ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
足元をみつめれば、トランプも朴槿恵も他人事ではない!
東日本大地震・大津波、熊本大震災から立ち上がりつつある被災者の皆様、福島原発震災の放射線被ばく・避難者の皆様に、心からお見舞いし、敬意を表します
●臼澤みゆき「ふるさと」● 新沼謙治「ふるさとは今もかわらず」●ドイツZDF「フクシマのウソ」「その2」「その3」●Japan's March 11 Disaster ●「ザマナイ (時代)」●「Appeal from Fukushima」
2016.12.1
世界史の大きな転換点でしょうか? 米国次期大統領トランプの暴走がとまりません。米国で星条旗を燃やすような抗議行動は、ベトナム戦争期の反戦集会では徴兵カード炎上と共によく見かけましたが、9・11があったりして、しばらく見かけませんでした。こうした行為はマナーとして好まれませんが、ただし連邦最高裁では、言論の自由の一部として認められる判例が確立しています。国旗冒涜法の方が、違憲とされました。今選挙のトランプ当選に際して、抗議する人々の一部が、ニューヨークのトランプ・タワーの前で星条旗を燃やしました。これに対してトランプは、「米国旗を燃やすことは誰にも許されるべきではない。燃やした場合には報いを受けるべきだ。それはおそらく市民権の喪失か禁錮刑だ」とツイートしました。
トランプの支持基盤は、何もオバマ、クリントンに失望した高卒白人貧困層ばかりではありません。終盤では退役軍人団体が活躍しました。もともと大金持ちですから、財界、特に金融界と軍需産業は有力なスポンサーです。減税と規制緩和期待で株価は急上昇です。草の根保守の「ティー・パーティ」が閣僚を送り込み、白人至上主義の「クー・クラックス・クラン」が、トランプ勝利のパレードを計画中です。ホワイト・ハウスには、副大統領ペンスが宗教右派、上級顧問・首席戦略官は極右・人種主義者バノン、財務長官は元ゴールドマン・サックス幹部、商務長官は著名な投資家、司法長官に移民反対派、CIA長官はイラン核合意反対派、……、これで国務長官と国防長官にタカ派の億万長者が決まれば、「全世界には現在、200国近い独立国家が存在している。トランプ次期政権は、23名の閣僚の資産総額だけで…GDPランキングでは100位に相当する財力を有することとなる」ーー恐るべき、グローバル格差拡大政権の誕生です。
隣国韓国では、朴槿恵大統領が「条件付き」辞任表明、でも26日のソウル150万人集会、全国190万人抗議デモに続いて、30日にも「即時退陣」を求めて全国ゼネラルストライキ、現代自動車など財閥系企業労組や公共部門を含む22万人が参加、ソウル大学等が同盟休校になりました。もともと大統領の側近政治と権力私物化が、一般民衆の怒りを呼び起こしたものですが、米国トランプ政権の布陣は、よりスマートな富裕エリート政治と好戦・帝国主義政権になるでしょう。日本では、安倍首相の就任前トランプ次期大統領との単独会見を評価し、今や支持率4%の大統領を選んでしまった韓国民主主義の未成熟を嘲笑する声も聞こえますが、他人事ではありません。いっこうに生活がよくならないアベノミクス、高齢化社会への備えが年金カット、先日の地震で一時冷却停止した原発を次々と動かし、懲りない高速炉開発に莫大な投資、天皇制そのものは問わない「退位」論議、54万円の中国製ゴルフドライバー程度ではかなわなかったトランプ翻意をなお夢見て一日4億円の税金を喰う臨時国会TPP論議、軍事研究に道を拓きそうな国立大学運営費交付金削減、そして「戦地」南スーダンへの自衛隊派遣、しかしベトナムへの原発輸出も、オーストラリアへの潜水艦商戦も挫折、それなのに、安倍内閣支持率は、昨夏30%台を下限に、いまや60%回復の不思議!
日本の安倍内閣の布陣を、改めてみてみましょう。9月の資産公開では、稲田防衛大臣1億8178万円以下、平均9679 万円でした。11月25日に、閣僚の政治資金収支報告書が公開されました。安倍首相は、「安倍晋三後援会朝食会」と題した政治資金パーティを計3回開催。「すべて東京の高級ホテル・ANAインターコンチネンタルホテル東京で開かれ、5月12日に2320万円、9月2日に2074万円、12月8日に2346万円を集め、たった3回で6740万円も集金した。この"売上"からかかった費用やパーティ券の返金分を引いても、その額はなんと約6150万となる」そうです。資産一位の稲田防衛大臣は、「政務活動費で贅沢三昧! 串カツ屋で一晩14万円、高級チョコに8万円、靖国の献灯も経費」で、しかも夫名義で大量の防衛関連企業株を持ち、領収書偽造も発覚しています。麻生副総理のバー通いや金田法相のサロン通いなど、他の閣僚もスキャンダル満載ですが、内閣は「他の内閣より良さそうだから」で60%支持。韓国のような倒閣運動は、うねりになりません。それに日本会議との関係を加えると、進行方向も瞭然。なにしろ75%の15人の閣僚が「日本会議国会議員懇談会」所属、全閣僚が「靖国」派。海外でも大きく報道されているのに、なぜかアメリカのような反トランプ運動にはなりません。
どうやら問題は、対抗勢力の組織的・政策的あり方、言論・表現の自由と権利の行使の仕方にありそうです。2017年は早稲田大学大学院の第二の定年で、大学教育の場を去ります。私の研究の自由時間拡大と「ネチズンカレッジ」の再編・発信は、こうした問題の解明に、使っていこうと思います。
老舗IIJのホームページ事業撤退に続いて、2016.1.1から本サイトが移転したJCOMも、来年にはHPサービスから撤退との知らせ。どうやら、ハードのスマホやタブレット普及、各種Cloudサービス、you tubeなど動画台頭、ソフトのSNS, Twitter, LINE普及の流れに合わせて、ウェブ上の外観とデータの大移動・離合集散が始まっているようです。やむなく本「ネチズンカレッジ」も 、独自ドメインを取得し、移転を準備中ですが、新年新規開店に向けて、データの集中管理方式に整理・移行中。12月末に完成予定。研究室には、「連合国の戦後アジア構想」(『岩波講座 東アジア近現代通史 第6巻 アジア太平洋戦争と「大東亜共栄圏」1935−45年』岩波書店、2011年1月) 、「日本共産党とコミンフォルム批判」(『岩波講座 東アジア近現代 通史 第7巻 アジア諸戦争の時代」1945−60年』岩波書店、2011 年2月) 、(井関正久と共著)「戦後日本の知識人とドイツ」(工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』東京大学出版会、2014年6月 、「戦後ゾルゲ団、第二のゾルゲ事件 の謀略?」(第8回ゾルゲ事件国際シンポジウム報告、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年ー新たな真実」2014年11月8日、東京・明治大学)日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第42号、2015年2月、 「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」(波多野澄雄・東郷和彦編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)、「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』明石書店、2015年7月) 、 「コミンテルンと佐野碩」(菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』藤原書店、2015年12月)、「第9回ゾルゲ事件シドニー国際シンポジウム参加記」英文報告「Richard Sorge Case and Unit 731 of the Imperial Japanese Army」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第45号、2016年2月)、講演記録「戦争の記憶ーーゾルゲ事件からシベリア抑留へ」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第46号、2016年5月)、それに、政治学研究教養課程カリキュラムに講演「戦後70年の世界と日本ーーどうなる私たちの地域とくらし」付属ppt「資料」(国分寺市もとまち公民館講演録、2015)の記録とデータを新たに入れて、一挙公開です。ご関心のテーマから、どうぞ。
7月16日に明治大学で行われた伊藤淳さんの『父・伊藤律 −ある家族の「戦後」−』(講談社)出版記念シンポジウムでの私の報告「ゾルゲ事件と伊藤律ーー歴史としての占領期共産党」のレジメ・資料が、論文ではなく「覚え書」のかたちで、活字になりました。国書刊行会から、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻+補巻が刊行されました。高価な本ですので、監修者の私の解説のみ、本サイトにアップしておきます。昨年現代史料出版から刊行した加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻についても、高価な資料集ですので、「解説」のみ本サイトにアップしました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説しています。幸い好評で、国内外の大学図書館等に入れていただき、さらに要望があるとのことで、この3月に刊行された続編『CIA日本問題ファイル』全2巻の概要も、ビラと「解説」で紹介しておきます。 この間、情報収集センター(歴史探偵)の「731部隊二木秀雄の免責と復権」(2015夏版)の延長上で、2015年10月15日に神田・如水会館・新三木会で「戦争の記憶」、10月18日に日本ユーラシア協会で「ゾルゲ事件と731部隊」の公開講演を行いました。このうち「戦争の記憶」の話のテープ起こし原稿をもとに、講演内容を吟味し、画像付きで臨場感ある講演記録「戦争の記憶」になりましたので、公開しておきます。『図書新聞』2015年6月20日号に松田武『対米依存の起源--アメリカのソフト・パワー戦略』(岩波現代全書)の書評、『週刊読書人』10月9日号にロベルト・ユンク『原子力帝国』再刊本(日本経済評論社)の書評を書きましたのでアップ。平凡社の隔月刊雑誌『こころ』30号(2016/4)には、「『五族協和』の内実を追う」と題して、話題の三浦英之『五色の虹ーー満州建国大学卒業生たちの戦後』(集英社)へのやや長めの書評を寄せています。
ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。それをも下敷きにした新著が、 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)です。正誤表を作りましたので、ご参照ください。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、上海国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)なども活字になっています。昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載され、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載されて、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語ですが、同じく「ちきゅう座」に発表された渡部富哉さんの「ゾルゲ事件とヴケリッチの真実」上下とあわせて、ご笑覧ください。講演記録で読みやすい「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」(法政大学『大原社会問題研究所雑誌』2014年8月号)も、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。 本HP歴史探偵データベースの老舗「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」で、新たに3名の犠牲者の消息がわかりました。もともと2013年に産経新聞モスクワ支局と共に解読したロシアのNPOメモリアルのリストから見いだされた、日本人5人のうちの3人で、「千葉県出身・富川敬三」「栃木県出身・恩田茂三郎」「鹿児島県出身・前島武夫」でした。昨年東京外語出身の「富川敬三」を官報から見つけてくれた新潟県の匿名希望Sさんのお手柄で、今度は外務省外交史料館の膨大な記録がウェブ上で読めるようになった「アジア歴史資料センター」を詳しく探求して、教えてくれました。3人の本籍地・家族の名前などが、わかりました。詳しくは「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」の更新版を、ごらんください。
この間の原爆・原発研究を踏まえた岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧下さい。
学術論文データベ ースの記念すべき第50号に、神戸の弁護士深草徹さんの「戦争立法」の恐るべき真実(2015.5)ほかをアップ。最新は、深草徹「緊急事態条項と憲法9条・立憲主義」(2016.6)、深草さんのこれまでの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1),「立憲主義を守るために秘密保護法が必要との謬論を駁す」,「核燃料サイクルから撤退を」(2014.2),「戦前秘密保全法制から学ぶ」(2014.2),「砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す」(2014.4)、「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)、「安保法制懇報告書を読む」(2014.6) 、「安保法廃止のために」(2015.11)などもご参照ください。常連宮内広利さんの「竹内好論ーーナショナリズムと奴隷の論理」(2014.12) 、「歴史と神話の起源ーー起源までとどく歴史観を求めて」(2015.2)に続いて、「死の哲学についてーーバタイユの歴史と供犠をめぐって」(2015.4)が入っています。佐々木洋さん「核開発年表改訂最新版」(2014.9)も、DBにアップされています。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。
米国大統領トランプ勝利に、
この
国の10年前を想起する
2016.11.15 アメリカ大統領選挙で、共和党ドナルド・トランプ候補が勝利し、次期大統領に 決まりました。隣国韓国では、朴大統領の統治の背後の闇が暴かれ、100万人の民衆デモ、かつて東アジア安定の基軸といわれた日米韓同盟に、深刻な亀裂です。浅井基文さんのサイトには、中国共産党系『環球時報』の11月11日付社説が紹介されています。曰く、「多くの国々及び地域がトランプの対外政策調整の可能性に対して不安を感じているが、日本及び韓国の焦りはことのほか突出している。安倍晋三と朴槿恵は急いでトランプに電話した。日韓当局が発表した通話内容は極めて似通っていた。すなわち、トランプは両国に対して同盟関係の強化を約束し、両国が米軍駐留費用を増やすことは提起しなかったというものだ。…安倍は電話する以外に、ペルーでのAPEC首脳会議に参加する途次にニューヨークに立ち寄り、トランプと会見しようとしている。安倍は恐らく、トランプに『朝見する』アジアで一番目の指導者となるだろう。本来であれば、日本はアメリカの次期大統領に対してかくも戦々恐々となる必要はない。しかし、中国と深刻に対立しているために、日本はわずかな外交上の独立性もそぎ落としており、アメリカの忠実な鞄持ちになる以外の選択はないかのようだ。現在の東京の外交的自主能力はマニラにも及ばない」と。これは、中国習近平政権の希望的観測でしょうか? 「また反日宣伝」と無視すれば済む、主観的願望でしょうか。
韓国ではいま、朴槿恵大統領の退陣を求める100万人のデモで、政権が揺らいでいます。同じ中国『環球時報』社説は、「韓国の対米従属的性格もさらに強まっている。経済繁栄及び文化輸出を通じて民族的プライドを打ち立てた国家が今やアメリカの太ももにしがみついている。トランプがアメリカのグローバルな同盟システムを放棄することはあり得ない。なぜならば、それはアメリカが世界を指導する基盤だからだ。しかし、東京とソウルの戦々恐々の様子を見るとき、ワシントンが両国に大変な要求をかませる可能性はある。トランプが強硬に出るならば、日韓の足元はぐらつき、「投降」を選択し、さらに多くの保護費をホワイトハウスの新主人に支払う可能性がある。そのような場合、トランプの「新政」は「でたらめ」ではなくなり、彼の指導者としてのプレスティージには支えが得られることになる。商業的手腕に長け、他人の懐から如何にカネを引き出すかをもっとも心得ている不動産業の大統領が日韓に対してこのように荒療治を行い、彼の大統領としての手柄にしないとも限らない」と。これは、かつて100万人デモを軍の戦車で蹴散らした、中国共産党らしい見方です。確かにトランプは、在日韓米軍駐留経費の負担増や対北朝鮮政策の見直し、日韓核保有までを、公言していました。ソウルのデモには、直接反米や反日のスローガンはないようです。しかし、「これが国か」という激しい怒りの歌でうたわれる、自国の問題は自国民が決めるという民衆の意思表示は、トランプを選んだアメリカ・ラストベルト地帯の白人貧困層とも似ています。たとえ、その選択が、いっそう厳しい状況に追い込むことになっても。
日本でも、トランプの発言をまとめたサイトがいくつか出来ています。事実認識・歴史認識の誤り、核兵器についての無知、人種差別・ヘイトスピーチ、デマゴギーだらけです。でも、どこかでデジャヴ(既視感)があります。ヒトラー、大本営発表まで遡らずとも、十年前なら、排外ナショナリズムとしてまともに相手にされなかった、この国のある種の言説に似ています。それが、いつのまにやら政権中枢に入り込み、広く蔓延し、メディアの世界では常識になっていったような……。二十年遡れば、自衛隊の海外活動も、日米同盟も、象徴天皇制さえ、議論の前提ではなく、公論に付される論題・争点だったのですが……。米ロ関係も、米中関係も、リセットされそうです。ヨーロッパでは、トランプ型の政治勢力が勢いを増すでしょう。私の情報戦の観点からすれば、ポリティカル ・コレクトネスの敗戦であり、ルールなきボーダーレス多国籍エコノミーのもとでの、ボーダーフルな大国ポリティクスの復活です。ようやく道が拓けてきた、核兵器禁止条約やCOP22パリ協定への、大きな障害です。
情報独占と経済成長と政治的安定のアンバランスな関係性
2016.11.1 エドワード・スノーデンの日本への警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」が、ウェブ上で広がっています。自分自身が米軍横田基地内で日本の情報収集をしていた経験をもとに、「日本で近年成立した(特定)秘密保護法は、実はアメリカがデザインしたもの」「米国国家安全保障局(NSA)は日本の法律が政府による市民へのスパイ活動を認めていないことを理由に情報提供を拒み、逆に、米国と秘密を共有できるよう日本の法律の変更を促した」と。「米政府が日本政府を盗聴していたというのは、ショックな話でした。日本は米国の言うことはほとんどなんでも聞いてくれる、信じられないほど協力的な国。今では平和主義の憲法を書き換えてまで、戦闘に加わろうとしているでしょう? そこまでしてくれる相手を、どうして入念にスパイするのか? まったくバカげています」ともいいます。これは、ウィキリークスが暴露した「第一次安倍内閣時から内閣府、経済産業省、財務省、日銀、同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の電話を盗聴していたことを記す内部文書」についての感想で、日本は、情報世界で米国に「信じられないほど協力的な国」なそうです。
ウェブ上には、経済評論家・河野龍太郎さんの「経済のさえないマクロパフォーマンスと高い政治的な安定性のアンバランスは、海外の人にとって大きな謎 」という最新のコラムも出ています。これについても、スノーデンは、部分的回答を与えています。日本では、「多くの場合、最大手の通信会社が最も密接に政府に協力しています。それがその企業が最大手に成長した理由であり、法的な規制を回避して許認可を得る手段でもあるわけです。つまり通信領域や事業を拡大したい企業側に経済的インセンティブがはたらく。企業がNSAの目的を知らないはずはありません」。マス・メディアも、情報企業です。スノーデンは「強権発動を要せずして、日本の報道関係者はネット上の流動的、断片的な情報から内向きに聞こえのよいもの、効率よくニュースにできるものを選択する「不自由」に慣れ、日本人の世界を理解する力を深刻に低下させている」 といいます。これに過労死企業「電通」の広告・イベント支配を加えれば、河野さんのいう<日本政治「安定」の謎>への、一つの回答になりそうです。このスノーデンの警告を紹介した小笠原みどりさんのようなジャーナリストがいるのが、わずかな救いですが。
NSAが、世界の「すべての個人を潜在的容疑者として見張っている」ばかりでなく、米国の国益からして、「ファイブ・アイズ」である英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと一部の情報を共有していることは、よく知られています。日本は、メルケル首相の携帯電話が盗聴された ドイツと同じく、Third Partyで監視の対象です。だから「安定」した安倍政権下で、「ファイブアイズ+1」という形で日本も参加しようという話が、水面下で進んでいるともいわれます。特定秘密保護法は、まさにその第一歩でした。これに新戦争法の「かけつけ警護」実行 や、沖縄高江の米軍ヘリパット基地建設強行 を見れば、少なくとも日本の米国への片想いは 「ファイブアイズ+1」に向かっているようにみえます。もっともまもなく結果の出るアメリカ大統領選挙もwikileaksやFBIにふりまわされ、どちらが勝っても「情報独占・統制、経済安定にもかかわらず不安定な政治」になりそうです。アメリカの次の大統領が決断しなければ、日本の片想いは片想いに終わり、せいぜい中国・朝鮮半島など東アジア情報収集の 「番犬」(Watchdog) として、相変わらず監視の対象でしょう。
このこと自体、日本の民主主義と言論の自由の重大な危機ですが、情報を共有することと、そこからそれぞれの国がどのように行動するかは、別の問題です。そこに、国家の自立性、民意を汲む民主主義の成熟度が現れます。10月28日、国連総会で初めての核兵器禁止条約案が、123か国の賛成で採択されました。来年から条約交渉が動き出します。アメリカはNATOなど同盟国に反対投票をよびかけ、米英ソ仏の核保有国のほかNATO諸国、オーストラリア、韓国など38か国が反対しました。中国・インド・パキスタンなど16か国は棄権しました。「唯一の戦争被爆国」を自認する日本は、かつてはアメリカに配慮し「棄権」にまわることもありましたが、国際法で核使用を禁止できる条約成立の決定的な時に、「反対」にまわり、世界を驚かせました。被爆者が怒るのは当然です。ここで注目すべきは、NSAの「ファイブアイズ」の一角、ニュージーランド政府の選択です。30年の非核政策をバックに、情報共有大国アメリカの圧力をもはねのけて、「賛成」の先頭に立ちました。情報と政治と経済の関係は、それぞれの国の歴史的戦争体験(貫戦史 transwar history)や 制度の経路依存性(path-dependency)で異なります。けれども<日本政治「安定」の謎>だけは、いま、日本の若い研究者が解き明かさないと、「番犬」が「忠犬」になって、出口無しになりそうです。
アメリカの情報戦は、ソフトパワーの失敗作!
