ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2013年1月ー6月

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2013年7月ー12月

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

世界が憂慮する新政権、この夏が正念場、虹色の非核・非戦ネットワークを!

かと 2013.1.1  新年ですが、門松も松飾りもやめました。12月総選挙の国民の選択の結果は、たった2週間ですが、厳しく重苦しい新年を予感させます。4割の得票で8割の議席を独占した安倍晋三・自公新政権は、「景気回復」をうたって、財界の支持と円高緩和・株価1万円大台のご祝儀相場を得ました。とはいえ内閣支持率は59%、あの民主党菅内閣発足時にも及びません。真っ先にすべきは、違憲の疑い濃厚な選挙制度の改革、一票の格差是正なはずなのに、勝てば官軍でまた先送り。民主党政権から唯一引き継いだ消費税増税の条件作りに、日銀の独立性などどこ吹く風、2%インフレターゲットにひた走ります。復興予算の見直しと称して、いったん削られた大型公共事業の復活、仮設住宅で2度目の正月を迎えた震災被災者への生活支援は、二の次です。消費税増税は社会保障改革と一体だったはずなのに、貧困層を直撃する生活保護費の1割カットは4月にも実施とか。9条改憲「国防軍」創設は、公明党との連立でトーンダウンしても、集団的自衛権見直しと96条の改憲条件緩和の環境作りには早々と手をつけ、夏の参院選の結果次第で本番突入のかまえです。沖縄県民の感情を逆撫でするように、防衛省は、なんとあのオスプレイの自衛隊配備を計画、いったいこの国は、どこに向かうのでしょう。

かと 3・11福島原発事故について、もともと安倍首相はA級戦犯の一人です。2006年の総理答弁書で、「地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているもの」「原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期かしている」と明言していたのですから。それが政権に復帰したら、「原子力ムラ」の熱い期待を受けて、「新規原発もありうる」「核燃サイクルも続ける」と再稼働一直線です。なにしろ安倍首相は、「福島第一原発は津波を受けて電源を確保できなかったが、福島第二原発は対応した。(宮城県の東北電力)女川原発もそうだ」と、選挙前なら電力会社でさえ裏声でしかいえなかった本音を公言する始末ですから。故郷を失った福島県民の痛み、こどもたちの放射能被害をおそれるおかあさんたちの心配は、この首相の視界にはないようです。むしろ原発を「潜在的核抑止力」と位置づける石破自民党幹事長核武装そのものを主張する石原・日本維新の会代表と共に、参院選後の改憲で目論む「国防軍」創設がいかなるものであるかを、暗示しています。

かと もっとも安倍首相の夢見る「美しい国ニッポン」は、世界から警戒され、監視されています。昨年はアメリカでオバマ大統領が再選されたばかりでなく、中国に習近平体制が生まれ、フランス、ロシア、韓国、メキシコ等でも政権交代がありました。世襲の北朝鮮も新体制です。東アジアでは、日米関係よりも米中関係が、日韓関係よりも中韓関係が、いまや重みを増しています。そうした世界から、安倍内閣は「タカ派」「右翼」はもとより、「極右」「ファシスト」とさえ評されています。ドイツの新聞は「原子力推進派が再び権力の座に」とも。民主党への失望と日本経済の閉塞から自公政権を許してしまった国民の中でも、脱原発の希望や「国防軍」の拒否は、なお多数派です。夏の参院選で、改憲勢力に3分の2の議席を与えることは、国際社会から孤立し、核武装徴兵国家に近づくことを意味します。この夏が、正念場です。3.1ビキニデー、3.11フクシマ2周年には間に合わないかもしれませんが、8.6ヒロシマと8.9ナガサキは、過去の原水禁と原水協、反原爆と反原発・脱原発のいきがかりとわだかまりを捨てて、日本語で文字通りの「非核・非戦」勢力を総結集した、虹色のネットワーク連合で迎えたいものです。虹色というのは、赤と緑にとどまらない、非核と非戦の差異を尊重した多色という意味です。それが、8月15日の丸山真男の命日「復初の集い」につながれば、その時3・11後の日本にふさわしい「おめでとう」を語りうるでしょう。これが、ある社会科学者の初夢です。1945年1月8日付『朝日新聞』掲載の湯川秀樹博士等自然科学者たちがみた初夢を見ないで済むように。2013年も、本サイトをよろしく。

 今年の本サイトの基調となる『エコノミスト』臨時増刊「戦後世界史」(2012年10月8日号)掲載か「原爆と原発から見直す現代史」が、アップされています。あわせて、3・11以後の原爆・原発関係のファイルを、情報学研究室の「専門課程3 原爆と原発の情報戦」にまとめました。原発シリーズのデータベース第1弾「占領下の原子力イメージ」、第2弾「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」に続いて、新たに今年5月の明治大学講演資料を、第3弾反原爆と反原発の間」が入っています。それらをもとに書いた論文『インテリジェンス』誌第12号に加藤「占領下日本の情報宇宙と『原爆』『原子力』ーープランゲ文庫のもうひとつの読み方」(文生書院)に、その要約版が歴史学研究会編『震災・核災害の時代と歴史学』(青木書店)「占領下日本の『原子力』イメージーー原爆と原発にあこがれた両義的心性と題して、それぞれ公刊されています。そこで話題になった私の発見、占領期の広島「アトム製薬」の売り出した「ピカドン」という薬の秘密を、こうした問題解明をリードする『東京新聞』『中日新聞』特報部の皆さんが現地で追跡調査し、2012年9月25日の特集「日米同盟と原発」に、「ピカドンで、頭痛忘れて玉の汗」という広告文と共に記事にしてくれました。図書館の書評欄に、『図書新聞』2012年9月1日号掲載矢吹晋『チャイメリカ』(花伝社)書評かジャパメリカからチャイメリカへ?」と共に、「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」DBと直接関係する武谷三男批判の名著、廣重徹『戦後日本の科学運動』(こぶし文庫)を論じたか「『原子力村』生成の歴史的根拠を曝く」という短文を入れました。同書復刻版に挟み込まれた『場』43号(2012年9月)という栞への寄稿で、廣重夫人三木壽子さんと一緒です。「原発ゼロ」への歴史的検討では逸することのできない本ですので、ぜひご参照ください。

 昨年は、学術論文データベ ース寄稿の常連宮内広利さんが、言語の初源から限界までーー言語思想はどこへ向かうか」に続いて、力作「吉本隆明の彼方へーーもうひとつの時間のゆくえ」を寄稿してくれました札幌学院大学佐々木洋教授作成の詳細な原発史年表、佐々木洋「日本人はなぜ、地震常襲列島の海辺に『原発銀座』を設営したか?ーー3.11フクシマ原発震災に至る原子力開発の内外略史試作年表」を「資料と解説」と共にアップしてあります。中国研究の専門家矢吹晋さんとの対談が、矢吹晋・加藤哲郎・及川淳子『劉暁波と中国民主化の行方』と題して、花伝社から本になっています。信州大学国際シンポジウムでの基調講演「汕頭市(貴嶼村)の現状からみる 中国の経済発展と循環型社会構築への課題」は、パソコン・携帯電話など「電子ゴミ」の地球的行方をNIMBY (Not in my backyard)の観点から追ったものですが、おそらく「核廃棄物」の将来にも、応用できるでしょう。ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。ゾルゲ墓前祭の講演記録「新発掘資料から見たゾルゲ事件の実相」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第28号)等が入っています。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2013年度も開講する大学院講義・ゼミ関係は、早稲田大学ホームページからアクセス願います。

 

