ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記などが、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
今年の第8回大佛次郎論壇賞に、湯浅誠さん『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)が決まりました。本サイト図書館所収『エコノミスト』誌 連載書評「歴史書の棚」でも9月16日号でとりあげ、「今や貧困論の定番だ。凡庸な経済学者よりはるかに深く現実をとらえ、政策的問題の指摘も鋭い。事例の豊富さと適切な統計が説得力を強める。1969年生まれのNPO代表である著者は、平和と民主主義、日米同盟や冷戦崩壊には触れない。だが繊細で健全な民主主義的感性を持っている。団塊の世代ならあれこれ理屈をつけて理論化する問題を、貧困の現場をリアルに示して政策の貧困を説く。かつて庄司光・宮本憲一『恐るべき公害』が持ったような時代の歴史的証言となるだろう」と評した、すばらしい本です。ついでに 『エコノミスト』誌12月9日号に発表したばかりのジョン・K・ガルブレイス『大暴落 1929』(日経BPクラシックス) とF・L・アレン『オンリー・イエスタディ 1920年代・アメリカ』(ちくま文庫) の書評をアップ。湯浅さんの『反貧困』とあわせ、ぜひじっくりお読みください。今年の私自身の締めくくりは、10月に公刊した本サイト「国際歴史探偵」の成果を駆使した「在独日本人反帝グループ」についての集大成、加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)でした。すでにウェブ上では、ACADEMIC RESOURCE GUIDEさん、千葉海浜日記さん、クマのデラシネ日記さん、京都グラムシ工房さん、学問空間さん、芹沢光治良文学愛好会さんらがコメントしています。活字の世界でも、『読売新聞』11月16日に 佐藤卓巳さんの、『週刊朝日』12月5日に鎌田慧さんの、『日本経済新聞』12月14日に池田浩士さんの、共同通信配信で『高知新聞』11月16日、『神戸新聞』『山形新聞』『宮崎日日新聞』『熊本日日新聞』『山陰中央新報』11月23日、『新潟日報』『愛媛新聞』11月30日などに川上武さんの、書評が出ています。雑誌では『季刊 唯物論研究』第106号(2008年11月)に松田博さんの長文書評が、『改革者』12月号に短文紹介が、掲載されています。5000円の高価な本で、なかなか書店では見かけないでしょうが、岩波書店ホームページの目次・序章をpdfでたち読みできる専用ページから、またはアマゾンなどを通して、ご注文いただければ幸いです。この危機の時代を迎えて、80年前のドイツで世界大恐慌・大量失業・国内対立激化からヒトラー政権成立を目撃した当時の在独日本人知識人・文化人の生き方の中から、何かを汲み取って頂けるでしょう。
来年1月からのオバマ大統領就任は決まりましたが、本サイト学術論文データベ ースには、北欧スウェーデン在住M・ポアチャさんの寄稿の「オバマで世界は変わるのかーー2008米大統領選の行方」(2008.10)をアップしてあります。私の占領期沖縄・奄美社会運動史研究の「同志」であり、かけがえのない証言者であり、『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻(不二出版)の共編著者であった国場幸太郎さんのご逝去については、沖縄タイムス10月25日付けの訃報、27日の琉球新報コラム「金口木舌」、同日琉球新報の新崎盛暉さん追悼文、30日沖縄タイムスの新川明さん追悼文がありますが、本サイト独自の国場幸太郎さん追悼文を、昨年1月に亡くなった金澤幸雄さん追悼と併せて、図書館と『戦後初期沖縄解放運動資料集』解説ページに、「金澤幸雄さんと国場幸太郎さんを偲ぶ」として入れました。田中真人さん、西川正雄さん、筑紫哲也さん、上田耕一郎さん、加藤周一さんなど、今年も惜しい人々が逝きました。
「高貴(noble)高齢者」の方々が一番大変です。『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』の目玉の一つ、IMAGINE DATABASE「戦争の記憶」番外の「大正生れの歌 」を、今年は新たに更新し増補改訂してあります。実際、「大正生まれ」の皆さんこそ、この厳冬の寒空のもとで、後期高齢者医療制度でも消された年金でも政治に裏切られ、病に倒れて救急車を呼んでも病院に入れてもらえず、物価値上げや生活苦にさらされ、棄民化されようとしている弱者・被害者です。後期高齢者医療制度以来、小林朗さん作詞作曲の「大正生れの歌 」へのアクセスが異様に増えて、先日小林さんと西宮で再会したのを機に、2005年以降の広がりを調べてみました。その結果、前回更新した「後期高齢者の歌」「生き生き高貴高齢者の歌」のほか、大谷正彦「大正は遠くなりにけり」という小説にまでなっており、さらに多くの替え歌ヴァージョンが見つかりました。詳しくは「大正生れの歌・探索記 」にデータベースとしてまとめましたが、以下に、新たに見つかったヴァージョンを入れておきます。著作権などいらない、皆さんに使って貰えれば嬉しい、と小林さんもおっしゃっていますから、皆さんも「昭和○年生まれの歌」「ワーキングプアの歌」など、どしどしkatote@ff.iij4u.or.jp へお寄せ下さい。
もうひとつ、勤務先の同僚吉田裕教授から、『大正および大正人』という雑誌の、昭和53(1978)年11月号(第2巻第5号)の「放題」欄に掲載された、小栗好種「うたって下さい」という投稿中の「大正生まれの俺たちは」の提供を受けました。小林朗さん作詞作曲「大正生れの歌 」レコード化直後の、早い時期の替え歌のようです。3番の「一度は捨てたこの命」に、大正生まれ戦中派の心情が、よく示されています。
これらの延長上で、東京都国立市在住の森田武さんから、そのものズバリ、『大正生れの歌:80年の軌跡』というご本のご恵贈を受けました。この著者の森田さん、「大正生れの歌 」作詞作曲者小林朗さんの神戸高商(現神戸大学)同期生で、帝国銀行(現三井住友銀行)の人事部長・常務・専務から副社長・監査役までつとめられ、三井鉱山顧問、明治学院理事長の経歴をもつ高度経済成長の牽引者、経営の大先輩です。小林朗さんの「大正生れの歌 」に共感して、この歌と「いつしかに 八十とせ生きて つかの間の つゆの命のことわりを知る 柳原白連」が巻頭にかかげられています。2008年10月25日発行の非売品私家版ですが、宣伝してもいいということですので、敢えて。特に高貴高齢者でお読みになりたいかたは、さしあたり本ウェブマスター katote@ff.iij4u.or.jpまで。
今年発表した仕事のひとつは、昨年ゾルゲ・尾崎墓前祭での講演記録「ゾルゲ事件の残された謎」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第19号、2008年6月)。本サイトの目玉「国際歴史探偵」、特別研究室「2008年の尋ね人」は、今年のテーマを<上海におけるゾルゲ、尾崎秀実の周辺>として、「鬼頭銀一、山上正義、川合貞吉、水野成、船越寿雄、河村好雄、野澤房二、副島隆起、新庄憲光、大形孝平、手嶋博俊、坂田寛三、日高為雄、田中慎次郎らについて、情報をお持ちの方は、加藤katote@ff.iij4u.or.jpまたは渡部富哉watabe38@parkcity.ne.jpへお寄せください」と呼びかけ、すでにいくつかの情報が寄せられていますが、この「ゾルゲ事件の残された謎」は、そのもとになったものです。R・ゾルゲ『新ドイツ帝国主義』の訳者で尾崎秀実とも朝日新聞・昭和研究会で一緒だった益田豊彦(1900−74)についてのイシタキ人権学研究所石瀧豊美さんの『西日本新聞』連載「曲折の行路 昭和史と益田豊彦」全20回分をリンクしましたので、あわせてご笑覧下さい。夏のアメリカ調査では、ゾルゲ事件関係資料も、ゲティスバーグ大学のチャールズ・ウィロビー文庫閲覧などで、いくつか新資料を集めることができました。
今年のもうひとつの仕事は、4月10日に発売された加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』(法律文化社)に、私自身が寄せた「グローバル・デモクラシーの可能性ーー世界社会フォーラムと『差異の解放』『対等の連鎖』」。「グローバルな地球社会のナショナルな国家」(尾崎行雄記念財団『世界と議会』第518号、2007年11月)と併読を。ただしウェブ用短縮版です。また、3月中国旅行の紀行文エッセイ「『社会主義』中国という隣人」が『葦牙』第34号(2008年7月)に掲載されたので、こちらもアップしました。現代中国を「社会主義」という看板からではなく、「中国型資本主義」として捉え直そうという提言ですが、反発する読者もいらっしゃるでしょう。こちらも眼鏡を拭いて現実を見直そうという話で、図書館内「ネチズンカレッジ」 学術論文データベ ースの私の論文●加藤哲郎「日本におけ る『市民社会』概念の受容と展開」、 ●梁雲 祥(北京大学国際関係学院)「序章 市民社会と民主化の概念及び理論」 、●周初「第一部 台湾における市民社会の形成と民主化」、●梁雲祥(北京大学国 際関係学院)「第二部 シンガポールの民主化」、●印紅標(北京大学国 際関係学院)「第三部 香港市民社会の発展と民主化」などと合わせて読んでください。
夏の調査の中心米国国立公文書館(NARA 2)では、8月14日から第二次世界大戦時戦略情報局(OSS)に関わった2万4千人の個人ファイルが機密解除され、その履歴書・職務や給与の公的記録が公開されたばかりで、世界中から研究者が集まっていました。もっともOSSは戦後CIAの前身だから、対外エージェントやスパイの正体が暴かれた、とするのは早合点。私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』(平凡 社新書、2005年)の目玉の一つですが、OSSは、当時のアメリカにおける最高の知性、反ファシズムの科学者・研究者、ナチスに追われた亡命ドイツ人、日本軍国主義に反対する在米日本人・日系人らを広く集め、ナチスや日本軍とたたかいましたから、ポール・スウィージーのような米国マルクス主義者、フランツ・ノイマンのようなナチスを解剖した社会学者、ジョー小出や藤井周而のようなすぐれた軍国日本批判者をも抱え込んでいました。レオンチェフの産業連関表、パーソンズ=シルズの社会システム論、ロストウの近代化論の原型がそこで創られ、20世紀後半のアメリカの世界支配を可能にした地域研究、社会心理学や人類学・民族学の隆盛を下支えした、というのが私の仮説。事実、多くの社会科学者・歴史学者のOSS勤務記録を見つけることができました。その一人、戦後日本の財閥解体・独占禁止法制定の立役者エレノア・ハドレー女史の記録などは、大変充実したものでした。このほか、出発時に予告した、昨年機密解除のFBI/CIA個人ファイルや米国陸軍情報部(MIS)作成個人ファイル からも多くの収穫がありましたが、その辺は、いずれ解読してから。米国国立公文書館のホームページや、私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』、昨年刊行した花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』等々をご参照下さい。