2016.10.15 アメリカ大統領選は、11月8日の投票を目前にして、 共和党ドナルド・トランプ候補のセックス・スキャンダルを高級紙が暴く異様な展開。有利になった民主党ヒラリー・クリントン候補も、Wikileaksにゴールドマン・サックスなどWall StreetとのつながりやTPP発言の過去など新自由主義エスタブリッシュメントとしての 嘘と奢りを暴露され、どっちが勝っても、前途多難な罰ゲーム。「パクス・アメリカーナの終焉」、「長い20世紀」の終わりを確認するものとなるでしょう。
いや、どっこいアメリカは生きている。ボブ・ディラン のノーベル文学賞受賞を見よ、という向きもあるでしょう。 これが実は、アメリカのソフトパワーの光と影です。ソフトパワーとは、ご存じの方も多いでしょうが、アメリカ民主党の外交ブレーン、ハーバード大学ヨゼフ・ナイ教授の提唱したイメージと文化を重視した国際関係論です。モーゲンソー、キッシンジャーらのパワー・ポリティクス、ナイの言葉で言えば軍事力と経済力のハード・パワーの外交が行き詰まったところで提唱されたのが、ソフトパワー論でした。ナイのソフトパワーとは、「文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力」で、ソ連の崩壊は軍事力や経済力ではなくソフトパワーの衰退によると説明し、アメリカもヘゲモニーが弱まっているから、自由と民主主義のアメリカ的価値観を、デイズニーやコカコーラ、ジーンズのようなソフトパワーを駆使して再建すべきだ、とするものでした。これに飛びついたのが、一期目オバマ政権で、オバマの「核なき世界」でノーベル平和賞を受賞し、国務長官に就任した現大統領候補ヒラリー・クリントンは、ソフトパワーとハードパワーを組み合わせる「スマート・パワー」での 外交を公約しました。ただし、ナイのソフトパワーは、あくまでアメリカの国益とヘゲモニー(覇権)を守るためであり、例えばジョン・レノンの「Imagine」やボブ・ディランの「風に吹かれて」、PPMの「花はどこにいった」は、ナイやヒラリーの視野には入っていませんでした。そして実際にも、ハードパワーに依拠せざるをえないアフガニスタン政策や、ナイも関わった沖縄基地政策が続きました。
私の『20世紀を超えて』の情報戦論、アントニオ・グラムシのヘゲモニー論における「19世紀型機動戦から20世紀陣地戦へ」の論理の延長線上での21世紀型情報戦政治論は、ちょうど石堂清倫さんの『20世紀の意味』への返歌で、ナイの「ハードパワーからソフトパワーへ」の提唱と同時期 だったものですから、意識的にナイのソフトパワー論との重なりと差異を、明示しなければなりませんでした。端的に言って、ナイの議論は、ソフトパワーの行使主体を国家に限定しがちで、国境を超えるソフトパワーや非国家的主体(NGO・NPO、多国籍企業、社会運動や市民)を軽視している、パワー(権力)概念が一面的・不十分で、受容する側との相互性や、ミシェール・フーコー風規律・訓練権力、ネットワーク権力論にまで貫かれていない、と批判してきました。今回のアメリカ大統領選は、ロッカールーム劇場型の情報戦にはなりましたが、ソフトパワーとしては、明らかに失敗作です。
アメリカも東京都政も日本の国政も黄信号!
2016.10.1 雨の続いた9月からすっきりと秋晴れへ、とはなかなか行かないようです。政治の世界も、どんよりと曇り、霞がかかっています。世界の注目は、アメリカ大統領選挙。11月8日の投票を控え、二大政党候補者のテレビ討論が始まりました。既成権力エスタブリッシュメントの代表・民主党のヒラリー・クリントンと、宗教差別・人種差別・女性差別を公言する共和党ドナルド・トランプ、 つまり「不安」対「絶望」という「史上最も人気のない大統領候補」同士の争いですが、さすがにトランプでは世界に恥ずかしいと、8400万人が見たテレビ討論後の世論調査では「不安」なヒラリーやや有利の数字。しかしマイケル・ムーアは、「絶望」に軍配。ヒラリーの健康問題があり、テロや銃撃事件も頻発していて、まだまだ予断を許さぬ展開、あと2回のテレビ討論も、注目州ごとの世論の動きも、見逃せません。私の注目したのは、アメリカ最大、というより唯一の全国紙USA Todayの「反トランプ」態度表明。創刊以来34年間、大統領選には「中立」をキープしてきた発行部数200万の大衆紙ですが、今回はついに、「トランプ・ノー」の旗幟を鮮明にしました。編集委員全員一致とのことですが、「ヒラリー・イエス」ではありません。そもそも英語の新聞など読まない人々は、テレビとインターネットで態度を決めるでしょう。そんな危うい大国に、一蓮托生で安全を委ねる数少ない国・日本にとって、「対岸の火事」ではありません。もっともこれだけ時間をかけて、公開討論でトップを選ぶ「選挙」のあり方には、ちょっぴりうらやましい感も否めません。
日本の方では、前回論じた東京都庁の「伏魔殿」、ヒラリーにあやかりたいらしい小池知事の強い指示にもかかわらず、豊洲市場移転問題の設計変更問題で出てきた内部の報告書は、だれが、いつ、どのような権限で決めたかはわからない、灰色のファイル。わかったことは、「食の安全・安心」よりも「コストと工期」という「空気」が優先されていたという、予想通りの 無責任。なぜ東京ガスから豊洲の汚染地を高価格で購入することになったのか、という事の始まりまで遡って、暗雲を晴らしていきたいものです。 もっともその先頭にたつべき東京都議会では、豊洲移転をストップできる可能性のあった2009年都議会議員選挙民主党大勝のさい当選した一人の民主党都議が、11年3.11直前、何者かに動かされ見返りを約束されて移転賛成派に「転向」、石原独裁知事・都議会自民党のドンが作った流れを、反転させることができませんでした。無責任都政に翻弄されてきた、築地の業者の皆さんと消費者のためにも、調査ジャーナリズムと市民の出番です。富山市から全国に波及しつつある、地方議会議員の政務活動費横領、領収書改竄・白紙領収書問題も、市民とメディアの追究によるものでした。歴代都知事と都庁官僚制の政策過程を疑い、東京都議会議員の一人一人を徹底的に洗った「築地から豊洲への政治学」を、若い政治学者に期待します。
東京都の伏魔殿失態やオリンピック競技会場問題で目立たなくなっているが重要なのは、両院改憲勢力多数を占めての初の国会論議。安倍首相の所信表明演説の台本に「拍手」「水を飲む」とト書き、「表す」に「あらわす」のふりがなつきで、「海上保安庁・警察・自衛隊」(アルチュセールのいう「国家暴力の抑圧装置」!)に感謝のスタンディング・オベーション。ドイツ「ワイマールの教訓」を知る人には、衝撃的! 野党の代表質問はパッとしませんでしたが、首相の秘蔵っ子・稲田防衛大臣への集中質問は、意味があります。「日本独自の核保有」、戦没者追悼式欠席、南スーダンPKOばかりでなく、夫名義の軍事産業株保有、それに富山市議そっくりの「同じ筆跡の領収書」26枚520万円 政治資金疑惑もあります。野党は徹底的に追究して、与党のTPP国会、改憲準備国会へのペースを、乱してもらいたいものです。それでなくても、日経新聞さえかつて危惧した「いつか来た道」を歩みはじめているのですから。
老舗IIJのホームページ事業撤退に続いて、しょうがなく本サイトが移転したJCOMも、来年にはHPサービスから撤退との知らせ。どうやら、ハードのスマホやタブレット普及、各種Cloudサービス、you tubeなど動画台頭、ソフトのSNS, Twitter, LINEの流れに合わせて、ウェブ上の外観とデータの大移動・離合集散が始まっているようです。やむなく本「ネチズンカレッジ」も 、独自ドメインを取得し移転を準備中ですが、新年新規開店に向けて、データの集中管理方式に整理・移行中。研究室には、「連合国の戦後アジア構想」(『岩波講座 東アジア近現代通史 第6巻 アジア太平洋戦争と「大東亜共栄圏」1935−45年』岩波書店、2011年1月) 、「日本共産党とコミンフォルム批判」(『岩波講座 東アジア近現代 通史 第7巻 アジア諸戦争の時代」1945−60年』岩波書店、2011 年2月) 、(井関正久と共著)「戦後日本の知識人とドイツ」(工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』東京大学出版会、2014年6月 、「戦後ゾルゲ団、第二のゾルゲ事件 の謀略?」(第8回ゾルゲ事件国際シンポジウム報告、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年ー新たな真実」2014年11月8日、東京・明治大学)日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第42号、2015年2月、 「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」(波多野澄雄・東郷和彦編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)、「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』明石書店、2015年7月) 、 「コミンテルンと佐野碩」(菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』藤原書店、2015年12月)、「第9回ゾルゲ事件シドニー国際シンポジウム参加記」英文報告「Richard Sorge Case and Unit 731 of the Imperial Japanese Army」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第45号、2016年2月)、講演記録「戦争の記憶ーーゾルゲ事件からシベリア抑留へ」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第46号、2016年5月)、それに、政治学研究教養課程カリキュラムに講演「戦後70年の世界と日本ーーどうなる私たちの地域とくらし」付属ppt「資料」(国分寺市もとまち公民館講演録、2015)の記録とデータを新たに入れて、一挙公開です。ご関心のテーマから、どうぞ。
「食の安全・安心」のためにも、東京都政の「伏魔殿」利権にメスを!
