に踏み切った理由の一つです。
2020年の新型コロナウィルスの世界的大流行=パンデミックにさいして、日本の感染対策は世界的に見てミゼラブルでした。未だに続くPCR検査の不足、抜け穴だらけの検疫や脆弱な医療体制、補償なき休業・自粛要請の繰り返し、等々に並んで、ワクチン・治療薬作りでも、医療後進国である姿を世界に知らしめました。戦後占領期の伝染病対策である程度の役割を果たした731部隊の伝統は、ワクチンづくりも細菌レベルからウィルスレベルに高度化し、さらにはグローバルな医学・医薬産業の競争のもとで遺伝子ゲノム解析をもとに進められる国際協調・再編系列化の波に乗ることができず、無力でした。もともと日本の医療政策は、「国民病」とまで言われた結核の鎮静化と高度経済成長による高齢化社会の到来で、1980年代以降、ガンや心臓病の高度医療対策や医療費抑制の方向にシフトし、感染症対策や予防接種・ワクチン開発の予算も人員も減らされてきました。731部隊的伝統は、厚生労働省医系技官と結んだ国立感染症研究所・地方衛生研究所・地域保健所の行政検査・データ独占隠蔽ラインに残されていましたが、その経験主義と時代遅れは2020年段階で白日に晒され、専門家会議・分科会医療関係者の「専門性」が信頼を失いました。そこにアメリカやヨーロッパの「大国」がワクチン製造で先行し、G7の外の「大国」であるロシア、中国、インドも自国生産と輸出によるワクチン外交に突入しました。「大国」意識だけで経済衰退も著しい日本は、宗主国アメリカの大統領が代わりワクチン外交において特別優遇されることなく、発注・契約・搬送・供給確保、国内体制準備・医療従事者確保・予約システムIT化から接種実施スケジュール化まで、ことごとく後手後手で、経済政策と感染政策の両立どころか、経済そのものを破壊してしまいました。ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンは、ハンガリー出身のカタリン・カリコ博士の開発した21世紀型技術の産物で、少なくとも日本の国産ワクチンよりは、有効性・安全性とも信頼できそうです。無論、ワクチンは万能ではありませんし、接種事故や副反応の問題は未決です。私は年齢相応で、リスクを承知の上で敢えて「人体実験」を希望し加わりましたが、ワクチンを拒否する自由は当然ありますし、未接種者を差別するようなことがあってはなりません。
ワクチンをめぐる政治は、国際外交ばかりでなく、いま世界各国の国内政治でも焦眉の課題となっています。この6月は、日本ではまだ高齢者接種がいつまでどこまでできるかの段階で、若い人々のワクチン接種は希望しても来年までかかりそうです。それなのに、なぜか日本政府は、ワクチン接種高速化を事実上唯一の感染対策に仕立て上げ、7月開会予定の東京2020オリンピック・パラリンピック開催強行に突っ走ろうとしています。IOC幹部たちのむき出しの金権オリンピック強行発言に抵抗することもできず、アスリート以外の8万人もの「五輪ファミリー」や報道陣を東京に受け入れようとしています。あまつさえ、ワクチン接種もPCR検査も特別扱いとし、医療従事者や感染者用ベッドを別枠で確保し、さらには無観客を嫌って小中学生81万人を会場に動員し拒否すれば「欠席」扱い、都内代々木公園他全国各地にパブリックビューイング会場を設けるという、狂気の準備中です。緊急事態宣言が続いていても強行、アルマゲドンがない限り決行という歯車がまわりはじめ、アメリカどころかIOCの属国・植民地と化した日本の政治に、国内外の世論もあきれはてています。スポンサーの大新聞からも、中止論が現れました。電通やパソナのような中抜き利権企業以外では、産業界からも国策への疑問が出てくるでしょう。何よりも、コロナウィルスはオリンピックには無関係・無関心です。イギリス型・インド型からベトナム型にまで変異を重ね、昨年は相対的に感染が弱かった東アジアでも、急速に感染が広がっています。この現状では、最悪の場合、7月に世界中から変異種ウィルスが入ってきて、「東京2021変異ウィルス」を世界中に拡散することになりかねません。ワクチンも重要ですが、政府と東京都の政治の暴走に、ブレーキをかけることが急務です。学術論文データベ ースに、深草徹さん「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評、3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に寄稿した学術論文「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」が、本サイトに入っています。
禁酒令・灯火管制に見回り隊、「神火リレー」が消えそうなので自衛隊出動と学徒動員、それでオリンピック強行?
2021.5.1 4月25日に、日本政府の第三次緊急事態宣言発動です。東京の感染者数が高止まりから増勢に転じ、感染力の強い変異株が早くに入った大阪・兵庫はすでに医療崩壊、自宅待機のまま亡くなる人まで出てきました。もともと第二次緊急事態宣言の解除が早すぎました。まだ東京で毎日300人も感染していたのに、7月オリンピックを開催したいがために3月25日からの福島「聖火リレー」開始に合わせて第二次宣言を解除し、そのリバウンドに変異株が重なって三回目、全国的な第四波です。5月11日まで4都府県となっていますが、誰もそれで抑え込めるとは思っていません。翌週IOCのバッハ会長が来日するので、それまでに高止まりにして蔓延防止等重点措置に移行する算段でしょう。そのための「緊急事態」指標が、酒類提供禁止の飲食店禁酒令、夜のネオンを消す灯火管制、違反する居酒屋・路上飲酒をチェックする見回り隊です。相変わらずPCR検査拡大・医療体制集中整備はなく、生活補償なき自粛・休業要請です。医療従事者のワクチン接種さえできない段階で、人の流れは大きく変わらず、介護施設や学校にもクラスター発生です。
新型コロナウィルスによる死者は、日本でも1万人を越えました。世界の死者数320万のなかではアメリカ57万、ブラジル40万、インド20万等々に比して大きくはありませんが、東アジア・太平洋ではインドネシア、フィリピンと共に突出し、中国全土の2倍、韓国の5倍、オーストラリアの10倍以上です。「Xファクター」は確かに欧米との比較で効いたと思われますが、それは台湾・中国・韓国・ベトナム等では遺伝学的に有効であっても、「清潔好きの日本文化」などではなかったことも分かってきました。感染者数の60万も、世界192か国/地域の中で38番ほどで、もはや極端に少ない国という評価は消えました。台湾やニュージーランド、あるいは大国でも中国がいうなら別ですが、日本が「コロナに勝利した証し」を語る資格がないことは、明らかです。感染はおさまるどころか、世界で1億5000万人、インドの1日30万人感染・3000人死亡を始め、変異を重ねて広がり続けています。
これに対して世界では、ワクチン接種による自己免疫型抑え込み、2回接種とPCR検査での「ワクチンパスポート」による日常生活回復が目指されています。ワクチン生産国であるアメリカやイギリス、それに中国やロシアでは、ワクチン接種が進んでいます。併行してワクチン調達・輸出・援助の米中「ワクチン外交」が展開されます。イスラエルやアラブ首長国連邦(URE)は、その素早い外交力でワクチン接種6割・4割を完了しています。この面では、日本はおそろしく稚拙・無力でミゼラブル。医療大国と自称してきたのに国産ワクチンを作れず、世界一の同盟国と誇ってきたアメリカからも十分分けてもらえず、接種率1%以下という超後進国。未だに医療従事者分さえ調達できず、高齢者用の日程も不確かで、いずれにせよ希望者全体に行き渡るのは、来年以降となります。
4月25日に、「聖火リレー」は「神火リレー」になりました。「東京五輪の聖火リレーは25日、宮崎県での初日を迎えた。全国16府県目。天の岩戸伝説など、神話ゆかりの高千穂町を出発」ーースポンサー企業宣伝車の騒音・お祭り騒ぎや国営放送化した公共放送の反対意見無視・消去はそのままで、菅首相の願った五輪ムードの盛り上がりはなく、自治体予算を使った神がかりの祈祷です。もともと3.11からの「復興オリンピック」と銘打たれた2020東京オリンピックは、新型コロナ感染に対する危機管理としては、科学の眼を曇らせる疫病神でした。福島原発事故の「アンダー・コントロール」の嘘からはじまって、本来他にまわしうる膨大な税金を、電通等協賛企業の官民癒着に費やしてきました。開催予定の半年前にコロナウィルス第一波を迎え、日本では感染者数を小さくみせるためにPCR検査を拡げないという、本末転倒の感染政策が採られました。厚労省医系技官・感染研・地方衛生研・保健所の「行政検査」とデータ独占、政府の経済復興優先・「補償なき自粛・休業」路線がはじまりました。世界的パンデミックで1年延期が決まっても、隔離した感染者のための集団病棟や軽症者・無症状者用の宿舎などに最適な有休施設をオリンピック用に多数確保しながら、リザーブからはずして感染対策にまわすことはできませんでした。結局手洗い・マスクや3密回避という、もはや日常化し警鐘効果をなくしたルーティンのほかは、飲食店の酒類販売禁止、ステイホームを促すネオン灯火管制、大量のアルバイトを使った繁華街パトロール・見回り隊など、「日本精神」で一億玉砕を叫んでいた時代と似た、神がかった精神主義です。「神火リレー」とは、1940年の「幻の東京オリンピック」の日中戦争による「返上」のさい、右翼・国粋主義者が軍部と結んで主張した、ギリシャからの「聖火リレー」に代わる高千穂・出雲から採火した神道リレーでした。
もっともIOCのバッハ会長から「日本国民の精神は賞賛の的です。粘り強さや、へこたれない精神を日本国民が持っていることは、歴史を通して証明されています」などとおだてられて、菅首相も小池東京都知事も、「無観客でもオリンピック実施」の構えをくずしません。そこで出てきたのが、日本的精神主義と対を成す、軍事的危機管理、自衛隊の治安出動です。まずは感染対策として必須のワクチン接種、5月から東京・大阪での新型コロナウィルスワクチンの大規模接種センターに、「医官や看護官による組織的活動が可能な唯一の国の組織である自衛隊」があたることが決定されました。「7月末までに高齢者への接種完了」のためだそうです。なぜかそのニュースは、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が日本看護協会に500人の看護師派遣を要請、医師200人も数ヶ月必要と申し入れ、それでなくてもコロナ対策最前線で要員不足で悲鳴をあげている医療従事者の「国策動員」の仕方が問題になっている局面で流れました。大阪で実際にはじまった「トリアージ」「命の選択」の全国版に、いよいよ関東軍731部隊の末裔である自衛隊衛生科が、「有事」として出動しそうです。医官も看護師も1000人以上はいるので、ワクチン接種ばかりでなく、オリンピックにも動員可能です。「災害派遣」のような法的根拠は後付けされるでしょう。極めつけが、海外からの観光客は断ることを決定し、国内でも観客参加が危うくなったところで報じられた、東京都の「東京五輪の観戦に小中学生ら81万人を動員計画」「 感染拡大最中に各学校に通達、観戦拒否すると欠席扱い」というスクープ。昨年12月に東京都の幼稚園から小中学校に日程案が送付済みで、「競技場への移動は電車やバス」だといいます。狂気の「学徒動員」計画です。
オリンピック決行はいまや、菅内閣の最重要な政治日程です。こうした「緊急事態」下のオリンピック強行に、安倍亜流内閣で人心を失いつつある菅首相の意向と焦りがあることは当然です。4月の日米首脳会談は、屈辱の冷遇外交でした。夕食会も開けず、ハンバーグでは会談したが、米国のオリンピック参加の確約はとれませんでした。米中冷戦さなかに半世紀ぶりで台湾問題を共同声明に明記した米国支援で、昨年は習近平を国賓待遇で招待していた対中関係は、深刻です。民主党バイデン政権で米国も国際的流れに復帰した脱炭素革命に便乗して、福島第一原発汚染処理水の海への投棄決定、福井県知事による40年以上の老朽原発の再稼働承認のバックラッシュです。この外交政策や、感染対策のもう一つの柱である医療体制デジタル化、マイナンバーカードでの国民総監視を含めた危機管理の全体像の下絵を描いているのは、どうやら政治家ではないようです。官邸官僚といわれる、首相が重用する高級官僚たちのようです。
政府のオリンピック感染対策の会議を仕切っているのは、杉田和博官房副長官、例の日本学術会議6人任命拒否の仕掛け人です。日米首脳会談で首相に付き添い訪米しワクチン確保に動いたのは、厚労省でも外務省でもなく、どうやら「官邸のアイヒマン」国家安全保障局長北村滋のようです。杉田・北村はともに警察官僚出身、40年前の中曽根内閣・後藤田官房長官期からはじまった、危機管理を通じた旧内務官僚復権の頂点です。厚生労働省も、旧内務省では、地方支配の一機構でした。こうした問題を含め、日本の感染対策の無為無策の背後に、関東軍防疫給水部(731部隊)と軍馬防疫廠(100部隊)の亡霊が作用している問題について、3月13日、NPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で行った、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演は、you tube で。弁護士の深草徹さんから、学術論文データベ ースに、「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評、3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に寄稿した学術論文「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」と共に、本サイトへアップしておきます。
「アベノマスク」から1年、変わった世界、変わらぬ日本の無為無策
2021.4.1 日本政府の第二次緊急事態宣言は、飲食店の夜の人出を減らしただけで、感染を劇的に減らすことはできませんでした。重症者の医療受入状況を多少改善しただけで、外出抑制・自粛促進効果を失い、解除するとまもなく、今度は第四波の到来です。変異株によるリバウンドは、避けられません。この日本の感染対策の無為無策の背後に、関東軍防疫給水部(731部隊)と軍馬防疫廠(100部隊)の亡霊が作用している問題について、3月13日、NPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演を行いました。その内容は、you tube で速報されましたが、その後主催者側で、当日の報告レジメ・パワポ原稿にもとづき最終版を編集してくれましたので、12月の第3波直前に行ってyou tube に入っている「ゾルゲ事件」「スパイの妻」講演の映像と共に、ご笑覧ください
●「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影 」https://www.youtube.com/watch?v=l6YAsTQxDto&t=864s
(パワポ資料はPDF:https://xa0007.blogspot.com/2021/03/731100_28.html)
ちょうど1年前の2020年4月1日、日本政府の第25回新型コロナウィルス感染症対策本部が開かれました。そこでの当時の安倍首相の演説の目玉が、「本日は私も着けておりますが、この布マスクは使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えております。そして来月にかけて、更に1億枚を確保するめどが立ったことから、来週決定する緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5000万余りの世帯全てを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布することといたします」----海外からは「エープリル・フール?」とびっくりされた、いわゆる「アベノマスク」配付宣言でした。この日、東京では66名、大阪では34名の感染が確認されました。千葉県での10名の感染については、一人一人の年齢・居住地・職業、直近の行動態様、濃厚接触の有無についての詳しい報告がありました。「アベノマスク」がピント外れの愚策であったにしても、4月7日にはじまる第一次緊急事態宣言下では、二桁の感染者数に恐怖し「自粛」する緊張感が、まだあったのです。日本はいわゆる第一波のピーク直前で、国内感染者累計2384人・死者58人でした。世界の感染者は100万人突破、死者の5万人ごえが、大きなニュースでした。私の『パンデミックの政治学』(花伝社)は、主としてこの第一波から夏の第二波までを分析しています。
それから1年後の世界は、大きく動いています。感染認定者1億3000万人・死者300万人近くで、100年前の「スペイン風邪」の惨状に近づいていきます。アメリカでは大統領が変わり、中国ではウィグル族や香港市民への強権発動が見られました。ワクチン接種はようやくはじまりましたが、厳しいロックダウン下でも、ヨーロッパでの感染対策をめぐる政府の人権・自由制限とそれに対する市民の異議申し立て、コロナ禍でも見られたアメリカのBLM運動やベラルーシ、香港、タイの民主化運動、最近のミャンマー・クーデタにいたる社会変動がありました。ナショナリズムの強まりと社会の分断、人種民族差別やヘイトスピーチが蔓延する中で、それに対するさまざまな抵抗も見られました。この一年の日本の特殊性は、世界と同じ社会分断・格差拡大を狭い島国で内向きに経験しながら、それに対する民衆の抵抗・異議申し立てが弱く、権力者・強者が危機便乗型支配と私利私欲実現を目指すのに対して、民衆内部での「自助・共助」が自粛自警団やマスク警察、感染者差別や医療従事者差別に容易に転化していく姿がみられたことでした。「東京オリンピック・聖火リレー」強行と自民党内の「国旗損壊罪」立法の動きは、その極致です。ちなみに、1940年の「幻の東京オリンピック」の際に、開催そのものに懐疑的な軍部から出された「聖火リレー」の対抗案は、ギリシャからではなく天孫降臨の地宮崎から東京への「神火リレー」案でした。2021年の倒錯した「東京2020オリンピック聖火リレー」は、「神の国」の「お寺と海と神社ばかり」という、なにやら「紀元2600年祭神火リレー」に似た、復古主義的「共助」に乗った感染拡大導火線になりそうです。
「アベノマスク」決定から1年経った日本は、累計感染認定者数が50万人に、死者数が1万人に近づいています。1年前の第一波の累計を、一日で上回りそうな勢いです。4月1日は、日本の官庁・企業や学校にとっての新年度です。予算執行も、新年度に入りました。2020年度の新型コロナ対策で支出された日本の国家予算、もとはといえば国民の税金は、はたして感染対策に有効だったのでしょうか。感染第3波までの流れ、なかなか進まないPCR検査、相変わらずの医療体制とベッド数逼迫、医療従事者・看護師不足、進まない治療薬開発と間に合わなかった国産ワクチン、経済対策としてのGoToトラベルやGoToイートに比例しての感染の波の再発と飲食店時間制限の繰り返し、ささやかな休業補償では隠しきれない失業者・生活困窮者増大、社会全体での格差拡大と外国人労働者差別、等々。「アベノマスク」の布マスク2枚配付が、おしゃれな不織布マスク市場に変わった程度の変化で、経済復興に従属した感染対策、「自助・共助・公助」の「自助」優先・「公助」欠落の基本は変わりません。ちょうどもう一つの「緊急事態宣言」、3・11東日本大震災・フクシマ原発事故後の緊急・復興予算38兆円の10年後の後追い取材で、検証なきインフラ整備、被災者・被災地抜きの「復興事業」の実態、「復興」名目での便乗予算の流用・無駄遣いが顕わになったように。
私の3月13日の講演では、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の3つの影」を、(1)世界の感染症対策を「人間の安全保障」から「国家安全保障」の生物兵器・バイオハザード・バイオテロ問題にした、日本の戦時細菌戦・人体実験とオウム真理教、(2)国立感染症研究所・東大医科研などコロナ対策専門委員会に受け継がれた731部隊・100部隊のデータ独占・秘密主義の伝統、(3)731部隊・100部隊関係者の生き残り策としての占領期ワクチン製造と「ワクチン村」への流れ、と論じています。(2)は、私の他に、上昌広さん『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』(毎日新聞出版)や山岡淳一郎さん『感染症利権』(ちくま新書)らも論じています。(1)については、ウィルス学者山内一也さんの多くの著作、日本獣医学会ホームページの連載「人獣共通感染症」連続講座のほか、旧ソ連における生物兵器開発と開発事故の実態を暴いたケン・アリベック『バイオハザード』(二見書房)が、ヒントになりました。(3)は、『満州における軍馬の鼻疽と関東軍』(文理閣)の著者である獣医学者・小河孝さんと共に探求を進めている関東軍軍馬防疫廠=100部隊研究の中間報告で、斎藤貴男さんや故芝田進午さんの日本型ワクチン研究開発史をベースにしています。弁護士の深草徹さんから、学術論文データベ ースに、「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評と共に、アップします。3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に、「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」という学術論文を寄稿しましたが、発売されたばかりですので、本サイトへのアップは次の機会にします。
- ●Welcome to KATO Tetsuro's Global Netizen College! English is here
2021.3.20 日本政府の緊急事態宣言は、飲食店の夜の人出を減らしただけで、感染を劇的に減らすことはできず、重症者の医療受入状況を多少改善しただけで、自粛強制効果を失い、実りなき解除です。変異株によるリバウンドは、避けられません。この日本の感染対策の無為無策の背後に、関東軍防疫給水部(731部隊)と軍馬防疫廠(100部隊)の亡霊が作用している影について、3月13日、NPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演を行いました。「3つの影」を、(1)世界の感染症対策を「人間の安全保障」から「国家安全保障」の生物兵器・バイオハザード・バイオテロ問題にした、日本の戦時細菌戦・人体実験とオウム真理教、(2)国立感染症研究所・東大医科研などコロナ対策専門委員会に受け継がれた731部隊・100部隊のデータ独占・秘密主義の伝統、(3)731部隊・100部隊関係者の生き残り策としての占領期ワクチン製造と「ワクチン村」への流れ、と論じています。12月のyou tube に入っている「ゾルゲ事件」「スパイの妻」講演のyou tube映像と共に、ご覧ください。
「ゾルゲ事件」https://www.youtube.com/watch?v=EAclpuJ8E9I
「731部隊の影」https://www.youtube.com/watch?v=CwHTZOL2IOo
20日夕に、また大きな宮城県沖地震・津波注意報がありました。弁護士の深草徹さんから、学術論文データベ ースに、「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評と共に、アップします。
2021.3.1 あれから10年だという。3月11日、東日本大震災と大津波、福島第一原発の核事故から10年である。もう10年なのか、まだ10年なのか、地域によって異なり、人それぞれだろう。それが被災体験の歴史的継承と世代交代の問題につながり、記録と記憶の乖離になり、時には科学と政治の衝突となる。2月13日夜、福島県沖を震源とする大きな地震があった。M7.3 、最大震度6強で、東京郊外の私の家でも、大きな揺れが1分近く感じた。私は実は、10年前の3.11の時は日本には居らず、メキシコでニュースで知っただけで、体感していなかった。今度の地震で家人に聞くと、10年前はこんなものではなかったという。その晩は、10年前の地震の余震で、原発は問題なし、人的・物的被害も軽微ということだった。ところが翌朝、東北新幹線など受験期の交通網で大きな被害があり、東北電力ばかりでなく、東京・神奈川・埼玉・千葉などコロナで緊急事態下の東京電力管内83万戸の停電が明らかになった。人的被害は10年前の経験が生きて死亡なしとされたが、10日以上たって、福島で一人暮らしの男性が家財道具の下敷きで亡くなっているのが発見された。ウィキペディアでは「福島県沖地震(2021年)」と立項された。
問題なしとされていた福島第一原発も、危ういものだった。幸い津波は軽微だったが、福島第一・第二原発で使用済み核燃料貯蔵プールの水の一部が溢れ出ていた。東京電力は2月19日に、福島第一原発1、3号機の原子炉格納容器で水位の低下傾向がみられることを発表した。また、21日には1号機容器内の圧力が低下していることを発表した。いずれもこの地震の影響とみられるが「原子炉への注水は継続しており溶融核燃料(デブリ)の冷却などに問題はない」とした。23日になって、東電はなんと、福島第1原発3号機の原子炉建屋内に昨年設置した2基の地震計が故障していたにもかかわらず、修理などの対応を取らずに放置していたことが明るみに出た。最大震度6強を観測した13日深夜の地震の揺れのデータを記録できておらず、公表もしていなかった、と報道された。海洋放出が問題になっている汚染水タンク53基の位置が、最大で19センチずれていた。地震に耐えて「アンダーコントロール」どころか、震度も分からない「ノーコントロール」だったのである。これが、あの地球的大事故を起こした福島第一原発の、10年後の姿である。この期に及んで、10年前のメルトダウンに際して、原子炉格納容器の圧力を下げる「ベント」の配管が途切れた設計ミスがあったことが、ようやくスクープされた。ーーここまでは、敢えて文語体にしておきます。
3.11当時の菅直人元首相は、「震災前、原発事故を想定していなかったのが間違っていた」「危機管理は最悪の場合を想定することが必要」と回顧しました。一度は脱原発に向かった政府のエネルギー政策は、自公安倍政権の復活で「電力安定供給」「エネルギー源の多様化」の名目で、原発再稼働から原発輸出策まで試み、ついには世界的な脱炭素・再生エネルギーの流れに「クリーン・エネルギー」の一部として生き残ろうと宣伝を強めています。「原子力ムラ」の完全復活です。東日本大震災の復興予算1兆円超が被災地と関係の薄い使途にも流用され、「復興庁が2013年に管轄省庁に返還を求めた23の基金事業を調べたところ、最終的に少なくとも7割に当たる約8172億円が返還されないことが明らかになった」というのが「ムラ利権」の実態でした。10年前、毎日の新聞には震災の死者・行方不明者・避難所生活者数、福島第一原発の原子炉の状況が報じられていました。この1年の新聞では、新型コロナウィルスの感染認定者数・死亡者数で、世界で1億1350万人感染・252万人死亡、日本で43万人感染確認・死亡8千人近くと報じられています。「最悪の事態の想定」は、10年前と同じく無視され、日本の場合は世界に比して極端に少ないPCR検査数のもとで、科学的な意味での感染実態もつかめないまま、後手後手の緊急事態宣言・解除の試行錯誤が続いています。
この10年、特に第二次安倍内閣の8年で、国民には「自助・共助」を強いて格差を拡大しながら、国民からの税金を元手に「公助」の利権に群がる、さまざまな「ムラ」ができてきました。20世紀の族議員・関連官庁・業界の分散したムラは文教族・建設族などと残しながらも、存続しています。しかし21世紀に入って、より高度な国家プロジェクトに特化した政官財に軍事もからむ利権集団が生まれているように見えます。例えば「IT・AIムラ」は、金融から電気自動車まで、あらゆる産業・業種を横断してデジタル化が進められる国策に群がって、政府の仕事を請け負い、大手からごくごく小さなプログラム企業まで系列・下請化が進み、オリンピック・イベントからコロナ対策の感染接触ソフトcocoaシステムまで、巨大な「ムラ」を作りつつあります。同様に「宇宙・ロケットムラ」や「気候・温暖化ムラ」も、科学者世界と防衛産業を巻き込んで、産軍学共同体を作るでしょう。国家的事業が政治主導で進められ、内閣官房で予算の骨格や官僚制トップの人事まで決まるようになると、かつての族議員型ムラの再編・統合が進むようです。今度のコロナウィルス対策の中から、古くからの「感染症・ワクチンムラ」と共に、「安全保障・危機管理ムラ」ともよぶべき、個人を監視し個人情報を管理・統制・利用するシステムに寄生する利権グループが、防衛・諜報機関から大手広告産業・メディア企業を組み込んで、蠢いているようです。
どうやらこの10年で変わったのは、米国の衰退と中国の台頭という国際情勢、平成から令和なる国粋的元号暦を別にすると、衰退期日本の国内イシューが、原発から安保法制、オリンピックからコロナウィルスへ、政治スキャンダルのネタが、モリ・カケ・サクラから親子丼といった表面的動きのようです。変わらないのは、地球温暖化・気候変動の深化のなかで新自由主義的グローバル化がいっそう進み、権力は自民党というよりも首相官邸・官邸官僚へと集中し、国民の内部に、「公助」利権に群がる一握りの人々と、貧困化と格差拡大で「共助」も得られず「自助」のみで生きるしかない人々との、絶望的な分断が進んだことでした。菅義偉首相の「最終的には生活保護を」というコロナ困窮者に対する言葉・認識と、その内閣広報官が「電波ムラ」の関係業者から一晩7万円の接待を受けていた事実の、埋めがたい落差が、この10年の帰結です。コロナ対策の緊急事態宣言解除の報道が増えるもとで、憲法学者水島朝穂さんからのメルマガ「平和憲法メッセージ」をもらって気づき、愕然としました。「コロナ特措法32条の「緊急事態宣言」は解除されつつあるが、10年も解除されていない「もう一つの緊急事態宣言」がある。それは2011年3月11日16時36分に発出された「原子力緊急事態宣言」 である。「3.11」で3653日になるも、一度も解除されたことはないし、今後も解除される見通しはない。同じ「緊急事態宣言」なのに、なぜこちらの解除が語られないのか」と。私たちはなお、重い重い「危機管理」のもとにあるのです。
「危機管理ムラ」が暴走すると、政治そのものが殺されます。ミャンマーのコロナ感染統計が、急激に減少に転じたので調べたところ、案の定、国軍クーデターのもとで病院・医療もマヒし、感染検査そのものができない状況によるものでした。日本の感染認定者数減少にも、東京オリンピック決行を至上命題とする「危機管理ムラ」の恣意が入っていないとは断言できないところが、日本の悲しい現実です。ようやく海外からワクチンが入ったものの、変異型ウィルスとリバウンドが危惧されるコロナ状況については、「デモクラシータイムズ」の児玉龍彦さん「変異型がやってきた、悪循環の出口はこっちだ」の参照を求めます。私自身は、3月13日(土)東京・浜松町のNPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演を行います。昨年12月のyou tube に入っている「ゾルゲ事件」講演以来3か月ぶりの対面講演で、上述の「ムラ」利権のうち、「感染症ムラ」「ワクチンムラ」に流れた731部隊医学、100部隊獣医学、それを可能にした占領期GHQ・PHW(公衆衛生福祉局)の防疫感染症対策・ワクチン開発の事例を述べる予定です。ご出席希望の方は、しっかりと体調を管理し、できればマスクを二重にして、ご参加ください。
「スペイン風邪」の歴史に学んで、コロナ禍からの脱出口を!