今月停刊した『月刊 現代』の今夏6月号・7月号で、佐藤優さん連載「国家の嘘 『沖縄密約を証言した男』吉野文六の半生」で大きくとりあげていただいた「崎村茂樹の6つの謎 」の探求は、佐藤さんが吉野さんに渡した中間報告「情報戦のなかの『亡命』知識人ーー国崎定洞から崎村茂樹まで」後に、次々に新しい資料と事実が発見されています。崎村茂樹は、1937−41年の日本の論壇で、経済学者として20本近い論文を書いており、その一つでは、尾崎秀実と一緒に中国を論じていました。また、1943−44年のスウェーデン「亡命」についての在独日本大使館側資料が、米国国立公文書館文書中から見つかりました。そして、本サイト英語版の方でアップしたように、戦後のノーベル平和賞受賞者・元西独首相ウィリ・ブラントの自伝中に、1944年亡命先ストックホルムでの崎村茂樹との出会いが出てきました。それも、スウェーデンのノーベル経済学賞・平和賞受賞者ミュルダール夫妻、戦後オーストリア首相クライスキーらの名前と一緒に、という衝撃的なものです。早速ご遺族に連絡したら、ブラントやミュルダール夫妻の話は聞いたことはないが、ハイエクやハマーショルドとは会ったことがあると亡父に聞いた、という話。戦後のノーベル賞受賞者5人が、崎村茂樹の周辺に立ち現れました。1945年の中国での活動も、いくつか新しい事実がわかってきました。関連する学問的仕事で、工藤章・田嶋信雄編『日独関係史』全3巻の完結と、その第3巻「体制変動の社会的衝撃」に私が寄稿した巻頭論文「ヴァイマール・ドイツの日本人知識人」を公刊、全編力作揃いで、4月27日の『毎日新聞』に、山内昌之さんが、良く読み込んだ書評を書いてくれました(東大出版会、2008年3月)。加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)の序論です。ただし夏のワシントンでは、残念ながら崎村茂樹の直接資料は見つかりませんでした。
上述したように、『エコノミスト』誌 連載書評「歴史書の棚」に、12月9日号に発表したばかりのジョン・K・ガルブレイス『大暴落 1929』(日経BPクラシックス) とF・L・アレン『オンリー・イエスタディ 1920年代・アメリカ』(ちくま文庫) をアップしました。そのものズバリ、「『大暴落』と『オンリー・イエスタディ』を今こそ」と題して。 11月11日号「世界恐慌も自分のルーツも 公文書館で追いかけたい」で取り上げた仲本和彦『アメリカ国立公文書館徹底ガイド』(凱風社)と小川千代子・小出いずみ編『アーカイブへのアクセス 日本の経験、アメリカの経験』(日外アソシエーツ)、10月14日号掲載の「経済思想の流れの中の、柳田国男と青木昌彦」と題した藤井隆至『柳田国男 「産業組合」と「遠野物語」のあいだ』(日本経済評論社)と青木昌彦『私の履歴書 人生越境ゲーム』(日本経済新聞社)、9月16日号の湯浅誠『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)と金子勝『閉塞経済――金融資本主義のゆくえ』(ちくま新書)の「同時代をリアルに見直す困難、現実を大胆に理論化する困難」、8月12/19日合併号の井上學『日本反帝同盟史研究 戦前期反戦・反帝運動の軌跡』(不二出版)と太田哲男『若き高杉一郎 改造社の時代』(未来社)の「『蟹工船』の時代の権力に抵抗する良心」、7月15日号の佐野眞一『甘粕正彦 乱心の曠野』(新潮社)と水野直樹『創氏改名』(岩波新書)の「日本の満州国・朝鮮半島支配に、善意や人間性を見ていいのか 」などと共にどうぞ。エッセイを一つ追加。図書館に「東京大学新聞記者時代の思い出・特ダネ、一転訂正」(東京大学新聞年鑑『東大は主張する』2007-2008)。図書館及び教育センターに、1985年以来の継続的データのある最新2008年/2005年一橋大学学生意識調査結果をアップしてあります。改憲志向は弱まり、嫌米意識は強まっているようです。
2008.12.1 日本政治は末期症状です。世界は「チェンジ」のさなか、100年に一度のグローバルな危機のもとにあるというのに。政府のトップが、「空気が読めない」だけでなく、「漢字が読めない」「経済を読めない」ので「KKKY」なんだとか。内閣支持率も急降下、日経が30%、産経=フジが27%と軒並み末期症状で、もはや解散・総選挙どころではない、というのが与党の内情でしょう。米国オバマ新政権のヒラリー・クリントン国務長官登用にあやかってか、福田前首相の夢見た「救国大連立」構想が再浮上してきました。それにしても、麻生首相が、日本医師会に陳謝して3時間後の「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」発言。英語では" gaffe-prone prime minister"というんだそうですが、失言の域を越え、「生き生き高貴高齢者」の憤りと怒りを逆なでする、政治家としての初歩的資質を疑われるものです。全く「裸の王様」です。英語ニュースでは、こう報じられています。情報戦の時代に、政治家の言葉は決定的です。すでに世界中に流れ、あきれられ、日本は黙殺されていきます。
Japan leader irks public with insensitive remark
他方、アメリカ金融危機に発した世界経済危機は、全く予断を許しません。麻生首相もようやくガルブレイスの「大暴落1929」を買ったそうですが、ちゃんと読めるんでしょうか。なにしろ1929年の「暗黒の木曜日」と87年の「ブラックマンデー」の区別もできていないようですから。政治学の試験ならずとも、落第です。せめて欧米の危機対策である消費税減税、新規雇用創出や、来年1月末就任の米国オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策の意味ぐらいは、わかってほしいものです。日本の景気対策は「年末」までが「年度末」になり、越年できない中小零細企業資金繰り悪化・倒産、非正規労働者3万人の大量失業・住まい喪失、「内定取り消し道内7人 来春学卒者 すべて道外事業所」と来春大学卒業予定者の内定取り消し増加さえ避けられない情勢ですから。「年金運用、赤字4兆円…株安や円高影響」「証券化商品:国内損失3.2兆円 保有総額の1割強−−9月末」といった金融・証券から住宅・不動産産業の問題ばかりでなく、アメリカ・ビッグスリーと共に日本の自動車産業も「自動車12社、減産計190万台 非正規1万4千人削減」で、「有効求人倍率:世界不況の波、雇用悪化 10月、4年ぶり1倍割る /石川」「非正規雇用:労働者「雇い止め」が790人 県内雇用悪化、製造業で厳しく /福島」と地方経済の深刻な状況が生まれていますから。ここでの「政府の失敗」は、長期に渡る「市場の失敗」の入り口として、後世の記録に残ることになるでしょう。
ここで一言したいのは、金融商品ばかりでなく企業や大学にまで広がった「格付け」ビジネスの問題、非正規雇用者や学卒内定者の職場喪失に対する「自己責任」論の問題です。新自由主義の時代に広がった「格付け」や「自己責任」は、自己利益にもとづく競争こそ経済発展の原動力と見る、市場原理主義の従属変数です。そこで対象とされている領域は、本来、国民に信頼される正統性ある政府が十分に機能し責任を全うしていれば、別に民間企業に評価を任せたり、個人に責任転嫁する必要のない問題領域が圧倒的です。「規制緩和」「民間活力」の声高にいわれた時代とは、「政治と政府の機能不全」の所産です。政治そのものが市場に翻弄されて、社会を導く公共的討議の場であることが忘れられ、政府が省庁の自己利益に閉塞して「公僕」として機能し得なかったゆえの副産物です。グローバル資本主義のもとでも、現に北欧諸国のように「大きな政府」と生産性向上・産業発展を有効に結びつけた事例があり、「格付け」されたがゆえの信用崩壊、「自己責任」圧力のもとでの自殺・犯罪・内定取り消しが社会を蝕んでいるのですから。今こそ「公正」「公共性」「市民社会」の議論を政党・政治家が率先して巻き起こし、「政治の復権」「政府の正統性回復」をはかる時です。日本の国会での党首討論は、残念ながら「政治の復権」とはほど遠いものでしたが。
10月に公刊した本サイト「国際歴史探偵」の成果を駆使した「在独日本人反帝グループ」についての集大成、加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)について、ウェブ上ではACADEMIC RESOURCE GUIDEさん、千葉海浜日記さん、クマのデラシネ日記さん、京都グラムシ工房さん、学問空間さん、芹沢光治良文学愛好会さんらがコメントしています。『読売新聞』11月16日に 佐藤卓巳さんの、『週刊朝日』12月5日に鎌田慧さんの、共同通信配信で『高知新聞』11月16日、『神戸新聞』『山形新聞』『宮崎日日新聞』『熊本日日新聞』『山陰中央新報』11月23日、『新潟日報』『愛媛新聞』11月30日などに川上武さんの、書評が出ています。5000円の高価な本で、なかなか書店では見かけないでしょうが、岩波書店ホームページの目次・序章をpdfでたち読みできる専用ページから、またはアマゾンなどを通して、ご注文いただければ幸いです。 来年1月からのオバマ大統領就任は決まりましたが、本サイト学術論文データベ ースには、北欧スウェーデン在住M・ポアチャさんの寄稿の「オバマで世界は変わるのかーー2008米大統領選の行方」(2008.10)をアップしてあります。私の占領期沖縄・奄美社会運動史研究の「同志」であり、かけがえのない証言者であり、『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻(不二出版)の共編著者であった国場幸太郎さんのご逝去については、沖縄タイムス10月25日付けの訃報、27日の琉球新報コラム「金口木舌」、同日琉球新報の新崎盛暉さん追悼文、30日沖縄タイムスの新川明さん追悼文がありますが、本サイト独自の国場幸太郎さん追悼文を、昨年1月に亡くなった金澤幸雄さん追悼と併せて、図書館と『戦後初期沖縄解放運動資料集』解説ページに、「金澤幸雄さんと国場幸太郎さんを偲ぶ」として入れました。
「高貴(noble)高齢者」を持ち出したのは、『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』の目玉の一つ、IMAGINE DATABASE「戦争の記憶」番外の「大正生れの歌 」を新たに更新したため。実際、「大正生まれ」の皆さんこそ、後期高齢者医療制度でも消された年金でも政治に裏切られ、病に倒れて救急車を呼んでも病院に入れてもらえず、物価値上げや生活苦にさらされ、棄民化されようとしている弱者・被害者です。後期高齢者医療制度以来、小林朗さん作詞作曲の「大正生れの歌 」へのアクセスが異様に増えて、先日小林さんと西宮で再会したのを機に、2005年以降の広がりを調べてみました。その結果、前回更新した「後期高齢者の歌」「生き生き高貴高齢者の歌」のほか、大谷正彦「大正は遠くなりにけり」という小説にまでなっており、さらに多くの替え歌ヴァージョンが見つかりました。詳しくは「大正生れの歌・探索記 」にデータベースとしてまとめましたが、以下に、新たに見つかったヴァージョンを入れておきます。著作権などいらない、皆さんに使って貰えれば嬉しい、と小林さんもおっしゃっていますから、皆さんも「昭和○年生まれの歌」「ワーキングプアの歌」など、どしどしkatote@ff.iij4u.or.jp へお寄せ下さい。
その延長上で、東京都国立市在住の森田武さんから、そのものズバリ、『大正生れの歌:80年の軌跡』というご本のご恵贈を受けました。この著者の森田さん、「大正生れの歌 」作詞作曲者小林朗さんの神戸高商(現神戸大学)同期生で、帝国銀行(現三井住友銀行)の人事部長・常務・専務から副社長・監査役までつとめられ、三井鉱山顧問、明治学院理事長の経歴をもつ高度経済成長の牽引者、経営の大先輩です。小林朗さんの「大正生れの歌 」に共感して、この歌と「いつしかに 八十とせ生きて つかの間の つゆの命のことわりを知る 柳原白連」が巻頭にかかげられています。2008年10月25日発行の非売品私家版ですが、宣伝してもいいということですので、敢えて。特に高貴高齢者でお読みになりたいかたは、さしあたり本ウェブマスター katote@ff.iij4u.or.jpまで。
2008.11.25 先月公刊した拙著『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)について、ウェブ上のACADEMIC RESOURCE GUIDEさん、千葉海浜日記さん、クマのデラシネ日記さん、京都グラムシ工房さんに続いて、『読売新聞』に 佐藤卓巳さんの、『週刊朝日』に鎌田慧さんの、共同通信配信で地方新聞などに川上武さんの、書評が出ています。5000円の高価な本でなかなか書店では見かけないでしょうが、岩波書店ホームページの目次・序章をpdfでたち読みできる専用ページから、またはアマゾンなどを通して、ご注文いただければ幸いです。
