ネチズン・カレッジ日誌にようこそ!

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2017年1月ー12月

 ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

『資本論』150年、ロシア革命100年の日本は、「ファシズムの初期症候」に溢れていた!

2017.12.15 かと 年の瀬です。先日、明治大学での現代史研究会で、研究上の大先輩、水田洋さん伊藤誠さんに、久しぶりでお会いしました。2012年に亡くなったイギリスの歴史学者エリック・ホブズボームの遺著『いかに世界を変革するか:マルクスとマルクス主義の200年』(作品社)をめぐってでしたが、95歳で亡くなったホブズボーム浩瀚な歴史書について、1919年生まれの水田さんが亡友エリックの想い出を交えながら話し、1936 年生まれの伊藤誠さんは、戦前日本資本主義論争宇野弘蔵経済学も踏まえて精緻な解説、 お二人ともお元気かつ明晰で、大いに気を強くしました。日本の社会科学・人文科学も世代交代が進み、様変わりしていますが、水田さんや伊藤さんから「市民社会」の歴史的含意やマルクス「資本制生産に先行する諸形態」の今日的意義を聞くのは、久しぶりの知的刺激でした。 中村勝巳さんが報告したように、晩年のホブスボームが21世紀へ架橋できるマルクス主義の遺産と評価していたのがアントニオ・グラムシであったことも、この春に「現代社会科学の一部となったグラムシ」を発表した私としては、我が意を得たりでした。

かと 2017年は、マルクス『資本論』150年ロシア革命100年でした。いくつかの催しはありましたが、出版言論の世界では、さみしいものでした。新自由主義の世界制覇の後、世界の工場はアジアへ拡散し、一国的にもグローバルにも、経済格差の拡大と社会的弱者の生活破壊が進んだにもかかわらず。客観的に見ると、ロシア革命100年ソ連型社会主義・共産主義の負の遺産が、 『資本論』のスケールでの資本主義批判の必要性・切実性の一部を、相殺している様相です。一方でのグローバル資本主義の世界の隅々への浸透と、他方でのナショナリズムポピュリズムの台頭が、インターネット時代の「万国の労働者、団結せよ!」をめぐって、せめぎあっているかたちです。今ではこの「労働者」が多義的で、女性であったり、民族的・宗教的マイノリティ、移民・難民・外国人労働者であったり、高齢者・こども・障害者・無国籍者であったり、はたまた無名の消費者・納税者・市民、ヒバクシャ・環境保護活動家・脱原発運動参加者であったりするのですが。

かと 私のロシア革命100年は、中部大学『アリーナ』誌20号の「ソヴィエトの世紀」特集への寄稿としました。ちょうど2年前の12月25日、私の旧ソ連粛清日本人犠牲者発掘・名誉回復の「同志」であった藤井一行・富山大学名誉教授が、闘病生活の末に、亡くなりました。ご遺族の意向で、ごく近しいご親族・友人にしか知らされず、今でもウィキペディア上では、生前のままです。そこでご遺族と『アリーナ』小島亮編集長の了解を得て、『アリーナ』誌20号に小特集「藤井一行とソ連研究」を組み、書物になっていなかった遺稿を「コミンテルンと日本人粛清」として編纂・発表し、公的な訃報・追悼とすることにしました。旧ソ連崩壊期に発掘した野坂参三夫人野坂龍や、沖縄からアメリカに渡って西海岸の労働運動に加わり、FBIと移民局に弾圧されてソ連に「亡命」した「アメリカ亡命組」らの粛清裁判記録を綿密に検討し、学術的に政治裁判の恣意性・不当性を明らかにした記録です。稲田明子さんの「父・勝野金政と藤井一行先生」、私の「米国共産党日本人部研究序説ーー藤井一行教授遺稿の発表に寄せて」 が、解説と補足の役割を果たしています。藤井教授遺稿も私の「序説」も、一冊の書物になりうる長大な論文ですが、『アリーナ』誌のご厚意で、全文が収録されました。私の「序説」は、この機会に、石垣栄太郎健物貞一鬼頭銀一ジョー小出(鵜飼宣道)・矢野務(豊田令助)・ジャック木元(木元伝一)・宮城与徳野坂参三小林陽之助ら、米国共産党を介して戦前日本の共産主義運動に重要な役割を果たした人々の活動を、系統的に描いてみました。戦後にカール米田ジェームズ小田によって作られた「神話」の解体です。ご関心の向きは、ぜひ『アリーナ』誌で。その副産物は、『北海道新聞』11月7日と『産経新聞』 11月24日に掲載されています。

かと 本年3月早稲田大学を退職するにあたって、20周年を迎えた本サイトに「現代史資料アーカイヴ」を併設する決意を述べましたが、それは果たせませんでした。春に公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』花伝社)が好評で講演会・旧満州現地調査等が続き、すぐに『アリーナ』誌の藤井教授遺稿編纂と私自身の長文寄稿があって、まとまった時間をとれませんでした。何よりも、アメリカのトランプ政権始動と安倍晋三内閣のモリカケスパコン疑惑、北朝鮮核危機とそれを最大限利用した安倍内閣衆院選大勝があり、徐々に撤退しようとした時局への発言も、続けざるをえませんでした。 私は2017年の日本を、「ファシズムの初期症候」の進展ととらえ、その一つ一つに警鐘をならしてきました。731部隊や戦前米国共産党の日本人を追いかけてきたのも、1930年代後半の日本との類似性を見出し、危惧してきたからです。そこから1940年の「紀元2600年」の国際的孤立幻に終わった東京オリンピック、万国博覧会、国際ペンクラブ大会中止への道は間近でした。藤井教授に限らず、尊敬していた先学・先輩、親しかった同僚・友人、中には年下の友人も含めて、一人また一人と、現世から旅立って行きます。遺された私たちのできることは、20世紀の歴史に学んで、その真実と教訓を、後生に伝えていくことでしょう。マルクス生誕200年、「1968」50周年の来年も、1月20日(土)の第304回現代史研究会で、「今日もなお徘徊する亡霊たちーー731部隊の戦後史」を講演します(1−5時、明治大学リバティータワー7階1076室)。