2021.2.1今から100年前、第一次世界大戦後の世界は、感染症の世界的大流行=今でいうパンデミックの恐怖に覆われていました。いわゆる「スペイン風邪」で、当時の世界人口18億人の3人に一人近く、約5億人が感染し、5千万〜1億人が死亡したと言われます。第一次世界大戦の戦死者よりも、多くなりました。最大の犠牲国は、死者2千万近くといわれるイギリスの植民地インドでした。日本の社会科学に巨大な影響を与えたマックス・ウェーバーは、敗戦国ドイツ革命の果実であるワイマール共和国の帰趨を見ぬままに、いのちを落としました。ロシアでレーニン、トロツキーと共にボリシェヴィキ革命を率い、反革命派への「赤色テロル」で知られたヤーコフ・スヴェルドロフ全露中央執行委員会議長も、犠牲になりました。レーニンの愛人イネッサ・アルマンドの同じ頃の死は、インフルエンザより怖いコレラとされていますが。戦後の国際情勢再編に、「民族自決」など14箇条の平和主張を背景に決定的影響を与えるはずだったアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンは、パリ講和会議の最中に罹患して、ドイツに過酷な賠償を負わせるヴェルサイユ条約が英仏主導で結ばれることを許しました。結果的にナチスの台頭と第二次世界大戦の遠因を作った、と言われました。パンデミックは、世界を変えます。
当時「スペイン風邪」と呼ばれた理由は、「パンデミックが始まった1918年は第一次世界大戦中であり、世界で情報が検閲されていた中でスペインは中立国であったため戦時の情報統制下になく、感染症による被害が自由に報道されていた」ため、とされています。今日ではA型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)と推定される病源の実際の感染ルートについては、19世紀までのモンロー主義を捨てて参戦したアメリカ軍の兵士がヨーロッパにもたらし、それが最大死亡国インドなどアジア、アフリカにも広がったする説が有力ですが、未だ確証はありません。100年後の新型コロナウィルスのパンデミックが中国・武漢の人獣感染症から広がったことから遡って、「スペイン風邪」も当時のヨーロッパの中国人労働者が持ち込んだという説も復活していますが、何やらトランプの「チャイナ・ウィルス」に通じる陰謀説に近いもので、実証は困難です。ちょうどいま、WHOの調査団がようやく武漢に入りましたが、最初の感染源の学術的特定は難しいでしょう。次々と変異種が現れ、感染力も増して、すでに1億人の感染者、200万人の死亡例です。感染源の問題については、今や数十万本の医学・獣医学・薬学等の学術研究論文が現れ、ワクチンの製造・接種も始まっていますから、医学史の将来に委ねましょう。むしろ、世界的感染症対策、被害と格差の極小化を進め、ワクチンなど免疫・治療薬の国際共同開発に向かうべきでしょう。
日本での「スペイン風邪」流行は、1918−19年の欧米第3波が収まっても、1920年1月にもピークがあり、21年1月まで続きました。速水融教授の名著『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』にもとづくと、「内地」人口の2人に一人が罹患し、作家島村抱月や大相撲の真砂石、皇族の竹田宮恒久らが死亡しました。忘れてならないのは、世界最大の犠牲がイギリス植民地インドであったように、「帝国」日本でも植民地朝鮮・台湾が「内地」より死亡率が高く、当初1918年の大相撲力士3人の死亡は、「植民地」台湾巡業中に発症し「相撲風邪」「力士風邪」と呼ばれたことです。当時の「平民
宰相」原敬首相も発病し、富山の女性たちの運動から始まった「米騒動」は、「スペイン風邪」によって収束を余儀なくされました。そして対策も今日と同じで、「検疫・検査と隔離」が基本、まだワクチンはなく、治療薬も風邪薬ですから、学校閉鎖・集会禁止に「マスク、手洗い、うがい」とならざるを得ませんでした。デマや流言飛語も飛び交い、当時の対策は内務省の「流行性感冒予防心得」による治安政策と一体で、消防団など「自粛警察」風取締になりました。関東大震災の前哨戦です。すでに100年前にサンフランシスコでは「マスク条例」が作られていましたが、当時の日本の新聞では「マスク不足」が報じられ、菊池寛や与謝野晶子の文藝素材になりました。死の恐怖と社会不安を孕んだパンデミックに対して、世界の感染対策はWHOなど国際機関や医学・薬学の発達もあり、100年前よりはるかに進んでいますが、どうやら日本の対策は、100年前の経験からあまり学ばず、戦時兵力・労働力のための厚生省開設や関東軍防疫給水部(731部隊)の人体実験・細菌戦などの国策遂行・閉鎖性・人種差別・精神主義の亡霊を引き摺っています。旧軍の流れでの感染研・専門家会議・分科会、感染研・地方衛生研・保健所ルートでのPCR「行政検査」抑制とデータ独占、補償なき自粛・休業要請で、その帰結として、国産ワクチンを作れないどころか、ワクチン輸入・接種さえ世界の60か国以上に先を越される、ミゼラブルなものになりました。「感染症対策小国」です。その理由と経緯は、昨年出した拙著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』(花伝社)をご笑覧ください。スペイン風邪から100年の日本の公衆衛生政策は、経済発展・成長政策への従属・ 周辺化が続き、まともな検査も受けれずに自宅待機や救急輸送途中で多くの犠牲者を出す、今日のコロナ禍を産み出していると思われます。
2021年を「時代閉塞の現状」から理性的に脱出する年に
2021.1.15日本でコロナウィルス感染が見つかって1年、まもなく感染者30万人、死者5千人です。世界は感染者1億人に近づき、死者は今月中に200万人でしょう。ようやく世界ではワクチン接種が始まりましたが、日本は無為無策のまま、2度目の緊急事態宣言突入です。不安と恐怖は続きます。この事態をどう見るべきかを、東大先端研児玉龍彦さんのyou tube提言「コロナオーバーシュートに立ち向かう」で学びましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=hVtn7Br-PWw
you tubeには、私が12月に「ヒロシマ連続講座」で対面講演した「ゾルゲ事件」が入りました。その前半30分は、パンデミックと映画「スパイの妻」の話です。以下の新年メッセージを読む際に、ご笑覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=EAclpuJ8E9I
2021.1.1 2021年は、2020年と一続きの、人類史上の転換点になりそうです。新型コロナウィルスの「世界的大流行=パンデミック」は止まりません。ジョンズ・ホプキンス大学のデータによる年末の世界の感染認定者数は、ひと月で1900万人増えて8200万人、死者も30万人以上増えて180万人近くで、年が明けます。アメリカ1951万・死者34万、インド1024万・死者15万、ブラジル756万・死者19万、ロシア307万・死者5万に、フランス257万、イギリス238万等ヨーロッパ主要国が増勢で続きます。対策優等国といわれたドイツも170万人に。BBCの下図では、大陸別データで「オセアニアは感染報告数が少ないため除外」とありますが、すでに南極にまで到達しました。ウィルスは、各地で変異を繰り返し、特にイギリス型や南アフリカ型は感染力が強いといわれますが、東アジアで相対的に感染を抑えている「Xファクター」の正体同様、医学的には分かっていません。 未知の恐怖は続きます。
大晦日の夕刻に、東京都の感染認定者1337人、全国4500人越えというニュースが、飛び込んできました。12月の感染増加の勢いと医師会や医療従事者の悲鳴に近い叫びから当然予想されたことですが、政府も東京都も、有効な対策をとれずにきました。この感染爆発は、人災です。確かに日本は、欧米に比すれば感染者数も死者数も少なく見えます。ただし、PCR検査の絶対数が桁違いに少ないですから、実態はわかりません。東アジアでは、フィリピン・インドネシアと共に劣等国で、感染源であった中国より人口は圧倒的に少ないのに感染認定者総数は上回っています。東洋経済のデータベースが、PCR検査数や年齢別陽性者数が出ていてわかりやすくなっています。未だに一日のPCR検査は全国で最大7万人程度、そこで医療崩壊寸前となっているのはなぜでしょう。その「日本モデルの失敗」の秘密は、ようやく公共放送でも取りあげるようになりましたが、もともと新自由主義をベースとする現政権の「健康・医療戦略」は、首相官邸HPにあるように、2013 年6月、アベノミクスにおいて当初掲げた「三本の矢」の一つである成長戦略 「日本再興戦略 JAPAN is BACK」(2013 年6月 14 日閣議決定)において、「戦略 市場創造プラン」のテーマの一つに『国民の「健康寿命」の延伸』か入ったことで作られた、経済成長戦略の一環です。最新2020年3月27日閣議決定改訂版でも基本方向は変わらず、すでにパンデミックが宣言され、日本でも市中感染が進んでいたにも関わらず、「コロナ対策」は内閣官房の担当としただけです。日本の感染対策は「経済と両立」どころか、一貫して経済政策に従属してきたのです。
「コロナ重症患者を適切に治療するには、中核施設を認定して、集中的に資源を投下するしかない。これは現在の厚労省の施策と正反対だ。いまのやり方を押し通せば、多くの施設が疲弊し、PCR検査を抑制している現状では、院内感染の多発が避けられない。まさに現在の日本の状況だ」(東洋経済)とも、「必要な医療資源の分散により、新型コロナ患者を受け入れられる病床がいくらあったとしても、この病床というハードを生かすために必要なソフトに当たる「病院当たり」や「病床当たり」の医師や看護師などの医療資源が不足しているため、全病床のうちコロナ対策病床1.8%というような状況になっている」(ダイヤモンド)とも言われますが、根底には、感染症対策は「発展途上国」マターの儲からない問題とし、「高度先端医療」とその輸出に活路を見出そうとする政府の「健康・医療戦略」があります。その証拠に、厚労省は医療費削減を狙った「地域医療構想」の実現のために、病院の病床の数を削減すると給付金を支給する「病床削減支援給付金」の実施を全国の知事宛てで11月26日に通知しました。2021年度の予算案では、病床削減のためにさらに195億円が計上されています。2020年度の84億円の2倍以上です(リテラ)。当面の「感染症防止に配慮した医療・福祉サービス提供体制の確保に533億円(第3次補正は1兆6442億円)、PCR検査・抗原検査等の戦略的・計画的な体制構築には207億円(同1276億円)などを計上した。また、厚労省の人員体制の整備として、国立感染研究所の職員の定員を362人から716人と大幅に増員する」のは当然です。しかし新年度予算案であり、感染対策と成長政策が混在し、矛盾しているのです。正月明けにも国会を開いて、実効的な緊急医療対策を立てるべきです。
映画「スパイの妻」を見ました。黒沢清監督の、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞作です。主演の蒼井優、高橋一生の演技もさることながら、時代考証に監督の想いが感じられました。あらすじに「1940年、神戸で貿易会社を営む福原優作は、満州で国家機密に関わる衝撃的な光景を目にしてしまう。正義感に駆られた優作はその事実を世界に公表しようと決意するが、スパイとして疑われることになる」とありますが、冒頭で優作の取引相手の神戸の英国人貿易商が憲兵隊に検挙されます。これは、ゾルゲ事件の研究者ならピンとくる「外諜」取締、「コックス事件」の一環です。コックス事件とは、「1940年7月27日に、日本各地で在留英国人11人が憲兵隊に軍機保護法違反容疑で一斉に検挙され、7月29日にそのうちの1人でロイター通信東京支局長のM.J.コックスが東京憲兵隊の取り調べ中に憲兵司令部の建物から飛び降り、死亡した事件。同日、日本の外務省が英国人の逮捕とコックスの死亡を発表し、死因を自殺と推定した」ものです。11人の英国人検挙者の中に神戸の貿易商フレイザー・アンド・カンパニーの大阪・神戸支店長J.F.ドラモンド(Drummond)も入っていました。翌年のゾルゲ事件摘発につながる外国人ジャーナリスト監視・弾圧強化、太平洋戦争開戦時の「敵国外国人」一斉検挙、「外人を見たらスパイと思え」の戦時国民運動につながります。コロナ禍の「自粛警察」、感染者・外国人・医療従事者・エセンシャルワーカーへの理不尽な差別を想起させます。
貿易商の主人公が満州・新京への出張旅行で見た「国家機密に関わる衝撃的な光景」とは何だったのでしょうか。映画の解説にも劇場用パンフレットにも一言も出てきませんが、これは731部隊・100部隊の研究者でなくても、森村誠一『悪魔の飽食』を読んだ人なら、すぐに気がつくでしょう。ハルビン郊外平房に本部をおいた関東軍防疫給水部731部隊の人体実験・細菌戦のことです。映画では女性勤務員の日記・証言とおぞましい映写フィルムを持ち帰ったことが軍機保護法違反、「スパイ」とされて主人公が検挙され拷問を受けますが、実際、石井四郎731部隊長は、人体実験を撮影した映画を満州現地や日本本土の講演等で使っていました。1940年の夏には、農安・新京でペストが発生しました。当時は自然感染とされていましたが、今日では日本側・中国側からの研究で、731部隊による人為的ペスト菌撒布の細菌戦の結果とされています。731部隊軍医金子順一が、戦後に伝染病研究所に勤務し東大の医学博士論文とした実験記録が、動かぬ証拠となりました。金子順一は、石井四郎等他の731部隊幹部と同様に、米国占領軍にデータを提供して戦犯訴追をまねがれ、武田薬品に勤務しました。この「国策」731部隊医学・医薬産業の伝統が、伝染病研究所から再編された現在の国立感染症研究所と東大医科学研究所等に受け継がれ、昨年来の新型コロナウィルス対策でも、政府の「専門家会議」「分科会」を通じた感染データ独占、「国策」オリンピックや「健康・医療戦略」を忖度した政府・厚労省への「助言」、治療薬・ワクチン政策等に連なっているのではないか、というのが昨年公刊した拙著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』(花伝社)の問題提起です。
私の見るところ、黒沢清監督の映画「スパイの妻」は、故黒澤明監督作品の中では、ヴェネツィア国際映画祭受賞作「羅生門」や「七人の侍」よりも、1946年の作品「わが青春に悔いなし」を想起させます。「スパイの妻」の描いた1940年は「紀元2600年」で、日独伊枢軸で世界から孤立し、「神武天皇建国祭」に合わせて計画され決まっていた「東京オリンピック」も「万国博覧会」も中止に追い込まれた、日中戦争泥沼化と日米開戦前夜でした。その時代に、日本の科学技術は、「戦時体制」の名で「国策」への「奉公」を強いられました。医学・獣医学・薬学・理学等は「大東亜医学」「最終兵器」の名で国際法違反の生物化学兵器製造に向かい、中国人・ロシア人・朝鮮人等の「抗日分子=マルタ」を細菌戦・毒ガス戦のための人体実験に使いました。法学・政治学・経済学・教育学等は、共産主義・マルクス主義を「黴菌」「ウィルス」と見なして撲滅を図り、戦時体制構築・外来思想排撃の思想・情報統制に支配されました。治安維持法改悪ばかりでなく、軍機保護法・国防保安法などで神がかりの「日本法理」を作り、自由主義や神道以外の宗教も取締と弾圧の対象にしました。そんな時代への足音が、安倍内閣の下で教育基本法改悪から特定秘密保護法・新安保法・組織犯罪処罰法、国家安全保障会議(NSC)・内閣人事局設置、集団的自衛権と日米防衛体制強化と聞こえてきて、菅内閣の新型コロナ対策と東京オリンピック強行のために、いっそう強まっています。日本学術会議の会員任命拒否は、官僚制掌握とメディア支配を前提にしての、新たな第一歩でした。再び国際的孤立と国民的「自粛」のなかで、「いつか来た道」を繰り返してはなりません。2021年を、「時代閉塞の現状」を「冷徹に考え」、理性的に脱出口を見出す年にしたいものです。
2021年を「時代閉塞の現状」から理性的に脱出する年に
2021.1.15日本でコロナウィルス感染が見つかって1年、まもなく感染者30万人、死者5千人です。世界は感染者1億人に近づき、死者は今月中に200万人でしょう。ようやく世界ではワクチン接種が始まりましたが、日本は無為無策のまま、2度目の緊急事態宣言突入です。不安と恐怖は続きます。この事態をどう見るべきかを、東大先端研児玉龍彦さんのyou tube提言「コロナオーバーシュートに立ち向かう」で学びましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=hVtn7Br-PWw
you tubeには、私が12月に「ヒロシマ連続講座」で対面講演した「ゾルゲ事件」が入りました。その前半30分は、パンデミックと映画「スパイの妻」の話です。以下の新年メッセージを読む際に、ご笑覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=EAclpuJ8E9I
2021.1.1 2021年は、2020年と一続きの、人類史上の転換点になりそうです。新型コロナウィルスの「世界的大流行=パンデミック」は止まりません。ジョンズ・ホプキンス大学のデータによる年末の世界の感染認定者数は、ひと月で1900万人増えて8200万人、死者も30万人以上増えて180万人近くで、年が明けます。アメリカ1951万・死者34万、インド1024万・死者15万、ブラジル756万・死者19万、ロシア307万・死者5万に、フランス257万、イギリス238万等ヨーロッパ主要国が増勢で続きます。対策優等国といわれたドイツも170万人に。BBCの下図では、大陸別データで「オセアニアは感染報告数が少ないため除外」とありますが、すでに南極にまで到達しました。ウィルスは、各地で変異を繰り返し、特にイギリス型や南アフリカ型は感染力が強いといわれますが、東アジアで相対的に感染を抑えている「Xファクター」の正体同様、医学的には分かっていません。 未知の恐怖は続きます。
大晦日の夕刻に、東京都の感染認定者1337人、全国4500人越えというニュースが、飛び込んできました。12月の感染増加の勢いと医師会や医療従事者の悲鳴に近い叫びから当然予想されたことですが、政府も東京都も、有効な対策をとれずにきました。この感染爆発は、人災です。確かに日本は、欧米に比すれば感染者数も死者数も少なく見えます。ただし、PCR検査の絶対数が桁違いに少ないですから、実態はわかりません。東アジアでは、フィリピン・インドネシアと共に劣等国で、感染源であった中国より人口は圧倒的に少ないのに感染認定者総数は上回っています。東洋経済のデータベースが、PCR検査数や年齢別陽性者数が出ていてわかりやすくなっています。未だに一日のPCR検査は全国で最大7万人程度、そこで医療崩壊寸前となっているのはなぜでしょう。その「日本モデルの失敗」の秘密は、ようやく公共放送でも取りあげるようになりましたが、もともと新自由主義をベースとする現政権の「健康・医療戦略」は、首相官邸HPにあるように、2013 年6月、アベノミクスにおいて当初掲げた「三本の矢」の一つである成長戦略 「日本再興戦略 JAPAN is BACK」(2013 年6月 14 日閣議決定)において、「戦略 市場創造プラン」のテーマの一つに『国民の「健康寿命」の延伸』か入ったことで作られた、経済成長戦略の一環です。最新2020年3月27日閣議決定改訂版でも基本方向は変わらず、すでにパンデミックが宣言され、日本でも市中感染が進んでいたにも関わらず、「コロナ対策」は内閣官房の担当としただけです。日本の感染対策は「経済と両立」どころか、一貫して経済政策に従属してきたのです。
「コロナ重症患者を適切に治療するには、中核施設を認定して、集中的に資源を投下するしかない。これは現在の厚労省の施策と正反対だ。いまのやり方を押し通せば、多くの施設が疲弊し、PCR検査を抑制している現状では、院内感染の多発が避けられない。まさに現在の日本の状況だ」(東洋経済)とも、「必要な医療資源の分散により、新型コロナ患者を受け入れられる病床がいくらあったとしても、この病床というハードを生かすために必要なソフトに当たる「病院当たり」や「病床当たり」の医師や看護師などの医療資源が不足しているため、全病床のうちコロナ対策病床1.8%というような状況になっている」(ダイヤモンド)とも言われますが、根底には、感染症対策は「発展途上国」マターの儲からない問題とし、「高度先端医療」とその輸出に活路を見出そうとする政府の「健康・医療戦略」があります。その証拠に、厚労省は医療費削減を狙った「地域医療構想」の実現のために、病院の病床の数を削減すると給付金を支給する「病床削減支援給付金」の実施を全国の知事宛てで11月26日に通知しました。2021年度の予算案では、病床削減のためにさらに195億円が計上されています。2020年度の84億円の2倍以上です(リテラ)。当面の「感染症防止に配慮した医療・福祉サービス提供体制の確保に533億円(第3次補正は1兆6442億円)、PCR検査・抗原検査等の戦略的・計画的な体制構築には207億円(同1276億円)などを計上した。また、厚労省の人員体制の整備として、国立感染研究所の職員の定員を362人から716人と大幅に増員する」のは当然です。しかし新年度予算案であり、感染対策と成長政策が混在し、矛盾しているのです。正月明けにも国会を開いて、実効的な緊急医療対策を立てるべきです。
映画「スパイの妻」を見ました。黒沢清監督の、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞作です。主演の蒼井優、高橋一生の演技もさることながら、時代考証に監督の想いが感じられました。あらすじに「1940年、神戸で貿易会社を営む福原優作は、満州で国家機密に関わる衝撃的な光景を目にしてしまう。正義感に駆られた優作はその事実を世界に公表しようと決意するが、スパイとして疑われることになる」とありますが、冒頭で優作の取引相手の神戸の英国人貿易商が憲兵隊に検挙されます。これは、ゾルゲ事件の研究者ならピンとくる「外諜」取締、「コックス事件」の一環です。コックス事件とは、「1940年7月27日に、日本各地で在留英国人11人が憲兵隊に軍機保護法違反容疑で一斉に検挙され、7月29日にそのうちの1人でロイター通信東京支局長のM.J.コックスが東京憲兵隊の取り調べ中に憲兵司令部の建物から飛び降り、死亡した事件。同日、日本の外務省が英国人の逮捕とコックスの死亡を発表し、死因を自殺と推定した」ものです。11人の英国人検挙者の中に神戸の貿易商フレイザー・アンド・カンパニーの大阪・神戸支店長J.F.ドラモンド(Drummond)も入っていました。翌年のゾルゲ事件摘発につながる外国人ジャーナリスト監視・弾圧強化、太平洋戦争開戦時の「敵国外国人」一斉検挙、「外人を見たらスパイと思え」の戦時国民運動につながります。コロナ禍の「自粛警察」、感染者・外国人・医療従事者・エセンシャルワーカーへの理不尽な差別を想起させます。
貿易商の主人公が満州・新京への出張旅行で見た「国家機密に関わる衝撃的な光景」とは何だったのでしょうか。映画の解説にも劇場用パンフレットにも一言も出てきませんが、これは731部隊・100部隊の研究者でなくても、森村誠一『悪魔の飽食』を読んだ人なら、すぐに気がつくでしょう。ハルビン郊外平房に本部をおいた関東軍防疫給水部731部隊の人体実験・細菌戦のことです。映画では女性勤務員の日記・証言とおぞましい映写フィルムを持ち帰ったことが軍機保護法違反、「スパイ」とされて主人公が検挙され拷問を受けますが、実際、石井四郎731部隊長は、人体実験を撮影した映画を満州現地や日本本土の講演等で使っていました。1940年の夏には、農安・新京でペストが発生しました。当時は自然感染とされていましたが、今日では日本側・中国側からの研究で、731部隊による人為的ペスト菌撒布の細菌戦の結果とされています。731部隊軍医金子順一が、戦後に伝染病研究所に勤務し東大の医学博士論文とした実験記録が、動かぬ証拠となりました。金子順一は、石井四郎等他の731部隊幹部と同様に、米国占領軍にデータを提供して戦犯訴追をまねがれ、武田薬品に勤務しました。この「国策」731部隊医学・医薬産業の伝統が、伝染病研究所から再編された現在の国立感染症研究所と東大医科学研究所等に受け継がれ、昨年来の新型コロナウィルス対策でも、政府の「専門家会議」「分科会」を通じた感染データ独占、「国策」オリンピックや「健康・医療戦略」を忖度した政府・厚労省への「助言」、治療薬・ワクチン政策等に連なっているのではないか、というのが昨年公刊した拙著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』(花伝社)の問題提起です。
私の見るところ、黒沢清監督の映画「スパイの妻」は、故黒澤明監督作品の中では、ヴェネツィア国際映画祭受賞作「羅生門」や「七人の侍」よりも、1946年の作品「わが青春に悔いなし」を想起させます。「スパイの妻」の描いた1940年は「紀元2600年」で、日独伊枢軸で世界から孤立し、「神武天皇建国祭」に合わせて計画され決まっていた「東京オリンピック」も「万国博覧会」も中止に追い込まれた、日中戦争泥沼化と日米開戦前夜でした。その時代に、日本の科学技術は、「戦時体制」の名で「国策」への「奉公」を強いられました。医学・獣医学・薬学・理学等は「大東亜医学」「最終兵器」の名で国際法違反の生物化学兵器製造に向かい、中国人・ロシア人・朝鮮人等の「抗日分子=マルタ」を細菌戦・毒ガス戦のための人体実験に使いました。法学・政治学・経済学・教育学等は、共産主義・マルクス主義を「黴菌」「ウィルス」と見なして撲滅を図り、戦時体制構築・外来思想排撃の思想・情報統制に支配されました。治安維持法改悪ばかりでなく、軍機保護法・国防保安法などで神がかりの「日本法理」を作り、自由主義や神道以外の宗教も取締と弾圧の対象にしました。そんな時代への足音が、安倍内閣の下で教育基本法改悪から特定秘密保護法・新安保法・組織犯罪処罰法、国家安全保障会議(NSC)・内閣人事局設置、集団的自衛権と日米防衛体制強化と聞こえてきて、菅内閣の新型コロナ対策と東京オリンピック強行のために、いっそう強まっています。日本学術会議の会員任命拒否は、官僚制掌握とメディア支配を前提にしての、新たな第一歩でした。再び国際的孤立と国民的「自粛」のなかで、「いつか来た道」を繰り返してはなりません。2021年を、「時代閉塞の現状」を「冷徹に考え」、理性的に脱出口を見出す年にしたいものです。
地獄への道は、嘘で塗り固められている!