2008.11.15 アメリカ合衆国大統領選挙では、アフリカ系アメリカ人初のバラック・オバマ大統領誕生が決まりました。「 インターネットがなかったらオバマ大統領はなかった」といいます。2000年大統領選挙から始まったインターネット選挙の本格的定着です。獲得選挙人数では、オバマ29州364人対マケイン21州163人でオバマの圧勝ですが、得票率で見ると52%対46%ですから、地滑り的勝利とまではいきません。とりわけ実際の投票行動を、便利な図録で見ると、アフリカ系・ヒスパニック・アジア系ではオバマの圧勝ですが、男性/白人有権者/65歳以上/年収10万ドル以上/プロテスタントなどの属性ではマケインが勝っています。ましてやレーガン大統領以来の新自由主義の、つもりつもったツケである今日の米国経済危機は、一朝一夕で修復できるものではありません。ガルブレイスの『大暴落』にあるように、1929年恐慌は市場原理主義者フーバー大統領の無為無策で深刻になったとはいえ、33年就任F・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策制定に100日、本格的景気回復には第二次世界大戦参戦による軍事特需まで10年かかりました。おまけに、9・11ブッシュ報復戦争のツケであるイラクとアフガニスタンの泥沼化があり、イラク撤兵を掲げるオバマも、アフガニスタンには介入増派を公約し、日本にも「国際貢献」を求めています。ヨーロッパや BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、発展途上国へも、金融危機は波及しています。私たちは地球的な規模で、新自由主義成長モデルの破綻、構造的危機のさなかにあります。
そんな時に明るみに出た、航空自衛隊トップ田母神幕僚長のトンデモ論文事件。アパのホームページには、日本語ばかりでなく英語版も掲載されています。私のところにも、アメリカをはじめ何人かの海外の友人から、問い合わせがきています。耐震偽造のアパ・グループ元谷代表は、安倍晋三元首相の後援会安晋会の副会長、懸賞論文といいながら、応募者230人中100人近くがトップの要請に応えた自衛隊員で、審査委員の顔ぶれをみてもヤラセの色は濃厚です。先日有罪実刑判決を受けた守屋前防衛次官の日米軍需汚職疑惑、田母神氏ら空・陸現職自衛官トップの政治献金疑惑、セクハラ空将補、と関連はないのでしょうか。防衛省は腐臭累々です。12日のワシントン・ポスト紙は、田母神論文の「真珠湾攻撃謀略説」を大きく報道しました。世界金融危機に対処するG20ワシントン会議を前に、政府の歴史認識についてのこんな文民統制の実態が明るみに出て、果たして世界のイニシアティヴなどとれるのでしょうか。G20金融サミットには、オバマ次期大統領は出ないので、ブッシュの米国対欧州対途上国の3すくみになり、銀行規制を強く求める欧州のいう「新ブレトンウッズ体制」まではゆかないでしょうが、BRICsをはじめ途上国は、IMF・世界銀行の再編、国際金融秩序への弱者の発言権強化を求めています。それなのに、日本政府は、米国主導の現行IMFの強化を求め、定額給付金総額2兆円の5倍にあたる1000億ドルの拠出でドル基軸維持を提案するのだそうです。田中宇さん「国際ニュース解説 」の分析から目を離せません。
世論調査で早くも不支持率が支持率を上回った麻生首相は、「希望の星」=オバマどころか、「現代のフーバー」=ブッシュになりつつあります。定額給付金をめぐる国内政治の迷走は、世界的な危機脱出の障害になりつつあります。今回更新のトッブ見出し、麻生太郎首相に日本語で読んでもらうためのものです。「地域振興券を踏襲(ふしゅうx)する定額給付金は未曾有(みぞうゆうx)の経済危機への対策」というのが、首相の「美しい日本語」。「高貴(noble)高齢者」は私の命名ですが、「頻繁(ひんぱん)な病院通い」は「はんざつxな」と読むのが麻生流です。かつて「ブッシュイズム」と嘲笑され、幾冊もの本になった、ブッシュ現大統領の英語なみです。でも、かつて「天下の愚策」といわれた1999年の地域振興券制度を踏襲(とうしゅう)し、生活支援か景気対策かもはっきりしない定額=低額?給付金問題の陰で、インド洋上給油法案が採択され、消された年金も汚染米問題 も未曾有(みぞう)の医療危機も棚上げのまま、麻生内閣は、国民の審判から逃げて、延命をはかっています。今国会で野党は、何ができたのでしょうか。もっとも世に倦む日日さんや五十嵐仁さん「転成仁語」が注意しているように、定額給付金そのものがヤラセで、たんに選挙対策のばらまきであるだけでなく、野党の攻撃をここに集中させ、野党の反対で国民への給付ができなくなった、それは野党の責任だと総選挙に打って出る、一石二鳥の撒き餌とする可能性もあります。見逃せないのは、トヨタ自動車奧田相談役の「マスコミに報復」発言。スポンサーとしての言論への圧力を公言しています。
「高貴(noble)高齢者」を持ち出したのは、『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』の目玉の一つ、IMAGINE DATABASE「戦争の記憶」番外の「大正生れの歌 」を新たに更新したため。実際、「大正生まれ」の皆さんこそ、後期高齢者医療制度でも消された年金でも政治に裏切られ、病に倒れて救急車を呼んでも病院に入れてもらえず、物価値上げや生活苦にさらされ、棄民化されようとしている弱者・被害者です。後期高齢者医療制度以来、小林朗さん作詞作曲の「大正生れの歌 」へのアクセスが異様に増えて、先日小林さんと西宮で再会したのを機に、2005年以降の広がりを調べてみました。その結果、前回更新した「後期高齢者の歌」「生き生き高貴高齢者の歌」のほか、大谷正彦「大正は遠くなりにけり」という小説にまでなっており、さらに多くの替え歌ヴァージョンが見つかりました。詳しくは「大正生れの歌・探索記 」にデータベースとしてまとめましたが、以下に、新たに見つかったヴァージョンを入れておきます。著作権などいらない、皆さんに使って貰えれば嬉しい、と小林さんもおっしゃっていますから、皆さんも「昭和○年生まれの歌」「ワーキングプアの歌」など、どしどしkatote@ff.iij4u.or.jp へお寄せ下さい。
本サイト「国際歴史探偵」の成果を駆使した「在独日本人反帝グループ」についての集大成、加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)が発売されました。アマゾンなどでご注文いただけますが、岩波書店ホームページから入ると、目次・序章をpdfでたち読みすることができ、そこからも購入できます。ウェブ上ではすでに、ACADEMIC RESOURCE GUIDEさん、千葉海浜日記さん、クマのデラシネ日記さんらにとりあげていただいています。 米国大統領選はオバマ候補の勝利で来年1月の政権交代が決まりましたが、本サイト学術論文データベ ースには、北欧スウェーデン在住M・ポアチャさんの寄稿「オバマで世界は変わるのかーー2008米大統領選の行方」(2008.10)をアップしてあります。私の占領期沖縄・奄美社会運動史研究の「同志」であり、かけがえのない証言者であり、『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻(不二出版)の共編著者であった国場幸太郎さんのご逝去については、沖縄タイムス10月25日付けの訃報、27日の琉球新報コラム「金口木舌」、同日琉球新報の新崎盛暉さん追悼文、30日沖縄タイムスの新川明さん追悼文がありますが、本サイト独自の国場幸太郎さん追悼文を、昨年1月に亡くなった金澤幸雄さん追悼と併せて、図書館と『戦後初期沖縄解放運動資料集』解説ページに、「金澤幸雄さんと国場幸太郎さんを偲ぶ」として入れました。
こうした動きに、本サイトは田中宇さん「国際ニュース解説 」や「世に倦む日日」さんを推奨してきました。書物の世界では、タイミング良く発売された金子勝さんとアンドリュー・デヴィットさんの岩波ブックレット『世界金融危機』が爆発的に売れているということです。本サイトとしても金子さんの『閉塞経済――金融資本主義のゆくえ』(ちくま新書)と共にオススメですが、タイミングといえば、しばらく忘れられてきたケインジアンの名著ガルブレイス『大恐慌』が、この9月末に日経BPクラシックス『大暴落』として新訳されたことこそ、絶妙というべきでしょう。日本では1971年に小原敬士訳、1988年に牧野昇監訳(共に徳間書店、後に徳間文庫)が出ていましたが、すでにウェブ上に多くの読者評が出て、今度の村井訳も好評です。
ガルブレイスの『大暴落』は、1955年に初版が出たものですが、「バブルや株安など何事かが起こる」たびに読まれ、改訳され、読み継がれてきた名著です。1929年10月24日のニューヨーク株式市場のクラッシュ(暗黒の木曜日)には、それ以前からいくつもの徴候がありました。10月29日の「暗黒の火曜日」のあいだに一服があったり、その後も揺り戻しがなかったわけではありません。ロンドンの新聞はニューヨークの破滅を面白おかしく報じたりしていました。本格的な世界恐慌は1931年に入ってからでした。20年代の投機熱の中から大恐慌はじわじわとやってきて、1939年までもとの水準にもどることはなかったのです。ドイツへの「余波」が大量失業とヒトラー政権成立に至ったのは、1933年でした。米国フーバー大統領の無策と世界経済のブロック化が世界戦争への道を拓いたのです。そのフーバー大統領でさえ、減税くらいはやりました。ただ、市場の自己調整機能を信じて政府の介入をためらい続けたため、いまブッシュ大統領は「現代のフーバー」と嘲笑されているのです。 今こそ政治の力、一国のリーダーシップが問われているのです。
イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、ブラジルなど、世界の指導者はポスト・アメリカの新秩序形成のイニシアティヴを狙って、動き出しています。日本の麻生首相は、3年後の消費税アップを明言しましたが、もともと総選挙なしでトップになった3人目の総理大臣、それも当初のシナリオの解散もできないまま世界危機にまきこまれた正統性なき首相で、危機管理能力はフーバー以下でしょう。この世界とのつながりが最も大切な時期に、現職自衛隊航空幕僚長のとんでもない論文が発表される始末ですから。もっともアメリカ大統領選挙でオバマが本当に勝利しても、「21世紀のF・D・ルーズベルト」になれるかどうかは、また「新ニューディール」で再び「世界のアメリカ」になれるか 、多極協調世界を構築できるかどうか(グローバル・ニューディール)も、全く未知数です。せっかくガルブレイス『大恐慌』の新訳がでたのですから、ぜひもう一つの今こそ読まれるべき本、F・L・アレンの名作『オンリー・イエスタデイーー1920年代・アメリカ』も、新訳ないし増刷してほしいものです。かつての1975年研究社版のほか、1993年ちくま文庫版があるようですが、古本屋で高値がついたままで、図書館でしか読めないようですから。
突然の、思いがけない悲しい知らせが届きました。私にとっては、占領期沖縄・奄美社会運動史研究の「同志」であり、かけがえのない証言者であり、『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻(不二出版)の共編著者であった国場幸太郎さんが、8月23日にひっそりと亡くなっていたという訃報です。残念です。無念です。沖縄タイムス10月25日付けの訃報を以下に掲げて、心からご冥福をお祈りいたします。10月27日には琉球新報に新崎盛暉さんの、30日には沖縄タイムスに新川明さんの追悼文が掲載されました。27日の琉球新報コラム「金口木舌」でも、とりあげられています。合掌!
