ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記などが、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
2005年最後の更新です。年頭に、今年は戦後60年なので、丸山真男『自己内対話』を毎号使うと公約したのですが、毎号はご紹介できませんでした。でもリピーターの皆さんは、何回かの利用・引用で、その驚くばかりのアクチュアリティはわかっていただけたろうと思います。そこで締めくくりに、「社会――人間と人間との関係しかた――を通しての自己完成」「若いうちに、感受の弾力性があるうちに、異質的なものと対決せよ」「組織が主体から分離して客観化し、その中の人が組織に身を委ねて慣習的に、無意識的に組織によって規定された仕方で行為する様になると、その組織は凝固し、生に対して阻害的に作用する」――皆、丸山の日記「折たく柴の記」の冒頭、昭和18年6月2日の言葉です(『自己内対話』みすず書房、3−6頁)。京都で起こった、教師志望の学生の小学生刺殺事件、彼は刑法は学んでいたようですが、「社会――人間と人間との関係しかた」は学んだのでしょうか。「小泉劇場」に対抗して「違い」を出すために、集団的自衛権まで認めようと言う野党党首、彼は本当に「異質なもの」と真剣に対決したことがあるのでしょうか。よく言われるように、規律と効率だけなら最高の組織が軍隊です。イラクのサマワの自衛隊の人々は、国会でのまともな議論もないまま、また1年駐留が延長され、またも宿営地附近に着弾、ブッシュ大統領も初めてイラク民間人死者が3万人と認め、開戦時「大量破壊兵器」情報の誤りを認め、ネオコン内部からもあのウォルフォウィッツが「イラク侵攻必要なかった」の不協和音、新聞社を買収して記事を書かせていた情報工作まで明るみに出て、その空しい引き際が時間の問題になってきているのに。この「靖国」小泉首相のブッシュ・アメリカとの無理心中外交で、せっかく中国・韓国からもマレーシアに首脳が集まったのに、日本にとっての東アジア・サミットの結果は惨めなもの。昭和18年の方向に向かっていくことだけは、さけたいものです。
今年出した単著は、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)、今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)等と共に、改憲問題・皇室典範問題との関わりで、思わぬアクチュアリティを持ってきました。国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究、1950年代沖縄の解放運動第一次資料(総目次)を網羅した『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻 (不二出版)が、ついに完結しました。論文は、日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』、旧ソ連の日本人共産主義運動指導者残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)、ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター) に続いて、前回新たに講演記録をアップ。「グローバリゼーションと情報」(『聖学院大学総合研究所紀要』第33号、2005)という論文のウェブ版です。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、「満州国という魔物と女たちが見た魑魅魍魎」と題して、12月6日号の佐野眞一『阿片王 満州の夜と霧』(新潮社)と由井格・由井りょう子編『革命に生きる 数奇なる女性・水野津太――時代の証言』(五月書房)をアップ。「20世紀のどこかで、労働の意味が変わった」と題した11月8日号のロナルド・ドーア著・石塚雅彦訳『働くということ グローバル化と労働の新しい意味』(中公新書)及び稲葉振一郎『「資本」論 取引する身体/ 取引される身体』(ちくま新書)と、「現代史の連鎖視点と非戦という平和思想の原点」の10月18日号山室信一『日露戦争の世紀 連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書)、及び梅森直之編著『帝国を撃て 平民社百年シンポジウム』(論創社)等と共に、今年一年の読書界を振り返って、まとめてご笑覧を。教育関係で恥ずかしながら、先日発売の朝日新聞社のアエラ・ムック『マスコミに入る』で、一橋大学の私のゼミナールが、なぜか「マスコミに強い大学」のゼミ単位東日本代表に選ばれ、西日本代表の関西大学山口ゼミと共に、「堅実・純粋な感性」を養う「社会への関心が高い『問題意識』の強い学生が集う」ゼミナールとして出ています。確かに50人以上のゼミ卒業生がマスコミに入ってますし、大学の学生集めも競争・広告の時代ですから、スキャナー版でこっそりアップ。
ちょうど『反改憲運動通信』というミニコミ・メール新聞第15号(2005/12/7)に、先月の中国旅行記「中国・韓国頼みでは憲法は守れない」が活字になりました。このさい全文掲載で年の瀬のご挨拶とします。新年は例によって、本サイトもちょっぴり衣替え、情報処理センター(リンク集)の更新です。皆さん、よいお年を!
問題を長期に見ると、構造改革や規制緩和という「官から民へ」の流れ、「失われた十年」からの脱出が、「官」の公共事業ではできなくなったので、投資が都市型民間マンション建設に向かった、新自由主義の問題があります。私たちの国立大学法人化もその一環ですが、公務員削減・民間活力導入が、実際にはコスト削減・リストラにばかり向けられ、「公共性」が忘れられて、新たな雇用創出につながっていないのです。もう一つ言えば、税制でもそうですが、「民」をいいながらもっぱら生産者・ディベロッパー優遇に向かい、最大の「民」である生活者・消費者が置き去りにされています。BSE問題や、フリーター、ニート問題にも、共通しています。「官」が「公共性」を忘れて「民」の経営様式・コストダウンのみを学び、「民」の世界でも「社会的責任」「コンプライアンス」が焦点になっていることが、軽視されているのです。そのさらに背景には、アメリカの圧力があります。在日米国大使館サイトの「政策関連文書」コーナー「経済通商関連」「規制改革」に入れば、 毎年膨大な「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」が出されているのがわかります。郵政民営化もデビットカードも、なるほど小泉首相の「構造改革」のルーツはここなのか、とよくわかりますね。つまり、全体は「アメリカ任せ」の大問題ですが、「官」任せも「民」任せも、「公共性」ではありません。生活者である市民が加わり、責任を負うのが、「公共」の世界です。「官」の無駄遣いや硬直性を監視するのも、「民」の暴走や反社会的行為に歯止めをかけるのも、「公共」の役割です。ハーバーマスの『公共性の構造転換』、斎藤純一さんの「公共性」概念整理、花田達朗さんの「公共圏」論、それに小林正弥さんたちの「公共哲学」ネットワークが、今こそ出番です。ただし「公共圏」をローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルのどのレベルから構築するか、中央・地方関係のどこに権限を委ねるかは、問題=イシューの性格と関係者=ステイクホルダーで異なります。今回の耐震設計偽造問題からどのような教訓を導くか、教育や高齢者医療、地域おこしの分野とならんで、日本の「公共力」が問われています。
忘れてならないのは、イラク・サマワの自衛隊。14日で滞在期限が切れますが、日本政府は自動延長の構え。日本の世論の69%が反対し、小泉内閣・自民党支持層でも6割が反対しています。アメリカは、イラク人の世論調査で8割から撤退を求められ、CIA秘密拷問施設疑惑ではEUと正面対立、前回更新の予想通り、ブッシュ大統領のアジア訪問では忠犬小泉以外味方を作れず、韓国は派兵削減を決定、アメリカ国内でのブッシュ大統領支持率も就任以来最低の35%、議会からはイラク戦争は「勝利か敗北か不明」と調査報告書をつきつけられ、まさに、四面楚歌です。ブッシュ支持をひたすら続けるのは番犬小泉のみで、腹心ブレア首相のイギリス政府首相府からも「ブッシュが テレビ局アルジャジーラ爆撃を画策」メモが出てくる始末。「復興支援」を名目にした日本の自衛隊の存在理由は、もはやほとんどなくなっています。国際社会における日本のプレゼンスの低下も、むべなるかなです。代わりにアジアで求心力を高める、「赤い資本主義」中国の生成のルーツが、あの世界1千万部のベストセラー『ワイルド・スワン』の著者ユン・チアンによって、暴かれました。講談社から邦訳の出た『マオ:誰も知らなかった毛沢東』の面白さは、尋常ではありません。別に、私が先月中国に行ってきたからとっつきやすいというだけではなく、平易な叙述にドラマチックな構成で、分厚い上下計1200頁が一気に読めます。文化大革命を女性の眼から描いた前作から十年をかけた取材と資料収集は、驚嘆すべき緻密さです。毛沢東と会ったことのある世界中のVIP・関係者、それに各国研究者にもインタビューし、本格的な20世紀中国史に仕上げています。邦訳を本屋でめくると、出典や参考文献が出てこないと早とちりする研究者が出てきそうですが、膨大な注と参考文献は、特設ウェブサイトからpdfファイルでダウンロードする仕組みで、これも日本の出版界では新しい試み。その注は、旧ソ連崩壊後の秘密文書中の中ソ両国共産党関係書簡・秘密電報・個人文書、米国国立公文書館文書のみならず、中国共産党中央の極秘文書も使われています。それもそのはず、共著者は、ユンの夫でソ連史にも詳しいジョン・ハリディ教授。英語圏の日本帝国主義分析では、「日本=ポスト・フォード主義国際論争」を組織した私や故ロブ・スティーヴンにとっての大先輩でしたし、朝鮮戦争や戦後アジア史を勉強した人は、ブルース・カミングスやギャバン・マコーマックと一緒の仕事で、おなじみでしょう。つまり、イギリスのラディカルなアジア研究者が、膨大な第一次史資料を分析し、文革体験者である妻のユンと一緒に世界中でインタビューして描いたノンフィクションで、現代中国史の重厚な研究書でもあるのです。日本についての記述は相対的にわずかですが、インタビュー相手は、三笠宮崇人、二階堂進元官房長官、有末精三中将から日本共産党の宮本顕治、野坂参三、不破哲三まで、学会関係者も、中島嶺雄・竹内実・秦郁彦・衛藤瀋吉、藤原彰と、急所を押さえています。私たちの先頃完結した「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻(不二出版)の基本資料提供者金澤幸雄さんのお名前もあって、その目配りに感心しました。衝撃の内容は、すでに英語版が春に出て、国際的な反響をよび論争も行われていますが、おそらく21世紀の中国革命観を揺るがすことになるでしょう。毛沢東が抗日戦争を指導したという神話、「農村から都市へ」戦略の提唱者だったという神話、スターリンと異なる民衆観・農民観を持っていた神話は、ことごとく根拠を示して否定され、中国民衆7千万人を死に追いやった、ヒトラー、スターリン以上の王朝的独裁者、男尊女卑の享楽主義者として描かれます。ニクソン訪中の真実、周恩来の屈辱的役割など、戦後の部分も圧巻。先日上海で調べたばかりの1930−32年ゾルゲの中国滞在の秘密も、簡潔ですが、ちゃんと出てきます。私のゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)で述べた仮説を、補強してくれました。先日訪れた杭州西湖の毛沢東別荘で英語を学んだ(写真)というのは、どうやら粉飾顕彰のまやかしで、ここが文化大革命の陰謀司令基地だったようです。一気にといっても分厚いですから、正月休みにぜひどうぞ。