2016.9.15 かつて東京都庁が「伏魔殿」とよばれたことが、幾度かありました。戦前もそうでしたが、戦後でも1955年、安井誠一郎知事のもとでの「七不思議」とよばれた、戦後復興過程での東京駅八重洲口開発、三原橋・数寄屋橋界隈の埋め立てに都庁の役人と業者が絡んだ汚職、『都政新報』に暴露され、東京地検が捜査に入りました。つづく東龍太郎都政では、高度経済成長から東京オリンピックの開発ラッシュ、都庁官僚の天下りと大企業との癒着・腐敗が、佐藤内閣期国政の「黒い霧事件」と重なり、1967年の美濃部亮吉革新都政の誕生を産みました。美濃部都政の福祉重視による財政難が攻撃され、旧内務官僚の鈴木俊一知事を就任させたといいますが、そのあたりから、もっと構造的で大規模な、都庁移転、臨海副都心や国家的・国際的イベントがらみの再開発という、巨大利権ビジネスの舞台が造成されました。そこに国政・都政政治家や大手ゼネコン・銀行・不動産業、電通・大メディアが群がり、石原慎太郎都政からは築地市場豊洲移転、東京オリンピック関連施設が「伏魔殿」の温床となりました。福島原発事故後も再稼働に固執する「原子力ムラ」と同じように、首都直下地震や液状化問題さえビジネス・チャンスにするのが、新自由主義時代の「伏魔殿」です。
それが、リオ・オリンピック、舛添公私混同都政後の小池都知事当選直後に、発火しました。もともと東京ガス工場跡地という生鮮食品を扱うには最悪の地盤に、いまや東京観光の目玉となった築地市場を豊洲に移転するための土壌汚染対策の手抜き工事が発覚し、連日テレビのワイドショーを賑わすスキャンダルになっています。盛り土の代わりにコンクリート・ボックスでコスト削減・工期短縮は、東京新聞スクープによると、どうやら「だまされた」などと言ってた石原知事側近のアイディアらしく、「食の安全・安心」にとって、重大な問題です。舛添都政が続けば11月に移転する予定だった「豊洲市場」は、完全に宙に浮きました。関連する東京オリンピック用道路工事や交通網計画も含め、真相解明と責任追及を進め、見直すべきでしょう。より重要なのは、盛り土の上に建つはずだった主要3施設の建設工事の入札落札率が、どれも1社のみの入札で99.9%だった問題。落札・受注したのは清水・大成・鹿島を中心にした大手ゼネコン共同企業体。オリンピック工事の多くにも絡む、「伏魔殿」利権の常連です。オリンピック・カヌー会場「海の森水上競技場」も、落札率99.9%で大成建設に受注され、「官製談合」が疑われています。そこを追究していけば、元首相や「都議会のドン」の疑惑 に、肉薄できます。情報公開と、調査ジャーナリズムの出番です。
ウェブ上で、こんな記事を見つけました。「かつて東京新聞は、安井、東都政の伏魔殿を報道せず、大量の読者を失いました。そして中日新聞に買収されました。その反省が[最近の]東京新聞に蘇ったのだと私は感じていました。この東京新聞の決意を無視するならば、日本の報道の自由は衰弱するでしょう。」これは、すべてのメディアが肝に銘じ、心がけるべきでしょう。でも日本の「パナマ文書」報道は尻切れで、東京オリンピック誘致裏金疑惑は、「違法性なし」というJOCの手抜き調査結果をそのまま報道し、幕引きにされかねない調査報道の不足。そして、台風災害や北朝鮮核実験を背景にした安倍内閣支持率6割、それに乗じた防衛予算の増額、「陸上自衛隊情報学校」新設。 かの「陸軍中野学校」の復活ですが、無論IT時代に即して、「ネット情報をチェックして、自衛隊が自分たちの意に沿わない市民の情報をチェック、監視する」システムの構築です。これと「共謀罪」が結びつくと……、北朝鮮や中国の言論状況を嗤うことはできません。対岸の火事ではないのです。
「国威発揚」と「共謀罪」でも内閣支持率62%の憂鬱
2016.9.1 憂鬱な、日本の夏です。8月21日のNHKテレビ「おはよう日本」で、解説委員が、五輪開催の5つのメリットの第一に「国威発揚」を挙げたそうです。ウェブ上には、小倉利丸さんの身体論からの本質的批判「資本主義的身体からの訣別のために—近代スポーツと身体搾取」が出ています。日中戦争期1940年の「皇国」紀元2600年祭に、万国博覧会、国際ペンクラブ大会と共に、目玉として組み込まれた「幻の東京オリンピック」を追いかけてきたものとして、理論的に共感するところ大です。ただし1936年のベルリン・オリンピックを持ち出すまでもなく、「民族の祭典」の裏側に「国威発揚」があり、それが強力なナショナリズムの接着剤となり、異民族、弱者や少数者への排除圧力となることも痛感しました。日中戦争泥沼化で1938年7月に近衛内閣が東京オリンピック返上を決めた(IOCは次点のヘルシンキに変更)後でも、1939年の第二次世界大戦勃発(40年ヘルシンキ・オリンピックも中止)直前まで、当時のモダンな写真雑誌『グラフィック』では、「3度目のオリンピック制覇をめざす水泳日本軍」の「日本人此所にありのヒット」を夢見る特集を組んでいました。
「国威発揚」の戦争への動員力は、強力です。これも電通の演出でしょうか、リオ・オリンピックの閉会式に、スーパーマリオに扮して登場した安倍首相のパフォーマンス、日経新聞世論調査では、内閣支持率を62%にまで押し上げました。国会前が燃えていた昨夏は30%台だったのに。安倍首相に4年後の東京五輪・パラリンピックまで首相を続けてほしいと思うかとの質問にも、59%が「続けてほしいと思う」と答えたとか。民進党代表選は質問項目にも入っていないのに。ギャンブルを始めた年金積立基金は累積10兆円の赤字、相模原障害者施設の大量殺人犯はナチス優生学的主張を検挙後も政府に訴え続け、沖縄・高江ヘリパット予定地では反対派ばかりでなく新聞記者まで機動隊の暴力で排除され拘束されているのに。
参院選での改憲可能議席獲得、高い内閣支持率回復、野党のふがいなさを背景に、いよいよ登場しそうなのが「共謀罪」。「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変えて、これまで3度も廃案になっていたのに、「組織的犯罪集団」を600以上指定して、実行行為ではなく「複数の人が犯罪を行うことを話し合って合意(共謀)しただけで罪に問えるようにする」というのです。「国威発揚」は容易に「国体護持」に連なり、戦前の治安維持法の亡霊になります。特定秘密保護法の運用実態や大分別府署の労働組合監視カメラ設置、防衛省概算要求の軍事研究助成予算18倍110億円を見ると、亡霊どころか、現実かもしれません。ウェブ上で誰かの意見に賛意を示したり、「イイネ!」をクリックしただけで、「共謀」にされかねませんから。すでに参院選では、「自民党ネット対策チーム」が「成果」をあげたといいます。「日本会議」や「J-NSC(自民党ネットサポートクラブ)」ばかりでなく、日本マイクロソフトなどITベンダー6社が加わっているとか。台風一過の残暑の後には、「物言えば唇寒し秋の風」が近づいています。
65年前の夏、日本は朝鮮戦争のさなかにあった!
2016.8.15 8月15日です。この日が「終戦記念日」とされるのは日本だけで、韓国ではこれが植民地からの解放記念日=「光復節」になります。米英など旧連合国の多くにとっては、71年前の1945年9月2日の戦艦ミズーリ号上での降伏文書調印がVJ Day(対日戦勝記念日)で、旧ソ連・中国・モンゴル等の場合はその翌9月3日であることは、佐藤卓巳さん『8月15日の神話』『東アジアの終戦記念日』(いずれも、ちくま新書)などで、広く知られるようになりました。71年前のポツダム宣言受諾の米英への回答は、8月14日でした。8月15日は、いわば、「玉音放送記念日」でした。ちょうど65年前、1951年の8月は、朝鮮戦争の真っ最中でした。4月に原爆使用を含む中国への攻勢を主張した日本占領の最高責任者マッカーサーは解任され、リッジウェーに代わりました。9月には、サンフランシスコで対日講和条約が結ばれ、同時に、日米安保条約で米軍基地の存続が決定されます。敗戦国日本の独立が、ようやく認められましたが、ソ連や中華人民共和国が加わらない「片面講和」といわれ、沖縄の米軍直接占領統治は手つかずでした。沖縄県ではいまも、サンフランシスコ講和条約が発効した52年4月28日を「屈辱の日」とよびますが、2013年に安倍内閣は、この日を「主権回復の日」にして、沖縄県民の「屈辱」を隠蔽し、在日米軍施設の74%を沖縄に集中させたままです。
65年前のサンフランシスコ講和は、外交的に見ると、時の吉田茂首相が米国国務省顧問ジョン・ダレスと渡り合い、米軍駐留を許しながらも「軽武装」での主権独立を獲得し経済発展を可能にした「寛大」なものと評価されました。知識人等の理想主義的「全面講和」論に対する老獪な現実主義的選択と言われました。しかし米ソ「冷戦」の緊張時で、朝鮮半島では「熱戦」の真っ最中です。講和条約と安保条約そのものに、米国の対ソ世界戦略が貫かれます。こうした問題を綿密に検討した柴山太『日本再軍備への道』(ミネルヴァ書房、2010年)を再読して、占領とは終戦ではなく敗戦であり、軍事的には戦争の総仕上げであることを、思い知らされました。2段組750頁の大著には、4半世紀かけて米国・英国・日本で収集された公文書・機密文書が第一次資料として用いられています。1951年夏、米国は、ソ連との第3次世界戦争勃発を想定していました。ホワイトハウスでは、8月15日付けで「1951年における日本への共産側攻撃の可能性」と中ソの大規模対日侵攻能力が、トルーマン大統領のもとで検討されていました。サンフランシスコで講和会議が始まる前日、9月3日、東京のGHQ・G2 (参謀二部)では、ソ連は極東で最大15個の原爆を保有し、その戦略爆撃目標は@立川、A横田、B釜山・横浜・佐世保、東京・横須賀と想定され、「第7番目の攻撃目標ながら、GHQ司令部がある第一生命ビル上空で原爆が爆発すれば、米軍の指揮系統や命令組織は壊滅状態になり得る」と対抗核使用をシミュレーションしていました(同書、345頁)。
日本の外交的「独立」は、想定された第3次世界大戦とソ連の対日核攻撃・北海道侵攻への対抗を含む、当時の米国世界戦略の一環でした。日本側は、その全体像も核軍事作戦計画も知らされずに、軍事的要衝基地にされました。朝鮮戦争勃発時に作られた警察予備隊も、米軍指揮下で国内治安維持ばかりでなく対ソ防衛にあたる「軍隊」としての性格を刻印されていました。やがて保安隊・自衛隊へと、人員を増やし装備を拡張していきます。かつて統治権と一体で天皇に託されていた「統帥権」=軍事大権は、事実上米国に移管されました。昭和天皇自身、米軍基地存続を求め、沖縄を切り捨てていたことは、その後の研究でも柴山氏の書物でも、確認されています。最近、平成天皇のビデオメッセージをめぐって、「第二の玉音放送」とも「第二の人間宣言」とも言われ、「象徴天皇制」論議が始まりました。日本国憲法第1条〜9条も、象徴天皇制も自衛隊も、1945−52年の日本占領期=米英・ソ中にとっての世界再編期に創られ、歴史的にかたちづくられました。冷戦史の文脈での問題は、天皇個人ではなく世襲天皇制、災害救援の自衛隊ではなく米国軍事戦略下で活動する「軍隊」です。今日、大新聞の号外が出たそうです。戦没者追悼式典でも安倍内閣閣僚の靖国神社参拝でもなく、地球の裏側のオリンピックでの日の丸と銅メダルだとか。街ではパチンコ屋の駐車場がいっぱい。南スーダンでのPKO犠牲者速報でなかったことで、良しとすべきなのか。1937年とも、1951年とも比較したくなる、10年ぶりの日本での憂鬱な夏です。
優生学的言説が横行する「新たなる戦前」!
2016.8.1 参議院選挙に続き、東京都知事選挙が終わりました。午後8時の投票締切と同時に当確が出る、小池百合子候補の圧勝でした。投票率59.73%は東京ではまずまずで、小池290万票、増田180万、鳥越135万。事前の予想通りとはいえ、無党派層の5割の支持で小池候補が勝ったのは、日本会議国会議員懇談会の副会長ですから、国政に与える影響も重大です。「初の女性都知事」といいますが、弱者の味方どころか、弱者切り捨ての都政に向かうでしょう。政権与党自民党・公明党の推薦した増田候補は、自民支持層の半分、公明支持層の4分の1が小池候補に流れて、組織戦になりませんでした。宇都宮健児氏の出馬を断念させ、保守分裂の中での4野党共闘で優位にあったはずの鳥越候補は、無党派層の20%しか得られず、民進党支持層の3割、共産支持層の2割が小池票にまわって、共闘効果は出せませんでした。9月民進党代表選への責任・路線問題、共産党支持層の流動化にもつながるでしょう。2015夏安保闘争の余韻は、残せませんでした。
21世紀の政治が情報戦であり、インターネット時代の選挙が劇場型ポピュリズムになりがちなことは、かねてから私の情報政治学の基本主張です。シンボルやイメージを駆使する小池新知事の登場も、この点では不思議ではありません。電通をバックにした安倍官邸の情報操作も巧妙で、小池知事との関係修復、たとえ小池新党になってもおおさか維新と同様に日本会議型改憲連合へ再吸収できると、織り込み済みでしょう。メディア政治のなかで気になったのは、むしろ相模原障害者施設での19人刺殺・26人傷害事件の衝撃と、その反響。人間の尊厳と権利に直結した大量殺傷事件にも関わらず、日本の首相は、直前までゴルフ三昧で、政府としての哀悼声明・服喪もなく、ISテロに悩むヨーロッパ諸国から見れば、異様です。その実行犯の衆院議長宛手紙に書かれ、施設内でも繰り返していたという動機と主張は、「 世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐ」ために「全人類の為に必要不可欠である辛い決断」「日本国が大きな第一歩を踏み出す」ために必要な「障害者総勢470名を抹殺する」「安楽死」作戦で、「安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければ」と国家の支援を求め、実際に実行しました。ナチスのT4作戦を想起するのは当然で、優生学思想が公然と現れる土壌が、現代日本社会にあることを、示しています。東京都知事選挙では、外国人差別・ヘイトスピーチを公言する桜井誠候補が、11万票を獲得しました。つまり、優生学的差別・選別の思想を受け入れる土壌は、日本会議風ナショナリズムと結びついて、相当に広がり浸透しているのではないでしょうか。忍び寄るファシズムです。
久しぶりで、この夏は日本です。例年ならこの季節は、米国かヨーロッパに資料調査・研究に出ていて、被爆記念日・終戦記念日の日本は、10年ぶりくらいでしょうか。それだけに、「ヒトラーの思想が降りてきた」と語られる「戦後71年」の日本社会の変貌は、気にかかるところです。この間、ゾルゲ事件から発して、関東軍731部隊の人体実験・細菌戦、シベリア抑留を追いかけてきましたが、帝国日本の植民地支配・傀儡国家には、進化論をベースにした優生思想がつきまとっていました。人種差別・他民族支配・身分制度には、自民族優位を適者生存・優勝劣敗で正当化する論理で組み込まれていました。「障害の有無や人種等を基準に人の優劣を定め、優秀な者にのみ存在価値を認める」ため、日本優生学会や民族衛生学会で、学問的にも基礎づけられました。ハンセン病患者の隔離を義務づけた「らい予防法」の廃止は、1996年でした。同時に、ようやく「優生保護法」が「母体保護法」に改正されました。つまり、ナチスの優生政策は否定されても、20世紀を通じて優生学的思想・発想は、この国に根を張ってきたのです。戦時アメリカの日系人強制収容、広島・長崎への原爆投下にも、優生学的発想が基底にありました。だからこそ、戦前日本の南京大虐殺、731部隊の人体実験、従軍慰安婦問題につきまとう優生学的発想の克服が、日本人自身の戦争責任、人間の尊厳と社会的倫理の問題となるのです。現在の朝鮮人・中国人蔑視の言論、ヘイトスピーチや障害者差別には、「新たなる戦前」を見出さざるをえないのです。
相模原事件の報道を見ながら読んだ、桜美林大学・中生勝美さんの力作『近代日本の人類学史ーー帝国と植民地の記憶』(風響社)は、こうした問題を考えるうえで刺激的な、格好の学術的研究です。日本での民族学・民俗学・地理学・人類学などの歴史的展開に、いかに侵略戦争・植民地支配と学問研究、戦時科学技術動員と研究予算配分が関わったのかを、フィールドワークによる民族誌や探検・登山・地図作り、宗教研究や少数言語研究・教育の軌跡を克明に追いかけて、浮き彫りにします。731部隊に関わる医学史・医療史や、核兵器に反対しながら「原子力の平和利用」を推進した20世紀日本の科学技術と重なります。自然科学・社会科学・人文科学を横断した、普遍的で今日的な問題を考えるヒントが、満載されています。7月16日に明治大学で行われた伊藤淳さんの『父・伊藤律 −ある家族の「戦後」−』(講談社)出版記念シンポジウムでの私の報告「ゾルゲ事件と伊藤律ーー歴史としての占領期共産党」のレジメ・資料が、論文ではなく「覚え書き」のかたちで、活字になりました。当日出席できなかった皆さんのために、各章「まとめ」を加筆してあります。冷戦史・社会運動史やインテリジェンスに関心のある方は、ご参照ください。
歴史認識と連動する日本国憲法の危機!
2016.7.15 参議院選挙が終わりました。危惧していた通りの安倍自民党・公明党の大勝で、大阪維新の会等を加えた「改憲勢力」は、憲法改正発議の要件となる3分の2の議席を、衆議院と共に確保しました。対する「非改憲」4党は、民進党が何とか30議席をこえて現執行部退陣に直結する大敗(民進党内改憲派の台頭!)をまねがれ、1人区の野党候補一本化で11勝21敗とぎりぎり3分の1を得ましたから、辛うじて「野党共闘」効果は発揮できました。もっとも野党は、沖縄を除くと「西低東高」で、東日本大震災・福島原発事故の被災地だった農業県などでTPPも絡んだ政権批判が議席に結びつきましたが、「アベノミクス幻想」が残る大都市部や大阪・兵庫などは、強固な保守基盤を示しました。日本政治の大きな曲がり角で、東京都知事選にジャーナリストの鳥越俊太郎氏を立候補に駆り立て、本サイトも用いてきた表現では「危機的局面」です。
もっとも投票率は54.70%(選挙区)、盛り上がった選挙戦ではありませんでした。安倍首相は全国行脚で「アベノミクスは道半ば」と訴えましたが、今年の年頭に掲げていた「憲法改正」「緊急事態条項」には触れませんでした。そもそもマスコミでは、選挙報道そのものがこれまでより少なく、テレビは三割減、公示後与党圧勝の見込みがつくと「与党過半数」「自民単独過半数」よりも「改憲四党で3分の2」の評価=勝敗ラインが浮上し、開票速報も政党インタビューも、そこに焦点をあわせました。政権与党が争点として隠し、野党が共闘の基盤とした「立憲主義」を、昨夏安保法制・集団的自衛権論議から9条を含む明文改憲へと争点を広げ移した格好です。そしてそれに、野党が敗れました。まだ憲法審査会での逐条検討から国民投票への長い道のりがあるとはいえ、重大な一歩です。他方で、高知新聞のインタビュー調査では、参院選終盤でも議席の「3分の2」の意味を83%の有権者が知らなかった、といいます。メディアも野党も、選挙の意味そのものを、伝えきれませんでした。
海外の報道は、率直です。「安倍政権の経済政策と平和憲法改正に対する懸念にもかかわらず、与党が地滑り的勝利」「軍国主義の記憶を色濃く残している中国との緊張が増すだろう」(ロイター)、「安倍首相が目指す憲法改正を加速」(人民日報)、「『改憲まで七合目』安倍・右翼60年の野望」(朝鮮日報)、「次のステップは平和主義の憲法を改正するかどうかの国民投票」(BBC)。合澤清さんの紹介するドイツ紙Die Zeitは強烈。「日本の民主主義は去って行ってしまったかもしれない」という解説記事で、安倍首相を「超保守主義者Ultrakonservative」とし、その理由を、「第一は、安倍がこの数年来、第二次大戦中の日本軍の忌まわしい振る舞いをひたすら緩和して、特別目くじら立てることではないかのように努力していたこと、第二に戦犯を合祀している靖国神社への国会議員の参詣を、彼が取りなしてきたこと、第三に、航空自衛隊の学校で、その教材用機械のボディにNo.731と大書して、それを写真に撮っている。これはヨーロッパでSS(Schutzstaffelナチス親衛隊)という文字がもたらすのと同様に、アジアでは極めて挑発的で嫌われている数字である。第四は、安倍が憲法の改訂を公然主張することで、中国や韓国(朝鮮半島)との緊張が一気に高まる気配がある」と。この第3の論点は、私がここ数年の講演で、731部隊の人体実験・細菌戦がらみで警告してきた「戦争の記憶」の問題そのものです。つまり、憲法改正問題は、この国では、歴史認識の問題とワンセットなのです。
もっとも海外では、イギリスのEU 離脱国民投票に伴う首相交代・新政権、アメリカ大統領選挙の民主党ヒラリー・クリントン対共和党トランプの対決構図確定、ハーグの仲裁裁判所が南シナ海での主権に関する中国の主張を退ける国際法上の判決、等々不安定と「危機」の要因山積、無論、アベノミクス経済も、もくろみ通りには進まないでしょう。もう明日ですが、7月16日(土)午後1-5時、明治大学リバティタワー12階1125教室で、伊藤淳さんの『父・伊藤律 −ある家族の「戦後」−』(講談社)出版記念シンポジウムが開かれます。私も 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)などで伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張『日本の黒い霧』改訂に関わった関係で、著者・伊藤淳さん、評論家・保阪正康さんと共に、「ゾルゲ事件と伊藤律ーー歴史としての占領期共産党」について報告します。すでに「ちきゅう座」には、私の報告レジメ・資料が掲載されているようです。ちょうど日本共産党の公式「創立記念日」の翌日。冷戦史・社会運動史やインテリジェンスに関心のある方は、ぜ ひどうぞ。
新自由主義の、破綻の始まり?