2008.10.22
アメリカ大統領選挙投票日を前に、本サイト学術論文データベ
ースに、北欧スウェーデン在住のM・ポアチャさんからの寄稿「オバマで世界は変わるのかーー2008米大統領選の行方」(2008.10)をアップ。ポアチャさんは、日刊ベルタの寄稿者で、つい最近も米国金融危機についての分析を載せています。私とは必ずしも見解を同じくするものではありませんが、日本ではあまり知られていない民主党オバマ候補の言説と政策上の問題点を分析していますので、DBに収録します。10月15日に、本サイト「国際歴史探偵」の成果を駆使した「在独日本人反帝グループ」についての集大成、加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)が発売されました。アマゾンなどでご注文いただけますが、岩波書店ホームページから入ると、目次・序章をpdfでたち読みすることができ、そこからも購入できます。11月はじめが東北旅行でIT環境が悪く、次回更新は11月3日頃になりそうです。刻々動く世界の激動は、田中宇さん「国際ニュース解説 」や「世に倦む日日」さんで。
2008.10.15 この2週間の経験は、将来わたしたちを、歴史の転換期の証言者として登録させるものになるでしょう。米国サブプライムローンの破綻に発するアメリカ金融危機はたちまち世界に広がり、1929年の世界恐慌以来の株価暴落、信用収縮が始まりました。新自由主義グローバリズムのツケが金融から現物経済に飛び火し、「世界屈指の富裕国」アイスランドのように一国の存立基盤を揺るがされる国も現れています。G7の協調介入、なりふりかまわぬドル供給と銀行への資金注入で、株価は13日から反騰し一服したかに見えましたがすぐに暴落、いまだに米国住宅ローンの不良債権の総額さえ見えず、現物経済の基軸である自動車産業のビッグスリーが合併せざるをえない危機を孕み、アメリカの「失われる十年」は始まったばかりです。田中宇さんの「国際ニュース解説
」や「世に倦む日日」さんが、連日鋭く論じていますが、問題は、新自由主義の成長モデルの破綻であり、構造的です。タイミング良く、今年のノーベル経済学賞がプリンストン大学ポール・クルーグマン教授に決まり、ブッシュ政権閉幕と共に「グローバル経済を動かす愚かな人々」の没落を促進しそうです。でもアメリカ大統領選挙の最終的行方も、民主党オバマ政権が生まれたとしても「新ニューディール政策」が可能かも、まだ不透明。政府が税金を銀行・大企業救済に注ぎ続ける間のツケは、退職金を株につぎこんだ個人投資家、融資がストップした中小零細企業、生活防衛に必死の一般消費者ばかりでなく、仕事を失う人々、貧しい人々、援助がまわってこない途上国の人々にまわされます。本当は、現物経済の身の丈に即した復権、環境技術やものづくりの支援と国民の安全・安心、国内消費需要の掘り起こし=賃上げこそ、長い目でみれば復興策なのに。しばらく世界の金融・経済の動きから目を離せません。
世界史的転換期に入った国際環境の変化は、日本で予定されていた解散・総選挙の日程を、すっかり狂わせてしまいました。麻生内閣は軽量級「選挙管理内閣」の予定で、仲良し文教族と二世・三世議員に閣僚ポストを分配したつもりだったのに、予期せぬ「危機管理内閣」という重荷を背負うことになりました。白けた総裁選挙でご祝儀相場が低かったばかりでなく、たちまちご祝儀支持率も使い果たして、「伝家の宝刀」も抜くに抜けない窮状。一回の補正予算ぐらいで済まされる問題ではありませんから、このさい徹底的に「消された年金」「汚染米」の実態と政治責任を国会で論議させ、「後期高齢者」「ワーキングプア」と「地域医療危機」対策をも含んだ経済政策の抜本的転換を各政党に出してもらって、「新自由主義構造改革の継続か転換か」という新たな争点に鋳直し、日本なりの世界恐慌脱出策を競い合いましょう。11月4日のアメリカ大統領選挙には延期はありません。まずはアメリカから、「チャンジ」のそよ風を、重厚な経済政策の転換へと軌道づけてほしいものです。
学術の世界では、ノーベル物理学賞・化学賞に日本人が入り、「暗黒の一週間」の幕間の明るいニュースになりました。ここから科学技術予算の大幅増額、基礎科学の育成、長期的教育投資の政策が出てくるといいんですが。10月の3連休は日本政治学会で、開催校関西学院大学へ。その会場の住所が聞いた覚えがあって、アドレスブックを調べると、なんと昨年刊行した『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』の目玉の一つ、あの「大正生れの歌 」の作詞作曲者小林朗さんのお住まいの近くでした。早速連絡すると、学会の昼休みに、会場まで来てくれました。奥さんに車椅子でひかれてやってきた、お元気な小林さんと再会し、この5月から「後期高齢者医療制度」がらみでの「大正生れの歌 」へのアクセスが異様に増え、読者から寄せられた「後期高齢者の歌」への替え歌と、「生き生き高貴高齢者の歌」の投稿もあったことをご報告。その歌詞を見て、「ここはノーブル=高貴といいかえたいですね」とすぐにおっしゃられたのは、さすが元歌作詞・作曲者。「日本人としての中国への贖罪」というボランティア活動から生まれた日中ネットワークはまだ続いているそうで、日本全国の大正生れは、まだまだ健在です。あの桝添厚生労働大臣の再任前「抜本的見直し」公約は、どうなったのでしょうか。この15日から、9月までサラリーマン家族の扶養家族だった200万人をはじめ、新たに400万人以上の天引きが始まります。改めて、元祖「大正生れの歌 」を再録。著作権などいらない、皆さんに使って貰えれば嬉しい、と小林さんもおっしゃっていますから、皆さんも「昭和○年生まれの歌」「ワーキングプアの歌」など、どしどしkatote@ff.iij4u.or.jp へお寄せ下さい。
2008.10.5
アメリカ大統領選挙投票日を前に、本サイト学術論文データベ
ースに、北欧在住のM・ポアチャさんの寄稿「オバマで世界は変わるのかーー2008米大統領選の行方」(2008.10)をアップ。私と見解を同じくするものではありませんが、日本ではあまり知られていない民主党オバマ候補の言説を分析しています。ついでに、10月15日に加藤『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店)が発売されますので、予告しておきます。
2008.10.1 前回更新直後に、サブプライムローンの破綻に発するアメリカ金融危機は世界に広がり、1929年の世界恐慌以来の株価暴落、信用収縮が始まりました。グローバルな新自由主義の行進が、その最先端の金融システムから瓦解し始めました。田中宇さんの「国際ニュース解説
」や「世に倦む日日」さんが連日論じていますが、危機管理の原資となるアメリカ国債の最大の買い手は、日本と中国です。ドルと運命共同体の日本経済は、景気回復どころか、中国経済からの余波をも受けて、長期の深刻な影響をまねがれないでしょう。「貧困大国」アメリカの「失われた10年」の始まりは、世界の多極化の始まりです。田中宇さんの分析「米経済の崩壊、世界の多極化」
には、「革命」「反政府暴動」まででてきます。選挙を前に、ブッシュ政権を支えるはずの下院共和党議員たちが有権者の反発をおそれて造反し、最大7千億ドルの金融機関救済策を拒否した背景です。
実はこの1週間、今夏最後の訪問地、インドに行っていました。ですからニューヨーク、ワシントンの動きも、日本政治のどたばたも、グローバリズムがようやく本格化したBRICsの周辺部から、インターネット情報で知るだけでした。そのインターネットも、たびたびの停電で中断され、ようやく普及したプリペイドカード式無線LANの、高速とはいえない画面を通しての情報収集です。ニューデリー滞在中に、ちょうど爆弾テロ事件が起こり、デリー大学主催の国際会議は何とか成功しましたが、5年ぶりのニューインドの観察は、最小限に留めざるをえませんでした。それでも日本で教えた2人の大学院生の案内で、市内の各所に生まれた中産階級向けのショッピングモール、携帯電話の普及、開通したばかりの地下鉄、なお残るバザールの喧噪などは、味わうことができました。もちろん多彩なインド料理に、ファッショナブルになったサリーも。クルマの増え方は、すさまじいものがあります。かつてインドの自動車市場を席巻したスズキのマルチ(日本の軽自動車フロンテ)も、韓国製ヒョンダイ車の普及と、インド国産車の雄タタの10万ルピー(20数万円)カー計画の狭間で、守勢にまわっています。かつて煤煙の元凶だった緑のオートリクシャは、天然ガスを使って環境にやさしくなっていました。ホテルには韓国製液晶テレビが入りはじめ、かつて扇風機だけだったデリー大学の研究室・教室にエアコンが入ったのには、驚かされました。CNNテレビはインド版もあるのですが、そのニュースのトップは連日、インドの核政策をアメリカに認めさせたN-Deal(米印原子力協定)の米国議会通過と仏印原子力協定調印の話、金融的にはアメリカのみに依存していないだけ、リーマン・ブラザースの破綻もクールに受けとめられていました。忘れてはなりません。1998年にインドとパキスタンが相次いで核実験をおこなった時のパキスタン・シャリフ首相の言葉は、「日本も核を持っていたならば、ヒロシマ、ナガサキの原爆はなかった」でした。日本の「平和」の意味をアジアの人々に理解してもらうには、なお大変な努力を要します。
ところが日本の方は、ウォール街とホワイトハウスの動きに直撃されるばかりか、そこを舵取りするはずの政府は、ご祝儀支持率も森内閣並みの5割以下にとどまった麻生太郎内閣。それも、ネットのグーグルニュースにでてきたのは、何とも格好悪い中山国土交通相の放言・辞任騒動。いかに2世・3世議員と文教族の「おぼっちゃん・お友達内閣」「選挙管理内閣」とはいえ、日本にあこがれるインドの友人たちには、恥ずかしくて詳しく紹介できません。インドと同じように二大政党制はまだ定着せず流動的なんだと言っておきましたが、「単一民族」とか「労働組合(日教組)をぶっつぶせ」などと公言する人物を大臣にした麻生内閣の国際感覚は、激動する世界から取り残されるだけでしょう。もっともこれも、本来争点になるべき「汚染米」や「消された年金」、格差社会や医療崩壊から焦点をずらし、安全保障や日教組教育でナショナリズムを煽り、経済政策からイデオロギー問題に争点をシフトして解散・総選挙を切り抜けようとする自民党の高等戦術だという見方もあります。いわば中山前国土交通相の暴言は、国連総会での麻生演説、集団的自衛権解釈改憲発言と呼応した「確信犯」だというわけです。危険な兆候です。1929年世界恐慌の帰結は、ブロック経済からナチスの台頭、対外侵略から第二次世界大戦だったのですから。岩波書店『図書』等に予告が出ていますが、本サイト「国際歴史探偵」の成果を駆使した「在独日本人反帝グループ」についての新著『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』が、10月15日に発売されます。ナチス台頭期に関わるこの40年の研究の集大成ですから、乞うご期待!
日本からのニュースで驚かなかったのは、小泉純一郎元首相の引退宣言。小泉内閣の「改革」政策で格差が拡大し、農業・農村や駅前商店街が疲弊し、医療でも年金でも輸入米政策のツケも問題が露わになっているのですから。「自民党をぶっつぶせ」なんて実は虚言で、選挙区を息子に譲るのも典型的な自民党スタイル。小泉政治の5年間を、郵政民営化のバランスシートを、あらためてふりかえってみる時です。選挙の争点は作られ、操作されます。マスコミは作られた争点をあおり、時には台風にまで仕立てます。前回「郵政民営化」総選挙の教訓をしっかり学んで、きたるべき総選挙で国民が審判しなければなりません。かつての韓国落選運動は、市民たちがインターネットで争点をつくり、風を逆に吹かせた貴重な経験。金融危機のあおりで、アメリカ大統領選挙の後に、日本の総選挙投票日が設定されそうです。グルジア内戦の危機管理でいったんオバマを抜いたマケインの支持率は、国内問題に戻ると再び下がり、民主党有利に動いています。でもあと1か月、金融危機が実物経済にも波及する深刻さが見通されると、再び対外危機を演出して危機管理能力を煽る共和党の高等戦術もありえないわけではありません。グローバルな危機があるからこそ、足元をしっかりみつめ、この国にどんな政府が必要かを見きわめなければなりません。ネチズンの成熟度が試される総選挙になりそうです。
その中の「事故米」とは、