今回は、新たに講演記録をアップ。「グローバリゼーションと情報」という『聖学院大学総合研究所紀要』第33号(2005)掲載論文の原型。ただし活字版は、討論部分が本文の二倍近いスペースで入ってますから、引照等はそちらの方で。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、前回「20世紀のどこかで、労働の意味が変わった」と題した最新11月8日号のロナルド・ドーア著・石塚雅彦訳『働くということ グローバル化と労働の新しい意味』(中公新書)及び稲葉振一郎『「資本」論 取引する身体/ 取引される身体』(ちくま新書)と、「現代史の連鎖視点と非戦という平和思想の原点」の先月10月18日号山室信一『日露戦争の世紀 連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書)、及び梅森直之編著『帝国を撃て 平民社百年シンポジウム』(論創社)をまとめて一挙に新規アップしましたが、現在発売中の12月6日号では、佐野眞一『阿片王 満州の夜と霧』(新潮社)と由井格・由井りょう子編『革命に生きる 数奇なる女性・水野津太――時代の証言』(五月書房)を「満州国という魔物と女たちが見た魑魅魍魎」として取り上げました。アップは次回にしますが、9月13日号「つきあい・ふれあい・はりあいネットワークの戦後史」の天野和子『「つきあい」の戦後史 サークル・ネットワークの拓く地平』(吉川弘文館)と道場親信『占領と平和 <戦後>という経験』(青土社)、8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、等と共にご笑覧を。自民党憲法草案が発表されて、CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した、『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」、日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』、それらををもとにした単行本『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)、今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)等が、思わぬアクチュアリティを持ってきました。12月は、私の「国際歴史探偵」の出発点だった国崎定洞が粛清され(10日)、日本人粛清犠牲者で唯一21世紀まで生きのびた寺島儀蔵さんの命日(3日)の月。旧ソ連の日本人共産主義運動指導者残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)、ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、でその背景を偲びましょう。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第3回配本第1巻が発売され、ようやく完結しました。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等で注文し、ぜひご参照ください(不二出版)。そういえば、教育関係で恥ずかしながら、先日発売の朝日新聞社のアエラ・ムック『マスコミに入る』で、一橋大学の私のゼミナールが、なぜか「マスコミに強い大学」のゼミ単位東日本代表に選ばれ、西日本代表の関西大学山口ゼミと共に、「堅実・純粋な感性」を養う「社会への関心が高い『問題意識』の強い学生が集う」ゼミナールとして出ています。確かに50人以上のゼミ卒業生がマスコミに入ってますし、大学の学生集めも競争・広告の時代ですから、スキャナー版でこっそりアップ。
もっとも私の滞在目的の一つは、北東部魯迅公園近くの虹口地区旧日本人租界の調査。上海では、どんどん旧い町並みがこわされていますが、幸い旧内山書店裏の1930年代初頭に大阪朝日新聞特派員尾崎秀実の住んだあたりのたたずまいは、昔のままです。内山完造はよく知られていても、ゾルゲ・尾崎秀実らはほとんど知られていない中国で、直接の史資料はみつかりませんでしたが、過去の上海地図と現在をダブらせた木之内誠編著『上海 歴史ガイドブック』という超便利な本(大修館書店)を片手に、旧日本上海船便埠頭、東亜同文書院跡、アグネス・スメドレー旧居などをじっくり回って、まあ満足。尾崎秀樹『上海1930年』(岩波新書)、佐野眞一『阿片王』(新潮社)、それに映画『スパイ・ゾルゲ』のDVDまで持っていたのですが、やっぱり「魔都」の雰囲気を知るには、現地踏査が一番でした。たとえば旧日本人街の露地の狭さとアパートの作り。国民党に追われた魯迅ら左翼作家たちが、日本租界の露地裏に逃げ込み、心ある日本人の家に飛び込めばかくまってくれる仕組み。ゾルゲ事件の実相を、当時の世界情報戦のなかに位置づける仕事は、これまでの旧ソ連、アメリカ、インドでの調査を踏まえて、近く本格的に書き始めます。さしあたり、ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)をご参照ください。写真は、調査助手をつとめてくれた、かつての大学院での教え子周初君と魯迅記念館で。
でも、今回の中国滞在の本筋は、11月1日に短く記したように、華東師範大学での集中講義。国際関係専攻の学生・院生が相手なため、冷え切った日中関係、小泉首相の靖国参拝にも触れざるをえませんでした。もっとも講義では、「高度経済成長の光と陰」をベースに、1964年東京オリンピックから70年大阪万博の時代の日本の教訓を、2008年北京オリンピックから10年上海万博へと向かう中国の今にダブらせて話したので、中国人学生の質問は過労死、元切上げ、文化摩擦にも及んで、日本政治と安全保障の問題にだけ答える必要はなく、全体としては大変実質的で、有益でした。日中関係を専攻する学生は新防衛大臣の名前や沖縄米軍基地再編問題まで知っていますが、アメリカやEUを専攻する学生は、日本国憲法第9条も教科書問題も、あまりよく知りません。本「ネチズン・カレッジ」をいつも見ているという日本研究者が、別々に3人も現れたのには、びっくりしましたが。むしろ「100人の地球村」をイントロに使って、21世紀における中国とインドの意味から論じたのが効いてか、インターネットやアニメによる相互理解、環境問題や女性の地位向上での相互交流・連帯という、前向きの話が受けました。正確に言うと、これには世代差があります。現在中国の大学の長老教授クラスは、まだ中国革命と毛沢東の申し子ですし、文化大革命も経験しています。第二外国語はロシア語教育を受け、旧ソ連・東欧留学のエリートもいます。「日本帝国主義の侵略戦争」「アメリカ帝国主義の世界支配」を自明の前提に、自衛隊の海外派遣や小泉内閣の右傾化について語ります。しかし、文革以降に大学に入り、改革開放の波に乗って英語も勉強してきた世代は、むしろ、日本の高度成長やバブル経済・失われた十年に、自国の経済発展に引きつけた関心を持ちます。小泉首相の靖国参拝や「つくる会」教科書にはもちろん厳しいですが、それは「反日」というほどのものではなく、日本の現在のナショナリズムの基底にある「嫌米」とよく似た、「嫌日」気分といった感じです。それに、普通の若い世代の関心は、今や日本よりアメリカですから、旧世代のように、日中関係を過去に遡って論じると言うより、現在の日中関係を、日本の背後のアメリカとの関係で見ています。中国への進出著しいEU諸国や韓国、中国企業が進出しはじめたベトナム等東南アジアや中央アジア、将来のライバルであるインドや中東まで視野において、日中両国政府の対応を、結構醒めた眼で見ています。これが、ある面では問題です。例えば日本の自衛隊や憲法改正問題も、自国が強大な人民解放軍を持ち、共産党一党支配のもとにありますから、日本人が憲法改正をメディアやインターネットで自由に論じていること自体が「民主化」「法治」の証しに見え、うらやましいという学生までいます。小泉首相の靖国参拝は、中国の有人宇宙船「神舟6号」帰還日に合わせたのが侮辱で許せない、といいます。新世代は「日本軍国主義」には反発し、「中国大国化の可能性」を信じていますが、「社会主義の優位性」はほとんど信じていません。日本国憲法第9条も知りませんから、軍隊自体には、違和感を持ちません。もう一つ感じたのは、若い人々の日本観が、中国進出日本企業と日本製品、音楽やアニメを通じて、技術・品質の高さや日式商店のサーヴィス、浜崎あゆみや宮崎駿を通じた「追いつき追いこせ」風に語られることです。例えばテレビのアニメでは、中国政府の検閲をくぐりますから、宮崎駿や「クレヨンしんちゃん」「ドラゴンボール」といった「健全」路線が主流で、暴力や性を売り物にした流れは遮断されて「日本」イメージが作られます。これが実際に日本に留学すると、醜い面のみが眼について、反発する学生を生んだりします。中国でも日本に劣らぬ「韓流ブーム」で、テレビドラマやDVDがいっぱい出回っていますが、これは韓国資本のアジア進出、日中韓市場競争がセットになっています。つまり、国の運営は共産党に委ねてきて、市場経済への憧憬が素朴なだけ、新自由主義への免疫が出来ていない感じです。若い世代の国際交流・文化交流、研究者の学問的交流と平和への連帯は有意義ですが、少なくとも日本型左翼の一部にある、中国や韓国の「外圧」に依拠して自民党政権や憲法改正に対抗するかたちは、どこかでしっぺかえしを喰らうでしょう。アメリカを後ろ盾にしてきた日本政治も日本国憲法も、日本国民多数の支持を得ることによってしか、守ることも変えることもできないのです。
この間、首相の靖国参拝から第3次小泉内閣、自民党憲法草案発表、靖国に代わる新追悼施設問題、米軍再編と沖縄・岩国・座間等基地問題と、重要な政治的決定・問題がありました。国際情勢は、いっそうの激動。フランスが、今度は現代世界の縮図の役割を負わされて、暴動と移民排斥の小連鎖の焦点。ドイツでは、原発廃止は継続、トルコのEU加盟には慎重にで、ようやく大連立内閣成立。イギリスでは、ブレア政権の「反テロ」法案が与党労働党内造反で否決。そして、15日に来日し金閣寺を訪れ、その後韓国・中国に向かうブッシュ米国大統領は、ついに国民から「道徳レベル」を疑われて、側近も遠ざかり、いよいよ裸の王様へ。このアジア訪問のポイントは、忠犬小泉との会談ではなく、中国との貿易摩擦協議と人民元切上げです。ヨルダン・アンマンでの高級ホテル爆破は、9・11、イラク戦争の連鎖がなお続いていることを示します。しかし、中国で拾った世界ニュースで印象的だったのは、ロシアにおける「革命記念日」の消失。かつて1917年11月7日は、フランス革命の1789年7月14日に続く世界史の大転換期とされ、それゆえに、1944年 11月7日に死刑執行となったリヒアルト・ゾルゲと尾崎秀実は、信念を貫き通し「世界革命万歳!」を叫んで、来世に旅立つことができました。ゴルバチョフ時代の1989年にレーニン像が倒され、91年にソ連邦が解体しても、国名をロシアに戻したエリツィン政権は、「革命記念日」をただちには廃止せず、「和解と合意の日」として祝日にしてきました。日本なら明治天皇誕生日を「文化の日」に、昭和天皇誕生日を「みどりの日」に読み替えたやり方。ところが、今日のプーチン政権は、今年11月4日を1612年に国民軍がポーランド軍を撃退した「民族統一の日」に制定、こちらを祝日にして、11月7日は平日にしてしまいました。「短い20世紀」の一方の雄であったロシアは、「革命」とソ連邦の記憶を、国民的に忘却しようとしています。レーニン・スターリン人気はまだまだ残っているようですが、それはどうやら、「大国ロシアの英雄」を誰にするかのナショナル・シンボルをめぐる争い。どうも、21世紀初頭の世界のナショナリズムのあり方は、ベネディクト・アンダーソンの「想像された共同体」という相対化ではなく、かつて丸山真男が依拠した、ハンス・コーンの「過去における共通の栄光、 現在における共通の利益、将来に対する共通の 使命」の方が説明力を持つ、閉塞化・再ボーダー化が進んでいます。経済的・情報的グローバリズムの深化や拡大欧州連合の出現が、「100人の地球村」「もう一つの世界」にストレートには向かわず、9・11テロの産み出した「共通の不安」「懼れの共同体」を基礎に、国民国家はかえって内向してきているようです。だからこそ、国境を越えた民衆の直接的交流が、いっそう大切です。国内にいる「外国人」を貴重な隣人として大切にし、テロ対策という名の「指紋押捺」が復活し「電子パスポート」になる前に、旅に出ましょう。
本来は80万ヒットで情報処理センターのリンク集「 政治学が楽しくなるインターネット宇宙の流し方」を更新すべきところですが、仕事と締切がたまりにたまって、とてもサーフィンできません。冬休みにとっておきます。前回更新できなかったので、図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、「20世紀のどこかで、労働の意味が変わった」と題した最新11月8日号のロナルド・ドーア著・石塚雅彦訳『働くということ グローバル化と労働の新しい意味』(中公新書)及び稲葉振一郎『「資本」論 取引する身体/ 取引される身体』(ちくま新書)と、「現代史の連鎖視点と非戦という平和思想の原点」の先月10月18日号山室信一『日露戦争の世紀 連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書)、及び梅森直之編著『帝国を撃て 平民社百年シンポジウム』(論創社)を、まとめて一挙に新規アップ。9月13日号「つきあい・ふれあい・はりあいネットワークの戦後史」の天野和子『「つきあい」の戦後史 サークル・ネットワークの拓く地平』(吉川弘文館)と道場親信『占領と平和 <戦後>という経験』(青土社)、8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、7月12日号「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)等と共に、ご笑覧を。自民党憲法草案が発表されて、CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」、それををもとにした単行本で『朝日新聞』論壇時評で金子勝さんにとりあげられ『週刊文春』で米原万里さんが論じてくれた『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)、今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)が、思わぬアクチュアリティを持ち出しました。実は、上述民族論のハンス・コーンも、戦時米国亡命中にOSSで重用されました。旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)、ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』も、面白いですよ。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第3回配本第1巻が発売され、ようやく完結です。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等で注文しぜひご参照ください(不二出版)。
