ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
『資本論』150年、ロシア革命100年の日本は、「ファシズムの初期症候」に溢れていた!
2017.12.15 年の瀬です。先日、明治大学での現代史研究会で、研究上の大先輩、水田洋さんと伊藤誠さんに、久しぶりでお会いしました。2012年に亡くなったイギリスの歴史学者エリック・ホブズボームの遺著『いかに世界を変革するか:マルクスとマルクス主義の200年』(作品社)をめぐってでしたが、95歳で亡くなったホブズボームの浩瀚な歴史書について、1919年生まれの水田さんが亡友エリックの想い出を交えながら話し、1936 年生まれの伊藤誠さんは、戦前日本資本主義論争と宇野弘蔵経済学も踏まえて精緻な解説、 お二人ともお元気かつ明晰で、大いに気を強くしました。日本の社会科学・人文科学も世代交代が進み、様変わりしていますが、水田さんや伊藤さんから「市民社会」の歴史的含意やマルクス「資本制生産に先行する諸形態」の今日的意義を聞くのは、久しぶりの知的刺激でした。 中村勝巳さんが報告したように、晩年のホブスボームが21世紀へ架橋できるマルクス主義の遺産と評価していたのがアントニオ・グラムシであったことも、この春に「現代社会科学の一部となったグラムシ」を発表した私としては、我が意を得たりでした。
2017年は、マルクス『資本論』150年、ロシア革命100年でした。いくつかの催しはありましたが、出版・言論の世界では、さみしいものでした。新自由主義の世界制覇の後、世界の工場はアジアへ拡散し、一国的にもグローバルにも、経済格差の拡大と社会的弱者の生活破壊が進んだにもかかわらず。客観的に見ると、ロシア革命100年とソ連型社会主義・共産主義の負の遺産が、 『資本論』のスケールでの資本主義批判の必要性・切実性の一部を、相殺している様相です。一方でのグローバル資本主義の世界の隅々への浸透と、他方でのナショナリズムとポピュリズムの台頭が、インターネット時代の「万国の労働者、団結せよ!」をめぐって、せめぎあっているかたちです。今ではこの「労働者」が多義的で、女性であったり、民族的・宗教的マイノリティ、移民・難民・外国人労働者であったり、高齢者・こども・障害者・無国籍者であったり、はたまた無名の消費者・納税者・市民、ヒバクシャ・環境保護活動家・脱原発運動参加者であったりするのですが。
私のロシア革命100年は、中部大学『アリーナ』誌20号の「ソヴィエトの世紀」特集への寄稿としました。ちょうど2年前の12月25日、私の旧ソ連粛清日本人犠牲者発掘・名誉回復の「同志」であった藤井一行・富山大学名誉教授が、闘病生活の末に、亡くなりました。ご遺族の意向で、ごく近しいご親族・友人にしか知らされず、今でもウィキペディア上では、生前のままです。そこでご遺族と『アリーナ』誌小島亮編集長の了解を得て、『アリーナ』誌20号に小特集「藤井一行とソ連研究」を組み、書物になっていなかった遺稿を「コミンテルンと日本人粛清」として編纂・発表し、公的な訃報・追悼とすることにしました。旧ソ連崩壊期に発掘した野坂参三夫人野坂龍や、沖縄からアメリカに渡って西海岸の労働運動に加わり、FBIと移民局に弾圧されてソ連に「亡命」した「アメリカ亡命組」らの粛清裁判記録を綿密に検討し、学術的に政治裁判の恣意性・不当性を明らかにした記録です。稲田明子さんの「父・勝野金政と藤井一行先生」、私の「米国共産党日本人部研究序説ーー藤井一行教授遺稿の発表に寄せて」 が、解説と補足の役割を果たしています。藤井教授遺稿も私の「序説」も、一冊の書物になりうる長大な論文ですが、『アリーナ』誌のご厚意で、全文が収録されました。私の「序説」は、この機会に、石垣栄太郎・健物貞一・鬼頭銀一・ジョー小出(鵜飼宣道)・矢野務(豊田令助)・ジャック木元(木元伝一)・宮城与徳・野坂参三・小林陽之助ら、米国共産党を介して戦前日本の共産主義運動に重要な役割を果たした人々の活動を、系統的に描いてみました。戦後にカール米田やジェームズ小田によって作られた「神話」の解体です。ご関心の向きは、ぜひ『アリーナ』誌で。その副産物は、『北海道新聞』11月7日と『産経新聞』 11月24日に掲載されています。
本年3月早稲田大学を退職するにあたって、20周年を迎えた本サイトに「現代史資料アーカイヴ」を併設する決意を述べましたが、それは果たせませんでした。春に公刊した『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)が好評で講演会・旧満州現地調査等が続き、すぐに『アリーナ』誌の藤井教授遺稿編纂と私自身の長文寄稿があって、まとまった時間をとれませんでした。何よりも、アメリカのトランプ政権始動と安倍晋三内閣のモリ・カケ・スパコン疑惑、北朝鮮核危機とそれを最大限利用した安倍内閣衆院選大勝があり、徐々に撤退しようとした時局への発言も、続けざるをえませんでした。 私は2017年の日本を、「ファシズムの初期症候」の進展ととらえ、その一つ一つに警鐘をならしてきました。731部隊や戦前米国共産党の日本人を追いかけてきたのも、1930年代後半の日本との類似性を見出し、危惧してきたからです。そこから1940年の「紀元2600年」の国際的孤立、幻に終わった東京オリンピック、万国博覧会、国際ペンクラブ大会中止への道は間近でした。藤井教授に限らず、尊敬していた先学・先輩、親しかった同僚・友人、中には年下の友人も含めて、一人また一人と、現世から旅立って行きます。遺された私たちのできることは、20世紀の歴史に学んで、その真実と教訓を、後生に伝えていくことでしょう。マルクス生誕200年、「1968」50周年の来年も、1月20日(土)の第304回現代史研究会で、「今日もなお徘徊する亡霊たちーー731部隊の戦後史」を講演します(1−5時、明治大学リバティータワー7階1076室)。
ロシア革命100年の年に「人づくり革命」「生産性革命」を唱える安倍晋三
2017.12.1 アメリカのトランプと、日本の安倍晋三と、北朝鮮の金正恩、東アジアで核戦争危機を演出する3人の独裁的指導者には、なにやら似通った軽薄さ、おぞましさが感じられます。 国内の困難をそらすために軍事的緊張を高め、乱暴な言説で「敵」を挑発し、不測の突発的衝突を招きかねない危うさです。ロシアのプーチンや中国の習近平も独裁者ですが、その決定には、その国の伝統や政治システムから予測可能な、ある種の合理性・安定性があります。トランプ一世、安倍三世、金三世には、知性が感じられません。アメリカ大統領にトランプが就任し、金正恩の核・ミサイル開発が米国東海岸まで射程に収めるにしたがって、安倍晋三はひたすらトランプに従い、金正恩への「圧力」を声高に主張しています。森友・加計問題が明るみに出て以来、国権の最高機関たる立法府=国会での追及から逃げ回り、以前から権力を集中してきた首相官邸=行政府のイエスマンたちの中に閉じこもり、または海外に出て国会そのものを開かず、権力の集中と私物化を強めてきました。国民の飢餓と困窮を尻目にひたすら核兵器にしがみつく金正恩、史上最低の支持率も意に介さず、記者会見も開かずツイッターで軽薄な挑発的言辞をふりまくトランプと、いいトリオです。国際社会のなかで、孤立を深めるアメリカに忠実なだけの日本は、確実に影響力を弱め、存在感を失っています。
かつて日本は、「経済一流・政治三流」 といわれた時代がありました。目下の日米同盟・対米従属の政治は相変わらずですが、 経済力はいまだ米国・中国に次ぐGDP世界第三位ですから「一流」と言ってもいいはずです。しかし、長期的に見れば、隣国中国の台頭がありますから、少子高齢化の日本は、移民を大量に受け入れない限り、落日が目に見えています。「ものづくり」を看板にしてきましたが、安倍晋三を育てた神戸製鋼、三菱マテリアル、現経団連会長が社長時代の東レと製品検査データ改竄が発覚、日産の完成検査不備で自動車大量リコールと、原材料から製品まで手抜きの不祥事続々。原発にも航空機にも納入されていましたから、放射能以前の技術的再点検が必要に。きわめつけが、国策に乗って海外原発企業買収に手を出し火傷した東芝、20世紀日本経済の黄金期を支えた名門企業が、ニューヨーク・タイムズスクェアーの広告から撤退して、風前の灯です。無論、パナマ文書からパラダイス文書へと税金逃れの多国籍企業も続々現れ、大企業の内部留保と日銀バズーカで持たせている株価・低失業率も、非正規労働者やシングルマザーの生活を安定させることはできません。最低賃金を抜本的に引き上げ国内消費市場を拡大しない限り、「経済大国」の実感は湧いてきません。外国人観光客の増大も、安定した「平和の持続」にかかっています。かつての3/11がそうだったように、観光は震災や事故に敏感です。ましてや戦争切迫は、直ちに観光客を失います。だからこそ安倍晋三は、「働き方改革」から「生産性革命」へと踏み込み、「人づくり革命」なる他の先進国なら当たり前の長期的教育投資を、大げさにいいたてなければならないのです。軽くて不毛な「革命」のバーゲンです。「生産性革命」が神戸製鋼・日産風のいっそうのコスト削減・品質劣化・安全軽視と、電通・NHK型の長時間労働・過労死・過労自殺につながり、「人づくり革命」が「教育無償化」「全世代型の社会保障への改革」という名の高齢者「活用」強制、年金・福祉財政削減の方向に向かうことは、目にみえています。戦略なき「革命」は、簡単に「改革」以前に戻るか、「反革命」に転化するか、せいぜい「流行語大賞候補」への状況的パフォーマンスにならざるを得ないのです。
ロシア革命百年の方の老舗の「革命」は、暴力と強制を伴いました。20世紀の喧噪は嘘だったかのように、日本では「人づくり革命」ほどにも、論じられなくなりました。「十月社会主義大革命」や「プロレタリアートの独裁」は、忘れられました。1917年「二月革命」に孕まれた自由化・民主化の可能性が「十月革命」で閉ざされた、レーニン率いるボリシェヴィキ党による憲法制定議会解散の暴挙でテロルと反乱が蔓延し、「クーデタ」と政治警察創設により「暗黒の全体主義世界」に置き換えられていった、といった議論が主流です。注目されるのは「革命の文化」で、政治における劇場化やポピュリズム台頭、経済における広告やブランド開発、そして社会におけるSNSやスマホの仮想主体間コミュニケーションに、アヴァンギャルド前衛芸術や共産党風諜報・相互監視の技術とスタイルが取り込まれ、 ビッグデータを学習したAIマーケティング、 地に足がつかないグーグル型メディア取材、それに消費から恋愛にいたる差異化戦略・戦術、心理戦・情報戦のイメージが蔓延しています。大切なのは、技術やスタイルではなく、生身の人間の生活と苦闘なはずなのに、アピールやコミュニケーションの内容が、瞬間的に見えてはいとも簡単に解体していきます。百年前のロシアでいえば、「パンと土地と平和」にあたる「革命」にとっての切実な内容が忘れられ、スタイルではなくコンテンツが何だったのかが見えません。安倍晋三の「革命」が「生産性」や「人づくり」であるのに対抗して、あるいは「憲法9条」や「対北朝鮮軍拡」であるのに対して、対峙しうる生活世界の切実な内容を、いま・ここで・考え・提示すること。それが、「君たちはどう生きるか」であったり、「沖縄からのまなざし」であったり、脱原発やヘイトスピーチへの対抗であったり、なのでしょう。量より質を重んじること、世代と民族を越えてつないでいくこと、つまりは自分自身の「改革」であり「革命」になりうるものを、捜すしかないでしょうーー10月中国東北部旅行の体験を消化しきれないまま体調不良が続き、今回はFTPの不具合でアップが2日も遅れ、ややメランコリーです。けっきょく私の「ロシア革命100年」は、『北海道新聞』11月7日記事のもとになった、中部大学『アリーナ』誌20号に近く発表される長大寄稿になりそうです。安倍晋三型ファシズムとの、「永続民主主義革命」の一部です。
ファッショ化する日本で、どんな獣医学が出てくるのか?