2003年1-6月分を、誤って消してしまいました。ただし、「ちきゅう座」の方に連載されていますので、そちらをごらんください。

http://chikyuza.net/n/archives/category/intellect

旧ソ連抑留者の方で、ソ連の原水爆開発・ウラン採掘に強制動員された方を知りませんか?
加藤哲郎2013年 6月 16日

http://chikyuza.net/n/archives/category/intellect/page/7

旧ソ連抑留者の方で、ソ連の原水爆開発・ウラン採掘に強制動員された方を知りませんか?
2013年 6月 16日 時代をみる ソ連加藤哲郎原子力
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.6.15 大きな仕事に一段落して、ようやく村上春樹の小説読めるかと思っていたら、合間にいくつか新たな仕事。特に前々回トップで触れた、旧ソ連におけるスターリン粛清の強制収容所と、戦後敗戦国ドイツ・日本・ハンガリー等のソ連の外国人戦争捕虜収容所と、旧ソ連崩壊で明るみに出た核開発・実験の秘密都市・閉鎖都市の地図上の重なりあいです。戦時ドイツ人捕虜の科学者・労働者がソ連の核開発に協力した記録があるので(ホロウェイ『スターリンと原爆』、メドヴェージェフ兄弟『知られざるレーニン』)日本人抑留者にもウラン採掘の強制労働やひょっとしたら科学者の秘密都市への選抜があったのではないかと、6月1日法政大学でのシベリア抑留研究会で発言してみました。日本人抑留者の回想・手記には、時々ドイツ人と同じ収容所で働いた記録、しかもドイツ人がロシア人に生活要求を堂々と主張し待遇がよかったという話が含まれている場合があります。秘密都市の核開発は、移動・通信言論の自由はないものの、給料・住居・食料等の待遇はよかったといいます。

◆たまたま今回の抑留研報告の中心がカザフスタンの日本人収容所で、カザフスタンには今日でも抑留されたまま現地にとどまった日本人がいることが知られていますから、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場、その近くの秘密都市クルチャトフ(セミパラチンスク-16)での日本人が出てこないかと期待してきいたのですが、カザフスタンでも核実験・核被害の研究と、戦時強制収容所の研究はわかれているらしく、つながりは見えませんでした。ただし会議後の休憩時間に、何人かの出席者から情報提供をうけました。特に北極海にちかい政治犯収容所、ナリリスク市の抑留者が記憶に基づいて書いた「点望見取略図」には、中央左側に「秘密工場(ウラン濃縮工場か)」とあります(『シベリア抑留画集 きらめく北斗星の下に』)。日本人宿舎は右下方ですが、日本人が直接秘密工場に入れられていたか否かはともかく近接しています。また、片桐俊浩さん『ロシアの旧秘密都市』(ユーラシア研究所ブックレット、東洋書店)を読むと、日本人抑留者が施設・設備を作った収容所が、後に原爆秘密都市になっていく例がみられます。アメリカや日本でも原爆・原発開発工場は秘密裏に、「安全神話」を作りつつ、実際には過疎地に作りました。ソ連はもっと徹底し、「ソ連水爆の父」サハロフ博士によれば「何百人もの奴隷・囚人」=つまり使い捨て労働力によって作られ、ジョレス・メデヴェージェフによれは「原子力収容所」で、ロシア人異端者・刑事犯、外国人捕虜・科学者に危険な被曝労働を担わせることで、1949年の原爆実験、53年の水爆実験、54年オブニンスク原子力発電所を動かしてきたようです。残念ながら、日本の社会主義・共産主義勢力は、このソ連の核開発を「アメリカ帝国主義に対する抑止力」「社会主義でこそ核は平和のために」などといって歓迎し夢見ていたのですが。

◆トルコの政変について、日本のマスコミはもっぱら東京オリンピック開催のライバルの減点みたいな報道ですが、肝心なことがすでに忘れられています。トルコはつい先日安倍首相が出向いて、原発輸出ビジネス第一号を成立させたばかりの相手国です。それも三菱重工と仏アルバの企業連合が発注、つまり先日の日仏首脳会談での「安全な」原子力の売り込みの前触れでした。アベノミクスの成長戦略に「原発の活用」を明記、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドとも原子力協定、本格的な原発再稼働の布石です。しかしトルコ側の受注主はエルドアン首相、つまりこの間の市民のデモの標的で、公園開発を含む性急な開発計画が問題になっているのです。ただしこの間、日本維新の会橋下代表の「慰安婦」問題で国際的には完全に孤立、肝心のアベノミクスの神通力がバブルに終わって、もう始まった都議選も、7月参院選も、「自公の一人勝ち」ではない可能性も出てきました。昨日上智大学での「96条の会」結成大会は大変な盛況だったようですが、そのような力が、安倍政権をストップし、原発再稼働をやめさせるために、政党間でもつくれないんでしょうか。自党の勢力拡大にのみ力をいれて、大局を見失う政党政治には、本当に失望します。

◆この間風邪から体調をくずし、病院通いとベッド生活。3月に上梓した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の延長で、5月25日明治大学での第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」での私の講演「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」は幸い好評で、『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)の宗教学者島薗進さん「原発の倫理性について」とのジョイントで二人の対論を含め you tube にアップされ、映像で見ることができます。本サイト学術論文データベ ースに、神戸の弁護士深草徹さんから、「憲法9条から見た原発問題」という力作をご寄稿いただきました。この間、私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めています。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版ともいうべき解説記事が大きく出ています。また沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、東京版にはのらなかったのですが、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。「尋ね人」<新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!>は、本サイト情報収集センター(国際歴史探偵)の「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者」で引き続き情報提供を求めます。上記「ソ連の原水爆開発に使われた抑留者」情報と共に、何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2289:130616〕

 

原発輸出・再稼働ではなく、福島事故の真相解明、汚染水対策・廃炉計画、放射能調査・除染、被曝者・被災者の救援・補償を!
2013年 6月 2日 時代をみる 加藤哲郎原子力原発
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.6.1 日本原子力研究開発機構(JAEA)という独立行政法人があります。「高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の開発や放射性廃棄物の処分など、原子力の研究や技術開発を行う文部科学省所管の独立行政法人。2005年、当時の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足した」とされていますが、もとをただせば、前身の日本原子力研究所は、1956年に日本の原子力発電が出発するにあたって、茨城県東海村に設置された特殊法人で、日本で初めての原子炉を建設し、電力9社が出資して東海村と福井県敦賀市に原発を持つ日本原子力発電株式会社(原電)と密接な関係があります。前東電会長として福島第一原発事故に大きな責任を持つ勝俣恒久氏が天下った(上った?)のが日本原電です。日本原子力研究開発機構の最大の仕事が、核燃サイクルをめざした高速増殖炉もんじゅで、莫大な税金を飲み込みながら、1995年に冷却材であるナトリウム漏洩による火災事故を起こしたうえそれを隠蔽し、2010年8月の炉内中継装置落下事故で運転再開後すぐに中断、その後の点検管理を怠って1万点もの点検漏れが発覚、けっきょく1兆円以上投資して今まで4ヶ月しか動かず、1日あたり5500万円が費やされたという、壮大な無理無駄施設です。いやおそらく、核兵器製造に必要なプルトニウムを日本が確保するために残されている潜在的軍事施設です。原子力規制委員会も、5月29日に運転再開禁止を決めました。