2005/11/1 上海に来ています。ホテルのインターネット環境が悪く、更新は最小限に留めます。今日、小泉内閣改造の翌日に、よりによって華東師範大学国際関係大学院で日中関係の講演。覚悟はしていましたが、厳しい質問が続きました。個人的には首相の靖国参拝に反対だと前置きして話したのですが、内閣改造でA級戦犯の孫が官房長官、中国革命・日米安保締結時の首相の孫が外務大臣、二人とも靖国参拝組なことぐらい、中国の大学院生もインターネットで知っています。国民世論の動向ぐらいでは、説明になりません。新防衛庁長官や米軍基地再編を含め、「中国への挑戦」と当地ではうけとめられていますから、なぜ小泉首相が支持されるのかを、情報戦から社会主義・共産主義の衰退まで総動員したのですが、何とかわかってもらえたでしょうか。「2005年一橋大学学生意識調査結果」での「嫌いな国中国」増大まで知っている研究者がいるのにびっくり。救いは、お互いに英語だったこと。変なニュアンスが入りませんから、かえって率直に話せた感じ。「このような相互討論の機会を絶やさないことが大切」と結んで、切り抜けました。あと2回、こんな講演が続きます。アメリカ国内政治やドイツの新内閣組閣も重要なのですが、本格更新は、来週帰国後までお預けとします。
イラクのサマワに派遣されている自衛隊も、「非戦闘地域」への「人道復興支援」のはずでした。でもテレビや大マスコミでは、このところどうなっているのか、ほとんどわかりません。9.11総選挙前にも、8月7日に知事の辞職を求める民衆デモに警官隊が発砲し1人死亡60人負傷した事件がありましたが、ちょうど国会解散時で、小さく報じられただけでした。総選挙投票直後に外務省が認めた「英・豪軍、サマワ撤収を検討」のニュースは、実はその「1、2か月前に」両国政府から連絡してきたもので、明らかに選挙を考慮した情報操作・隠匿でした。「自衛隊が約束した復興は、まったくといっていいほど果たされていません。隊員を通りで見ることもありません。一体ここで何をやっているのでしょう」という現地住民の声は、『しんぶん赤旗』報道で影響力無し。そういえば「イラクのサマワに駐留していた米軍第442憲兵部隊に所属する兵士の内、帰国後に検査を受けた9人の内4人が、劣化ウラン弾の残留物で被爆し、放射線障害に苦しんでいることが判明した」という昨年4月の外電の後追いは、どうなってるんでしょうか。10月13日、サマワのオーストラリア軍部隊に初の銃撃がありましたが、報じたのは『中国新聞』です。そもそも「サマワ自衛隊の活動がテレビや新聞、本などでほとんど報道されないのは、一体なぜか?」が大問題なのです。大手マスコミの「自主規制」です。英豪軍のいなくなったサマワで、自衛隊は、何のために駐留し、何ができるのでしょうか? 本15日は、イラク新憲法の国民投票の日、スンニ派の態度が注目ですが、現地は緊迫しています。アメリカの世論調査では、もう「ブッシュは失敗した大統領として歴史に記憶される」が41%、支持率も最低の39%です。ところがこの国では同じ日に郵政法案再提出可決で、永田町・霞ヶ関はすっかり小泉信任モード、12月14日で期限の切れるサマワ自衛隊駐留延長も当然という雰囲気。でも、それでいいのでしょうか? 政府は、現地の自衛官のご家族の方々に、本当に責任を持てるのでしょうか?
更なる政治の無責任は、沖縄の米軍普天間基地の移転先問題。現地の『琉球新報』『沖縄タイムス』は連日大きく報じていますが、本土の大手マスコミは、相変わらず小泉チュルドレンの方がお好きなようで、辺野古の緊迫は他人事のよう。米軍も日本政府も、沖縄県の意見さえ聞かずに、辺野古の海に線を引いて決めようとしています。実はこの辺野古の急展開、11月15・16日のブッシュ大統領訪日への「おみやげ」説がもっぱら。それも今度は京都で、小泉・ブッシュ祇園の宴の目玉にするとか。総選挙以上に演出に力を入れているのは、ひょっとすると米国議会向けの劇場効果狙いかもしれません。「沖縄の負担を全国民で分かち合うなら、国外、本土移転の両方を考えたい」といった小泉純一郎首相の言葉を県民は決して忘れてはいない、という沖縄の人々の願いを犠牲にして。これらすべては、憲法問題に収斂します。自民党の改憲草案の全容が、だんだん明らかになってきました。前文を全面的に書き換え、(1)愛国心の明記、(2)天皇制に触れつつ国の成り立ちを紹介、(3)国防の意義の強調(4)「自主憲法」との明記、なそうです。でも立花隆さんがいうように「憲法は誰を縛り誰が守るのか」の根本が転倒しています。立憲主義の基本が、この国では漂流気味。もちろん共和主義の弱さから、第一条の象徴天皇制のみならず、前文に「日本国民は、天皇を国民統合の象徴として古(いにしえ)より戴(いただ)き」との文言を盛り込むとか。ドイツ政治に、要注目。ドイツの新しい首相は、旧与野党「大連立」協議の末に、メルケルCDU党首に決まりました。この流れ、日本の憲法政治でも、自民党と民主党の憲法への姿勢を見ると、日本型「大連立」を言い出す人が出てきますよ。でも、要注意、ドイツには、ラフォンテーヌ元SPD党首を核に、第3極がうまれつつあります。果たしてこの国の憲法問題での、選択肢は? こちらの方が問題なのです。次回更新は、中国滞在中で上海からの予定ですので、この辺を隣国から眺めてみます。ただし、滞在先のネット環境によっては、更新できない場合がありえますので、ご容赦ください。
というわけで、CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」、それををもとにした単行本で『朝日新聞』論壇時評で金子勝さんにとりあげられ『週刊文春』で米原万里さんが論じてくれた『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)、今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)が、思わぬアクチュアリティを持ち出しました。「日本国民は、天皇を国民統合の象徴として古(いにしえ)より戴(いただ)き」なんていうのがうそっぱちだと分かっているからこそ、そうした言説の利用価値に着目し、アメリカは象徴天皇制を残したのです。旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)が最新の収録論文。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、最新10月18日号は、「現代史の連鎖視点と非戦という平和思想の原点」で、山室信一『日露戦争の世紀 連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書)と梅森直之編著『帝国を撃て 平民社百年シンポジウム』(論創社)を取り上げましたが、まだ発売中なので、次回にアップ。9月13日号天野和子『「つきあい」の戦後史 サークル・ネットワークの拓く地平』(吉川弘文館)道場親信『占領と平和 <戦後>という経験』(青土社)の「つきあい・ふれあい・はりあいネットワークの戦後史」、8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、7月12日号「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)等をご笑覧を。ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』は報告書からの収録。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売され、第1巻10月末発売で完結です。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等でぜひご参照ください(不二出版)。
2005/10/1 9/11の余波は、まだ続いています。テレビのワイドショーは「小泉チュルドレン」の追っかけ、新聞は静かになりましたが、週刊誌は「バブル議員」の裏話を満載、月刊誌は「小泉劇場の舞台裏」の解析、政治に関心が持続するのはいいことです。でも巨人に勝った阪神タイガースの優勝と、小泉自民党政府の衆院3分の2議席独占は、同列では論じられません。選挙から3週間たって分かってきた、いくつか。15億円の使途不明金まで出た政治資金のカラクリも出てきて、国民の多くは「自民党の勝ちすぎ」と内省し危惧しています。郵政民営化選挙と言われましたが、この争点のみで選挙区の小泉民営化法案賛成候補の総得票と法案反対候補の総得票を比較すると、「国民の審判」はむしろ反対、控えめにみてもイーブンでした。それが小選挙区死票マジックで、圧倒的な差に見えるのです。「小さな政府への新自由主義構造改革」は、構造改革というリフォーム詐欺の手口を使って、小泉ブームに乗り国民の望む方向に見えました。しかし、「今後の日本社会は、どのような社会を望みますか」と問うテレビの世論調査によると、「税負担が重くても弱者に配慮した平等社会」が64%、「税負担を軽くし所得格差があっても自由競争社会」は16%にすぎません。読書の秋に、前回指摘した「閉塞気分・改革願望」の根拠を探るための本を数冊、新書で気軽に読めるかたちで紹介しておきましょう。第一にロナルド・ドーア『働くということ』(中公新書)、第二に森岡孝二『働きすぎの時代』(岩波新書)、第三に三浦展『下流社会』、第四に稲葉振一郎『「資本」論』(ちくま新書)。中味は読んでのお楽しみ、こんな順序で読んでみると、何らかの社会イメージを得るでしょう。日本社会のシャンペングラス化も進んでいますが、「勝ち組」も出ています。それにフリーター、ニート問題です、少子高齢化です、そこに年金改革の遅れ、膨れあがる国家の借金です。私はかつて「エルゴロジーの政治学」を提唱しましたが、タイミングは早すぎたようです。今改めて「働くことの意味」を問い直すべき時です。そのうえで、そろそろ「ポスト新自由主義」の政府と市場と社会のあり方を考えてみましょう。
でも本を読んで納得・憤激というだけでは、政治は永田町任せになります。永田町・霞ヶ関近辺では、民主党の出直しも、共産党・社民党の陣地防衛も、政府与党の独走に歯止めをかける力は弱そうです。憲法改正では衆院9割の翼賛議会になりそうです。大阪高裁の首相靖国参拝違憲判決も、与党公明党さえ参拝自粛を求めたのに、小泉首相には馬耳東風の様子。昨晩行われた全国政治研究会での北海道から九州までの政治学者たちの05衆議院選挙分析では、いろんな様相・論点が出されました。どうも地域により状況は違うようです。脚光を浴びた広島や岡山と瀬戸内海を挟んだ、四国の造反も刺客もいない選挙区では、従来型の利益誘導型自民党勝利で、投票率もかわらずだったようです。東京・大阪・名古屋近県は燃えて、ある理科系大学では、それまで1割程度だった受講学生の投票率が3割ぐらいに上がったそうです。でも残り7割の若者は相変わらず無関心。新党大地を選んだ北海道、社民党を選んだ沖縄二区など、北と南の周縁にゆくほど「小泉旋風」は空回りだった様子。小選挙区制はもちろん決定的ですが、比例代表の当選ルール、自民党内の本部と地方組織の関係、情報戦としての選挙、「刺客」報道に孕まれたジェンダー・バイアスなど、政治学者の検討すべき新たな課題も浮上、なるほど東京からだけ見ていては見えなくなる論点が多くあります。比較政治の研究者からは、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン等との違い、特に比例選挙のドイツで大連立政権ができそうな情勢と日本との距離が報告されました。
確かに目を離してはいけない、現実政治の核心的磁場があります。日本なら東京ではなく沖縄の辺野古沖、イラクのサマワ、その行方を左右するアメリカ合衆国のワシントンDC。小泉劇場の裏で、変化は着々と進行しています。米軍普天間基地の移転先は、まだ決まっていません。本土のどこも引き受けませんから、沖縄の中でたらい回しにされます。それがあんまり遅れたので、今度は米軍世界戦略の変更で再調整です。ジュゴンの海のまわりで世界史が動いているのに、本土の劇場では上演されません。12月にはサマワの自衛隊について、新たな決断が求められます。もうイギリス軍もオーストラリア軍も守ってはくれません。現地市民の支持はありません。復興救援の仕事もあまりありません。ハリネズミのように、ただ駐留しているだけです。戦争論の世界では、開戦より停戦・和平、出兵より撤退のタイミングが難しいそうです。日本政府は継続延長してひたすら米軍の撤退決定を待つのみ、「海外派兵」の実績だけをつくりたいようです。自衛隊の人々も、たまりません。最近の隊内ドラッグ汚染の広がり、サマワの孤立と無縁でしょうか。そして、ワシントン。ハリケーンがイラクを直撃しています。州兵をイラクに送り出して足元を襲われたニューオーリーンズは、明日の日本ですが、アメリカでは今日の現実です。イラクで息子を失ったシンディ・シーハンさんのハンガーストライキ、ホワイトハウス前座り込み・検挙は日本でも報じられました。でも24日の反戦デモは十万人をこえ、400人もが反戦デモで逮捕されたことは、ほとんど報じられていません。名古屋のローカルな万博も終わって、マツリの季節は去りました。リアルに世界に目を向けましょう。世界経済フォーラムの診断では、日本経済の国際競争力は12位にダウン、男女格差(ジェンダーギャップ)は58カ国中38位で、この面での格差はつとに世界に知られています。賃金は下げても政治献金を膨らませ、選挙では会社ぐるみで動いた財界の一部は、なぜか「東アジア共同体」にご執着です。実は中国でも韓国でもシャンペン・グラス化が問題になっています。日中・日韓も確かに大切ですが、世界はいまやグローバルです。グローバルなシャンペングラスの中で、頂点は無国籍です。取っ手の方で小さなパイを奪い合うよりも、グラスをひっくり返した平等な地球、そこまで行かなくても円柱状に近づけるような構想力が必要です。この秋は、「ポスト新自由主義=差異共存社会」をじっくり考えてみましょう。