ロシア革命100年の年に「人づくり革命」「生産性革命」を唱える安倍晋三

2017.12.1 かと アメリカのトランプと、日本の安倍晋三と、北朝鮮の金正恩、東アジアで核戦争危機を演出する3人の独裁的指導者には、なにやら似通った軽薄さ、おぞましさが感じられます。 国内の困難をそらすために軍事的緊張を高め、乱暴な言説で「敵」を挑発し、不測の突発的衝突を招きかねない危うさです。ロシアのプーチンや中国の習近平も独裁者ですが、その決定には、その国の伝統や政治システムから予測可能な、ある種の合理性・安定性があります。トランプ一世、安倍三世、金三世には、知性が感じられません。アメリカ大統領にトランプが就任し、金正恩の核・ミサイル開発が米国東海岸まで射程に収めるにしたがって、安倍晋三はひたすらトランプに従い、金正恩への「圧力」を声高に主張しています。森友・加計問題が明るみに出て以来、国権の最高機関たる立法府=国会での追及から逃げ回り、以前から権力を集中してきた首相官邸=行政府のイエスマンたちの中に閉じこもり、または海外に出て国会そのものを開かず、権力の集中と私物化を強めてきました。国民の飢餓と困窮を尻目にひたすら核兵器にしがみつく金正恩、史上最低の支持率も意に介さず、記者会見も開かずツイッターで軽薄な挑発的言辞をふりまくトランプと、いいトリオです。国際社会のなかで、孤立を深めるアメリカに忠実なだけの日本は、確実に影響力を弱め、存在感を失っています。

かと かつて日本は、「経済一流・政治三流」 といわれた時代がありました。目下の日米同盟・対米従属の政治は相変わらずですが、 経済力はいまだ米国・中国に次ぐGDP世界第三位ですから「一流」と言ってもいいはずです。しかし、長期的に見れば、隣国中国の台頭がありますから、少子高齢化の日本は、移民を大量に受け入れない限り、落日が目に見えています。「ものづくり」を看板にしてきましたが、安倍晋三を育てた神戸製鋼三菱マテリアル、現経団連会長が社長時代の東レと製品検査データ改竄が発覚、日産の完成検査不備で自動車大量リコールと、原材料から製品まで手抜きの不祥事続々。原発にも航空機にも納入されていましたから、放射能以前の技術的再点検が必要に。きわめつけが、国策に乗って海外原発企業買収に手を出し火傷した東芝、20世紀日本経済の黄金期を支えた名門企業が、ニューヨーク・タイムズスクェアーの広告から撤退して、風前の灯です。無論、パナマ文書からパラダイス文書へと税金逃れの多国籍企業も続々現れ、大企業の内部留保と日銀バズーカで持たせている株価・低失業率も、非正規労働者やシングルマザーの生活を安定させることはできません。最低賃金を抜本的に引き上げ国内消費市場を拡大しない限り、「経済大国」の実感は湧いてきません。外国人観光客の増大も、安定した「平和の持続」にかかっています。かつての3/11がそうだったように、観光は震災や事故に敏感です。ましてや戦争切迫は、直ちに観光客を失います。だからこそ安倍晋三は、「働き方改革」から「生産性革命」へと踏み込み、「人づくり革命」なる他の先進国なら当たり前の長期的教育投資を、大げさにいいたてなければならないのです。軽くて不毛な「革命」のバーゲンです。「生産性革命」が神戸製鋼・日産風のいっそうのコスト削減・品質劣化・安全軽視と、電通・NHK型の長時間労働・過労死・過労自殺につながり、「人づくり革命」が「教育無償化」「全世代型の社会保障への改革」という名の高齢者「活用」強制、年金・福祉財政削減の方向に向かうことは、目にみえています。戦略なき「革命」は、簡単に「改革」以前に戻るか、「反革命」に転化するか、せいぜい「流行語大賞候補」への状況的パフォーマンスにならざるを得ないのです。

かと  ロシア革命百年の方の老舗の「革命」は、暴力と強制を伴いました。20世紀の喧噪は嘘だったかのように、日本では「人づくり革命」ほどにも、論じられなくなりました。「十月社会主義大革命」や「プロレタリアートの独裁」は、忘れられました。1917年「二月革命」に孕まれた自由化・民主化の可能性が「十月革命」で閉ざされた、レーニン率いるボリシェヴィキ党による憲法制定議会解散の暴挙でテロルと反乱が蔓延し、「クーデタ」と政治警察創設により「暗黒の全体主義世界」に置き換えられていった、といった議論が主流です。注目されるのは「革命の文化」で、政治における劇場化やポピュリズム台頭、経済における広告やブランド開発、そして社会におけるSNSやスマホの仮想主体間コミュニケーションに、アヴァンギャルド前衛芸術や共産党風諜報・相互監視の技術とスタイルが取り込まれ、 ビッグデータを学習したAIマーケティング、 地に足がつかないグーグル型メディア取材、それに消費から恋愛にいたる差異化戦略・戦術、心理戦・情報戦のイメージが蔓延しています。大切なのは、技術やスタイルではなく、生身の人間の生活と苦闘なはずなのに、アピールやコミュニケーションの内容が、瞬間的に見えてはいとも簡単に解体していきます。百年前のロシアでいえば、「パンと土地と平和」にあたる「革命」にとっての切実な内容が忘れられ、スタイルではなくコンテンツが何だったのかが見えません。安倍晋三の「革命」が「生産性」や「人づくり」であるのに対抗して、あるいは「憲法9条」や「対北朝鮮軍拡」であるのに対して、対峙しうる生活世界の切実な内容を、いま・ここで・考え・提示すること。それが、「君たちはどう生きるか」であったり、「沖縄からのまなざし」であったり、脱原発やヘイトスピーチへの対抗であったり、なのでしょう。量より質を重んじること、世代と民族を越えてつないでいくこと、つまりは自分自身の「改革」であり「革命」になりうるものを、捜すしかないでしょうーー10月中国東北部旅行の体験を消化しきれないまま体調不良が続き、今回はFTPの不具合でアップが2日も遅れ、ややメランコリーです。けっきょく私の「ロシア革命100年」は、『北海道新聞』11月7日記事のもとになった、中部大学『アリーナ』誌20号に近く発表される長大寄稿になりそうです。安倍晋三型ファシズムとの、「永続民主主義革命」の一部です。

ファッショ化する日本で、どんな獣医学が出てくるのか?