2017.11.15 安倍ファッショ内閣の奢りは、メディア支配から学術支配へと、広がり、深まっています。総選挙における自民党大勝、安倍晋三内閣の継続、野党の分解・新体制づくりのもとで、ようやく開かれた国会は、奢る与党が質問時間の配分は民意による議席構成を反映していないと難癖をつけ、ようやく与党1・野党2の暫定合意です。その合意が出来る前に、総選挙前から国会論議の最大争点であった加計学園獣医学部の来年度開設を、文科相は大学設置審答申を受け、正式に認可しました。首相とゴルフ友達の加計学園理事長との関係も、国家戦略特区の四条件との適合性、今治市の土地無償譲渡と建設費半額負担、「総理の意向」や「官邸の最高レベル」が飛び交った内閣府と文科省の政府内交渉過程、何も国民に説明されず、解決していません。そのうえ、定員140人の内20人を韓国人留学生枠とし、国内(特に四国)の獣医師不足をうたって発足したのに、真偽は不明ですが正式認可前に募集要項を配った疑いも。この問題は、21世紀になって進む大学の研究教育への政府の介入、日本の科学技術の国家主義的再編の一環です。分散した野党の調査と追及の力が、試されます。
大学設置審でも最後まで疑念が出されたようですが、獣医学部の新設は、52年ぶりです。獣医学は、医学の一部でしょうか? 医学は、古代ギリシャ以来の伝統があり、それが「敵味方の区別なく戦傷者を救護する」赤十字の人道活動につながります。「 病人を治療し,病気を予防し,健康を増進することを研究する学問」として発展してきた医学が、第一次世界大戦時のドイツの毒ガス化学兵器をもたらしたことから、1925年のジュネーヴ議定書は、戦争における化学(C)兵器・生物(B)兵器の使用を禁止しました。ところが開発、生産、保有が制限されていなかったので、ナチス・ドイツのホロコースト、軍国日本の関東軍防疫給水部731部隊の生体実験・細菌戦が実行されました。 ジェネーブ議定書に署名した日本が批准したのは第二次世界大戦後の1970年、アメリカの批准はベトナム戦争が終わる1975年でした。 その後1972年署名・75年発効の生物兵器禁止条約、1993年署名・97年発効の化学兵器禁止条約で、BC兵器の包括的禁止・検証が国際法化され、今夏国連での核兵器禁止条約採択で、ようやくABC兵器全体の国際法違反が明確になりました。ただし核兵器(A)禁止条約には、核保有国ばかりか、かの「唯一の戦争被爆国」日本政府も反対しているため、12月10日にICANのノーベル平和賞受賞式が決まったにもかかわれず、批准への見通しは不透明です。このように、医学・化学・物理学などは、人類社会の発展のために生まれ貢献してきたにもかかわらず、20世紀に世界大戦での大量破壊兵器開発の推進力になることによって、戦争との結びつきが警戒され、人道的倫理・社会的責任が強く求められる科学になりました。私の『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社、特設頁参照)は、731部隊に即して、その戦後の軌跡を追いかけたものでした。
獣医学は、家畜やペットへの医学の応用とされていますが、日本における獣医学は、「黎明期においては犬・猫といった小動物に関する学問の発展は副次的なものでしかなく、本来の目的は明治維新以降における食生活の欧米化に対応した家畜の生産性の向上及び軍馬の生産・疾病予防であった」といわれるように、ABC兵器開発のための動物実験を含め、医学の軍事化と産業化のために発達してきたもののようです。それも、軍馬育成中心の陸軍獣医学校・学会が主導してきたものです。事実、歴史的には1936年の関東軍防疫給水部731部隊の公的新設のさい、一緒に関東軍軍獣防疫廠が発足し、石井四郎のハルビン731部隊と若松有次郎の新京(現長春)100部隊は姉妹部隊で、 ともに細菌戦研究・人体実験をしていました。また、731部隊にも、獣医や理学博士・農学博士が組み込まれていました。GHQ・米国・ソ連もそれを察して、ソ連のハバロフスク裁判では高橋ヘ篤・関東軍獣医部長らが戦犯とされましたが、日本ではGHQの戦犯追及、人体実験データ提供とバーターでの米軍免責が731部隊中心に進んだため、細菌戦獣医学者は、相対的にスムーズに戦後に生き残り、若松有次郎が日本医学工場長になり、獣医学会やミドリ十字に伝統が残されたといいます。 だからこそ、加計学園が施設内にウィルス・細菌実験施設を作ろうとして、その安全性のみならず、生物化学兵器開発施設ではないかと疑われたのです。こうした問題まで国会で追及できるかは、安倍内閣全体のファッショ的性格、「戦争のできる国」への道を、野党がどれだけ深刻に受け止めるかにかかっています。
前回更新で、トランプ来日に狂騒する日本のメディアを批判し、焦点は北京での米中会談だと述べておきましたが、 世界の評価も、その通りだったようです。横田基地からの入国も、ゴルフ中の首相の醜態も、豪華な肉料理でのおもてなしもエピソードに過ぎず、トランプ最大の成果は日本への米国兵器売り込みでした。中国では桁違いの大型商談で、米国国内向けには貿易不均衡是正の圧倒的アピールです。安倍政権が総選挙の目玉に使い、最大のテーマにしようとした北朝鮮への「対話でなく圧力」は、米軍に従属した忠犬日本の好戦的姿勢を世界に示しただけでした。その間に、米国サンフランシスコ市は、中国系米国人が求めた慰安婦像受け入れを決定、国連人権委員会は対日人権調査を始動。女性の人権が一つの焦点なのに、大手マスコミは性暴力被害者の声を無視、新資料で裁判に臨んでも高裁は砂川事件再審棄却。どうやら、日本社会全体が萎縮し、ナショナリズムに毒され、安倍型ファシズムに飲み込まれそうです。特に、若い世代の歴史認識と、政治選好が気になります。ちょうどロシア革命100年、「1968」50年、いろいろな議論が出ていますが、私自身の論考も、徐々に発表しますので、次回以降に。
米中関係のはざまで、ファッショ化する日本!
2017.11.1 日本で総選挙と野党再編が急速に進んでいるあいだ、中国共産党大会開催中の中国東北部、ハルビンから中ロ国境の虎頭要塞まで、旅していました。ハルビン市郊外平房は、関東軍731部隊の本部があった、人体実験と細菌兵器製造の中核基地でした。1945年8月敗戦にあたって、石井四郎ら731部隊は、国際法違反により天皇に戦争責任が及ぶのを懼れて、8月9日のソ連参戦直後に、いち早く撤退しました。参謀本部の指令は「一切の証拠物件を抹消せよ」でした。石井四郎隊長は「徹底爆破焼却、徹底防諜」を命じ、人体実験用に憲兵隊等から送られた中国人・ロシア人・朝鮮人等の「抗日分子=マルタ」数百人を毒ガスや銃で殺し、ボイラー室で焼却した灰は松花江に流されました。しかしダイナマイトで爆砕したはずの建造物の一部や、細菌研究の実験器具、地下室、焼却し切れなかった書類の断片等々は、ペストノミなど中国各地で実際に使用された細菌爆弾の被害者たちの証言と共に、残されました。それらが丹念に集められ、建物跡が発掘・再現され、日本やアメリカ・ロシア・モンゴル・韓国等で見つかった史資料と共に系統的に整理され展示されて、現在では「侵華日軍第731部隊罪証陳列館」を中心に、ユネスコの世界遺産登録が目指されています。
ハルビンからさらに離れて、石井部隊発祥の地背蔭河、満鉄系列満州炭鉱の経営で中国人労工を酷使し、反抗するものは虐殺したり「特移扱」で731部隊の「マルタ」にした鶏西「万人坑」、ロシア国境に近く満蒙開拓団村跡地のある虎林、それに関東軍の対ソ戦争のための強固な国境ウスリー河畔虎頭要塞まで、夜は寝台列車に揺られて、旧「満州国」侵略の足跡を辿ってきました。夜は零下で昼でも10度ほど、完全冬仕度でも寒い毎日でした。長年731部隊を追いかけてきたABC企画委員会の20人ほどの調査旅行団の一員でしたが、731部隊隊員3560人の戦後を追った『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社、特設頁参照)を書きあげ、夏のNHKスペシャル「731部隊の真実ーーエリート医学者と人体実験」に協力したうえでの実地調査で、書物での知識と実際に見る遺跡の違いを、いやと言うほど味わいました。鶏西「万人坑」での、強制徴用したうえ抵抗・衰弱した労工を焼却したボイラー室で、人体焼却で出た油を再利用していた話には、ドイツのブーヘンヴァルトやザクセンハウゼンのホロコースト強制収容所で見たガス室・石鹸工場を想い出し、暗然とする衝撃でした。
ちょうど中国共産党第19回党大会のさなかでした。ホテルのテレビでは連日習近平体制確立のニュースが放映され、夜は毛沢東・周恩来らの抗日戦争のドラマです。NHK国際放送もチャンネル表には載っているのに、なぜか映りません。インターネットはWIFIで通じますが、日本の総選挙情報はGoogle, Facebook, Twitterが一切使えず、Yahoo Newsで拾える程度でした。ウェブの報道統制は、いつもより強かったようです。政治学者としては、もどかしい日々でしたが、結果は、マスコミの事前予測通りの安倍政権与党圧勝、こちらも暗澹たる気分でした。前回更新で危惧したファシズム化=「権威主義的反動と疑似革命の合流」のうち、「疑似革命」になぞらえた「希望の党」の民進党解体戦略は途中のリベラル「排除」発言等で失速し、「立憲民主党」が野党第一党になったようですが、島国の外から見ていると、明らかな右翼改憲派の大勝、1932年のドイツで言えば、ナチスが第一党になった11月国会選挙のようで、ドイツ共産党が最後の抵抗を見せて伸張したのが立憲民主党の躍進と似るが、翌年にはヒトラー政権成立で、抵抗勢力は踏ん張りきれず、非合法化されます。安倍独裁の軽薄な「革命」連呼が、若者を引きつけたかたちです。無論、若者たちも「人づくり革命」「生産性革命」の未来を信じたわけではなく、「トランプ・金正恩戦争」の不安や野党の頼りなさで、軽い気持ちで自民党に投票しただけでしょう。麻生副総理の吐露した「北朝鮮のおかげ」は、森友・加計問題から逃げ続けた安倍首相の代弁でしょう。投票率は53.88%、小選挙区制導入以前の70%前後が投票した時代は、遠くなりました。実は、小選挙区制と政党交付金導入による1994年「政治改革」こそ、戦後日本の民主主義にとっての「反革命」でした。2009年に無党派層が投票所に向かい民主党政権を生み出した「政権交代可能な二大政党制」の実験結果に、国民が「希望」ではなく「失望」した結果が、今回の「絶望」まで尾を引いている、と考えられます。野党の再建・再編よりも、選挙制度全体の見直しが急務で、結果的には、日本国憲法の改悪に大きく道を拓いたかたちです。
中国東北部、旧「満州国」地方は、朝鮮族が多く住む地域で、駅の近郊地図には「朝鮮族・満族・回族」などと、集落毎の部族名が記されていました。ロシアと共に、北朝鮮とも国境を接しています。しかし旅行中、中国と北朝鮮の緊張、米朝核ミサイル戦争切迫の気配は、全く感じられませんでした。かつて中ソ領土紛争の舞台だった中ロ国境虎頭要塞も、いまは平静な観光スポットです。安倍内閣のJアラートやイージスアショア配備のフェイク性を実感します。10年ほど前に上海・北京から長春(旧「満州国」首都・新京)まで足を伸ばし、「 『社会主義』中国という隣人」という紀行文を書いて、一部で物議をかもした経験がありましたが、今回は、いっそう広がった中国共産党独裁下のグローバル資本主義の増殖・浸透を、実感しました。東北部もインフラ整備が進み、クルマが溢れ、あらゆる商品が並べられています。ほとんど日本と変わらぬカラフルな服装の若者が、スマホ片手に、スターバックス風カフェで談笑しています。狭くうるさい寝台列車には閉口しましたが、やがて新幹線が伸びるということです。ハルビンは、東京並みの国際都市で、公園や遺跡の整備も進んでいます。通貨の元紙幣が使われなくなり、スーパーでもレンタル自転車でも現金ではなくスマホ決済なのは、日本やアメリカ以上です。 書店には、英語本や欧米の翻訳本・ビジネス実用書が溢れ、日系作家では、ノーベル文学賞のカズオ・イシグロではなく、村上春樹・渡辺淳一・東野圭吾の中字訳が書棚を占拠しています。歴史認識の素材の幅も予想外に広く、日本の書店の反中・嫌韓本平積みより知性的です。党大会習近平報告の目玉「新時代の中国の特色ある社会主義思想」の内実は、2050年までに「主導的超強国」、つまり「パクス・チャイナ」という巨大資本主義・帝国主義になる計画であり、21世紀のヘゲモニー国家宣言です。無論、軍の近代化も組み込まれており、核武装・原発大国化も前提されています。そんな時に、せっかく 国連の場で、122か国の賛成で核兵器禁止条約が採択されたのに、アメリカの核の傘にすがり続けて反対し、狂犬トランプのアメリカの属国として延命しようというのが、ファシスト安倍晋三の日本国です。もはや「唯一の戦争被爆国」という枕詞の神通力も効かなくなって、東アジアの平和破壊国になろうとしています。米中関係の今後を見誤ると、それこそ「国難」です。トランプの訪日は5−7日、訪韓は7−8日ですが、世界の眼は、8−10日の訪中首脳会談に集中しています。
権威主義的反動と疑似革命が合流すると…? 歴史はリセットできない!