2016.7.1 明日ですが、7月2日(土)午後3-6時、早稲田大学16号館820室で、桑野塾の講演会が開かれます。メキシコ大学院大学の田中道子教授が来日して、「回想のルムンバ大学」という、1960年代のモスクワでの留学生活をお話になります。私も「『異国の丘』異聞ーープリンス近衛文隆抑留死の二つの謎」と題して、この間の講演「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」 の末尾、近衛文隆の1956年抑留死の死因と、末期の家族宛手紙に出てくる「夢顔さん」とは誰かの問題を、報告します。ロシアとソ連の文化にご関心のある方は、どうぞ。なお、7月16日(土)午後1-5時、明治大学リバティタワー12階1125教室で、伊藤淳さんの『父・伊藤律 −ある家族の「戦後」−』(講談社)出版記念シンポジウムが開かれます。著者伊藤淳さん、保阪正康さんと共に、私も 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)などで伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張『日本の黒い霧』改訂に関わった関係で、「ゾルゲ事件と伊藤律」について報告します。こちらは社会運動史やインテリジェンスに関心のある方に。
2016.7.1 6月23日のイギリスの国民投票によるヨーロッパ連合(EU)離脱決定には、驚きました。2012年のギリシャのユーロ脱退論議で生まれたGrexit(Greece + Exit)になぞらえてですが、Brexitという英語が、いたるところで見られます。離脱多数の決定に驚いてのBregret (離脱後悔)とか再投票も、話題になっています。しかし、この決定がくつがえされることはないでしょう。議会制民主主義の発祥の地を自認するイギリスで、その正統性を担保するレファレンダム=国民の直接投票という方法で決めてしまったのですから。 EUを支えてきた大国・独仏英の一角の脱退ですから、その歴史的意味は、重大です。世界の株式市場と為替市場は、大きく動きました。もっとも、離脱交渉は2年にわたり、通貨はもともとユーロではなくポンドでしたから、直接の経済的効果は、これからでしょう。軍事的には、イギリスは依然NATO加盟国でアメリカの主要同盟国ですから、大きなバランスの変化はありません。問題は、EUとイギリス国内の双方にあります。第二次世界大戦後の平和維持のための地域統合として構想され、組織されてきたEUが、グローバルな世界全体の変動の引き金になりかねない事態です。
この春に、EUの専門家による政治学の書物を、2冊いただきました。一つは、羽場久美子さんの『ヨーロッパの分断と統合ーー拡大EUのナショナリズムと境界線』(中央公論新社)、もう一つは、高橋進さん・石田徹さん編『「再国民化」に揺らぐヨーロッパーー新たなナショナリズムの隆盛と移民排斥のゆくえ』(法律文化社)。どちらも「21世紀のナショナリズム」に真正面から取り組み、移民・難民問題が生み出す分断と統合、国民と市民、物理的国境と心理的国境の葛藤を分析した力作です。中東欧に詳しい羽場さんは、28カ国に拡大したEUの「包摂」と「排除」の論理を、創設理念である「多様性の中の統合」理念に立ち返って歴史的に分析し、「規範の帝国」EUの中での寛容とゼノフォビア(外国人嫌い)という「内なる境界の苦悩」を抽出します。高橋さん・石田さんら関西の研究者たちは、異なるレジームを持つ各国政治の労働・福祉政策の中に分け入って、国家中心主義・移民排除を唱える「エスノ・リージョナリズム政党」の台頭に注目し、「脱国民化から再国民化へ」の文脈を読み解きます。
両書から浮かび上がるのは、マスコミが「リーマンショックなみか」とあおり、日本の参院選で「アベノミクスの成否」が問われている円高・株安・実質賃金・年金・消費税といった問題だけではありません。イギリスのみならず、EU諸国全体に内在する、エスニックなものとシビックなもののせめぎあい、主権平等のタテマエと差別や憎悪の感情、就労機会と格差の拡大、人権・社会権の国別・地域別保障の相違等々、総じて「多様性の統合」の壮大な実験に孕まれていた危うさ・もろさが、表出されました。イギリスは、もともとユーロによる通貨統合にもパスポート無しの移動を認めるシュンゲン協定にも「オプトアウト」と言って加わっていませんでしたから、離脱の影響は、他の加盟国への波及、離脱ドミノが起こるかどうかにかかってきます。この意味では、グローバル化した地球社会のいたるところで抱えている問題の表面化で、アメリカ大統領選挙の共和党トランプ旋風や、民主党サンダース現象にも表現されています。地域統合も東アジア共同体も未成熟で、かつての国連中心主義も捨てて日米同盟に単線化し、ヘイトスピーチや日本会議が跋扈するこの国にとっては、他人事ではありません。
イギリスは、もともと新自由主義政治の発祥の地でした。第二次世界大戦後は「ゆりかごから墓場まで」のケインズ主義的福祉国家の代名詞だった国が、1979年サッチャー首相の誕生によって、「小さな政府」「規制緩和・自助努力」を標榜する市場原理優先の経済政策を採りました。しかも、フォークランド紛争ではアルゼンチン軍を武力で放逐し、「小さな政府の強い国家」となりました。アメリカのレーガン、西ドイツのコール、日本の中曽根首相等が、サッチャーに続きました。そこに、東欧革命・ソ連解体・冷戦崩壊で新自由主義が世界化し、今日のグローバル市場経済、金融為替政策を組み込みアジアを包摂したカジノ資本主義へと、変身していきました。EUは、マーストリヒト条約などで、一面アメリカ型市場経済の暴走、ドルの世界支配に歯止めをかけながら、域内には新自由主義を徹底し、北欧から中東欧へとモノ・カネ・ヒト・サービスの競争的自由移動を促進してきました。それが、イギリスから、ほころび始めました。モノ・カネと同じようには、ヒトは動かない、動けないのです。今回の国民投票には、先にパナマ文書にも出てきたキャメロン保守党政権への信任投票的意味合い、イギリス国内政治の中での「多様性の統合」の失敗への批判が含まれていました。本来の争点が隠され、単一争点にポピュリズムが動員される現象は、日本でも小泉郵政民営化選挙で経験済みです。
21世紀の初頭、とりわけ9.11以降の世界の民衆運動の合い言葉となった「もう一つの世界は可能だ」を掲げてきたATTACヨーロッパ・ネットワークは、声明を出しました。「われわれは、大企業の利益のために行動する非民主的機構に指図されるのにうんざりしてきた。われわれは、ヨーロッパ民衆の生活を金融市場の意思によって決められるのに飽き飽きしている。EU機構がヨーロッパ民衆の民主的要求に応えられなかったことによって、EUの歴史上かつてなかった危機が起きている。もしEUが根本的かつすぐに変わらないのであれば、崩壊してしまうだろう。……われわれはヨーロッパ民衆の怒りを理解する。悲惨な緊縮政策、侵食される民主主義、破壊される公共サービスによって、ヨーロッパは1%の(富裕層の)ための活動領域に変わってしまった。これは移民の責任ではなく、金融・大企業ロビーとそれに付き従う政治家の責任である。……われわれはまた、イギリスでより良い国のために闘っている人々やレイシズムと極右に反対して闘っている人々を支持する。より良いイギリスはより良いヨーロッパを励ますことができる。もうひとつのヨーロッパは可能だ。もしEUがより良いヨーロッパの一部になれないのなら、一掃されるだろう!」と。ハーシュマン経済学の用語では、exit(離脱・退出)の反対語は、voice(発言・告発)です。21世紀の世界史の暦に、9/11、3/11と共に、 6/23という日付が加わりました。
日本会議や電通に負けない選挙運動とメディア報道を!
2016.6.23 参院選挙が始まりましたが、7月2日(土)午後3時、早稲田大学16号館820室で、桑野塾の公開講演会が開かれます。メキシコ大学院大学の田中道子教授が来日して、「回想のルムンバ大学」という、1960年代のモスクワでの留学生活をお話になります。私も「『異国の丘』異聞ーープリンス近衛文隆抑留死の二つの謎」と題して、この間の講演「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」 の末尾、近衛文隆の1956年抑留死の死因と、末期の家族宛手紙に出てくる「夢顔さん」とは誰かの問題を、報告します。ロシアとソ連の文化にご関心のある方は、どうぞ。
2016.6.15 権力亡者・舛添東京都知事が、ようやく辞任しました。政治資金規正法疑惑に加えて、次々に明らかになる公私混同・公金私消の数々、なによりも、傲慢で自分勝手なウソとごまかし。メディアには、次の知事候補選びや世論の分析のみならず、真相究明の課題が残されています。四面楚歌での辞任も、参院選への波及をおそれる首相官邸の圧力があったからでしょう。7月参院選が、本丸です。各種世論調査結果や週刊誌の予想では、一人区すべてでの野党共闘成立にもかかわらず、与党勝利と出ています。しかしこれは、消費税増税を先送りし、ほころびの目立つ「アベノミクス」での景気浮揚を争点に設定した、自公与党の選挙戦術の効果。実際は、安保法制も沖縄も原発再稼働も争点からはずして、憲法改悪を可能にする参院3分の2の改憲議席獲得のための選挙です。憲法第9条と自衛隊の戦争参加こそが、隠された真の争点です。プロモーターも隠されています。舛添要一は自信過剰の一匹狼ですが、もう一人の権力亡者、無知で無恥な安倍晋三は、オトモダチに囲まれています。もちろん財界・官界・宗教界・マスコミも、安倍型「強い政治」の支持者により支配されています。2017年参院選の演出者として、日本会議と電通を挙げておきましょう。
かつて宗教法人「生長の家」は、初代総裁・教祖の復古主義的思想にもとづき、自民党の集票装置の一つで改憲運動の先鋒でした。その「生長の家」が、今夏の参議院選挙に対する生長の家の方針「与党とその候補者を支持しない」を公式に発表しています。<来る7月の参議院選挙を目前に控え、当教団は、安倍晋三首相の政治姿勢に対して明確な「反対」の意思を表明するために、「与党とその候補者を支持しない」ことを6月8日、本部の方針として決定し、全国の会員・信徒に周知することにしました。その理由は、安倍政権は民主政治の根幹をなす立憲主義を軽視し、福島第一原発事故の惨禍を省みずに原発再稼働を強行し、海外に向かっては緊張を高め、原発の技術輸出に注力するなど、私たちの信仰や信念と相容れない政策や政治運営を行ってきたからです>と明快です。<時間をかけて教団の運動のあり方や歴史認識を見直し、間違いは正すとともに、時代の変化や要請に応えながら運動の形態と方法を変えて>きた現在の「生長の家」は、2代目・3代目の総裁のもとで、<地球環境問題への真剣な取り組み><“脱原発”や“自然エネルギー立国”>を教義としています。絶対平和主義から出発した創価学会が、政権与党になって安倍自民党を支えていくのと、真逆の動きです。
現在の「生長の家」は、<組織としては政治から離れ、宗教本来の信仰の純粋性を護る>ことに専念していますが、なぜ安倍政権への批判を明確にしたのでしょうか? その理由は、<最近、安倍政権を陰で支える右翼組織の実態を追求する『日本会議の研究』(菅野完、扶桑社刊)という書籍が出版され、大きな反響を呼んでいます。同書によると、安倍政権の背後には「日本会議」という元生長の家信者たちが深く関与する政治組織があり、現在の閣僚の8割が日本会議国会議員懇談会に所属しているといいます。これが真実であれば、創価学会を母体とする公明党以上に、同会議は安倍首相の政権運営に強大な影響を及ぼしている可能性があります。事実、同会議の主張と目的は、憲法改正をはじめとする安倍政権の右傾路線とほとんど変わらないことが、同書では浮き彫りにされています。当教団では、元生長の家信者たちが、冷戦後の現代でも、冷戦時代に創始者によって説かれ、すでに歴史的役割を終わった主張に固執して、同書にあるような隠密的活動をおこなっていることに対し、誠に慚愧に耐えない思いを抱くものです。先に述べたとおり、日本会議の主張する政治路線は、生長の家の現在の信念と方法とはまったく異質のものであり、はっきり言えば時代錯誤的です>と「今夏の参議院選挙に対する生長の家の方針」は述べています。
この菅野完『日本会議の研究』は、『週刊朝日』によると、日本会議のルーツで事務局というべき右翼団体「日本青年協議会」は、70年安保の頃、左翼学生運動に対抗する民族派学生運動として出発し、「生長の家」の周辺に集う若者たちが牽引し、ついに今日、政治を陰で操るところまで来た。70年代後半に地道な活動を通して元号法制化を成功させた彼らはその後も同様の活動を続け、1995年の「村山談話」が発表される過程で横やりを入れ、2000年代には「保守革命」として「歴史認識」「夫婦別姓反対」「従軍慰安婦」「反ジェンダーフリー」をターゲットに定めた。安保法制の審議中、菅官房長官が名前を出した集団的自衛権を合憲とする3名の憲法学者も日本会議の息のかかった団体の役員だった、と要約されています。しばらく売り切れで入手できませんでしたが、ようやく手に入れて読んでみると、よく調べた読み物です。他にも類書が次々と出ており、参院選を前に、「アベ政治を許さない」運動の糧になるでしょう。同時に、自民党の選挙とメディア戦略全体を、グローバル広告代理店電通が担当していることに注目しなければなりません。
日本会議は、安倍政権のイデオロギー政策と、地方議会決議等草の根保守運動の裏方ですが、電通は、候補者選びから選挙ポスター、演説の小道具、テレビCMから討論会の出演者までを仕切ります。熊本大震災、アメリカ大統領選挙、舛添スキャンダルがワイドショーを埋めているあいだに、参院選が近づくと、パナマ文書の日本関係税金のがれや、東京オリンピック招致の2億円裏金疑惑が後景に退き、報道が少なくなっています。どちらにも、電通と与党政治家の関与が疑われます。その電通内部からも、ようやく、「総理もキャストのひとりに過ぎない」という内部告発が現れました。参議院議員選挙の政治舞台が、彼らによって仕切られているとすれば、野党は、それを見越した政策と運動を必要とします。学術論文データベ ースに、久方ぶりで、神戸の弁護士深草徹さんの寄稿。深草徹「安保法廃止のために」(2015.11)の延長上での「緊急事態条項と憲法9条・立憲主義」(2016.6)をアップ。日本会議に支えられた安倍政権の危険な道を読み解き、電通のメディア操作に負けない運動とジャーナリズム、何よりも自分自身の政治選択を決める一助に!
「幻の東京オリンピック」を繰り返すのか?