2017.11.15 かと  安倍ファッショ内閣の奢りは、メディア支配から学術支配へと、広がり、深まっています。総選挙における自民党大勝、安倍晋三内閣の継続、野党の分解・新体制づくりのもとで、ようやく開かれた国会は、奢る与党が質問時間の配分は民意による議席構成を反映していないと難癖をつけ、ようやく与党1・野党2の暫定合意です。その合意が出来る前に、総選挙前から国会論議の最大争点であった加計学園獣医学部の来年度開設を、文科相は大学設置審答申を受け、正式に認可しました。首相とゴルフ友達の加計学園理事長との関係も、国家戦略特区の四条件との適合性、今治市の土地無償譲渡と建設費半額負担、「総理の意向」や「官邸の最高レベル」が飛び交った内閣府と文科省の政府内交渉過程、何も国民に説明されず、解決していません。そのうえ、定員140人の内20人を韓国人留学生枠とし、国内(特に四国)の獣医師不足をうたって発足したのに、真偽は不明ですが正式認可前に募集要項を配った疑いも。この問題は、21世紀になって進む大学の研究教育への政府の介入、日本の科学技術の国家主義的再編の一環です。分散した野党の調査と追及の力が、試されます。

かと  大学設置審でも最後まで疑念出されたようですが、獣医学部の新設は、52年ぶりです。獣医学は、医学の一部でしょうか? 医学は、古代ギリシャ以来の伝統があり、それが「敵味方の区別なく戦傷者を救護する」赤十字の人道活動につながります。「 病人を治療し,病気を予防し,健康を増進することを研究する学問」として発展してきた医学が、第一次世界大戦時のドイツの毒ガス化学兵器をもたらしたことから、1925年のジュネーヴ議定書は、戦争における化学(C)兵器・生物(B)兵器の使用を禁止しました。ところが開発、生産、保有が制限されていなかったので、ナチス・ドイツのホロコースト、軍国日本の関東軍防疫給水部731部隊の生体実験・細菌戦が実行されました。 ジェネーブ議定書に署名した日本が批准したのは第二次世界大戦後の1970年、アメリカの批准はベトナム戦争が終わる1975年でした。 その後1972年署名・75年発効の生物兵器禁止条約、1993年署名・97年発効の化学兵器禁止条約で、BC兵器の包括的禁止・検証が国際法化され、今夏国連での核兵器禁止条約採択で、ようやくABC兵器全体の国際法違反が明確になりました。ただし核兵器(A)禁止条約には、核保有国ばかりか、かの「唯一の戦争被爆国日本政府も反対しているため、12月10日にICANのノーベル平和賞受賞式が決まったにもかかわれず、批准への見通しは不透明です。このように、医学・化学・物理学などは、人類社会の発展のために生まれ貢献してきたにもかかわらず、20世紀に世界大戦での大量破壊兵器開発の推進力になることによって、戦争との結びつきが警戒され、人道的倫理・社会的責任が強く求められる科学になりました。私の「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」(花伝社、特設頁参照)は、731部隊に即して、その戦後の軌跡を追いかけたものでした。

かと  獣医学は、家畜やペットへの医学の応用とされていますが、日本における獣医学は、「黎明期においては犬・猫といった小動物に関する学問の発展は副次的なものでしかなく、本来の目的は明治維新以降における食生活の欧米化に対応した家畜の生産性の向上及び軍馬の生産・疾病予防であった」といわれるように、ABC兵器開発のための動物実験を含め、医学の軍事化と産業化のために発達してきたもののようです。それも、軍馬育成中心の陸軍獣医学校・学会が主導してきたものです。事実、歴史的には1936年の関東軍防疫給水部731部隊の公的新設のさい、一緒に関東軍軍獣防疫廠が発足し、石井四郎のハルビン731部隊若松有次郎新京(現長春)100部隊は姉妹部隊で、 ともに細菌戦研究・人体実験をしていました。また、731部隊にも、獣医や理学博士・農学博士が組み込まれていました。GHQ・米国・ソ連もそれを察して、ソ連のハバロフスク裁判では高橋ヘ篤・関東軍獣医部長らが戦犯とされましたが、日本ではGHQの戦犯追及、人体実験データ提供とバーターでの米軍免責が731部隊中心に進んだため、細菌戦獣医学者は、相対的にスムーズに戦後に生き残り若松有次郎が日本医学工場長になり、獣医学会やミドリ十字に伝統が残されたといいます。 だからこそ、加計学園が施設内にウィルス・細菌実験施設を作ろうとして、その安全性のみならず、生物化学兵器開発施設ではないかと疑われたのです。こうした問題まで国会で追及できるかは、安倍内閣全体のファッショ的性格、「戦争のできる国」への道を、野党がどれだけ深刻に受け止めるかにかかっています。

かと  前回更新で、トランプ来日に狂騒する日本のメディアを批判し、焦点は北京での米中会談だと述べておきましたが、 世界の評価も、その通りだったようです。横田基地からの入国も、ゴルフ中の首相の醜態も、豪華な肉料理でのおもてなしもエピソードに過ぎず、トランプ最大の成果は日本への米国兵器売り込みでした。中国では桁違いの大型商談で、米国国内向けには貿易不均衡是正の圧倒的アピールです。安倍政権が総選挙の目玉に使い、最大のテーマにしようとした北朝鮮への「対話でなく圧力」は、米軍に従属した忠犬日本の好戦的姿勢を世界に示しただけでした。その間に、米国サンフランシスコ市は、中国系米国人が求めた慰安婦像受け入れを決定、国連人権委員会は対日人権調査を始動。女性の人権が一つの焦点なのに、大手マスコミは性暴力被害者の声を無視、新資料で裁判に臨んでも高裁は砂川事件再審棄却。どうやら、日本社会全体が萎縮し、ナショナリズムに毒され、安倍型ファシズムに飲み込まれそうです。特に、若い世代の歴史認識と、政治選好が気になります。ちょうどロシア革命100年「1968」50年、いろいろな議論が出ていますが、私自身の論考も、徐々に発表しますので、次回以降に。

米中関係のはざまで、ファッショ化する日本!