2017.10.1 あっという間に、安倍首相の気まぐれで、解散・総選挙となりました。臨時国会冒頭の、森友・加計問題での国会審議から逃げて権力私物化を強引に認証させる、ヒトラー「我が闘争」ならぬ安倍晋三「我が逃走」です。めまぐるしい政局で、もう過去のこととされがちですが、日本政府が世界に発した直近のメッセージは、9月の国連総会でした。米国トランプ大統領の演説は、北朝鮮金正恩を「ロケットマン」と呼んで国の「完全な破壊」の可能性をほのめかし、イランやキューバ、ベネズエラをも乱暴に非難する、国連の歴史に残るヘイトスピーチでした。世界を驚かせたトランプ演説や、それに対比されたフランス・マクロン大統領の国際協調演説とは違って、安倍首相の演説時は会場に空席が目立ち、世界の関心をひきませんでした。一つには国際社会の中での日本の存在感の凋落をあらわしていますが、今ひとつは、直前に『ニューヨーク・タイムズ』で「北朝鮮とのさらなる対話は行き詰まりの道」と強力な対北朝鮮圧力を主張し、国際社会の大勢に挑戦するトランプの軍事的脅迫を補強するものと、受け止められました。案の定、安倍総会演説は 「必要なのは対話ではない。圧力です」と絶叫するもので、各国代表は耳を傾けず、むしろ、批判的コメントを誘発するものでした。世界が核戦争勃発を危惧しているもとで、安倍首相は戦争推進派、トランプの番犬とみなされたのです。ちょうど同じ国連の場で、核兵器禁止条約の調印が始まり、50を越える国家・地域が署名式に参加し、批准手続きに入りましたが、「被爆国」日本の政府は、姿を見せませんでした。ここでも、核保有大国アメリカの忠犬です。選挙中にも、新たな衝突が起こるかもしれません。
北朝鮮とアメリカのチキンレースがエスカレートし、沖縄や米軍基地・原発サイトが戦争の発火点になりかねない情勢のもとで、これを「国難」と称して独裁基盤を再構築するのが、ファシスト安倍晋三の狙いでした。もう一つの狙いは、最大野党民進党の不祥事と不人気に乗じて、森友・加計問題で頓挫しかけた自らの手による憲法改正の狙いを、多少議席を減らしても支持基盤再編で議席上の信任をとりつけ、強行突破することでした。その狙いは、半分挫折し、半分実現しそうです。小池百合子東京都知事率いる「希望の党」の選挙参入、その策略にまんまと乗った民進党の解体、共産党主導の野党共闘の周辺化、自民党議席激減で安倍が退陣したとしても圧倒的多数になる保守改憲派の絶対多数確保、安保法・機密保護法反対派のゲットー化、多少テンポを落としての憲法全面改正、立法府の大政翼賛会化への道です。 本サイトはすでに、「ファシズムの初期症候」はこの国に蔓延していると警告してきました。故山口定教授の名著『ファシズム』での「ファシズム体制」の定義は、@一党独裁とそれを可能にするための「強制的同質化」と呼ばれる画一的で全面的な組織化の強行、A自由主義的諸権利の全面的抑圧と政治警察を中核とするテロの全面的制度化、B「新しい秩序」と「新しい人間」の形成に向けての大衆の「動員」、C軍、官僚機構、財界、教会などの既成の支配層の反動化した部分(権威主義的反動)と、広義の中間的諸階層を基盤とした急進的大衆運動の指導者層やそれに代替する「革新将校」や「革新官僚」(擬似革命)との政治的同盟、と特徴づけています。いま日本は、その方向に向かっているように見えます。
この夏は、『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社、特設頁参照)で予告した次の書き下ろし、「崎村茂樹」研究のために、久しぶりにドイツ語「ゲッペルス日記」を邦訳「トーマス・マン日記」と対比しつつ読んできましたが、どうやら「我が闘争」も、読み直す必要がありそうです。日本の政治学では、「小泉劇場」以来、「ポピュリズム」という概念で「安倍一強体制」や「トランプ現象」を読み解く仕事が出ていますが、山口定教授の言うC「権威主義的反動と疑似革命の政治的同盟」という観点から、現代日本政治を読む必要を痛感します。これまで安倍内閣の「権威主義的反動」=「上からのファシズム」が、やたら「人づくり革命」「生産性革命」と「革命」を連発するので、日本会議というやや弱い「疑似革命」運動=「下からのファシズム」が受け皿かと考えてきましたが、どうやらもう少し根が深く、「希望の党」という、新自由主義とナショナリズム・排外主義をポピュリズム風に融合させた、「微笑みのファシズム」運動が現れたようです。 ドイツのナチ党が初めて第一党になった1932年7月国会選挙から共産党と二極化した11月選挙を経て、ヒトラー政権成立直後の33年3月選挙他党弾圧から全権掌握の授権法で、ワイマール民主制は崩壊しました。保守・中道政党を含む反対党は消えました。日本にも、二大政党が「挙国一致」を競い合い、投票6日後の2.26事件から軍部独裁に道を拓いた「昭和史の決定的瞬間」1936年総選挙がありました。国民にとっての「国難」は、 「伝統保守」と「改革保守」の競い合いのなかから、「挙国一致」への熱狂的動員が始まることです。政治のリセットと称して、関東大震災時の朝鮮人虐殺を忘れさせるような、歴史のリセットまで進められています。ゲッペルスの手法です。暴力と謀略、差別と脅迫が横行する社会になるのか、第3極が奮闘して「悪夢」で杞憂に終わればいいのですが、暗澹たる想いを禁じ得ません。 10月中旬は、731部隊研究の旧「満州国」旅行で、日本の総選挙・中国共産党大会中の中国滞在になるため、次回更新は、11月1日としておきます。
北朝鮮のミサイルに助けられる、安倍内閣「戦争国家」への道!2017.9.15 首相官邸での記者会見で鋭い質問を浴びせた東京新聞記者に対して、「どうして政府の言うことに従わないのか」「殺してやる」という脅迫電話がありました。それを政府は誘発し、放置しています。「ファシズムの初期症候」は、安倍内閣の一時的支持率凋落や麻生副総理のヒトラー容認発言にもかかわらず、いっそう強まっています。一度後退したかに見えた残業代ゼロを認める「働き方改革法案」も連合の容認で再浮上し、自民党の9条改憲論議も再開されました。いうまでもなく、北朝鮮の核実験・ミサイル危機と、最大野党民進党のふがいなさ・敵失に便乗した、ファシスト安倍晋三の巻き返しです。世論調査では、不支持率も高いものの、軒並み安倍内閣支持率が回復しています。
本15日朝も、北朝鮮の「火星12」ミサイルで、日本はJアラートの空襲警報、韓国は 長距離空対地ミサイル「タウロス」実射で対抗、航空機で移動中の安倍首相はいつもの「動きは完全に把握」して「暴挙」糾弾・「制裁」強化、トランプ大統領は「グアムや米本土の脅威ではない」 とアメリカン・ファースト。「対話」の糸口は、つかめていません。金正恩独裁の冒険主義と米国トランプ大統領の気まぐれで、予測困難な戦争の危機がエスカレートし、韓国や日本も核武装すべきとか、非核3原則を改めて米国の核配備を明示すべきとか、きな臭い議論が出ています。そこで標的にされるのは、日本国憲法の、戦争放棄・戦力不保持・交戦権否定です。
平和主義・戦争放棄は、1928年の不戦条約をはじめ、二つの世界大戦の経験を経て、世界の憲法典に入っていきました。日本国憲法の独自性は、これを「戦力不保持」にまで、つきつめたところにあります。それは、日清・日露戦間期の1901年、日本で初めて生まれて即日禁止された社会主義政党、社会民主党の「万国の平和を為すには先ず軍備を全廃すること」という結党宣言の思想の延長上にありました。「戦争は素これ野蛮の遺風にして、明に文明主義と反対す、若し軍備を拡張して一朝外国と衝突するあらんか、其結果や実に恐るべきものあり」と軍人の専横・武断政治を予言し、「若し不幸にして戦敗の国とならんか、其惨状素より多言を要するまでもなし」と、勝っても負けても悲惨な戦争、軍備の放棄、非戦平和の決意を唱っていました。日本国憲法第9条は、米国の「押しつけ」ではありません。軍国主義の支配、敗戦の悲惨の体験と共に、日本の中に非戦平和を願う人々の伝統があったからこそ、1947年施行の日本国憲法は、国民から歓迎されたのです。
改憲問題とは、朝鮮戦争を機に米国から「他律的に押しつけられた」ものだ、と喝破したのが、本サイトの指針とする「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」と述べた、政治学者・丸山眞男です。丸山「憲法第九条をめぐる若干の考察」(『後衛の位置から』未来社、1982所収)は、「改憲問題は、第9条が政治問題化したところから」出発した、といいます。占領中の米国が朝鮮戦争の基地である日本に警察予備隊を設けたため、政府も矛盾した答弁を重ね、それがサンフランシスコ講和・日米安保条約締結から保安隊・自衛隊へと展開して、9条2項「戦力不保持」に抵触するかどうかが争点になりました。1955年2月総選挙で、保守合同を控えた「自主憲法制定」勢力が国会議席の3分の2を占めることができず、「護憲勢力」が3分の1以上を確保できたことが、その後の長い「改憲問題」に連なったことを述べています。そのさい、護憲派も改憲側も平和憲法の「理想」は疑いないものとして、安全保障・防衛政策の「現実」との二元論を説く政府(解釈改憲)、憲法を大枠として核保有のような「自衛力の限度」を説く立場、それに丸山自身のように、憲法前文と第9条の「精神」にもとづき「現実」を「理想」に近づける「政策決定への不断の方向づけ」ととらえる立場が、ありえます。憲法が「平和国家」としての緊張緩和・軍縮への貢献を政府に要請している、という最後の立場からすれば、21世紀の防衛庁の防衛省への昇格、武器輸出・原発輸出、集団的自衛権容認と新安保法、そして北朝鮮に対抗する核保有論議の再燃は、「理想」そのものを投げ捨てて、核軍拡・「戦争国家」へと向かう、「改憲問題」の土俵そのものの変容を意味します。「ファシズムの初期症候」は、確実に増殖し、この国の身体と精神をむしばみ、蔓延しようとしています。
1940年に、日本は紀元2600年と銘打って、東京でのオリンピック、万国博覧会の同時開催が決まっていました。しかし、日中戦争の泥沼化と同盟国ドイツの欧州侵略戦争で、どちらも不可能になりました。日本の軍国主義化は、国際社会での孤立をまねき、太平洋戦争・敗戦に連なりました。いま辺見庸さんの『1★9★3★7』が読まれたり、NHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」や私の『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』が話題になったりするのも、「戦争国家」の実相を知ろうとする人々が、なお市民社会に根強く存在しているからでしょう。マスコミの中にも、NHK沖縄放送局制作のスクープドキュメント「沖縄と核」のように、史資料とインタビューにもとづくすぐれた調査報道が、残っています。森友・加計問題が安倍政権のアキレス腱であることは、変わりはありません。東京新聞記者への殺害予告やジャーナリストであるレイプ被害者の告発への支援・後続報道が弱いのは気になりますが、マスメディアでも 、ウェブ上でも、「戦争国家」への道と「平和国家」の理想に近づける道のせめぎあい・情報戦が、なお続いています。『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』の講演記録や正誤表・補足は、情報収集センターに。アントニオ・グラムシ没後80周年にちなんだ寄稿「現代社会科学の一部となったグラムシ」(『唯物論研究』139号、2017年5月)をアップ。原爆・原発問題で、私もちょっぴり出演している原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画「いのちの岐路に立つ〜核を抱きしめたニッポン国」 は、大阪で9月23日ー10月6日淀川文化創造館「シアターセブン」で上映とのことです。
ヒトラー容認の国と見られる日本の軍事化・ファシズム化の現在!