◆その同じ日本原子力研究開発機構の東海村の実験施設で、30人以上が被曝する誤作動・放射能漏れ事故がおきました。しかも、実験装置の異常を検知して安全装置が働き、警報音が鳴ったにもかかわらず、担当者が警報をリセットして実験を続けていた、放射線量を下げようとフィルターもつけない換気扇で室外に排気していた、地元自治体への報告は1日半後だった、というのですから、何をかいわんやです。無責任・無謀な法人です。3・11のSPEEDI活用で似たような無様を露呈した文部科学省も、さすがに「改革」に乗り出しました。もっとも責任をとってやめた前理事長は懲戒ではなく退職金付き、新理事長も前理事長と同じ元原子力安全委員会委員長です。これが、いまなお福島第一原発で事故の原因がわからず、膨大な労働者を日日被曝の危険にさらしても収拾・廃炉のメドもたたず、たまった汚染水の行く先も汚染廃棄物の処理も決まらず、それでも再稼働・核燃サイクルを進めようとしているこの国の、原子力研究の最先端です。60年前から「国策」として出発し推進してきたのですから、まずは放射能汚染の調査と除染、避難民の救済・補償を先行させるべき政府は、首相がせっせと海外に出かけて原発ビジネス、「安全な」原子力の売り込みです。アベノミクスの成長戦略に「原発の活用」を明記、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドとも原子力協定というのですから、懲りない「原子力村」と「安全神話」の復権です。

◆21世紀の「核なき世界」への流れに逆らう焦点が、中東を含むアジアでの核拡散にあること、日本は核兵器でも原発でも欧米からアジアへの核拡散の中継点であることは、3月に上梓した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の「あとがき」で詳しく触れました。5月25日明治大学での第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」での私の講演、「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」は、『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)の宗教学者島薗進さん「原発の倫理性について」とのジョイントで、「ちきゅう座」サイトに当日配付資料が入ったほか、二人の対論を含め you tube にアップされ、映像で見ることができます。これまでの「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」「反原爆と反原発の間」とは趣向を変えた話ですので、ぜひご笑覧ください。また本サイト学術論文データベ ースに、神戸の弁護士深草徹さんから、「憲法9条から見た原発問題」という力作をご寄稿いただきました。明日6月2日東京では、「6・2 NO NUKES DAY」です。「さようなら原発 1000万人アクション」「原発をなくす全国連絡会」、それに金曜官邸前抗議デモを持続してきた「首都圏反原発連合」の3系列の運動が、初めて合流します。その力を東京都知事選・参院選に結集したいものです。「96条の会」など立憲主義を守る運動と日本維新の会橋下代表の「慰安婦」問題をめぐる自爆で、安倍首相の改憲トーンはやや和らぎましたが、世界が注目する「日本の右傾化」は、まだまだ油断できません。

◆「尋ね人」<新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!>は、本サイト情報収集センター(国際歴史探偵)の「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者」で引き続き情報提供を求めます。何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。旧ソ連の秘密都市・閉鎖都市における原子力開発・実験、メドヴェージェフ兄弟のいう「原子力収容所」の実態については、ドイツ人捕虜240万人ばかりでなく、日本人捕虜60万人のシベリア抑留との関係をも視野において、引き続き研究を進めていきます。この間、私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めています。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版ともいうべき解説記事が大きく出ています。また沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、東京版にはのらなかったのですが、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。原爆・原発を追うことで、現代史の周辺の隠された一面が見えてきます。こちらの研究も、あわせて進めていきます。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2271:130602〕

 

 

 

新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!
2013年 5月 2日 時代をみる 伊藤律加藤哲郎原子力憲法
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.5.1 寂しいメーデーです。日比谷公園に全労協、代々木公園に全労連が集まっているようですが、メインの連合中央メーデーは4月27日に4万人で終了、かつて1952年に皇居前で「血のメーデー」事件があり、1956年には神宮外苑に50万人が集まり「憲法改悪阻止、お手盛り小選挙区粉砕、すべての国の原水爆反対、原子力の平和利用の促進」を決議して日本における原発導入の出発点になったような勢いはありません。レイバーネットによると5月3日に恵比寿公園で「持たざる者のメーデー」があるとか。こちらの方が「プロレタリアート」の精神を受け継いでいるように見えます。4月28日の「主権回復の日」もそうでした。政府主催の憲政記念館では、国会議員も都道府県知事も半数程度、天皇・皇后臨席を政治利用し「天皇陛下万歳」を三唱、沖縄宜野湾海浜公園での「屈辱の日」の迎えかたと対照を成しました。無論、韓国からみれば「強制的に他国を植民地にし、侵略したことについては『どちらから見るかで違う』と言いながら、自身の主権回復は祝う姿は非常に理解しがたい」と政府が抗議、当然です。安倍首相は国会で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べましたが、アメリカのワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズも直ちに批判、韓国与党が「日本の“歴史歪曲非難”の決議を国連に求める」と中国で報道される始末。無論、学界にも国連にも立派な「侵略の定義」があり、安倍首相の無知蒙昧か、中国・韓国への北朝鮮風挑発か、いずれにしても危険きわまりない状況で、5月3日の日本国憲法施行記念日を迎えます。7月参院選前に96条改憲が急浮上、自民党は選挙公約に、産経新聞試算では政権与党の公明党が反対しても改憲勢力3分の2結集が可能とか、事態は深刻です。

◆歴史に対する無知は、世界から軽蔑されます。首相や東京都知事の発言は、すぐに外交問題になります。ただ逆に、閣僚の靖国神社参拝を韓国・中国の批判との関係だけで報じるマスコミも、問題の所在を隠しています。靖国神社の問題は、もともと憲法裁判にもなったすぐれて国内政治の争点、私たち自身の歴史認識の問題なのですから。4月19日号の『週刊ポスト』「松本清張の名作ノンフィクション『日本の黒い霧』が読めなくなる!?」で、「『スパイとされた男』の遺族が新資料の後押しで文藝春秋に抗議」を支援してきたボランティア活動は、松本清張によって「革命を売る男」とされてきた占領期の日本共産党幹部伊藤律が、ゾルゲ事件の尾崎秀実を「売って」事件発覚の端緒になったり、戦後もGHQの「スパイ」であったと書いた清張の告発の叙述が、特高警察のシナリオとGHQ・G2ウィロビー将軍の共産党攪乱策に沿った誤りで、文藝春秋社もそれを認め、ご遺族の抗議に応えて、出版社としての訂正釈明文を文庫本他『日本の黒い霧』に加えることになりました。東京新聞の4月21日一面記事が意を尽くしていますが、NHKニュースでも2度報道され、時事、共同、朝日他マスコミも大きく報じました。私の研究も多少は役立ちましたが、何よりも大作家のロングセラーで「スパイの子」とされてきたご遺族の決断と勇気が、結果を生み出したことを喜びたいと思います。一件資料はpdfにして保存します。松本清張の「黒い霧」史観のノンフィクションは、何でもGHQ諜報機関の陰謀・謀略にしがちな一面的なものであり、当時の中国革命・朝鮮戦争の国際情勢、アメリカ国内でのマッカーシズムの進行、それにソ連側の諜報活動や日本国内での社会主義・共産主義勢力内部の矛盾の歴史的検証抜きに、限られた資料から「推理」されています。今日読む読者は、要注意。

◆「名誉回復」については、久方ぶりの情報収集センター(国際歴史探偵)「尋ね人」欄の改訂です。5月22日まで早稲田大学演劇博物館では、1937年にソ連からスターリン粛清で国外追放になり日本に帰ることなく「メキシコ演劇の父」となった『佐野碩と世界演劇—日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”—』展が開かれています。先日、「アメ亡組」の一人で1942年に旧ソ連強制収容所内で死亡した健物貞一のロシア人孫姉妹が、祖父の墓参がてら来日して、サクラと共に佐野碩展を見ていきました。そこに、モスクワから、新たな日本人粛清犠牲者判明の報道です。4月18日の産経新聞モスクワ支局の調査報道で、ロシアの歴史探究NGO「メモリアル」に私も協力して、「スターリン大粛清、新たに日本人4人の銃殺判明、犠牲者26人に 欠席裁判 スパイ容疑…格好の標的」という大きな記事が配信されました。新たに発見された粛清犠牲者5人の、新聞記事より詳しい情報は以下の通りです。これに伴い、「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」データベースも改訂しました。