10月1/2日は日本政治学会(明治大学)です。引き続き、小林朗さん「大正生れの歌」の替え歌別バージョン、戦時米国の象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」についての情報を求めます。ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)、旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)が最新の収録論文。CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)は、『朝日新聞』論壇時評で金子勝さんにとりあげられ、『週刊文春』で米原万里さんが論じてくれました。ぜひご購入してお読み下さい。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、9月13日号で天野和子『「つきあい」の戦後史 サークル・ネットワークの拓く地平』(吉川弘文館)道場親信『占領と平和 <戦後>という経験』(青土社)を「つきあい・ふれあい・はりあいネットワークの戦後史」と題して取り上げてました。8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、7月12日号「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)を、6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)、多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)、等々と共にご笑覧を。ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、昨年日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』は今春報告書からの収録。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売され、第1巻10月発売で完結です。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等でぜひご参照ください(不二出版)。
2005/9/12特別更新 「閉塞状況からの脱却は、歴史に学んで!」 総選挙の結果が出ました。「世論」は自民党を、小泉首相の強いリーダーシップを、選びました。それも久方ぶりの67%の投票率、都市部で無党派層をとりこむ圧勝、「郵政民営化」イシューで「改革をとめるな」の、自民党改革願望・期待集約型勝利です。公明党を含む与党の議席数は3分の2を越え、参院で否決された法案を再議決で通せるばかりか、衆院では「55年体制」下でもできなかった憲法改正発議権を得ました。小選挙区制による増幅は予測されたとはいえ、「小泉オペラ劇場」の終幕は、おそらく本人も予想しなかった大勝で、強力な権力集中を可能にしました。ちょうど夏休みはワイマール共和国の崩壊期を書物にしていたので、1932年7月のドイツ総選挙を想い出しました。水島朝穂さんや五十嵐仁さんも触れていますが、ヒトラーのナチス党が37%を得て初めて第一党になり、11月選挙の一時的後退を経て33年1月の政権掌握につながった「『国民革命』のシンボル操作」選挙です(飯田収治他『ドイツ現代政治史』ミネルヴァ書房)。もとより時代も国際環境も違います。与野党の力関係も、ドイツ社民党は後退しても22%、共産党が15%で合わせればナチスと拮抗した状況とは異なります。でも、なぜか想起されるのは、国の閉塞状況へのいらだちと打開期待がヒトラーに票が集まった「世論」の動き、その「情報戦」を演出し歓迎し最終的に権力を委ねた一部財界の動きです。ナチスの時代以上に「選挙結果」「民意」の正統化効果は絶大です。ましてや議会の3分の2の議席獲得です。「情報戦の劇場」ははるかに広大で精緻化しています。女性当選者は1946年の戦後第一回総選挙を越える史上最高です。でも、これで何でも与党の思うままとはなりません。厳しい国際環境があります。中国・韓国の警戒感は強まります。米国のイラク占領の手詰まりとハリケーン・カトリーナの失策で、盟友ブッシュ大統領支持率は最低です。13日から6か国協議、18日はドイツの連邦選挙です。こうした外交イシューは、今度の総選挙では問題にされませんでした。ヒトラーも最終的には、内憂「世論」を外患に転嫁することによって権力を維持し、自滅していきました。劇場の激情から離れて、冷静に、冷静に、歴史に学ぶ時です。
2005/9/15
9.11総選挙結果は、上に特別更新した通り。小選挙区の得票で自民党48%・民主党36%という12ポイントの差が、議席数では自民党の一人勝ち219議席73%独占、民主党惨敗52議席17%、56ポイント差と出ました。この差の5倍近い増幅が、悪名高い小選挙区制死票マジックです。電通子会社を使ったビジュアルマジックとかサウンドバイトとか、確かに計算し尽くされたアメリカ式情報戦術の演出効果もありましたが、投票率を7.65%押し上げ、800万人近くの有権者を新たに投票所に動員した事実は重要です。かつて民主党に流れるとされた都市部の無党派層の20代の若者が、投票して「小泉自民党」と書いたのです。小選挙区で次回に「風」をおこせば野党も挽回可能とはいえ、「改革賛成」と自民党に投票した人を含む国民には、深刻な結果です。「郵政民営化に賛成か反対か」のシングル・イシューを突破口に、「改革賛成か反対か」の選択を国民に迫った結果です。インターネット選挙が許されず、国民投票制度がないのをいいことに、マスコミを使って一点突破・全面展開の道を拓いた格好で、実は、サマワのイギリス軍・オーストラリア軍撤退打診が1か月も前に来ていたことや、07年度所得税・住民税低率減税廃止=年8万円以上の実質増税が、選挙後に相次いで明らかになりました。世論調査よりはるかに偏って、今回当選議員の90%以上が改憲派です。早くも国会には常設の憲法調査委員会が作られ、国民投票法案など改憲手続きが進められることに決まりました。「郵政民営化」を突破口とした「改革」とは、選挙中はマニフェストでも漠然としていましたが、どうやら増税や改憲が先行し、小泉支持層でも期待した年金・子育て・財政再建は後回しのようです。「構造改革」には「構造」の診断が不可欠です。そこをブラックボックスにしたまま「改革」を唱えても無意味です。選挙の争点にはならなかった格差拡大、フリーター・ニート問題はどうなるでしょう。「郵政民営化」が突破口になるどころか、いっそう格差を作る蓋然性の方が高いのです。新自由主義に乗った「小泉改革」とは、強者にやさしく、弱者に厳しいものです。グローバルな地球人口の所得上位20%の人々が世界の富の8割以上を持っていることを示す「シャンペン・グラス」構造を、国内にもつくり出します。9.11小泉ハリケーンで、「今日のニューオーリンズは、明日の日本」になろうとしているという警告を、心すべきでしょう。
選挙前から「リフォーム詐欺」が社会問題になっていました。修理の必要ない住宅を危ないと診断してリフォームし、お年寄りを狙って法外な費用を請求・詐取する、あの悪徳商法です。そもそも4年前の小泉首相登場が、「改革」をうたったものでした。でも日垣隆さんが『エコノミスト』9月13日号「敢闘言」に書いてますが、「メルマガの発行以外何一つ公約を実現できていない」のです。あの「新しい歴史教科書を作る会」の西尾幹二さんのブログ「選挙結果を見て」も辛辣です。曰く、「小泉首相は就任以来『改革』を言って来た。四年間それをなし得る地位にあって、彼は実のある改革をほとんどしてこなかった」「今になって急に『改革を止めるな』と党内や野党を悪役にし立てあげて国民に自分だけいい子のポーズを見せる」と。「郵政民営化」も「リフォーム詐欺」になりそうなことは、森田実さんや金子勝さんが早くから警告してきました。でも、国民は閉塞状況にいらだち、将来が不安でした。あの8月8日の記者会見に始まる小泉ドラマに乗って、リフォームの注文を出してしまったのです。せめて修理箇所は最小限にし、水増し請求を拒否しなければ、膨大なツケがまわってきます。世界170か国以上の首脳が集まる国連60周年特別総会が始まりました。日本を含む安保理G4改革案は廃案になったもとで、舞台裏の最初のニュースは米中首脳会談で、11月ブッシュ訪中が決まりました。どんなに小泉首相が媚びを売っても、アメリカにとってのアジア戦略は、いまや中国中心になりました。イラクではまた、絶望的内戦の連鎖で、14日も150人以上が亡くなりました。北朝鮮6か国協議も、予断を許しません。大勝に酔った小泉首相が靖国参拝を強行すれば、国際社会の仲間は米英だけになります。歴史に学びましょう。百年前に清国駐屯軍を置いたことが、その駐屯軍を守るためという軍拡・戦争につながりました。「臥薪嘗胆」の世論に押されて始まった日露戦争は、民衆の日比谷焼打事件と「東洋の盟主」の幻想で、韓国併合・対華21か条要求・満州侵略・日中戦争へとエスカレートしました。長期的展望とセーフティネットのない「改革」は、新たな「臥薪嘗胆」を導きかねません。世界には「改革」の成功例もあれば、失敗例もあります。かつてもてはやされたニュージーランドの行財政改革は、今では「惨状」と評価されます。オランダ方式のワークシェアリングは確かに魅力的ですが、パートタイム労働とフルタイム労働の平等な待遇の上に成り立ちます。少子高齢化に万能薬がないのは、世界の常識です。だからこそ、世界の試行錯誤に学ぶ必要があるのです。あまり報道されていませんが、12日投票の北欧ノルウェー総選挙では、完全比例代表制のもとで、福祉と教育をかかげた労働党中心の左派連合が与党中道右派連合を破り、政権復帰しました。13日発表のOECD教育インディケーターでは、日本の公的教育支出水準は加盟30か国中最低、大学・短大生の私費負担割合は韓国に次ぐ高さ、小中学校の少人数教育はOECD平均に遠く及びません。総選挙で女性当選者は史上最高とはいえ、理系大卒の女性の割合は日本は際だって低くOECD最低です。いまネチズンにできることは、歴史に学び、世界に学び、詐欺ではないリフォーム、改革方向を探ることです。羅針盤となる憲法が改悪される前に。
10月1/2日は日本政治学会(明治大学)です。前日9月30日(金)午後に、全国政治研究会を東京・御茶の水の中央大学駿河台記念館で開きます。非会員の方もお気軽にどうぞ。なお、今回は大会プログラム決定後総選挙結果が出たので、政治学会分科会も04参院選分析だけのようですので、全国政治研の夜の懇親会を「05総選挙結果をめぐって」のテーマにし、すでにインターネット上で分析を発表している五十嵐仁会員・東京政治研世話人から話題提供してもらい、全国の政治学者で多角的に論じあいたいと思います。引き続き、小林朗さん「大正生れの歌」の替え歌別バージョン、戦時米国の象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」についての情報を求めます。ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)、旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)が最新の収録論文。CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)は、朝日新聞論壇時評で金子勝さんにとりあげられ、現在発売中の週刊文春で米原万里さんが論じてくれました。ぜひご購入してお読み下さい。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、9月13日号で「つきあい・ふれあい・はりあいネットワークの戦後史」と題して天野正子『「つきあい」の戦後史 サークル・ネットワークの拓く地平』(吉川弘文館)、道場親信『占領と平和 <戦後>という経験』(青土社)を取り上げていますが、次回にアップ。8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、7月12日号「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)を、6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)、多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)。5月の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)、横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、等々と共にご笑覧を。ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、昨年日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』は今春報告書からの収録。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売され、第1巻10月発売で完結です。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等でぜひご参照ください(不二出版)。