2016.6.1 世界の首脳の集まる G7 サミット中に、大きな地震があったらどうなるのかと心配していましたが、気象庁HPの記録を見る限りでは、熊本・大分地方はやや落ち着いてきたようです。しかし、地震予知技術は、未完成です。南海トラフでマグニチュード(M)8〜9級の大規模地震が30年以内に起きる確率は70%をはじめ、いつどこで大震災になってもおかしくないのが、地球生態系の中におかれた日本列島の位置です。熊本は「大震災」に認定されませんでしたが、この国の首相は突然、現在の世界経済を「リーマンショック級の危機前夜」と言い出して、自らの「アベノミクス」の失敗を、国際環境のせいにしました。それも、日本で開かれたG7サミットでの議長国としての公式発言です。伊勢志摩サミット開幕3日前の関係閣僚会議「月例経済報告」では、「景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」「先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される」と楽観的な見通しを示していたばかりでしたから、各国首脳が驚き、たしなめたのは当然です。世界のメディアも、「安倍晋三の無根拠なお騒がせ発言」(ル・モンド)以下、失笑・冷笑の扱いです。もちろん、前回衆院戦の勝因になった消費税増税(延期)を、「リーマン・ショック並みの経済危機」あるいは「東日本大震災級の大災害」が起らない限り実施と公約してきた手前、作成者不明の資料をもとに、国内事情で「リーマン・ショック」をもち出さざるを得なかった魂胆が、見え見えです。さすがにサミットでの認証は得られませんでしたが、国内向けには一人歩きして、東京オリンピックが近づく2年半後まではあげない方向で与党の調整が進み、もともと民進党以下野党も増税延期を主張していましたから、7月参院選の争点から、フェードアウトしていきそうです。6.1首相記者会見では、「新しい判断」とか。唖然。「首相の品格」を争点にしなければ。
にもかかわらず、というべきか。サミット直後の安倍内閣の支持率は、日経と共同が56%、産経・FNNも55%、と軒並みアップ、「野党は共闘」が進んでも民進党ほか野党勢力全体の低迷があり、このままでは7月参院選は与党の勝利です。しかも、その支持率アップの理由は、米国オバマ大統領のヒロシマ訪問を90%以上の世論が歓迎し、「安倍外交」が評価されているようです。「サミット効果」というより「オバマ効果」です。私も、アメリカ大統領が広島を訪れたことは、よかったと思います。短時間ですが原爆資料館に立ち寄り、被爆者代表と会ったことも、歴史的には意味があります。アメリカばかりでなくヨーロッパやアジアでも、「原爆投下がなければ日本はまだ戦争を続けただろう」という知識人に何人も会いましたから。核戦争の脅威は、戦後70年たっても、広く認められているわけではありません。そのうえ日本人として広島・長崎を語ると、特に韓国・中国では、満州事変から南京虐殺、従軍慰安婦、731部隊などについての、日本政府・国民の「戦争の記憶」の説明と「謝罪」を求められることが、しばしばです。ですからオバマ米国大統領が、「10万人を超える日本の男性、女性、そして子供、数多くの朝鮮の人々、12人のアメリカ人捕虜を含む死者を悼む」「私たちは、この街の中心に立ち、勇気を奮い起こして爆弾が投下された瞬間を想像する。私たちは、目の当たりにしたものに混乱した子どもたちの恐怖に思いを馳せる。私たちは、声なき叫び声に耳を傾ける」「1945年8月6日の朝の記憶を決して薄れさせてはなりません。その記憶があれば、私たちは現状肯定と戦えるのです。その記憶があれば、私たちの道徳的な想像力をかき立てるのです。その記憶があれば、変化できるのです」と述べたのは、世界の人々に対して、それなりの説得力を持ちます。ただし、「71年前の明るく晴れ渡った朝、空から死神が舞い降り、世界は一変しました」「この空に立ち上ったキノコ雲の映像を見た時、私たちは人間の中核に矛盾があることを非常にくっきりとした形で思い起こす」といったレトリックには、米国政府の原爆投下の責任、キノコ雲の下の悲惨を薄める、という批判がありうるでしょう。慎重に練られた抽象性です。被爆者の中から疑問が出たのも、当然でしょう。何よりも、「私の国のように核を保有する国々は、勇気を持って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません」と言いながら、そのスピーチのすぐそばに、いつでも核戦争を起こしうる黒いブリーフケース、「核のボタン」があったことを、見逃すことはできません。ノーベル平和賞を受賞したプラハ演説「核なき世界」以降も、核軍縮は進まず、オバマ大統領の任期切れ前であることを考えれば、被団協理事長の感激と期待は、またしても裏切られる可能性大です。
オバマ大統領が、広島に到着する直前、岩国基地で米兵・自衛隊員を相手に行った演説は、米国軍総司令官として日米同盟と米軍基地の重要性を述べたものでした。背広を脱ぎ、リラックスした、無論沖縄での元海兵隊員の犯罪や地位協定への言及はない、ハッピーな演説でした。その1時間後の広島での厳粛な振る舞いが、まるで嘘のようです。こうした核使用の「謝罪」や国際法に触れない演技は、どうやら日米合作のようです。何しろ国連加盟国の約7割が賛成している核兵器禁止条約に、日本政府は「時期尚早」として、核保有国アメリカの側に立ち、長く反対ないし棄権を続けています。アメリカの「核の傘」に頼り、3/11福島原発事故後も「潜在的核保有」としての原発を保持し、再稼働まで始めたために、かつての「唯一の被爆国」というシンボルは、国際社会ではすっかり色あせました。そのうえ中国・インドなどアジア諸国の経済発展で、国際競争力を弱め、先進61カ国・地域のうち26位というのが、日本の現実です。もともと日本のメディアの狂騒とは裏腹に、G7サミットそのものが世界的重要性を失い、儀礼化する中で、日本は、アメリカとの同盟以外の選択肢を失いつつあります。
その現実に埋没し、追従しながら、特定秘密保護法・集団的自衛権・安保法制を強行し、いままた参院選で改憲勢力を絶対多数にしようとするのが、安倍政権です。軍事化・ファシズム化の危機です。オバマ演説を評価する90%以上の人々、安倍外交を評価し内閣支持率5割を復活させた人々に、丁寧に歴史を語り、日本国憲法の意義を説く必要があります。もっとも、本来社会保障財源にまわるはずだった消費税増税の先送り、高齢化、非正規雇用、生活難の増大によって、アベノミクスに幻想を持った人々の眼も、厳しくなっています。桝添東京都知事の公金私消・政治資金疑惑や、TPPの立役者甘利前経済再生担当相の現金授受には、世論も敏感に反応しています。パナマ文書の日本関係税金のがれ、東京オリンピック招致の2億円裏金疑惑解明は、現在進行形です。特に、電通が介在した後者は、フランス検察とジャーナリズムの検証次第では、参院選にも影響を及ぼし、2020年「東京オリンピック中止」さえ、ありえないことではありません。1940年の「幻の東京オリンピック」が、そうでした。紀元2600年記念祭・東京万博とセットで開催が決まっていたのに、ナチス・ドイツとの同盟に肩入れし、日中戦争泥沼化で、2年前に返上・中止を余儀なくされました。アメリカ大統領選挙の帰趨によっては、日米同盟そのものも危うくなります。「いつかきた道」は、国際社会での孤立、従属的軍事同盟強化、国内排外ナショナリズムの高揚によって、もたらされます。詳しくは、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻+補巻(国書刊行会)への私の監修者解説「幻の紀元2600年万国博覧会ーー東京オリンピック、国際ペン大会と共に消えた『東西文化の融合』」、及び、新規にアップした三浦英之『五色の虹ーー満州建国大学卒業生たちの戦後』(集英社)への書評「『五族協和』の内実を追う」(平凡社「こころ」30号)を、ご笑覧ください。
安倍政治を演出する日本版戦争広告代理店?!
2016.5.15 気象庁HPの記録を見ると、5月になっても熊本では、ほぼ毎日震度3以上の地震が続いているようです。昨14日にも、震度3以上が2回、いまなお避難生活を送る1万人の人々の不安は、いかばかりでしょう。住宅被害が8万戸以上なのに仮設住宅は千戸が着工したばかり。農林水産業の被害は1300億円以上、どこかで聞いたことのある金額だと思ったら、例の新国立競技場建設の当初予算額でした。熊本・大分の断層から中央構造線に沿った延長上にある川内原発が一時停止もせず、伊方原発を再稼働しようとする安倍内閣・原子力規制委員会の無責任、「原子力村」の「安全神話」継続には驚かされますが、本間龍さん『原発プロパガンダ』(岩波新書)を読んで、納得できました。 「原子力村」にとって「安全神話」は存立根拠の一つであり、スリーマイル島やチェルノブイリの事故が起こるたびに、論理を修正して原発必要論を説き、巨額の広告宣伝費が投じられて肥大化してきました。5年前の福島原発第一事故後も、「エコノミーベストミックス」に論拠をおいて、再稼働を推進し復活させようとしているのです。
本間さんの研究は、原発推進広告の歴史的展開を、地方紙を含めた新聞ごとの電力会社等の広告段数や宣伝手法まで具体的に分析して有益ですが、その中核にあるのが、巨大広告代理店、電通です。本間さんは、「電博」とよばれる第二の広告代理店・博報堂出身で、原発広告の作り方・出し方にも精通していますから、説得力があります。「原子力村」の電力企業・メディア・立地自治体の結節点に広告代理店をおき、クローズアップした点が出色です。you tubeでの対談では、その電通が、自民党政治家の子弟が二世・三世議員になる前の腰掛け就職先だとも述べています。どうも、原発再稼働に限らず、現在の安部晋三政治の陰で、かつて高木徹さんが明らかにした戦争広告代理店の日本版が形成され蠢いており、改憲から対外戦争への道をも演出しプロパガンダしている形跡がみられます。
その一つが、いまや世界を揺るがしているICIJのパナマ文書に出てくると、日本のネット上で話題の「DENTSU SECURITIES INC」(英領バージン諸島)の話。朝日新聞は、電通とは関係なく「風評被害」という電通広報担当の話をそのまま報じていますが、なにしろ電通広告に大きく依存した大新聞の報道ですから、説得力に欠けます。もう一つの「NHK GLOBAL INC」(パナマ)と共に、徹底的に調べた調査報道を期待します。多くの読者は、たんに電通(やNHK等々)が税金逃れにタックスヘイブンを使っているのではないかという疑問ばかりではなく、そもそも日本関係で有力政治家の名前や巨額脱税・節税事例が出てこないこと自体に、メディアの電通依存による調査自粛と報道自主規制があるのではと疑っているのですから。名前の挙がった加藤康子内閣官房参与の件も、追及不十分です。加藤勝信一億総活躍相の義姉、ユネスコ世界遺産の「明治日本の産業革命遺産」登録を推進した安倍首相のオトモダチの一人で、従軍慰安婦や南京大虐殺問題でも暗躍する対ユネスコ・中韓情報戦担当のようですから。
日本のパナマ文書報道を半信半疑にする事例が、東京オリンピックに関わって、出てきました。開催主体である舛添要一東京都知事の高額海外出張・公用車私物化や政治資金・公金私消も大問題で、早くも7月衆参同時選挙と一緒の東京都知事再選挙の可能性まで永田町では流れていますが、電通が関わるのは、もっと大きな問題です。「2020年東京オリンピックの招致委員会から国際オリンピック委員会(IOC)関係者に多額の現金が渡ったとされる問題で、フランス検察当局が金銭授受を確認した」というニュース。JOC会長も、シンガポールのコンサルタント会社「ブラックタイディングス」への二億二千万円以上の振り込みを認め、「当時の事務局で招致を勝ち取るには必要な額」と弁明しています。日本の大新聞報道に出てこないのは、これを世界に配信した英紙『ガーディアン』原文に、金の流れを示した右の図にまでちゃんとDentsu と名前の出ている「Athlete Management and Services(AMS), a Dentsu Sport subsidiary based in Lucerne, Switzerland」の話。『ガーディアン』紙記者による電通広報部取材とその否定談話もでてきますから、報じてもよさそうなのに、大新聞やテレビは報じません。だからこそ、パナマ文書報道も疑われるのです。国境なき記者団の「報道の自由度ランキング」で2010年の11位から先進国最悪の72位に転落したのもむべなるかな。リオオリンピックを目前にしたブラジル政治の混迷は、他人事ではありません。報道・言論の自由の萎縮と劣化にともなって、日本会議を裏方にした安倍政治も、電通に従属したメディアも劣化して、日本の政治は、市民の批判と抵抗が弱まると、危機的局面に入ります。
安倍内閣の災害便乗型「ショック・ドクトリン」にご注意!