▽ニシデ・キンサク 1896年生まれ/ハバロフスク居住/商店主/1937年7月6日/刑法58−1a、2、8、9、11により検挙/1938年4月7日判決/1938年4月7日銃殺(ハバロフスク)/1993年10月7日名誉回復

▽オンドー・モサブロー 1898年生まれ/カヌム(市)出身/アムール州居住/理髪師/1937年7月26日逮捕/刑法58−1a、2、8、11により検挙/1938年4月7日判決/1938年4月7日銃殺(ハバロフスク)/極東管区軍検察により名誉回復

▽トミカワ・ケイゾー (この人物はトミカワ・ケイゾーである) 生年不明/千葉県出身/政治亡命者/極東国立大学の日本語教師/1937年逮捕/1938年4月7日銃殺

▽前島武夫 別名カンジョ(ブダエフ・ノルバ/マヤ(エ?)シマ・タケオ/ツルオカ)1910年生まれ/共産党員候補/モスクワ居住/民族・植民地問題に関する学術研究協会の学生/1937年6月8日逮捕/スパイ・テロ活動/1937年11月28日判決/1937年11月28日銃殺(モスクワ)/1991年12月名誉回復

▽ダテ・ユーサク 1881年生まれ/長崎出身/ノボシビルスク居住/鉱山機械工場の警備人/1937年8月3日逮捕/罪状 日本の諜報と反ソ扇動への関与(刑法58−2、58−6の1、58−8、58−11)/1938年6月4日判決(自由剥奪25年)/1939年11月19日死亡(服役地にて)/1971年10月15日名誉回復/ノボシビルスクの追悼記録より

◆ このうち「前島武夫」は、以前から本サイトで「逮捕後行方不明」としてリストに挙げていましたが、銃殺死で処刑日が判明しました。他の4人は、まったくノーマークだった地方での粛清です。「オンドー」は近藤・安藤や恩田などロシア語表記の誤りの可能性大です。記事の画像はこちら。きっと日本にご親族がおられるでしょう。何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。3月末に出た加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)では、米国国立公文書館文書「MIS中曽根康弘ファイル」にもとづき、1954−56年「日本における『原子力の平和利用』の出発」における中曽根康弘の役割を論じましたが、5月25日(土)午後1時から、明治大学リバティタワー1103号で、第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」が開かれ、講演します。『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)を出された宗教学者島薗進さんとのジョイントで、これまで明治大学で行った「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」「反原爆と反原発の間」とは趣向を変えて、「原子爆弾」の命名者H・G・ウェルズの原子力観、ウェルズとレーニン、トロツキー、レオ・シラードとの関係を踏まえて、仁科芳雄・武谷三男・湯川秀樹らに始まる日本の原子力研究の問題を、「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」として話す予定です。ご関心の向きはどうぞ。

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〔eye2253:130502〕

 

4月28日が「屈辱の日」であることの意味を、しっかりかみしめて!
2013年 4月 16日 時代をみる 加藤哲郎北朝鮮憲法改正
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.4.15 憂鬱な緊張の日々が続きます。北朝鮮の金正恩独裁政権が核実験とミサイル発射の威嚇・挑発。隣国韓国ばかりでなく、米国・中国・ロシア・日本も牽制球を投げますが、聞く耳を持たず。もとよりこれまでも幾度か繰り返された情報戦・心理戦で、国内矛盾を外にそらす恫喝の色彩濃厚ですが、朝鮮戦争は60年間「休戦」中で、終わっていないことも事実です。油断はできません。韓国が対話をよびかけアメリカも「真剣な交渉を行う用意」とされていますが、緊張は続きます。日本も当事者の一国ですが、拉致問題の進展もないまま、対応は米国・韓国頼り。そのうえ安倍内閣にとっては、安全保障問題論題化のチャンスで、96条改憲から9条「国防軍」問題まで、7月参院選を待たずにアドバルーンをあげ、エスカレートしそうな勢い。尖閣も竹島も一時的に棚上げになったかのように。96条改正問題では東京新聞の13日解説が秀逸。国際比較で言えば、どの国でも憲法改正には厳格な手続きを定めています。

◆北朝鮮の動きとそれをめぐる各国政府の動向は、現代における情報戦の典型です。各国がそれぞれの国の戦略と思惑で言葉の爆弾を投げ合い、発話者・演技者を時にとりかえ、最も効果的なタイミングを狙って、メッセージを発します。でも言葉や発信順序を間違えると逆効果も。世界の面前で権威を失ったりします。韓国ではこの緊迫した局面で、朝鮮戦争の当事者李承晩初代大統領が「建国の予言者」であったか「親日派」だったのかで、歴史論争が起こっています。日本ではしばらく病床にあった日本維新の会石原慎太郎共同代表の復帰第一声が「歴史的に無効な憲法の破棄を」、曰く「憲法改正などという迂遠な策ではなしに、しっかりした内閣が憲法の破棄を宣言して即座に新しい憲法を作成したらいいのだ。憲法の改正にはいろいろ繁雑な手続きがいるが、破棄は指導者の決断で決まる。それを阻害する法的根拠はどこにもない。……思い返してみるがいい、敗戦の後占領支配された国家で、占領支配による有効な国家解体の手立てとして一方的に押しつけられた憲法なるものが独立を取り戻した後にも正統性を持つ訳がどこにあるのだろうか。前文からして醜く誤った日本語でつづられた法律が、自主性を取り戻した国家においても通用するといった事例は人間の歴史の中でどこにも見当たらない。『破棄』という言葉はとげとげしく感じられもしようが、要するに履きにくくなって靴ずれを起こす古い靴を捨てるのと同じことだ」ーー1952年4月28日占領終了・サンフランシスコ条約発効と共に日本国憲法は「無効だ」という乱暴な説です。

◆安倍内閣が企画した4月28日「主権回復の日」は、沖縄県知事・議会ほか多くの自治体が不参加で、むしろ今なお米軍基地が居座る「屈辱の日」として迎えようとしています。ただしその「屈辱」の意味は、沖縄県民と石原慎太郎らでは、正反対です。沖縄が本土から切り離され日本国憲法さえ適用されず米軍直接占領が続いた「屈辱」と、「押しつけ憲法無効」という反中国・反韓国の右翼的「屈辱」が、同居しています。天皇・皇后が出席予定で「政治利用」の疑いも出てきます。北朝鮮や中国・韓国・米国の動き次第で、内向きナショナリズムが強まるでしょう。頻発する地震対策、福島原発汚染水漏れ、TPP交渉の行方など、山積する問題は先送りにされて、外向けに片意地を張るのは、どこかの国に似てきます。60年以上前の朝鮮戦争前夜にも、アジアを舞台とした情報戦が展開していました。韓国の歴史論争で「李承晩=親日派」のみが問題にされているのは、いただけません。この頃の情報戦の主役は米ソ冷戦です。先月末に出た加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)では、米国国立公文書館文書「MIS中曽根康弘ファイル」にもとづき、1954−56年「日本における『原子力の平和利用』の出発」における中曽根康弘の役割を論じました。4月19日号の『週刊ポスト』「松本清張の名作ノンフィクション『日本の黒い霧』が読めなくなる!?」では、「『スパイとされた男』の遺族が新資料の後押しで文藝春秋に抗議」の「新資料」の一つとされているのが、私が米国国立公文書館で発掘した1947−51年「MIS川合貞吉ファイル」です。『スパイとされた男』とは、占領期日本共産党の指導者伊藤律です。詳しくは15日ご遺族の記者会見と、4月20日明治大学での第273回現代史研究会講演会にもとづき、次回紹介しますが、関心のある方は、本サイト「世界史のなかのゾルゲ事件」の諸論文と共に、ご注目を!