2017.11.1 かと 日本で総選挙と野党再編が急速に進んでいるあいだ、中国共産党大会開催中の中国東北部、ハルビンから中ロ国境の虎頭要塞まで、旅していました。ハルビン市郊外平房は、関東軍731部隊の本部があった、人体実験細菌兵器製造の中核基地でした。1945年8月敗戦にあたって、石井四郎ら731部隊は、国際法違反により天皇に戦争責任が及ぶのを懼れて、8月9日のソ連参戦直後に、いち早く撤退しました。参謀本部の指令は「一切の証拠物件を抹消せよ」でした。石井四郎隊長は「徹底爆破焼却、徹底防諜」を命じ、人体実験用に憲兵隊等から送られた中国人・ロシア人・朝鮮人等の「抗日分子=マルタ」数百人を毒ガスや銃で殺し、ボイラー室で焼却した灰は松花江に流されました。しかしダイナマイトで爆砕したはずの建造物の一部や、細菌研究の実験器具、地下室、焼却し切れなかった書類の断片等々は、ペストノミなど中国各地で実際に使用された細菌爆弾の被害者たちの証言と共に、残されました。それらが丹念に集められ、建物跡が発掘・再現され、日本やアメリカ・ロシア・モンゴル・韓国等で見つかった史資料と共に系統的に整理され展示されて、現在では「侵華日軍第731部隊罪証陳列館」を中心に、ユネスコの世界遺産登録が目指されています。

かと  ハルビンからさらに離れて、石井部隊発祥の地背蔭河、満鉄系列満州炭鉱の経営で中国人労工を酷使し、反抗するものは虐殺したり「特移扱」で731部隊の「マルタ」にした鶏西万人坑」、ロシア国境に近く満蒙開拓団村跡地のある虎林、それに関東軍の対ソ戦争のための強固な国境ウスリー河畔虎頭要塞まで、夜は寝台列車に揺られて、旧「満州国」侵略の足跡を辿ってきました。夜は零下で昼でも10度ほど、完全冬仕度でも寒い毎日でした。長年731部隊を追いかけてきたABC企画委員会の20人ほどの調査旅行団の一員でしたが、731部隊隊員3560人の戦後を追った「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」(花伝社、特設頁参照)を書きあげ、夏のNHKスペシャル「731部隊の真実ーーエリート医学者と人体実験」に協力したうえでの実地調査で、書物での知識と実際に見る遺跡の違いを、いやと言うほど味わいました。鶏西「万人坑」での、強制徴用したうえ抵抗・衰弱した労工を焼却したボイラー室で、人体焼却で出た油を再利用していた話には、ドイツのブーヘンヴァルトザクセンハウゼンのホロコースト強制収容所で見たガス室・石鹸工場を想い出し、暗然とする衝撃でした。

かと  ちょうど中国共産党第19回党大会のさなかでした。ホテルのテレビでは連日習近平体制確立のニュースが放映され、夜は毛沢東・周恩来らの抗日戦争のドラマです。NHK国際放送もチャンネル表には載っているのに、なぜか映りません。インターネットはWIFIで通じますが、日本の総選挙情報はGoogle, Facebook, Twitterが一切使えず、Yahoo Newsで拾える程度でした。ウェブの報道統制は、いつもより強かったようです。政治学者としては、もどかしい日々でしたが、結果は、マスコミの事前予測通りの安倍政権与党圧勝、こちらも暗澹たる気分でした。前回更新で危惧したファシズム化=「権威主義的反動疑似革命の合流」のうち、「疑似革命」になぞらえた「希望の党」の民進党解体戦略は途中のリベラル「排除」発言等で失速し、「立憲民主党」が野党第一党になったようですが、島国の外から見ていると、明らかな右翼改憲派の大勝、1932年のドイツで言えば、ナチスが第一党になった11月国会選挙のようで、ドイツ共産党が最後の抵抗を見せて伸張したのが立憲民主党の躍進と似るが、翌年にはヒトラー政権成立で、抵抗勢力は踏ん張りきれず、非合法化されます。安倍独裁の軽薄な「革命」連呼が、若者を引きつけたかたちです。無論、若者たちも「人づくり革命」「生産性革命」の未来を信じたわけではなく、「トランプ・金正恩戦争」の不安や野党の頼りなさで、軽い気持ちで自民党に投票しただけでしょう。麻生副総理の吐露した「北朝鮮のおかげ」は、森友・加計問題から逃げ続けた安倍首相の代弁でしょう。投票率は53.88%小選挙区制導入以前の70%前後が投票した時代は、遠くなりました。実は、小選挙区制と政党交付金導入による1994年「政治改革」こそ、戦後日本の民主主義にとっての「反革命」でした。2009年に無党派層が投票所に向かい民主党政権を生み出した「政権交代可能な二大政党制」の実験結果に、国民が「希望」ではなく「失望」した結果が、今回の「絶望」まで尾を引いている、と考えられます。野党の再建・再編よりも、選挙制度全体の見直しが急務で、結果的には、日本国憲法の改悪に大きく道を拓いたかたちです。