これらの「事故米」は18業者にのり製造用等で販売されたと言いますが、三笠フーズ以外の各社は農林水産省から持ちかけられたといいます。そもそも工業用のりには米粉はほとんど使われないともいいます。農水省は三笠フーズの5年で96回など138回立入検査をしましたが、転用を見抜けず、ついに基準値の倍以上のメタミドホス汚染米が、老人施設や病院、保育園の食事にまわってしまいました。ゆゆしき事態です。実は、農林水産省は、三笠フーズと癒着していました。住友商事は農水省から事故米売却先として三笠フーズを紹介されました。すでに昨年1月には農水省には三笠フーズについての内部告発がありました。大阪農政事務所の当時の消費流通課長が三笠フーズから飲食接待を受けていた事実も出てきました。農林水産省の責任は重大です。背後に政治家が介在していないかどうか、ジャーナリズムの腕の見せ所です。しかし最高責任者の農林水産大臣は、あの「消費者がやかましい」といい、事務所問題も曖昧なまま居座った太田誠一農水相。今回もホンネでか、「違約金をとればいい」とか「じたばた騒がず」。ここは、福田首相がでてきて叱責すべきですが、この無責任・他人事首相は、何の手も打てず。なぜか、今が盛りの自民党総裁選では、5人の候補者のだれも大きくとりあげません。民主党・社民党・国民新党は共同声明を出しましたが、マスコミの報道は小さなものです。本来、国会で徹底追及されているべき重大な政治問題です。
もうひとつ、自民党総裁選の目くらましのもとで小さくなり、本来なら国会で直ちに証人喚問すべき問題が、この間発表されました。厚生労働省と社会保険庁のずさんな処理による「消えた年金」解決が未だに先が見えないなかで、社保庁職員の誘導・指導による厚生年金の標準報酬月額の改竄=「消された年金」が証拠を含めてみつかりました。当該職員の個人犯罪にされそうですが、これも組織ぐるみだったはずです。自民党総裁選は、5人も立候補してますが、その後の解散・総選挙用の事前運動です。総選挙日程も不安定ですが、世界と日本の問題山積のなかで急ぐべきです。証券大手リーマン・ブラザーズの破綻もあり、世界金融市場は収縮のきざし、アメリカ大統領選や北朝鮮問題も論じたいところですが、ここは問題を単純化し、焦点を定めましょう。自民党総裁選のいかんに関わらず、日本政治の緊急の重大な課題として「汚染米」問題と「消された年金」に取り組むこと。そしてそれこそを、かつての「郵政民営化」、昨年参院選の「生活本位」「消えた年金」に匹敵する総選挙の争点として、主権者たる国民が判断を下すこと。事はこどもたちの健康と、お年寄りのくらしに関わるものです。9月15日は敬老の日、この国が「健康で文化的な生活」に値するかどうかが問われています。
もっとも、今風情報政治では、9月の小沢無投票民主党大会に、麻生幹事長や女性候補で争う自民党総裁選挙をぶつけ、福田首相でさえ50%以上を得た新政権ご祝儀支持率をバックに解散・総選挙に打って出るシナリオでしょう。ついでに「構造改革」での政界再編を仕掛ければ、「姫ご乱心」で線香花火程度だった野党民主党攪乱も一気に進んで、安倍・福田では果たせなかった「大連合の夢」をかなえる、なんて策略も出てくるでしょう。でもその辺の見通しも、11月アメリカ大統領選挙を読み違えると、狂ってきます。アメリカのイラク戦争への関与がどうなるかは、おそらく麻生・与謝野・小池・石原、いや自民党・民主党という日本での選択をも大きく制約する見えない要因になりそうです。8月中・下旬のアメリカでは、オバマ民主党、マケイン共和党の勝敗の行方は混沌です。実はオバマ勝利の方向を見きわめようとワシントン、ニューヨークをまわったんですが、世論調査ではオバマ支持が下降し、グルジア危機などでマケイン人気が盛り返し、拮抗している局面でした。民主党のバイデン副大統領候補決定ではさほどのご祝儀が出ず、民主党大会でのケネディ家の支援やオバマ夫妻の演説で多少差をつけましたが、すぐ後の共和党大会は、無名の女性副大統領候補でマスコミをひきつけ、ハリケーン襲来にすぐ大会イベント縮小で対処して「危機管理の指導力」を演出する、という具合のシーソーゲームです。流れからいうと、民主党優位が徐々に切り崩され、最終結果は接戦が予想される状況。すでにブッシュは完全に残務処理の脇役です。党大会でオバマの「チェンジ」にやや具体的な政策的裏付けが出てきましたが、「初の黒人大統領」への抵抗の根強さもあって、予断ができず、「でもしか」マケイン当選も十分ありえます。日本と似ていて非なるところは、この政権移譲劇が、予備選から一年かけて、幾度もスキャンダルや失言あら探しの世論の洗礼を経て、最終的に選ばれる仕組み。もっともそのため「どちらが勝っても同じ、プロ・ビジネスさ」と言ってのけた、黒人タクシー運転手の達観もなるほどでしたが。
実際のアメリカ滞在は、朝7時にホテルを出て夕方までワシントン郊外、「Democracy starts here」を掲げる米国国立公文書館(NARA 2)に通う資料調査が中心。ちょうど8月14日から、第二次世界大戦時戦略情報局(OSS)に関わった2万4千人の個人ファイルが機密解除され、その履歴書・職務や給与の公的記録が公開されたばかりで、世界中から研究者が集まっていました。もっともOSSは戦後CIAの前身だから、対外エージェントやスパイの正体が暴かれた、とするのは早合点。私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』(平凡 社新書、2005年)の目玉の一つですが、OSSは、当時のアメリカにおける最高の知性、反ファシズムの科学者・研究者、ナチスに追われた亡命ドイツ人、日本軍国主義に反対する在米日本人・日系人らを広く集め、ナチスや日本軍とたたかいましたから、ポール・スウィージーのような米国マルクス主義者、フランツ・ノイマンのようなナチスを解剖した社会学者、ジョー小出や藤井周而のようなすぐれた軍国日本批判者をも抱え込んでいました。レオンチェフの産業連関表、パーソンズ=シルズの社会システム論、ロストウの近代化論の原型がそこで創られ、20世紀後半のアメリカの世界支配を可能にした地域研究、社会心理学や人類学・民族学の隆盛を下支えした、というのが私の仮説。事実、多くの社会科学者・歴史学者のOSS勤務記録を見つけることができました。その一人、戦後日本の財閥解体・独占禁止法制定の立役者エレノア・ハドレー女史の記録などは、大変充実したものでした。このほか、出発時に予告した、昨年機密解除のFBI/CIA個人ファイルや米国陸軍情報部(MIS)作成個人ファイル からも多くの収穫がありましたが、その辺は、いずれ解読してから。米国国立公文書館のホームページや、私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』、昨年刊行した花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』等々をご参照下さい。早稲田大学山本武利教授ら「20世紀メディア研究所」の調査チームの皆さんや、戦争責任研究の関東学院大学林博史教授らと一緒で、研究交流の上でも有意義でした。
社会思想史学会年報『社会思想史研究』第31号(2007年)に寄せた長文書評西川正雄『社会主義インターナショナルの群像 1914-1923』(岩波書店)を 図書館に入れたところで、残念ながら西川教授の訃報で、追悼文を加えました。追悼文をもう二つ、元同志社大学人文科学研究所長田中真人さん追悼「田中真人さんの学風と鮒寿司」を同志社大学『キリスト教社会問題研究』第56号(2008年2月)に発表し、さらに追悼会用の別文「田中真人さんが逝って、遺された者は…」も加えアップしました。栗木安延さん追悼文「『熟練工』』栗木安延さんを偲ぶ」も、このたび7回忌の「偲ぶ会」とのことで、バージョンアップしました。ついでに図書館特別室に入れていなかった廣松渉さん、森安達也さん追悼(『国民国家のエルゴロジー・あとがき』末尾)もアップ。廣松さん、森安さん、西川さんや田中真人さんと話し合った歴史学方法論が面白くなってきたので、ジョナサン・ハスラム『誠実という悪徳 E.H.カー 1892−1982』(現代思潮新社)にも書評で挑戦、『週刊読書人』2月1日号に掲載されました。
恒例で、今年3月に卒業した一橋大学加藤ゼミ08卒業学士論文を5月にアップ。インターネット上では、「 ナレッジステーション」では丸山真男『日本の思想』、デーヴィッド・ヘルド『グローバル化とは何か』、斎藤純一『公共性』を「政治学 ・おすすめ本」として挙げておきました。ただしIDE大学協会『IDE 現代の高等教育』第495号(2007年11月)に寄せた「大学ランキングと一橋大学の取組み」は、3月31日朝日新聞記事「上位狙いか疑問視か 海外発『世界大学ランキング』」にあるように、「ネチズンカレッジ」とは別世界の話ですので、本サイトには収録しません。ただし、朝日新聞社『2009年版大学ランキング』に寄せた「大学教員のメディア発信 広告塔か、社会貢献か」は、一般性を持つエッセイですのでアップ。
チベット人権問題や新疆ウイグル地区の爆弾テロ、開会式の映像演出とは違ったかたちでの、オリンピック政治です。そういえばオリンピックで後景に退いた福田内閣改造と解散総選挙への動き、改造直後の内閣支持率にはびっくりしました。朝日・毎日等の横ばいないしご祝儀相場は政治学者として想定内でしたが、読売新聞だけは41%の急上昇、世論調査の信憑性が疑われました。さすがに恥ずかしかったのか、1週間後に再調査して28%へとご祝儀を値切りましたが、読売新聞は昨年「大連立構想」の仕掛け人が主筆。今後も、いろいろ裏(永田町)と表(マスコミ)から蠢くでしょうから、要注意!
8・15は、本サイトの開設記念日で、11周年になります。ただし本サイトは、もともとは丸山眞男の一周忌にオープンしたもの、つまり、8・15は丸山眞男の命日にあたります。その丸山眞男を偲ぶにふさわしい貴重な文章が、インターネット上でも、手に入ることを知りました。『週刊読書人』7月11日号の佐川光晴氏の『丸山眞男話文集』1(みすず書房)書評もオススメですが、そこで触れられている同書収録の、元中国新聞記者で現在安田女子短期大学教授である林立雄編「丸山眞男と広島−ー政治思想史家の原爆体験」(『広島大学平和科学研究センター研究報告』25、1998年)が、広島大学学術情報リポジトリに入って、だれでもpdfファイルで簡単にダウンロードできるようになったのです。1945年2月に、当時31歳の東京大学助教授だった丸山眞男も「赤紙」で招集され、広島近郊宇品の陸軍船舶司令部参謀部情報班の2等兵になります。6月に一等兵になり、同盟通信配信の国際情報を読むことができました。だからポツダム宣言を知っていました。そして、8月6日朝、
こんな肉声テープから起こした丸山眞男自身の被爆体験の林さんによる聞き取りが、この論文の16頁から46頁まで、詳しい注釈つきで収録されています。夏休みに、戦争の時代を想起し考えながら読むのに、絶好の記録です。本サイトの掲げ続ける「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこ そ、平和の道徳的優越性がある」の原点です。
機関リポジトリと言っても、耳慣れない方が多いでしょう。近年急速に進んだ、大学など学術研究機関からのウェブ上での情報発信、電子図書館のデジタル・データベースです。これまでは、大学紀要論文や科学研究費補助金研究報告について、せっかくグーグルやヤフーで検索できても、著者とタイトルばかりが紹介されているケースが多かったのですが、グローバルなグーグル・スカラーやグーグル・ライブラリーの発展に刺激され、世界の大学の趨勢を追いかけるかたちで、日本の大学も、ようやく論文そのもののデジタル公開を始めたのです。例えば林立雄編『丸山眞男と広島−政治思想史家の原爆体験−』が入っている広島大学学術情報リポジトリには、ダウンロードランキングがあり、まだ自然科学の論文が中心ですが、川野徳幸さんの学術論文「閣僚失言の政治学」などの全文も、簡単に読むことができます。私の勤務する一橋大学機関リポジトリHERMES-IRでは、私の名前を検索で入れると、本サイト収録のかたちとは異なる科学研究費補助金報告書「戦間期『洋行インテリ』の情報共同体」が一挙に読めるほか、福田徳三や杉本栄一の名論文も、たちどころに出てきます。ちょうどウェブ上にアジア歴史資料センターができて、国立公文書館、外交史料館、防衛研究所の戦前期資料が世界中どこからでも閲覧・ダウンロードできるようになったように、歴史資料のデータベース化、リポジトリ収録も急速に進んでいます。私が明日から通う予定の米国国立公文書館(NARA 2)所蔵の戦略情報局(OSS)資料についても、いくつか大きなデータベース・サイトがあり、戦時日本への情報工作も、情報戦の宣伝ビラ・謀略ビラ等も、いまでは日本からダウンロードできるものがあります。私が今回探索する予定のFBI/CIA個人ファイルや米国陸軍情報部(MIS)作成個人ファイル でも、アドルフ・ヒットラーの個人ファイルなどは、一部がウェブ上で見られるようになりました。「国際歴史探偵」にとっては嬉しい環境変化です。