2017.9.1 ドイツ・ハイデルベルグ大学の友人から、緊急メールが来ました。北朝鮮のミサイルを、心配してではありません。ドイツの有力紙『フランクフルター・アルゲマイネ』8月30日にこんな記事が出ている、日本はいったいどうなってるんだ、というのです。曰く、大きな見出しに麻生副総理兼財務相の写真入りで、Minister nennt Hitlers Absichten „richtig“ (大臣がヒトラーの意図は「正しかった」と発言!)。Hitler war nicht gut, aber er wollte das Richtige – so äußerte sich der japanische Finanzminister Taro Aso. Nach Protest rudert er nun zurück. と、抗議されての撤回は一応報じられていますが、英語でググると、2013年には憲法改正に関しナチス政権を引き合いに出したうえで「手口を学んだらどうかね」と語って後に撤回したCNN記事等も生々しく残っていますから、財務相ホームページで英語で弁解した程度では、取り返しがつきません。Japanese minister Taro Aso praises Hitler, saying he had 'right motives'(麻生太郎大臣はヒトラーを称賛し、「正しい動機を持っている」と述べた)というニュースは、世界を駆け巡っています。「普通の国」なら、もちろん即刻辞任、政界追放です。 こんな人間が、戦後日本の政治家で最も世界に知られた吉田茂の孫であり、今日の日本政府のナンバー・ツーです。来週に予定されていた訪米直前で、副大統領と会えないことになり、訪米そのものが中止されました。
麻生副総理のヒトラー発言は、70年前までの同盟国ドイツのマスコミをも驚かせるものですが、ナンバー・ワンの安倍総理も、その国際的常識・歴史認識を疑わせるに十分です。2013年5月、東日本大震災から復興した宮城県松島の航空自衛隊基地を訪問し、アクロバット飛行団「ブルーインパルス」を視察した際、731号練習機の操縦席に座り、親指を立てるポーズで写真撮影に応じました。これに対して、米国ワシントンの政治・外交情報誌「ネルソンリポート」は「(731という数字が浮き彫りになった)安倍首相のこの写真は、ドイツ首相がふざけてナチス親衛隊の制服を着て登場するようなレベル」とし「ドイツでは(ナチス制服着用が)法的にも許されないだけでなく、個人的にも道徳的な反感のためありえないこと」と非難した話は、私の『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)プロローグでも紹介しました。8月の関東軍731部隊のエリート医師たちの人体実験・細菌戦関与を旧ソ連ハバロフスク裁判の音声資料から生々しく明らかにしたNHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」放映と、それをめぐる「幻の731部隊説」によるネトウヨの批判・攻撃が、再び海外でも注目されました。安倍首相の祖父が満州国高級官僚岸信介であること、安倍晋三の歴史認識が、加害国としての戦争の反省がなく、全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないことから 、A Pacifist Japan Starts to Embrace the Military(New York Times, Aug 29, 2017)やERIN MURPHY, North Korean Aggression: Gift to Abe’s Constitution Revision Ambitions?(AUGUST 22, 2017)などと、見透かされています。日本のファシズム化は、すでに初期症状だらけで、世界の脅威です。
この後者のタイトル「北朝鮮の攻撃は、安倍の改憲野望への贈り物?」は、言い得て妙です。ドイツの友人が麻生副総理ヒトラー発言にびっくりした日、日本の新聞は、北朝鮮のミサイル一色でした。まさに、国政で失速する安倍首相への「贈り物」です。当日の日本政府の動きは、奇妙なものでした。安倍首相も菅官房長官も、久しぶりで公邸に泊まり込んでいました。北朝鮮の火星12号発射は8月29日午前5時58分頃、6時6分頃北海道襟裳岬上空550キロの高度で通過し、6時12分頃には襟裳岬東方1180キロの太平洋上に落下したとか。日本政府は6時2分に「頑丈な建物や地下への避難」を呼びかける内容のJアラートの「国民保護サイレン」を北海道・東北12都道府県に、6時14分には「不審なものを見かけても、決して近寄らないように」と配信、要するに、「空襲警報」が出ました。 6時26分には安倍首相の第一声、「我が国へ北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、我が国の上空を通過した模様でありますが、直ちに情報の収集・分析を行います。そして国民の生命に対して、国民の生命をしっかりと守っていくために万全を期してまいります」と、あたかも日本が直接の攻撃目標だったかのような談話。 明らかに、事前に準備されたもののようです。もしも前日からミサイル発射情報を持っていたのなら、なぜその段階で、警戒をよびかけなかったのでしょうか。軌道の予測があり、不慮の墜落等の危険があるのなら、真っ先に原発を止めるべきではないでしょうか。案の定、Jアラートはうまく機能せず、増設予定のミサイル迎撃システムが本当に役に立つのかどうかも不確かなままですが、ちょうど31日に防衛予算増額の概算要求が出される直前で、野党に有無をいわせぬ算段でしょう。おまけにドイツのメルケル首相他国際社会の趨勢は、もはや米国と北朝鮮の直接対話による外交的解決以外にないという方向に向かっており、ハリケーン被害対策で大変なトランプ大統領は、中国や韓国の言い分は尊重しても、日本の方を向いてくれない不安が、安倍首相にはあります。それが、二日続けの異例の電話による日米首脳会談になりましたが、気まぐれトランプの東アジア戦略は、あいかわらず不透明。武力衝突・核戦争を望んでいるのは、金正恩と安倍晋三ではないかと疑われても仕方のない立ち位置に、日本政府は追い込まれています。日本政府の対米依存があまりにも深刻なため、麻生副総理のヒトラー発言が、トランプの白人至上主義容認への援軍と捉えられかねないのが、国際社会での情報戦です。
短い夏が終わりました。猛暑の日本を覚悟していましたが、この点は雨天続きで予想外。ただし、3月の大学教員生活終了を見越して1月に宣言した本サイト改造の基本計画、世界の公文書館で集めた史資料のデジタル化と現代史アーカイヴ作成は、ほとんど進みませんでした。関東軍731部隊の戦後の「隠蔽・免責・復権」を論じた『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』の仕上げと刊行(花伝社)で自由時間がとれるという算段でしたが、NHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」とも関わって、この本の反響や問合せが大きく、講演や正誤表や補足説明で、一区切りとはなりませんでした。アントニオ・グラムシ没後80周年にちなんだ寄稿「現代社会科学の一部となったグラムシ」(『唯物論研究』139号、2017年5月)に続いて、ロシア革命100年の雑誌原稿も書かなければならず、蔵書整理や史資料のデジタル化の作業は、秋に持ち越しです。夢見た「自由人」生活 は、まだまだ先のことになりそうです。本サイトも、しばらくは、国際情勢や安倍内閣の行方を追いかけ続けることになりそうです。原爆・原発問題で、私もちょっぴり出演している原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画「いのちの岐路に立つ〜核を抱きしめたニッポン国」 の東京での上映会は9月9日(土)「たんぽぽ舎」、大阪では9月23日ー10月6日淀川文化創造館「シアターセブン」で上映とのことです。ぜひご覧になってください。
軍国日本に戻らないように、「平和の道徳的優越性」をあくまで掲げて!
2017.8.15 久しぶりの日本での8月15日、「終戦記念日」の日付が正しいかどうかは別として、 今日に至る日本の歴史を直視する、絶好の機会です。お盆休みでメディア労働者に休暇を保証するためもあるのでしょうか、テレビでは連日見応えのある戦争と平和の歴史ドキュメンタリー番組があります。書物では十分伝えきれない史実を、映像や音声で説得的に描いて見せます。ワイドショーにはできない、調査報道の強みです。ヒロシマの安田高等女学校生徒の被爆記録が米軍の「治療なき人体実験データ収集」に用いられ、今日でも核戦争時の緊急待避マニュアルの原型として使われていること、長崎の浦上天主堂が広島の「原爆ドーム」のように保存されなかった理由を探る旅、その浦上に被差別部落があって被爆者が二重の差別を受けてきた経緯、そして本サイトも推奨・予告した関東軍731部隊のエリート医師たちの人体実験・細菌戦関与を旧ソ連ハバロフスク裁判の音声資料から生々しく明らかにしたNHKスペシャル。815後も戦闘が続いた樺太地上戦や、無謀なインパール作戦、日本の重慶爆撃に触発された米軍本土空襲の真実など、まだまだ続くようですが、なるほど日本のジャーナリズムも、まだまだ捨てたものではない、と感心しました。特に感動したのは、日本政府が討議に出席さえしなかった国連核兵器禁止条約成立に、civil society代表としてHibakushaの立場を訴え続けたカナダ在住サーロー節子さんのドキュメンタリー、 <明日世界が終わるとしても「核なき世界へ ことばを探す サーロー節子」 > 。you tubeでも、国連本部演説など彼女の「ことば」を見つけることができます。
もっとも日本の敗戦記念日は、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、中国、ロシアなど連合国、それに朝鮮・インドネシアなど日本の植民地・占領地域であった国々にとっては、戦勝記念日であり、光復節(解放記念日)です。安倍首相がA級戦犯を合祀する靖国神社に、参拝しないまでも玉串料を奉納したことで、国際ニュースになります。稲田前防衛大臣にいたっては、南スーダンPKO「日報」問題では国会審議から逃げ回っているのに、自民党保守系グループ「伝統と創造の会」と共に参拝しました。 安倍首相は、加害国としての戦争の反省すらなく、世論の力でスケジュールがちょっと遅れた改憲を、目指し続けています。首相の全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないのは、現実の世界の方が戦争に近づいていて、15年安保法で集団的自衛権行使要件とした「存立危機事態」がありうると、考えているからでしょう。いうまでもなく、北朝鮮金正恩委員長が中長距離弾道ミサイルを米グアム島周辺に発射するかもしれず、人種差別主義者でもあるアメリカ・トランプ大統領の「軍事的解決の準備は万全だ」、マティス国防長官の「米国をミサイル攻撃なら直ちに戦争に発展する恐れ」発言で、緊迫しています。情報戦・心理戦が、いつ軍事戦・武力戦になってもおかしくない、東アジア情勢です。北朝鮮が「グアム島周辺に向け発射する中距離弾道ミサイルが島根、広島、高知各県の上空を通過すると発表」したのを受けて、すでに防衛省は、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方の陸上自衛隊駐屯地に展開しました。「戦争の好きな」安倍「危機管理内閣」の「ファシズム前夜」が続いているもとで、「Abe is Over」がくるまで、油断はできません.
もっとも日本の敗戦記念日は、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、中国、ロシアなど連合国、それに朝鮮・インドネシアなど日本の植民地・占領地域であった国々にとっては、戦勝記念日であり、光復節(解放記念日)です。安倍首相がA級戦犯を合祀する靖国神社に、参拝しないまでも玉串料を奉納したことで、国際ニュースになります。稲田前防衛大臣にいたっては、南スーダンPKO「日報」問題では国会審議から逃げ回っているのに、自民党保守系グループ「伝統と創造の会」と共に参拝しました。 安倍首相は、加害国としての戦争の反省すらなく、世論の力でスケジュールがちょっと遅れた改憲を、目指し続けています。首相の全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないのは、現実の世界の方が戦争に近づいていて、15年安保法で集団的自衛権行使要件とした「存立危機事態」がありうると、考えているからでしょう。いうまでもなく、北朝鮮金正恩委員長が中長距離弾道ミサイルを米グアム島周辺に発射するかもしれず、人種差別主義者でもあるアメリカ・トランプ大統領の「軍事的解決の準備は万全だ」、マティス国防長官の「米国をミサイル攻撃なら直ちに戦争に発展する恐れ」発言で、緊迫しています。情報戦・心理戦が、いつ軍事戦・武力戦になってもおかしくない、東アジア情勢です。北朝鮮が「グアム島周辺に向け発射する中距離弾道ミサイルが島根、広島、高知各県の上空を通過すると発表」したのを受けて、すでに防衛省は、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方の陸上自衛隊駐屯地に展開しました。「戦争の好きな」安倍「危機管理内閣」の「ファシズム前夜」が続いているもとで、「Abe is Over」がくるまで、油断はできません。
8月15日は、20世紀日本を代表する知識人・丸山眞男の命日です。もっとも丸山は1996年に没しましたから、若い人々には、『日本の思想』さえしらない人が、ほとんどでしょう。最新の世論調査で、NHKが18歳・19歳の若者に聞いたところ、「いま平和だと思う」が74%で、14%は8月15日「終戦の日」を知らず、同じく14%は「日本が核保有してもよい」と答えたといいます。今夏のNHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」などに対しては、放映直後から猛烈なネトウヨの批判・攻撃が加えられています。もちろん戦争の真実に衝撃を受けた好意的反響の方が多いようですが、私たちの戦争体験の継承、「紛争巻き込まれ拒否意識」を超える非戦平和主義は、まだまだ弱いと思われます。丸山眞男を継承したはずの日本の政治学からも、丸山の「『現実』主義の陥穽」という警告を忘れ、「大日本帝国が人権を極端に抑圧した総動員体制だったのは、1943−45年のせいぜい2年間ほど」という若い政治学者のとんでもない暴論が、テレビの放言ではなく、新聞紙上の活字で出ています。実は、本サイト「ネチズンカレッジ」は、ちょうど20年前の今日、丸山眞男の一周忌を意識して、開学しました。その後も指針としているのは、「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」という、自らもヒバクシャであった丸山眞男の言葉です。丸山眞男に学んだ半世紀近い政治学研究と、この20年の「ネチズンカレッジ」での発言は、この指針に導かれています。二つの大学での教員生活を終えるにあたって、拙著『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』で関東軍731部隊の戦後の「隠蔽・免責・復権」を論じたのは、何よりも丸山の言う「平和の道徳的優越性」を脅かす国家権力と支配の作用を、解明するためでした。『「飽食した悪魔」の戦後』については、「情報収集センター」に特別研究室を設け、「参考文献一覧」、「731医師・医学関係者」名簿、『政界ジープ』暫定総目次、2017年4月9日加藤講演録、刊行後にみつかった誤植・誤記訂正、補足点、拙著への書評などを、収録しています。アマゾンやお近くの書店で、お求めください。8月26日(土)には、日中戦争80年共同キャンペーン主催で、私の講演会「731部隊・加害者の戦後〜隠蔽・復権、政財界での暗躍」が開かれます(18時、文京区民センター2A)。20周年の本「ネチズンカレッジ」は、「平和の道徳的優越性」を、あくまで主張し発信していこうと思います。
ファシストの責任逃れを許すな!