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〔eye2234:130416〕

 

4月28日を、どんな日として迎えるべきか?
2013年 4月 2日 時代をみる 加藤哲郎安倍内閣
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.4.1 前回更新が遅れ、新学期のあわただしい時期で、今回更新はごく簡単にすませ、前回分に続けます。TPPといい日中・日韓関係といい、安倍内閣の暴走はアメリカ国務省筋からさえ心配されています。ちょっとした景気好転と世論調査結果を後ろ盾に、沖縄も憲法改正も原発再稼働も、前のめりに動き出しています。北朝鮮の金正恩体制がこれまた暴走しているのが、米中チャイメリカの懸念にもかかわらず、安倍政権への援護・追い風になっている構図です。東アジアとの関係を修復しないと、アメリカとの関係さえ、困難を抱えるでしょう。対決すべき民主党は無力に内部崩壊しつつあり、維新の会が憲法改正をはっきりかかげて自民党と基本政策が近い第二党になりそうな気配。7月参院選後 と私も予想していた政界再編は、どうやら前倒しがありそうです。

◆3・11で、日本社会は生まれ変わるはずでした。経済成長一本槍で自然を征服するのではなく、自然と共生し身の丈の豊かさで自治と協同をすすめる地域社会の再生、新しい文明社会を作る方向に、動こうとしていました。しかし、政治がそれを妨げました。東日本では地震・津波の復旧さえできておらず、福島原発は「収束」どころか毎日新聞調べで31万以上の避難民、事故現場は数千人の被曝労働者の日々の戦場になっています。それは同時に、すでに人口減少に転じ、2040年には2010年比2000万人減るという世界最先端の少子高齢化社会です。アベノミクスなる金融カンフル注射の効果はせいぜい数年、雇用にも賃金にもまわらぬ株価・不動産のミニ・バブルと格差をつくるだけでしょう。少子・高齢社会化には無力です。その動力源がまたしても原発では、20世紀への逆戻りです。経済学が「経世済民」の気概を取り戻し、政治が権威におもねる「マツリゴト」から「自治・協治」になることが求められています。

◆4月28日に、安倍内閣は「主権回復の日」として政府主催の記念式典を準備しています。1952年のサンフランシスコ講和条約発効の日ですが、同時に日米安保条約が動き出した日です。復帰前の沖縄では「屈辱の日」とされ、本土でも「428沖縄デー」として、返還運動が毎年もたれてきた日です。今でも沖縄では「屈辱」が続いています。ちょうど60周年の昨年ではなく、今年2013年からあえて「主権回復」記念日にしようとするのは、別の意図があるからです。「主権・領土・国民」というドイツ国家学の古典的「国家」概念を復活し、日中・日韓・日露の間の「領土」係争問題を「国民」の踏み絵にしようという閉鎖的ナショナリズムが見え見えです。沖縄県議会は抗議を決議し、沖縄県選出国会議員5人はすでに欠席の意を表しています。東京の新大久保や大阪の鶴橋では、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の街宣活動と地域住民の対立が激化しています。長期的には外国人移民との共生が不可欠と小渕内閣時の政府報告書もいっていたのに、「国籍」をことさらに持ち出して「国民」対「非国民」を境界づける排外主義運動。「いつかきた道」はごめんです。

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3.11を忘れないために、「原子力と冷戦」を歴史的に考える新学期に!
2013年 3月 21日 時代をみる 3.11加藤哲郎原子力
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆ 2013.3.20 昨晩アメリカから帰国したら、福島第一原発停電、使用済み燃料プール代替冷却システム停止のニュース、恐ろしいことです。メルトダウンの原因もわからぬのに、冷却装置のダウンですから。電力会社の配電盤の故障ということなら、いったい東電に発送電を支配する資格はあるのでしょうか。しかも、記者発表や地元住民への連絡は3時間以上たってから、「事故隠し」体質は変わっていません。10分後に連絡を受けた原子力規制委員会も、住民には何も知らせず。とんでもないことです。原発再開推進の産経新聞さえ、「ほど遠い「事故収束」」の見出し。改めて野田内閣時の「収束宣言」、大飯原発再稼働の欺瞞が浮き彫りになりました。それなのに経産省は着々と原発再稼働の準備へ、原子力規制委員会は大飯原発に新安全基準は9月まで適用しないとのこと、日本経済新聞によれば「現実路線に修正」なそうです。南海トラフ巨大地震が予測され、地域住民避難計画もまだほとんどできていないというのに。

◆確かにアメリカで見た3・11は静かでした。庶民の全国新聞USA Todayで日本の東日本大震災二周年に触れた記事は、わずかにハワイに今でも流れつく震災がれきの話のみ。新ローマ法王選出のコンクラーベの陰に隠れてかというと、そればかりでもなく、日本では浮かれているアベノミクス株高やTPP参加表明もニュースにならず、わずかに見つけたのはホンダ車のリコールのみ。そもそも日本という国の存在感がないため、庶民向け記事にはならないようです。それでもネットを駆使して探すと、台湾の10万人反原発デモと馬総統の日本を見習う原発推進発言、ドイツ各地での反原発集会・デモ、フランスの2万人「人間の鎖」と、忘れられたわけではありません。シェールガス革命で経済合理性から原発を「卒業」しそうなアメリカが、無関心ということでしょう。そのアメリカの中級ホテル・チェーンのIT不具合で、4日ほどインターネット・メールがつながらなくなりました。なんとホテル側がID・パスワードをプロバイダーに誤送したものと判明、そのサポート会社に電話したらカルフォルニアのインド訛り、愛想だけよくてちっとも復旧せず、やむなくスターバックスに通いましたが、けっきょくホテルもプロバイダーも謝る言葉はなし、いかにもアメリカの無料サービスでした。これきっと、TPPに入れば、医療・保険サービスで出てくるでしょう。 アベノミクス好況感もハゲタカファンドの餌食の可能性大。早速キプロス金融危機が水を差しましたが、一喜一憂するより、大きな歴史と資本主義の仕組みから見たいところ。この点で、飛行機の中で読んだ水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎』(NHK出版新書)が面白い頭の体操でした。水野さんの「利子率革命」論と大澤さんの「未来の他者」論が時空を縦横に交叉してかみあい、啓発されます。定説なき時代の頭の体操には、中山智香子『経済ジェノサイド』(平凡社新書)の「経済学」批判、杉田敦『政治的思考』(岩波書店)の「政治学」批判、日本については白井聡『永続敗戦論』(太田出版)の若さに任せた新鮮な問題提起が、刺激的でした。

◆そんな思索の世界にちょっぴり距離をおき、私の方は地味な史資料探索の旅で、「崎村茂樹の6つの謎 」を論じた「未来」論文を増補した「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社、2013年、所収)、及び25日発売、加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の延長上での公文書館調査でした。新著はまだアマゾンには出ていませんが、ご注目ください。私は「日本における『原子力の平和利用』の出発」で中曽根康弘を論じましたが、この問題の歴史的研究の先駆者『史創』研究会の住友陽人さんは、すでにツイッターで紹介してくれているようです。原発そのものが原爆と一対で冷戦の産物であることを、日本とアジアについて実証する試みで、1954年ビキニ被災から「原爆反対、原発歓迎」が始まるのも、1955年新聞週間標語が「新聞は世界平和の原子力」になるのも、当時の大きな世界とアジアの流れの中にあったことを、9人の著者が論じています。ぜひご参照ください。

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〔eye2218:20130321〕

 