ただし、圧倒的多くの資料は、未だ現地に行かなければ閲覧することはできず、その資料的価値も、ファイルの順序や保存状態まで見て判断せざるをえません。そこで、明日から、戦時日本の実像を、米国国立公文書館(NARA 2)の新公開資料から探る試みを、ワシントンで再開します。5月末に現地ワシントンで機密解除されたFBI個人記録、CIA個人ファイルや米国陸軍情報部(MIS)作成個人ファイル中のいくつかを直接見て驚き、帰国後にウェブ情報を再度チェックして、ようやく全貌が見えてきました。これまでも米国国立公文書館の戦時・戦後資料は、私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』(平凡 社新書、2005書)や、昨年刊行した花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』でも触れたように、20世紀についての通説や通念をくつがえす貴重な情報を提供してきました。ドイツ史の清水正義さん「ナチ戦争犯罪情報公開法の成立について」が、特に1998年ナチ戦争犯罪情報公開法(Nazi War Crimes Disclosure Act)及び2000年日本帝国政府情報公開法(Japanese Imperial Goverment Disclosure Act)による戦犯資料機密解除の歴史的意義を、丁寧に説明しています。つまり、戦犯にされた重要人物についてのみならず、米国の国益と戦後の対ソ戦略のために戦犯訴追されることなくアメリカに協力した旧軍人・情報将校・科学者・技術者らの記録を含むことによって、「今回の記録公開によりアメリカの知られざるナチ戦犯容認政策の実態が暴露される可能性がある」のです。日本についても同様で、2007年1月19日に、「日本の戦争犯罪に関する記録 100,000ページを新公開」したさい、真っ先にまとまったかたちで原資料のスキャナー画像を含めて公開されたのは、旧陸軍731部隊石井四郎らが米軍に人体実験記録を提供して戦犯訴追を免れた「悪魔の飽食」関係の「Select Documents on Japanese Warcrimes and Japanese Biological Warfare, 1934-2006」全170頁です。また、今回公表された資料についての整理にあたった米国側研究者・書誌学者の研究案内「Researching Japanese War Crimes: Introductory Essays」全240頁も充実していて、南京大虐殺や従軍慰安婦の新資料から戦後占領下で暗躍した旧軍人河辺虎四郎らの「地下政府」「新日本軍」を示す資料まで、読み応えがあります。しかし、それらでもダウンロードすると全1700頁に及ぶ資料目録 electronic guideの中のほんの一部です。そこから手探りでみつけた米国陸軍「野坂参三個人ファイル」からだけでも、野坂の自筆GHQ宛て書簡をはじめ、画期的な現代史資料が出てきます。これらIWG文書の英文戦犯資料を全面的に用いれば、日本の戦前・戦中史、戦後占領史・自民党史は、確実に書き換えられます。とても一人では扱いきれません。ワシントンでは、すでに滞在中の早稲田大学山本武利教授ら「20世紀メディア研究所」の調査チームに合流する予定です。
前回、いくつか新論文をアップしました。ひとつは昨年11月ゾルゲ・尾崎墓前祭での講演記録「ゾルゲ事件の残された謎」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第19号、2008年6月)。本サイトの目玉「国際歴史探偵」、特別研究室「2008年の尋ね人」は、今年のテーマを<上海におけるゾルゲ、尾崎秀実の周辺>として、「鬼頭銀一、山上正義、川合貞吉、水野成、船越寿雄、河村好雄、野澤房二、副島隆起、新庄憲光、大形孝平、手嶋博俊、坂田寛三、日高為雄、田中慎次郎らについて、情報をお持ちの方は、加藤katote@ff.iij4u.or.jpまたは渡部富哉watabe38@parkcity.ne.jpへお寄せください」と呼びかけ、すでにいくつかの情報が寄せられていますが、この「ゾルゲ事件の残された謎」は、そのもとになったものです。R・ゾルゲ『新ドイツ帝国主義』の訳者で尾崎秀実とも朝日新聞・昭和研究会で一緒だった益田豊彦(1900−74)についてのイシタキ人権学研究所石瀧豊美さんの『西日本新聞』連載「曲折の行路 昭和史と益田豊彦」全20回分をリンクしましたので、あわせてご笑覧下さい。
もうひとつは、4月10日に発売された加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』(法律文化社)に、私自身が寄せた「グローバル・デモクラシーの可能性ーー世界社会フォーラムと『差異の解放』『対等の連鎖』」。「グローバルな地球社会のナショナルな国家」(尾崎行雄記念財団『世界と議会』第518号、2007年11月)と併読を。ただしウェブ用短縮版です。また、3月中国旅行の紀行文エッセイ「『社会主義』中国という隣人」が『葦牙』第34号(2008年7月)に掲載されたので、こちらもアップしました。現代中国を「社会主義」という看板からではなく、「中国型資本主義」として捉え直そうという提言ですが、反発する読者もいらっしゃるでしょう。こちらも眼鏡を拭いて現実を見直そうという話で、図書館内「ネチズンカレッジ」 学術論文データベ ースの私の論文●加藤哲郎「日本におけ る『市民社会』概念の受容と展開」、 ●梁雲 祥(北京大学国際関係学院)「序章 市民社会と民主化の概念及び理論」 、●周初「第一部 台湾における市民社会の形成と民主化」、●梁雲祥(北京大学国 際関係学院)「第二部 シンガポールの民主化」、●印紅標(北京大学国 際関係学院)「第三部 香港市民社会の発展と民主化」などと合わせて読んでください。
『月刊 現代』6月号・7月号で佐藤優さん連載「国家の嘘 『沖縄密約を証言した男』吉野文六の半生」で大きくとりあげていただいた「崎村茂樹の6つの謎 」の探求は、実は佐藤さんが吉野さんに渡した中間報告「情報戦のなかの『亡命』知識人ーー国崎定洞から崎村茂樹まで」後に、次々に新しい資料と事実が発見されています。崎村茂樹は、1937−41年の日本の論壇で、経済学者として20本近い論文を書いており、その一つでは、尾崎秀実と一緒に中国を論じていました。また、1943−44年のスウェーデン「亡命」についての在独日本大使館側資料が、米国国立公文書館文書中から見つかりました。そして、本サイト英語版の方でアップしたように、戦後のノーベル平和賞受賞者・元西独首相ウィリ・ブラントの自伝中に、1944年亡命先ストックホルムでの崎村茂樹との出会いが出てきました。それも、スウェーデンのノーベル経済学賞・平和賞受賞者ミュルダール夫妻、戦後オーストリア首相クライスキーらの名前と一緒に、という衝撃的なものです。早速ご遺族に連絡したら、ブラントやミュルダール夫妻の話は聞いたことはないが、ハイエクやハマーショルドとは会ったことがあると亡父に聞いた、という話。戦後のノーベル賞受賞者5人が、崎村茂樹の周辺に立ち現れました。1945年の中国での活動も、いくつか新しい事実がわかってきました。関連する学問的仕事で、工藤章・田嶋信雄編『日独関係史』全3巻の完結と、その第3巻「体制変動の社会的衝撃」に私が寄稿した巻頭論文「ヴァイマール・ドイツの日本人知識人」を公刊、全編力作揃いで、4月27日の『毎日新聞』に、山内昌之さんが、良く読み込んだ書評を書いてくれました(東大出版会、2008年3月)。
『エコノミスト』誌 連載書評「歴史書の棚」には、7月15日号の佐野眞一『甘粕正彦 乱心の曠野』(新潮社)と水野直樹『創氏改名』(岩波新書)を「日本の満州国・朝鮮半島支配に、善意や人間性を見ていいのか 」と題して新規アップ。6月17日号の阪本博志『「平凡」の時代』(昭和堂)と五十嵐恵邦『敗戦の記憶 身体・文化・物語 1945−1970』(中央公論新社)の「『平凡』『明星』の時代を貫くトラウマと『消毒』」、5月20日号の、井手孫六『中国残留邦人――置き去られた六十余年』(岩波新書)と今西光男『占領期の朝日新聞と戦争責任 村山長挙と緒方竹虎』(朝日新聞社)の「厚生省は なぜ残留邦人を救えなかったのか」、4月15日号の「今さらマルクス? 今こそマルクス?」と題した佐藤優『私のマルクス』(文藝春秋)と寺出道雄『山田盛太郎 マルクス主義者の知られざる世界』(日本経済評論社)、3月18日号の、城戸久枝『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』(情報センター出版局)と梁世勲『ある韓国外交官の戦後史 旧満州「新京」からオスロまで』(すずさわ書店)を「旧満州の記憶をめぐる、日・中・韓国人の落差」、2月18日号の、袖井林二郎『アーサー・シイク 義憤のユダヤ絵師』(社会評論社)、三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日新聞社)を取り上げた「今こそ真剣に向き合うべき、世界大戦期日本外交」、1月21日号のピーター・バーク『時代の目撃者』(諸川春樹訳、中央公論美術出版)と松村高夫・矢野久編著『大量虐殺の社会史 戦慄の20世紀』(ミネルヴァ書房) の組み合わせでの「イメージがつくる歴史の虚像と実像」、などと共にどうぞ。
お盆の真っ最中です。社会思想史学会年報『社会思想史研究』第31号(2007年)に寄せた長文書評西川正雄『社会主義インターナショナルの群像 1914-1923』(岩波書店)を 図書館に入れたところで、残念ながら西川教授の訃報で、追悼文を加えました。追悼文をもう二つ、元同志社大学人文科学研究所長田中真人さん追悼「田中真人さんの学風と鮒寿司」を同志社大学『キリスト教社会問題研究』第56号(2008年2月)に発表し、さらに追悼会用の別文「田中真人さんが逝って、遺された者は…」も加えアップしました。栗木安延さん追悼文「『熟練工』』栗木安延さんを偲ぶ」も、このたび7回忌の「偲ぶ会」とのことで、バージョンアップしました。ついでに図書館特別室に入れていなかった廣松渉さん、森安達也さん追悼(『国民国家のエルゴロジー・あとがき』末尾)もアップ。廣松さん、森安さん、西川さんや田中真人さんと話し合った歴史学方法論が面白くなってきたので、ジョナサン・ハスラム『誠実という悪徳 E.H.カー 1892−1982』(現代思潮新社)にも書評で挑戦、『週刊読書人』2月1日号に掲載されました。
恒例で、今年3月に卒業した一橋大学加藤ゼミ08卒業学士論文を5月にアップ。インターネット上では、「 ナレッジステーション」では丸山真男『日本の思想』、デーヴィッド・ヘルド『グローバル化とは何か』、斎藤純一『公共性』を「政治学 ・おすすめ本」として挙げておきました。ただしIDE大学協会『IDE 現代の高等教育』第495号(2007年11月)に寄せた「大学ランキングと一橋大学の取組み」は、3月31日朝日新聞記事「上位狙いか疑問視か 海外発『世界大学ランキング』」にあるように、「ネチズンカレッジ」とは別世界の話ですので、本サイトには収録しません。ただし、朝日新聞社『2009年版大学ランキング』に寄せた「大学教員のメディア発信 広告塔か、社会貢献か」は、一般性を持つエッセイですのでアップ。
暑いさなかに、北京オリンピックが開幕、それを目前にした福田内閣の改造です。といっても、外相・官房長官・厚労相・総務相は留任、幹事長から横滑りの財務相、失言歴のある農水相等々、あまり変わり映えはしません。目玉の女性大臣2人で支持率浮揚をはかるのでしょうが、ご祝儀以上にはならないでしょう。党人事で小泉風「若者向け」麻生幹事長を据え、郵政民営化の離党組を閣内に取り込んで、政策志向もはっきりしません。日米関係基軸といっても、オバマ民主党政権になったらどうするんでしょうか。なにより経済政策、年金・労働政策がはっきりしません。生活者の目線といいながら、急激な物価上昇にどう対処するかは見えません。公明党との関係、民主党の対応を含め、次の総選挙日程も未知数です。前回紹介した7月3日付け英国高級経済紙『ファイナンシャル・タイムズ』の記事「行方不明の日本 Japan goes missing: invisible host at the summit」は、本サイトで国際社会での「ジャパン・ナッシング」を聞き慣れた皆さんには予想通りでしたが、「日本の誇り」を重んじる一部の人々にはショッキングだったようです。ちょうど「格差から貧困へ」が現実のものとなり、日本の貧困率はこの十年で倍増しOECD第二位 、全労働者の3分の1が非正規労働者、年収200万以下給与所得者が1千万人以上という数字をつきつけられても、「構造改革こそが日本の生き残る道」「ワーキングプアは自己責任」と叫び続ける一部の政治家・経済学者や経営者のように、偏った眼鏡には偏った現実しか見えてこないのです。夏休みは、こうした問題をじっくり考える好機です。といっても、働く皆さんは長い休みをとれず、アニメとコミックで育った大学生は分厚い専門書は読み慣れていないでしょうから、さしあたり、湯浅誠『反貧困ーー「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)をお勧めしておきましょう。