2017.8.7 これまでこの季節は、たいてい海外調査でしたが、久しぶりの日本の夏なので、雑感とお知らせ。安倍内閣の改造は、危機管理であると共に危機回避で、案の定、軒並み内閣支持率は3割〜4割に戻しました。但し、不支持率は依然高く、自民党支持は戻っても、安倍首相への不信はむしろ高まっています。自衛隊「日報」問題も加計学園疑惑も依然続いていて、安倍改造内閣は、低姿勢だがそのまま一方的「説明」で逃げ切り、憲法改悪までつなげるつもりのようです。8月6日ヒロシマ原爆、9日ナガサキ原爆とソ連軍の「満州国」侵攻、15日昭和天皇「玉音放送、30日マッカーサー到着、9月2日ミズーリ号上で降伏文書調印ーー戦争体験者が少なくなり、記憶の継承が難しくなってきた72年目の夏、記録・証言の発掘とイマジネーションで、反戦平和の決意を新たにしたいものです。
●8月13日(日)夜9時、NHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」が放映されます。
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170813
私は『「飽食した悪魔」の戦後』のため収集した資料を提供しただけですが、関心のある方は、ぜひご覧になってください。
●8月26日(土)夕は、 日中戦争80年共同キャンペーン主催で、私の講演「731部隊・加害者の戦後〜隠蔽・免責・復権、政財界での暗躍」があります(文京区民センター、6時)
https://www.facebook.com/events/467952376917773/?acontext={
●原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画「いのちの岐路に立つ〜核を抱きしめたニッポン国」 には、原爆・原発問題で、私もちょっぴり出演しています。9月9日(土)に、東京でも上映会があります。
http://digital.asahi.com/articles/ASK827X8MK82PUTB015.html
https://ameblo.jp/npo-machipot/entry-12297063788.html
2017.8.1 日本の政局は、世論調査の内閣支持率が軒並み30%前後の「危険水域」に入り、メディアで「安倍一強の終わり」が語られ、「Abe is Over」♪という替え歌you tubeが広がっています。その指標の一つ、稲田防衛大臣の辞任は、確かに8月3日といわれる内閣改造以前に実現されました。しかしその理由は、南スーダン派遣PKO日報「戦闘」情報の非公開問題で、しかもそれは陸上自衛隊内部と防衛省内局の情報管理の不具合とされ、稲田大臣の辞任理由は「監督責任」という名の責任逃れです。自衛隊幹部からも愛想をつかされた基礎知識の欠如、靖国参拝、国会虚偽答弁、東京都知事選時の憲法違反の自民党応援演説等々は不問に付され、しかも与野党合意のあった国会閉会時審査からも雲隠れする、逃げ切り作戦です。南スーダンの「戦闘」情報隠し自体、安倍首相と官邸の隠蔽指示を稲田防相 が ぎこちなく演技しただけの安倍マターであるのに、稲田個人の資質や女性であったことに帰されようとしています。安倍首相の語る「任命責任」云々(でんでん、ではない)は、空虚に聞こえます。 8月3日に生まれるのは、「戦争の好きな」♪安倍風「危機管理内閣」でしょう。
ファシスト安倍晋三によるオトモダチへの利益供与・公金私消発覚の発端となった森友学園の籠池前理事長夫妻が、補助金詐欺容疑で逮捕されました。だけど♪、最大の問題である国有地の8億円値引きについては、 まだスタートライン。大阪地検特捜部が「アッキード」「日本版チェ・スンシル事件」 に迫れるかは、未知数です。森友より遙かにスケールの大きい安倍「加計ゲート」の方は、週刊誌等がようやく加計学園理事長の実像を追いかけていますが、依然「藪の中」です。文科省のほかに、現在建物工事中の愛媛県今治市からも、さまざまな資料・証言が出ていますが、官邸・内閣府の隠蔽ガードは固く、8月といわれる大学設置審議会の認可判断まで、引きずるでしょう。そこでゴーサインが出て岡山理科大学(加計学園)獣医学部の来春開学が決まるとすれば、疑惑はいっそう深まります。一日も早く、臨時国会で審議されるべきです。
獣医学というと、農家の家畜や家庭のペットの診断・治療と思われがちです。 加計問題では獣医師の需要と供給の市場原理が問題にされています。しかし獣医学の発達は、戦争と深いつながりがあります。もともと日本の獣医学は、「犬・猫といった小動物に関する学問の発展は副次的なものでしかなく、本来の目的は明治維新以降における食生活の欧米化に対応した家畜の生産性の向上及び軍馬の生産・疾病予防であった」とウィキペディアにもあります。 私がこの間研究してきた関東軍731細菌戦部隊でも、医学博士と共に、獣医学博士が、人体実験・細菌戦に関わっていました。1936年8月、天皇の軍令により、石井四郎の関東軍防疫給水部(後の731部隊)が発足する際、一緒に出発したのが関東軍軍馬防疫廠 (第100部隊、若松部隊)で、「防疫対策のみならず、敵国の軍用動物や家畜を標的とした攻撃用の生物兵器(細菌兵器)の開発をも進めて」いました。二つの部隊は連携し、細菌兵器を開発し、人体実験もしていました。「敗戦後の1945年8月20日に馬やネズミに細菌を感染させて逃がしています。そのため戦後長春一帯はペストを始めとして色々な病気が流行した」といわれます。米軍に人体実験・細菌戦データを提供して戦犯訴追を免かれた731部隊医師同様に、100部隊の獣医師たちも戦後獣医学会に生き残り、一部は731部隊残党のミドリ十字(薬害エイズの元凶)に潜り込んだといいます。731部隊を論じた拙著『「飽食した悪魔」の戦後』については、「情報収集センター」に特別研究室を設け、「参考文献一覧」、「731医師・医学関係者」名簿、『政界ジープ』暫定総目次、2017年4月9日加藤講演録、刊行後にみつかった誤植・誤記訂正、補足点、拙著への書評などを、収録しています。アマゾンやお近くの書店で、お求めください。なお、8月26日(土)には、日中戦争80年共同キャンペーン主催で、私の講演会「731部隊・加害者の戦後〜隠蔽・復権、政財界での暗躍」が開かれます(18時、文京区民センター2A)。
そこから、加計学園の獣医学部創設にも、731部隊とのつながりが危惧されています。荒唐無稽のようですが、実際にバイオハザード(biohazard,生物学的危害)のリスクを伴うウィルス研究施設の建設が進められています。教育をビジネスとしか考えない「腹心の友」加計孝太郎と、「戦争ができる国づくり」を悲願とする安倍晋三の組んだ「悪巧み」ですから、ありえないことではありません。安倍首相が、ゴルフや食事で頻繁に会っていた加計理事長の獣医学部申請を「2017年1月20日まで知らなかった」というトンデモ答弁を含め、安倍首相自身のウソと責任を、徹底的に解明すべきです。もっとも、それを追及すべき野党第一党民進党は、党首不在の分裂状態、「戦争の好きな♪」ファシスト安倍は、その間隙をついて、稲田隠しや内閣改造による危機管理を進めています。憲法改正を含む「戦争のできる国」を諦めてはいません。あわよくば、北朝鮮核・ICBM危機と米国トランプ政権の不安定にかこつけて、支持率回復の情報戦・持久戦を狙っています。「ファシズムの初期症状」は日常化し、「ファシズム前夜」は、なお続いています。「Abe is Over」♪まで、追及を緩めてはなりません。
水に落ちたファシストは、打たれ強いので要注意!
いま、ファシズム前夜の日本!
2017.6.15 かつて民主主義の「模範国」とされたアメリカ合衆国の大統領が、政権発足後5ヶ月でようやく開くことができた初閣議は、全閣僚がトランプ大統領に忠誠を誓い褒めちぎる儀式の場、「ハイル・ヒトラー」を想起させる、異様な光景です。しかしそれを異様だと伝え、ロシアゲートから大統領自身の利益相反、司法手続きへの介入などの追及を緩めない、アメリカン・ジャーナリズムが健在なことが、救いです。権力の集中・私物化への国民の批判が表出される回路が、まだ機能しています。トランプ大統領の権力の横暴、言論の自由への挑戦は、ロシアのプーチン、中国の習近平、 シリアのアサド、北朝鮮の金正恩を嗤えるものではありません。衝動的な武力衝突、戦争の危険も強まっています。
権力を私物化した側近政治、大手メディアまで取り込み・利用し、批判者を監視し排除する体制としては、日本の安倍内閣の方が、進んでいます。森友学園・加計獣医学部に、千葉の国際医療短期大学まで、アベノミクスの目玉であった国家戦略特区とは、いまは獄中の韓国・朴槿恵前大統領なみの、友人・支持者たちへの便宜と利益の供与、 巨額の公金私消、まさに「男たちの悪巧み」だったようです。その国民的追及を避ける狙いで、全く審議が不十分な共謀罪法案を、国会ではこれまでにないかたちで強行採決の暴挙、その多数の暴力で、そのまま憲法改正へと、ひた走ろうとしています。ちょうど1960年6月15日に、安倍晋三の祖父岸信介が、今日よりはるかに巨大な国民の抵抗に遭い、国会前で女子学生の生命まで奪いながら、今日の日米ファシスト枢軸の原型となる、改定日米安保条約を強行成立させたように。
湯川秀樹以来の伝統を持つ世界平和アピール7人委員会は、日本語と英語で「国会は死にかけている」という緊急アピールを発表しました。 大変な危機感です。「いまや首相も国会議員も官僚も、国会での自身の発言の一言一句が記録されて公の歴史史料になることを歯牙にもかけない。政府も官庁も、都合の悪い資料は公文書であっても平気で破棄し、公開しても多くは黒塗りで、黒を白と言い、有るものを無いと言い、批判や異論を封じ、問題を追及するメディアを恫喝する。こんな民主主義国家がどこにあるだろうか。これでは「共謀罪」法案について国内だけでなく、国連関係者や国際ペンクラブから深刻な懸念が表明されるのも無理はない。そして、それらに対しても政府はヒステリックな反応をするだけである。しかも、国際組織犯罪防止条約の批准に「共謀罪」法が不可欠とする政府の主張は正しくない上に、そもそも同条約はテロ対策とは関係がない。政府は国会で、あえて不正確な説明をして国民を欺いているのである。」
同アピール英語版でも、タイトルは「日本の議会制は死に瀕している」<The Parliamentary System of Japan is about to Die>(2017.06.10)で、上の文に続けて<This unfortunate situation of the Government and Majority Parliamentarians has reached a level intolerable to the citizens of Japan. The political system of this Country has now become entirely the private property of Prime Minister Abe. We regret to admit that Japan is in this way a Fascist State. It is nothing but a terrible nightmare for the citizens of Japan that this Government wants to abrogate the present Constitution.> つまり、「政府と政権与党のこの現状は、もはや一般国民が許容できる範囲を超えている。安倍政権によって私物化されたこの国の政治状況はファシズムそのものであり、こんな政権が現行憲法の改変をもくろむのは、国民にとって悪夢以外の何ものでもない」と。現状を、「ファシズム国家」と認めざるをえないとしています。私も、これに近い危機感を持ちます。ただし、これは日本のみならず、世界的に「ファシズムと戦争の時代」に向かっている兆候であり、「ファシズム前夜」、いいかえれば、なお民主主義を求める勢力が、日本でも世界でも、なすべきこと、なしうることが残されている、例えば、韓国のように政権を変えたり、イギリス総選挙のように、奢る嘘つき政権の思惑を挫折させることもできる、と考えています。
先日、ある研究会で、パワポ報告の時間が足りず、結論だけを、1枚の写真で掲げました。その結論が、夜の懇親会では、多くの共感と議論を呼びました。「ファシズムの初期症候 / Early Warning Signs of Fascism(日本語訳版)」(ローレンス・W・ブリット起草/米国・ホロコースト博物館展示パネルより)として、ウェブやSNSを通じて、急速に広まっています。その一つ一つが、まるで「安倍内閣そのもののことではないか」と。前回も述べましたが、すでに多くの市民運動が、内閣情報調査室、警備公安警察、防衛省中央情報隊、公安調査庁などのインテリジェンス機関によって監視の対象とされ、一部は表面に現れています。メールやライン、SNS、スマホ、GPS、消費者アンケート、同窓会名簿、各種カードや会員証も、税金や医療・年金の公的個人情報も、エドワード・スノーデンの暴露した「エクスキースコア」が日米で共有されているもとでは、全般的監視社会に向かうデータとされ、世界的なファシズム化に合流します。治安維持法の21世紀風再来、戦争への道です。
共謀罪は「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作改憲とセットで、個人の自由と権利を監視し、侵害する!