2016.5.1 熊本県・大分県の群発地震は、まだ続いています。最初に予測できず「前震・本震」としたものが、北東阿蘇・大分方向(伊方原発)へ、南西八代・鹿児島(川内原発)方向へと新たな地震を誘発し、気象庁HPの記録を見ると、震度1以上はすでに1000回をこえ、4月29日にも、大分県中部で震度5強の地震がありました。すでに家屋の倒壊被害は阪神・淡路大震災をこえ、なお2万6000人が避難所生活。連休でボランティアの市民が多数入っていますが、余震・倒壊・地滑りをおそれながらの、苦難の日々が続きます。4月24日投票の衆院補選への効果のタイミングを狙ってか、激甚災害指定はなぜか引き延ばされましたが、いまだに「大震災」とは認定されていません。たぶん消費税引き上げのタイミングに関わる、安倍内閣の思惑でしょう。被災者の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
私の地震学の友人は、元大学新聞の先輩・島村英紀さんぐらいですが、その活断層の定義の曖昧さ、中央構造線上で初めて体験した巨大地震、火山噴火と大地震の関係等の指摘には、説得力があります。わからないことはわからないとして、「想定外」に備えるべきだといいます。雄大な自然の営みを前にした、科学者の謙虚さを感じます。それに対して、原子力規制委員会の田中俊一委員長の態度。「科学的根拠がなければ」と一見独立性・中立性を装いながら「国民や政治家が止めてほしいと言ってもそうするつもりはない」「いまの熊本地震がどういう進展をするかについて不確実性があるということは承知していますが、その範囲でどういう状況が起こっても、いまの川内原発については、想定外の事故が起こるというふうには判断していません」。文部科学省が世界水準を推奨する日本の自然科学は、5年前のフクシマから、いったい何を学び得たのでしょうか。
社会科学・人文科学の世界には、ようやく災害社会史や「災害ユートピア」「エリート・パニック」(レベッカ・ソルニット)、「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義、ナオミ・クライン)などの研究が、定着してきました。熊本大震災についても、現在進行中です。「エリート・パニック」後の「ショック・ドクトリン」には、平時の重要な争点をそらして政治を災害対応に集中させ、その争点そのものをエリートに有利な方向で忍び込ませ、変容させる作用があります。熊本での「前震」段階から官房長官が憲法への緊急事態条項挿入を示唆し、自衛隊の大量投入、米軍オスプレイ出動などが進められたのも、その事例です。与党候補苦戦が言われていた衆院北海道5区補選での、千歳・恵庭における自衛隊関係票動員による辛勝も、熊本大震災と無関係とは思われません。シリア内戦も、パナマ文書も、アメリカ大統領選挙も、情報戦の後景に退きました。かのNHKは、地震に便乗した原発安全神話の再構築。そして自衛隊の「国土安全隊」風活動映像、北海道での野党共闘敗退を見計らっての、安倍首相の正面突破作戦。憲法9条について曰く、「(自衛隊を)憲法学者の7割が『違憲だ』と言っている状況のままでいいのかということに真剣に向き合わなければいけない」と述べて、改憲を改めて争点化。5月3日は憲法記念日。まずは前文から音読して、「ショック・ドクトリン」への抵抗力をつけましょう。
パナマ文書から見えてくる新自由主義の闇
2016.4.17 熊本大震災の被災者の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。まだ20万人近くが厳しい避難所暮らしですが、稼働中の川内原発は、本当に「異常なし」でしょうか。16 日未明におきた「本震」の規模、午前10時現在の報道では、気象庁HPはマグニチュード7.1、日本のテレビ・新聞報道は7.3、米国CNNは7.0、コンマ2違うとエネルギーは2倍といいますが、いったいどれを信じたらいいのでしょうか。 記者発表はM7.3に統一されたようですが、「前震・本震・余震」という流れは想定外で、しかも阿蘇と大分の地震は別の震源だと言います。大きくは西日本全体を貫く中央構造線に沿った九州の活断層がひずみ集中帯上にあり、熊本で溜まっていたエネルギーを放出し、北東方面に震源地が移動して阿蘇・大分の地震を誘発し、八代など南西方面でも活性化してきたそうです。北東の延長上に伊方原発があり、南西に移動すると稼働中の川内原発に近づきます。川内原発の耐震対策は「震源距離10km圏内でマグニチュード6.8を想定、最大加速度は620ガル」で、免震重要棟も作らず動き始めました。ところが今回14日の「前震」震源地益城町では、マグニチュード6.5で、上下動1399ガルを記録したとのことです。安倍内閣は、あの丸川環境相と原子力規制委員会に、原発の判断を委ねる無責任。その一方で、自衛隊2万5000人に加え、米軍に要請して問題のオスプレイを被災地支援に投入。世界中が心配しています。日本は、あの3/11から、何を学んだのか、と。
2016.4.15 4月の新学期に入って、情報戦の超弩級爆弾が飛んできました。世界のジャーナリストが解析中の、パナマ文書です。日本の新聞報道・ウェブ情報も多数ありますが、まずは、Google に panama papers と入れるとすぐ出てくる、ICIJ (TheThe International Consortium of Investigative Journalists, 国際調査報道ジャーナリスト連合)の"THE PANAMA PAPERS" サイトに直行しましょう。モサック・フォンセカ社Mossack Fonsecaへのパナマ警察捜索など最新のニュースを眺めて、中央の "The Panama Papers: An Introduction" を見てみましょう。"VICTIMS OF OFFSHORE"と題する、動画です。この調査報道の目的が、たんなる政治家・大企業・著名人の課税のがれにとどまらず、一握りの財産亡者の脱税・マネーローンダリングの陰でおこなわれる、戦争・兵器・麻薬ビジネス、人身売買、児童労働、売買春、飢餓と貧困と格差を浮き彫りにするものだと出てきます。各国語版字幕入りが早くもyou tube に出ましたから、英語の苦手の人も、そちらからどうぞ。そして、"reporting partners" としてトップに出ているのは、パナマ文書を最初に入手してICIJの世界のジャーナリストに提供した南ドイツ新聞に加えて、イギリスの高級紙ザ・ガーディアンと公共放送BBC。報道の信頼性を担保します。80カ国以上、100社以上の約400人のジャーナリストが解析に加わっています。その下の"The Power Players"の頁をクリックすると、Panama Papers に登場する世界の著名人たちが、イラスト入りで数十人。 各国の首脳にアラブの王様、その家族・親族・友人らが出てきます。すでにアイスランドの首相が辞任に追い込まれ、イギリス首相もピンチ、大国ロシアと中国のトップは火消しに大わらわ。底知れぬ闇の世界の一端が明るみに出ています。トップページの1番下に "LEAK TO US: ICIJ encourages whistleblowers to securely submit content that might be of public concern". つまり、内部告発歓迎の通報窓口がついています。
パナマ文書は、早くもウィキペディアにも立項されましたが、モサック・フォンセカ法律事務所が1970年代から2016年初までに作成した、合計2.6TBの1150万件の機密文書で、21万4488社のオフショア法人に関する情報が含まれているといいます。Wikipediaでは、日本語版ばかりでなく、すでに数十の言語で立項されましたから、英語版・中文版ほか、いろいろな言語での反応をみることができます。すると、日本とアメリカの反応が、世界的にみれば鈍いことが見えてきます。アメリカは、大統領選の真っ最中で、トランプやクリントンの関係者がまだ出てこないということでしょう。ただし、CIAの諜報活動・陰謀工作の資金洗浄・出所隠しに、タックスヘイブンが使われていたようです。いや、今回のヒーロー ICIJ 自体が、CIAや米国政府機関、ソロスの「オープン・ソサエティ財団」などと間接的に関わっているという報道もあります。 日本については、400の個人・企業が関わっているといいますが、セコムとか兵庫県の医師とか、まだ断片的な報道です。大物政治家はいないといいますが、まだわかりません。なにしろパナマ文書そのものが膨大で、解読の最中ですから。一部の報道では、日本の大企業・銀行、というより多国籍企業は軒並み名が出ているといいます。何よりも、この間日本の小泉・安倍政治、自民党劇場政治を演出してきたグローバル広告代理店・電通が入っているようですから、大企業の広告・スポンサーがらみで、テレビ・大新聞は慎重にならざるをえないでしょう。かのBBCとは大違いの、籾井NHKは、もちろんのことです。
この問題も、週刊文春・週刊新潮に期待するしかない、悲しき日本のジャーナリズムになるのでしょうか。共同通信・朝日新聞などICIJの解読に加わっている記者もいるようですから、日本の調査報道の試金石として、注目しましょう。日本のパナマ文書報道は、プーチン・習近平のスキャンダル、北朝鮮の核ビジネスにシフトしていますが、資料の出ている時期は、1970年代からバブル経済、日本企業の多国籍化と生産拠点流出・空洞化、何よりもグローバルな新自由主義勃興、金融工学とIT技術に依拠した金融資本支配=カジノ資本主義の台頭、冷戦崩壊、ソ連・東欧社会主義崩壊・自由化、湾岸戦争・9/11・アフガンイラク戦争、1987年のブラック・マンデーから1997年アジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックなどに及んでいますから、周期的な金融危機下での資本の歴史的動きを見るにも、格好の材料が含まれているでしょう。原発関連企業や、武器密売の痕跡もありえます。政治学者ばかりでなく、経済学者・財政学者の出番です。メッシ選手、FIFAの元事務局長他サッカー・ビジネスも文書にあり、欧州チャンピオンズリーグ本部にはスイスの捜査当局が入りました。スポーツ社会学や文化経済学にも、貴重な素材になるでしょう。この間、文部科学省は、日本の社会科学・人文科学が役に立たないといわんばかりのバッシングを繰り返してきました。ジャーナリストはもちろんですが、日本の社会科学者・人文科学研究者も、タックス・ペイヤーと社会的弱者の視点から問題を解明し、言葉の正しい意味での社会貢献、社会的有用性を、国民に示そうではありませんか。
こんな日本に、誰がした?
2016.4.1 数週間日本を離れていたあいだに、風景が変わったように感じられます。戦争法=安保法制が施行されて、自衛隊の海外派遣・戦争参加が可能となりました。3.11五周年なのに、原発再稼働はすでに実施され、東日本大震災・福島原発事故の教訓は政治に生かされていません。むしろ、安全保障からもエネルギー政策からも、ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマの体験に眼をつぶり、日本の核依存を強める方向でのバックラッシュが進んでいるように見えます。寒い季節から桜満開への自然の営みと平行して、新たなる戦前、言論統制社会に忍び寄っている気配が感じられます。3・11関連のニュースを見るつもりで録画予約していた「クローズアップ現代」はいつのまにか終了して、女子サッカーの試合が映っていました。ニュースショーのキャスターも、変わったようです。今日から生活必需品や医療費の値上げ、政局では消費税率アップの延期を口実にした衆参同時選挙の可能性が強まり、首相の口から憲法明文改正の意向が繰り返されています。それなのに、世論調査では、内閣支持率・自民党支持率がアップ、野党再編・選挙共闘への期待は薄く、アベノミクス期待の幻想は残ったままです。北朝鮮の核を脅威と見てか、既成事実化された戦争法の容認も増えていて、このまま衆参同時選挙に入れば、安倍政権与党勝利の公算大です。4月24日投票の衆院北海道5区補選の結果が、政局にどう響くか、注目です。
パリに続くブリュッセルの都市テロ、トルコでもパキスタンでも続く自爆テロ、ベルギーでは原発が標的になったことも明るみに出て、世界中が暴力と不安と恐怖にさらされています。ヨーロッパへの流入が続く難民、オリンピックを控えたブラジルの政情不安、中国の景気停滞と民衆暴動、中東、ウクライナ、南シナ海にも火種は充満しています。それらに対する「抑止力」が、米国との核軍事同盟と自国の防衛力強化というのが安倍内閣の選択ですが、それは同時に、戦争とテロの標的になる蓋然性を高めます。暴力と抑圧が常態化してくると、言論文化の自由が狭まります。宣伝と煽動の情報操作が強まります。新聞・出版物から電信・電話・ラジオ、映画・テレビからインターネットへと情報媒体=メディアが広がっても、その内容=メッセージが画一化されると、民衆のイメージ・夢、身体の動きと仕草にまで支配が浸透していきます。世論が「美しく強い国」や「強力な指導者」を求めるようになります。ジョージ・オーウェル『1984年』の描いた世界です。一見いつもと変わらぬ日常生活世界も、自由に交信できるソーシャル・ネットワークの世界も、ちょっと外界から眺めて見ると、萎縮しつつあるように感じられます。
外から日本を眺めたのが、アメリカ合衆国であったことが、こんな気分にさせたようです。彼の地の方は、大統領予備選の真っ最中。共和党のトランプ旋風は、止まりません。イスラム教徒の入国禁止からメキシコ国境の壁、ISへの核使用に堕胎女性の犯罪視ーー言いたい放題のヘイトスピーチが、格差社会の白人貧困層の「強いアメリカ」願望に結びつき、代議員数を増やしています。ワシントンDCのエスタブリッシュメントは、はじめは冷たくあしらっていたのに、どうやらホンモノになりつつあるので大慌て。もともと極右のクルーズ候補への保守票集中もままならず、夏の党大会までもつれこみそうです。一方の民主党は、日本の報道ではヒラリー・クリントン圧勝を既定の道としていますが、ダークホース・サンダース候補の健闘こそ、アメリカ大統領選のもう一つのドラマです。特に大学生など若い人々や知識人層には、民主社会主義者と自称するサンダースへの期待が結構あります。特別代議員制度で最終的に大統領候補がヒラリーになるにしても、民主党の選挙政策、共和党との対立点づくりに、サンダースの善戦は確実に刻印されそうです。現地で意外だったのは、初の女性大統領になりうるヒラリー・クリントンの女性の中での不人気。トランプやサンダースの支持層にとっては、ヒラリーは、既成エスタブリッシュメントの代表、格差社会の頂点にある1%の特権階級です。オキュパイ・ウォールストリート(OWS)の活動家たちが、サンダースを草の根で支えています。こうした米国二大政党の変調に右往左往しているのが、日本大使館をはじめとした在米日本人社会。日米安保を揺るがすトランプの過激な発言に眉をひそめても、いまや中国の台頭によって影響力も存在感も示し得ないもどかしさ。安倍首相の頼る日米同盟も、所詮は日本の片想いで、ホワイトハウスの動向に左右されます。こんな日本にしたのは、いったい誰なんでしょうか。
3・11から5年、何が変わったのか?
東日本大地震・大津波から立ち上がりつつある被災者の皆様、福島原発震災の放射線被ばく・避難者の皆様に、心からお見舞いし、敬意を表します
2016.3.2 今年も、3月11日がめぐってきました。東日本大震災の傷跡は、私の故郷岩手県の沿岸部には、まだまだ残っています。一時のボランティアによる復興支援もほとんどなくなって、家族だけでなく、家も財産も近隣コミュニティも失った被災者が、文字通りの自立に向けて、懸命に努力しています。何よりも悲惨な、福島第一原発事故の後遺症。避難を続ける人が、まだ10万人近くいます。仮設住宅の多いいわき市では、避難者への住民差別も大きな問題になっているとか。ヨーロッパ難民問題のミニチェア版が、日本国内にも生まれています。2月24日に、東京電力から驚くべき発表がありました。「東京電力は24日、福島第1原発事故当時、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)の判断基準を定めたマニュアルがあったにもかかわらず、誰も気づかなかったと明らかにした。この基準に従えば、2011年3月14日早朝には1、3号機で炉心溶融が起きたと判断できていたが、東電は当時、『判断基準がない』との説明を繰り返し、炉心溶融を公式に認めたのは事故から約2カ月後の同年5月だった」(毎日新聞)。しかもこれは、柏崎刈羽原発がある新潟県から事故の経緯の説明を求められて、当時の記録を再点検して見つけられたもの。事故が「想定外」という当時の説明が真っ赤な嘘であり、「安全マニュアル」が全く機能していなかったことを、5年たった今頃になって、認めたことになります。着の身着のままで故郷から放り出された、福島県民の怒りはいかばかりでしょうか。平和アピール7人委員会の「『フクシマ』の教訓を忘れたのか!」と題するアピールが、この5年の意味を重く問いかけています。
検察審査会が起訴相当と認めた東電の当時の勝俣会長、武藤・武黒両副社長の東京地裁への強制起訴が、29日にようやく決まりました。これから東電の刑事責任が問われることになりますが、この5年で新たにわかった事実や問題も多いですから、時間がかかっても、社内資料を全部提出させ、厳格で公正な司法判断が求められます。民事の「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」結成と相まって、5年前の歴史的国家犯罪を裁く、歴史的な法廷にしたいものです。もっとも現実政治の方は、震災・事故時の民主党政権のふがいなさに悪のりした、自公安倍内閣によるバックラッシュが軒並みです。九州電力川内、関西電力高浜と、原発再稼働が始まりました。再稼働したばかりの高浜4号機は、早くも「レベル4」の緊急停止。美浜原発ではヘリコプターで運搬中の機材800キロ落下。40年を越えた原発も、動き出しそうです。そればかりか、安倍内閣と懲りない原子力ムラは、経済再建の要に原発輸出を位置づけて、フクシマなどなかったかのように、国際社会への売り込みに懸命です。あの東京オリンピック開催決定時の安倍首相の「アンダーコントロール」のウソが、そのまま世界に発信され、垂れ流されています。エネルギー政策全体も、原発再稼働を前提としたものとなり、再生可能エネルギーへの切り替えは、遅々として進みません。原発再稼働と沖縄への米軍基地提供を続けるために、特定機密保護法、集団的自衛権容認の戦争法、さらにはメディア統制から憲法改正への国内体制の反動化・ファッショ化が、進行しています。この5年間の日本政治は、3・11前の第一次安倍内閣の醜態をなかったかのようにつくろいながら、かつての原子力ムラの復活・再編を許した屈辱の時期と記録されるのでしょうか。それとも、少なくとも国民世論の中で脱原発派が拡大し、金曜デモや経産省前テント村が粘り強く続けられて法廷闘争へとつながった覚醒期となるのでしょうか。フクシマの原子炉の内部は、いまだにロボットさえ入れない未知の被爆スポット。何十年・何百年の人類史の、転換点にしなければなりません。
更新を1日遅らせました。3月1日は、アメリカ大統領予備選のスーパー・チューズデー。時差の関係で、テキサス共和党の動きが気になり、待ちました。どうやらテッド・クルーズが、地元でドナルド・トランプを辛うじて抑えたようです。もっとも3州を押さえたクルーズも、共和党の極右派。民主党は、本命ヒラリー・クリントンが順調ですが、バーニー・サンダースは、地元バーモント州のほか、オクラホマ、コロラド、ミネソタの4州を取りました。クリントンも、学生ローンの問題など、サンダースの政策をとりあげざるをえなくなってきています。実は今週末から、私自身がアメリカ。日本の3・11五周年を身近に見られないのは残念ですが、15日のミニ・チューズデーほか、米国の流れは体験できます。1988年のボストン滞在時から、米国大統領選は折々に見てきましたが、今年の大統領選は、民主党も共和党も、いつもとは異なる展開。民主党は、本命ヒラリー・クリントン前国務長官に、格差社会を批判し弱者と若者の味方の「民主的社会主義者」サンダース候補が善戦しています。Occupy Wall Street の街頭での運動と問題提起が、合衆国の政治舞台に正面から登場し、若年層が先行世代に要求を突きつけている状況。大学奨学金の返済問題は日本でも深刻ですから、他人事ではありません。予想外なのは、共和党のトランプ旋風。人種差別とヘイト・スピーチの連発がかえって支持を広げる、異様なショービニズム、ポピュリズムです。20世紀のパクス・アメリカーナの崩壊、9/11以後のアメリカのヘゲモニー衰退のなせるわざですが、この国も転換期であることは事実です。というわけで、次回更新は4月1日にします。
構造的腐蝕・犯罪は、歴史により裁かれる!