いやこの相次ぐ物価高で、新書を買うのさえ苦しい、新聞購読も止めたという皆さんは、厚生労働省ホームページから入って、7月22日発表の労働経済白書「平成20年版労働経済の分析」を、まずは「ポイント」、できれば「要約版」、時間があれば「本文」にも挑戦してほしいものです。「労働者の満足感の長期的低下」、もともと生産性が低いサービス業での非正規雇用急増と、生産性が高い製造業での正社員削減の結果「低生産性部門は温存され、全体の労働生産性にマイナスの影響を及ぼしている」と分析し、「(非正規雇用の増加は)コスト削減には有効でも、労働者の職業能力の向上を通じた生産性向上にはつながりにくい」と指摘しています。つまり、1995年の日経連「新時代の<日本的経営>」に始まり、派遣労働の情報サービス業・製造業への拡大=「自由化」によって急速に広がった今日の労働のあり方は、日本経済の再建につながらないばかりか、むしろ労働意欲を削ぎ、生産性を低下させているというのです。政府アナリストの「合理的計算」でも、政策転換が必要だということです。福田内閣「改造人事」は、はたして福祉や医療・年金、労働政策での「小泉離れ」につながるか、期待薄です。そこを見きわめるまでは、本サイトは後期高齢者医療制度を嘆いた現代版「大正生れの歌 」、「大正生まれの皆さんへ」と呼びかけ老人パワーの誇りと連帯を綴ったもう一つの替え歌「生き生き高貴高齢者の歌」を流し続けます。
前回更新後、突発事情で公開が遅れていたいくつかの新論文を、アップしました。ひとつは昨年11月ゾルゲ・尾崎墓前祭での講演記録「ゾルゲ事件の残された謎」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第19号、2008年6月)。本サイトの目玉「国際歴史探偵」、特別研究室「2008年の尋ね人」は、今年のテーマを<上海におけるゾルゲ、尾崎秀実の周辺>として、「鬼頭銀一、山上正義、川合貞吉、水野成、船越寿雄、河村好雄、野澤房二、副島隆起、新庄憲光、大形孝平、手嶋博俊、坂田寛三、日高為雄、田中慎次郎らについて、情報をお持ちの方は、加藤katote@ff.iij4u.or.jpまたは渡部富哉watabe38@parkcity.ne.jpへお寄せください」と呼びかけ、すでにいくつかの情報が寄せられていますが、この「ゾルゲ事件の残された謎」は、そのもとになったものです。R・ゾルゲ『新ドイツ帝国主義』の訳者で尾崎秀実とも朝日新聞・昭和研究会で一緒だった益田豊彦(1900−74)についてのイシタキ人権学研究所石瀧豊美さんの『西日本新聞』連載「曲折の行路 昭和史と益田豊彦」全20回分をリンクしましたので、あわせてご笑覧下さい。
もうひとつ、4月10日に発売された加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』(法律文化社)に、私自身が寄せた「グローバル・デモクラシーの可能性ーー世界社会フォーラムと『差異の解放』『対等の連鎖』」を新規アップ。「グローバルな地球社会のナショナルな国家」(尾崎行雄記念財団『世界と議会』第518号、2007年11月)と併読を。ただしウェブ用短縮版です。また、3月中国旅行の紀行文エッセイ「『社会主義』中国という隣人」が『葦牙』第34号(2008年7月)に掲載されたので、こちらもアップしました。現代中国を「社会主義」という看板からではなく、「中国型資本主義」として捉え直そうという提言ですが、反発する読者もいらっしゃるでしょう。こちらも眼鏡を拭いて現実を見直そうという話で、図書館内「ネチズンカレッジ」 学術論文データベ ースの私の論文●加藤哲郎「日本におけ る『市民社会』概念の受容と展開」、 ●梁雲 祥(北京大学国際関係学院)「序章 市民社会と民主化の概念及び理論」 、●周初「第一部 台湾における市民社会の形成と民主化」、●梁雲祥(北京大学国 際関係学院)「第二部 シンガポールの民主化」、●印紅標(北京大学国 際関係学院)「第三部 香港市民社会の発展と民主化」などと合わせて読んでください。
戦時日本の実像を、米国国立公文書館(NARA 2)の新公開資料から探る試みは、8月に再びワシントンを訪問し、再開します。5月末に現地ワシントンで機密解除されたFBI個人記録、CIA個人ファイルや米国陸軍情報部作成個人ファイル中のいくつかを直接見て驚き、帰国後にウェブ情報を再度チェックして、ようやく全貌が見えてきました。これまでも米国国立公文書館の戦時・戦後資料は、私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』(平凡 社新書、2005書)や、昨年刊行した花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』でも触れたように、20世紀についての通説や通念をくつがえす貴重な情報を提供してきました。ドイツ史の清水正義さん「ナチ戦争犯罪情報公開法の成立について」が、特に1998年ナチ戦争犯罪情報公開法(Nazi War Crimes Disclosure Act)及び2000年日本帝国政府情報公開法(Japanese Imperial Goverment Disclosure Act)による戦犯資料機密解除の歴史的意義を、丁寧に説明しています。つまり、戦犯にされた重要人物についてのみならず、米国の国益と戦後の対ソ戦略のために戦犯訴追されることなくアメリカに協力した旧軍人・情報将校・科学者・技術者らの記録を含むことによって、「今回の記録公開によりアメリカの知られざるナチ戦犯容認政策の実態が暴露される可能性がある」のです。日本についても同様で、2007年1月19日に、「日本の戦争犯罪に関する記録 100,000ページを新公開」したさい、真っ先にまとまったかたちで原資料のスキャナー画像を含めて公開されたのは、旧陸軍731部隊石井四郎らが米軍に人体実験記録を提供して戦犯訴追を免れた「悪魔の飽食」関係の「Select Documents on Japanese Warcrimes and Japanese Biological Warfare, 1934-2006」全170頁です。また、今回公表された資料についての整理にあたった米国側研究者・書誌学者の研究案内「Researching Japanese War Crimes: Introductory Essays」全240頁も充実していて、南京大虐殺や従軍慰安婦の新資料から戦後占領下で暗躍した旧軍人河辺虎四郎らの「地下政府」「新日本軍」を示す資料まで、読み応えがあります。しかし、それらでもダウンロードすると全1700頁に及ぶ資料目録 electronic guideの中のほんの一部です。前回書いたように、そこから手探りでみつけた米国陸軍「野坂参三個人ファイル」からだけでも、野坂の自筆GHQ宛て書簡をはじめ、画期的な現代史資料が出てきます。これらIWG文書の英文戦犯資料を全面的に用いれば、日本の戦前・戦中史、戦後占領史・自民党史は、確実に書き換えられます。とても一人では扱いきれません。一緒に研究してくれる若い有志を募ります。
『月刊 現代』6月号・7月号で佐藤優さん連載「国家の嘘 『沖縄密約を証言した男』吉野文六の半生」で大きくとりあげていただいた「崎村茂樹の6つの謎 」の探求は、実は佐藤さんが吉野さんに渡した中間報告「情報戦のなかの『亡命』知識人ーー国崎定洞から崎村茂樹まで」後に、次々に新しい資料と事実が発見されています。崎村茂樹は、1937−41年の日本の論壇で、経済学者として20本近い論文を書いており、その一つでは、尾崎秀実と一緒に中国を論じていました。また、1943−44年のスウェーデン「亡命」についての在独日本大使館側資料が、米国国立公文書館文書中から見つかりました。そして、本サイト英語版の方でアップしたように、戦後のノーベル平和賞受賞者・元西独首相ウィリ・ブラントの自伝中に、1944年亡命先ストックホルムでの崎村茂樹との出会いが出てきました。それも、スウェーデンのノーベル経済学賞・平和賞受賞者ミュルダール夫妻、戦後オーストリア首相クライスキーらの名前と一緒に、という衝撃的なものです。早速ご遺族に連絡したら、ブラントやミュルダール夫妻の話は聞いたことはないが、ハイエクやハマーショルドとは会ったことがあると亡父に聞いた、という話。戦後のノーベル賞受賞者5人が、崎村茂樹の周辺に立ち現れました。1945年の中国での活動も、いくつか新しい事実がわかってきました。関連する学問的仕事で、工藤章・田嶋信雄編『日独関係史』全3巻の完結と、その第3巻「体制変動の社会的衝撃」に私が寄稿した巻頭論文「ヴァイマール・ドイツの日本人知識人」を公刊、全編力作揃いで、4月27日の『毎日新聞』に、山内昌之さんが、良く読み込んだ書評を書いてくれました(東大出版会、2008年3月)。
2008.7.15 喪中だったため、ほぼ1か月ぶりの更新です。洞爺湖G8サミットがあり、北朝鮮核問題6者協議もありました。G8の最大の課題であった地球温暖化問題では、「首相、温室ガス半減へ指導力」という評価もありますが、概して「環境宣言、米に配慮」の内容で、「期待は失望へ、環境サミットの失敗」が外国報道や国際環境NGOの一般的評価です。徴候は開会前からありました。ネット上では大きく報じられたが日本の新聞はほとんどとりあげなかった、7月3日付け英国高級経済紙『ファイナンシャル・タイムズ』の記事。「行方不明の日本 Japan goes missing: invisible host at the summit」と題して、「日本は依然として世界第二位の経済大国だが、政治的にはその存在が見えないも同然だ」「21世紀はアジアの世紀と言うときのアジアは中国とインドのことで日本ではない」「羅針盤なき国家」と辛口です。これがすぐ、中国やマレーシアの新聞に転載されていました。福田外交は、国際的にはホスト国としての責任を果たしきれませんでした。
ところが日本の最新のNHKほか世論調査では、サミットの成果や福田首相の指導力については国際論調と同じく懐疑的でありながら、福田内閣の支持率については、横ばいか数ポイントあがっています。不支持率が軒並み過半数以上ですがやや減り、支持率は20−30パーセントの低水準ですがやや上向いたかたち(FNNのように最低記録更新もありますが)。これは、政党支持率での自民党のアップと民主党のダウンとほぼ同じポイントですから、端的に言って民主党の失敗です。通常国会の幕の引き方が、民意からずれていたということでしょう。「生活第一」の公約で昨年参院選で勝利し安倍内閣を退陣に追いこんだ民主党が、福田内閣成立の頃には不可解な党首会談・連立協議打診に応じて変調をきたし、以後の国会では「生活第一」の年金問題も後期高齢者医療問題も焦点にできず、国民の期待に応えられないまま自民党政権を延命させ、総選挙に追い込む絶好のチャンスを逸したかたちです。もっとも「世論調査」そのものの情報戦的意味も、改めて振り返っておく必要があります。なにしろ今日の格差から貧困への「すべり台社会」を準備した小泉内閣は、「世論」を背景に長期政権を維持したのですから。研究上の必要で、『思想』誌「戦後60年」特集の佐藤卓巳「戦後世論の成立ーー言論統制から世論調査へ」を読み直しました。戦前「輿論調査」から敗戦後「世論調査」への転換の中に、ジョン・ダワーの言う「敗北を抱きしめて=日米合作」を見出して秀逸です。新聞・放送の戦争責任は「世論調査によると」という枕詞で曖昧にされ、「象徴天皇制」維持・定着を方向付けたのです。この間のマスコミのG8報道そのものが、福田内閣支持率回復へと方向付けられていなかったかどうか、検証が必要です。
たとえばG8サミット開催時に、G8そのものが全世界の14パーセントしか代表しえていないと主張するスーザン・ジョージや、3月来日を目前に入国を拒否されたアントニオ・ネグリの共著者マイケル・ハートも来日していました。2人とも成田空港で指紋押捺・写真に加えて数時間も理不尽に拘束され、事情聴取を受けました。G8開催地で21世紀の恒例になった「NGOサミット」「サミット・オルタナティヴ」への監視と弾圧も「テロリスト」扱いに近く、日本のマスコミは、そうした問題の深層をあばこうとはせず、世界の民衆の声を聞こうとせず、表層のデモ参加者逮捕を報じた程度でした。 そしてサミットが終わって1週間もたたず、その国際的反響がようやく現れてきているのに、「世論調査」でお茶を濁し、iPhone発売のような次の「ニュース」へと飛びついていきます。元祖「大正生れの歌 」をもじって、後期高齢者医療制度を嘆いた「大正生れの歌 」、「大正生まれの皆さんへ」と呼びかけ老人パワーの誇りと連帯を綴ったもう一つの替え歌「生き生き高貴高齢者の歌」の世界にも、ワーキングプアの若者たち、『「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争』の世界にも、多くのマスコミは、ジャーナリスト魂で追いかけ続ける粘着力が弱く、政治の争点へと押し上げる力を失っています。