2017.6.1 5月末イタリアでのG7サミット=主要7か国首脳会議を見計らったように、北朝鮮は3週連続のミサイル発射、29日朝の短距離弾道ミサイルは、日本海で日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられます。G7で安倍総理が北朝鮮に圧力を加えるべきだと率先して述べたことに反発し、「日本が現実を正しく見ず、アメリカに追従して我々に敵対的に対応するなら、我々の標的は変わるしかない」と主張しました。日本国内の攻撃対象を米軍基地以外にも拡大すると警告し、原発や大都会も攻撃できると、示唆しています。アメリカは、日本海に空母2隻を配備し、3隻目を準備中、マーシャル群島とカリフォルニアではICBMミサイル迎撃訓練、東アジアの軍事的緊張は続きます。アメリカに依存するだけの日本にとって、対岸の火事ではありえません。米国内でのロシアンゲート疑惑で、核のボタンを握るトランプ大統領の言動は、きわめて感情的で不安定ですから、不測の事態もありえます。緊張緩和にあたっては、日米関係ばかりでなく、日中韓がポイントです。アメリカにとっては、中東情勢とも連動しています。マンチェスターやカブールなどラマダン期間中に毎日のようにテロ事件が起こっていますから、日ロ・米ロ・中ロ・ 米欧関係も入る複雑な多元方程式です。 欧州内部も、まだまだ不安定です。
そんな国際環境にもかかわらず、安倍首相は、世界から警戒される、トランプべったりです。かつて日本の外交は、日米安保と国連中心主義の2本柱といわれましたが、21世紀に入って、国連安全保障理事会常任理事国入りも遠のき、むしろ国連へのご都合主義的対応が目立っています。国連核禁止条約交渉への不参加、ユネスコ世界遺産への自国推薦登録には熱心なのに、中国の南京虐殺や韓国の従軍慰安婦申請に横やりを入れて分担金拠出拒否の身勝手。国連人権高等弁務官事務所デービッド・ケイ特別報告者がまとめた対日調査報告書での 、特定秘密保護法 、メディアの自由、教科書問題、沖縄での抗議活動への圧力への批判と勧告に対しては、政府として反論・勧告拒否。共謀罪についての国連特別報告者ジョセフ・カナタチ氏の安倍晋三首相宛書簡についても、反論の閣議決定。果ては、G7での安倍首相と国連事務総長の会談内容について、外務省の作為により日本側に有利な記者発表に改竄された疑いが出ています。親分トランプ大統領の地球温暖化対策パリ協定脱退にならい、その独善を後ろ盾にした、子分の国際社会への挑戦、二枚舌外交、フェイクニュース発信です。
日本の国内政治は、国連人権委員会が危惧した通りに、進んでいます。 権力者の横暴・腐敗があっても、議会・メディア・社会運動の権力監視と抵抗が強ければ、韓国やアメリカのように、権力を変えたり、制限することができます。しかし、今日の日本は、若い世代の抵抗力が弱まり、大メディアが権力に囲み込まれ、北朝鮮や中国を批判できない水準まで劣化しているかに見えます。安倍内閣の腐敗を象徴する森友学園・加計学園の利益相反・公金私消の疑惑を、元自民党代議士は「もり・かけ」とよんでいますが、籠池泰典・前森友学園理事長や、前川喜平・前文部科学省事務次官のきわめて信憑性の高い証言・資料を、公文書がない・廃棄したという理由で、与党が国会では首相夫妻をガードし、行政手続きの事実調査さえ行わず、証言者への個人攻撃と脅迫で、切り抜けようとしています。
4月にも掲げましたが、安倍昭恵夫人がフェイスブックに投稿・コメントした、2015年クリスマス・イヴの「男たちの悪巧み」が、今となっては、的確な表現でした。安倍首相と、加計学園・加計孝太郎理事長と、三井住友銀行・高橋精一郎副頭取、増岡商事・増岡聡一郎社長の並んで乾杯する写真が、安倍首相自身の「おともだち」事業への関与、加計学園の岡山理科大獣医学部新設への「首相の後ろ盾」、今治市民の土地36億円の無償譲渡や、銚子市の千葉科学大学水産・獣医学部への92億円補助金、淡路島の「吉備国際大学南あわじ志知キャンパス」まで含めると「血税176億円」という試算もある「悪だくみ」の一部であることを、首相夫人自身が示唆しています。
安倍内閣の目標は、2020年までに憲法を変えることです。前回挙げた「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作改憲案に向けて、安倍首相は、一直線です。どうやら米国側は、集団的自衛権が発動できる新安保法実行と、沖縄辺野古基地移転・確保がさしあたりの目標で、不安定なトランプ政権は、日本の右傾化や改憲問題までは、手がまわらないようです。そこで一気にお試し改憲まで持って行くのが、憲法9条の1項・2項をそのままにしたまま、3項に自衛隊を明記する安倍新改憲案の狙い。参院で審議中の共謀罪は、護憲運動、人権・福祉・環境運動を含む社会運動全般に監視の網を張って、政権に反対する声を事前に押さえ込み、内心の自由を脅かす、危機管理のための治安維持法です。すでに、多くの市民運動が監視の対象とされ、一部は表面に現れています。メールやライン、SNS、スマホ、GPS、消費者アンケート、同窓会名簿、各種カードや会員証も、無論税金や医療・年金の公的個人情報も、内閣情報調査室、警備公安警察、防衛省中央情報隊、公安調査庁などのインテリジェンス機関によって、恣意的に使われる可能性があります。加計学園問題で、首相官邸が前川・前文科省事務次官の勇気ある証言・資料公開を事前に察知し、日本一の発行部数を持つ新聞にスキャンダル記事を掲載させたのは、内閣情報調査室でしょう。逆に、安倍首相に近いTBS元記者のレイプ・スキャンダルを、官邸がもみ消し不起訴にしたことも、これも勇気ある被害者女性の実名告発で、ようやく明るみに出ました。共謀罪が成立すると、このようなかたちで、個人の日常的監視、権力の恣意的運用の幅が、いっそう広がるのです。
「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作の改憲案は、純国産? 日米合作?
2017.5.15 東アジアの軍事的緊張は、続いています。5月14日早朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射しました。高度2000キロを越えて、核弾道を搭載すれば「米本土が攻撃圏内」 といいます。4月20日に核実験をすると北朝鮮が中国に通告し、中国が国境封鎖を辞さないと厳しく対応し、アメリカにも通報したため、最悪の事態は避けられた、と5月12日になって明らかになりました。核弾道とミサイルが一体となれば、核戦争寸前になります。韓国大統領に人権派・融和派が当選した途端の、金正恩の挑発です。フランスの大統領選挙は、極右候補当選を阻止したと言っても、ルペンの得票は1000万票を越えています。 米国トランプ政権は、まだホワイトハウスの体制も整っていない段階で、突然のFBI長官解任。国内統治も対中・対ロ政策も確立しない段階で、定例記者会見も拒否し、突如核のボタンを押しかねない、定見なき専政の横行。先の見えない世界、いたるところで、民主主義の秩序が溶解しつつあるかのようです。
国際情勢の危機のもとでは、国内政治も不安定で、政治指導者の集権化の志向が強まります。トルコのエルドアン大統領は、4月の国民投票で憲法を改正して圧倒的な権限を手にし、今後10年以上大統領職にとどまる可能性も出てきました。議員内閣制から大統領制への移行という政治制度の抜本的改革で、投票率85%で賛成51%の僅差ですが、憲法そのものは国民投票で改正されました。独裁的権力を得たエルドアン大統領は、トルコに批判的な記述のあるウィキペディアの接続を遮断しました。日本では、安倍晋三首相が、5月3日の憲法記念日に、突然の改憲案、憲法9条の1項・2項をそのままにしたまま、3項に自衛隊を明記するとし、自民党改憲案として来年には両院憲法審査会に提出、国民投票で過半数の支持を得、2020年東京オリンピックの年には実現しよう、というものです。高等教育無償化を加え、一度は「緊急事態条項」などで失敗した、とにかく一度憲法を変えたいという「お試し改憲」案ですが、それが憲法擁護義務のある行政権力のトップ=首相から、自民党政調会など党内審議も経ずに、日本最大部数の読売新聞紙上と日本会議系改憲集会へのビデオメッセージのかたちで提示されたことが、事態の深刻さ・重大性を表現しています。
なぜなら、安倍晋三の9条3項改憲案は、昨年日本会議の常任理事・伊藤哲夫政策委員が日本政策研究センター機関誌「明日への選択」16年9月号で提案した案そっくりで、その狙いは 、「護憲派に反安保のような統一戦線をつくらせない」という分断工作だからです。事実、今回の「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作改憲案は、「加憲」を唱える公明党、教育無償化を改憲の柱にしてきた日本維新の会ばかりでなく、野党・左派の一部をもとりこもうとするものです。9条3項案は、自衛隊合憲を根拠づけ歯止めをかけるという理由で、一昨年、集団的自衛権に反対する戦争法案反対・立憲主義擁護の運動の中でも、護憲勢力の一部にあった「新9条」案と相通じます。一部の幹部が9条改憲を公言してきた民進党をはじめ、野党にとって、大きな試練です。しかも、東京オリンピックに期限を設定した安倍改憲の主眼は、自民党総裁としての党内論議活性化でも、両院憲法審査会審議促進でもなく、国会3分の2議席確保を前提とした、国民投票の実施という正面突破です。首相が直接よびかけるのは、国民投票で過半数を得るための、国民世論そのものです。すでに読売新聞世論調査では「9条に自衛隊」賛成53%、FNNで55%と出ています。NHKは3択で、「賛成」32%「反対」20%「どちらとも言えない」41%、朝日は設問が違い「必要」41%「不要」44%と流動的ですが、内閣支持率・自民党支持率は大きく下がらず、北朝鮮の核脅威をも利用した安倍官邸の狙いは、ひとまず成功したようです。安保法制も共謀罪もこうした改憲戦略の一部だったとすれば、はたしてそのシナリオは、日米合作なのか、日本型極右が主導したのか? トランプ政権、米中同盟の現在を含む、世界政治の構造分析が必要です。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」20世紀日本の歴史が、いま危機に瀕しています。前回、アメリカ国立公文書館本館の入り口そばの石像に刻まれた、シェイクスピアの言葉、「What is past is prologue ( 過去は前触れである)」を紹介しました。政党政治の崩壊から大政翼賛会・戦争への道を直接知る人は、いまや少数派です。しかし敗戦から占領、日本国憲法、サンフランシスコ講和、60年安保闘争への道も、日本の「過去」の一部でした。私達の「プロローグ」を何処におくのか。 私は、どちらに向かう道も、「戦後」の初発から、日本の政治の内部に、占領軍の政策の中にも孕まれていて、せめぎあってきたと考えます。 機動戦・陣地戦は国家対国家ですが、情報戦は、各国社会内部の矛盾を横断し、国境を越えて合従連衡します。本サイトのトップに掲げ続けてきた、丸山眞男の言葉「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にして起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」が、いよいよ切実なものになってきました。 予告した大部のかきおろし『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、アマゾンで予約できますが、5月25日に花伝社から刊行されます。
いまこそ What is past is prologue をかみしめて!