2020.12.1 2020年は、100年前の「スペイン風邪」に匹敵する疫病、新型コロナウィルス「世界的大流行=パンデミック」の年として、歴史に刻まれるでしょう。本サイトが毎月参照してきた米国ジョンズ・ホプキンス大学のデータでは、世界の感染認定者は6300万人、死者は145万人を越えました。各国ごとでは多少の波がありますが、世界の累計では右肩上がり一直線、ひと月で1800万人増と、感染拡大は止まりません。「スペイン風邪」は、1918年から20年にかけて、当時の世界人口の3分の1である5億人感染、最大1億人死亡とされていますから、今年の新型コロナウィルスCOVID-19は、まだそのスケールには及びません。人口も増えて、医学医療も発達しています。何よりも交通・輸送・情報手段が広がって、地球が一つになりました。それが感染爆発を地球の隅々まで及ぼしているのです。北半球は再び冬の季節を迎え、この勢いは、少なくとも2021年に引き継がれるでしょう。ワクチン待望情報が蔓延していますが、政府も御用「専門家」も信頼できないこの国では、本12月1日付け東京新聞「コロナ検証」特集「中国から世界にどう拡大したか」の中国・イタリアでの感染源再探求、児玉龍彦さんのyou tube「この冬をどう乗り切るか」でのウィルス変異第4波説(武漢型・イタリア型・東京埼玉型・スペイン型)などの情報を、自分で集めることが大切です。「スペイン風邪」という命名自体、アメリカ軍の第一次世界大戦参戦起源を隠蔽するものでした。改めて、藤原辰史さんのネットロア「パンデミックを生きる指針」を読んでみましょう。
最大の感染国、アメリカ合衆国では、感染者1340万人、死者27万人とあります。感染・死者ともに世界の5分の1です。大統領選挙では、自分も感染しマスクも着けずに大規模選挙イベントを続けた現職トランプ大統領が、再選されませんでした。とはいえ7400万票と47%の得票を得、未だに敗北を認めていない事実は残ります。バイデン民主党は感染対策に積極的で、パリ協定やWHOへの復帰など国際協調も認め、女性を幅広く登用して「普通のアメリカ」になろうとしていますが、中国との覇権争いや株価と大きく乖離した経済再建、何よりもトランプ時代に広がった格差と貧困問題、アフリカ系のみならずヒスパニック系・アジア系などを含む人種の階層性と差別の問題にどう取り組むのかは、未知数です。現在の国際関係では、米国と中国が能動的秩序形成者(maker)になり、欧州諸国や日本、インドやブラジルが秩序撹乱者(shaker)、その他の国が秩序受容者(taker)と考えられてきました。100年前の「スペイン風邪」が実は第一次世界大戦の帰趨とその後の国際秩序(ヴェルサイユ=ワシントン体制)にも重要な影響を与えたことは、最近になって注目されています。いま、私たちがさなかにいるコロナウィルスに覆われた世界が、5年後・10年後・100年後にどのような世界地図をもたらすかには、コロナ禍で進むデジタル化やロボット化に加えて、地球温暖化・気候変動も作用するでしょう。
私たちの住む国日本は、世界秩序のshakerからtakerへの後退過程にあります。名目GDPでは米国・中国に次ぐ第3位とはいえ、一人あたりでは25位まで後退しました。生産性も賃金も20位以下、女性の社会的地位については、153か国中121位です。そこに、コロナです。1980年代の新自由主義の導入とバブル経済の驕り、1990年代の冷戦崩壊・湾岸戦争への対米従属深化の適応と小選挙区制政治改革・不良債権処理金融改革の失敗、21世紀に入っての自衛隊海外派兵の恒常化と、台頭する中国・韓国への歴史的反省なき偏見・敵視、非正規・女性・外国人労働を組み込んだ格差・貧困労働社会の日常化、民主党政権への政権交代を挫折させた東日本大震災・福島原発事故。これらの経験から学ばず、新自由主義グローバライゼーションの荒波の中に「アベノミクス」なる竹槍風成長戦略で突撃し、「アメリカン・ファースト」の嘘つきトランプの懐に飛び込んで東アジア隣国との緊張激化・安全保障軍事化、自ら「モリ・カケ・サクラ」の嘘つきと公文書隠蔽、メディア統制と反知性で8年近いファシズム化への専制支配。感染症などは発展途上taker国の問題として高度医薬産業のグローバル化・輸出大国化をはかってきたのが裏目に出て、出入国管理でも「ダイヤモンド・プリンセス」号封じ込めでも医療体制の準備不足と初期対応の失敗、目玉だった改憲も東京オリンピックも政治日程からはずれ、自らの健康管理に失敗して「アベノマスク」の二番煎じ風「GoTo」政策を後継内閣に丸投げ。同じ「嘘つき」でも、マスクなしでウィルスの海に飛び込み自ら感染して選挙戦に敗れたトランプ大統領の方がまだしも「正直」に見える、倒錯した日本型コロナ政治です。
無論、その「日本モデルの失敗」のポイントは、「検査なくして対策なし」です。世界的に当たり前のPCR検査が「クラスター対策」「濃厚接触者捜し」「重症者対策」に限定されたままで、いまや感染認定者の半数を占める市中感染者・無症状感染者を野放しにしたまま「マスク・手洗い・3密注意」の「補償なき自粛・休業要請」、感染者差別・医療従事者差別、「自粛警察」が繰り返されていることです。これらは、第一波をもとに拙著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』(花伝社)に書きましたから、繰り返しません。「コロナウィルスは風邪と同程度」「発熱37度5分以上4日での行政検査で大丈夫」、さらには「感染収束後」と閣議決定されていた「GoToトラベル」の感染さなかでの出発、未だに「重症者」の定義が厚生省と東京都で食い違う不思議。感染対策でも、この国は嘘だらけです。日本学術会議会員の任命拒否問題でも、検察が動き始めた「サクラを見る会」でも、政府と首相の答弁は嘘の上塗り。ウラでは警察公安官僚が、意識的に蠢いています。2020年の世界と日本を象徴したのは、「嘘」でした。ヨーロッパの格言で、カール・マルクスも使った言葉「地獄への道は善意で敷き詰められている」になぞらえるならば、アメリカでも日本でも「地獄への道は嘘で塗り固められている」年でした。出口の見えない閉塞と苦さの中で、クリスマスと新年を迎えます。
警察公安国家への道に踏み込んだ菅内閣!
2020.11.1 今週は、アメリカ合衆国大統領選挙の投票があります。しかし、郵便投票の多い開票が、スムーズに進むとは思われません。投票所得票開票だけでのトランプの勝利宣言、開票結果をめぐっての銃を持っての内戦状態さえささやかれています。アメリカ民主主義の建国以来の危機、したがってまた、現在のコロナウィルス蔓延下での世界の行方を左右する危機に、つながりかねません。嵐の前の静けさ、いや嵐をよぶフェイクニュースとヘイトスピーチ氾濫の情報戦です。
そのアメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学のデータで、新型コロナ感染認定者900万人・死者23万人近く、犠牲者は増え続けています。まともな民主主義の二大政党制なら、新型コロナウィルスが広がり続ける中での選挙運動や暴力排除の紳士協定ができるはずですが、トランプはむしろ、分裂と対立を煽動しています。10月末の死者数は、世界で120万人近く、感染者は世界4500万、ひと月で1200万人増えました。インドが800万をこえ、ブラジルは550万、どんどん広がっています。特にヨーロッパは、第一波以上の第二波で、フランス132万、スペイン116万、イギリス96万など、寒い季節に再ロックダウン・夜間外出規制、医療崩壊寸前の国が増えています。世界経済は縮小し、リーマンショックどころか、1929年世界恐慌の悪夢(→ブロック経済→世界戦争)の再来さえ、語られています。世界は、ポスト・コロナどころではありません。アナーキーで出口の見えぬ、ウィズ・コロナのさなかです。
日本も、感染認定者が10万人をこえました。死者は1769人で、確かに欧米の大きな波に比べれば、抑え込まれているかにみえますが、「東アジア型」のなかでは最悪パターンが続いており、検査の絶対的不足の中でのGoToキャンペーンが、不安をかき立てます。東京で連日200人感染認定を越えるなかで人の流れが全国に拡散し、大都市圏のほか、北海道、青森、宮城、群馬、岡山、沖縄などで急増しています。私が安倍内閣下の第一波から検出した「日本モデルの失敗」は、菅内閣でも依然として続き、厳しい冬を迎えます。感染政策については「自助」「自己責任」を押しつけながら、金融市場では日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が株を買い占め、「公助」で株価暴落を抑えている状態、「健全な資本主義」など、そもそもありうるのでしょうか。斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)のような、人類史スパンでの大きな構想力が求められています。
菅義偉首相就任初の施政方針演説は、その語彙と迫力の貧しさ、漢字の読み違いをおいても、新味のないものでした。目玉の2050年脱炭素社会は、原発再稼働・新炉建設の意図が丸見えですし、デジタル社会化には、マイナンバーカード普及による個人情報国家管理が前提されています。むしろ、当然語るべきなのに、語られなかったことが重要です。その第一は、来年1月発効が確実になった、核兵器禁止条約(TPNW)への「被爆国」日本政府の態度、「アメリカの核の傘」を理由に国連で反対を続け、「核保有国と非保有国の架け橋」は何もせず。新たな国際法に対して、いつまで無視し続けるのでしょうか。核禁条約についてのテレビや新聞雑誌・ウェブでの発言を監視して、新たな「反政府有識者リスト」を、内閣府で作っている可能性もあります。
というのは、施政方針で触れられず、野党やメディアも指摘した第二の点、日本学術会議の任命拒否問題が、就任直後の「ご祝儀相場」を台無しにして、各種世論調査でも内閣支持率10ポイント前後のマイナスをもたらしているからです。この点は、本サイトでも、10月更新を3回加筆して抗議運動をよびかけてきましたが、すでに500以上の学協会・科学者組織が意見を表明、6人の任命拒否理由の開示と言論・思想・表現の自由、学問の自由、学術会議の独立性確保を求めています。これが、実際は杉田官房副長官・内閣人事局長と北村国家安全保障局長ら公安警察出身官邸官僚作成のリストにもとづくものであることは見え見えなのに、公式に陰険な思想調査を認めたくない菅首相は、例の「総合的・俯瞰的」から「バランス」、「民間・若手・女性・地方からの登用」「多様性」、ついには「旧帝国大学出身者の割合」などと具体化するほどに、自身の無知・無教養・反知性を暴露しています。なぜならば、私学関係者や女性を含む6人の任命拒否によって、学術会議自身が自主的に進めてきた「バランス」や「総合性・俯瞰性」が崩されたことは、明白なのですから。
安倍内閣から菅内閣に代わって、官邸官僚の中枢が経産省主導から財務省に移ったなどと言われますが、変わらないのは、警察公安官僚が政治家身体検査・官僚人事・有識者「専門家」審議会登用リストのみならず、広く言論・思想・メディア・学術・文化・宗教界にまで監視の網の目を張り、SNSやネトウヨ言論をも用いて、言論思想統制を強めていることです。ジョージ・オーウェル『1984年』風、監視国家への道です。私の新著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』でコロナ第一波の中間総括から見いだした、日本政治の問題点は、ますます深まっています。
2020.10.15 菅内閣の日本学術会議攻撃・会員任命拒否の論拠の一つとされる「総合的・俯瞰的」の根拠、調べてみると2003年2月26日の総合技術会議「日本学術会議の在り方について」で初出し、2015年3月20日の内閣府有識者会議「日本学術会議の今後の展望について」で出てきました。しかし、そのどちらの公文書・議事録を読んでも、学術会議内部での推薦方法の歴史的変化や政策提言すべき課題は出てきますが、首相の任命権で学術会議の推薦名簿を拒否したり一部を改変したりという話は出てきません。菅首相の「99人の名簿しか見ていない」という発言と照らし合わせると、杉田内閣官房人事局長・北村国家安全保障局長の公安警察・内調出身コンビを中心に、官邸官僚内部で「危ない学者リスト」にもとづき6人の名前を削った現代版レッドパージ、と推論できます。各学会を始め市民を含む様々な抗議と運動が巻き起こり、14万人以上の抗議署名も出ていますが、世論調査を見ても、まだまだ問題の重大性・深刻さは国民レベルに届いていません。さらなる努力が必要です。
10月20日に、たびたび予告してきた私の新著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』が刊行されます。同じ頃に店頭に出る『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』と照らし合わせて、店頭に出向くよりも、アマゾンや花伝社オンラインから購入し、ご笑覧ください。
2020.10.8 Changeの「菅首相に日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めます」署名、すでに14万人近くが賛同しています。だれでもウェブ上からサインできます。
https://www.change.org/p/菅首相に日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めます
2020.10.2 月替わりに「安倍晋三のとんでもない宿題」がもう一つ、それも目に見えるかたちで実行されましたので、緊急の補足。菅首相が、内閣府所管の日本学術会議の新会員候補105人中6人の任命を拒否した問題、6人全員が人文社会科学系です。推薦方式こそ創立当時の選挙制、学会・学術団体推薦制から、政府から独立した学術会議自身によるコ・オプテーション方式(現行会員推薦制)へと歴史的に変わってきましたが、総理大臣の任命権が形式的なものであることは、国会答弁でも長く認められてきたものです。今回の政府の拒否・人事介入の理由が、6人の安保法制や特定秘密保護法についての個々の発言にあり、軍事研究に反対する学術会議の存在そのものへの圧力であることは、明らかです。内閣情報調査室など政府の公安・諜報情報を統括する北村国家安全保障局長、杉田内閣官房人事局長らが、安倍内閣のもとで内閣法制局とも調整し、入念に準備してきたものでしょう。「敵基地攻撃能力」整備と、表裏の関係にあります。コロナ禍で十分な反対運動を展開できないどさくさに、学問の自由の侵害ばかりでなく、戦前滝川事件や天皇機関説事件を想起させる、「ファシズムの初期症候」の一段の深化です。米国トランプ大統領夫妻は新型コロナウィルス陽性、人間にとっての安全保障、科学者の社会的責任を、今こそ考えるべき時です。
ハンコ縮減より西暦年号を、GoToよりも検査拡大・医療支援、大学・学術支援を!
2020.10.15 菅内閣の日本学術会議攻撃・会員任命拒否の論拠の一つとされる「総合的・俯瞰的」の根拠、調べてみると2003年2月26日の総合技術会議「日本学術会議の在り方について」で初出し、2015年3月20日の内閣府有識者会議「日本学術会議の今後の展望について」で出てきました。しかし、そのどちらの公文書・議事録を読んでも、学術会議内部での推薦方法の歴史的変化や政策提言すべき課題は出てきますが、首相の任命権で学術会議の推薦名簿を拒否したり一部を改変したりという話は出てきません。菅首相の「99人の名簿しか見ていない」という発言と照らし合わせると、杉田内閣官房人事局長・北村国家安全保障局長の公安警察・内調出身コンビを中心に、官邸官僚内部で「危ない学者リスト」にもとづき6人の名前を削った現代版レッドパージ、と推論できます。各学会を始め市民を含む様々な抗議と運動が巻き起こり、14万人以上の抗議署名も出ていますが、世論調査を見ても、まだまだ問題の重大性・深刻さは国民レベルに届いていません。さらなる努力が必要です。
10月20日に、たびたび予告してきた私の新著『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』が刊行されます。同じ頃に店頭に出る『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』と照らし合わせて、店頭に出向くよりも、アマゾンや花伝社オンラインから購入し、ご笑覧ください。
2020.10.8 Changeの「菅首相に日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めます」署名、
すでに14万人近くが賛同しています。だれでもウェブ上からサインできます。
https://www.change.org/p/菅首相に日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めます
2020.10.2 月替わりに「安倍晋三のとんでもない宿題」がもう一つ、それも目に見えるかたちで実行されましたので、緊急の補足。菅首相が、内閣府所管の日本学術会議の新会員候補105人中6人の任命を拒否した問題、6人全員が人文社会科学系です。推薦方式こそ創立当時の選挙制、学会・学術団体推薦制から、政府から独立した学術会議自身によるコ・オプテーション方式(現行会員推薦制)へと歴史的に変わってきましたが、総理大臣の任命権が形式的なものであることは、国会答弁でも長く認められてきたものです。今回の政府の拒否・人事介入の理由が、6人の安保法制や特定秘密保護法についての個々の発言にあり、軍事研究に反対する学術会議の存在そのものへの圧力であることは、明らかです。内閣情報調査室など政府の公安・諜報情報を統括する北村国家安全保障局長、杉田内閣官房人事局長らが、安倍内閣のもとで内閣法制局とも調整し、入念に準備してきたものでしょう。「敵基地攻撃能力」整備と、表裏の関係にあります。コロナ禍で十分な反対運動を展開できないどさくさに、学問の自由の侵害ばかりでなく、戦前滝川事件や天皇機関説事件を想起させる、「ファシズムの初期症候」の一段の深化です。米国トランプ大統領夫妻は新型コロナウィルス陽性、人間にとっての安全保障、科学者の社会的責任を、今こそ考えるべき時です。
2020.10.1アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学のデータで、新型コロナウィルスの9月末の死者数は、世界で100万人をこえました。感染認定者数3300万人で、増加の勢いはとまりません。アメリカが711万で、インドが607万に達し、ブラジルの473万を追い越しました。以下、ロシア、コロンビア、ペルー、メキシコが続きますが、スペインの71万をはじめ、経済社会活動を再開したヨーロッパ大国での増大が目立ちます。明らかに、第二波の到来です。日本もこのパターンで、相変わらず「東アジア型」枠内で死者・感染認定者の絶対数は「欧米型」に比すれば少ないですが、大都市ばかりでなく地方でも増えており、最少の岩手県でも23人、私の住む都下国分寺市も100人に近づいています。
安倍晋三後任の自民党総裁選挙は、予想通りの派閥相乗りで、菅義偉首相が誕生しました。何しろ8年近い安倍内閣の官房長官で森友・加計・桜を見る会スキャンダル隠蔽の総責任者でした。独自の政策もなく、アベノミクスとアベ外交の継承を謳っていて、実務能力はあっても政治理念や哲学は感じられません。内閣の構成も「第3次安倍内閣」風で、新味はありません。メディア誘導と統制はいっそう強化されて、世界のコロナ禍から日本を切り離し、デジタル庁やケータイ値下げ、印鑑(ハンコ)縮減に目を向けさせるかたちです。日本の科学技術の全体的退潮や公文書の西暦表記一元化には、考えが及びません。安部支配からの変化の期待で内閣支持率は上がっても、早晩実力が見えてくるでしょう。
強いて挙げれば、安倍晋三の「美しい国」から「自助・共助・公助」への標語変換に菅色を出そうとしていますが、これは「小さな政府」を謳った新自由主義の、公的責任回避・社会保障削減の古くさい論理です。最も「公助」が切実に必要とされるコロナ第二波渦中で、さすがに評判が悪く、あわてて「そして絆」を追加しましたが、生活保証も休業補償もない「自粛」最優先の経済社会活動再開、あらゆる領域での「自助=自己責任論」の跋扈が続きます。その結果としての「自粛警察」や「マスク警察」、感染者バッシングの同調圧力には手をつけず、PCR検査の拡大や医療機関支援も後手後手のケチケチです。経産省出身の今井尚哉首相補佐官・秘書官らが後景に退きましたが、和泉洋人補佐官や北村滋国家安全保障局長は留任で、総元締めの杉田和博官房副長官・内閣官房人事局長がにらみを効かせていますから、官邸官僚主導・高級官僚人事の実質支配の構造は手つかずです。「日本モデル」の失敗を導いた安倍内閣の経済成長優先「健康・医療戦略」は続きます。
安倍晋三は、退任に当たって、とんでもない宿題を菅内閣に託しました。「敵基地攻撃能力」すなわち先制攻撃権の検討です。任期中の明文改憲が果たせなかったところで、次善の策の解釈改憲を拡大しようとするものです。安保法制で集団的自衛権を、「武器輸出3原則」を「防衛装備移転」と言い換えて武器輸出を可能にした、あの手法です。しかも担当大臣は安倍晋三の実弟、岸信介孫の岸信夫ですから、安倍晋三の「院政」が続くでしょう。沖縄の米軍基地移転問題も、韓国・中国との関係修復も打開策はなさそうです。すべては11月のアメリカ大統領選挙の結果次第でしょう。新型コロナウィルスと「安部ウィルス」に二重に汚染されたこの国の苦難は、依然として続きます。この辺詳しくは、夏に書いたコロナ第一波の中間総括『パンデミックの政治学ーー「日本モデル」の失敗』(花伝社)が10月20日に刊行予定ですので、ぜひご参照を。
安倍晋三は去る、しかし「安倍ウィルス」の蔓延は続いている!