読売新聞世論調査結果(8月27日)に曰く、「平日1日当たりのテレビ視聴時間と、投票したい政党との関係」では、視聴時間が長いほど自民党の割合が高い。「3時間以上」の層の57%が自民党と答えた。「30分未満」は、民主党が34%で、自民党の32%を上回った、と。「劇場政治」「ワイドショー政治」の作り手と受け手がわかります。しかしこのマスコミの選挙時世論調査、全国千人程度のRDD電話サンプル調査が多く、統計学的には誤差プラスマイナス2−3%とされていますが、現実社会の変化に合わなくなってきています。サンケイ新聞8月29日【深層真相】「選挙予測 つかめぬ世論 「そのつど支持層」急増が、いいところをついていますが、肝心の点が抜けています。せっかく面接調査方式から電話帳無作為抽出、RDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)方式という変遷を追いかけているのに、「イマドキ固定電話だけで『世論』がわかるだろうか」というケータイ電話派若者たちの疑問に答えていません。かといってインターネットによるオンライン調査は、いまだ偏りが大きく、サンプル抽出法や調査方法も確立していません。NHK放送文化研究所が5年ごと30年間、5000人に個人面接法で続けてきた『現代日本人の意識構造』みたいな長期調査なら信頼できますが(NHKブックス、2004)、選挙結果には直結しません。天皇制に対する昭和時代の「尊敬」から平成時代の「好感」への変化など面白そうなので、私も6月に一橋大学学生のアンケート式意識調査を、1999年以来6年ぶりで過去データと同一設問でやってみましたが(2005一橋大学学生政治意識調査集計結果) 、学生意識の顕著な変化は対米意識の悪化ぐらいで、国内政治では大きな変化はみられませんでした。ですから選挙の世論調査で読めるのは、支持・不支持の絶対値ではなく、同一メディアの同一方式での同一設問に対する毎週の変化からの「潮の流れ」「風」の方向性です。もちろんこれが投票率や無党派層の投票行動に影響しますから、要注目ではあります。結局今日総選挙における「世論」とは、マスコミが「世論調査結果こそ世論」と言ってる独善を離れれば、私たちの投票結果で決まる第四楽章以外にないのです。「小泉オペラ劇場」のフィナーレが、「世論」になります。「ねつ造記事」まで出てきて、情報戦・世論操作も最高潮ですが、けっきょく「世論」とは、私たちネチズンが9月11日に投票に行くかどうか、だれに投票するかで決まるのです。9/11に日本で、イマジンが流れるのか、愛国行進曲になるのか、世界も注目しています。
この夏は長期の海外調査に出られなかったのですが、第二楽章の終わりに、近場の韓国に行っていました。先日上梓した『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)のもとになったのは、昨年夏東京での、CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料をもとにした第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告「「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」でした。その第8回の会場が、今年はソウル大学でした。ソウル大学ゲストハウスのブロードバンドIT環境は完璧で、会議も面白かったですが、強烈だったのが、南北朝鮮国境非武装地帯(DMZ)の現地踏査。イムジン河を越えた南の板門店近くに、立派な都羅山駅が建設され、北が整備されれば、シベリア鉄道まで貫通間近です。50年間人が入れなかった38度線近くの非武装地帯が、開発と無縁であったために豊かな動植物の自然生態系として残され、韓国の環境派の人々は、これを資産とした統一の夢を語ります。つまり六者協議の難航、北朝鮮独裁国家の核武装・拉致問題頬被りをよそに、南北朝鮮の急接近・和解が着々と進んでいます。例のインターネットが大活躍した大統領選挙の結果です。日本の行方にも大きく関わり、反日運動・「竹島」云々も問題ですが、もっと大きいのは、どうやら隣国中国の対応です。私たちは日韓・日中関係として考えがちですが、東アジアの現実の方は、日本を置き去りにして、中国を軸に動いていきそうです。ソウルの若い研究者も、ソウルで一緒になったアメリカの朝鮮研究者も、同意見でした。その中国では、9月3日が抗日戦争勝利記念日、18日が「満州事変」の始まった「柳条湖事件記念日」、小泉首相の靖国参拝が総選挙で先送りされても、日中関係の困難は続きます。前回、グローバルな地球人口の所得上位20%の人々が世界の富の8割以上を持っていることを示す「シャンペン・グラス」モデルを紹介しましたが、日中韓を含むアジアの全体で、新自由主義的な格差拡大の波に呑まれようとしています。アジアで一日1ドル以下で暮らす極貧層が6億2千万人、その8割がインド(3億2千万)と中国(1億7千万)です。しかもこの2大貧困層国は、世界の武器輸入の2大国です。こんな問題は、なぜか選挙の争点になりません。経済はボーダーレスに進んでいるのに、政治がドメスティックだからです。小泉首相と与党が大勝して過半数を確保し、勢いに乗って首相が9/18前後に靖国へ祝勝祈願、なんて最悪のシナリオだけは避けたいものです。
世界全体は、ダイナミックに動いています。イラクでは昨日も640人が強いられた内戦の犠牲、ハリケーンで原油価格はバレル70ドル、オンラインには乗ってませんが、中印国境のネパールで2月の国王の全権掌握に反発した二大政党が立憲君主制廃棄の動き(読売31日国際欄)、アメリカのブッシュ大統領支持率が就任後最低の40%まで落ちましたが、8月30日の対日戦勝利60周年記念演説では「最大の敵を、最も親しい友人に変えることができた」と言いたい放題。例の森田実さんの「森田総研」は「憂国の声」一色で、「米軍部は、内部では、2006年3月にイラクからの撤退を決めているが、ホワイトハウスの強い希望で秘密にしている。ところが、軍部内部から繰り返しリークされている。米軍部内はガタガタになってきている」とか、「日本人というのはバカですねえ。アメリカ政府のネオコンは小泉を勝たせて、日本政府に日本が長期に不況状態のままにしておく経済政策をとらせる。これにより日本の不況はもっとひどくなる。日本ではカネを使う場がないからアメリカへ流れる。これがワシントンが小泉首相をバックアップする本当の狙いだ。外務省北米局と財務省と金融庁と日銀がやろうとしていることは『日本のイギリス化』だ。イギリスの大企業はほとんどアメリカ資本が握った。イギリスはアメリカの従属国になってしまった。ブッシュ政権は、9月11日の総選挙で小泉を勝たせ、日本からカネと資産を長期的に搾り取ろうとしている。小泉が勝てば超長期政権になる。日本人は自らアメリカの植民地になろうとしている。日本人はバカだなあ。カネを日本のために使えばいいのに」 なんていうワシントンの本音を紹介しています。撤退期限の12月にサマワの自衛隊をどうするのかも、せっかくの総選挙ですから、ぜひとも争点にしたいものです。外から見ると、米中の狭間に日本も韓国も置かれていて、冷戦思考を脱した中国や韓国は21世紀に入って変わっているのに、日本は相変わらず20世紀を生きている構図。20世紀後半にしばしば日本と対比されたドイツでも、ちょうど9月18日が総選挙で、政権交代になりそうです。世界からも日本の総選挙は注目されます。今のままだと、勝手に自分の21世紀戦略を暴走中のアメリカを、羅針盤を持たずにうろたえ後方を追いかける悲しい姿。乱れ髪の「郵政民営化」という第一幕のタイトルにつられて入場すると、年金や増税、福祉や子育て、教育という第二幕の主役が待っており、第三幕の少子高齢化、外国人労働力問題から憲法問題にいたる長期の舵取りも決めなければならない一票を求められます。すでに公示されたので、一つだけ各党マニフェストの比較。韓国の政治を変えたのは、インターネットでした。ところが日本の公職選挙法は、未だにインターネット上での選挙活動を「文書・図画」扱いで醜く規制しています。「改革」をいうなら、真っ先にこの点を変えるべきでしょう。ところがこのインターネット上での選挙運動解禁を謳う政党は、民主党が政治改革の各論で小さく扱っている程度、自民党には抵抗が強いようです。それでも自民党は「選挙政策」としてではなく「政権政策」としてマニフェスト全文を掲げていますが、公明党は「青年政策」にさえ入れず、現行公選法を守る方に熱心なようです。やっぱり日本では、政治の在り方そのものが「長い20世紀」で、21世紀の夜明けはまだまだなようです。前回予告した「選挙サイト」まわりをして唖然、今回は「落選運動」「インターネットで政治に強くなる方法教えます」「選挙に行こう勢」「OVER80」「サイレント・マジョリティ」「無関心党」「老人党」等の更新が間に合わなかったのか、わずかに「Election」と「SEIRON」「パロディ・タイムズ」ががんばってる程度。新規参入も少なく、「マニフェスト勝手連」や「マニフェスト研究所」「言論NPO」といった政策評価サイトくらい。今回はマスコミの総選挙特集と各政党サイトをまわる地道なネット情報戦にするしかないようです。xxエモンのライブドア主導ではなく、北川さんの「マニフェスト研究所」あたりから、ぜひ「インターネット選挙解禁」を各党に問いただしてほしいものです。
今年も10月1/2日が日本政治学会(明治大学)。前日9月30日(金)午後に、全国政治研究会を東京・御茶の水の中央大学駿河台記念館で開きます。非会員の方もお気軽にどうぞ。引き続き、小林朗さん「大正生れの歌」の替え歌別バージョン、戦時米国の象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」についての情報を求めます。ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)、旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)が最新の論文。CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)は残念ながら目次のみ、ぜひご購入してお読み下さい。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、8月9日号「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」として川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)、7月12日号森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)は「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」でした。6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)、多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)。5月の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)、横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、等々と共にご笑覧を。ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」(日露歴史研究センター)、昨年日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』は報告書から。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売され、第1巻を10月完結予定で最後の追い込みです。総目次をスキャナーしてありますが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等でぜひご参照ください(不二出版)。
2005/8/15 「デモクラシーが生々した精神原理たるためには、それが絶えず内面から更新され、批判されなければならぬ。デモクラシーがかうした内面性を欠くとき、それは一つのドグマ、教義として固化する。かくてそれはファシズムへの最も峻厳な対立点を喪失する。現代日本はデモクラシーが至上命令として教典化される危険が多分に存する。それはやがて恐るべき反動を準備するだろう」(丸山真男「折りたく柴の記」昭和20年11月9日、『自己内対話』みすず書房、8−9頁)。前回更新で、今年の8/15を「仏教風には丸山真男の10回忌」と書きましたが、リピーターの方からご教示。この仏事年忌供養の数え方は、仏教に内在するものではなく、日本の仏教に特有なものなそうです。とはいえ、今年の8/15は、例年にない暑さ。といっても、実は、この時期私が日本にいるのは、2002年以来のこと、過去ログカレッジ日誌でみると、1997年本HP発足以来、2度目のようです。本当は今夏もドイツにいる予定だったのですが、30年来調査してきたワイマール期在独日本人反帝グループをいよいよ書物にまとめなければならず、補充調査より執筆を優先して、毎日パソコンの前です。といっても、もう一つ、せっかく戦後60年の節目の年ですから、たまには日本で8・15を体験してみようという作戦が大当たり、郵政法案の参院否決から小泉首相の衆議院解散・総選挙、そして本日の靖国参拝見送りか否かという政局を、現地で味わうことになりました。