2017.5.1 戦争が近づいています。より正確には、戦争になる危険性が、強まっています。4月後半の2週間は、いつ東アジアで武力衝突が始まってもおかしくない、緊迫した国際情勢でした。北朝鮮の核実験・ミサイルをめぐって、アメリカ、中国、ロシアの情報戦・サイバー戦を交えた大国間駆け引き、米韓・米日の軍事的合同演習・訓練、但しもっとも被害が出そうな韓国は大統領選挙の真っ最中、同じく射程内の日本は、まるで臨戦態勢。政府が「国民保護ポータルサイト」でミサイル対処法伝授、秋田で住民避難訓練、東京の地下鉄が止まり、海上自衛隊は、安保法=戦争法の「米艦防護」を初めて実行、陸自の「かけつけ警護」と共に、脱「専守防衛」の第一歩です。もっとも、その最中にロシア・イギリスを訪れた安倍首相が、国内での森友問題再燃、昭恵夫人問題、閣僚問題発言追及の勢いをそらせる「チャンス」としているのは見え見え。訪問先の公営放送BBC曰く、「北朝鮮の脅威増大、安倍首相には有益」と。こういう時こそ、日本政府は「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という精神で行動すべきなのに、安倍内閣は、真逆の方向に動こうとしています。不慮の事態を警戒しつつ、国内での戦争反対・平和憲法堅持の声を高めていかなければ。
フランス大統領選では、第一回投票で、伝統的二大政党が敗れました。イギリスBrexit、アメリカ・トランプ大統領当選に見られた、脱グローバリズムと移民・難民排斥が入り交じった、ナショナリズムとポピュリズムの波は続いています。そんな世界情勢のなかで、まだ方向性の定まらぬトランプ政権にべったりの安倍内閣の存在は、行動パターンが予測しやすく、日本国民にとっては、現実的危険です。米軍基地や原発に加えて、船や港も、北朝鮮にとっての格好の標的になりえます。アメリカへの直撃でも、韓国との地上戦でもない、しかし対米直接交渉を引き出すためのアメリカへの圧力となる一撃目標、それは、動く米空母カールビンソンよりも、金正恩にとっての動かない巨大米軍基地、ニッポンかもしれません。挑発的な北朝鮮と同様に、武力行使の可能性を否定していない気まぐれトランプが、そこでどのような判断を下すかは、誰も予測できません。「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない 」とすれば、日本政府は、積極的に戦争回避の外交努力において、「国際社会において、名誉ある地位」を追求すべきなのですが。
そんな東アジアの緊張を口実に、 国内では、監視国家への道が強まっています。東京都立高校の6割が、生徒の髪の毛の「地毛証明書」を要求しているという、きな臭いニュース。いやスノーデンの証言に従えば、アメリカの世界支配に提供し資するための、日本の監視社会化・情報統制が強まっています。具体的犯罪行為ではなく、メールからラインまで、内面の自由をも透視・監視して罰する、テロ対策法という名の共謀罪法案は、現代の治安維持法です。「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」という民主主義の基本原理が、危うくなります。ナチス・ドイツのもとでの監視国家と思想弾圧を体験し、強制収容所から生還したマルティン・ニーメラー神父の言葉が、いま、日本で想起される必要があります。
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」歴史が、いまこそ学ばれなければなりません。アメリカ国立公文書館本館の玄関には、「The heritage of the past is the seed that brings forth the harvest of the future.(過去の遺産は将来の収穫をもたらす種子である) 」とあります。 そして、入り口そばの石像に刻まれた、シェイクスピアの言葉、「What is past is prologue ( 過去は前触れである)」。私たちにとっては、さしあたり、治安維持法が普通選挙法と共に成立した1925年から、満州「事変」に始まるアジア太平洋戦争、敗戦と占領、日本国憲法、朝鮮戦争、サンフランシスコ講和条約と日米安保条約による米軍基地存続が一緒になった独立の事情。戦争は、時に景気回復のテコになります。朝鮮戦争特需と日本の高度経済成長の関係も、いま再び学ぶ意味のある問題です。私の情報戦の視角からの旧満州731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程についての研究も、ABC兵器(核生物化学兵器)の実戦使用や、「科学者・技術者の社会的責任」の問題再浮上で、にわかにアクチュアルになってきました。予告した大部の書物『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、すでにアマゾンで予約できますが、5月25日に花伝社から刊行されます。
日本の安倍総理は、トランプ大統領の「おともだち」を自負しています。かつてのイラク「大量破壊兵器」問題では、2014年になっても「イラクの件につきましては、決議に違反し続け、自ら大量破壊兵器が無いということを証明する機会があったのにも関わらず、それをしなかったことが問題だ」と答弁し、挙証責任をイラクのフセインにして、アメリカを弁護しました。だから、今回のアメリカのシリア爆撃にも、直ちに「アメリカ政府の決意の支持」を表明しました。 朝鮮半島での武力衝突がおこれば、米軍と共に自衛隊が動き、「有事」が宣言されるでしょう。そこまでいかなくても、空母カールビンソンの北上にあわせて、海上自衛隊は、臨戦態勢です。そこでは、日本独自ではなすすべもなく、安倍首相も稲田防衛相も、トランプの持ち駒・捨て駒です。ただし、安倍首相や稲田防衛相にとっては、中東やアジアでの戦争切迫が「天の恵み」です。トランプ大統領と似て、内憂を外患に転嫁して、「戦争のできる国」にする、絶好のチャンスともなります。
内憂の一つは、いうまでもなく「森友学園」問題。教育勅語を幼稚園児に暗誦させ「安倍首相がんばれ」と叫ばせる森友学園の洗脳教育は、マイルドなかたちで文部科学省検定「道徳」教科書に取り入れられ、教材として使用可能になりました。森友教育に感激し名誉校長を引き受けた安倍昭恵首相夫人のスキャンダルは、大麻・暴力団がらみから、公務員「秘書」5人を使っての自民党選挙応援13回まで、てんこ盛りです。「アキエリークス」というサイトには、100万円を寄付したと籠池理事長が証言した2015年9月5日の、二度に及ぶ講演が、映像と文字興しでアップされました。その前日に、私立小学校の認可権を持つ大阪府私学審議会会長と会っていたことも、明るみに出ました。第一次安倍内閣崩壊後の自分の著書『「私」を生きる』では、「私人」としての仕事と「首相夫人としての仕事」がはっきり分けて述べられており、閣議決定と矛盾します。
「森友学園」への肩入れが「私人」としてではないことは、安倍首相自身の塚本幼稚園保護者宛手紙からも、明確です。それ以上にすごいのは、昭恵夫人がフェイスブックに投稿・コメントした、2015年クリスマス・イヴの「男たちの悪巧み」。安倍首相と、加計学園・加計孝太郎理事長と、三井住友銀行・高橋精一郎副頭取、増岡商事・増岡聡一郎社長の並んで乾杯する写真が、安倍首相自身の「おともだち」事業への関与、加計学園の岡山理科大獣医学部新設への「首相の後ろ盾」、今治市民の土地36億円の無償譲渡や、銚子市の千葉科学大学水産・獣医学部への92億円補助金、淡路島の「吉備国際大学南あわじ志知キャンパス」まで含めると「血税176億円」という試算もある「悪だくみ」の一部であることを、首相夫人自身が示唆しています。
こんな公金を私する権力を許さないためには、なによりも情報公開が必要です。森友学園への国有地払下げも、大阪府私学審議会の認可についても、官僚たちが国民の財産である公文書を隠匿しています。財務省、経産省、国土交通省、文部科学省、総務省など複数以上の官庁が関係しているはずですから、内閣府が本気になって捜せば、必ず手がかりが出てきます。ところが首相官邸も主要閣僚も「おともだち」で占められていますから、防衛省による南スーダンPKO日誌の場合よりもさらに厳しい、「アッキード隠し」「加計学園疑惑隠し」が進められています。内部告発やジャーナリストの追及・追究がないと、このままうやむやにされてしまいます。マスコミは争点移動、論題隠しに利用されています。東京都の豊洲市場移転問題・都議選、「共謀罪」国会上程、大きな事件や事故、報道は次々と拡散していきます。そこに、戦争切迫の国際情報、権力の情報隠しばかりでなく、国内政治・指導者の汚点に眼をつぶる「国益」意識、「国民」意識も働きます。前回、国連の世界幸福度ランキングでG7最下位の51位と紹介しました。ところがその世界51位の国内では、内閣府調査で「現在の生活に満足」が過去最高の 65.9%、「国を愛する気持ちが強い」55.9%と、自己満足と癒やし、「防衛強化」要求の情報が、オーバーラップし、権力者を慰めます。NHK世論調査をもとに昭恵夫人らの証人喚問を求めた野党の国会質問に、安倍首相が内閣支持率53%だから不必要と答えて委員会質問を封じ、介護関連法案を強行採決するという異常事態が、異常と映らない倒錯が続いています。
権力は腐敗します。絶対権力は絶対に腐敗します。このことを事後的に確かめるためにも、公文書の保存と情報公開が必要とされるのです。いまや日本経済衰退の象徴となった「世界のTOSHIBA」は、歴史的に検証できる素材となりました。巨額の損失を産んだ東芝経営破綻の最高責任者は、10年前まで「異色の豪腕経営者」と高く評価されていました。強気のワンマン経営「選択と集中」で、当時の「国策」原子力部門に資源を集中し、モノ作りよりも財務・金融に傾斜しました。福島第一事故で脱原発が進む世界の趨勢を、読めませんでした。その同じ人物が、 日本経済団体連合会副会長で日本経済再生本部・産業競争力会議の代表幹事をつとめ、加計学園の便乗した国家戦略特区への道を敷いてきたのです。アベノミクスの行く末を、暗示しています。戦争が近づくと、軍需が民需を圧倒します。日本学術会議が警告したように、「デュアルユース」の名で、研究開発もきな臭くなります。東芝も、日本の有力な軍事企業の一角でした。私の情報戦の視角からの旧満州731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程についての研究も、ABC兵器(核生物化学兵器)の実戦使用や、「科学者・技術者の社会的責任」の問題再浮上で、にわかにアクチュアルになってきました。予告した大部の書物『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、5月下旬に花伝社から刊行されます。
核兵器禁止条約に反対し、原発で自滅に向かう「幸福度」喪失国!
2017.4.1 桜の季節、新学期です。新入生にとっては、希望のスタートでしょう。でも、世界も日本も、希望に満ちているとはいえません。小学校では1年生から「道徳」が必修で、先生が評価するそうです。文科省のホームページで、その指導要領と教科書を読めますが、小学5年生になったら「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし,先人の努力を知り,国や郷土を 愛する心をもつ」ように、懇切丁寧に「指導」しています。第二次世界大戦前の皇民教育の柱、「教育勅語」も教材に使ってかまわないと、安倍内閣は閣議決定しました。中学に進むと、保健体育の時間に「銃剣道」が学べます。戦時軍事教練の定番でした。政局の中心になっている大阪森友学園の計画した「安倍晋三記念」小学校とは、教育基本法改正・新学習指導要領にあわせた「モデル校」として、安倍首相夫妻と右翼日本会議の強い支持をバックに設置が急がれ、財務省、国土交通省、文部科学省、大阪府、日本会議系政治家達が推進したものでしょう。森友学園籠池理事長の国会証人喚問では「私人」安倍首相夫人の100万円寄付と夫人付公務員「秘書」による国有地払下げの財務省回答ファクス問題でしたが、その夕の日本外国特派員協会で主たる問題になったのは、翻訳不可能な「忖度」もありましたが、問題の本筋「軍国日本への回帰」「極右の日本会議と安倍政権とのつながり」でした。
核兵器という、人類を絶滅させることができる武器があります。その最も強力な武器を発射するボタンを持った、アメリカの大統領がトランプに変わりました。核兵器も増強して、国の経済を立て直そうとしています。小さな国でも、まわりの国々と仲良くするのではなく、国民に苦しい生活を強制しながら、核兵器を持つことで世界を脅かそうとする国もあります。核兵器を地球からなくしていくことは、21世紀の人類全体の切実な願いとなっています。193の国が参加する、国際連合という組織があります。そこで、核兵器禁止条約を結ぶための交渉を開始する会議が始まりました。これまでの拘束力のない決議ではなく、国際法で核を禁止しようというものです。オーストラリアやメキシコなど50以上の国が共同提案し、123か国が賛成しましたが、すでに核を保有するアメリカ、ロシア、イギリス、フランスなど38か国は反対しました。核保有国の中国、インドなど16か国は棄権しました。
日本は1945年8月の敗戦時、アメリカが初めての原爆を広島・長崎に投下して、戦争被爆国、核被害国となりました。核兵器禁止条約を率先して提案し世界を説得するのが当然ですが、実は国連での日本政府は、棄権ですらなく、反対の態度をとりました。交渉そのものに不参加で、反核NGOは日本代表席に折り鶴をおきました。115を越える政府代表ばかりでなく220人のNGOや宗教団体代表も参加していますから、 アメリカの「核の傘」に追随した日本の態度は、世界に失望を与えています。この面でも日本は、過去の戦争体験を忘れ美化する国と疑われています。これが、安倍首相が敗戦70周年談話で述べた「積極的平和主義」、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」の帰結なのです。そのうえ、アメリカ原爆開発の副産物である原発を、狭い地震列島に大量に作って3/11福島の悲劇。アメリカを含む世界が原発のリスクを認識し、脱原発か安全基準高度化に動いたのに、国内では福島県民の棄民と原発再稼働、海外には核兵器禁止行脚どころか、安倍首相自ら原発輸出の外遊ビジネス。そんな「国策」に乗った東芝は破産寸前なのに、たった6年で 「安全神話」の復活です。まもなく米中首脳会談、5月はフランス大統領選挙で世界は大きく再編されようというときに、日本は右傾化だけを先取りし、国連の世界幸福度ランキングではG7最下位の51位のニュース。時代は閉塞し、長期的衰退・自滅に向かっています。
そんな日本の歴史認識の問題を、4月9日(日)午後、東京・中野で講演します。3月31日で、早稲田大学大学院の教職を退任しました。本「ネチズンカレッジ」学長に専念します。早稲田では、原発やゾルゲ事件のほか、戦後占領期における731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程を情報戦の視角から追ってきましたが、現在の安倍内閣の情報操作、軍産学協同や、京都府立医大や金沢大学医学部の「白い巨塔」の闇につながります。なお、私の731部隊の本の方は、『「飽食した悪魔」の戦後』(仮題)という大部の書物になり、5月下旬に刊行されます。
核依存・軍事化への社会的バリケードを!