原発に隕石、東アジアで戦争という最悪のシナリオ?
2013年 2月 17日 時代をみる 加藤哲郎核
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.2.15 東アジアが、緊迫しています。尖閣列島をめぐる日中対立、日本の海上自衛隊護衛艦と中国海軍艦船の一触即発の海上危機に続いて、北朝鮮の核実験です。それに対する韓国政府の対応も不気味です。韓国政府内で出てきた韓国自前の核武装の声を、任期終了間際の李明博大統領が「愛国的な考えで、高く評価する」と述べたというのです。韓国と日本の間の竹島問題も、まだ緊張したままです。世界がアフガニスタン、イラン、イラクやアルジェリアに注目している間に、日本とその周辺が、国際的な軍事的緊張の一つの焦点になってきました。そして、ロシアでは、人智の及び得ない宇宙からの超音速の流れ星、隕石の落下で大きな人的・物的被害です。ウラル地方チェリャビンスク州といえば、1957年9月に大規模な放射性廃棄物貯蔵庫爆発事故(ウラル核惨事)をおこしたところです、隕石が近くのマヤーク原子力プラントに落ちていたらと想像すると、ぞっとします。マヤークは、ロシアの使用済み核燃料再処理、プルトニウム処理の拠点ですから。宇宙からみれば、この小さな星の中で、イデオロギーやマネーをめぐって殺し合い、便利と豊かさを求めて禁断の原子力に手を出した人間たちは、なんと卑小な存在でしょうか。

◆もうお読みになった方も多いでしょう。クリストファー・ロイドの世界的ベストセラー『137億年の物語ーー宇宙が始まってから今日までの全歴史』(文藝春秋)で、「地球の生命を脅かす脅威トップ10」で第1位にあがっていたのが、「隕石の衝突」でした。6650万年前には、恐竜を絶滅させたのですから。それほど巨大な隕石でなくとも、人類が定住し人口が増えた分だけ、小さな隕石でも人間には大きな打撃となりうることを、1000人以上負傷のロシアの事例は示したことになります。ロイドは、「生命の脅威」第2位に、「人間による地球汚染」を挙げています。その理由に「世界に441か所ある原子力発電所の放射性廃棄物も、今後、数万年にわたって、有害な放射線を出し続ける」ことを挙げていますから、本日ロシアでは、生命にとっての2大脅威が重なる可能性があったのです。第3位「気候変動」以下「過剰人口」「森林破壊」と「脅威」は続き、第6位「多様性の喪失」「不平等」「病気」「飢饉」のあとに第10位「世界戦争」があります。20世紀を「戦争と革命の時代」とみたエリック・ホブズボーム流世界史・人間中心史観が矮小に見えるような、「母なる自然」と「ホモ・サピエンス」の関係です。

◆でも、隕石ほどではないからと、原発や不平等や戦争の「脅威」を、見逃すわけにはいきません。小さな島の領土問題など、宇宙史の中ではほんの一瞬のピン・ポイントとはいえ、いまを生きる私たちにとっては、中国・韓国・ロシアと日本、それに南北朝鮮の関係は深刻です。中国海軍のレーダー照射が本当に今回が初めてだったのか、中国政府のどのレベルが関与していたのかなど、情報開示が不十分なまま、両国とも国際社会へのプロパガンダに入ってしまいました。国際心理戦です。この点での日本のマスコミ報道は、なにやら大本営発表風です。北朝鮮の核実験は、アメリカ大統領一般教書演説にぶつけてきました。狙いは明確です。前日に米国・中国・ロシアには事前通告していました。日本はアメリカ経由でしか情報をとれません。日本政府がどんなに「日米同盟」を強調しても、アメリカの方は日本にすべてを伝えるわけではありません。北朝鮮情報はアメリカの方が持っており、しかも、この地域の情報戦の主役は、いまやアメリカと中国です。昨年9月、野田民主党政権がアメリカに「原発ゼロ」の目標を伝えにいったさい、「プルトニウムをどうするのか」と詰め寄られたのも、日本の原発が、東アジアの核問題と深く関わっているからです。

◆安倍内閣は、一方で「アベノミクス」なる円安・株高の景気回復の雰囲気づくりを先行させながら、憲法改正への条件作りをも着々と進めています。領土問題も北朝鮮の核にも、戦争をも辞さないといわんばかりの高姿勢です。東アジアでの軍事的緊張は、日本政府の集団的自衛権と「国防軍」への国内向け情報戦に最大限に利用され、地ならしに使われています。こういう時こそ、マスコミの報じない海外の眼に注意。国内なら沖縄など地方の新聞に目配りし、じっくり冷静に分析し、主体的に対処しましょう。3月1日から5月22日まで、早稲田大学演劇博物館で、『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれます。そのオープニングの国際シンポジウム『佐野碩と世界演劇』が3月1−3日早稲田大学で開催され、私は3月2日午後「1930年代の世界と佐野碩」(重いpdfアップ済み)を講演します。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版になる予定。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方はどうぞ。

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〔eye2184:130217〕

 

いつまでも「日米同盟」一辺倒でいいのか?
2013年 2月 2日 時代をみる ダボス会議加藤哲郎原子力
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.2.1 2011年まで、つまり3.11東日本大震災・福島第一原発事故までの本サイトでは、例年この時期に開かれる3つのイベントから、その年の世界の行方を定点観測してきました。第一は、アメリカ大統領の年頭一般教書、今年はオバマ大統領の再選が決まった後ですから、1月21日に就任演説が行われ、一般教書演説は2月12日ですが、例年以上に注目されます。就任演説では人種・民族から女性・同性愛者にまで広げた「平等社会」への決意と国際協調が述べられましたが、日米同盟への言及はありませんでした。第二の観測地は、スイス・ダボスの山中の高級リゾートホテルに例年世界の政治経済指導者がつどう、世界経済フォーラム(WEF)年次大会、通称ダボス会議です。1月23ー27日開かれた今年の大会テーマは「弾力性のあるダイナミズム」でしたが、実際の話題は米中経済競争と欧州金融危機、それに中東・アフリカで、「内向き」 志向で米国政府高官が出席しなかったために、「米国のリーダーシップのない世界」が問題にされたとか。日本からは甘利経済再生相が出席して「アベノミクス」を説明し、円安誘導ではないかと話題になったと報じられていますが、実際は「弁当」と「日本酒」をふるまった日本政府主催ジャパン・ナイトにゲストが集まった程度で、むしろ中国網(チャイナネット)の報じる「日本経済の世界に対する影響力は日増しに低下しており、些末事にとらわれる思考回路の制限を受け、日本の経済政策も非常に限られたものであり、小規模な投入を講じるばかりだ。この探りを入れるような戦術では、日本経済に与える影響さえ限られているのに、世界金融戦争を引き起こすはずがない」が世界の日本認識だったようです。日本政治の「右傾化」やナショナリズムばかりでなく、フクシマと原子力の将来をもとりあげないのが、このエリート賢人会議の限界でしょう。