2016.2.15 甘利経済再生大臣辞任のニュースに合わせたような、アベノミクスのバズーカ砲、黒田日銀総裁のマイナス金利導入は、裏目に出ました。株価はあっという間に1万5000円割れ、円は一時110円まで上がりました。誰も想定外の、グローバル市場の動きです。いや前回紹介した金子勝・児玉龍彦さんの新著『日本病ーー長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)の診断を延長すれば、人為的なマネー垂れ流し政策の効果に限界がきて、麻薬が効かなくなって副作用が表に出てきたと言うことでしょう。長期的には構造的な世界金融危機への対応の稚拙ですが、短期的には、中国経済にも、原油安にも、ドイツ銀行や欧州危機にも責任転嫁できない、安倍内閣と黒田日銀の失政です。為替も株価もまだまだ動くでしょうが、私たちに直接関係あるのは、むしろ実質賃金4年連続のマイナスとGDPマイナス成長の景気後退、トリクルダウン理論の破綻です。折から国会では、支持率回復と戦争法反対運動の息切れに乗じた安倍首相の9条2項改憲の決意表明、かつてならこれだけでも大問題になるところですが、甘利大臣に続いて遠藤スポーツ大臣の口利き疑惑、高市総務相は放送法を歪めて気に入らない番組の電波停止宣言、法がわからず答弁不能の岩城法相、丸川環境相は福島県民の不安を逆なでする被曝線量無責任発言、島尻北方領土担当大臣は担当する焦点の歯舞を読めず、 そういえば宮崎イクメン議員の不倫は議員辞職になったが、高木下着泥棒復興大臣は居座ったまま。野党の追及点はいくらでもあるのに、与党絶対多数議席のもとで暖簾に腕押し、ふがいない政治と政治家の劣化、スキャンダルというより、構造的腐蝕です。
米英の報道さえ「ロケット」となっているのに、なぜか日本のマスコミは「事実上の長距離弾道ミサイル」と一斉に報じた、北朝鮮の核実験に続く自称「人工衛星」打ち上げ。確かに米国東海岸まで核弾頭を搭載すれば「ミサイル」になるという点では正しいのですが、かつて「飛翔体」などとよんできたものに、日曜なのに首相以下政府が素早く動き、石垣島にPAC3を配備したものものしい体制を見ると、どうやら自民党改憲草案にいう「緊急事態」の予行演習と「有事」宣伝の情報戦だったようです。北朝鮮が国際的に非難されるのは当然ですが、そもそもロケット開発そのものが、核開発と一体の軍事技術であったことを振り返れば、宇宙ロケット・人工衛星は「平和利用」で、ミサイルは「軍事利用」という使い分けそのものが、情報戦です。まもなく福島原発事故から5年、終わりなき核被害を経験しつつある私たちは、核についての「原子力の平和利用」=「原爆反対・原発推進の論理」と併せて、核運搬手段として開発・推進されてきたロケットや宇宙開発技術の「軍民両用」「中立性」にも、疑いの眼を向けるべきでしょう。どちらも第二次世界大戦期の米英原爆製造「マンハッタン計画」に始まります。学術書としては鈴木一人さん『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)ぐらいしかありませんが、米英のナチス核技術者監視・獲得計画、アルゾス作戦からペーパークリップ作戦まで追いかけてゆくと、ナチスV2ロケット開発者ヴェルナー・フォン・ブラウン博士の戦犯訴追を免責したアメリカ移住、「米国宇宙開発の父」へと転身する歴史が、刻印されています。アメリカ留学中にマンハッタン計画下でミサイル開発に動員された中国人科学者銭学森博士は、戦後マッカーシズムにより5年間軟禁されましたが、55年に朝鮮戦争の米軍人捕虜と引き換えに中国に帰還し、中国の核開発とミサイル開発の双方をリードして、今では「中国宇宙開発の父」とよばれます。日本の本格的な「原子力の平和利用」と糸川英夫博士のロケット開発は、なぜか1955年頃に一緒に始まり、共に予算規模の巨大な科学技術庁の管轄におかれてきました。「事実上の長距離弾道ミサイル」が、「事実上の核兵器開発」と一体だったのは、どこかの国だけの話ではありません。
入学試験の季節です。昨年大きな問題になった明治大学法科大学院教授の司法試験問題漏洩事件は、すでに有罪判決が確定しています。ところが今頃になって、実は通常講義の中でも試験問題を受講生全体に教えていたという新たなニュース。司法の問題として決着しても、歴史の問題としては書き換えられていく一例です。5回目の「あの日」を前に、福島第一原発の被災者たちが、国や東電に損害賠償を求めて、「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」を結成しました。1月発足の「福島原発刑事訴訟支援団」と、21原告団1万人の民事訴訟が一つになり、21世紀の一大国家犯罪を刑事・民事双方で司法的に裁く、原告側の体制が整いました。これから長い長い、事実の全体的解明が始まります。国書刊行会から、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻+補巻が刊行されました。高価な本ですので、監修者の私の解説のみ、本サイトにアップしておきます。昨年現代史料出版から刊行した加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻についても、高価な資料集ですので、「解説」のみ本サイトにアップしました。昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載され、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載されて、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語ですが、同じく「ちきゅう座」に発表された渡部富哉さんの「ゾルゲ事件とヴケリッチの真実」上下とあわせて、ご笑覧ください。
漂流する世界の中で、漂流する日本の、リアルな国民生活とは?
2016.2.1 安倍内閣の経済政策の中枢、甘利明・経済再生担当大臣が辞任しました。大臣室で特定業者から「口利き」の見返りに、羊羹の箱に入れた現金を受け取り、内ポケットに入れたという、古典的・典型的政治汚職です。政治資金規正法、あっせん利得処罰法違反の容疑は、まだ事実関係が解明されていません。国会で証人喚問すべき問題です。それなのに、大臣辞任で「潔い」とか「武士」とかと言われ、一部では「はめられた」と、あたかも甘利大臣が被害者であるかのような言説まで出ています。「口利き」によるものかどうか、独立行政法人・都市再生機構(UR)が業者に支払った2億2千万円の補償金の問題は、手つかずです。検察・特捜部は動くでしょうか。この辞任劇までが、どうも効果的に練られた、首相官邸の情報戦のようです。収賄側をすべて秘書の責任にし、贈賄側のあくどさ・うさんくささの情報を流して、問題を政治化した週刊誌ジャーナリズムの責任さえ問いかねない情報操作です。週末の世論調査は、それを裏付けています。甘利辞任は当然だとしつつ、首相の任命責任までは深追いしません。毎日新聞調査にいたっては、内閣支持率が8ポイントも上昇し51%です。昨夏戦争法案をめぐる2015安保闘争の前の段階まで、回復しています。大阪市長・知事選、沖縄宜野湾市長選などでも「アベ政治を許さない」勢力の勢いが失速し、今夏参院選 での野党共闘が危うい状況。野党分断のために、消費税10%繰り延べを口実にした、衆参ダブル選挙の可能性もありえます。安倍首相の公言する改憲に必要な3分の2の議席を、許さない体制づくりが急務です。日本の政治は、漂流したまま、戦争と暴力と利権の渦巻く世界の中に、投げ出されようとしています。
日本銀行が、マイナス金利導入を決定しました。さしあたりは、私たちの預貯金のことではなく、中央銀行と銀行間の当座預金の一部についてですが、「アベノミクス」の破綻きわまれりでしょう。昔アメリカで生活していたとき、今のようにクレジットカードは普及しておらず、日常生活での支払いには個人小切手(check)が不可欠でした。そのchecking account の維持に月々かなりの手数料が引かれていて、なるほど使わないと貯金が目減りする銀行口座もあるんだと、妙に感心したことを想い出しました。でもこれが、企業の投資意欲、庶民の消費意欲を刺激するというのはホントかな、というのが実感。日本経済のバブル時代のアメリカでの話とはいえ、低金利・マイナス金利で、生産が回復したとは思えません。IT産業創出による産業構造の転換こそ、冷戦崩壊のもとでのアメリカ経済再興をもたらしたと思いました。こんな政治学者の直感を、経済学的に説明してくれるのが、金子勝・児玉龍彦さんの新著『日本病ーー長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)。新自由主義登場の背景となった「イギリス病」「スウェーデン病」にならって、今日の日本経済が「長期停滞から長期衰退へ」の「日本病」にかかっているとし、その要因を、「構造改革」や「アベノミクス」の政策立案の基礎となった「予測の科学」のデータの取り方のレベルにまで遡って、「カンフル剤」としての日銀介入、「異次元の金融緩和」の「麻薬化」を分析しています。生命科学の児玉さんの抗生物質・ワクチンの大量投与がある時点で免疫性を弱め効かなくなるという、耐性の科学に学んだ方法論が、わかりやすく説かれています。無論、「失われた20年」のもたらした現実、もはや「外資系」とよぶべき一部大企業の内部留保と配当依存、貿易赤字の恒常化、「トリクルダウン」どころか実質賃金の低下と非正規労働の40%化、医療や福祉へのしわ寄せ・切り捨ての現況も、リアルに描かれています。
金子・児玉氏が、国会審議もないまま安倍内閣がGRIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株式運用比率を高めて、年金積立金を株価の値上がり・維持・操作に使っている危険性を説いているのを読んで、冷戦崩壊後の、ある国際会議での議論を想い出しました。イギリスNew Left Reviewの著名な理論家が展開した「グレー資本主義」論です。彼は、イギリスやアメリカでの労働者の膨大な年金積立金が、ロンドン・シティやニューヨーク・ウォールストリートの金融市場に投入されることによって、実質的に労働者階級が巨大株主になり、政府と財政金融政策の運用次第では、その利得の再配分で、より平等な社会、福祉国家を作りうる、と説きました。日本ではまだ年金積立金の市場運用が話題にものぼっていなかった頃なので、そんな考え方もありうるかと聞き流したのですが、アメリカでハイリターンを狙った企業の年金資金が、ハイリスクを背負い込み、倒産・失業・無年金を招いた事例を知って、資本主義と社会主義の間の「グレー」ではなく、限りなくブラックに近い「灰色」だと了解したことがありました。もっとも、左派のジェレミー・コーエンが党首に選ばれたイギリス労働党、今日から始まるアメリカ大統領予備選で、自ら「民主的社会主義者」と自称するバーニー・サンダース上院議員が、若者の支持を集めて本命ヒラリー・クリントンと接戦しているアメリカ民主党ならば、政権につけば「灰色資本主義」の議論もありうるでしょう。しかし日本では、あまりにリスクが大きく、危険な政策です。すでに、この間のギャンブルで8兆円の損失が出たという試算もあります。日本経済も、世界資本主義の荒波の中で、漂流しています。アジア市場で中国に主導権を奪われたのはだいぶ前ですが、2014年の一人あたり国民所得国別ランキングで、いまや日本は34位という現実には、驚きました。円安は、ドル換算統計でどんどん順位を落としますから、ある意味では当然ですが、先日見てきたオーストラリア(世界11位)の一人あたり所得の半分という数字に、この国の深刻な未来を思わずにはいられません。「アベ政治を許さない」を、「これ以上アベノミクスの嘘を許さない」と読み替えて、私たちは、ノスタルジーではなく、リアルな現実に、真正面から向き合う必要がありそうです。
国書刊行会から、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻が刊行されました。私が監修し、別冊「解説」を書いています。高価な本ですので、昨年現代史料出版から刊行した加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻と共に、近く「解説」のみ本サイトにアップします。昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載され、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載されて、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語ですが、同じく「ちきゅう座」に発表された渡部富哉さんの「ゾルゲ事件とヴケリッチの真実」上下とあわせて、ご笑覧ください。。
テロと核で明けた新年、恒久平和の夢に向かって!
2016.1.15 新年にあたって、本「ネチズンカレッジ」のトップページを新サイトに移転しましたが、内部のリンクなどで、つながらない場合もありえます。しばらくご不便をおかけします。その新年は、パリ、イスタンブールからアジアのジャカルタへとテロの波が東に広がり、北朝鮮は、自称水爆実験という暴挙、厳しい時代を予感させます。安倍首相は、北朝鮮の挑発に応えるがごとく、国家機密法・戦争法案から参院3分の2議席獲得=改憲への道を公言、それなのに内閣支持率は50%まで回復、不吉な戦後71年目の船出です。いやひょっとすると、すでに戦前というべきかもしれません。20世紀の第一次世界大戦は、1914年6月28日に、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子が暗殺されたサラエボ事件を契機に、7月25日にオーストリアとセルビアの断交、28日に宣戦布告、それにオーストリアと同盟を結ぶドイツが参戦し、8月にロシアとフランスに宣戦、それを見てイギリスは8月4日に対独連合に加わり、2ヶ月ほどかけて世界戦争に広がりました。日英同盟の日本は、イギリスの要請で8月23日に対独宣戦布告。当時の軍事同盟網が、敵の敵は味方、友の友は友、と芋づる式に世界大戦へと展開しました。そんな一触即発の火種が、いま、世界中に満ち満ちています。
安倍内閣の高支持率は、経済政策=アベノミクスへの期待からとか。本当はオルタナティヴな野党がない消極的支持でしょうが、選挙と世論調査では経済政策で支持を集め、政権に就き安泰とみるや危険な安保・外交政策、歴史認識まで追認された、と開き直るパターンです。安倍首相が、内閣支持率と共に毎日チェックするという株価が、新年早々変調です。夏には参院選ですから、内心では冷や冷やしているでしょう。でも、これは世界的動きで、いまは中国経済の不透明と原油価格低迷が、グローバル資本主義のカジノ金融市場への資金の流れを誘導しています。日本は、グローバル資本の投機と逃避の、あくまで一時的な落ち着き先。今年のアメリカ大統領選挙、難民問題で揺れるEU、中国とインドの成長の行方のほか、サウジアラビアとイラン・ロシアの関係、ISと周辺部族・宗派の憎しみの連鎖も、大きな戦争の火種です。21世紀は、経済と政治・軍事が連動し、最新科学技術と投機マネーの情報が小さな火種を大きな武力衝突に増幅しかねません。それをコントロールする、アメリカ風「世界の警察官」ではない地球政治が求められているのですが、残念ながら、国連も国際機関も、いくつもの火種をその都度調整・火消しするモグラたたきを、繰り返しています。それが無駄だというのではありません。むしろ緊張緩和と、武力紛争を局地化・冷却化する努力が求められます。「恒久平和」は、日本国憲法だけの理想ではありません。グローバル世界市場とインターネット情報戦の時代には、世界のすべての地域で、民族・宗教・イデオロギーを超えた「平和に生きる権利」が切実なものになります。
年度末の試験や採点で忙しい時期ですが、1月23日(土)と30日(土)に、異なるテーマでの講演をすることになりました。私たちの歴史認識に関わる点では、共通していますが。一つは、戦前日本の実力者後藤新平の孫、鶴見和子・俊輔の従兄にあたる演出家・佐野碩を多角的に論じた、菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』(藤原書店)の刊行を記念する、1月23日の桑野塾第36回公開講演会。日本でのプロレタリア演劇運動の出発から、ソ連でのスタニスラフスキーとメイエルホリドからの吸収、亡命先メキシコで「メキシコ演劇の父」とよばれながらも、一度も日本に戻ることなく異郷で終えたコスモポリタンな生涯を、国際的・学際的に研究した決定版で、菅孝行さんの「『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』について」、吉川恵美子さんの「メキシコの佐野碩研究―現状とこれからの課題」と共に、私も「『赤い貴族』の時代と佐野碩の『転向』」を報告します(午後3時から6時、早稲田大学 早稲田キャンパス 16号館5階506号室)。もう一つは、1月30日(土)の早稲田大学20世紀メディア研究所の100回記念公開研究会(午後2時30分、3号館404号室)。川崎賢子(日本映画大学教授)さんの「李香蘭研究の新視角--証言と資料の再読から」、土屋礼子さん(早稲田大学政治経済学術院教授)の「占領軍通訳翻訳部(ATIS)とG-2歴史課」と共に、加藤哲郎(早稲田大学大学院政治学研究科客員教授・一橋大学名誉教授)「シベリア抑留とプリンス近衛文隆の死ーー『異国の丘』『夢顔さん』の実像」という学術報告を行います。昨年10月の講演記録「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」のうち、「シベリア抑留」の部分の、米国国立公文書館資料「近衞文隆ファイル」等を使っての再論ですが、劇団四季のミュージカル「異国の丘」、西木正明さん『夢顔さんによろしく』、工藤美代子さん『近衛家 7つの謎』などのファンの皆さんには、新知見となるでしょう。こちらは、昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの英語報告「ゾルゲ事件と関東軍731部隊」の延長線上にあるものですが、この国際シンポジウム参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載されると同時に、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載され、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語で、上記講演には直接関係しませんが、75年前の国境を越えた「恒久平和の夢」と関わります。ご関心の向きは、こちらもどうぞ。本年も、よろしくお願い申し上げます。
私たちの歴史認識が、試される年!