2020.9.1 アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学のデータでは、8月30日現在、新型コロナウィルスの感染認定者は世界全体で2481万2440人となっています。亡くなった人は83万8704人に上っています。感染者が最も多いのはアメリカで593万9591人、ブラジルが380万4803人、インドが346万3972人、ロシアが98万2573人、ペルーが62万9961人、亡くなった人が最も多いのはアメリカで18万2217人、ブラジルが11万9504人、メキシコが6万3146人、インドが6万2550人、イギリスが4万1585人です。
イギリスBBCの表現を借りれば、「感染者が最初の10万人に達するには67日かかったが、次の10万人確認は11日、その次の10万人確認はわずか3日しかかからなかったのだ」。WHOのマーガレット・ハリス医師は、「私たちは今なお、加速を続ける激しい、そしてきわめて深刻なパンデミックのただなかにある」と話した。「世界のあらゆるコミュニティーでパンデミックは続いている」。「人間が密集すればウイルスは伝播する。この真実があるからこそ、いまパンデミックの震央になっている中南米の状況が説明できる。インドでの感染者急増も同様だ。香港が感染者を隔離施設に収容しているのもそのためだし、韓国当局が市民の銀行口座や携帯電話を監視しているのも同じだ。だからこそ、欧州各国やオーストラリアは、ロックダウン(都市封鎖)と感染封じ込めのバランスをいかにとるかで苦労している。そして私たちは、以前の日常生活に戻るよりは、「新しい普通」、「新しい日常」を模索しているのだ。「このウイルスは惑星のあちこちで広まっている。私たち一人ひとり、全員に影響している。人間から人間へと伝染し、私たちがみんな結びついてつながっていることを浮き彫りにしている」。ロンドン大学セントジョージ校(医学専門)のエリザベッタ・グロッペリ医師はこう言う。「旅行や移動だけでなく、一緒に話したり、一緒に時間を過ごしたりする。人間とはそういうものだ」。一緒に歌を歌う。ただそれだけの素朴な行動が、ウイルスを広めてしまう(BBCニュース、8月11日)ーー同じ島国でも、イギリスと日本の公共放送の報道の視角は、ずいぶん違うようです。インドでは、8月末に感染者がT日8万人に達しました。日本でも「第二波」は、確実に起こっていました。経済再開を急ぐ政府が、認めたくないだけです。
世界のパンデミックのさなかに、日本では、安倍晋三長期政権の終焉、国民にとっては大きな、自民党内ではなぜかいつもの、政局・政変です。「ようやく辞めた」というのが率直な印象ですが、病気を理由にした政権放り出しで、この8年近い「ファシズムの初期兆候」の残滓はあまりにも大きく、簡単に反転するとは思えません。外交・安全保障はもとより、内政の構造も、新型コロナウィルスよりずっと前から、「安倍ウィルス」に感染し、蔓延していました。まずはアベノミクス、金融・財政政策をテコに経済成長をめざし、デフレを終わらせ雇用・賃金も保障するとしましたが、非正規雇用だけが増えて格差は広がり、国際競争力も労働生産性も下がるばかりで、トリクルダウン効果はあがりませんでした。消費税を選挙の道具にし、原発再稼働から原発輸出までを推進し、挫折しました。集団的自衛権を認めて新安保法を強行し、森友学園・加計学園・桜を見る会・黒川検事長定年延長問題、河合前法相夫妻公選法違反事件など「権力の腐敗」「政権の私物化」としかいいようのない不祥事が続き、ついには、公文書までが隠蔽され、改竄されました。マスコミの中に「アベ友」をつくり、テレビ番組からSNSにまで批判言論つぶしの監視を進めました。最期まで東京オリンピック開催にこだわり、緊急医療資源にまわすべき膨大な財源が費やされました。かけ声だけの「安倍外交」は、拉致問題もロシア領土交渉も暗誦にのりあげ、中国・韓国との関係もぎくしゃくして、アメリカのトランプ大統領から高価な兵器を買わされるだけでした。核廃絶にも沖縄米軍基地問題にも、むきあおうとはしませんでした。
本サイトは、日本の新型コロナウィルス対策失敗の大きな要因を、安倍内閣「健康・医療戦略」に求めてきました。アベノミスクの第三の矢「成長戦略」の一環で、ガン特効薬やゲノム解析に投資して「高度先進医療」技術を海外輸出し、他方で医療費削減・病院再編の効率化、保健所やベッド数削減を進めてきました。2009年の新型インフルエンザのパンデミックに対して、ちょうど自公政権から民主党政権への政権交代期にあたり、感染症「専門家」が医療器材の備蓄やPCR検査の拡大等も提言しましたが、第二次安倍内閣が「悪夢の民主党政権」を全否定して、先進国では最低レベルの貧困な装備・人員で、2020年の新型コロナウィルス・パンデミックに遭遇することになりました。そのツケが、中国武漢での蔓延からクルーズ船「ゴールデン・プリンセス号」封じ込めの初動の不手際から、PCR検査の絶対的不足、医療崩壊寸前までいった院内感染・受入病院の経営圧迫、休業補償を伴わない自粛・休業要請、果ては「アベノマスク」からステイホーム動画、感染拡大下のGOTOトラベル・キャンペーンのような愚策を産み出してきました。一方で病院・保健所・ベッド数を削減し、他方で後手後手の感染症対策ばかりの、「安倍ウィルス」に汚染された「健康・医療戦略」が改められない限り、日本の「経済成長」主導のコロナ対策は続きます。安倍首相がいなくなっても、「安倍ウィルス」に汚染された官邸官僚主導政治、権力私物化の構造、国会無視の自民党「一強政治」が継続される限り、私たちは「コロナウィルス」と「安倍ウィルス」に対する、二重の感染対策を求められます。
下記の新型フェイスブック・ウィルスの拡散に当たっては、多くの皆様に、ご迷惑をおかけしました。何人かの高齢の友人がクリックしてしまって、パスワード変更等を余儀なくされましたが、幸い若い世代ほどスパム拡散やウィルス・セキュリティに慣れていて、うまくやり過ごしたようです。ここでも、高齢者・重症者が狙われます。最新のセキュリテイ・ソフトを入れて、個人情報を保護する防御策をお勧めします。ちょうど今頃は、台風の季節、昔学生たちを連れて沖縄に入り、3日3晩、ホテルにかんずめのゼミ旅行もありました。沖縄は、コロナウィルスの感染が広がり、修学旅行など観光客も激減し、米軍基地の辺野古移転反対運動も困難をきたしています。このコロナ禍での、香港の民主化運動、アメリカでのBlack Lives Matter の広がり、ベラルーシの3週連続10万人反独裁デモ、 ドイツでの「反マスク」運動を含め、社会運動でも、BBCのいう「新しい普通」「新しい日常」のあり方が模索されているようです。
2020.8.4 Facebookで私とつながっている皆さんに、緊急アラート。本日20時20分頃、加藤の名のMessengerで、一斉に「このビデオはいつですか」というスパムメッセージが 送られたようです。絶対に開かないでください。開いた方は、FBアカウントとパスワードを要求されますが、絶対に入れないでください。もしうっかり入れた人は、直ちにパスワードを変更してください。そうしないと、個人情報が盗まれた、被害者であるあなたの名前で、つながっているみんなに「乗っ取り」スパムが広がり、加害者になります。もう一ヶ月前くらいから出回っているという、まさに新型SNSウィルス(スパム拡散)で、うっかりしていました。ご迷惑をおかけした人には、はじめは Messengerでいちいちお詫びと注意を返信しましたが、どうやら数百人に送られたらしいことがわかり、まずは自分のアカウントのパスワードを変更し、Facebook の投稿機能を使って、「このビデオ」メッセージをクリックしないこと、アカウントとパスワードを入力しないこと、万が一入力したら直ちにパスワードを変更することを、お願いしました。ご迷惑をおかけした皆様には、こころよりおわびいたします。
私の失敗は、最初のMessengerが、一日前の某テレビ局のディレクターをしている教え子からの「このビデオ」メッセージであったこと。てっきり彼の作った番組が you tube になったのかとアカウントとパスワードを入れ、クリックしても開かないので、「見られません」と返事したところ、本人から「これは自分の名を使った乗っ取りメールらしい」と次のメッセージがきて、納得してしまいました。そこで直ちにパスワードを変更すれば、まだ自分だけで済んだのかもしれませんが、あいにくそのテレビ局の報道記者と昼に会ったばかりで、問題の深刻さと広がりに、気がつきませんでした。自分のアカウントが乗っ取られて、あわててグーグルで調べ、感染が広がり自分が「陽性」で重症であることを知りました。コロナウィルスと同じで、初動対応と無症状でも検査が重要であることを、痛感しました。一応、2時間以内に手当てしましたが、自然のウィルスと同じくらい、人工ウィルスもずる賢く、いくつか変種があるようです。とりあえず、おさわがせしました。
検査難民を救え! だれでもいつでもどこでも何回でも、国費で無料のPCR検査を!
2020.8.4 Facebookで私とつながっている皆さんに、緊急アラート。本日20時20分頃、加藤の名のMessengerで、一斉に「このビデオはいつですか」というスパムメッセージが 送られたようです。絶対に開かないでください。開いた方は、FBアカウントとパスワードを要求されますが、絶対に入れないでください。もしうっかり入れた人は、直ちにパスワードを変更してください。そうしないと、個人情報が盗まれた、被害者であるあなたの名前で、つながっているみんなに「乗っ取り」スパムが広がり、加害者になります。もう一ヶ月前くらいから出回っているという、まさに新型SNSウィルス(スパム拡散)で、うっかりしていました。ご迷惑をおかけした人には、はじめは Messengerでいちいちお詫びと注意を返信しましたが、どうやら数百人に送られたらしいことがわかり、まずは自分のアカウントのパスワードを変更し、Facebook の投稿機能を使って、「このビデオ」メッセージをクリックしないこと、アカウントとパスワードを入力しないこと、万が一入力したら直ちにパスワードを変更することを、お願いしました。ご迷惑をおかけした皆様には、こころよりおわびいたします。
私の失敗は、最初のMessengerが、一日前の某テレビ局のディレクターをしている教え子からの「このビデオ」メッセージであったこと。てっきり彼の作った番組が you tube になったのかとアカウントとパスワードを入れ、クリックしても開かないので、「見られません」と返事したところ、本人から「これは自分の名を使った乗っ取りメールらしい」と次のメッセージがきて、納得してしまいました。そこで直ちにパスワードを変更すれば、まだ自分だけで済んだのかもしれませんが、あいにくそのテレビ局の報道記者と昼に会ったばかりで、問題の深刻さと広がりに、気がつきませんでした。自分のアカウントが乗っ取られて、あわててグーグルで調べ、感染が広がり自分が「陽性」で重症であることを知りました。コロナウィルスと同じで、初動対応と無症状でも検査が重要であることを、痛感しました。一応、2時間以内に手当てしましたが、自然のウィルスと同じくらい、人工ウィルスもずる賢く、いくつか変種があるようです。とりあえず、おさわがせしました。
2020.8.1 梅雨はあけても、新型コロナウィルス感染の「恐怖と不安」は、おさまりません。政府の「GoTo トラベル」キャンペーンによって、むしろ、強まるばかりです。7月は、自宅に蟄居し自粛して、単行本「パンデミックの政治学ーー日本モデルの失敗」(仮題)の執筆に、専念していました。まだ出版社に原稿を送ったばかりですが、以下のように構成しました。
- 未知との遭遇――パンデミック第一波と日本モデル
- 感染源をめぐる米中情報戦とWHO(「チャイナ・ウィルス」対「米国生物兵器」?)
- 自国ファーストと政治的リーダーシップ(安倍内閣「健康・医療戦略」と今井尚哉・北村滋)
- 専門家会議、感染研と731部隊の亡霊(731部隊・旧伝研・予研人脈と「国産ワクチン村」)
- 官邸官僚主導のアベノマスクの悲喜劇(経産省に拠った首相官邸・厚労省の愚策}
- 東京オリンピックはどうなる?(1940年「幻のオリンピック」の再来か?)
ここ数年、ゾルゲ事件や関東軍731部隊の歴史的研究に集中してきたのに、敢えて再び時局の情報戦を分析したのは、消極的には、外出ができず図書館も使えない環境によってですが、より積極的には、今なお世界で広がり続け、日本でも第二波到来かと見られるのに、日本政府と「専門家会議」の後手後手の対応と愚策にあきれ、怒りを覚えたからです。政治学者として何が言えるかと考えて、本サイトで「ファシズムの初期症候」と診断してきた安倍内閣の政策決定の裏側を、パンデミック=世界的感染爆発という「例外状態」のなかで、考えようとしました。先ず目についたのは、中国・武漢での感染爆発を「対岸の火事」と見る危機感の欠如でした。それがクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」対応の失態につながりました。
それが何故かを調べてみると、2009年の麻生内閣末期に始まり、政権交代後に民主党が対応した、2009年のパンデミックの経験が活かされていないことがわかりました。2009年4月にメキシコに発した新型インフルエンザは、5月には日本にも入ってきましたが、ちょうど自公麻生政権の末期で、もっぱら舛添要一厚労大臣が対応しました。民主党への政権交代で、その収束と「専門家会議」による感染症対策上の総括は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の制定と共に、民主党政権に任されました。そこでは、新型ウィルスのための検疫・医療体制、医療機器・人材の備え等も提言されていましたが、その教訓は、すぐに忘れられました。自公の第二次安倍晋三内閣ができて、ちょうど脱原発が原発再稼働・原発輸出に政策転換されたように、感染症対策は、安倍内閣「健康・医療戦略」の片隅に追いやられました。2009年の「専門家会議」提言の内、2020年の新型コロナウィルス対策に使われたのは、「発熱外来」を「帰国者・接触者外来」に改めて、検査の窓口と対象者を絞り込む仕組みぐらいでした。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)を経験し備えていた、中国・韓国の コロナ対策との、分岐点になりました。
そればかりではありません。2014年に閣議決定された安倍内閣「健康・医療戦略」は、日本社会の高齢化と新自由主義と共に始まった医療費抑制、医療・介護保険制度見直し、病院・保健所削減・再編成、空きベッド数削減など福祉支出抑制の諸政策に加えて、安倍内閣の目玉である「アベノミクス」に従属し、健康・医療分野での「選択と集中」成長戦略の一部でした。そのため、世界市場への競争参入が期待できるゲノム解読、ガン撲滅・新薬開発、国産ワクチン開発等に予算がまわされ、伝統的感染症対策や基礎研究は、施設・設備・人員が減らされました。「健康・医療戦略」での感染症対策とは、発展途上国からの入国規制・検疫と、「世界最高の医療技術」の輸出に特化したものでした。そのため、2020年度通常予算で、厚生労働省は84億円で13万病床を削減する計画を通過させながら、補正予算では、その半分の予算で新型コロナ対策の病床・人員を増やさなければならない、倒錯した対応になったのです。いま国民が切実に求めるPCR検査が、初動から「帰国者接触者外来」の窓口から、保健所→地方衛生研究所→厚労省・国立感染症研究所の「行政検査」として重症者・高齢者に限定され、いまだに具合が悪くてもPCR検査を受けられない、「検査難民」続出の状況を作りだしています。
その理由は、はっきりしています。PCR検査の絶対的不足で、感染実態そのものが、いまだに不明なのです。(1)中国での発症を安倍首相他官邸が「対岸の火事」と見て、4月に予定された習近平国家主席の国賓来日や夏のオリンピックという政治日程を優先し、危機感を持たなかったこと、(2)厚生労働省も直接担当する感染症研究所も、感染症対策予算・要員を減らしてきた流れで、必要な準備態勢、検査場所・機器・試薬・技師など要員も不足したままパンデミック第一波を迎え、(3)感染研関係者を中心とした「専門家会議」と厚労省「医系技官」は、その醜態を隠すために、「若い人や子供は大丈夫」「インフルエンザと大きくはかわりはない」から「37度5分以上発熱4日」や「医療崩壊を招くおそれ」「PCR検査も完全でない」などあらゆる口実で、「帰国者接触者外来」=地域保健所ー都道府県ー政府の「行政検査」にこだわり続け、(4)後手後手の感染対策と「補償なき自粛・休業要請」による生活崩壊への世論の批判が高まり、民間検査への保険適用でPCR検査数は多少増えても「検査難民」解消にいたらず、(5)5月からの経済社会活動再開優先が、ついに「GoToトラベル」キャンペーンが、感染第二波を招く「GoToトラブル」になりました。
いまや、世界で1760万人が感染し、すでに68万人の命が失われた、勢いの衰えない「100年に一度のパンデミック」のなかで、気がついたら、この国は、人口あたり死者数は欧米に比すれば少ないとはいえ、東アジアでは最悪です。PCR検査数にいたっては、発展途上国以下で「世界215か国中159位」です。この「パンデミック世界を漂流するクルーズ船」から脱するためには、感染政策をアベノミクスに従属した「健康・医療戦略」の呪縛から解き放つこと、感染症対策の王道に立ち返って、WHOのいう「検査、検査、検査、そして隔離」、ニューヨークでさえ甚大な犠牲と損失に学んで始めた、「だれでも、いつでも、どこでも、何回でも受けられるPCR検査」、それも、わたしたちの払った税金による無償検査に、踏み切ることです。7月19日、「15年戦争と日本の医学・医療研究会」の設立者で名誉幹事長であった、金沢城北病院の莇昭三医師が、お亡くなりになりました。享年93歳の天寿とはいえ、私の731部隊研究では大変お世話になった恩師で、このコロナ禍でこそ、まだまだお話を聞きたかった、民衆の中で庶民に寄り添った医師でした。かえすがえすも、残念です。こころより、ご冥福をお祈りいたします。
政治と科学の境界:使い捨てられた専門家会議
2020.7.1 恐怖と不安に始まった今年の冬は、春がないまま、あっという間に夏です。もちろん、「国民的イベント」になるはずだった東京オリンピックなど雲散霧消で、東京都民でさえ、過半数が1年延長された来夏の開催を疑っています。新年に月一回更新と宣言した本サイトも、新型コロナウィルスCOVID-19につきあわないわけにはゆかず、結局月二回の「パンデミックの政治」8回連載を、「東アジアで最悪でもG7「モデル国」になった日本の不思議」で中締めしました。この半年で、地球上では、1000万人の感染者が確認され、そのうち50万人がいのちを失いました。その何倍もの人が、家族や友人を失い、直接コロナによる死ではなくても葬儀にも出られず、永遠の別れとなりました。私事に渡りますが、6月は岩手・盛岡で、実母の13回忌がありました。東京からの出席は諦めました。全国唯一の感染認定者ゼロ県岩手県では、「いつ何処で誰が最初の感染者になるか」で、誰もが神経ぴりぴり、戦々恐々とのことでした。岩手県知事と地元新聞が、「最初の感染者を責めません」「優しく迎え、見守りましょう」と訴えたとか。
しかし、世界では欧米先進国から中南米、南アジア、中東、アフリカへと感染爆発が広がり、貧しい国と人々、人種・民族的に差別されてきた人々、外国人労働者、スラム街や難民収容所など水も住まいも十分でない地域の人々に、犠牲が集中しています。6月30日朝日新聞の「データで読み解くコロナ感染 世界をどう侵食したのか」の下図が、問題をクリアーに表しています。日本でも、ウィルス感染と経済的・社会的格差が連動し、非正規労働者や医療・介護労働者にしわよせされ、カラオケや飲食業など接客業種への差別が、公然と行われています。「自粛警察」から「夜の街パトロール・自警団」、ついには「マスク警察」まで現れて、第二次世界大戦中の隣組・隣保組織を思わせる同調圧力・異端排除が強まっています。マスコミではほとんど報道されない、見放された外国人労働者や留学生の苦難が、この国の将来に影を落とします。
本サイトで、戦前731部隊の亡霊まで遡って問題にしてきた、政府の「専門家会議」が、安倍政権がもともと抱えてきた感染症軽視・経済再建優先政策のあおりで、6月24日、突然「廃止」されました。東洋経済オンライン「コロナ専門家会議が解散するまでの一部始終」が、釜萢敏日本医師会常任理事とのインタビューで、経緯を明らかにしています。政府のタテマエは「法律に基づくものでなく、位置づけが不安定だった」ので、新型インフルエンザ等対策特措法に基づいて設置されている「新型インフルエンザ等対策有識者会議」の下に、新たに「分科会」を設ける、となっていますが、実態は、科学と政治の矛盾に気づいた「専門家会議」メンバーがようやく自発的発言をはじめ、それをうとましく感じた安倍首相・官邸官僚・厚労相医系技官グループが、用済みとして使い捨てたということのようです。
「専門家」釜萢敏氏のインタビューには、いくつか重要な証言があります。2月17日の第1回会合で「受診・相談の目安」についても議論され、その内容が「検査難民」を生み出したと後に大きな問題となるが、「当時はそこまでの認識はなかった。というのも、インフルエンザの流行時期にあり、症状が急激に発現するインフルエンザと比較して、発症から症状がだらだら続くことが鑑別に役立つ可能性を考慮した。発症から4日以上経過しないと相談・受診できないという運用につながるとは予想できなかった」と。政府の弁明よりは正直です。
政治介入で「無症状者による感染」が削られたというNHK報道もありますが、釜萢氏は「東京オリンピック・パラリンピックの招致の問題があり、延期が決まった3月24日まで、出入国管理の話題は扱いが微妙だった」「もっと早く出入国規制に踏み切ることができていれば、感染者は少なくて済んだと思う」と率直です。「入院医療のパンクを回避するうえで大きかったのが、4月2日付けでの退院基準の見直しだった。それまでに感染した人は症状の有無にかかわらず全員を入院させていたが、宿泊施設や自宅での受け入れも可能にした。当時、自宅療養は管理の目が届きにくく、家庭内感染のリスクがあるのでやめたほうがいいと申し上げたが、厚労省はむしろ積極的だった。その後、自宅で療養していた患者さんのうちで急に状態が悪化して救急搬送されるケースが相次ぎ、宿泊施設における健康観察が主流になった」。なるほど「専門家」の意見と厚生省の方針には、違いがあったようです。
だが、政府が不作為・後手後手対応だった故の、慢心もあったようです。「国民に直接訴えかけることの是非については、メンバーの中でもさまざまな議論があった。そもそも専門家会議は、国からの諮問に対して答申を行うのが役目だった。しかし、政府はクルーズ船への対応をはじめとした一連の対策にてんてこ舞いで、国民が求めるメッセージを十分発信できていないという感じが強かった」「政府の諮問に答えるだけでなく、公衆衛生や医学、医療提供にたずさわってきた専門家として、分析した情報を国民に直接伝える役目を担うべきではないかという議論になった。そのことについてメンバー全員の合意が得られたことから、「1〜2週間が瀬戸際」という見解の表明につながった。このことは尾身茂副座長のリーダーシップによるところが大きかった」ここから、首相の記者会見にまで「専門家会議」が立ち会うことになったようです。
こうして「専門家会議」が、無為無策・無責任の安倍内閣の手で、感染政策立案の主役におしやられ、クラスター対策中心、重症者・高齢者中心のPCR検査制限等、大きな混乱をもたらしたことは間違いありません。そればかりか、人口あたりの死者数が欧米大国に比して少なかったことから、安倍首相によって「日本モデル」とまで持ち上げられ、「成功」と判定されました。今度は経済再建だからと言う口実で、体よく舞台から下ろされたかたちです。しかし、本来この「専門家会議」の議事録を含む第一波の本格的総括こそ、日本の第二波・第三波に備える準備になるでしょう。本サイトは、そもそも戦前防疫体制=731部隊に遡って「専門家会議」の構成を問題にしてきた上昌広さんの歴史的視角に、多くを学んできました。児玉龍彦さんの「日本の対策「失敗」 第2波へ検査拡充せよ コロナの実態把握訴え」という診断が、的確だと考えます。そして、人文社会科学の原点に立ち戻って、藤原辰史さんの4月のネットロア「パンデミックを生きる指針ーー歴史研究のアプローチ」の再読を、強くお勧めします。パンデミックは、終わっていません。これからも、いのちとくらし、基本的人権の重要問題です。
東アジアで最悪なのに、G7「モデル国」になった日本の不思議 [パンデミックの政治 8・小括]
2020.6.1 東京郊外、国分寺の我が家にも、ようやく布製アベノマスクが届きました。近所のホームセンターには、すでに中国製のスマートな不織布マスクが一枚50円ほどで出回っていますから、不要です。一人あたり10万円の給付金申請用紙も、何もしていませんが、郵送で届きました。マイナンバーなど書く必要もなく、国分寺市はマイナンバー・オンライン申請を認めなかったので、かえって早く届いたようです。全国ではマイナンバーがらみのトラブル続出で、100万人以上の大都市のほとんどは6月給付で、5月末の支払いに間に合わない悲劇が膨大に生まれています。個人事業者への持続化支援金は、経産省・中小企業庁から手数料769億円で怪しげな竹中平蔵のパソナ系トンネル会社に丸投げされ、20億円中抜きされて、電通に749億円で仕事が任されました。申請手続きは杜撰で、トラブルが続き、遅れに遅れている間に、20億円がトンネル会社の利権になりました。竹中平蔵のパソナは、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」でも申請窓口になっていました。「アベノマスク」の466億円、不良品検品経費8億円に似ています。危機につけこむ「コロナビジネス」と、政治家の影です。ようやく5月25日に、日本の緊急事態宣言が、解除されました。「余人をもって代えがたい」はずだった黒川検事長の新聞記者との「3密」賭け麻雀発覚、懲戒処分無しの辞職の問題を、うやむやのうちに収束させるために、「自粛」解除が急がれたかのようです。
安倍晋三首相は、緊急事態宣言を全国で解除する5月25日夕の記者会見で、新型コロナウイルスについて「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」「わが国では、人口当たりの感染者数や死亡者数をG7(先進7カ国)の中でも圧倒的に少なく押さえ込むことができています。これまでの私たちの取り組みは、確実に成果を上げており、世界の期待と注目を集めています」と誇らしげに述べました。東京都や北九州市を見ると、まだ本当に「第一波」が収束したかどうかも不確かですが、いまだにPCR検査をまともにできず、院内感染で医療崩壊寸前までゆき、感染対策は後手後手で、経済再開に前のめりです。それでも公式死亡者数が欧米に比すれば少なくて済んでいる現状を追認し、むしろそれを世界に誇るという、傲慢で奇妙な構図です。無論、その背景は、膨大な犠牲者を出しながら、欧米大国がロックダウンを緩和して経済社会再建に向かい、治療薬やワクチン開発のグローバル医療ビジネスの競争が始まったこと、何よりも、庶民の生活・文化の耐えうる限界を越え、ストレスが充満してきたことです。世界では、5月31日現在感染認定606万人、死者37万人で、ブラジル、ペルーほか中南米で猛威をふるい、アフリカの感染も、ある程度統計が信頼できるエジプト、南アフリカで2万人越えです。感染180万人・死者37万人の最大感染国アメリカでは、まだ毎日犠牲者が増えているのに、トランプ大統領は、秋の大統領選再選をにらみ経済再開を優先しました。このことが、ヨーロッパ大国とともに、世界的な「第一波」中間総括の流れを作り出しました。
下の「朝日新聞」5月26日記事「「不可解な謎」 欧米メディアが驚く、日本のコロナ対策」の図、より詳しい「ウェブ医事新報」の菅谷憲夫さん「日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数はアジアで2番目に多い」の比較表が明快に示しているように、確かに欧米大国との比較では、桁違いに人口あたり死者数は少ないのですが、それは、発症地中国を含む東アジア・大洋州諸国全体の「第一波」の特徴であり、その「東アジア型」の中では、日本はむしろ、最悪の国、感染対策の劣等生になります。したがって感染対策としては、「日本モデル」ではなく、「東アジア型モデル」こそ、解明されなければなりません。日本人の国民性、「マスク文化」、補償がなくても「自粛」する同調圧力等は、むしろ「東アジア型モデルの中での日本の失敗」においてこそ、論じられるべきです。例えばマスクは、花粉症期の日本ばかりでなく、大気汚染の北京や、民主化運動の香港で、よく見られました。「欧米型」の最悪は、いうまでもなく「コロナ失政でパニック」のトランプのアメリカです。対中対決、WHO脱退は秋の再選向けパフォーマンスで、危ういロックダウン解除・経済再開を進め、その結果が、スラムに住む貧しいアフリカ系・ヒスパニック系の人々のなかでの感染爆発、人種問題の再燃です。6月末にG7をワシントンDCで開き第一波収束を世界にアピールしようとしましたが、真っ先に出席の手を挙げた日本の安倍首相はともかく、ドイツのメルケル首相は断り、結局、9月の国連総会時に延期になりました。ちょうど、安倍首相にとっての東京オリンピックのように、「正常化」を示威する政治的イベントの企みは、コロナの感染力に対しては無力です。