前回、どうも青嵐会血判状政治の再来ではないか、それなら自民党内のコップの嵐ではないか、とコメントしましたが、どうやらそれにとどまらず、コップが割れて、国内外に大きな意味を持つ重大選挙になりそうです。それも、60年前に丸山真男が危惧した「ファシズムへの最も峻厳な対立点の喪失」「恐るべき反動スタイル」のたんなる繰り返しではなく、ずいぶん新しい装いになっています。8月8日、参院での否決を受けた小泉首相の記者会見は、異様なものでした。その全文は首相官邸サイトでよめますが、力が入っていました。いつものワンフレーズとは違って、ガリレオ・ガリレイの天動説まで出して「はっきりと改革政党になった自民党が、民営化に反対の民主党と闘って、国民はどういう審判を下すか聞いてみたい」と、郵政民営化一本での国民投票的総選挙を求めるものでした。その狂気じみた演説が、いくらメディア政治の時代でもそんなには影響力は持たず、むしろ反発されるのではないかと思ったら、その後の世論調査結果は、軒並み首相支持率・自民党中心政権支持率ともアップです。郵政法案の説明そのものは国会答弁と同じですから、あの記者会見の、狂気じみた演技の効果でしょう。ある種のポピュリズムです。日本の選挙も、どうやら本格的な情報戦の時代に入ったようです。丸山真男のいう「内面性を欠くデモクラシー」から生まれる現象です。しかもそれは、首相・総裁の権力を使って自民党の「造反議員」選挙区に残らず公認対抗馬を立てるという「刺客」作戦で、メディアも一斉に、争点は郵政民営化に賛成か反対か、「改革派」小泉自民党プラス公明党対「守旧派」造反組プラス野党という対立構図に持っていこうとしています。「小さな政府」対「大きな政府」とも言ってますが、ちょっと冷静に考えればわかるように、政府の大きさや公務員の数ではなく、自民党政権が続いてきたことこそ「公金私消」の根源だったのですが、それを敢えて党内対立から国民の前に投げ出し、大統領型リーダーシップの強弱で争おうとするのが、小泉首相及びそれを演出するシナリオライターの計算のようです。新党も作れない造反組はもとより、民主党以下野党も、今のところ押され気味です。
しかも、投票日は9月11日、世界中で改めて、ニューヨーク、ワシントンの同時多発テロを想い出す日です。その日までに、野党が郵政法案とは異なる増税・年金・福祉の論点を選挙の争点に浮上させないと、小泉内閣が続くばかりか、これまで以上に強引な権力行使が許されることになります。この郵政民営化一点突破を狙うために、公明党の選挙協力もぜひとも必要で、首相の靖国参拝は8.15からズラされたようです。でも一点突破は全面展開につながりかねません。もとより郵政民営化を争点にしても、参議院の議員構成は否決された8・8と変わりませんから、自民・公明連合が勝っても法案採択の保証はありません。それでは何をしようとしているのでしょうか。外交的には、小泉内閣は四面楚歌です。8・8は、60年前のソ連参戦の日で、ヒロシマとナガサキの間の日でしたが、マスコミは解散・総選挙一色でした。自衛隊の駐屯するイラクのサマワでは武装勢力と警察の衝突で死者も出る騒乱状態でしたが、小さくしか報じられませんでした。外務省が総力を挙げた国連安全保障理事会入りの夢は、中国・韓国ほかアジアの反対はもとより、アフリカ連合との調整がつかず頓挫しました。首相の靖国参拝に反対して香港では大規模なデモがありました。北朝鮮核問題での6か国協議でも、日本の出番はありませんでした。景気は多少回復してきたようですが、国際的にみれば、小泉首相の味方はアメリカのブッシュ以外ほとんどいないのです。そんな中で突出した動きは、東京杉並区の「つくる会」教科書採択です。それも反対派ばかりでなく、藤岡信勝センセイ以下賛成派も多数取り囲んだ中での、教育委員会による3対2での2000人の子どもたちへの教育方針の決定です。区長の政治的志向が影響したようで、こうした動きは全国で起こっています。小泉首相のポピュリズムの基盤は、実は「つくる会」教科書賛成派のような人々と、そこに焦点をあわせて「閉塞状況打破」「強力なリーダーシップ」を説く一部メディアにしか接していない人々です。そして、もしも総選挙で小泉自民党が安定多数を占めて、小泉内閣が存続すれば、11月の自民党結党50周年に、森喜朗・山崎拓の青嵐会組が中心になって作られた新憲法草案が採択されて、その次の総選挙までに重要な一歩を踏み出すシナリオでしょう。選挙でのライバルが郵政法案「造反組」になれば、こちらも綿貫民輔、亀井静香、平沼赳夫ら青嵐会くずれや国家基本問題同志会の同類が多いですから、憲法改正は、いっそう加速するでしょう。もっとも、この点でも参院議席配置は変わりませんから、民主党内改憲派へエールが送られるでしょう。
グローバリズムのテキスト類によく出てくる、地球の「シャンペン・グラス」モデルというのがあります。地球人口の所得上位20%の人々が、世界の富の8割以上を持っていることを示す図です。日本人のほとんどは、このシャンペン・グラスの最上位にあります。しかし、同じような格差構造が、国内に生まれつつあります。「貧困」「格差」というなつかしい分析ツールが、復活しつつあります。もっとも「ジニ指数」とか「希望格差」などと、洗練されていますが。そのような現実が、現に生まれつつあるからです。それは、少子高齢化・未婚化・人口減の加速する日本社会で、ニート・フリーター問題、犯罪・自殺増加、中小企業倒産など、深刻な社会問題をつくり出しつつあります。必要なのは、そのような社会格差・問題に立ち向かいつつ、国際社会にソフト・ランディングで復帰できるような政治と外交です。サラリーマン増税や年金改革を総選挙の争点にしないためにこそ、「郵政解散」の一点突破がはかられ、「刺客・くノ一」が毎日ニュースになるよう演出されているのです。ただし、かつての自民党政治によく見られた「争点隠し」ではなく、より巧妙な「争点誘導」の選挙です。本HP情報処理センター(リンク集)にも入っている、政治評論家森田実さんの「森田総研」は、このところ小泉首相にまけない迫力です。曰く、「小泉首相の民営化論にだまされてはならぬ――「官から民へ」の本当の意味は日本の富の「日本からアメリカへ」である 」「9.11の主題は小泉従米ファシズムを阻止することだ――小泉政権を倒し、平和と民主政治を守るため全力を尽くそう 」「マスコミ人よ、頭を冷やせ! 小泉首相と一緒に興奮し、感情的になってしまっては、冷静な報道はできるはずがない。冷静さを失い感情的に暴走し始めたキャスターやコメンテーターは、テレビ界から去りなさい。小泉首相と同じように感情を高ぶらせていたら、ジャーナリズムの仕事はできないのではないか。言論人でありながら政府・自民党、公明党・創価学会による言論圧迫に加担し、言論の自由をつぶそうとする輩は、ジャーナリズム世界から去りなさい。とくに黒岩キャスターに反省を求める 」「マスコミ界のなかの小泉首相への個人崇拝的風潮と「礼儀」「節度」の崩壊 」「郵政民営化法案廃案に失望した米国ウォール街だが、再挑戦の構え。日本のマスコミを裏から動かそうとしている !」―― 勢い余っての「綿貫・亀井・中曽根氏らの『新党』結成を強く期待します」は感心しませんが、森田さんによれば、「小泉首相を独裁者に仕立て上げようとしている勢力」とは、(1)ブッシュ政権、ウォール街の巨大資本、(2)小泉首相側近と武部幹事長、安倍幹事長代理ら自民党幹部と小泉首相の追随者の「政治主義的官僚」、(3)公明党・創価学会、(4)日本経団連、(5)広告巨大独占体、(6)大新聞各社、(7)NHKをのぞく大テレビ局、(8)もともとの小泉支持の右翼勢力、なそうです。丸山真男と共に、熟読をオススメ。本サイトとしては、改めて丸山真男の「日本が世界に貢献できるものは平和しかない」を強調しながら、野党には、増税と年金を争点に押し上げる創意的情報選挙をオススメしておきます。
60年目の8・15を日本にいるので、私も『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)を出しましたが、今夏は読みたい本・読むべき本が目白押し、そのため総選挙ウォッチの方は準備不足で、例によって選挙向けオススメサイトを拾うべく情報処理センター(リンク集)の「永田町・霞ヶ関方面」を再点検したら、前回選挙時のいくつかのサイトは、消滅していました。それでも、以下のサイトは健在ですので、ぜひご一読サーフィンを。次回更新で、9/11選挙用に、ヴァージョン・アップします。せっかくの9.11選挙ですから、ついでに「IMAGINE! イマジン」「♪IMAGINE GALLERY」にも入って、「戦争の記憶」にふれ、4年前のベストセラー「100人の地球村」を再読し、ジョン・レノン♪「イマジン」を聞きながら、「シャンペン・グラス」モデルの意味を考えて、投票率を上げてくれれば幸い。
引き続き、小林朗さん「大正生れの歌」の替え歌別バージョン、戦時米国の象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」についての情報を求めます。ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。前回二つの論文をアップしました。一つは「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)という、今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿、生き残りサヨク内で話題になっているようです。もう一つは「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)という、旧ソ連の日本人共産主義運動指導者の残留孤児物語。「戦後」は終わっていない、もう一つの証左です。CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本は、7月11日に『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)として発売され、幸い好評です。図書館の『エコノミスト』誌連載書評「歴史書の棚」は、8月9日号の川崎賢子『宝塚というユートピア』(岩波新書)と武田清子『湯浅八郎と二十世紀』(教文館)を、すでに掲載号の発売終了なので、「二人の女性研究者の本を、戦後60年の夏に味わう」と題して収録。実はこの連載書評、もともと編集者が毎号タイトルをつけて2冊を結んでくれていたのですが、今回から、そのタイトルも掲載することにします。7月12日号森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)は「時代を振り返るにちょうどいい、戦後60年という長さ」でした。6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)、多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)。5月の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)、横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、4月のエレノア・M・ハドレー『財閥解体 GHQエコノミストの回想』(R・A・フェルドマン監訳、東洋経済新報社)、『粉河での日々――北林トモ<反戦平和の信念を貫いた女性>資料集』(和歌山大学歴史学・海津一朗研究室)、等々と共にご笑覧を。ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」が日露歴史研究センターから、昨年日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』として、それぞれ立派な報告書として刊行されました。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した、1950年代沖縄の解放運動第一次資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売されました。第1巻が10月で完結予定で、総目次もスキャナーしてあります。高価ですが、沖縄「島ぐるみ闘争」の頃の雰囲気を知るために、図書館等でぜひご参照ください(不二出版)。
2005/8/1 20世紀日本最高の知性、と私が考える丸山真男が亡くなったのは、1996年の8月15日でした。したがって今年は、仏教風には10回忌になります。仏事の年忌供養は7回忌のあと13回忌のようですから、10回忌自体に意味はありません。しかし、それが「戦後60年」と重なると、ある種の感慨を禁じ得ません。
これは、1945年10月29日、つまり敗戦2か月後の丸山真男の分析です(「折りたく柴の記」『自己内対話』みすず書房、8−9頁)。占領軍GHQにより天皇についての自由討論が認められ、民主化五大指令(女性解放、労働組合奨励、学校教育自由化、経済民主化等)は発せられましたが、まだ財閥解体も農地解放も始まらない局面、日本国憲法が誕生する前の、ヒロシマ帰りの丸山真男のメモです。ヒロシマ『中国新聞』「被爆者の伝言」にあるように、丸山自身ヒバクシャで、ただ「小生は『体験』をストレートに出したり、ふりまわすような日本的風土(ナルシシズム!)が大きらいです。原爆体験が重ければ重いほどそうです」(「丸山眞男手帖 第六号」) といって、「戦争で何もなくなった日本が世界に貢献できるものは平和しかない」 と考えた時代の言説です。ここから「デモクラティック・スピリット」の重要性を説き、「まず人間一人一人が独立の人間になること」「他人を独立の人格として尊重すること」と述べています。