●臼澤みゆき「ふるさと」● 新沼謙治「ふるさとは今もかわらず」●ドイツZDF「フクシマのウソ」「その2」「その3」●Japan's March 11 Disaster ●「ザマナイ (時代)」●「Appeal from Fukushima」●Prayer For Japan Earthquake And Tsunami Victims By Share Thoughts
2016.1.1 新年にあたって、本「ネチズンカレッジ」のトップページは、新サイト home.html へと移転しました。1997年以来20年近くを、日本のITビジネスの老舗IIJ4Uのホームページサービスを利用し、約180万人の皆さんにアクセスしていただきましたが、IT業界の変容に応じて、IIJ4Uは本年3月をもってホームページサービスを停止するとのことです。時局発言を主にしてきたこのトップページだけなら、ブログやツイッター、FacebookなどSNSに移行することも考えましたが、本サイトの特質は、私の過去の研究成果や 情報収集センター(歴史探偵)、学術論文データベ ースなどウェブ上でのデータベース機能を果たしていることであると考え、もともとデータの多くを移転・貯蔵してきたJCOMホームページに、トップページも置くことにしました。リピーターの皆様には、ご迷惑をかけますが、ご面倒でも、本新サイトの方で、Bookmarkの変更をお願いします。なお3月までは、IIJの旧トップページもミラーサイトとして運用いたします。また、メールアドレスは、業務を縮小しても維持されるとのことで、従来通り E-mail: katote@ff.iij4u.or.jp をメインアドレスとして継続します。
2016年は、中東はじめ世界で、戦争とテロルの武力行使が続いている中で、始まります。2015年に、日本では、安倍内閣のもとで戦争法案が強行採決され、自衛隊は地球上のどこにでもでかけて戦争に加わることが可能になりました。大国中国との軍事的緊張は、高まっています。隣国韓国とは、アメリカの後押しで、政府間では年末に従軍慰安婦問題での「合意」が発表されましたが、被害者の心には届いていません。台湾や中国との間でも、慰安婦問題は重要な歴史認識上の争点です。日本政府が「河野談話」の線まで戻って「軍の関与」を認め「お詫びと反省」を表明したとしても、問題の「最終的かつ不可逆的に解決」どころか、国際的には、いっそう論議をよぶものになるでしょう。なぜならば、この「合意」が公式文書になっていないばかりでなく、安倍首相が「河野談話」を攻撃し朝日新聞誤報問題にからめて政治的・外交的イシューにしてきた経緯、中国の申請した南京大虐殺がユネスコの世界記憶遺産に登録され、日本の申請した世界遺産「明治日本の産業革命遺産」に朝鮮人強制徴用施設が含まれていた問題、それに私自身も昨年集中的に探求した関東軍731部隊の人体実験・細菌戦問題などが、歴史認識の問題として、継続しているからです。韓国や中国では、従軍慰安婦問題は、日本のアジア侵略・植民地支配・15年戦争の全過程の一環として理解されています。日本政府はソウルの日本大使館前の少女像が「撤去されなければ、韓国と合意した10億円を拠出しない」と言っているそうですが、韓国では、少女像は日本の植民地支配の犠牲者全体を象徴するもので、国民の66%が移転に反対しています。海外のメディアや日本研究者の評価が分かれるのは、この政府間「合意」が、どれだけ日韓両国の市民社会レベルの対話に根ざしたものなのか、日本国民の真摯な「お詫びと反省」につながるかが、なお不透明だからです。問われているのは、私たち一人一人の歴史認識です。
年末に読んだ、気になったいくつか。Peace Philosophy Centreに訳出された、アンドレ・ヴルチェク「改革され、矯正され、陵辱されたユネスコ Andre Vltchek: Reformed, Disciplined and Humiliated UNESCO」。「南京大虐殺が実際に起きたことを疑う者は狂人だけである。安倍内閣でさえそのことに異議を唱えてはいない」としたうえで、国連機関であるユネスコの戦後の歩みと、多額の分担金をバックに日本が事務局長を送り出してからの「改革」の問題点を抉り出し、日本政府がアメリカと共にユネスコの設立理念「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を歪めようとしてきたかを詳述します。いわば、私たちの歴史認識の問題を、「戦後責任」として問おうとしています。もう一つ、『東京新聞』12月27日「時代を読む」の朴 x煕(チョルヒ)ソウル大学教授の寄稿「『21世紀型脱亜入欧』の誤り」は、中国の台頭に対抗して日米同盟の強化をはかる日本に、再版「脱亜入欧」を見出し、「日本としては米国との同盟を堅持しながら韓国とも友好関係を保ち、中国とも共存する選択が一番望ましいのではないか」と、19世紀以来のアジアの近代化の大きな流れの中で、日本はどこへ向かおうとするのかを、問いただしています。そして、日本国内からも、辺見庸さんの話題作『1937(イクミナ)』(金曜日)の警告。堀田善衛『時間』と併読すると、「忍びよるファシズム」の足音が聞こえます。對島達雄さんの『ヒトラーに抵抗した人々』(中公新書)は、ヒトラーの独裁が「圧倒的市民に支持された」もとで、「祖国を愛する者はヒトラーのために戦ってはいけない」と気づき、行動に移した、有名・無名の抵抗者の勇気を、丹念に、しかし淡々と拾っています。「戦後70年」を終えた2016年の「いま」の課題は、「新たなる戦前」となる可能性を、可能性のままで、なんとか翌年に引き継ぎうるかどうかです。そんな歴史認識再構築の一端として、戦前日本の実力者後藤新平の孫、鶴見和子・俊輔の従兄にあたる演出者・佐野碩を、多角的に論じる本が、年末に出ました。菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』(藤原書店)で、日本でのプロレタリア演劇運動の出発から、ソ連でのスタニスラフスキーとメイエルホリドからの吸収、亡命先メキシコで「メキシコ演劇の父」とよばれながらも、一度も日本に戻ることなく異郷で終えたコスモポリタンな生涯を、国際的・学際的に研究した決定版です。高価な演劇本ですが、私も「コミンテルンと佐野碩」を寄稿していますから、ご関心の向きはぜひ。なお、新年ですが、昨年実兄が亡くなりましたので、年賀の挨拶は、出しておりません。賀状をいただいた皆様には、大変失礼することになることをお断りし、お詫びいたします。
この間、情報収集センター(歴史探偵)の「731部隊二木秀雄の免責と復権」(2015夏版)の延長上で、2015年10月15日に神田・如水会館・新三木会で「戦争の記憶」、10月18日に日本ユーラシア協会で「ゾルゲ事件と731部隊」の公開講演を行いました。このうち新三木会での話のテープ起こし原稿をもとに、講演録「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」が、画像付きで臨場感ある記録になりましたので、公開しました。その後、皆さんのご指摘や読み直しで、いくつかの誤りもみつかりましたので、逐次修正・改訂してゆきます。『図書新聞』2015年6月20日号に松田武『対米依存の起源--アメリカのソフト・パワー戦略』(岩波現代全書)の書評、『週刊読書人』10月9日号にロベルト・ユンク『原子力帝国』再刊本(日本経済評論社)の書評を書きましたので、アップ。現代史料出版の加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻は、高価ですが幸い好評で、国内外の大学図書館等に入れていただき、さらに要望があるとのことで、編集中の続編『CIA日本問題ファイル』全2巻の概要を、予告ビラで紹介しておきます。学術論文データベ ースののほか、昨年夏前に公刊された論文集収録の拙稿、「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」(波多野・東郷編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)、「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』(明石書店、2015年7月)を 研究室に入れました。ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。それをも下敷きにした新著が、 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)です。正誤表を作りましたので、ご参照ください。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、上海国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)なども活字になっています。講演記録で読みやすい「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」(法政大学『大原社会問題研究所雑誌』2014年8月号)も、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。現代史料出版からは加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂し、発売されました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説していますが、大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。 本HP歴史探偵データベースの老舗「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」で、新たに3名の犠牲者の消息がわかりました。もともと2013年に産経新聞モスクワ支局と共に解読したロシアのNPOメモリアルのリストから見いだされた、日本人5人のうちの3人で、「千葉県出身・富川敬三」「栃木県出身・恩田茂三郎」「鹿児島県出身・前島武夫」でした。昨年東京外語出身の「富川敬三」を官報から見つけてくれた新潟県の匿名希望Sさんのお手柄で、今度は外務省外交史料館の膨大な記録がウェブ上で読めるようになった「アジア歴史資料センター」を詳しく探求して、教えてくれました。3人の本籍地・家族の名前などが、わかりました。詳しくは「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」の更新版を、ごらんください。
この間の原爆・原発研究を踏まえた岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧ください。その延長上で、、「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」(波多野・東郷編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)、「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』(明石書店、2015年7月)を発表しています。日本ペンクラブでのシンポジウム「島崎藤村と日本ペンクラブ』の報告(『P.E.N.』2014年2月号)と、その後の日本近代文学館への資料寄贈「島崎藤村・蓊助資料の寄贈に寄せて」(『日本近代文学館報』第265号、2015年5月)が活字になっています。平凡社創業100年記念『こころ』19号特集「私の思い出の1冊」(2014年6月)に寄せた「「私の思い出の1冊・石堂清倫『20世紀の意味』」と共に、アップしておきました。2014年春の勝野金政(かつの・きんまさ)の生涯をロシアに伝えるために、人類学者の故山口昌男さんにならって「日本のソルジェニツィン」としてロシアの人々に紹介し、再評価するモスクワ・ソルジェニツィン・センターでの講演会は、現地でそれなりの関心を惹き、日本の共同通信やロシアの日本語放送「ロシアの声」、それに東京新聞がとりあげてくれました。
学術論文データベ ースの記念すべき第50号に、神戸の弁護士深草徹さんの「戦争立法」の恐るべき真実(2015.5)をアップ。最新は、深草徹「安保法廃止のために」(2015.11)、深草さんのこれまでの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1),「立憲主義を守るために秘密保護法が必要との謬論を駁す」,「核燃料サイクルから撤退を」(2014.2),「戦前秘密保全法制から学ぶ」(2014.2),「砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す」(2014.4)、「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)、「安保法制懇報告書を読む」(2014.6) などもご参照ください。常連宮内広利さんの「竹内好論ーーナショナリズムと奴隷の論理」(2014.12) 、「歴史と神話の起源ーー起源までとどく歴史観を求めて」(2015.2)に続いて、「死の哲学についてーーバタイユの歴史と供犠をめぐって」(2015.4)が入っています。佐々木洋さん「核開発年表改訂最新版」(2014.9)も、DBにアップされています。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2015年度大学院講義・ゼミ関係は、早稲田大学ホームページからアクセス願います。
本学には、以下のようなセクションがあります。学びを志す方は、 どちらのドアからでも、ご自由にお入り下さい。
情報処理センター (リンク集「 政治学が楽しくなるインターネット宇宙の流し方」のべ700サイトとリンク!)
情報収集センター (本学の目玉で「現代史の謎解き」「国際歴史探偵」の宝庫、データベース「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」「在独日本人反帝グループ関係者名簿 」「旧ソ連秘密資料センター」などが入っています!)■イマジンIMAGINE!(3・11後更新)、■Global IMAGINE、■IMAGINE GALLERY、■「戦争の記憶」 (番外「大正生れの歌 」「100人の地球村 」)
特別研究室 「2016年の尋ね人」=占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について情報をお寄せください!
情報学研究室(必修カリキュラム、 リンク集処理センターと歴史探偵収集センターが両輪です)政治学研究室(総合カリキュラム、永久保存版論文・エッセイ多数収録)
現代史研究室 (総合カリキュラム、日本現代史、旧ソ連秘密資料解読もあります)
国際交流センター (Global Netizen College only in English )
ちょっと嬉しく恥ずかしい話。WWW上の学術サイトを紹介するメール マガジン"Academic Resource Guide"第3号「Guide & Review」で、本HPが学術研究に有用な「定番」サイトに選ばれました。ありがたく また光栄なことで、今後も「定番」の名に恥じないよう、充実・更新に励みます。同 サイトは、学術研究HPの総合ガイドになっていますから、ぜひ一度お試しを! 「Yahoo Japan」では「社会科学/政 治学」で注目クールサイトに登録され、特別室「テル コ・ビリチ探索記」が「今日のオススメ」に、「IMAGINE! イマジン」が「今週のオススメ」に入りました。「LYCOS JAPAN」では「政治 学・政治思想」のベストサイトにされていましたが、いつのまにか検索サイトごと「Infoseek」に買収され、「学び・政治思想 」でオススメ・マークを頂いたようです。『エコノミスト』では、 なぜか「イ ンターネットで政治学」の「プロ」にされましたが、河合塾の「研究者インフォー メーション 政治学」では「もっとも充実した政治学関係HP」、早稲田塾の「Good Professor」では、「グローバ ル・シチズンのための情報政治学を発信」という評価をいただきました。「日経新聞・I Tニュース」では「学術 サイトとしては異常な?人気サイトのひとつ」として、「リクルート進学ネッ ト」にも顔を出し、「インターネットで時空を超える大学教員」なんて紹介されました。朝日新聞社アエラ・ムック『マスコミに 入る』で、前勤務先一橋大学の私のゼミナールが、なぜか「マスコミに強い大学 」のゼミ単位東日本代表に選ばれ「堅実・純粋な感 性」を養う「社会への関心が高い『問題意識』の強い学生が集う」ゼミナール として紹介されました。「 ナレッジステーション 」には、「政治学 ・おすすめ本」を寄せています。共同通信配信全国地方紙掲載「こんにち話」で「国際歴史探偵 」と認定していただき、法政大学大原社会問題研究所で「『国際歴史探偵』の20年」を話させていただきました。恥ずかしながら、ありがとうございました。
「貧しい国」ニッポン、世界戦争の足音が聞こえる!
2015.12.10 しばらくぶりの更新です。オーストラリアに行ってきました。日本の旅行社特約ホテルのwifiは、24時間10豪ドル(約1000円)とうたっていましたが、一回切れるとまた10ドルの請求が出る欠陥システム、メールチェック中心の最低限の使用にとどめました。オーストラリアは、かつて本ネチズンカレッジ客員名誉教授故ロブ・スティーヴンのいた国で、1990年代に何度か訪れましたが、ロブが2001年に早逝して以来、その墓参にシドニーに行っただけで、15年ぶりでした。大きな違いは、まずは物価の高さでした。いや正確には、円安による日本円の海外での弱さです。オーストラリア経済が大きく良くなったわけではないですから、日本経済の沈没が実感されます。日本経済の救世主のようにいわれる中国・中産階級の「爆買い」は、何も日本に限られたものではありません。かつて日本の観光客であふれていたオーストラリアのスポットは、中国人でいっぱいでした。もともとチャイナ・タウンのあったシドニーで、ジャパンの存在感は薄くなる一方です。ちょうど1年前に、シドニー中心部でIS関連とみられた人質立て籠もり事件が起きましたが、パリのような厳重な警備はみられません。イスラム諸国からの移民や難民も住み着いて、よく街でもみかけますから、テロへの戦いには、ISへの報復爆撃よりも、日常生活をきっちり守り続けることの方に、意味がありそうです。
日本についての情報は、一日一回Google Newsを覗く程度でしたが、外から見ると、この国の日常生活が根底から覆されるような、市民社会の脆弱性・劣化が目につきます。かつて1990年代に、オーストラリアのロブ・スティーヴンと共に、『日本型経営はポスト・フォード主義か』の国際論争を組織した際、私たちの念頭にあったのは、日本における労働組合・労働者政党の弱さであり、過労死・過労自殺に対する社会的バリケードの欠如でした。その際、一つの鏡にしたのが、オーストラリアの労働党政権と労働者の権利・福祉でした。高度成長からバブル経済期に諸外国からもてはやされた「日本の成功」は、家族や地域社会を犠牲にしての企業社会への奉仕・埋没、自由時間や人権を切り詰めた物質的豊かさ、総じて「ポスト」どころか「ウルトラ」なフォード主義ではないか、と問題提起しました。それからロブの死と同じ時期に、世界経済のグローバル化、日本的経営の終焉と非正規雇用・不安定雇用の激増、それに隣国中国の「世界の工場」化という劇的な変化がありました。家族の崩壊と個人化、地域社会の高齢化と孤立が、いっそう進みました。オーストラリアは、北欧のような福祉大国ではありません。でも最低賃金や健康保険・年金制度などでは、日本よりもはるかに権利が守られており、豊かな自然環境の中で、まだ多文化共生社会が生きています。異国で痛感するのは、日本の「貧しさ」です。米国のみに頼り軍事化する国家、萎縮して偏狭なナショナリズムに染まる社会です。戦争法案強行採決からまだ数ヶ月で、安倍内閣支持率は急速に回復し、40−50%の水準に戻りました。オーストラリアの友人が言うように、異様です。
もっともこれは、日本のみの問題ではなく、グローバル市場経済に浸食され、格差が拡大した、地球社会全体の転換期でしょう。人権宣言発祥の地、自由・平等・友愛のフランスが「対テロ戦争」の名で戦争状態に。かつて「人種のるつぼかサラダボールか」といわれたアメリカで、共和党の大統領選最有力候補がイスラム教徒入国禁止の暴言。いたるところで、社会が壊れています。核兵器も原発も廃絶できぬままで、第3次世界大戦の接近が、体感できるようになりました。シドニーの国際会議で私が報告したのは、10月に日本で講演した「戦争の記憶:ゾルゲ事件、731部隊、シベリア抑留」の英語版。特に731部隊と近代科学技術の問題を、日本が抱える東アジア歴史認識の一つの焦点として、強調してきました。その滞在中に、本サイトについての新たな問題。本トップページほか、主要ページの扉を入れてきた日本のIT・インターネット業界の老舗、IIJ4Uが、来年春には、ホームページ提供事業から撤退するとのことです。シャープの液晶テレビ、東芝の白物家電と似た、旧型ビジネスモデルの再編・縮小のようです。メール・アドレスは、IIJmioをプロバイダーとして引き続きそのまま使えるとのことですが、本サイトの設計も、やり直さなければなりません。次回更新を、12月15日ではなく、2016年1月1日に設定して、データベースを含む大移動に取り組みます。1−3月は、これまでのブックマークでもアクセスできますが、新トップページに飛ぶように、組み替えます。リピーターの皆様には、大変ご迷惑をおかけしますが、なにとぞご容赦ください。