もう一つ、地球全体をおおいつくしたCOVID-19ウィルスへの民衆救済のプログラム、そのナショナルな対応にあたっては、政治のリーダーシップが問われます。民衆が恐怖と不安を抱くパンデミックの危機に当たっては、おおむね政府の民衆への強いアピールと国民の政府への信頼・救済願望から、政権への凝集力が生まれ、権力が強まるのが通例です。ここで は、ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相、台湾の蔡英文総統ら女性指導者のアピールと指導力が高く評価されています。しかし日本の安倍首相は、国民に訴える力が弱く、思いつきの全国一斉休校やアベノマスク、くつろぎ動画などピント外れのパフォーマンスと、必要な感染防御策のサボタージュ、「専門家会議」への丸投げ、後手後手の医療関係者・病院支援、それに、改憲を狙った緊急事態権限行使と私利私欲の透ける検察介入、政策過程の議事録も残さないずさんな官邸政治で、すっかり国民の信頼を失いました。国際的には「支持率が下がったのは日本とブラジルだけ」、つまり最悪の政治指導者と評価されています。どうやらこの政治的指導の無策こそが、「東アジア型モデルの中での日本の失敗」を説明するようです。
もっとも新型ウィルスのパンデミック、欧米型感染爆発・高死亡率と日本の低死亡者数の対比については、山中伸弥教授の述べた「ファクターX」が、第一波を小括し、第二波・第三波に備えるうえでの、一つの焦点になります。それが、治療薬やワクチン開発のグローバル医薬ビジネスにも通じる可能性があるからです。「ファクターX」の候補として、山中教授は、「新型コロナウイルスへの対策としては、徹底的な検査に基づく感染者の同定と隔離、そして社会全体の活動縮小の2つがあります」、日本は「他の国と比べると緩やかでした。PCR検査数は少なく、中国や韓国のようにスマートフォンのGPS機能を用いた感染者の監視を行うこともなく、さらには社会全体の活動自粛も、ロックダウンを行った欧米諸国より緩やかでした。しかし、感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んでいます。何故でしょうか? 私は、何か理由があるはずと考えており、それを「ファクターX」と呼んでいます。ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです」として、「ファクターXの候補」を、@クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策、Aマラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有、Bマスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識、Cハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化、D日本人の遺伝的要因、EBCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響、F2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響、Gウイルスの遺伝子変異の影響」などが考えられるといいます。
欧米から見れば「奇妙な成功」である「日本モデル」の謎は、山中教授の「ファクターX」で、ある程度推論可能です。しかし「東アジア大洋州モデル」の説明としては、BCなどの文化的理由は必ずしも一般的ではなく、Aの危機感と@の献身的医療努力はむしろ世界共通で、欧米型ロックダウンにも含まれています。むしろ、危機感の強弱による初動の素早さが、ポイントでしょう。中国沿岸部を含む「東アジア型」の説明には、やはりDEFGの医学的・遺伝学的検討が必要でしょう。すでに600万人以上の感染認定者の検査によって、COVID-19の変異を含む膨大な遺伝情報(ゲノム)がみつかって、5万本以上の論文が出ています。大きく中国型・欧州型・米国型(西海岸型・東部型)ともいわれます。ここは、世界的な医師・医学者たちの「中間総括」にまかせましょう。「日本モデル」との関係では、1月武漢での発症、クルーズ船対応以来の日本の感染症対策、政府・厚生労働省の対応、とりわけ内閣新型コロナウィルス感染症「対策本部」、新型コロナウイルス感染症対策「専門家会議」、それに緊急事態宣言を発し解除した「基本的対処方針等諮問委員会」の、それぞれの中間総括が必要とされます。
安倍首相の誇る「日本モデル」を実質的に動かしたのは、首相の記者会見にまで立ち会った「専門家会議」です。その科学的評価と政策評価が不可欠です。ところが、緊急事態宣言解除後の5月29日の専門家会議「状況分析・提言 」をみても、@感染状況、A医療提供体制(療養体制、病床確保等)、B検査体制、のそれぞれの従来からの方針の変化・修正点が述べられるのみで、「第一波」の全体を振り返る視点はみられません。従来のデータ・方針の延長上で、「次なる波に備えた安全・安心のためのビジョン」が策定されています。全国一斉休校や「アベノマスク」は、首相の思いつきであることがはっきりした「政治主導・官邸主導」ですが、クラスター対策優先のPCR検査抑制、「37度5分4日以上」のPCR検査受診「目安」や、緊急事態宣言発動・解除の根拠となった科学的判断、「新しい生活様式」等には、明らかに「専門家会議」が重要な役割を果たしたはずです。ところがその「専門家会議」は、首相の思いつきにヒントを与えた官邸「連絡会議」と同様に、公式政策決定に関わらないので「議事録」を出せない、というのです。これでは当面の中間総括はもとより、後世の歴史的検証にも、耐えられないものとなります。「専門家会議」が本当に「科学者の良心」を持つならば、「状況・提言」以前に、政治家・厚生労働省医系技官に対して、議事録を公表させるべきでしょう。そこで幾度も使われた「ここ1−2週間が瀬戸際」「接触8割削減」「対策ゼロなら40万人死亡」等の予測・提言についても、実際の感染ピークが「緊急事態宣言」以前の3月末から4月1日=「アベノマスク」が発表されたエープリルフールの頃であったことがわかった現時点で、当初の第二種感染症指定、学校一斉休校や緊急事態宣言そのものの有効性と共に、反省され検証さるべきでしょう。いずれ収束後には、第3者による本格的検証が必要になるのですから。
政治には、実行された政策結果の責任と共に、不作為責任もあります。2009年の新型インフルエンザ時パンデミックを経験していたにも関わらず、当時とそっくりの初動の遅れ、海外からの入国制限・隔離のみに偏した市中感染対策の欠如、マスク不足パニック、感染者への偏見と差別が見られました。それに学んだ当時の「専門家」の提言した感染症対策、パンデミックに備えた器材と人材の備蓄は、守られませんでした。医療機関もベッド数も保健所も削減され、国立感染症研究所の予算も人員も縮減されていました。新自由主義経済政策=アベノミクスの仕業です。学校休校中にオンデマンド授業を受けられた児童・生徒は数%にすぎず、機器はととのっていませんでした。きわめつけは、毎日WHOにも報告される感染者数のデータの信憑性です。PCR検査数も陽性率も発表されず不信に思っていたら、なんと、全国統計自体が整っておらず、保健所から都道府県に手書きのファックスで時間差で送られていたため、二重集計や発症日特定の間違いで、何度も訂正される始末でした。なによりも、年初の安倍内閣の政治日程の目玉であった、中国習近平主席の国賓としての来日・天皇会見の予定と中国渡航禁止・検疫の関係、夏に予定されていた東京オリンピック延期決定直後からの小池東京都知事の「都市封鎖」の脅迫、安倍首相の緊急事態宣言発令が、当時の「専門家」の科学的助言ないし忖度、感染症研究所ー地方衛生研究所ー保健所ラインの感染統計作成・検査体制、医療現場の臨床体制・器材不足・人員配置・院内感染の程度、政府の感染防止財政投入、「補償なき自粛」とどのような関係があったのか、総じて安倍首相・官邸主導のコロナ危機認識、後手後手・無為無策、経済政策優先、私利私欲、社会的弱者へのまなざし等の諸側面が、顧みられる必要があります。そうした検討抜きの「日本モデル」礼賛は、いっそう世界から、データ隠しの疑惑と不信を、招くことになるでしょう。
本サイトは、本年1月から月一回の更新に改めると宣言しましたが、思わぬ新型コロナウイルスの出現とパンデミックにより、月二回更新で「パンデミックの政治」を連載し、これまで8回発信してきました。今回の「第一波」小括で一区切りをつけ、月一回更新に戻し、問題の学術的検討に専念したいと思います。次回更新は、7月1日とします。この間、深部で問われていたのは、人間と自然の関係、生態系・環境破壊と気候変動、人獣共通感染症の歴史と社会変動、都市型社会とリスク管理、グローバリズムとナショナリズム、人間の生と死の意味と宗教観、等々の文明史的問題でした。私自身は無神論者ですが、幸運にも生き残った皆様の生命・生活の維持と回復を、お祈りいたします。
日本は本当に第一波を抑え込んだのか?[パンデミックの政治 7]
2020.5.15 ようやく先進国のパンデミック「第一波」は、ピークを越えたようです。しかし、インド、ロシア、イランなど中近東、ブラジル等中南米で、急速な感染爆発が続いています。アフリカでも広がっていますが、十分な検査さえできず、感染状況は不確かです。早期に第一波を抑え込んだ中国や韓国では、外出規制を緩めた途端に、第二波の兆しです。世界的には5月14日現在で、188ヵ国(215国・地域という統計もあります、要するに、南極を除く全地球です)、感染確認者440万人、死者30万人です。アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツなどでも、ロックダウンで感染の勢いが弱まったとして、徐々にですが外出禁止を緩め、経済の再建に動き始めました。「コロナ前(BC)」でも、「コロナ後(AC)」でもなく、コロナとの共生=「with corona」(WC?)の模索の始まりです。 死者は、あくまでPCR検査による感染確認者中の認定死者数で、今後、例年同期に比べて異常な「超過死亡」数が、各国統計に加わるでしょう。
感染確認者が500万人近くとなり、このCOVID-19パンデミックが、国際的には経済力が弱く医療体制も貧困な途上国や後進地域、社会的には国内の貧困層や社会的弱者に、しわよせがゆくことが見えてきました。例えばシンガポールは、当初は台湾や韓国と同じ「東アジア型」の抑えこみができたと見られていましたが、4月下旬から100万人の外国人労働者、特に建設労働者30万人の中で感染爆発がおきました。建設現場の集団生活の中での感染ですから、一日4万人のPCR検査で食い止めようとしていますが困難をかかえ、たちまち「東南アジアで最悪」になりました。世界一の感染国のそのまた中心、ニューヨーク市では、「人口(860万人)は白人が32%と一番多く、次にヒスパニック系29%、黒人22%、アジア系14%だが、死者はヒスパニック系が34%と一番多く、次に黒人28%、白人が27%、アジア系7%という統計結果」でした。明らかに感染被害の人種的偏りがあります。日本の第一波は、入り口のPCR検査数が少なく、まだ感染度について国際比較可能な段階にありませんが、中途半端な緊急事態宣言とその自粛要請・緩和のなかで、在宅勤務・テレワークが可能で仕事も確保できる大企業正社員労働者と、仕事やアルバイトを失い、明日の食事や家賃で困窮する不安定労働者・学生・シングルマザー、補償もほとんどなく倒産寸前の中小零細企業・個人事業者などの苦境に、経済格差がクリアーに表れています。 一斉休校からの授業再開では、自宅自粛中のこどもたちのIT環境の違いが、学力や学習進度の違いにつながらないか、危惧されます。
世界各国で、第一波の大波がややおだやかになった段階で、今年1月から5月までの、より正確には、中国・武漢でヒト−ヒト感染が現れた昨年末から半年間の、中間的総括が出てきています。学術的には、米中のホットな情報戦の論点である発生源の問題、特に武漢ウィルス研究所からの流出説の問題があります。ウィルスの遺伝子配列も、初期の中国での蔓延と、欧米での感染爆発ではやや異なり、欧米の方が感染力が強まっているといわれます。外出禁止と感染抑制に有意の相関はなく、休校措置に比べて都市封鎖=ロックダウンの効果は限定的だったという研究も現れています。当初日本で一部の「専門家」の唱えていた「普通のインフルエンザ程度」「子供は大丈夫」などというのは、誤りでした。感染経路・感染力や症状についてもケースが増えて、多数の臨床データ・論文が出ています。これが、これからの治療薬・ワクチン製造の競争につながります。ここでも日本は、クラスター対策にせいいっぱいで、まともな感染状況のデータを出せず、PCR検査もまともにできない、感染医療後進国であることを世界に示してしまいました。緊急事態宣言の発動と解除の基準さえあいまいで、ひたすら国民に苦難を強いながら、医療体制の再構築さえ十分にできませんでした。PCR検査の不足と、検査を受けられる「目安」の変更を、国民や現場医療従事者の「誤解」のせいにした厚生労働大臣の厚顔無恥な発言が、今後の見通しにも暗雲を投げかけます。究極の「自己責任論」です。
パンデミックの中で、危機における政治のリーダーシップも問われました。ほとんどの国で、感染症に対して国民の結束をよびかけ、リーダーの政治的評価はあがっているのに、感染確認者数・死者数とも相対的に少ない日本が、なぜか最大感染国アメリカと共に、最下位です。経営者向けの雑誌『プレシデント』オンライン4月17日に「日本の安倍政権だけが「コロナ危機で支持率低下」という残念さーーそんな先進国はほかにない」という記事が出ましたが、世論調査ににもとづくその基調は、その後の国際比較でも追認され、「日本の指導者、国民評価で最下位」と確認されています。あわてて外務省系の国際政治学者が「世界が評価を変え始めた〜日本は新型コロナ感染抑止に成功している」などと反論を始めましたが、それは、この3か月以上政府と「専門家会議」が言い続けて国民から見放された「PCR検査を増やせば感染者数が減るわけではない」とか「マスク文化の伝統」を論拠にしたもので、全く説得力がありません。安倍内閣の初発の危機感のなさ、習近平来日予定や東京オリンピック開催の政治日程が優先された初動の遅れと後手後手の対策、国民の心に届かない官僚作文の棒読みメッセージ・記者会見、そして、緊急事態政策にさえ忍び込ませた経済成長優先と私利私欲の思惑が、世界からも国民からも、見透かされているのです。
5月14日の緊急事態宣言39県解除の記者会見で、安倍首相は「日本はG7の中で最小の感染者数・死者数にとどめることができた」と「日本の成功」を誇り、首相につきそった「専門家会議」「諮問委員会」の尾身茂博士は、その「成功」要因を、@日本の医療体制、Aクラスター対策、B国民の「健康意識」、と挙げました。本当でしょうか? 発熱を4日間がまんし、保健所に電話してもつながらず、それでもPCR検査を断られ、重症の肺炎で担ぎ込まれてようやく陽性とわかり、手遅れのまま亡くなっていった多くの人々の無念への謝罪と慰霊、反省の言葉はありませんでした。それは、第一波での初発の対応、隣国中国での発症なのに交通を遮断せずに春節観光客を迎えた新型コロナの過小評価・インバウンド第一主義、クルーズ船対応の混乱と失敗、PCR検査の「4日間37度5分」しばりなど重症者のみに絞っての治療と「クラスター」つぶしによって、救えたはずの何人もの感染者を見逃した事実を否定する、自己弁護です。私利私欲の安倍首相ならいつものことですが、「専門家のトップの良心」を疑わせるものです。初動対応の遅れと医療従事者・一般患者を巻き込んだ院内感染の広がりについても、「中国武漢からの感染はおさえこんだ」という名目で、なかったことにしようとしています。
こうした医学・医療体制上の専門的問題、PCR検査の遅れと厚労省医系技官ら「専門家」の問題性は、上昌広さんが『フォーサイト』誌に「医系技官」が狂わせた日本の「新型コロナ」対策」という刺激的な論文で中間総括し、児玉龍彦さんも「致死ウイルスに向き合う〜恐怖の出口にしないために」で論じていますから、毎日更新される山中伸弥教授のホームページと共に、参照を求めるにとどめます。「補償なき自粛要請」のような政策全般も評価・点検しなければなりませんが、私の「パンデミックの政治学」では、敢えて「マスク」の問題、かの「アベノマスク」に、焦点をあててみようと思います。「マスク」は、すでに手洗いと共にだれでもできる感染対策として定着し、国際的にも米国が、ウィルス発生源の問題、初期の情報隠蔽の問題と共に、「中国はWHOに圧力をかけて世界中のマスクや防護服を買い漁った?」と問題にしています。中国の欧州・途上国向け「マスク外交」も論じられているテーマで、第一波の日本の感染症対策の「失敗の教訓」を、象徴的に示していると思われるからです。マスクが医療現場で入手困難になり、ドラッグストアの店先から消えた時期に、厚生労働省医政局経済課 に「マスク等物資対策班 」がつくられ、佐伯首相秘書官に耳打ちされた安倍首相のエイプリル・フール発言「布マスク2枚の全戸配付」の気まぐれに、総額466億円の予算が付いて翻弄され、あわてて怪しげなメーカー・ブローカーからも布マスクをかき集めたら不良品だらけ、全品8億円かけて再点検で遅れに遅れ、ようやく東京23区以外にも配付する目処が立った頃には、品薄だった不織布マスクが巷にあふれ、1枚11円まで値崩れがおきていた、という愚かな悲喜劇の顛末です。その不良品仕分けに保健所が動員され、日本郵便の配達遅れにも影響した、というおまけつきです。
ただし、この「アベノマスクの政治経済学」は、新型コロナウィルス感染前の2009年パンデミックス時からのマスク備蓄・感染症対策、経済産業省担当の世界マスク市場分析と日本マスク産業育成策、首相官邸「健康・医療戦略」中での感染症の位置づけ、病院再編成・ベッド数削減・保健所つぶし、武漢感染発覚後の世界マスク市場の動きと経産省主導の国産マスク企業補助金付急募、厚労省と経産省の連携不足、厚労省内で感染政策全般を主導する健康局結核感染症課と「マスク対策」を押しつけられた医政局経済課の関係、安倍首相側近内での加藤厚労相と西村経済再生相の功名争い、それらのまわりで「マスク利権」と「治療薬・ワクチン利権」をオーバーラップさせ蠢く政治家・経済人・医療事業者たち、旧陸軍防疫給水部=731部隊を含む感染症対策の歴史的背景、等々、本格的分析が必要です。いまのところ、HP連載とは別立ての論文として執筆中です。ヴェネツィア・カーニバルの仮面祭のマスクがペスト流行時の医師たちの感染予防に由来すること、100年前の「スペイン風邪」時にも日本ではマスク不足で騒ぎになったが、たとえばサンフランシスコでも「マスク着用条例」が作られ、別に「日本文化」ではなかったことなど、自宅自粛中の研究に格好のテーマです。書物では、カミュの『ペスト』ばかりではなく、永らく絶版で入手困難だった山本太郎さんの『感染症と文明ーー共生への道』(岩波新書)、速水融さんの『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争』(藤原書店)、 村上陽一郎さんの『ペスト大流行: ヨーロッパ中世の崩壊』 (岩波新書)などの名著が、次々と復刊されています。 「コロナ休暇」の読書用に、ぜひオンデマンドで、ご入手ください。
PCR検査不足のまま「集団免疫」へと迷走する悪夢 [パンデミックの政治 6]
2020.5.1 例年なら、世界の働くものの祭典、メーデーを祝う日です。しかし、ほとんどの国で、パレードは見えません。コロナ前(BC)でもコロナ後(AC)でもなく、パンデミックの真っ最中です。COVID-19のヒト世界侵入はとまりません。また2週間で広がりました。4月14日は感染者は185か国192万人、死者12万人でしたが、4月30日のジョンズ・ホプキンス大学COVID-19Mapでは、2ヵ国増え187ヵ国325万6千人感染確認、死者23万3千人です。最大はアメリカで、623万人の検査中、107万人感染確認、死者6万3千人です。感染者はスペイン21万、イタリア20万、イギリス17万、フランス16万、ドイツ16万、トルコ12万、ロシア10万と続き、イランとブラジルも発症地中国の8万3千人を越えました。死者数は、米国についでイタリア2万7千、イギリス2万6千、スペイン・フランス2万4千で、その一人一人にかけがいのない人生と家族がいることを思えば、ドイツの死者6千人は救命体制の奮闘を示しています。これまで赤点だった中南米やアフリカの感染が、大きな赤丸になって全大陸に広がりつつあり、夏になって気温が上がればといった北半球の人々の希望的観測を、打ち砕きます。世界は、長期のパンデミックのさなかです。
WHOも、警戒を緩めるきざしはありませんが、パンデミックへの対処の国民国家単位での進め方は、いくつかのパターンに分かれてきました。最も極端なのは、スウェーデンの「集団免疫獲得型」です。感染者は2万人近くが確認され、2千人以上が死亡しているのに、ロックダウンも学校閉鎖もなく、50人までならイベント・集会もできます。カフェもレストランも公園も開放で、すでに25%が免疫を得たと言います。ただし、この間731部隊や断種法・優生思想を研究してきた私には、背景に20世紀スウェーデン「優生学」の影が見えます。スウェーデンの「集団免疫」は、高福祉・高負担で政府への信頼厚い小さな福祉国家ならではの、生き残り策です。大国イギリスやアメリカでは、一度は「集団免疫」が口にされても、すぐに大規模検査・陽性者隔離、自由と人権の制限を伴うロックダウン・外出禁止の「欧米型」に切り替えられました。初動が遅れたため、イタリア・スペイン・フランス等では感染爆発・医療崩壊を経験し、それでもワクチンも確かな治療法もない以上、まずは、いのち優先で感染ピークを抑え込み、徐々に自由を回復するしかありません。
このオーソドクスな「検査・隔離」を、初動で素早く発動し、最新医療技術・知見と情報技術・GPS追跡をも駆使して感染ピークを最小限に食い止めたのが、台湾・香港・韓国で採られた「東アジア型」です。台湾のEマスク、韓国のドライブスルーPCR検査などは、欧米でも学ぶべき成功モデルとされました。初動の隠蔽で失敗した中国も、大きな犠牲を払いながら「東アジア型」に乗り換えてピークを越え、いまや外出・移動を可能にし、5月22日には全人代を開くと宣言しました。ただし、「東アジア型」でも、シンガポールのように、外国人労働者からの集団感染を抑え込めない例があり、いずれの国でも、外国からの帰国者等から第二波・第三波の感染が避けられません。パンデミック対策での医療先進国は、日本以外の東アジア、次いでヨーロッパのドイツ、落第国が「消毒液を飲め」など大言壮語だけのトランプのアメリカ、という国際的評価が生まれています。これに、有効治療薬・ワクチン製造の競争が加わって、「コロナ後(AC)」の新しい世界地図が見えてくるでしょう。
ジョンズ・ホプキンス大学COVID-19Mapの感染者数は、正確には「感染確認者数(Comfirmed Cases)」です。地図の左辺にあって、「死者数(Total Deaths)」の右辺には「検査結果数(Total Test Results)」がおかれ、それぞれの国・地域の感染実態が見えるように配置されています。右辺の検査数中の左辺の感染確認者数、いわゆる「陽性率」が見えてきます。この点で特異なのが日本で、感染者数・死者数は韓国を超えましたが、「検査結果数」は一日最高でも7千件程度、累計14万人以下で、感染対策「模範国」韓国の50万人検査結果とは人口比で10分の1で、比較すべくもありません。OECD統計では36ヵ国中35位、1000人あたり1.8人でトップのアイスランド135人と二桁違い。主観的には、遅ればせでも「東アジア型」に加わる出発点にたったように見えますが、医療資源・人材再配置・PCR検査拡大態勢の準備もあやふやで、客観的には、スウェーデンとは比べものにならない大規模な自滅型の「集団免疫」に向かって迷走しているようにみえます。「アジアのガラパゴス」日本です。
その理由は、はっきりしています。政府と「専門家会議」が、PCR検査を重症者のみに絞り、その範囲での公式「感染者数」の増減に、一喜一憂しています。検査数あたりの感染確認者は、事後的にしかわかりません。民間検査機関・大学病院等の器材・人材を導入できず、ようやく心ある医療従事者や現場医師会の声におされて、ドライブスルー検査等が始まったばかりです。院内感染・家族感染が多いのに、「医療崩壊」の語はマスコミではタブーとか。首相が「一日2万人の検査能力」を3か月繰り返していますが、実際はミゼラブルです。多くの人が不安を抱えたまま、検査をあきらめています。ようやく電話が通じても、4日間様子を見てと検査を断られます。ようやくPCR検査にたどりつき、「軽症者」として自宅待機・ホテル隔離に入っても、たちまち重症化し転院するケースや、検査の遅れで死亡に至るケースが、続出しています。どうやら「専門家会議」主流の国立感染症研究所と厚生労働省医系技官の考えた水際作戦用枠組が、いまだに第一線現場に残っているようです。本連載が何度も述べてきたように、感染研の前身、予防衛生研究所は、関東軍731部隊の残党が歴代所長をつとめる形で作られ、基礎データを独占して学界に君臨してきました。今回も、その名残りでしょう。「武漢ウィルス」と呼ばれ欧米の爆発前の3か月前なら、マスク・防護服・検査機器も国際市場で入手可能だったのに、「医療先進国日本」などと驕り、中国・韓国を見下して、輸入もできずにきました。有効治療法・ワクチンづくりでも、遅れをとっています。予防衛生研究所は、広島・長崎の被爆者日米調査(ABCC)、「治療なきデータ収集」の日本側担当機関でじた。その延長上で、上昌広さんのいう「人体実験」が続きます。ファシズムは、感染症対策の名で、忍び寄ります。
日本のパンデミック対策は、悲惨です。国民、特に不安定労働者や社会的弱者に対しては、冷酷です。もともと医療費削減政策で、病院再編・ベッド数削減・保健所減らしを進めてきました。今年度予算にも、13万病床削減予算84億円が入っていました。そこに、黒船コロナの来襲です。中国での発症を「対岸の火事」「貧困な社会衛生による混乱」と軽く見たツケ、初動を「武漢・湖北省」しばり、「クルーズ船」対策に限定し、PCR検査を重症者のみにしてきた「クラスター方式」の無理が、大都市での市中感染を防げませんでした。東京オリンピックの延期が決まると、急に全国一斉休校、東京ロックダウンを言い出し、4月に入って緊急事態を宣言し、ひたすら「自粛」が呼びかけられました。日本政府が「自粛」を言う場合、休業や休校への補償がない、「自己責任」という意味です。感染対策初動の誤りと後手後手手直しの責任を認めず、国民の行動パターンに責任転嫁する布石です。基礎データの根拠が乏しい数式を操作しての「8割自粛」が、その典型です。
4月末にようやく決まった緊急補正予算の性格は、「日本方式」の経済主義的性格を、よく示しています。PCR検査拡大のための直接予算は、わずか49億円。病床削減予算の半分、かの「アベノマスク」466億円の9分の1です。その算定根拠は、3月段階でのPCR検査実績=一日1500人が継続するという前提なそうです。「4日間37度5分以上の発熱」というPCR検査の「目安」、保健所ー地方衛生研究所ー感染研という「帰国者・接触者相談センター」ルートが、依然として主流です。多くの国民が、家賃や明日の食事で困っているときに、一人10万円の一時金で黙らせ、手続きの大変な雇用調整助成金や融資枠の拡大で乗り切ろうとする、お粗末な緊急経済対策です。その上、いつ使えるか分からない将来の「V字型回復」目当てのGO TOキャンペーンには、1兆7千億円です。病院のマスク・防護服も、医療関係者援助も、人工呼吸器やECMOも緊急課題なのに、日本の感染症対策は、曖昧で不徹底、むしろ収束後の「集団免疫」ばかりを夢見ているようです。まずは、医療従事・関係者や「自粛」体制を支えるエレメンタル労働者に、安心して働ける検査を実施すべきです。
緊急対策の問題点の多くは、担当大臣が「経済再生大臣」で、記者会見から「厚生労働大臣」が消えて久しく、トップの首相は経産省出身補佐官・秘書官の作った原稿を棒読みするだけ、という政治の鬱屈に、端的に示されています。その経産省主導愚策の実例を、悪評だらけの「アベノマスク」をケースとして、供給計画・446億円予算・製造企業・ブローカー・私物化の詳細まで分析する「アベノマスクの政治経済学」を準備したのですが、今日もまた「妊婦用布マスク」の不良品4万7千枚・全品回収のニュースが入って進行中なので、次回以降にまわします。忘れてならないのは、この不良品仕分けに、感染対策の第一線で多忙な保健所の保健師が動員されてきたことです。また、胡散臭い製造・納入業者は、731部隊山内忠重と関わる「興和」、妊婦用不良品で明らかにされた「ユースビオ」など5社ばかりでなく、加計学園の足元「今治市タオル工業組合」他、多数にのぼることです。
最新の医学情報、本来の感染対策はどうあるべきかについては、引き続き山中伸弥教授のホームページ、無症状や初期症状にこそ「アビガン」を投与すべきという児玉龍彦さん・金子勝さんのyou tube「 デモクラシータイムス」対談、最新号、それに上昌広さんの厚労省・鈴木康裕医務技官と「専門家会議」の責任追及を、お勧めします。今回は、「感染者数」を問題にしてきたので、最後に、「死者数(Total Deaths)」の真実。日本の現コロナ死者数460人余りは、PCR検査が間に合った「認定死者数」にすぎず、「かくれコロナ死亡者」がいる可能性大です。このことは、自宅孤独死や行き倒れの死後にPCR検査で陽性がわかった多くの事例や、葬儀屋さんがおそれる事態、日本法医学会のいう「死因不明危機」、東京都における「インフルエンザ・肺炎死急増の不気味」などから、ささやかれています。英国『ファイナンシャル・タイムズ』紙は、各国死亡者統計での過去5年平均に比して急増した病名・死因・人数がコロナ・ウィルスによるものではないかと推計し、世界全体で公表値の6割増が新型コロナ犠牲者ではと、発表しています。これは、100年前のスペイン風邪日本人死者数の内務省公式発表を、速水融教授が歴史社会学・人口統計学を駆使して覆した科学的方法で、説得力があります。
「集団免疫」獲得の前に、膨大な犠牲者の屍がうまれます。経済的理由での自殺を含め、貧者・弱者にしわ寄せがくるでしょう。あなたも、わたしも、あなたのご家族・お友達も、すでに「隠れコロナ」で感染源となる可能性があります。くれぐれも、ご自重・ご自愛を!