かと 中国東北部、旧「満州国」地方は、朝鮮族が多く住む地域で、駅の近郊地図には「朝鮮族・満族・回族」などと、集落毎の部族名が記されていました。ロシアと共に、北朝鮮とも国境を接しています。しかし旅行中、中国と北朝鮮の緊張、米朝核ミサイル戦争切迫の気配は、全く感じられませんでした。かつて中ソ領土紛争の舞台だった中ロ国境虎頭要塞も、いまは平静な観光スポットです。安倍内閣のJアラートイージスアショア配備のフェイク性を実感します。10年ほど前に上海・北京から長春(旧「満州国」首都・新京)まで足を伸ばし、「 『社会主義』中国という隣人」という紀行文を書いて、一部で物議をかもした経験がありましたが、今回は、いっそう広がった中国共産党独裁下のグローバル資本主義の増殖・浸透を、実感しました。東北部もインフラ整備が進み、クルマが溢れ、あらゆる商品が並べられています。ほとんど日本と変わらぬカラフルな服装の若者が、スマホ片手に、スターバックス風カフェで談笑しています。狭くうるさい寝台列車には閉口しましたが、やがて新幹線が伸びるということです。ハルビンは、東京並みの国際都市で、公園や遺跡の整備も進んでいます。通貨の元紙幣が使われなくなり、スーパーでもレンタル自転車でも現金ではなくスマホ決済なのは、日本やアメリカ以上です。 書店には、英語本や欧米の翻訳本・ビジネス実用書が溢れ、日系作家では、ノーベル文学賞のカズオ・イシグロではなく、村上春樹・渡辺淳一・東野圭吾の中字訳が書棚を占拠しています。歴史認識の素材の幅も予想外に広く、日本の書店の反中・嫌韓本平積みより知性的です。党大会習近平報告の目玉「新時代の中国の特色ある社会主義思想」の内実は、2050年までに「主導的超強国」、つまり「パクス・チャイナ」という巨大資本主義・帝国主義になる計画であり、21世紀のヘゲモニー国家宣言です。無論、軍の近代化も組み込まれており、核武装原発大国化も前提されています。そんな時に、せっかく 国連の場で、122か国の賛成で核兵器禁止条約が採択されたのに、アメリカの核の傘にすがり続けて反対し、狂犬トランプのアメリカの属国として延命しようというのが、ファシスト安倍晋三の日本国です。もはや「唯一の戦争被爆国」という枕詞の神通力も効かなくなって、東アジアの平和破壊国になろうとしています。米中関係の今後を見誤ると、それこそ「国難」です。トランプの訪日は5−7日、訪韓は7−8日ですが、世界の眼は、8−10日の訪中首脳会談に集中しています。

権威主義的反動と疑似革命が合流すると…? 歴史はリセットできない!

2017.10.1 かと あっという間に、安倍首相の気まぐれで、解散・総選挙となりました。臨時国会冒頭の、森友・加計問題での国会審議から逃げて権力私物化を強引に認証させる、ヒトラー「我が闘争」ならぬ安倍晋三「我が逃走」です。めまぐるしい政局で、もう過去のこととされがちですが、日本政府が世界に発した直近のメッセージは、9月の国連総会でした。米国トランプ大統領の演説は、北朝鮮金正恩を「ロケットマン」と呼んで国の「完全な破壊」の可能性をほのめかし、イランやキューバ、ベネズエラをも乱暴に非難する、国連の歴史に残るヘイトスピーチでした。世界を驚かせたトランプ演説や、それに対比されたフランス・マクロン大統領の国際協調演説とは違って、安倍首相の演説時は会場に空席が目立ち、世界の関心をひきませんでした。一つには国際社会の中での日本の存在感の凋落をあらわしていますが、今ひとつは、直前に『ニューヨーク・タイムズ』で「北朝鮮とのさらなる対話は行き詰まりの道」と強力な対北朝鮮圧力を主張し、国際社会の大勢に挑戦するトランプの軍事的脅迫を補強するものと、受け止められました。案の定、安倍総会演説は 「必要なのは対話ではない。圧力です」と絶叫するもので、各国代表は耳を傾けず、むしろ、批判的コメントを誘発するものでした。世界が核戦争勃発を危惧しているもとで、安倍首相は戦争推進派、トランプの番犬とみなされたのです。ちょうど同じ国連の場で、核兵器禁止条約の調印が始まり、50を越える国家・地域が署名式に参加し、批准手続きに入りましたが、「被爆国」日本の政府は、姿を見せませんでした。ここでも、核保有大国アメリカの忠犬です。選挙中にも、新たな衝突が起こるかもしれません。

かと  北朝鮮とアメリカのチキンレースがエスカレートし、沖縄や米軍基地・原発サイトが戦争の発火点になりかねない情勢のもとで、これを「国難」と称して独裁基盤を再構築するのが、ファシスト安倍晋三の狙いでした。もう一つの狙いは、最大野党民進党の不祥事と不人気に乗じて、森友・加計問題で頓挫しかけた自らの手による憲法改正の狙いを、多少議席を減らしても支持基盤再編で議席上の信任をとりつけ、強行突破することでした。その狙いは、半分挫折し、半分実現しそうです。小池百合子東京都知事率いる「希望の党」の選挙参入、その策略にまんまと乗った民進党の解体、共産党主導の野党共闘の周辺化、自民党議席激減で安倍が退陣したとしても圧倒的多数になる保守改憲派の絶対多数確保、安保法・機密保護法反対派のゲットー化、多少テンポを落としての憲法全面改正、立法府の大政翼賛会化への道です。 本サイトはすでに、「ファシズムの初期症候」はこの国に蔓延していると警告してきました。故山口定教授の名著『ファシズム』での「ファシズム体制」の定義は、@一党独裁とそれを可能にするための「強制的同質化」と呼ばれる画一的で全面的な組織化の強行、A自由主義的諸権利の全面的抑圧と政治警察を中核とするテロの全面的制度化、B「新しい秩序」と「新しい人間」の形成に向けての大衆の「動員」、C軍、官僚機構、財界、教会などの既成の支配層の反動化した部分(権威主義的反動)と、広義の中間的諸階層を基盤とした急進的大衆運動の指導者層やそれに代替する「革新将校」や「革新官僚」(擬似革命)との政治的同盟、と特徴づけています。いま日本は、その方向に向かっているように見えます。