戦時日本の実像を、米国国立公文書館(NARA 2)の新公開資料から探る試みは、5月末に現地ワシントンで機密解除されたFBI個人記録、CIA個人ファイルや米国陸軍情報部作成個人ファイル中のいくつかを直接見て驚き、帰国後にウェブ情報を再度チェックして、ようやく全貌が見えてきました。これまでも米国国立公文書館の戦時・戦後資料は、私の『象徴天皇制の起源 アメ リカの心理戦「日本計画」』(平凡 社新書、2005書)や、昨年刊行した花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』でも触れたように、20世紀についての通説や通念をくつがえす貴重な情報を提供してきました。ドイツ史の清水正義さん「ナチ戦争犯罪情報公開法の成立について」が、特に1998年ナチ戦争犯罪情報公開法(Nazi War Crimes Disclosure Act)及び2000年日本帝国政府情報公開法(Japanese Imperial Goverment Disclosure Act)による戦犯資料機密解除の歴史的意義を、丁寧に説明しています。つまり、戦犯にされた重要人物についてのみならず、米国の国益と戦後の対ソ戦略のために戦犯訴追されることなくアメリカに協力した旧軍人・情報将校・科学者・技術者らの記録を含むことによって、「今回の記録公開によりアメリカの知られざるナチ戦犯容認政策の実態が暴露される可能性がある」のです。日本についても同様で、2007年1月19日に、「日本の戦争犯罪に関する記録 100,000ページを新公開」したさい、真っ先にまとまったかたちで原資料のスキャナー画像を含めて公開されたのは、旧陸軍731部隊石井四郎らが米軍に人体実験記録を提供して戦犯訴追を免れた「悪魔の飽食」関係の「Select Documents on Japanese Warcrimes and Japanese Biological Warfare, 1934-2006」全170頁です。また、今回公表された資料についての整理にあたった米国側研究者・書誌学者の研究案内「Researching Japanese War Crimes: Introductory Essays」全240頁も充実していて、南京大虐殺や従軍慰安婦の新資料から戦後占領下で暗躍した旧軍人河辺虎四郎らの「地下政府」「新日本軍」を示す資料まで、読み応えがあります。しかし、それらでもダウンロードすると全1700頁に及ぶ資料目録 electronic guideの中のほんの一部です。前回書いたように、そこから手探りでみつけた米国陸軍「野坂参三個人ファイル」からだけでも、野坂の自筆GHQ宛て書簡をはじめ、画期的な現代史資料が出てきます。これらIWG文書の英文戦犯資料を全面的に用いれば、日本の戦前・戦中史、戦後占領史・自民党史は、確実に書き換えられます。『月刊 現代』6月号に続いて7月号でも佐藤優さん連載「国家の嘘 『沖縄密約を証言した男』吉野文六の半生」で大きくとりあげていただいている、私の「崎村茂樹の6つの謎 」についての中間報告論文の裏付けもいくつかありそうですが、とても一人では扱いきれません。一緒に研究してくれる若い有志を募ります。
実は佐藤さんが吉野さんに渡した私の中間報告後に、私たちの崎村茂樹探求チームは、次々に新しい資料と事実を発見しています。崎村茂樹は1937−41年の日本の論壇で、経済学者として20本近い論文を書いており、その一つでは、尾崎秀実と一緒に中国を論じていました。また、1943−44年のスウェーデン「亡命」についての在独日本大使館側資料が、上述米国国立公文書館文書中から見つかりました。そして、本サイト英語版の方でアップしたように、戦後のノーベル平和賞受賞者・元西独首相ウィリ・ブラントの自伝中に、1944年亡命先ストックホルムでの崎村茂樹との出会いが出てきました。それも、スウェーデンのノーベル経済学賞・平和賞受賞者ミュルダール夫妻、戦後オーストリア首相クライスキーらの名前と一緒に、という衝撃的なものです。早速ご遺族に連絡したら、ブラントやミュルダール夫妻の話は聞いたことはないが、ハイエクやハマーショルドとは会ったことがあると亡父に聞いた、という話。戦後のノーベル賞受賞者5人が、崎村茂樹の周辺に立ち現れました。1945年の中国での活動も、いくつか新しい事実がわかってきました。関連する学問的仕事で、工藤章・田嶋信雄編『日独関係史』全3巻の完結と、その第3巻「体制変動の社会的衝撃」に私が寄稿した巻頭論文「ヴァイマール・ドイツの日本人知識人」を公刊、全編力作揃いで、4月27日の『毎日新聞』に、山内昌之さんが、良く読み込んだ書評を書いてくれました(東大出版会、2008年3月)。
本サイトの目玉「国際歴史探偵」、特別研究室「2008年の尋ね人」のテーマ<上海におけるゾルゲ、尾崎秀実の周辺>の、「鬼頭銀一、山上正義、川合貞吉、水野成、船越寿雄、河村好雄、野澤房二、副島隆起、新庄憲光、大形孝平、手嶋博俊、坂田寛三、日高為雄、田中慎次郎らについて、情報をお持ちの方は、加藤katote@ff.iij4u.or.jpまたは渡部富哉watabe38@parkcity.ne.jpへお寄せください」と呼びかけて、いくつかの情報がすでに寄せられています。この3月訪中は「ゾルゲと周恩来、上海で秘密接触=情報活動で協力−中国共産党元工作員が回想録」という時事通信発信ニュースに結びつきました。鍵を握るのは、日本ではあまり知られていない1930年代初頭の周恩来指揮下の地下情報組織「中共中央特科」と、その指導的活動家「潘漢年」という謎の人物で、さしあたりは、故丸山昇さんの『上海物語 国際都市上海と日中文化人』(講談社学術文庫、2004年)が背景理解に必読のほか、読売新聞社編『20世紀 どんな時代だったのか 戦争編 日本の戦争』(読売新聞社、1999年)、鈴木明『新「南京大虐殺」のまぼろし』(飛鳥新社、1999年)、謝幼田『抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか 覆い隠された歴史の真実』(草想社、2006年)等に、「潘漢年」の話が出ていて、予期せぬ参考書となりました。「尋ね人」ページには、ちきゅう座スタディルームの渡部富哉さん連載1−1「ゾルゲ事件の真相究明から見えてくるもの」、1−2「尾崎秀実の10月15日逮捕は検事局が作り上げた虚構のひとつ」、2−1「ゾルゲ事件の真相究明から見えてくるもの 2」2−2「尾崎秀実は日本共産党員だった」をリンクし、「尾崎秀実の後継諜報員として摘発された野沢房二の孤高な闘い」についての渡部富哉さんの最新の研究にもとづく小論を入れてあります。中間報告を論文にした、昨年の<崎村茂樹の6つの謎 >とも相通じる、20世紀史の中に埋もれた無名の情報戦犠牲者たちの発掘です。昨年11月ゾルゲ・尾崎墓前祭での講演、加藤哲郎「ゾルゲ事件の残された謎」が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第19号(2008年6月)に掲載されましたのでアップ。R・ゾルゲ『新ドイツ帝国主義』の訳者で尾崎秀実とも朝日新聞・昭和研究会で一緒だった益田豊彦(1900−74)について、イシタキ人権学研究所石瀧豊美さんの『西日本新聞』連載「曲折の行路 昭和史と益田豊彦」全20回分をリンク。どちらもpdfファイルです。
4月10日に発売された加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』(法律文化社)に、私自身は「グローバル・デモクラシーの可能性ーー世界社会フォーラムと『差異の解放』『対等の連鎖』」を書きましたので、新規アップ。ただしウェブ用短縮版です。同時に、3月中国旅行の紀行文エッセイ「『社会主義』中国という隣人」が『葦牙』第34号(2008年7月)に掲載されたので、こちらもアップ。本サイトの目玉「国際歴史探偵」、特別研究室「2008年の尋ね人」のテーマ、昨年の成果、花伝社 論集『情報戦の時代ーーインターネットと劇場政治』、『情報戦と現代史ーー日本国憲法へのもうひとつの道』について、『図書新聞』編集長米田綱路さんが、長文の書評を書いてくれました(第2859号、2008年2月23日)。「モスクワ、ベルリン、日本をまたぐ20世紀情報戦の人的ネットワークを解明」「『疑心暗鬼の政治学』にからめとられながら、『大義』に生きた人びとの系譜」ですって。よく読んでいただき多謝。続く「情報戦のなかの『亡命』知識人ーー国崎定洞から崎村茂樹まで」(20 世紀メディア研究所『インテリジェンス 』誌第9号、2007/11,紀伊国屋書店)、「グローバルな地球社会のナショナルな国家」(尾崎行雄記念財団『世界と議会』第518号、2007年11月)はアップ済み。図書館内「ネチズンカレッジ」 学術論文データベ ースに、宮内広利さん「世界史の最初と最後」をアップしました。 学術論文データベ ースの私の論文●加藤哲郎「日本におけ る『市民社会』概念の受容と展開」(2006.1)と●周初(淵邊朋広・日本 語版監修)「第一部 台湾における市民社会の形成と民主化」(2006.1)が、北京大学国際関係学院の梁雲祥・印紅標両先生と の連絡がとれて、 ●梁雲 祥(北京大学国際関係学院)「序章 市民社会と民主化の概念及び理論」 (2007.10)、●梁雲祥(北京大学国 際関係学院)「第二部 シンガポールの民主化」(2007.10)、●印紅標(北京大学国 際関係学院)「第三部 香港市民社会の発展と民主化」(2007.10)の3つの論文 が追加され、日本語インターネット版一書の体裁にまとまりました。このほかいくつか新しい論文がありますが、夏休みにアップします。
『エコノミスト』誌 連載書評「歴史書の棚」に6月17日号の阪本博志『「平凡」の時代』(昭和堂)と五十嵐恵邦『敗戦の記憶 身体・文化・物語 1945−1970』(中央公論新社)を「『平凡』『明星』の時代を貫くトラウマと『消毒』」と題してアップ。5月20日号の、井手孫六『中国残留邦人――置き去られた六十余年』(岩波新書)と今西光男『占領期の朝日新聞と戦争責任 村山長挙と緒方竹虎』(朝日新聞社)を、「厚生省は なぜ残留邦人を救えなかったのか」と題してアップ。4月15日号の「今さらマルクス? 今こそマルクス?」と題した佐藤優『私のマルクス』(文藝春秋)と寺出道雄『山田盛太郎 マルクス主義者の知られざる世界』(日本経済評論社)、3月18日号の、城戸久枝『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』(情報センター出版局)と梁世勲『ある韓国外交官の戦後史 旧満州「新京」からオスロまで』(すずさわ書店)を「旧満州の記憶をめぐる、日・中・韓国人の落差」、2月18日号の、袖井林二郎『アーサー・シイク 義憤のユダヤ絵師』(社会評論社)、三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日新聞社)を取り上げた「今こそ真剣に向き合うべき、世界大戦期日本外交」、1月21日号のピーター・バーク『時代の目撃者』(諸川春樹訳、中央公論美術出版)と松村高夫・矢野久編著『大量虐殺の社会史 戦慄の20世紀』(ミネルヴァ書房) の組み合わせでの「イメージがつくる歴史の虚像と実像」、などと共にどうぞ。
長文書評は、社会思想史学会年報『社会思想史研究』第31号(2007年)に寄せた西川正雄『社会主義インターナショナルの群像 1914-1923』(岩波書店)を 図書館に入れたところで、残念ながら西川教授の訃報で、追悼文を加えました。追悼文をもう二つ、元同志社大学人文科学研究所長田中真人さん追悼「田中真人さんの学風と鮒寿司」を同志社大学『キリスト教社会問題研究』第56号(2008年2月)に発表し、さらに追悼会用の別文「田中真人さんが逝って、遺された者は…」も加えアップしました。栗木安延さん追悼文「『熟練工』』栗木安延さんを偲ぶ」も、このたび7回忌の「偲ぶ会」とのことで、バージョンアップしました。ついでに図書館特別室に入れていなかった廣松渉さん、森安達也さん追悼(『国民国家のエルゴロジー・あとがき』末尾)もアップ。廣松さん、森安さん、西川さんや田中真人さんと話し合った歴史学方法論が面白くなってきたので、ジョナサン・ハスラム『誠実という悪徳 E.H.カー 1892−1982』(現代思潮新社)にも書評で挑戦、『週刊読書人』2月1日号に掲載されました、と書いたところで、肉親の喪失。前回更新をパスした理由を再録させていただきます。
恒例で、今年3月に卒業した一橋大学加藤ゼミ08卒業学士論文を5月にアップ。新入生用に、インターネット上では、「 ナレッジステーション 」に、丸山真男『日本の思想』、デーヴィッド・ヘルド『グローバル化とは何か』、斎藤純一『公共性』を「政治学 ・おすすめ本」として挙げておきました。ただしIDE大学協会『IDE 現代の高等教育』第495号(2007年11月)に寄せた「大学ランキングと一橋大学の取組み」は、3月31日朝日新聞記事「上位狙いか疑問視か 海外発『世界大学ランキング』」にあるように、「ネチズンカレッジ」とは別世界の話ですので、本サイトには収録しません。ただし、朝日新聞社『2009年版大学ランキング』に寄せた「大学教員のメディア発信 広告塔か、社会貢献か」は、一般性を持つエッセイですので新規アップ。一橋大学学生用には新学期講義案内が更新してあります。