もっと検査を! 無責任な政府と「専門家」に任せず、自分自身で情報評価を![パンデミックの政治 5]
2020.4.15 世界はいま、21世紀最大の危機のなかにあります。それも日々、変わっています。世界中が国境を閉じ、隔離と閉鎖、自粛と自制を求めています。ただし、マックス・ウェーバーの生命を奪った100年前のスペイン風邪の時代とはちがって、テレビやインターネットを通じて、無数のパンデミック情報が飛び交っています。今回は、CIAがホワイトハウスの米国大統領に確かな情報のみを届けるための仕分けの手法、シャーマン・ケントが開拓した「情報評価」を試みました。
2020年新型コロナウィルス(COVID-19)パンデミックの蔓延は、止まりません。すべての大陸で、猛威をふるっています。刻々変わる世界の感染の広がりは、ジョンズ・ホプキンス大学の特設サイトが、世界の定番になりつつあります。Worlddata.info や WHOの公式発表で補いましょう。
https://coronavirus.jhu.edu/map.html
https://www.worlddata.info/coronavirus-covid19.php
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
ジョンズ・ホプキンス大調査では、2週間前に184か国、757,944人感染、死者も36,674人(3月31日午前4時現在)というデータでしたが、いまや感染者は185か国192万人、死者も三倍近くで12万人です(4月14 日現在)。感染爆発の中心は、中国・ヨーロッパからアメリカに移りました。アメリカの感染者は58万人、死者2万人以上です。ただし、ジョンズ・ホプキンス大学(JHU)データにはPCR検査数も出ていて、アメリカはすでに、無保険者・非白人を含め300万人近くを無料で検査済みです。つまり、市内感染率の概要をつかんでいます。発祥地中国は、8万3000人感染で第一波のピークを越え、最近欧米からの帰国者を中心に、第二波が始まりました。イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどは10万人以上の感染爆発が続き、皇太子も首相も感染したイギリスは中国を越えて10万に迫る勢いです。パンデミックは、オーストラリア、中南米から、医療システムの脆弱なアフリカ大陸に広がっています。WHOやIOCが恐れるのは、アフリカでの爆発です。それが進むと、来年に延期された東京オリンピックどころではないでしょう。最近のIOCバッハ会長の発言は、中止の可能性を含め、それを示唆しています。
世界経済は、リーマンショックを上回る打撃を受けています。国際通貨基金(IMF)さえ、世界恐慌をリアルな見通しとして述べています。世界中で都市閉鎖(ロックダウン)が行われていますが、それは、日本で言われる「感染対策と経済政策のバランス」などではなく、感染症第一で、コロナとたたかえなければ、経済も社会も壊滅しかねないからです。西村担当相は「自粛」のみを述べて国民の生活を保障できない緊急経済対策のお粗末を、「休業補償している国は見当たらない」などと述べていますが、とんでもありません。医療崩壊をまねがれても、申請2日後に3か月分の休業補償が振り込まれるドイツをはじめ、休業・休職補償は世界の常識です。医療崩壊をはじめ大きな犠牲を出しているスペインでは、経済再建の柱にベーシックインカムを導入しようとしています。初動の遅れで世界一の感染国となり、WHO に責任を押しつけるトランプのアメリカでさえ、失業者1600万人突破の現実と秋の大統領選を前にして、一人大人13万円、こども5万5千円の直接給付を開始しました。ちょうど日本で、466億円かけて世帯毎に布マスク2枚が配られるのと同時でした。日本のメディアでは大きくは報じられませんが、CNNやBBC、ニューヨークタイムズやニューズウェークを見れば、いくらでも情報を得られます。コロナ収束後の世界地図は、これまでとは大きく違ったものになるでしょう。
コロナばかりでなく、「安倍ウィルス」にも汚染された日本は、悲惨です。「クラスター」「オーバーシュート」等、「安倍ウィルス」にまみれた「専門家」のいう「日本式対策」に、欺されてはいけません。まずは徹底的な感染症対策、「検査・隔離・治療」が必要です。信頼しうるデータなしの日本の今は、まるでミッドウェー海戦前夜、いやインパール作戦突入中です。ちなみに、当初トランプの唱えた「チャイナ・ウィルス」は、FD・ルーズベルトの「リメンバー・パールハーバー」にちなんだものです。黄禍論と結びつけば、アメリカでは人種差別や経済格差を隠して「戦意高揚」が可能になります。日本では、医師も看護師も、国会議員の家族や秘書・運転手も、自衛官も警察官も、介護施設まで、次々と感染しています。中国との距離とクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から早期に感染者が見つかったものの、東京オリンピック延期決定までの6週間を、感染者数を少なく見せるために、PCR検査をサボタージュしてきました。それが日本式「クラスター作戦」でしたが、所詮「水際対策」の延長上での後進国型で、大都市の市内感染には、無力でした。2か月あれば、医師や医療機関、保健所・保健師、防護服や医療用マスク、人工呼吸器等、緊急医療資源の準備ができたはずなのに、「安倍ウィルス」に汚染された厚生労働省、「専門家会議」は、それさえも怠ってきました。行き当たりばったりの後手後手の対策です。JHUの世界感染地図で見れば瞭然、極端に検査数が少なく、まともな疫学的国際比較さえできません。日々の感染者数増の数字も、熱があり不安を持った市民の相談者の2%しか、PCR検査を受けられません。90%が検査の窓口にも届かず、断られました。そのうえ、日々の検査数が記者会見等では発表されず、検査人数中の何人が感染者であったかの陽性率がわかりませんから、市民は一喜一憂するのみで、不安は募るばかりです。
ほとんどの国では、パンデミックの危機にあたって、政治の最高指導者は連日記者会見を開き、国民に直接語り、働きかけています。ようやく日本でも、東京オリンピック延期決定直後から、安倍首相と利害の一致していた小池東京都知事がオモテにしゃしゃりでて、夏の都知事選を見据えたパフォーマンスをはじめました。安倍首相も、全国一斉休校から緊急事態宣言へと、「やってる感」演技を始めました。ただし、記者会見ではプロンプター原稿の読み上げだけで、まともに質問には答えませんでした。緊急経済対策には、こっそり「感染症を巡るネガティブな対日認識を払拭するため,外務本省及び在外公館において,SNS等インターネットを通じ,我が国の状況や取組に係る情報発信を拡充」する24億円の情報戦予算の他、「新型コロナウイルス感染症対策や経済対策に盛り込まれた各施策の内容を始めとした喫緊の取組等についての国内広報を実施」という100億円広報予算も、忍び込ませました。公共放送を大本営発表用メディアとし、なんでも「安倍晋三がんばれ」らしい35万人「いいね」発信のネット応援団を使って、批判的メディアの封じ込めに使おうとしています。もともと今年度厚生労働省予算には、「医療法上の病床について、稼働病床数ベースで1割以上の削減を行った病院に対し「将来、当該病床を稼働させていれば得られたであろう利益」の補助を全額国費で行うこととし、全国での病床数削減を狙う」として、国費84億円が入っています。それがいまやベッド数不足で、あわててアパホテルを借り上げる、無為無策の医療後進国日本です。国民には布マスク2枚のみで、まともな休業補償もなく、ひたすら自粛を促すのみのこんな状況下では、信頼できる情報を見分け、自分自身でいのちとくらしを守る情報仕分けが必要不可欠です。
一つのフォークロアが、静かにネット上で広まっています。京大人文研・農業史の藤原辰史さんのエッセイ「パンデミックを生きる指針——歴史研究のアプローチ」が、三人の友人から届きました。100年前のスペイン風邪の事例を振り返りつつ、「起こりうる事態を冷徹に考える」ための、心を打つ一文です。ちょうど21世紀の初めの9.11同時テロの際に、「100人の地球村」が広がったように、眼前の世界を理性的に理解しようと、読まれているようです。特にオンデマンド授業で、学生たちに読ませたい文章です。皆さんも、ぜひ拡散してください。
https://www.iwanamishinsho80.com/post/pandemic
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00010000-kyt-cul藤原辰史さんのいう「事態を冷徹に考える」うえで、ホンモノの「専門家」の力と知恵が不可欠です。前回も紹介しましたが、ノーベル賞受賞者・山中伸弥教授の「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」には、最新医学情報ばかりでなく、「証拠(エビデンス)の強さによる情報分類」のページがあって、極めて有意義です。東京も大阪も毎日の検査が500人以下なのは「異常」と認めています。
https://www.covid19-yamanaka.com
山中さんに呼応するかのように、同じくノーベル賞受賞者の本庶佑さんも、緊急提言を出しました。その第一は、「PCR検査の大幅増」です。その検査の具体的進め方について、すでに600人以上の医師たちによって、保健所を通さない検査態勢の仕組みも提案されています。直ちに実施すべきです。
立命館大学・医療社会学の美馬達哉さん『<病>のスペクタクルーー生権力の政治学』(人文書院、2007年)には、「<感染症>とは何よりも政治学の対象」と出てきます。2002-03年のSARSの出現と人間の対応を、M・フーコーらの「生権力」の観点から論じて、有益です。現局面については、『現代ビジネス』誌上に寄稿しており、「科学がいえるのはここまで」という留保が誠実で、好感を持てます。政治学者の私の方は、2009年の新型インフルエンザ時のメキシコ滞在・隔離体験と、この間の731部隊研究から、本「ネチズンカレッジ」に「パンデミックの政治学」を連載しています。
2009年は、政治史の上では、自公連立麻生内閣から、民主党鳩山内閣への転換期でした。しかし、感染症対策の失敗で、政権交代になったわけではありません。日本での新型インフル感染の経過は、現在の首相官邸ホームページ「過去のパンデミックレビュー」に、日経新聞社会部次長・前村聡さんの「2009年新型インフルエンザ ―「未知の感染症」をどのように報じたのか?」が出ています。2020年のメディア報道ともよく似た展開で、参考になります。ただし、政局の上では、すでに支持率10%台で満身創痍の麻生内閣の末期、実際にパンデミックに初動対応したのは、後の東京都知事・舛添要一厚労相と、国内感染が関西から始まったために橋下徹・大阪府知事(当時)で、少なくとも2020年の安倍首相・加藤厚労相・西村担当相(実は陰に今井首相補佐官)体制よりは、まともに指導力を発揮し、感染症に向き合ったようです。
こうした過去に学ばないまま、2020年の日本は、EU内でのイタリアと同じように、新自由主義医療政策で高齢化社会なのに医療予算が削られ、病院統廃合・保健所縮小まで進んでいました。今回は、SARS/MERSを経験した中国・韓国の方が素早く、日本が東アジアの医療後進国であることを、世界に証しました。
PCR検査消極論・拡充不要論の「専門家会議」、厚労省医系技官プラス国立感染研系御用学者を、戦時陸海軍・731部隊の「亡霊」まで遡って見るのは、私ばかりではありません。医師の上昌広さんも同じです。上さんは、「原子力ムラ」になぞらえて、医・薬・官の「医療ムラ」といいます(『医療詐欺』講談社新書、2014)。日本の「医療崩壊」が、1980年代厚生省の老人医療費削減政策に始まり、21世紀に医療従事者削減・病院再統合・ベッド数削減まで進んできたことは、上昌広さんの『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)他の著書や、ウェブ上の論文で、詳しく展開されています。私は、上さんの分析に示唆を得て、獣医学や自衛隊・医療メディアも加えて「ワクチン村」と言ってきました。今回改めて調べると、東京の感染クラスターの中心・台東区永寿総合病院の創設者・倉内喜久雄(ペスト・ワクチンとも関係)、「アベノマスク」466億円の政府発注先の一つ「興和」創設者・山内忠重が、なぜか共に元731部隊でした(薬害エイズのミドリ十字と同じ)。大きく取り上げられなくなった慈恵医大・慶応病院の院内感染を含め、『悪魔の飽食』の「亡霊」を、今後も追いかけていきます。現局面の最先端医学からの感染対策評価は、東大先端研・児玉龍彦さんが、最も信頼できます。金子勝さんの経済政策批判と共に、you tube 「デモクラシー・タイムズ」で見ることができます。国民をごまかし、検査を妨害してきた「専門家会議」と厚労省医系技官・技監の問題性も明確に語られ、その「司令塔」を変えるべき、と提言されています。深く納得します。
「自粛で東京を救えるか」https://www.youtube.com/watch?v=7EtDPtKd4L0
「自分で考え、いのちを守れ!」 https://www.youtube.com/watch?v=RUrC57UZjYk
「東京はニューヨークになるか」https://www.youtube.com/watch?v=r-3QyWfSsCQ
「検査、検査、検査そして隔離」https://www.youtube.com/watch?v=ApAbkrsa7ZUこの国の最高責任者は、自らの権力維持に汲々とし、感染対策は厚労省と御用学者に、経済政策は秘書官と経産省・財務省にまかせ、東京オリンピックの延期が決まると、緊急事態法制の整備と、憲法改正を目標にしています。日本版NSC=国家安全保障局の出番です。今井尚哉と共に、いよいよ北村滋が動きます。感染対策にも、各地の学校で児童のマスクは白のみとか、給付金は個人でなく世帯単位とか、日本会議風復古調が忍ばせてあります。国民生活を置き去りにしての次の手は、おそらく、満を持しての天皇の「お言葉」=政治利用と、医療現場への自衛隊大量導入でしょう。野党まで乗ってしまった緊急事態宣言の問題性は、小倉利丸さんの批評、ドイツと比較しての水島朝穂さんの憲法学からの批判が、よく考えられ、すぐれています。これからでは遅すぎの可能性大ですが、ようやく日本も、WHOの言っていた「検査・検査・検査」の局面です。クルーズ船で乗員の検査を後回しにして乗客の集団感染を招いた轍をふまえて、まずは、医療従事者・保健師の安全のためのPCR検査・抗体検査から、始めなければなりません。「検査・隔離・治療・救命」への、壮大な人体実験が進行中です。
いよいよ日本列島のクルーズ化、安倍「ワクチン村」に任せず、いのちとくらしの防衛を![パンデミックの政治4]
2020.4.1 3月15日にWHOのパンデミック宣言を受けて本サイトを緊急更新しましたが、その際は「世界120ヵ国以上、14万人感染」でした。それから2週間で、ヨーロッパ・アメリカでの感染が爆発し、184か国、757,944人感染、死者も36,674人(3月31日午前4時現在)となりました。ジョンズ・ホプキンス大学調査(4月1日)では、世界の感染者85万人・死者4万人超と報告されています。AFP通信のCOVID-19特集が毎日更新されますが、世界は2週間で一変しています。ドイツのように毎週50万人の大量検査をしても、医療システムが機能し死亡者を最小限にしている国もありますが、イタリア、スペインのように院内感染で医療従事者が身動きできなった国、アメリカのように、そもそも健康保険制度が未整備で、社会的弱者・貧困者・移民労働者が検査も受けられず無防備なまま、感染爆発した国もあります。
iPS 細胞のノーベル賞受賞者・山中伸弥教授は、自ら「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」を立ち上げました。そこに「新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです」「今年のお花見は、人混みは避け、近くで咲いている桜の周りを散歩するだけにしてください」「桜は来年も帰ってきます。人の命は帰ってきません」といったメッセージと共に、「エビデンスの強さによる情報分類」というページが設けられています。「病態・感染・対策」に分けて、「手洗いやマスクしていても感染することがある」といった「正しい情報」、「暖かくなると感染は終息する」といった「エビデンスのない情報」が仕分けされていて、私たちの自衛策にきわめて有益です。よくいわれる「致死率がクルーズ船や韓国と同程度と仮定し死亡者数から逆すると、報告されている日本の感染者数は少なすぎる」「多くの感染者が無症状、もしくは軽症なのは、自然免疫が関与している」「感染しても80%の人は、他人に感染させない」等は、「正しいかもしれないが、さらなるエビデンスが必要な情報」とされています。今回のパンデミックには、多様な情報戦が、複雑にからみあっています。小倉利丸さんの「リスク回避のサボタージュ――資本と国家の利益のために人々が殺される」が、社会運動の困難を含めて、その深部での動きを解きほぐそうとしていて、参考になります。
ウィルスには、国籍も国境もありません。確かなことは、気候変動・環境変化とグローバル経済が、新たなウィルス出現を加速していることです。AFPデータは、大陸別ででています。アジア、ヨーロッパ、アメリカがほぼ10万人以上で大きく広がり、アフリカとオセアニアがこれからです。その正体は、いまだにわかっていません。潜伏期間とか無症状感染とか、ワクチン・治療薬がないといった感染症の特徴ばかりではなく、今日COVID-19とされるウィルスがどこから来たかのかが、初めて感染が確認された中国と、あっという間に世界一の感染国となったアメリカとの間で、より正確には、共産党の独裁者習近平と、アメリカ第一主義で次々と国際秩序を壊してきたトランプ大統領の間で、起こっています。トランプは、「武漢ウィルス」から「チャイナ・ウィルス」と名付けて、発症国中国の責任を追及し、世界への影響力をおとしめようとし、中国の側は、米軍生物兵器の疑いをほのめかしています。秋の大統領選向けとはいえ、トランプは「チャイナ・ウィルス」というネーミングで「パールハーバー」を想起させ(彼にとっては、日本も中国も韓国も「イェロー」です)、日本の国家予算の2倍2兆ドルで「戦争」に立ち向かおうとしています。世界恐慌をニューディールで乗り切ったF・ルーズベルト大統領のような知性も計画性もありませんが、あやかろうとしています。中国側の感染源追跡も諸説が有り、すでに武漢の海鮮市場からの動物感染説は否定され、昨年11月にはヒト・ヒト感染が始まっていたとも言われ、いまだ藪の中です。
本連載は、中国から感染が広がったので、毛沢東の「調査なくして発言権なし」になぞらえて、「検査なくして対策なし」と訴えてきました。いまやサンプルは、世界大に広がり、症状についても、対策についても、応急治療薬についても、さまざまな成功例・失敗例が出ています。初期の中国の事例から抽出され、日本政府が「湖北省水際対策」と「クルーズ船」のみに集中していた時期に流布した、「風邪のようなもので高齢者以外は恐れる必要がない」といった情報は誤りで、感染力が強く、致死率も高く、若者でも幼児でも感染し、臭覚・味覚なしなど多様な症状があることが、わかってきました。「37.5度以上の熱が4日間続いたら相談を」などという重症者・基礎疾患患者に限定するPCR検査や、小さなクラスターつぶしにのみ検査が使える「日本方式」が、日本医学の先進的医学水準でも、検査の精度と確実性の保証でもなく、たんに検査装置と要員の不足、病院統廃合で専門病院もベッド数も減らしてきた新自由主義健康・医療政策の帰結、日本の対策の遅れであることがわかってきました。オリンピック延期決定後に増えた東京都の市中感染者数は、多くは検査件数の増加によるもので、しかも10倍以上の検査を断られた「検査難民」や無症状感染者が、巷にあふれていると考えられます。
たしかに積極的疫学検査で医療崩壊を招いたイタリア・スペインの事例もありますが、徹底的検査によってピークを過ぎ、致死率も低く抑えた湖北省以外の中国、韓国の事例、何よりも毎週50万件の積極的検査から早期に感染者を見出し、症状に応じた対策で致死率1%以下に抑え、国民生活へのきめ細かい生活補償を打ち出したドイツや、早期に封じ込めた台湾の事例もあります。このような事態に、各国の指導者の知性と国民統合の、指導力が問われます。水島朝穂さんの「平和憲法のメッセージ」に「コロナ危機における法と政治ーードイツと日本」が発表されました。メルケル首相の真剣な内容ある国民への訴えと、安倍首相の危機に向き合わない無責任でご都合主義的な対応が、対比されています。当初はBCR検査ミニマムでクラスター追跡の「日本方式」に関心を示していたフランス、イギリス、アメリカ等も、いざ自国の感染爆発が始まると、ドイツや韓国に学んだ「早期発見・早期治療」、徹底検査から感染者を見出し隔離する方式に転換しました。かつて20世紀の国民皆保険と高度医療技術で「医療大国」とさえいわれた日本は、2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染で世界から「失敗した実験」と疑われ、本格的パンデミック期に入っても国際比較可能な疫学調査がおこなわれず、マスクも消毒液も入手できない庶民からは、国内感染者数ばかりでなく、死亡者数さえ信頼されていません。2か月たっても、一方でPCRで診てもらえない「検査難民」、他方で庶民の生活のかかった「感染隠し」、オリンピックと生活補償のがれの政府レベルでの情報操作が語られています。
小倉利丸さんのサイトに、シャロン・ラーナー「大手製薬会社はコロナウイルスから利益を上げる準備をしている」が、日本語で紹介されています。グローバルな医療・製薬資本のあいだで、「パンデミックが悪化すればするほど、最終的な利益は高くなる」として、熾烈なワクチン・治療薬開発競争が行われているのです。その競争への日本の参入に焦点を合わせて、この間の安倍内閣の後手後手の対応、PCR検査のサボタージュの背後の秘密に迫ったのが、前回紹介した上昌広さんの『フォーサイト』寄稿論文「帝国陸海軍の「亡霊」が支配する新型コロナ「専門家会議」に物申す」(上)(下)です。そこでは、戦時陸海軍防疫体制を担ってきた旧731部隊・東大伝研等の流れの後継で、@「国立感染症研究所」(感染研)、A「東京大学医科学研究所」(医科研)、B「国立国際医療研究センター」(医療センター)、C「東京慈恵会医科大学」(慈恵医大)出自の医学者が、厚生労働省医療官僚と共に安倍内閣「専門家会議」の主流となり、それが感染者の治療ではなく、国産ワクチン製造のためのデータ独占、医薬産業との癒着に結びついているのではないか、と問題提起されています。私はこれを、3/11原発事故時に語られた産官学「原子力村」になぞらえて、「ワクチン村」とよびたいところです。
「ワクチン村」とは、安倍内閣の「健康・医療戦略」予算に群がる、医・薬・獣医学研究者、ウィルス研究機関、医薬産業、厚生労働省健康・医療部局、それに自衛隊衛生科を含む、利益協同体のことです。中心は、首相官邸の健康・医療戦略室、健康・医療戦略推進本部です。もともと医師・病院を監督する厚生省でも、科学技術研究を担う文部科学省でもなく、アベノミクスの「成長戦略」を推進する経済産業省主導でつくられたものです。高齢化に伴う福祉・医療経費増大を最小限にし、健康・医療システムを再編・効率化し、2013 年6月 に「日本再興戦略」の一環として「健康・医療戦略」を策定、そのもとで「医療分野の研究開発に関する総合戦略」を立案しました。「日本再興戦略」とは、本サイトで幾度か紹介してきた、デジタル化・ロボット化の第4次産業革命、人工知能AIや自動走行のSociety5.0を柱とする、グローバル経済下の国際競争に対処する成長戦略で、原発再稼働や新幹線輸出で突破口を開こうとしました。それに従属する「健康・医療戦略」とは、端的に「世界最先端の医療技術の開発」「健康・医療分野に係る産業を戦略産業として育成し、経済成長へ」です。そこに乏しい研究予算を重点的に国策として投入し、既存の高齢者対策・感染症対策は厚生労働省・国立研究機関・大学病院・医師会等に任せて、「効率化」の名で予算・要員を削減してきました。健康・医療における「選択と集中」、新自由主義とアベノミクスの戦略です。