かと この夏は、『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」(花伝社、特設頁参照)で予告した次の書き下ろし、「崎村茂樹」研究のために、久しぶりにドイツ語「ゲッペルス日記」を邦訳「トーマス・マン日記」と対比しつつ読んできましたが、どうやら「我が闘争」も、読み直す必要がありそうです。日本の政治学では、「小泉劇場」以来、「ポピュリズム」という概念で「安倍一強体制」や「トランプ現象」を読み解く仕事が出ていますが、山口定教授の言うC「権威主義的反動と疑似革命の政治的同盟」という観点から、現代日本政治を読む必要を痛感します。これまで安倍内閣の「権威主義的反動」=「上からのファシズム」が、やたら「人づくり革命」「生産性革命」と「革命」を連発するので、日本会議というやや弱い「疑似革命」運動=「下からのファシズム」が受け皿かと考えてきましたが、どうやらもう少し根が深く、「希望の党」という、新自由主義とナショナリズム・排外主義をポピュリズム風に融合させた、「微笑みのファシズム」運動が現れたようです。 ドイツのナチ党が初めて第一党になった1932年7月国会選挙から共産党と二極化した11月選挙を経て、ヒトラー政権成立直後の33年3月選挙他党弾圧から全権掌握の授権法で、ワイマール民主制は崩壊しました。保守・中道政党を含む反対党は消えました。日本にも、二大政党が「挙国一致」を競い合い、投票6日後の2.26事件から軍部独裁に道を拓いた「昭和史の決定的瞬間1936年総選挙がありました。国民にとっての「国難」は、 「伝統保守」と「改革保守」の競い合いのなかから、「挙国一致」への熱狂的動員が始まることです。政治のリセットと称して、関東大震災時の朝鮮人虐殺を忘れさせるような、歴史のリセットまで進められています。ゲッペルスの手法です。暴力と謀略、差別と脅迫が横行する社会になるのか、第3極が奮闘して「悪夢」で杞憂に終わればいいのですが、暗澹たる想いを禁じ得ません。 10月中旬は、731部隊研究の旧「満州国」旅行で、日本の総選挙・中国共産党大会中の中国滞在になるため、次回更新は、11月1日としておきます。

北朝鮮のミサイルに助けられる、安倍内閣「戦争国家」への道!2017.9.15 かと 首相官邸での記者会見で鋭い質問を浴びせた東京新聞記者に対して、「どうして政府の言うことに従わないのか」「殺してやる」という脅迫電話がありました。それを政府は誘発し、放置しています。「ファシズムの初期症候」は、安倍内閣の一時的支持率凋落麻生副総理のヒトラー容認発言にもかかわらず、いっそう強まっています。一度後退したかに見えた残業代ゼロを認める働き方改革法案」も連合の容認で再浮上し、自民党の9条改憲論議も再開されました。いうまでもなく、北朝鮮の核実験・ミサイル危機と、最大野党民進党のふがいなさ敵失に便乗した、ファシスト安倍晋三巻き返しです。世論調査では、不支持率も高いものの、軒並み安倍内閣支持率が回復しています。

かと 本15日朝も、北朝鮮の「火星12」ミサイルで、日本はJアラートの空襲警報、韓国は 長距離空対地ミサイル「タウロス」実射で対抗、航空機で移動中の安倍首相はいつもの「動きは完全に把握」して「暴挙」糾弾・「制裁」強化トランプ大統領は「グアムや米本土の脅威ではない」 とアメリカン・ファースト。「対話」の糸口は、つかめていません。金正恩独裁の冒険主義米国トランプ大統領の気まぐれで、予測困難な戦争の危機がエスカレートし、韓国や日本も核武装すべきとか、非核3原則を改めて米国の核配備を明示すべきとか、きな臭い議論が出ています。そこで標的にされるのは、日本国憲法の、戦争放棄・戦力不保持・交戦権否定です。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

かと 平和主義・戦争放棄は、1928年の不戦条約をはじめ、二つの世界大戦の経験を経て、世界の憲法典に入っていきました。日本国憲法の独自性は、これを「戦力不保持」にまで、つきつめたところにあります。それは、日清・日露戦間期1901年、日本で初めて生まれて即日禁止された社会主義政党社会民主党の「万国の平和を為すには先ず軍備を全廃すること」という結党宣言の思想の延長上にありました。「戦争は素これ野蛮の遺風にして、明に文明主義と反対す、若し軍備を拡張して一朝外国と衝突するあらんか、其結果や実に恐るべきものあり」と軍人の専横・武断政治を予言し、「若し不幸にして戦敗の国とならんか、其惨状素より多言を要するまでもなし」と、勝っても負けても悲惨な戦争、軍備の放棄、非戦平和の決意を唱っていました。日本国憲法第9条は、米国の「押しつけ」ではありません。軍国主義の支配、敗戦の悲惨の体験と共に、日本の中に非戦平和を願う人々の伝統があったからこそ、1947年施行の日本国憲法は、国民から歓迎されたのです。

かと 改憲問題とは、朝鮮戦争を機に米国から「他律的に押しつけられた」ものだ、と喝破したのが、本サイトの指針とする戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」と述べた、政治学者・丸山眞男です。丸山「憲法第九条をめぐる若干の考察」(『後衛の位置から』未来社、1982所収)は、「改憲問題は、第9条が政治問題化したところから」出発した、といいます。占領中の米国が朝鮮戦争の基地である日本に警察予備隊を設けたため、政府も矛盾した答弁を重ね、それがサンフランシスコ講和・日米安保条約締結から保安隊・自衛隊へと展開して、9条2項「戦力不保持」に抵触するかどうかが争点になりました。1955年2月総選挙で、保守合同を控えた「自主憲法制定」勢力が国会議席の3分の2を占めることができず、「護憲勢力」が3分の1以上を確保できたことが、その後の長い「改憲問題」に連なったことを述べています。そのさい、護憲派も改憲側も平和憲法の「理想」は疑いないものとして、安全保障・防衛政策の「現実」との二元論を説く政府(解釈改憲)、憲法を大枠として核保有のような「自衛力の限度」を説く立場、それに丸山自身のように、憲法前文と第9条の「精神」にもとづき「現実」を「理想」に近づける「政策決定への不断の方向づけ」ととらえる立場が、ありえます。憲法が「平和国家」としての緊張緩和・軍縮への貢献を政府に要請している、という最後の立場からすれば、21世紀の防衛庁の防衛省への昇格、武器輸出・原発輸出、集団的自衛権容認と新安保法、そして北朝鮮に対抗する核保有論議の再燃は、「理想」そのものを投げ捨てて、核軍拡・「戦争国家」へと向かう、「改憲問題」の土俵そのものの変容を意味します。「ファシズムの初期症候」は、確実に増殖し、この国の身体と精神をむしばみ、蔓延しようとしています。