◆ダボス会議では、「世界の銀行幹部はアフリカに関心」と報じられています。 かつてはこの世界経済フォーラム(WEF)に会わせて、世界のNGO/民衆運動が集う世界社会フォーラム(WSF)が開かれていました。これが第三の、定点観測地点でした。ところが今年はアフリカのチェニスで3月末に開かれるとのことで、時期も不揃いになりました。対抗してきたWEF同様、9.11米国同時多発テロとイラクへの報復戦争に反対して10万人以上がブラジルやインドに集った、かつての勢いと凝集力はありません。地域フォーラム中心に各国に根付いた面もありますが、リーマン・ショック、欧州危機、中東ジャスミン革命、アメリカOWS運動など世界的課題と運動が分散し、虹色のネットワークを接合しにくくなった困難も否めません。 日本のフクシマ原発事故と脱原発運動が、強力な世界的反核運動へとつながらないもどかしさも、日本の平和運動のかかえる歴史的問題のみならず、世界的な社会運動の関心・支援が弱いことによります。この間、アジアの原発を調べてきて、改めて痛感しました。欧米の「原子力の平和利用」熱は、スリーマイル島、チェルノブイリ以降明らかに下火となり、二酸化炭素排出量を減らし「クリーン・エネルギー」として原発を見直す世界的「原子力ルネサンス」もフクシマ原発事故で後退したように見えますが、アジアではなお、「原発ブーム」が続いています。2000年以降に新たに営業運転を開始した世界全体の原発47基中、地域別に見ると中国、日本、韓国、インドなどアジアが33基で60%を占めます。アジアの原発推進を主導しているのが、中国とインドの急速な工業化と共に、20世紀日本の「成功体験の記憶」のようです。現在アジアには、IAEAの地域別組織としての「アジア原子力地域協定(RCA、1972年発効)」、「アジア原子力協力フォーラム(FNCA,1990 年)」、「アジア原子力安全ネットワーク(ANSN、2002年発足)」などがありますが、そのすべての中心が日本であり、技術協力と資金援助、人材育成の中枢を担っています。フクシマ以後も活発に活動しており、安倍首相外遊の第一弾が(アメリカに断られて)東南アジアとなり、ベトナムへの原発輸出が「成果」となったのも、民主党政権の「2030年代に原発ゼロをめざす」方向が「ゼロベースでの見直し」になり再び原発推進の方向に向かおうとしているのも、この「アジア原発ブーム」が強く作用しているようです。

◆もっともベトナムへの原発輸出は、アルジェリアの天然ガス・プロジェクト人質事件で日本企業社員10人が犠牲になったことで、国内への宣伝効果は帳消しになりました。海外で働く日本人労働者を「企業戦士」と報じるマスコミもありますが、21世紀にはふさわしくありません。不謹慎です。かつて第一次石油危機の頃には、日本はイスラエルと遠いがゆえに、アラブ諸国から友好的に扱われた時代がありました。しかし9.11とイラク戦争への自衛隊派遣を経て、日本企業・日本人は「アメリカの手先」「イスラムの敵」とみられるようになったようです。アルジェリアの事件で真っ先に狙われた外国人人質が、日本人だったようです。自民党政府は、自衛隊の海外活動強化を集団的自衛権承認と共に進めようとしていますが、海外テロとの関係では逆効果です。「アメリカの代理人」であることを公認し、日本企業社員を文字通りの「企業戦士」として紛争地域に送り込むことになります。海外に出た労働者の犠牲は、いたましいものです。企業のリスク管理も必要です。しかし、冷戦崩壊後の多極化した世界で、いつまでも「日米同盟」一辺倒であることが、テロの標的になりうる時代に入ったのです。今回の紛争地は、西側先進諸国に中国・インド資本も競合するアフリカでした。原子力規制委員会での「新安全設計基準」設定では、地震・津波と活断層の評価が大きな問題になっています。もしも日本海側の原発銀座が、「アメリカの手先」の象徴としてテロ組織の標的になったら……。対岸の火事ではありません。憲法と脱原発の危機です。世界情勢の行方も不透明ですが、日本の2013年も、先の読みにくいものになりそうです。

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〔eye2165:130202〕

 

自民党政権で変わったもの、変わらないものを見きわめ、虹色の非核・非戦ネットワークへ!
2013年 1月 17日 時代をみる H・G・ウェルズ加藤哲郎原子力
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.1.15 新年早々、次々と自公政権の「公約」が実行されていきます。「国民の審判」の名の下に。マスコミ論調も経済政策中心で、原発や放射能の話題は、隅の方で小さくなってきました。いや大きいのは安倍首相の原発再稼働の熱意か、経産省と電力会社等「原子力ムラ」が、公然と「新安全神話」を語り始めました。民主党政権から変わったように見えますが、変わらないものもあります。消費税上げはしっかり引き継いで、公明党との微調整で実施の準備。沖縄辺野古への普天間基地移転やオスプレイ配備の容認も継承します。もちろん「日米同盟」中心主義も。変わるものは、経済政策だけではありません。どうも大臣の配置からみると、教育政策が大きく動きそうです。学校でのいじめや体罰も、自民党にとっては「愛国教育」に再編するテコか、週6日制への回帰や6・3・3・4制、教科書検定の見直しも始まりそうです。教育再生実行委員会は、要注意です。自民党政権への復帰が何をもたらしたかを、7月参議院議員選挙の審判材料になりますから、しっかり記録し、記憶していきましょう。虹色のネットワークを準備しながら。

◆正月は、H・G・ウェルズと『仁科芳雄往復書簡集』を集中的に読みました。なぜウェルズかというと、「原子力」や「原子爆弾」という言葉を小説に登場させた1913年執筆『解放された世界』をじっくり読むと、彼はまず原子力の「産業利用」ができてから、世界戦争での「原爆」につながったといいます。しかもその理由が、原子力の産業利用で「熱気をはらんだ企業の光景、この巨大な生産力、この幸運な金持ち連中の群がる様」は「人類の新紀元開幕期の輝かしい一面」だが、「石油に投資された莫大な株式資本は売り物にならなくなり、何百万の炭鉱労働者、旧式の工場で働いていた鉄鋼労働者、無数の職業に携わっていた未熟練労働者、もしくは反熟練労働者たちの大群は、新しい機械のめざましい効率性によって、解雇されつつあった」と格差を拡大するといいます。その延長で世界戦争になり、原子爆弾が使われ、「世界共和制」が必要になる、というのです。フェビアン社会主義者の面目躍如です。つまり発案者ウェルズの方は、仁科芳雄・武谷三男らに導かれた「原子力時代」の夢、50年代日本世論の「原爆反対、原発歓迎」ではなく、原子力そのものが暴走する問題性をイメージしていたからこそ、国際連盟や国際連合にも満足せず、科学技術の統御可能な「世界政府」「世界共和制」を晩年まで主張しました。名著『世界史概観』(岩波新書)から晩年の『ホモ・サピエンス 将来の展望』(新思索社)まで、結論だけは柄谷行人さんと同じです。

◆ウェルズは当時の世界の名士ですから、1920年9月に革命直後のロシアを訪問し、レーニンと会見しています。そこでレーニンはウェルズを「ブルジョアの俗物」と一蹴したことになっているのですが、ウェルズの方は、「不可避的な階級闘争、再建への序曲としての市場主義秩序の崩壊、プロレタリアートの独裁等々といったマルクス主義のドグマ」には反対しつつ、「クレムリンの夢想家」レーニンの「ロシアにおける大発電所の開発計画に賭けている」姿、「電気技師のユートピア」に注目しました(『影のなかのロシア』みすず書房』)。実はその3か月後の1920年12月第8回全ロシア・ソヴェト大会で、「共産主義とは、ソヴェト権力プラス全国の電化である」という、後に日本の左翼の「原子力の平和利用」受容に決定的ともいえる影響を与えた、レーニンのテーゼが語られます。1926年のトロツキーは、ウェルズの「空想小説」を引いて、「放射能は唯物論にとって危険なものでは決してなく、弁証法のもっとも見事な勝利なのだ。……放射能の諸現象は、原子内のエネルギーの解放という問題にわれわれを連れていく。原子は、全一的なものとして、強力な隠されたエネルギーによって保たれているのであり、物理学の最大の課題は、このエネルギーを汲み出し、隠されているエネルギーが泉のように噴出するように、栓を開くことにある」と科学技術発展=自然征服の夢を語ります(『文化革命論』現代思潮社)。どうやらロシア革命の指導者たちは、ウェルズのサイエンス・フィクションにヒントを得ながら、「原子力の平和利用」を夢見たようです。