「日本再興戦略」を官邸で指揮したのは、経産省出身の今井尚哉首相秘書官・現補佐官です。官邸「健康・医療戦略室長」には、国土交通省出身だが今井の腹心である和泉洋人首相補佐官が就任し、後に慈恵医大から国立感染研を経て厚生労働省審議官となった大坪寛子を次長に取り立てます。ゲノム医療を推進する大坪は、内閣官房審議官として、日本医療研究開発機構(AMED)・医療情報基盤担当室の室長も兼任します。詳しくは、首相官邸の「健康・医療戦略推進本部」ホームページに出ていますが、「健康・医療戦略参与会」の副座長が今井絵理子と和泉洋人のスキャンダル・コンビで、2020年日本医療研究開発大賞の「健康・医療戦略担当大臣賞」は、731部隊研究では細菌戦・人体実験の後継組織として知られる、公益財団法人「実験動物中央研究所」でした。受賞理由に「1952年創設以来、 実験動物の飼育技術の確立、動物の品質 管理研究を行い、日本の実験動物学の発展に大きく寄与」とありますが、朝鮮戦争時の創設者は、731部隊大連支部長で帰国後東大伝研教授・武田薬品顧問であった安東洪次でした。私の戦医研論文に書きましたが、米軍細菌戦406部隊とも深い関係がありました。
日本国民にとっての大いなる不幸は、中国武漢から新型コロナウィルスの第一報が入って始まって以降の日本政府の初動対応が、今井・和泉・大坪に任された首相官邸「健康・医療戦略」に沿って始まり、武漢・湖北省滞在者への「水際対策」とクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」封じ込めに特化されたことです。厚生労働省の担当する感染症対策のオーソドクスな「早期発見・早期治療」、医療機器補充・要員増よりも、日本経済停滞突破の「成長戦略」への影響が重視され、少なくとも2月6日の大坪審議官記者会見までは、大坪のAMEDとの対立や和泉補佐官とのスキャンダルがあっても、厚生労働省ではなく、官邸主導で進められました。だからこそ、まだ政府の「対策本部」も「専門家会議」も立ち上がっていない段階での2月13日「緊急対応策」の目玉には「検査キット、抗ウイルス薬、ワクチン等の研究開発の促進 」が「マスク、医薬品等の迅速かつ円滑な供給体制の確保」よりも上位におかれ、特別予算も配分されたのです。和泉・大坪スキャンダルへの世論の反発で、以後二人は表舞台から消えましたが、「陰の首相」「総理の振付師」である今井補佐官は、安倍首相の信任厚い北村滋国家安全保障局長、秋葉剛男外務事務次官と組んで、官邸主導のパンデミック対策の中枢にすわります。厚生労働省や国立感染症研究所中心の「専門家会議」、内閣対策本部を立ち上げ、国家の危機を逆手にとって、あくまで「成長戦略」に使おうとしています。それが「国産検査キット、抗ウイルス薬、ワクチン開発」にこだわり、「ワクチン村」の御用学者と医薬企業を登用し、反対意見の情報発信を抑えて「大本営発表」風の情報統制を強め、ついには「緊急事態宣言」で官邸に権限を集中させ、改憲を準備する背景です。
そのとばっちりが、政府の後手後手の対応と、「日本列島のクルーズ船化」です。つまり、海外からの感染隔離に資源と人員を割いている内に、国内感染が拡大し、爆発的拡大の前夜なのに、医療用マスク・防護服・人工呼吸器も、隔離病棟・集中治療室ICU・ベッド数も整わず、大人の満員電車をそのままにした思いつきの全国一斉休校に不満が強まると、いまだ入手できないマスクや消毒液の供給をそのままに、児童生徒に手作りマスク奨励の新学期開始です。何よりも、生活補償も企業補償も認めないまま「自粛」要請を繰り返し、他国に比すれば予算の使い方も最悪の「緊急対策」です。あいかわらずPCR検査「帰国者・接触者相談センター」仕分けで疫学調査が進んでいませんから、すでに爆発した欧米諸国に学んだ医療崩壊対策、医療従事者救済策も、時間的には準備できたはずなのに、きわめて不十分です。今年の安倍首相年頭会見の目玉であった東京オリンピック開催にこだわり続けて、感染者数を低めに小出しできたものが、「中止」ではなく1年「延期」となった途端に、大都市での感染者急増と緊急事態法です。しかも、記者会見嫌いの知性なき安倍首相は、今井補佐官任せの危機感なき応急手当、その夫人は「3密」満載の芸能人との花見、世界のパンデミックの海に漂う、漂流クルーズ船です。新自由主義の「成長戦略」優先と「自己責任」論が生んだ、究極の人体実験です。自衛が必要です。
世界経済と世界恐慌の見通し、感染症の文明史と差別史、中国・韓国とのワンヘルス連帯のあり方、731部隊医学ばかりでなく100部隊獣医学をも重要な起源とする日本ウィルス学・ワクチン学の歴史など、語るべき問題は多々ありますが、長くなったので、今回はここまでに。幸か不幸か講演・研究会等も軒並み中止・延期で、自宅で綴る本連載も、しばらくは1日15日の月二回更新を復活し、長期連載になりそうです。「パンデミックの政治1.2」はカレッジ日誌に移し、「3」のみ下に残します。私の731部隊研究と並ぶパンデミック研究の原点、2009年メキシコでの新型インフルエンザ体験「パンデミックの政治学2009」、及び法政大学『大原社会問題研究所雑誌』最新3月号に寄稿した「20世紀社会主義・革命運動史を21世紀にどう描くか」 をアップ。もう忘れられていますが、2009年春のインフルエンザ・パンデミックは、麻生内閣末期で、やはり後手後手のお粗末な対応、秋の政権交代、民主党政権成立に、道を拓きました。もっとも当時の自公麻生内閣は支持率10%台、今年の安倍内閣はなお40%を維持しています。パンデミックは、世界の社会運動・市民運動にも沈黙を強いるようになっており、インターネットが、情報戦とインテリジェンスの新たな舞台ともなっています。自粛用お勧め図書として、カミュの『ペスト』で、不条理の世界を。
[パンデミックの政治3] いよいよパンデミック、文明史的検証に耐えうる感染症対策を!
2020.3.15 3月の予定が次々にキャンセルされ、今日はもともと3/11から9年目の福島にいる予定でしたが、高齢者ゆえの自宅蟄居になったので、予定外の臨時更新。3.1ビキニデー、3.8 国際女性デー、3.10東京大空襲、それに3.11震災・原発関係のイベントも、軒並み中止ないし縮小です。いうまでもなく、世界保健機構(WHO)の「パンデミック宣言」を受けてのものです。コロナウィルスCOVID-19は、世界120ヵ国以上、14万人にまで感染が広がりました。ライバル中国での感染がピークを越え、「対岸の火事」と見ていたアメリカで市中感染が増え、秋の大統領選向けにトランプ大統領が突然欧州からの入国禁止を言い出したところで、WHOの「パンデミック=世界的大流行」です。WHOのエチオピア元外相テドロス事務局長の「管理されたパンデミック」発言から、中国への配慮で宣言が遅れたという見方もありますが、私は2009年新型インフルエンザの経験から見て、欧州とアメリカでの広がりが決定的であったろうと思います。実際は、「パンデミック」を管理できたのではなく、米中両大国での広がりと動きを見て、「宣言」のタイミングが管理されたのです。
パンデミックは、世界経済を直撃しています。リーマンショック以来、いや1929年に匹敵する世界恐慌を招くという見方さえ出ています。アメリカでは1987年のブラックマンデー以来の株価暴落ですが、私はその時米国滞在中でした。日本はちょうどバブル景気の真っ最中で、一度は世界と同じく大幅株安を経験しましたが、すぐに戻して米国の企業や不動産・国債を買いあさり、危機脱出の牽引国ともてはやされました。それがバブル崩壊の始まりでもあったのですが。今回は、アメリカ・ウォール街の危機を救う「白馬の騎士」は、見当たりません。リーマンショックは、中国経済の成長があって何とか収まりましたが、その中国が、今回は危機の発火点でした。サウジアラビア、ロシアも関わる原油価格暴落が伴って、アメリカのシェールオイル産業が倒産の危機です。金融政策の効果はすでに限界にきており、製造業の回復には時間がかかります。ましてやアベノミクスで失敗し、消費税で景気が冷え込んだ日本は、ひとたまりもありません。非正規雇用を3分の1にして格差を拡大し、教育や医療、基礎科学への投資を削り続けたツケが、まわってきたようです。
そこで、各国の権力者は、何とか自国民だけは感染から隔離するという出入国管理ばかりでなく、自国経済を守るための貿易・ 金融・財政政策を優先し、強行します。そのために、時の権力者は、緊急事態を理由に自由と人権を制限し、情報を統制しようとします。前回まで、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)流行の経験に即して、@WHOのパンデミック宣言には、国際政治のバイアスが入ること、A各国の医療保健システムと 初動体制が、感染と犠牲者の規模・広がりにとって決定的であること、B国際的にも国内でも、人種差別や経済格差が作用し、貧困国、社会的弱者・底辺層に犠牲が強いられることを、いわば「パンデミックの政治学」の公理として仮説的に析出し、今回のコロナウィルスでも、その通りになりました。本格的パンデミックはこれからですが、これまでの世界の動きからしても、Cパンデミックに際して各国は自国中心のナショナリズムを強め、閉鎖的・排外主義的政策が採られる傾向がある、D時の権力者は緊急事態として、権力を集中し情報統制に走りがちである、を仮説として追加できそうです。 ただしこれらは、戦争や大災害のような危機でも同じで、パンデミックが人類史的な文明の危機、民主主義の危機の重要な一つであることを示します。石弘之『感染症の世界史』(角川文庫)や、本サイトで1月にお勧めしたマルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン『未来への大分岐ーー資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(集英社新書)のスケールで、考えるべき問題です。
3.11フクシマから9年目の今年に「復興オリンピック」を設定したのは、もともと「フクシマはアンダーコントロール」という安倍晋三の世界的フェイク演説を経てでした。汚染水処理も、廃炉プロセスも、何より郷里を奪われた人々の帰還が、いっこうに進んでいません。「安倍ウィルス」の情報隠蔽・操作・フェイク発信は、以後も増殖してきましたが、感染症対策を遅れさせてまで開催しようとした東京オリンピックに、赤信号が灯りました。今度は世界的大流行で、世界中からアスリートを受け入れるのですから、日本だけコントロールできても、どうにもなりません。IOCは WHOに従うとのことですが、パンデミック収束宣言が夏までに出る可能性は、まずありません。214ヵ国に広がった2009年の新型インフルでは、1年以上かかりました。日本がオリンピックのために初動検査をサボタージュし、いまなお1日6000人分のPCR検査能力しかなく、しかも実際の検査は1000人程度で、感染の実態を把捉し得ていないというのは、いまや世界の常識です。トランプ大統領は、武器を買ってくれる安倍首相へのリップサービスはありましたが、実際の感染対策は、早期の幅広い検査、ドライブスルーまで含む素早い韓国方式です。ただし、検査も受けられない無保険者が社会の下層に沈殿して、隙だらけですが。日本では、医療用マスクばかりでなく、防護服も消毒液も準備できなかった厚生省=感染研「専門家会議」の右往左往、官邸主導の医療保健戦略のお粗末が、次々に明らかになっています。 1940年の「幻の東京オリンピック」については、昨年の講演記録の一つが活字になりましたので、アップロードしておきます。1940年の東京オリンピックは、「紀元2600年建国祭」を盛り上げるための行事の一つ、日中戦争泥沼化により「返上」を余儀なくされました。一緒に計画された東京万博は「延期」でした。2020年は、オリンピック憲章により開会宣言をするはずの「国家元首」新天皇と共に、どうなるのでしょうか。後生の人類のために、これらの記録は、厳密に残され、公開されるべきです。
2020.3.12 臨時ですが、歴史学者の今井清一・横浜市大名誉教授の訃報が入りましたので、緊急更新。私にとっては、日本近現代政治史研究の尊敬すべき大先達であるばかりでなく、私の一橋大学での大先輩・故藤原彰教授の親友で『昭和史』共著者、1980年代から親しくしていただき、つい先日も新著『関東大震災と中国人虐殺事件』(朔北社)を送って頂いたばかりでした。今井さんは、この遺著でも、史資料の扱い、隠蔽・改竄に厳しく、新資料で自説を補強し厳密にしていく学問の姿勢に、大いに励まされました。御礼を書きかけたところで、突然の訃報です。享年96歳、心からご冥福をお祈りいたします。今井さんはまた、私の長く探求するゾルゲ事件被告・尾崎秀実の娘婿でもあり、『新編 愛情はふる星のごとく』 (岩波現代文庫)の編者、私の研究の要所要所での助言者でもありました。この点でもまだお聞きしたいところがあったのに、永遠に不可能になりました。かえすがえすも残念です。安らかに、お眠り下さい。
ついにWHOのパンデミック宣言なので、「パンデミックの政治学」補論。COVID-19のヨーロッパ・アメリカ合衆国への広がり、日本の「安倍ウィルス」の暴走による学校ばかりでなく社会活動全体の萎縮・閉塞、 株価2万円割と円高1ドル=100円の攻防、そして「緊急事態宣言」を可能にする危機便乗型新立法。ファシスト安倍は、ウィルスを「敵」と名付けてはばからず、感染症に対する「国家総動員体制」を作ろうとしていますが、初動の失敗と検査能力・医療態勢貧困で、世界的パンデミックには無力でしょう。その安倍型「戦時体制」を支える「専門家会議」が、どうも胡散臭いと、戦時関東軍防疫給水部(731部隊)、軍馬防疫廠(100部隊)から戦後の伝研・予研分離、予研から感染研への歴史を振り返っていたところに、強力な、ホンモノの医学専門家の勇気ある発言です。テレビでも国会でも「なぜ検査を早期に広く実施しないのか」と、患者に寄り添った鋭い論陣を張っている医療ガバナンス研究所理事長・上昌広さんの、「帝国陸海軍の「亡霊」が支配する新型コロナ「専門家会議」に物申す」(上)(下)という論文で、私が731部隊との関係で述べようとしていた問題が、ほとんど入っています。
上博士の論文は、新潮社の有料会員サイト「フォーサイト」への寄稿なので、詳しくは紹介できませんが、簡単には『サンデー毎日』最新号にも出ています。安倍首相官邸と厚生労働省が信頼する「国立感染症研究所」のPCR検査独占、民間医療機関・検査機関を軽視し忌諱する根拠を、歴史的に読み解く立派な研究論文です。上医師は、「専門家会議」メンバーの出自を、@「国立感染症研究所」(感染研)、A「東京大学医科学研究所」(医科研)、B「国立国際医療研究センター」(医療センター)、そしてC「東京慈恵会医科大学」(慈恵医大)と類型化し、それぞれの機関が帝国陸軍・海軍の戦時医療=731部隊体制と関わってきた歴史をひもとき、「今回の専門家会議のメンバーは、帝国陸海軍と関わりが深い組織の関係者で占められている」事実を析出します。特に@感染研とワクチン製剤企業、C慈恵医大と海軍のつながりは、東大・京大医学部出身者を中心に追いかけてきた731部隊研究にも、新鮮な示唆でヒントになります。
[パンデミックの政治2] 検査なくして対策なし:安倍ウィルスで広がった感染症パニック
2020.3.1 新型コロナウィルス(COVID-19)という「妖怪」が、世界を席巻しています。2月に始めた私の「パンデミックの政治学」は、長期連載になりそうです。前回、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)流行の経験に即して、@WHOのパンデミック宣言には、国際政治のバイアスが入ること、A各国の医療保健システムと 初動体制が、感染と犠牲者の規模・広がりにとって決定的であること、B国際的にも国内でも、人種差別や経済格差が作用し、貧困国、社会的弱者・底辺層に犠牲が強いられること、を述べました。2月の世界と日本の動きは、不幸にも、事態は10年前の繰り返しになっているようです。特にこの国は、安倍ファシスト政権の隠蔽・ごまかし・言い逃れ体質が、新型感染症対策にまで色濃く反映し、世界的にみても後進的な無策で、いのちとくらしの危機を深刻化しています。もはや「武漢ウィルス」ではありません。「安倍ウィルス」の蔓延です。
@世界保健機構(WHO)は、2月末現在まだ「パンデミックへの備え」「リスクが非常に高い」段階で、「パンデミック宣言」を出していませんが、米国疾病予防センター(CDC)が「パンデミックの瀬戸際」といいだし、カリフォルニアで経路不明の感染者=「市中感染」が現れ、トランプ大統領も緊急記者会見で「2、3の国の入国禁止」にまで言及しましたから、3月早々には、世界はパンデミック状態とされるでしょう。なにしろ「世界の工場」中国での生産がストップし、ウォール街の株価が暴落して、世界経済はリーマン・ショック以来の危機です。2009年当時も、当初は「貿易・渡航制限は不要」といっていたWHOが、「パンデミック宣言」を出したのは、アメリカ国内で死者が出た直後でした。
Aの各国別対応で、日本は、感染症対策の後進国であることを、世界に露わにしてしまいました。当初の武漢在住日本人チャーター機脱出作戦、すでに沖縄で入国審査・検疫を受けたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号乗員・乗客の船内隔離・感染検査のお粗末、なによりも、率先して動くべき政府と厚労省の初動対策の甘さ、そこで露呈した国立感染研と「安倍トモ」官僚の無能。あの和泉洋人「健康・医療戦略」担当首相補佐官と大坪寛子厚労省官房審議官コンビが主導した「湖北省しばり」の水際作戦失敗と、なぜか慈恵会医科大や国際医療福祉大関係者が多い政府系「専門家」の「やってる」プロパガンダ。慈恵医大は大坪の出身校、国際医療福祉大は、あの加計学園と同じく、和泉補佐官担当の「国家戦略特区」でできた天下り大学です。無論、一握りの「御用学者」のみが使われて、一般教員や学生にとっては迷惑なことですが。「桜を見る会」や検察官「定年延長」問題と同じ事実隠しは、対策を後手後手にして、いまだに確かな感染状況がつかめないPCR検査の遅れ、「検査難民」問題に、典型的に現れています。当初は見下していた中国や韓国の毎日1万人以上のウィルス検査態勢に比べ、日本の「パンデミック」準備態勢の遅れは、際立っています。
何故、こんなことになったのでしょうか。「安倍ウィルス」のしわざです。安倍晋三は、中国・武漢から始まった新型ウィルス感染を、「対岸の火事」とみなしていました。それも春節という日本の正月に当たる中国人大移動による拡散で、中国政府の「武漢封鎖・隔離」も共産党独裁ならでの人権無視で攻撃材料と見なしていた形跡があります。日本のメディアの多くも、もちろん反中ネトウヨも、「野蛮な国」中国ならではの問題にしていました。日本の初動は、武漢・湖北省の自国民保護と豪華クルーズ船の各国セレブ客の隔離のみでやりすごそうとしました。安倍首相の危機感は、桜や検察問題での国会野党対応にあり、官邸・厚労省の保健官僚任せでした。
不幸なことに、日本の保健・医療体制は、福祉予算削減の改革期にありました。高齢者医療の負担増、診療報酬体系・薬価の見直しはもとより、基準病床数制度による病院の空きベッド数削減や感染研等研究予算・人員のスリム化が、課題とされていました。その基礎デザインを担当し、京大山中教授のiPS細胞研究予算削減強要まで進めていた「安倍トモ」和泉・大坪コンビが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」対策の初動で、ミスしました。大坪が、「文春砲」の批判をかわし「名誉回復」するためか、2月6日に厚労省を代表して記者会見し、まともに船室隔離・高齢者診療もできず、乗員の検査をあとまわしにした船内感染者増加と、PCR検査の「湖北省しばり」の正当性を説明していたのです。その後の無残な船内感染の増大、検疫官・医師や厚生省職員を含む感染拡大、陰性と判定された乗客の公共交通機関で帰宅後の陽性者続出、日本の対策を信頼できないアメリカ他各国のチャーター機による自国民の日本からの救出と自国内隔離・陽性者発見、そしてすでに、イギリス人を含む6人以上の「人災」犠牲者を出しています。「安倍ウィルス」の人災です。
忘れてならないのは、本来は真っ先にPCR検査を受けて、陰性の健常者のみで乗客サービスにあたるべきだったフィリピン、インド、インドネシア等の国籍が多い乗員の検査が、後回しにされたことです。日本の国内メディアでは、なぜかほとんど触れられなくなりましたが、538人(乗客7人・乗員531人)のフィリピン人のうち、陰性で帰国を希望した445人がクルーズ船を離れチャーター機にのれたのは、ようやく2月25日で、59人は感染が確認され、日本の病院に残されました。他の数十人はまだ船内です。重症者もいるでしょう。隔離された帰国者からも、アメリカ42人やオーストラリア・香港8人等と同様に、再検査で陽性者がでてくるでしょう。日本の感染症医学・検査体制の不備を、世界に晒しました。Aの各国別感染対策の違いと共に、B感染者・犠牲者の差別的扱いに、世界的格差構造が映し出されました。初動期にWHOも述べていたように、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号は、中国武漢市と共に「パンデミックの政治学」の世界的素材でした。そこで中国政府よりもさらに劣悪な、日本政府の水際対策の不備が白日の下に示され、世界に不安を拡散したのです。
中国革命を導いた毛沢東に、「調査なくして発言権なし」という有名な言葉があります。1930年の言葉ですが、それは毛沢東の農民層分析等にも表現され、「科学的」政策の前提とされます。ウィルス対策で言えば、「検査なくして対策なし」でしょう。グローバル化とIT化が世界を覆い尽くした現代では、パンデミックのような国境を越えた危機にあたって、正確な情報データとその世界への発信が、対策の信頼性を担保する決定的意味を持ちます。中国は、初動で正しい事実と警鐘をSNSで発した医師の情報を言論弾圧したため、初動の遅れと1100万大都市武漢の封鎖を余儀なくされましたが、その後は、感染拡大・感染死の数を毎日公表し、それを分析した医学論文、病棟増設、全国の医療資源の集中的投与、感染防止規制、新薬開発などで、世界第2の経済大国の力を発揮しました。隣国韓国は、感染者数で中国に次ぎますが、いったん新興宗教団体の礼拝から集団感染が察知された後の文大統領の決断・対策は、日本とは対照的でした。連日1万人に及ぶPCR検査(ドライブスルー検査!)を国を挙げて実行し、感染者に対する生活保障・企業支援も手厚いものです。シンガポールやイタリアも同様です。
感染はすでに、5大陸55か国以上に広がっています。中国・韓国・シンガポール等と比べると、日本とイランの感染調査と対策、投入予算・人員のお粗末が、際立っています。日本の感染者数が少なく見えるのは、当初WHOにクルーズ船感染数の別枠化を求めたような見かけ上の過少申告、4月の習近平国賓招待、7月からの東京オリンピック強行のために数字を小さくしたい思惑が有り、そのために、PCR検査そのものをサボタージュしたものでしょう。2月25日の日本政府の「感染症対策の基本方針」は、初動対策ミスの反省もなく、PCR検査についてはむしろ対象者を狭めかねない、「検査難民」倍増の愚策でした。安倍内閣の支持率も大きく下がり、加藤厚労大臣の官僚的対応は、国内外で信用を失っていました。それは、厚労省が「専門家」として頼ってきた国立感染症研究所の規模と予算・人員の貧困ばかりではなく、もともと感染研の前身である予防衛生研究所(予研)が、東京大学伝染病研究所(伝研、現在は医科学研究所)から分離・創設される際に、GHQサムス准将に取り入った関東軍防疫給水部=731部隊医学者・医師を幹部とし継承してきた歴史と関わっていると、詳しく書くつもりでしたが、また局面が代わりました。
2月26日・27日に、安倍首相がなぜか「反転攻勢」に出て、スポーツ・文化イベントに「自粛」を求め、全国の小中高等学校を休校にし春休みに入る、と暴走しだしたので、感染研にまつわる歴史的分析は、次回以降にまわすことにしました。対策本部も専門家会議も後手後手で、記者会見もなかった安倍晋三が、急に危機感を示しました。この「暴走」は、すでに国内外で信用を失った「専門家会議」「基本方針」が不評で、「ごく少数の側近」にのみ相談して「安倍トモ」荻生田文科相を呼びつけ、与党幹部や他の閣僚にも知らせず、「首相のリーダーシップ」を初めて発揮したもののようです。「側近」に1月まで入っていた和泉首相補佐官は、大坪スキャンダルで消えたようです。時事通信「首相動静」の2月の面会者を見ると、「安倍ウィルス」の増殖メカニズムが見えてきます。首相の財界・芸能人・メディア人脈とのグルメや宴席の多さ、「不要不急」の「安倍トモ」とのふぐ三昧、稲田朋美誕生会等は相変わらずですが、ほとんど毎日会っている「側近」は、菅官房長官でも加藤厚労大臣でもなく、北村滋国家安全保障局長、今井尚哉首相補佐官、秋葉剛男外務事務次官の三人です。朝日新聞2月29日付けによると「全国一斉休校の独断専行」は、今井首相補佐官のアイディアのようです。この三人組、今後も要注意です。