かと 1940年に、日本は紀元2600年と銘打って、東京でのオリンピック、万国博覧会の同時開催が決まっていました。しかし、日中戦争の泥沼化と同盟国ドイツの欧州侵略戦争で、どちらも不可能になりました。日本の軍国主義化は、国際社会での孤立をまねき、太平洋戦争・敗戦に連なりました。いま辺見庸さんの『1★9★3★7』が読まれたり、NHKスペシャル731部隊 エリート医学者と人体実験」や私の『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』が話題になったりするのも、「戦争国家」の実相を知ろうとする人々が、なお市民社会に根強く存在しているからでしょう。マスコミの中にも、NHK沖縄放送局制作のスクープドキュメント「沖縄と核のように、史資料とインタビューにもとづくすぐれた調査報道が、残っています。森友加計問題安倍政権のアキレス腱であることは、変わりはありません。東京新聞記者への殺害予告ジャーナリストであるレイプ被害者の告発への支援・後続報道が弱いのは気になりますが、マスメディアでも 、ウェブ上でも、「戦争国家」への道と「平和国家」の理想に近づける道のせめぎあい・情報戦が、なお続いています。『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』の講演記録正誤表・補足は、ka情報収集センターにアントニオ・グラムシ没後80周年にちなんだ寄稿ka「現代社会科学の一部となったグラムシ」(『唯物論研究』139号、2017年5月)をアップ。原爆・原発問題で、私もちょっぴり出演している原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画いのちの岐路に立つ〜核を抱きしめたニッポン国」 は、大阪で9月23日ー10月6日淀川文化創造館「シアターセブン」で上映とのことです。

ヒトラー容認の国と見られる日本の軍事化・ファシズム化の現在!

2017.9.1かと  ドイツ・ハイデルベルグ大学の友人から、緊急メールが来ました。北朝鮮のミサイルを、心配してではありません。ドイツの有力紙『フランクフルター・アルゲマイネ』8月30日にこんな記事が出ている、日本はいったいどうなってるんだ、というのです。曰く、大きな見出しに麻生副総理兼財務相の写真入りで、Minister nennt Hitlers Absichten „richtig“ (大臣がヒトラーの意図は「正しかった」と発言!)。Hitler war nicht gut, aber er wollte das Richtige – so äußerte sich der japanische Finanzminister Taro Aso. Nach Protest rudert er nun zurück. と、抗議されての撤回は一応報じられていますが、英語でググると、2013年には憲法改正に関しナチス政権を引き合いに出したうえで「手口を学んだらどうかね」と語って後に撤回したCNN記事等も生々しく残っていますから、財務相ホームページで英語で弁解した程度では、取り返しがつきません。Japanese minister Taro Aso praises Hitler, saying he had 'right motives'(麻生太郎大臣はヒトラーを称賛し、「正しい動機を持っている」と述べた)というニュースは、世界を駆け巡っています。「普通の国」なら、もちろん即刻辞任、政界追放です。 こんな人間が、戦後日本の政治家で最も世界に知られた吉田茂の孫であり、今日の日本政府のナンバー・ツーです。来週に予定されていた訪米直前で、副大統領と会えないことになり、訪米そのものが中止されました。

かと  麻生副総理のヒトラー発言は、70年前までの同盟国ドイツのマスコミをも驚かせるものですが、ナンバー・ワンの安倍総理も、その国際的常識・歴史認識を疑わせるに十分です。2013年5月、東日本大震災から復興した宮城県松島の航空自衛隊基地を訪問し、アクロバット飛行団「ブルーインパルス」を視察した際、731号練習機の操縦席に座り、親指を立てるポーズで写真撮影に応じました。これに対して、米国ワシントンの政治・外交情報誌「ネルソンリポート」は「(731という数字が浮き彫りになった)安倍首相のこの写真は、ドイツ首相がふざけてナチス親衛隊の制服を着て登場するようなレベル」とし「ドイツでは(ナチス制服着用が)法的にも許されないだけでなく、個人的にも道徳的な反感のためありえないこと」と非難した話は、私の『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)プロローグでも紹介しました。8月の関東軍731部隊のエリート医師たちの人体実験・細菌戦関与旧ソ連ハバロフスク裁判の音声資料から生々しく明らかにしたNHKスペシャル731部隊 エリート医学者と人体実験」放映と、それをめぐる「幻の731部隊説」によるネトウヨの批判攻撃が、再び海外でも注目されました。安倍首相の祖父が満州国高級官僚岸信介であること、安倍晋三の歴史認識が、加害国としての戦争の反省がなく全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないことから 、A Pacifist Japan Starts to Embrace the Military(New York Times, Aug 29, 2017)やERIN MURPHY, North Korean Aggression: Gift to Abe’s Constitution Revision Ambitions?(AUGUST 22, 2017)などと、見透かされています。日本のファシズム化は、すでに初期症状だらけで、世界の脅威です。

かと この後者のタイトル「北朝鮮の攻撃は、安倍の改憲野望への贈り物?」は、言い得て妙です。ドイツの友人が麻生副総理ヒトラー発言にびっくりした日、日本の新聞は、北朝鮮のミサイル一色でした。まさに、国政で失速する安倍首相への「贈り物」です。当日の日本政府の動きは、奇妙なものでした。安倍首相も菅官房長官も、久しぶりで公邸に泊まり込んでいました。北朝鮮の火星12号発射は8月29日午前5時58分頃、6時6分頃北海道襟裳岬上空550キロの高度で通過し、6時12分頃には襟裳岬東方1180キロの太平洋上に落下したとか。日本政府は6時2分に「頑丈な建物や地下への避難」を呼びかける内容のJアラートの「国民保護サイレン」を北海道・東北12都道府県に、6時14分には「不審なものを見かけても、決して近寄らないように」と配信、要するに、「空襲警報」が出ました。 6時26分には安倍首相の第一声、「我が国へ北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、我が国の上空を通過した模様でありますが、直ちに情報の収集・分析を行います。そして国民の生命に対して、国民の生命をしっかりと守っていくために万全を期してまいります」と、あたかも日本が直接の攻撃目標だったかのような談話。 明らかに、事前に準備されたもののようです。もしも前日からミサイル発射情報を持っていたのなら、なぜその段階で、警戒をよびかけなかったのでしょうか。軌道の予測があり、不慮の墜落等の危険があるのなら、真っ先に原発を止めるべきではないでしょうか。案の定、Jアラートはうまく機能せず、増設予定のミサイル迎撃システムが本当に役に立つのかどうかも不確かなままですが、ちょうど31日に防衛予算増額の概算要求が出される直前で、野党に有無をいわせぬ算段でしょう。おまけにドイツのメルケル首相他国際社会の趨勢は、もはや米国と北朝鮮の直接対話による外交的解決以外にないという方向に向かっており、ハリケーン被害対策で大変なトランプ大統領は、中国や韓国の言い分は尊重しても、日本の方を向いてくれない不安が、安倍首相にはあります。それが、二日続けの異例の電話による日米首脳会談になりましたが、気まぐれトランプの東アジア戦略は、あいかわらず不透明。武力衝突・核戦争を望んでいるのは、金正恩と安倍晋三ではないかと疑われても仕方のない立ち位置に、日本政府は追い込まれています。日本政府の対米依存があまりにも深刻なため、麻生副総理のヒトラー発言が、トランプの白人至上主義容認への援軍と捉えられかねないのが、国際社会での情報戦です。