もちろん、反論はありうるでしょう。「戦争で何もなくなった日本」は高度経済成長ですっかり変わった、「何でもありの豊かな日本」だからこそ自衛隊の海外派遣を含む国際貢献が必要なんだ、とか、天皇制が民主政に反すると明言しながら「国民の情的シンボル」としての天皇が「国民的統一の破壊」の歯止めといってるのだから、丸山はやっぱりナショナリストだ、とか。確かに60年という歳月は、1945年の丸山のような言説の切迫感を客観化し、その時代の性格そのものを問いかけるのに十分な時間です。最新の『エコノミスト』誌「歴史書の棚」にも書きましたが、1930年代初頭、かのコミンテルン「32年テーゼ」、『日本資本主義発達史講座』、講座派・労農派の「日本資本主義論争」の中心的論点は、満州事変の勃発を睨みながら、60年前の明治維新の性格を「ブルジョア革命」と評価しうるかどうかでした。私たちはいま、改めて1945年8月15日に始まる、占領改革の意義を歴史的に論ずべき地点にあるのです。私は、丸山の一文の「情的象徴天皇制」については、本当にそうだったんだろうかと再考する手がかりを、一方で占領改革にあたった米国の構想を『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)で、他方で「国民」概念から排除され米軍の直接支配下におかれた沖縄の「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻(不二出版)を編集するかたちで、問い直してきました。だから、私がこの10回忌に学びたいのは、丸山真男が「デモクラティック・スピリット」の内容として問いかけた以下の点です。上記文章から一週間後、11月4日の「折りたく柴の記」に、こうあります。
ここでも早合点して、丸山真男のいう「ノーといひうる精神」とは、石原慎太郎の「ノーと言える日本」や、「郵政民営化法案通らなきゃ解散、自民党ぶっつぶせ」といってきた小泉純一郎と同じだ、と考える人もいるでしょう。丸山真男は「ノーといひえない性格的な弱さ」に注をつけて、「独立的精神の苦しさに堪えられない、弱さ。自主的思索を放棄して、他人のつくった枠に入り込むことは最も安易である」と述べています。青嵐会から出発した石原慎太郎や、靖国参拝にこだわる小泉純一郎は、果たして「独立的精神の苦しさ」をどの程度くぐっているでしょうか。ちなみに、小泉首相の盟友森喜朗、山崎拓は、郵政法案反対票の綿貫民輔らと「青嵐会」時代の仲間です。先に東京都副知事を辞めた浜渦武生は、石原慎太郎が青嵐会幹事長時代の腹心で事務局員でした(事務局長は、かのハマコー氏)。今日の政局も、田中角栄の日中国交回復に反発して反共・改憲・靖国護持で集った自民党青年将校達が、旧田中派・金権経世会の黄昏時に、改憲のヘゲモニーを競い合っている「青嵐会政治」として眺めると、わかりやすくなります。そして、今週中にもありうる参議院での郵政法案採決、否決の場合の衆議院解散・総選挙、そのさいの亀井・平沼新党結成の動きも、ちょうど青嵐会の叛乱失敗後の1976年新自由クラブ結成と重ね合わせて見ると、わかりやすくなります。 ロッキード事件で自民党から飛び出した河野洋平現衆院議長らの新党でしたが、10年で自民党に再吸収されました。つまり自民党政治家の「独立的精神」とは、こうした派閥力学に媒介されたパフォーマンスが多く、ちっとも「面従復背、党派性」から自由ではないのです。解散・総選挙になっても、外国の新聞は、きっと「コップの中の嵐」と評するでしょう。日本政治の構造変化には、つながりにくいからです。
これに比べて、敗戦60年目の8月15日の小泉首相の靖国参拝の有無は、21世紀日本の運命に、大きく影響するでしょう。というより、21世紀の日本に、深刻な打撃を与えるでしょう。現在進行形の北朝鮮核問題六か国協議、国連安保理常任理事国入り問題にも、直接連動します。ヒロシマ・ナガサキ原爆の60周年、ソ連対日参戦60周年、中国・朝鮮解放60周年とも重なりますから、海外メディアの日本についての報道は、この4週間余り、毎日要チェックです。私たち一人一人にとっても、8月15日を、「日本が世界に貢献できるものは平和しかない」丸山路線で迎えるのか、「今日の日本の平和と繁栄も先の戦争の犠牲者たちのおかげです」風の小泉路線で迎えるのか、私たちの「デモクラティック・スピリット」が問われます。
前回から引き続き、小林朗さん「大正生れの歌」の替え歌別バージョン、戦時米国の象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」についての情報を求めます。いずれも各種異文がありそうですので、ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。これに合わせて、二つの論文をアップ、一つは「社会民主党宣言から日本国憲法へーー日本共産党22年テーゼ、コミンテルン32年テーゼ、米国OSS42年テーゼ」(『葦牙』第31号、2005年7月)という今春社会主義理論学会で山泉進さんと一緒に行った講演原稿、もう一つは「ヴィクトーリア手記の教えるもの」(『山本正美治安維持法裁判陳述集』解説、新泉社、2005年7月刊)という、旧ソ連の共産主義運動残留孤児の物語。書店で入手しがたく、高価だったりするので、発売ひと月もたちませんが、今月からアップ。
CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本は、7月11日に『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)として発売されました。幸い好評です。これも新著に書いたように、各種異文がありそうで すから、ご存じの方はご連絡下さい。図書館の『エコノミスト』連載書評は、7月12日号の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)をアップ。6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)、多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)。5月の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、4月のエレノア・M・ハドレー『財閥解体 GHQエコノミストの回想』(R・A・フェルドマン監訳、東洋経済新報社)、『粉河での日々――北林トモ<反戦平和の信念を貫いた女性>資料集』(和歌山大学歴史学・海津一朗研究室)、3月エリック・ホブズボーム『わが20世紀・面白い時代』(河合秀和訳、三省堂)と中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦』(集英社新書)、等々と共にご笑覧を。昨年11月ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」は、日露歴史研究センターから、同じく昨年夏の日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』として、それぞれ立派な報告書として刊行されました。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した1950年代沖縄の解放運動原資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売されました。高価ですが、図書館等にぜひ入れてご参照ください(不二出版)。
2005/7/15 いきなりクイズ風ですが、世界の3大金融センターというのは、どこのことでしょう? すぐに出てくるのは、ニューヨークのウォール街と、ロンドンのシティでしょう。正解です。では、第3のセンターはどこでしょう? グーグルで検索すると、日本語サイトではまだ、東京兜町が多いようです。21世紀初頭の森金融庁長官発言も、最近の国際協力銀行のレポートも東京と言っていて、東京都の公式ホームページでは、だからニューヨークと姉妹都市なんだといいます。でも、「年収300万円時代を生き抜く経済学」を説くアナリスト森永卓郎さんは、「1985年に国土庁が首都改造計画をつくった。ニューヨーク、ロンドン、東京は世界の3大金融都市になり、オフィスが5,400平方ヘクタール不足すると算出した。これがバブルの元凶です」と喝破し、今やそのバブルは「2010年ニューヨーク、ロンドン、上海」に移った、といいます。つまり第3のセンターは安定せず、上海という説も有力です。経済地理学者の水岡不二雄さんは、香港の中環(セントラル)を第3のセンターとして挙げています。キンドルスバーガーの「貯蓄と投資のバランスをとるばかりではなく、他の場所に支払いをしたり、貯蓄を移動したりする空間的機能を果す」という金融センターの定義を挙げて、「現在の東京は世界3大金融センターの1つとして認識されているが、その基盤は万全なものなのだろうか」と学術的に分析している慶応大学のサイトもあります。そういえば、私が10年前に日本の「過労死とサービス残業の政治経済学」を分析したときに見出したのは、金融のグローバル化でニューヨーク、ロンドン、東京がつながり、アメリカ大陸・ヨーロッパ・東アジアの3大経済圏が一つになった時、24時間為替相場を気にする「24時間たたかえますか」の企業戦士たちが現れ、銀行員・証券マン・ディーラーの過労死・過労自殺が増えてきたことでした。
もうお気づきでしょう。東京がなお世界3大金融センターの一つであるかどうかは、21世紀に入って疑問符がつき、もしもそうであっても、二重の意味で深刻です。一つは、アジア経済の中での位置。GDPでは相変わらずダントツの一位ですが、世界貿易・グローバルシステムの中での位置から言うと、中国の追い上げがすさまじく、2010年代には確実に日本のGDPを追い抜く勢い。金融取引は、世界の資本の集まる所へ移動しますから、バブル経済期にはニューヨーク、ロンドンと並び称された東京が、いつまでも「第3の金融センター」であるとは限りません。事実、アジア総支配人の本拠地を東京から上海や香港に移す多国籍企業が多く、世界的マスコミのアジア総局・特派員も、最近は物価の高い東京を敬遠して中国に人を置いています。「日本はアジアの中心である」という考えそのものが、怪しくなっているのです。もう一つの連想ゲームは、もっと深刻です。ニューヨークのウォール街のそばに、世界貿易センタービルがありました。2001年9月11日に、それが標的にされました。2005年7月7日の「七夕」の日、中国や台湾では「七七抗戦記念日」=盧溝橋事件68周年の抗日行事があったのですが、同じ日の別のニュースがあまりに衝撃的で、ほとんど報道されませんでした。つまり、G8サミットの開幕したイギリス・ロンドンで、50人以上の死者を出す地下鉄・バスの同時多発テロが起こり、世界は再び恐怖を味わいました。狙われた場所は、ロンドンのシティ周辺でした。イラクではほとんど毎日、米軍・政府軍による民間人犠牲者や自爆テロが出ているのですから、イラク戦争でのアメリカの同盟国、アメリカの世界支配の中枢に絶望的な抵抗が向かうのは、ある意味で予測できたことです。おまけにイギリスは監視カメラ先進国、犯人らしきグループの特定も始まっています。でも未然に防ぐことはできませんでした。次はイタリアかデンマークかといわれてますが、もちろんサマワに自衛隊を送っている日本も、抵抗グループの射程内でしょう。サマワにはすでに、幾度もロケット弾や迫撃砲が撃ち込まれ、駐留自衛隊員の犠牲者が出ていないのが不思議なほどです。世界全体が、ある種の戦場になってます。ただしこの戦争は、米英軍対イラク民衆の直接的戦闘ばかりではなく、今回も、グローバル金融センター・シティが狙われたように、象徴的な意味づけや恐怖とナショナリズムがからまる情報戦です。ここまで書けば、おわかりでしょう。日本の大新聞やテレビは報じない、最悪のシナリオがあります。世界の3大金融センターといえば、いまのところ、ロンドンのシティ、ニューヨークのウォール街、そして、東京の兜町です。グローバルな「帝国」支配に反対する勢力は、敢えて時計の動きとは反対に、ニューヨークからロンドンへと金融中枢への同時多発テロを起こしました。残された世界の金融センターは、……。日本経済の没落も避けたいし、テロの恐怖からは逃れたいという向きは、改めて日本国憲法の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」ことを想起し、世界に発信することでしょう。
ところが日本の国内政治は、がたがたです。中国政府は「抗日戦争勝利60周年」キャンペーンを、抗日戦争勝利記念日の9月3日まで続けると言明しています。今からひと月後の8月15日更新時は、どうなっていることやらの永田町政治。なにしろ靖国参拝を強行しようという首相が外交的に孤立したのみならず、国内政治で首相側近だけが熱心な郵政民営化法案の方で大ピンチ。8月解散・9月総選挙もありうる魑魅魍魎の政局です。「自民党をぶっこわす」といって登場した首相が、衆院で37人の反対・14人棄権の造反に遭い5票差で薄氷通過、参院ではもっとハードルは高くなります。その国会会期は8月13日まで。8月15日の靖国参拝を強硬に言い続けても、それまで小泉内閣が持つかどうかが、焦点になってきました。もちろん国連安保理入りも、北朝鮮拉致問題解決も、遠のくばかりです。自民党議員に党議拘束に従う「近代政党への脱皮急務」となつかしい注文をつけるのは、あのサンケイ新聞です。読売新聞7月14日社説も、「そもそも、今の日本に、解散によって政治空白を作る余裕などない」と、小泉内閣がつぶれたらという危機感に溢れています。想い出しましょう。森首相退陣、小泉内閣誕生の頃の「指導者待望」の雰囲気を。民意を離れカリスマ性の喪失した政権は、「死に体」で何もできません。マスコミの責任も重大です。暑い夏になりそうです。