突然の「暴走」「独断専行」には、安倍晋三なりの危機感があります。世論調査の支持率低下や北海道知事の「英断」高評価もありますが、そればかりではないでしょう。衆院予算審議を乗り切り新年度予算を確実にした安堵でもないでしょう。底流は、消費税上げによる経済の停滞(アベノミクスの失敗)、それを補うはずの習近平国賓招待と夏のオリンピック遂行であったでしょう。しかし北村・秋葉ら「側近」から入る海外の評判・動きは、芳しくありません。日本のクルーズ船対応は、中国の武漢封鎖なみの注目度で、失政とされました。WHOのパンデミック宣言は不可避で、時間の問題です。アメリカCDCの渡航危険レベル3になると、日本は「2、3の国」=中国・韓国と共に出入国規制の対象になりそうです。日本企業への打撃はもとより、秋の大統領選挙向けパフォーマンスが主眼の「親分」トランプ大統領の気まぐれ次第では、安倍は切り捨てられる可能性も出てきます。2月29日夕の安倍首相の初めての記者会見は、「休校」を「休業」という国民向けのパフォーマンスで、質疑も途中で打ち切り、具体策は官僚・現場任せでした。米国向けには、いっそう入国禁止規制を必要とする材料となったでしょう。
東京オリンピック開催は国際オリンピック委員会(IOC)の権限で、その有力委員が、5月までに感染がおさまらなければ中止もありうる、と言い出しました。「1940年幻の東京オリンピック」の悪夢再来です。これらに株価暴落が重なってのギャンブルが、安倍晋三の「緊急事態宣言=全国小中高等学校一斉休校指令」です。しかしこの「唐突」な政策転換には、各官庁も都道府県・市町村も、医療現場も子を持つ親の職場も、大混乱でついていけません。「安倍ウィルス」で汚染された混沌=カオスです。たとえ学校休校はなんとかなっても、満員電車も観光地不況もそのままで、3月でおさまることはないでしょう。なにしろ世界不況に入った経済界には、「在宅勤務」「時差出勤」のススメと「有給休暇を認めてほしい」と懇願するレベルのものですから。しわよせは非正規労働者や子を持つ女性労働者に集中します。マスク不足は深刻な事実ですが、トイレットペーパー買い占めという、かつて石油危機時にみられたパニックまで起きています。いのちとくらしのかかった情報戦は、続いています。
「パンデミックの政治」の行方は、遅ればせのPCR保険適用で、ようやく肝心のデータの本格的収集がはじまりそうな局面ですから、まだまだ予断を許しません。[2020年3月のおすすめ]として、関東軍防疫給水部(731部隊)とならぶ軍馬防疫廠(長春100部隊)の細菌戦を追った小河孝『満州における軍馬の鼻疽と関東軍ーー奉天獣疫研究所・馬疫研究処・100部隊』(文理閣)をご紹介します。軍馬が兵士よりも重宝され、動物実験から生体実験まで実行された日中戦争期の獣医学を、安達誠太郎や三友一男の体験記を批判的素材に、専門家(日本獣医生命科学大学教授)らしい抑えた筆致で隠された実態を読み解きます。私の関心は、その延長上での日本獣医学の戦争責任回避と加計学園に至る今日の問題ですが、実は動物起源の新型ウィルスや、感染研のBSLレベル4施設の問題にも大きく関わります。新型ウィルスは中国「武漢国家生物安全実験室」発の生物兵器だという陰謀論も盛んですから、まずは動物感染の基礎知識を得るためにも、どうぞ。2月の「パンデミックの政治 1」も、下に残しておきます。
パンデミックの政治とワンヘルス
現代は危険社会です。多くは産業革命以来の人間の傲慢が、動植物や自然生態系とのバランスをくずし、地球的規模での危機管理を求めています。核戦争や気候変動が典型的ですが、新型ウィルスなど感染症もその一つです。世界保健機構(WHO)は、新型コロナウィルスの感染による肺炎の広がりを「緊急事態」と宣言しました。1月に中国の1100万大都市武漢市で見つかり、中国の旧正月春節の大移動で、中国全土に広がりました。ヒトとヒトの感染、潜伏期間中の感染、無症状感染も分かってきて、世界で20ヵ国以上、1万人に感染、死者も200人を越えました。受験シーズンの日本にも、武漢滞在者・旅行者から持ち込まれて、国内での二次・三次感染も疑われ、空港での水際検疫・封じ込め作戦は崩壊寸前です。予断は許しませんが、世界的大流行(パンデミック)にまで広がり、長期化する可能性があります。
今回の感染症は、2002-03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行と比較されています。いずれも中国発だからです。SARSは2002年11 月に中国広東省で見つかりましたが、中国政府はその症例・感染を隠蔽して初動対策が遅れ、本格的には2003年2月にWHOに報告されてから、世界的問題になりました。世界30ヵ国に広がり、8422人が感染、916人が死亡とされています。WHOが終息宣言を出したのは、2003年7月、発症から8か月かかりました。今回は、中国政府は数週間で対応し、武漢市の交通封鎖など思い切った封じ込め対策を実行しています。もちろん初動の感染源の特定と地方政府の混乱もあり、現地の感染者・住民の苦難、それに医師や看護師の苦労は大変なものです。感染規模は、すでにSARSを上回っています。武漢市以外の感染者が急激に増えていますから、世界的な問題です。
私は、今回の新型肺炎の問題を、2003年のSARS流行よりも、2009年のメキシコに発した新型インフルエンザ(H1N1、豚インフル)の流行と比較したいと思います。一つは、SARSの段階と比べ、中国の国際社会の中での意味が、リーマンショック後に飛躍的に大きくなっており、したがって、飛行機や鉄道・バスの交通、ビジネス・観光客を含む人的交流が、新しい段階に入っているからです。アメリカもヨーロッパも日本・韓国・東南アジアも、金融・物流・情報と共に、巨大市場でもある中国の人々とのつながりが不可避になっています。もう一つは、2009年4月12日にメキシコで見つかり、4月24日にはWHOの緊急事態宣言が出され、6月にWHOパンデミック宣言を出したケースと、現局面が似ているからです。214の国・地域で爆発的に流行し、2011年まで患者推計200万人・死者1万8097人に及びました。日本でも、当初はメキシコ帰国者封じ込め・検疫がありましたが、5月には関西の高校生から国内ヒトーヒト感染がわかり、文字通りの大流行で、200人以上が亡くなりました。
実は私自身、2009年は3月から5月までメキシコに滞在し、外務省・日本大使館の勧告で、客員講義途中で緊急帰国しました。空港で厳しい検疫を受け、以後10日間は、保健所監視付の自宅待機を体験しました。以後も、政治学者として、パンデミックを注視してきました。その詳しい経緯は、本トップで書き続けて、「2009年のリビングルーム」に収録しました。後に本サイト「メキシコ便り」中に「パンデミックの政治学」と名付けて時系列でまとめ、英語・スペイン語の論文も公表しています。それを読み直すと、ようやく空港での検疫から解放され、立派なマスクや、水銀式ではなく電子式の体温計を手に入れ、毎日検温していたのに、成田空港から厚生労働省・東京都経由、地元保健所へ連絡が入ったのは、帰国後4日間もかかっていました。保健所の電話検診もおざなりで、検温記録は心覚えに終わったいまいましい記憶など、時の麻生内閣の初動段階の不手際を想い出します。その詳細は「メキシコ便り」の2009年分を見て貰うことにして、ここでは、当時の参与観察から導き、2020年の世界と日本を考えるために役立つであろう、三つほどの教訓を記しておきます。
「パンデミックの政治」の第一は、国際機関WHOの役割と意味です。WHOの「緊急事態宣言」が世界に警鐘を鳴らし、フェーズが上がる毎に人々の衛生・安全意識を高めることは事実です。しかし、医学・医療専門家の国際提携はともかく、それは、世界の政治経済を動かすものではなく、むしろ国際関係によって動かされるものです。今回も「人の移動や貿易を制限するものではない」とわざわざ断っていますが、これは、世界政治経済における中国の役割、米中関係を考えてのものでしょう。2009年の場合も、米国とメキシコの自由市場協定(NAFTA) から、なかなか「緊急事態宣言」にいたらず、アメリカ人感染者から死者が出たためにようやくWHOが動いた、とメキシコではささやかれたものです。
第二は、ワクチンや特効薬がなく、流行地の住居や食糧、衛生環境が異なるもとでは、各国の政府と医療保健システムが、検疫・治療・防疫に決定的であり、感染・流行の程度を決めることです。先進国の場合は、自国人保護の特別機をチャーターしたり、高度な医療・防疫チームを組織することが相対的に容易ですが、それでも初動の対策は後手後手であることがほとんどで、容易に終熄しません。経済的・軍事的国力が弱い国ほど、多くの感染者・死亡者を出す傾向があります。2009年の新型インフルは、実は、メキシコでもアメリカ資本の養豚場が発生源とされ、ウィルスはアメリカから持ち込まれた可能性大ですが、アメリカはその風評被害を嫌って、当時「豚インフルエンザ(swine flu)」と言われていたものを、わざわざ「新型インフルエンザ」と呼称まで変えました。もっともそれに従ったのは、メキシコと日本だけなどとも言われました。今回安倍内閣は、邦人保護の緊急時政府専用機として、かつて日本軍が侵略した武漢まで、中国では軍用機扱いになる航空自衛隊を使おうとしたようです。
第三に、パンデミックは、世界的にも国内でも、貧困と格差の問題をくっきりと映し出します。2009年のメキシコでは、現地の白人、混血メスティーソ、原住民インディオのあいだで、感染率・死亡率が大きく異なったといいます。白人は早々とアメリカやスペインに逃げるか、豪邸に閉じこもり、マスクも買えない都市貧民インディオが、最大の犠牲者でした。今回は春節の武漢で、1100万人中500万人は爆発的感染前に北京や外国に抜けだしたといいます。どんな階層の人々でしょうか。規模が大きくなると、弱者への被害偏在が現れます。
もっとも、世界最大の観光支出国となった中国上層・中間層の人々が、欧米や日本へのウィルス運搬人になった可能性大です。パンデミックまで広がるかどうか、8か月や1年で終息するかどうかはわかりませんが、感染症リスクも、格差社会を映し出します。情報戦では、すでに反中ヘイトや差別言説がとびかっています。人間のいのちが、不平等に扱われているのです。 緊急事態名目での権力集中・人権制限は、パンデミック時の各国共通の特徴で、クローバル薬品ビジネスの便乗参入や、緊急事態対処の憲法改正までいいだす徒党も現れます。いのちより党利党略、私利私欲の輩たちが暗躍します。
こんな時に、「ワンヘルスOne Health」という言葉があります。「ヒトの健康を守るため動物や環境にも目を配って取り組もうという考え方です。人も動物も環境も同じように健康であることが大切だというわけです。公害や気候温暖化を思い起こせばわかりやすい」と説明されていますが、地球は一つという「ワンワールド」や、この国で流行る「ワンチーム」よりは、やや広く深いものです。すべてのいのちは、ヒトも動物も植物も、生態系のなかでつながり合っているという考え方です。東京大学の学術俯瞰講義の題目になり、厚生労働省もかかげています。ですが、気候変動の問題と同じです。スローガンよりも、いのちを守り救う実践が求められます。米国・イラン戦争の危機、イスラエル・パレスチナ問題、米国大統領予備選開始、イギリスのEU離脱、国内では桜を見る会、IRカジノ疑獄等国会審議が続きますが、「ワンヘルス」の時代に一番重要なのは、正確な事実と情報の公開です。3月まで新型肺炎が世界で広がっているようであれば、2020年は、本格的な「パンデミックの政治学」の出番となります。
[2020年2月のおすすめ] 名越健郎『秘密資金の戦後政党史ーー米露公文書に刻まれた「依存」の系譜』(新潮選書)は、戦後日本政治の深層に斬り込んだ力作です。自由民主党の創設時から始まる米国の反共工作資金供与、CIAの暗躍、日本共産党・日本社会党にルーマニア経由等で送られたソ連の秘密資金とKGBの役割ーー時事通信ワシントン支局長・モスクワ支局長から拓殖大学教授になった著者は、噂や憶測にもとづく類書とは違って、米国国立公文書館文書、旧ソ連秘密文書の資料ナンバーまで付して、東西冷戦時代の日本の政党政治が、米ソ代理戦争・情報戦でもあったことを説きます。インテリジェンスに関心のある方は、必読。you tube も1本。新聞・テレビではほとんど報じられないフランスの年金改革反対デモ。日本では、なぜ怒らないのか?
世界の真ん中で萎縮しファッショ化する日本!
2020.1.1 昨年末に予告したように、2020年から月1回、1日の更新です。といっても、正月だからめでたい話とはなりません。すでに数年前から、安倍晋三内閣を「忍び寄るファシズム」「ファシズムの初期症候」と述べてきた本サイトとしては、憂鬱な新年です。なにしろ「天皇陛下万歳」がテレビで繰り返し放映され、公共美術展の芸術作品が「御真影」を侮辱したと批判されて展示が中止されました。公金私消の権力私物化が国会で十分解明できず、その糸口になるはずの公文書の隠匿・改竄は、ついにシュレッダーで裁断されてなかったことにされるところまで進んだのですから。とても「おめでとう」を語る気分になれません。国際社会での地位はどんどん下落し、女性の政治参加では発展途上国以下なのに、この国の独裁者は「日本が世界の真ん中で輝いた年になった」という年末回顧、恐るべき自己愛(ナルシシズム)です。実際は、トランプの米国以外四面楚歌、萎縮する日本です。
もっとも「忍び寄るファシズム」は、日本だけの話ではありません。国際協調の崩れ、自国中心主義、移民・難民・外国人労働者の排斥は、いたるところで見られます。かつて冷戦崩壊時に夢見られた、グローバリズムによる越境の容易さと世界の平準化は、インターネットによるコミュニケーションの広域化に促されて世界平和へ進むかに見えましたが、実際には地球規模での多国籍企業による自然破壊と格差拡大、国民国家の再編と新たな国境の壁の構築でした。左右の全体主義と権威主義体制が終わって、「退屈な」自由と民主主義が広がるという「歴史の終焉」論もありましたが、宗教の違いや人種・民族問題が至る所で吹き出し、新たな対立と紛争、抑圧と抵抗、暴力と追放、そして戦争が日常化してきました。そして、それを統括する大国の指導者たちは、アメリカン・ファーストの大統領、EUから脱退するイギリス首相、強権的な中国とロシアのトップ、彼らの権力と統治技術に比べると、沈み行く日本の安倍晋三は、いかにも小物の貧弱な国家主義者にみえます。
かつて戦後西欧で、雇用と所得再分配を保障するケインズ主義的福祉国家は財政破綻をもたらしたとして「イギリス病」や「スウェーデン病」が叫ばれ、「小さくて強い政府」を掲げる英国サッチャー首相が登場したのが1979年、当時は、「鉄の女」の反共ポピュリズムと言われました。それが米国レーガン、西独コール、日本中曽根と広がったのが、1980年代でした。それから40年、新自由主義は、ソ連・東欧社会主義が自壊し、EUやアジアにも広がって、グローバリズムを牽引しました。同時に市場的自由競争、投機的マネーゲーム、私的自己責任の論理が世界に流され、中国やインドが国際社会のアクターとして台頭しました。科学技術の成果はグローバル企業の利益独占と核軍拡から宇宙へと広がった戦争準備につぎ込まれ、学術研究の世界もグローバルな人材確保競争と国家の産軍学協同推進の波に呑み込まれました。第二次次世界大戦後30年で西側に構築されたシステムが、その後の40年で新自由主義に再編されましたが、どうやらそのシステムも制度疲労が進み、内部矛盾が周辺部から吹き出しています。
大国の市場と金融支配の競争の中で、東南アジアで、中東で、アフリカで、ラテンアメリカで、とりわけアメリカと中国の覇権競争に小国や地域が巻き込まれ、膨大な移民や難民が彷徨い、それがEU諸国や、新自由主義下でも福祉国家を保持した北欧諸国にまで流れ込みました。もともと移民国家として生まれた北米や豪州でも、既得権を奪われかねない下層の階級・階層からも、高い壁を作れという声があがります。40年前とは方向の違う、ナショナリズムと排外主義を動員したポピュリズムが新たな支配者を産み、ネオ・ナチ政党や極右政党が議会でも勢力を伸ばします。かつてのムッソリーニ、ヒトラー、東条=昭和天皇とは異なる形での、権力分立や選挙・議会を残してのファシズム化です。21世紀新自由主義下の独裁は、国軍の権威や直接的暴力を担保にしながらも、経済界の支持調達とメディア支配、プロパガンダと情報戦による対抗文化の周辺化・抹殺を特徴とするようです。もっともそれぞれの国情に応じて、一度は悲劇として、二度目は喜劇としての運命に終わらせる余地は、グローバル化をくぐった社会運動のネットワークと、インターネットの民衆メディアがある限りにおいて、残されていますが。
日本が悲劇の国になるか、喜劇の国になるかは、2020年代の選択にかかります。1980年代に新自由主義の波に乗ったが、バブル崩壊と失われた30年で米中対立の狭間に沈没しつつある国が、国際社会の中で名誉を回復する道は、大きく二つあります。一つは、広島・長崎を経験した国として、核兵器の廃絶・違法化の先頭に立つこと、いま一つ、東日本大震災・福島原発事故の被災国として、度重なる地震・台風・風水害を過去も現在も幾度も繰り返してきた国として、地球的規模での温暖化・気候変動への対策、エネルギー転換、そのための科学技術転換、教育・学術研究への投資を率先して進めることです。その方向転換への障害となる、軍備拡張の対米従属や東アジア諸国への敵対とヘイトを改め、国内での格差と低賃金、女性・外国人労働者や沖縄への差別をなくしていくことです。初期ファシズム政権となった安倍晋三内閣は、当面の最大の国民的障害です。
トップページの月一回更新にあわせて、「ネチズンカレッジ」全体のカリキュラムを、組み替えました。一橋大学・早稲田大学での40年近い教職を勤め上げたのを機に、これまでの4年制大学・学士論文向けカリキュラムから、大学院修士課程・博士課程を想定した新総合カリキュラムで、専修コース、主題別分類を採りました。まだ参考文献、pptパワポ原稿 やyou tube 映像の追加等はこれからの暫定版ですが、おいおい進めていきます。なお、これまで「情報処理センター」として皆様にご愛顧頂いたリンクページは、グーグルやウィキペディアの精緻化、スマホ検索の普及を踏まえてトップページからは廃止し、情報学研究室に歴史的資料としてのみ、残しました。イマジンやカレッジ日誌と共に、いわば本カレッジの公文書です。その代わりに、「今月のお勧め」として、個人的に参考になった書物・論文やTV番組、you tube映像等を、図書館書評ページや学術論文データベ ースとは別に、取り上げて紹介していきます。
[2020年1月のおすすめ] まずは本サイト・学術論文データベ ースの常連、神戸の弁護士深草徹さんの最近の寄稿「最近の日韓関係の危機の顛末と原因をつまびらかにし、その修復の道を論ずる」が加筆されて、市販の単行本になりました。『戦後最悪の日韓関係』というタイトルで、かもがわ出版から1月に刊行されます。世界の動きを、改めて人類史的に見るために、マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン『未来への大分岐ーー資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(集英社新書)、編者・斎藤公平さんの発言を含め、考えるヒントが満載です。この間進めている、日本の科学技術と今日の大学・学問を考えるために読んでいる、谷川 建司、須藤 遙子『対米従属の起源 「1959年米機密文書」を読む』(大月書店)と志垣民郎『内閣調査室秘録ーー戦後思想を動かした男』(文春新書)、共に2019年の刊行ですが、前者は米国 USIS(広報文化交流局)の1950年代日本文化工作、後者は内閣調査室の1960年代日本知識人・学界工作を、実名入り第一次資料で明らかにする重要文献です。you tube を二本、共に今、香港民主化運動のなかで歌われている、「香港に栄光あれ」と「世情」ーー後者はもともと、日本の中島みゆきの名曲でシュプレヒコールが出てきます。
2020年も、新装「ネチズンカレッジ」をよろしく。
中曽根康弘は没して、新自由主義日本を残した!
2019.12.1 元首相・中曽根康弘が亡くなりました。享年101歳、大往生でした。<功成り名遂げた>政治家の死に、マスコミは「強力なリーダーシップ」「世界の指導者と渡り合った」「ロン・ヤス関係で強固な日米同盟」「風見鶏は現実主義者の愛称」、果ては「彼こそ平和主義者だった」と惜別の辞。20世紀の政治経済を長く見てきたものとしては、大いなる違和感です。中曽根康弘は、1980年代に、日本の政治経済の基本構造を大きく変えました。一言で言えば、日本における新自由主義政策の導入であり、一時はバブル経済で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと浮かれましたが、90年代以降の「失われた30年」、今日の悲惨な日本衰退・頽廃への舵取り役となりました。もともとイギリスのサッチャー首相が始めた新自由主義を、アメリカのレーガン大統領、西ドイツのコール首相とともに、世界的な新自由主義グローバライゼーションへと牽引しました。「小さな政府」を掲げた臨調行革、国鉄・電電民営化は、その重要な一環でした。世界的に見れば、第二次世界大戦後のケインズ主義的福祉国家から、今日の市場礼賛・拝跪の新自由主義国家への、転換点に位置する政治家でした。
中曽根康弘は、もともと戦時の内務省官僚でした。戦後は「青年将校」として保守政党を渡り歩き、日本国憲法改正・自主憲法制定の志向(憲法改正の歌!)を、米国の政治家たちにも隠さず、それを「戦後政治の総決算」と称しました。それは、一方で日本の国力の再建をめざし、天皇制に執着して靖国神社に公式参拝したり、防衛費の対GNP1%枠突破など、自衛隊の増強と国家主義教育を推進しました。他方で日本を「不沈空母」にすると公言したのは、西側同盟の一翼として米軍と「核の傘」に従い、経済政策も米国との調整で「一等国」になりあがろうとする、対米追随ナショナリズムでした。強烈な反共意識を持ち、国鉄民営化で総評型労働運動を衰弱させ、「プラザ合意」のようなドル基軸の国際協調には積極的に応じました。その西側資本主義全体の新自由主義再編圧力が、ソ連東欧の現存社会主義崩壊と「自由市場」参入の背景となり、欧州の「短い20世紀」の終焉を見届けました。渡辺恒雄・読売新聞主筆と組んだ露骨なメディア利用、自分に近い学者・文化人を呼んでの審議会政治でも、名を馳せました。今日のメディア翼賛化の先駆けです。
その国家主義と新自由主義の接点で、中曽根康弘は日本の核・原子力政策を主導し、牽引し、遂には福島原発事故の遠因を作りました。米国訪問で原子力の威力を知り、キッシンジャーの講義で権力均衡論と核抑止論を学んだ中曽根は、1954年3月、第五福竜丸ビキニ水爆被爆とほぼ同時に、「原子力の平和利用」の名目で、学界の反対を押し切り原子力予算を通過させ、議員立法で原子力基本法を作り、CIAエージェントで読売新聞社主の正力松太郎を担いで56年原子力委員会と科学技術庁を発足させました。これが、日本の原発の出発点になりましたが、当時の国会答弁等では、原発があれば「いつでも自前の原爆を持てる」とも公言していました。その後の科学技術庁長官、防衛庁長官、通産大臣等の閣僚歴は、日本の核政策・エネルギー政策の中枢で、地震に弱く狭い国土に原発を林立させ、同時に、アメリカの「核の傘」のもとでも原発=「潜在的核保有」を持続し肥大させるものでした。マスコミはあまり触れませんが、中曽根首相時代に、核燃サイクル用プルトニウム保有を認めさせる対米交渉が進展し、88年日米原子力協定に特例が書き込まれました。それらの中曽根核政策のつけが、多発した原発事故であり、3.11以後も再生エネルギーへの転換ができぬまま原発再稼働を許し、核兵器禁止条約に加わることもできない、今日の日本を形作りました。中曽根風「大統領型首相」を、うわべだけファッションとして受け継いだ軽薄な安倍晋三は、9月の国連気候変動サミットでは「美しい演説よりも具体的計画を」と演説を断られ、来日したローマ教皇から核政策をたしなめられる醜態を演じました。中曽根死すとも、中曽根流新自由主義・核政策は死なず、です。
香港市民の民主主義、隠蔽と嘘に満ちた「桜を見る会」私物化など、時局的には触れたい問題が多々ありますが、この間のパソコン不調、更新トラブル、それに早稲田大学定年退職後2年の年齢と体調を考え、本サイトでの発言は、今回更新の「中曽根政治」のような、歴史的・大局的問題に絞り、全体をデータベース中心に切り替えていこうと思います。当面月2回だった更新を1回に減らし、過去の論文ばかりでなく、講演記録やパワポ資料もpdfやpptで保存し、「ネチズンカレッジ」カリキュラムを、きめ細かく再編成します。各種書評や、ゾルゲ事件・731部隊等も、イシューごとでまとめることを、計画しています。そのために、12月15日更新はパスし、次回更新は、新年1月1日の模様がえをめざします。常連の皆様には、ご不便をおかけしますが、ご容赦・ご期待ください。