かと  短い夏が終わりました。猛暑の日本を覚悟していましたが、この点は雨天続きで予想外。ただし、3月の大学教員生活終了を見越して1月に宣言した本サイト改造の基本計画、世界の公文書館で集めた史資料のデジタル化と現代史アーカイヴ作成は、ほとんど進みませんでした。関東軍731部隊の戦後の「隠蔽・免責・復権」を論じた『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』の仕上げと刊行(花伝社)で自由時間がとれるという算段でしたが、NHKスペシャル731部隊 エリート医学者と人体実験」とも関わって、この本の反響や問合せが大きく、講演正誤表や補足説明で、一区切りとはなりませんでした。アントニオ・グラムシ没後80周年にちなんだ寄稿ka「現代社会科学の一部となったグラムシ」(『唯物論研究』139号、2017年5月)に続いて、ロシア革命100年の雑誌原稿も書かなければならず、蔵書整理や史資料のデジタル化の作業は、秋に持ち越しです。夢見た「自由人」生活 は、まだまだ先のことになりそうです。本サイトも、しばらくは、国際情勢や安倍内閣の行方を追いかけ続けることになりそうです。原爆・原発問題で、私もちょっぴり出演している原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画いのちの岐路に立つ〜核を抱きしめたニッポン国」 の東京での上映会は9月9日(土)「たんぽぽ舎」大阪では9月23日ー10月6日淀川文化創造館「シアターセブン」で上映とのことです。ぜひご覧になってください。

軍国日本に戻らないように、「平和の道徳的優越性」をあくまで掲げて!

2017.8.15かと  久しぶりの日本での8月15日、「終戦記念日」の日付が正しいかどうかは別として、 今日に至る日本の歴史を直視する、絶好の機会です。お盆休みでメディア労働者に休暇を保証するためもあるのでしょうか、テレビでは連日見応えのある戦争と平和の歴史ドキュメンタリー番組があります。書物では十分伝えきれない史実を、映像や音声で説得的に描いて見せます。ワイドショーにはできない、調査報道の強みです。ヒロシマの安田高等女学校生徒の被爆記録が米軍の「治療なき人体実験データ収集」に用いられ、今日でも核戦争時の緊急待避マニュアルの原型として使われていること、長崎の浦上天主堂が広島の「原爆ドーム」のように保存されなかった理由を探る旅、その浦上に被差別部落があって被爆者が二重の差別を受けてきた経緯、そして本サイトも推奨・予告した関東軍731部隊のエリート医師たちの人体実験・細菌戦関与旧ソ連ハバロフスク裁判の音声資料から生々しく明らかにしたNHKスペシャル。815後も戦闘が続いた樺太地上戦や、無謀なインパール作戦日本の重慶爆撃に触発された米軍本土空襲の真実など、まだまだ続くようですが、なるほど日本のジャーナリズムも、まだまだ捨てたものではない、と感心しました。特に感動したのは、日本政府が討議に出席さえしなかった国連核兵器禁止条約成立に、civil society代表としてHibakushaの立場を訴え続けたカナダ在住サーロー節子さんのドキュメンタリー、 <明日世界が終わるとしても「核なき世界へ ことばを探す サーロー節子」 > 。you tubeでも、国連本部演説など彼女の「ことば」を見つけることができます。

かと もっとも日本の敗戦記念日は、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、中国、ロシアなど連合国、それに朝鮮・インドネシアなど日本の植民地・占領地域であった国々にとっては、戦勝記念日であり、光復節(解放記念日)です。安倍首相がA級戦犯を合祀する靖国神社に、参拝しないまでも玉串料を奉納したことで、国際ニュースになります。稲田前防衛大臣にいたっては、南スーダンPKO「日報」問題では国会審議から逃げ回っているのに、自民党保守系グループ「伝統と創造の会」と共に参拝しました。 安倍首相は、加害国としての戦争の反省すらなく世論の力でスケジュールがちょっと遅れた改憲を、目指し続けています。首相の全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないのは、現実の世界の方が戦争に近づいていて、15年安保法で集団的自衛権行使要件とした「存立危機事態」がありうると、考えているからでしょう。いうまでもなく、北朝鮮金正恩委員長が中長距離弾道ミサイルを米グアム島周辺に発射するかもしれず、人種差別主義者でもあるアメリカ・トランプ大統領の「軍事的解決の準備は万全だ」マティス国防長官の「米国をミサイル攻撃なら直ちに戦争に発展する恐れ」発言で、緊迫しています。情報戦・心理戦が、いつ軍事戦・武力戦になってもおかしくない、東アジア情勢です。北朝鮮が「グアム島周辺に向け発射する中距離弾道ミサイルが島根、広島、高知各県の上空を通過すると発表」したのを受けて、すでに防衛省は、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方の陸上自衛隊駐屯地に展開しました。「戦争の好きな」安倍危機管理内閣」の「ファシズム前夜」が続いているもとで、「Abe is Over」がくるまで、油断はできません.