◆ ところが日本に入ってくると、ウェルズの予見した原子力産業化の陰の部分は捨象され、本サイトでたびたび参照してきた(ウェルズ=レーニン会見の直前)1920年8月のモダニズム雑誌『新青年』第8号掲載岩下孤舟「世界の最大秘密」のように、「原子爆弾による米国本土爆撃か、失業も社会問題も一挙解決の便利な原子力家庭か」の二項対立にされ、素朴な「科学技術の中立性」「生産力発展=自然の征服」観から、「原爆」に戦争・恐怖・破壊・危険が、「原発」に平和・希望・建設・安全が、ふりわけられます。文学者ばかりでなく、『仁科芳雄往復書簡集 3』(みすず書房)をじっくり読むと、どうも仁科芳雄・湯川秀樹・武谷三男ら戦時日本の原爆開発にたずさわった核物理学者たちまでが、そう考えていたようです。新年更新でさりげなく触れた、1945年1月8日付『朝日新聞』掲載の湯川秀樹博士等自然科学者たちがみた初夢も、そんな日本的「科学」観を示しているように見えます。安倍内閣の逆流はあっても、本サイトは、今年も2011年3月11日にこだわり、「原爆と原発から見直す現代史」を探求していきます。更新が予定より一日遅れたのは、学生時代の親しい友人の新年早々の突然死、東京の街が真っ白になった中で、天に召されました。60歳を過ぎた頃から、年長の大先輩ばかりでなく、同年輩の友人が一人、また一人と、旅立って行きます。「スピード」より「ゆとり」が必要なのが、今の日本です。安倍内閣のスピード違反に、くれぐれもご注意を!

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◆今年の本サイトの基調となる『エコノミスト』臨時増刊「戦後世界史」(2012年10月8日号)掲載「原爆と原発から見直す現代史」が、アップされています。あわせて、3・11以後の原爆・原発関係のファイルを、情報学研究室の「専門課程3 原爆と原発の情報戦」にまとめました。原発シリーズのデータベース第1弾「占領下の原子力イメージ」、第2弾「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」に続いて、新たに今年5月の明治大学講演資料を、第3弾「反原爆と反原発の間」が入っています。それらをもとに書いた論文は、『インテリジェンス』誌第12号に加藤「占領下日本の情報宇宙と『原爆』『原子力』ーープランゲ文庫のもうひとつの読み方」(文生書院)に、その要約版が歴史学研究会編『震災・核災害の時代と歴史学』(青木書店)「占領下日本の『原子力』イメージーー原爆と原発にあこがれた両義的心性」と題して、それぞれ公刊されています。そこで話題になった私の発見、占領期の広島「アトム製薬」の売り出した「ピカドン」という薬の秘密を、こうした問題解明をリードする『東京新聞』『中日新聞』特報部の皆さんが現地で追跡調査し、2012年9月25日の特集「日米同盟と原発」に、「ピカドンで、頭痛忘れて玉の汗」という広告文と共に記事にしてくれました。図書館の書評欄に、『図書新聞』2012年9月1日号掲載矢吹晋『チャイメリカ』(花伝社)書評「ジャパメリカからチャイメリカへ?」と共に、「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」DBと直接関係する武谷三男批判の名著、廣重徹『戦後日本の科学運動』(こぶし文庫)を論じた「『原子力村』生成の歴史的根拠を曝く」という短文を入れました。同書復刻版に挟み込まれた『場』43号(2012年9月)という栞への寄稿で、廣重夫人三木壽子さんと一緒です。「原発ゼロ」への歴史的検討では逸することのできない本ですので、ぜひご参照ください。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2154:1301157〕

 

世界が憂慮する新政権、この夏が正念場、虹色の非核・非戦ネットワークを!
2013年 1月 2日 時代をみる 加藤哲郎安倍政権
<加藤哲郎(かとうてつろう):一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授>

◆2013.1.1 新年ですが、門松も松飾りもやめました。12月総選挙の国民の選択の結果は、たった2週間ですが、厳しく重苦しい新年を予感させます。4割の得票で8割の議席を独占した安倍晋三・自公新政権は、「景気回復」をうたって、財界の支持と円高緩和・株価1万円大台のご祝儀相場を得ました。とはいえ内閣支持率は59%、あの民主党菅内閣発足時にも及びません。真っ先にすべきは、違憲の疑い濃厚な選挙制度の改革、一票の格差是正なはずなのに、勝てば官軍でまた先送り。民主党政権から唯一引き継いだ消費税増税の条件作りに、日銀の独立性などどこ吹く風、2%インフレターゲットにひた走ります。復興予算の見直しと称して、いったん削られた大型公共事業の復活、仮設住宅で2度目の正月を迎えた震災被災者への生活支援は、二の次です。消費税増税は社会保障改革と一体だったはずなのに、貧困層を直撃する生活保護費の1割カットは4月にも実施とか。9条改憲「国防軍」創設は、公明党との連立でトーンダウンしても、集団的自衛権見直しと96条の改憲条件緩和の環境作りには早々と手をつけ、夏の参院選の結果次第で本番突入のかまえです。沖縄県民の感情を逆撫でするように、防衛省は、なんとあのオスプレイの自衛隊配備を計画、いったいこの国は、どこに向かうのでしょう。

◆3・11福島原発事故について、もともと安倍首相はA級戦犯の一人です。2006年の総理答弁書で、「地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているもの」「原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期している」と明言していたのですから。それが政権に復帰したら、「原子力ムラ」の熱い期待を受けて、「新規原発もありうる」「核燃サイクルも続ける」と再稼働一直線です。なにしろ安倍首相は、「福島第一原発は津波を受けて電源を確保できなかったが、福島第二原発は対応した。(宮城県の東北電力)女川原発もそうだ」と、選挙前なら電力会社でさえ裏声でしかいえなかった本音を公言する始末ですから。故郷を失った福島県民の痛み、こどもたちの放射能被害をおそれるおかあさんたちの心配は、この首相の視界にはないようです。むしろ原発を「潜在的核抑止力」と位置づける石破自民党幹事長、核武装そのものを主張する石原・日本維新の会代表と共に、参院選後の改憲で目論む「国防軍」創設がいかなるものであるかを、暗示しています。

◆もっとも安倍首相の夢見る「美しい国ニッポン」は、世界から警戒され、監視されています。昨年はアメリカでオバマ大統領が再選されたばかりでなく、中国に習近平体制が生まれ、フランス、ロシア、韓国、メキシコ等でも政権交代がありました。世襲の北朝鮮も新体制です。東アジアでは、日米関係よりも米中関係が、日韓関係よりも中韓関係が、いまや重みを増しています。そうした世界から、安倍内閣は「タカ派」「右翼」はもとより、「極右」「ファシスト」とさえ評されています。ドイツの新聞は「原子力推進派が再び権力の座に」とも。民主党への失望と日本経済の閉塞から自公政権を許してしまった国民の中でも、脱原発の希望や「国防軍」の拒否は、なお多数派です。夏の参院選で、改憲勢力に3分の2の議席を与えることは、国際社会から孤立し、核武装徴兵国家に近づくことを意味します。この夏が、正念場です。3.1ビキニデー、3.11フクシマ2周年には間に合わないかもしれませんが、8.6ヒロシマと8.9ナガサキは、過去の原水禁と原水協、反原爆と反原発・脱原発のいきがかりとわだかまりを捨てて、日本語で文字通りの「非核・非戦」勢力を総結集した、虹色のネットワーク連合で迎えたいものです。虹色というのは、赤と緑にとどまらない、非核と非戦の差異を尊重した多色という意味です。それが、8月15日の丸山真男の命日「復初の集い」につながれば、その時3・11後の日本にふさわしい「おめでとう」を語りうるでしょう。これが、ある社会科学者の初夢です。1945年1月8日付『朝日新聞』掲載の湯川秀樹博士等自然科学者たちがみた初夢を見ないで済むように。2013年も、本サイトをよろしく。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2137:1300102〕