ちょっとした勘違い。前回更新でよびかけた原作者小林朗さんの「大正生れの歌」、替え歌別バージョンはまだ未着ですが、オランダのロッテルダム在住日本人Yさんから、有り難いメール。前回書いた「SPレコード(78rpm)」というのは「EPレコード(45rpm)」の間違いではないか、というもの。いまやCD・DVDを経てMD・iPodの時代ですから、ドーナツ盤レコードであることを示すために書いたのですが、これが「大正生れ」風の誤り。私は「LP盤(33rpm)」に対する「SP盤」で「Large-Small」か「Long-Short」だと思ってたら、Yさんのご指摘通り、実は間違いで、SPとはStandard Playing、LPは Long Playingの略で、回転数による違いでした。SPとLPの間にEP=Extended Playingがあり、写真で掲載した藤木良さんのレコードも西村晃さんの補作編曲盤もSPではなく、正しくはEPでした。ご迷惑をかけた提供者小林朗さんほかの皆さんにおわびし、訂正しておきます。勘違いは恐ろしいものです。いつまでも「第2の経済大国」とか「第3の金融センター」だと思って政策立案していると、足下をすくわれますね。改めてMAGINE DATABASE「戦争の記憶」(番外「大正生れの歌」に入れておきます。midiファイルで音と一緒に楽しみたい方は、♪(1・2番)♪(3・4番)をクリック。「鎮魂譜」もでてきます。この別バージョンをお持ちの方は、E-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へ。
CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした単行本は、7月11日に『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)として発売されました。この象徴天皇を利用する対日心理戦略「日本計画」にも、新著に書いたように、各種異文がありそうで、ご存じの方はぜひE-mail: katote@ff.iij4u.or.jp へご連絡下さい。図書館の『エコノミスト』連載書評は、7月12日号の森武麿『戦間期の日本農村社会 農民運動と産業組合』(日本経済評論社)、功刀俊洋『戦後型地方政治の成立 労農提携型知事選挙の展開』(敬文堂)が出ましたが、発売中なので次回アップ。6月の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)。5月の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、4月のエレノア・M・ハドレー『財閥解体 GHQエコノミストの回想』(R・A・フェルドマン監訳、東洋経済新報社)、『粉河での日々――北林トモ<反戦平和の信念を貫いた女性>資料集』(和歌山大学歴史学・海津一朗研究室)、3月エリック・ホブズボーム『わが20世紀・面白い時代』(河合秀和訳、三省堂)と中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦』(集英社新書)、2月黒川みどり『つくりかえられる徴(しるし)――日本近代・被差別部落・マイノリティ』(解放出版社)と山下力『被差別部落のわが半生』(平凡社新書)、等々と共にご笑覧を。昨年11月ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」は、日露歴史研究センターから、同じく昨年の日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』として、それぞれ立派な報告書として刊行されました。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した1950年代沖縄の解放運動原資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売されました。高価ですが、図書館等にぜひ入れてご参照ください(不二出版)。
ところが1970年代半ばに、転機が訪れます。一つは中国との関係です。小林朗さんは、軍隊生活半年で中国戦線への動員はまねがれましたが、もともと中国語を学び、漢詩に親しんできました。72年9月田中内閣の下で日中国交回復がなされた時、小林さんの仕事は、台湾を相手にしていました。その台湾での仕事で現地の人と飲んだとき、相手が「大正生れ」と名乗ったのだそうです。日本の植民地時代に青春を迎えたその台湾人は、同年輩の日本人に「大正生れ」である共通性を見出したのです。それは、今日中国大陸や朝鮮半島の人々の持つ「反日感情」とは異質のものです。かといって、小林よしのりのいう「台湾は親日」とも異なります。「大正生れ」──1912−25年生まれの人々は、敗戦時に20歳ー35歳、日本本土でも植民地台湾でも、アジア・太平洋戦争の最大の犠牲者でした。同世代の多くの友人が、青春ばかりでなく生命を奪われました。死との背中合わせを体験し、生き残ったこと自体が好運でした。それは、本土でも植民地でも、異なることはありませんでした。その台湾の人は、戦争をくぐって生き残った者同志の共感を、かつての植民地宗主国の言葉で表現したのです。それから間もなく第一次石油危機、戦後初のマイナス成長と、日本経済の激動期を迎えます。交通事故で入院したこともある小林さんは、「大正生れ」でありながら生き残り高度経済成長を支えた自分たちの足跡を、30年前に運命を分けた同世代の犠牲者たちに報告したいと考えました。それが、「大正生れの歌」の三番・四番になります。
この漢詩をもとにした歌詞が、テレビ局の友人の眼に止まり、作曲家大野正夫さんを紹介されました。フランク永井の「こいさんのラブコール」や松尾和子の歌を手がけてきたムード歌謡の作曲家でしたが、さすがに「大正生れの歌」には、軍歌調のメロディがつきました。1976年に藤木良さんという歌手がテイチクレコードで吹き込み、当時普及し始めたカラオケで、よく歌われるようになりました(77年がカラオケブーム)。それに便乗して、明治生れの藤山一郎や、昭和初め生まれの若山彰といった大御所たちが、ぜひレコードにしたいと言ってきましたが、1984年に、1923年=大正13年生まれで小林さんと同世代の西村晃さんが、キャニオン・レコードから吹き込むことになりました(小林さんの記憶では、吹き込みはもっと早く79年頃とのことです)。このレコードを作る際に、A面に西村晃さんが補作した新しい歌詞がつき、同時にB面に、玉城百合子さんの歌う「「大正生れの歌(女性編)」が入りました。A面に「男性編」と入っていないのに、B面だけ「女性編」とされたのは、この頃のジェンダー感覚を反映しています。小林さんから、西村晃さんのSPレコードを頂きました。実は小林さん自身は、この84年西村晃レコードには違和感があり、76年の藤木良オリジナル盤の方がいいといいます。それは、西村晃さん「補作」の歌詞が、2番の「大正生れの青春は すべて戦争(いくさ)のただなかで 戦い毎(ごと)の尖兵(せんぺい)は みな大正の俺たちだ」の部分を「大正生れの俺たちは、すべて戦争の青春だ、恋も自由もないままに、生死をかけて生き抜いた」と、戦場の話に「恋と自由」を持ち込んだことにあります。小林さんは、恋など考える余裕はなかった、ひたすら日本と日本人のことだけを考えていた、といいます。3番の高度成長期の「政治経済教育と」が「世界の国と肩ならべ」と変えられたのも、当時はまだそんな意識はなかったといいます。だからいま、「大正っこ」さんホームページに入っている藤木良さんの歌の方が、原作者の想いがこもっているのです。「大正っこ」さんもお元気です。最近「ブログ入門」というコーナーを開設されました。
80歳でお元気な小林朗さんは、実は車椅子生活です。1987年に大病を患い、手術を受けました。それから20年近い闘病生活のなかで、幾度も車椅子で中国大陸に渡り、13省40都市でボランティア活動を続けています。『崑崙の言』という日本語・中国語の小冊子の著書をお持ちで、そこに書いています。小林さんは「大正生れの歌」と中国でのNPO活動は関係はないといいます。でも、相通じる精神が感じられます。
「大正生れ」世代には、頭が下がります。でも「昭和生れ」は、どうしたらいいんでしょう。小林朗さんのお話しでは、いま全国に「大正会」というのがあるそうです。軍の戦友会でも、学校・会社の同窓会でもなく、戦争で二百数十万人を失った「大正生れ」というただそれだけの繋がりでの集まりなそうです。ちょうど私が小林さんを訪れた時に届いたという、「大正生れの歌」の各種替え歌バージョンを収集した岡山県の同世代の方からのお手紙を見せていただきました。以前に紹介した、カネボウ永田社長の葬儀で歌われたという「昭和6年生れの歌」ばかりでなく、「団塊世代の歌」「平成生れの歌」まで、いろいろなかたちで歌い続けられているようです。軍歌風ばかりでなく、寮歌風、説教風、パロディ風もあります。
皆様のまわりで収集した替え歌バージョン、あるいは自分で作ったバージョンがあったら、ぜひkatote@ff.iij4u.or.jp までお寄せ下さい。IMAGINE DATABASE「戦争の記憶」番外「大正生れの歌」に収録・保存していきます。
思えば旧ソ連日本人粛清犠牲者でも、私の発掘したテルコ・ビリチ=松田照子は、「大正生れ」でした。同じ旅で、ご親族だという政治学者にお会いしました。かの丸山真男も、「大正生れ」でした。昭和20(1945)年10月29日に、被爆者丸山は、「我が国デモクラシーの諸問題、天皇制との関係」を、こう記します。まだ日本国憲法の「象徴天皇制」は定まっていない時に。
この「国民」がくせ者です。平成天皇夫妻はサイパンを訪れ、日本人多数が身を投げた「バンザイクリフ」ばかりではなく、「韓国人慰霊塔」でも黙祷したそうです。朝鮮日報の報道に、こうあります。「当時サイパンで流行った歌には『一等国民日本人、二等国民沖縄人、三等国民ブタ・チャモロ(サイパン先住民)、四等国民朝鮮人』という歌詞があった。……天皇がサイパンで得るべき教訓は、60年前に起きた日本人の集団自決の根本には日本の軍国主義の狂気があったという点だ」と。まもなく発売される私の新著『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書、840円)は、拙稿「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」(『世界』2004年12月)をふくらませて、戦時米国の「象徴天皇を利用した日本改造計画」を第一次資料にもとづき明らかにします。
CIAの前身Office of Strategic Services(戦略情報局、OSS)資料に挑戦した『世界』昨年12月号掲載「1942年6月米国『日本プラン』と象徴天皇制」をもとにした上記単行本は、『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』(平凡社新書)として、7月11日に発売されます。図書館の『エコノミスト』連載書評は、6月14日号の大田昌秀『沖縄戦下の米日心理作戦』(岩波書店)多川精一『焼跡のグラフィズム――「フロント」から「週刊サンニュース」へ』(平凡社新書)を新規収録。5月17日号の有田芳生『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』(文藝春秋)横堀洋一編『ゲバラ 青春と革命 』(作品社)、4月12日号のエレノア・M・ハドレー『財閥解体 GHQエコノミストの回想』(R・A・フェルドマン監訳、東洋経済新報社)、『粉河での日々――北林トモ<反戦平和の信念を貫いた女性>資料集』(和歌山大学歴史学・海津一朗研究室)、3月エリック・ホブズボーム『わが20世紀・面白い時代』(河合秀和訳、三省堂)と中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦』(集英社新書)、2月黒川みどり『つくりかえられる徴(しるし)――日本近代・被差別部落・マイノリティ』(解放出版社)と山下力『被差別部落のわが半生』(平凡社新書)、等々と共にご笑覧を。昨年11月ゾルゲ・尾崎秀実没後60周年記念講演録「イラク戦争から見たゾルゲ事件」は、日露歴史研究センターから、同じく昨年の日韓シンポ報告「21世紀に日韓現代史を考える若干の問題――1942年の米国OSSから2004年の東アジアOSSへ」が『第7回日韓歴史共同研究シンポジウム報告』として、それぞれ立派な報告書として刊行されました。「現代史研究」に入っている「新たに発見された『沖縄奄美非合法共産党資料』について(上)」(下)を基礎に、「非合法共産党資料に見る戦後沖縄の自立」「消し去ることのできない歴史の記憶」などで展開した1950年代沖縄の解放運動原資料を網羅した、国場幸太郎さんたちとの4年がかりの共同研究「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻の、第2回配本第3巻が発売されました。高価ですが、図書館等にぜひ入れてご参照ください(不二出版)。