2017.3.15 東日本大震災・福島原発事故から6年目の3.11を、東京で迎えました。これまで3.11 は外国にいるか、東北被災地をまわる旅が多かったのですが、今年はテレビ等で「復興・再生」の現在を見ることにしました。まず気になったのが、「東日本大震災6周年追悼式」における内閣総理大臣式辞 、すでに福島県知事も「違和感」を表していますが、「震災」はあっても「原発事故」は出てきません。「今なお12万人の方が避難され、不自由な生活を送られています」のなかの8万人が福島県民であり、しかもそこには、原発周辺市町村から 災害公営住宅等に入居した2万4000人が含まれていません(NHK調査)。明らかな「原発被災者」はずしで、飯館村ほか放射線汚染地域を「避難指示地域」から解除し、「自主避難者」に対する支援を打ち切るための「復興」強調です。東京が1mSvなのに、なぜ福島は20mSvで「安全」なのか、説得力ある説明はありません。除染もまだまだで、現地は黒い汚染土袋だらけです。そこに、今村復興大臣は「ふるさとを捨てるのは簡単だが、戻ってとにかく頑張っていくんだという気持ちをしっかり持ってもらいたい」と脅迫まがい、国家による棄民策です。
福島第一原発の廃炉への道も、深刻です。住民への帰還奨励・安全宣伝とは裏腹に、メルトダウンで溶け落ちた核燃料(燃料デブリ) の所在さえわかっていないのです。毎日 6000人の作業員を投入しても、まだ出口は見えません。被ばく労働者は増えるばかりです。そこには、暴力団などブローカーがからみ、外国人労働者も投入されています。除染作業には、バングラデシュの難民申請者も入っていました。この間のテレビで一番印象的だったのは、福島からのニュースではありませんでした。1986年のチェルノブイリ原発事故後に作られた石棺が老朽化し、その全体を覆う巨大シェルターが 世界の技術者の手でなんとか組み立てられ、辛うじて放射性物質の拡散を封じ込めて原子炉解体の入り口にたつまでの、長い長い物語でした。費用も要員も膨大で、百年単位のプロジェクトです。福島の将来の困難を暗示し、また原発再稼働を認めた日本政府の無責任を示唆するものでした。
いや国内原発再稼働ばかりではありません。安倍内閣は、「アベノミクス」失敗を糊塗する一環として、原発と軍事技術輸出の外交を進めてきました。その国策の最先端を行くはずだった東芝・ウェスチングハウスが、フクシマ後の世界的な脱原発・安全規制強化の流れを読み切れず、東証上場廃止、企業縮小・解体の危機。TOYOTA, SONY に次ぐ日本の多国籍企業TOSHIBAブランドが、SHARPに続いて風前の灯です。DENTSUもPANASONICも過労死企業になりましたから、日本経済全体の信用にも大打撃です。東芝は中国浙江省の原発も手がけ遅れていて、その損失見込はまだ計上されていません。フクシマの元凶GEと組むHITACHIも、落ち目のフランス・アレバと組むMITSUBISHIも、TOSHIBAの運命は明日は我が身かもしれません。先月まで滞在したドイツから見れば、フクシマ後の日本の核エネルギー依存・核技術輸出、プルトニウム蓄積は、亡国への道です。
日本政府や多国籍企業は、原発事業を捨てて、軍事技術に生き残りの方途を探る可能性もあります。フクシマ廃炉以前にそうした方向が強まれば、日本の科学技術・大学等高等教育機関の全体が、動員されるでしょう。日本学術会議が軍事研究禁止決議を継承するのは当然ですが、「大学等の研究機関」の自主性・自律性のみでは、核軍事国家への道は止められません。かつての1950年決議、67年決議は、野党のみならず労働組合運動・学生運動など社会運動の支えがあり、民間の科学技術労働者へも道義的拘束力をもちました。 いま、労働組合「連合」の反対で最大野党民進党が原発ゼロに踏み切れず、学生や「連合」組合員の中でも自民党支持が多いもとでは、学術会議決議の影響力は限られます。軍事化への社会的バリケードを築かなければ、「いつかきた道」です。とりわけ好戦的なアメリカ大統領が核のボタンを握り、日本政府がそれに全面的に依存しているもとでは。
米国トランプ大統領の世界政策に従属し、日本で軍事化を指揮するのは、安倍首相と稲田防衛相です。大阪・森友学園への国有地払下げに発する疑獄事件は、愛媛県今治市への加計学園・岡山理科大学獣医学部誘致疑惑に広がり、森友学園のトリックスター籠池理事長の「しっぽ切り」が裏目に出て、稲田防衛大臣の進退問題につながりかねない勢いです。しかし本丸の安倍首相・官邸、財務省・理財局(迫田・佐川理財局長、麻生財務大臣)はこれからです。本15日の外国人特派員協会での籠池証言を聞いてから更新しようと思ったのですが、突然の延期です。籠池氏は「事件が勃発して、財務省のほうから『姿を隠しといてください』と、言うから! おおそうなんか、と。僕はなんにも悪いことしてへんけど、それだったら隠そかと、10日間雲隠れしてた」と証言していますから、また財務省官僚と首相官邸官房機密費が動いたのでしょう。この間、戦後占領期における731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程を追ってきましたが、こうした情報操作は、権力の常道です。私の731部隊の本は、『「飽食した悪魔」の戦後』(仮題)として、5月に刊行されます。
国民の生命に関わる防衛大臣の虚偽答弁は、ようやく世論を動かしはじめました。首相の感情的答弁の内容も、変わってきています。文部科学省は、首相や防衛相のイデオロギーに合わせて、「教育勅語の内容の中には……、夫婦相和し、あるいは、朋友相信じなど、今日でも通用するような普遍的な内容も含まれているところでございまして、こうした内容に着目して適切な配慮のもとに活用していくことは差し支えないものと考えております」と答弁し始めました。情報戦です。国会での野党の追及、メディアとジャーナリストも、世論の追い風を受けています。社会運動も動き始めました。水に落ちた犬は打て! ただし、本丸への射程をはずさず、社会的バリケードを厚くする方向で!
歴史の「負の遺産」も真摯に継承しないと、亡霊がよみがえる!
2017.3.1 春休みの2月は、ここ数年はアメリカでしたが、今年は古巣のドイツに滞在し、トランプがアメリカ大統領になった世界を、日本の外から見てきました。といっても、45年前のベルリン留学時はもとより、89年の「ベルリンの壁」崩壊直後とも大きく異なり、「壁」をはじめ冷戦時代の遺物は、いまや博物館になって観光地、東西分裂時代を知らない若い人々、中東欧諸国からの移民、中東諸国からの難民も入り交じって、アメリカ並みの異文化「サラダボール」です。ちょうどベルリン国際映画祭が重なって、「冷蔵庫の中のような寒さ」でしたが、ノスタルジックな旅では、しばしば「中国人か」と間違えられました。世界の大都市や観光地で目立つアジア系は、日本ばかりでなく、どこでも中国人というのが、相場になっています。ただし、昨年のイギリスEU離脱(Brexit)、アメリカのトランプ大統領誕生は、ヨーロッパを揺さぶっています。3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選挙の結果次第では、EUの要石ドイツのメルケル政権にも、9月の総選挙の試練が待っています。
もっともオランダ、フランスのような極右の台頭ほどには、ドイツの排外主義が強いわけではありません。いわゆるネオナチに対する反発は強く、保守対社民の政権争いに加わるほどではありません。ヒトラー『わが闘争』が注釈付だが読めるようになり、米国トランプの「NATOは時代遅れ」発言に対してドイツでも独自核武装論が現れたと言いますが、ナチ支配を断罪する「テロのトポロジー」、 ホロコーストの記憶は、しっかり受け継がれています。 ドイツの場合はもう一つ、「壁」の時代の旧東独シュタージ(国家保安省)による『1984年』風監視国家の近過去の記憶が、多様性と自由と寛容を重んじる歴史意識を、根付かせています。ナチスと共産主義、ゲシュタポ(秘密国家警察)とシュタージという、自国の「二つの全体主義体験」が、さまざまな博物館・記念館・メモリアルを通じて、こどもたち・孫たちに、伝えられていきます。こどもたちへの教材作り、体験学習も盛んで、戦後70年の世代に、継承されています。 日本には、ヒロシマ・ナガサキの原爆はともかく、戦前治安維持法や特高警察の恐怖、3/11フクシマ原発事故の悲惨など、負の遺産をこどもたちに伝える場(トポス)・記念館(メモリアル)が、ほとんどないのではないでしょうか?
そんなことを考えて日本に帰国すると、この国では、とんでもない教育をすすめる幼稚園・小学校の存在が、政治ニュースになっていました。もともとヨーロッパのテレビでは、アジアはほとんど出てきません。トランプと中国は話題になりますが、マレーシアの金正男暗殺事件のニュースも小さなものでした。もっともいまは、インターネットがありますから、テレビや新聞はなくても、ニュースそのものは 簡単に知ることができます。金正男暗殺事件は、北朝鮮の秘密警察・国家保衛省が関わった可能性大ですが、シュタージや戦前特高警察と重ね合わせる分析はないようです。 それどころか、治安維持法の亡霊というべき共謀罪が、東京オリンピック向け「テロ対策法」という名目で、国会に出てきそうです。一昨年の安保法制に続く、重大な局面です。そういえば、2015年9月の戦争法案反対の声が国会前で盛り上がっていた最終局面で、安倍首相が国会をサボり、大阪のテレビ番組に出演する奇妙な一日がありました。 2015年9月4日、大阪読売テレビでワイドショー「ミヤネ屋」に出演、緊迫する参院平和安全法制特別委員会の鴻池祥肇委員長(自民党)も、理事懇談会で「一国の首相としてどういったものか」と不快感を示しました。
今回、大阪府豊中市の森友学園の国有地払下げ疑惑、幼児の思想教育問題で明らかになったのは、安倍首相「ミヤネ屋」テレビ出演の前日、2015年9月3日、安倍首相が財務省の岡本薫明官房長、迫田英典理財局長と面会(産経ニュース)、安倍首相が大阪に向かった当日4日に「瑞穂の国記念小学院」校舎の補助金6200万円交付決定(国土交通省HP) 、同日に森友学園の小学校建設工事を請け負った設計会社所長、建設会社所長が近畿財務局の統括管理官、大阪航空局調査係と会合(しんぶん赤旗) 、そして翌9月5日、塚本幼稚園で安倍首相夫人安倍昭恵が講演し名誉校長に就任(NAVER まとめ)。直接のキーパースンは、当時の財務省理財局長で安倍首相の同郷、現在国税庁長官の迫田英展です。確定申告の時期ですから、アメリカならtaxpayer の反乱がおこるところ。そこを追究すると、官邸・大阪府のほか、官庁では財務省、国土交通省、文部科学省、政党では自民党のほかに公明党、大阪維新の会、それに、かの日本会議が、見えてきます。国会前の「15年安保闘争」最高潮の裏側で進んでいた、憲法改正、教育勅語・軍人勅諭・治安維持法・特高警察時代再興の、おどろおどろしい動き。野党、ジャーナリストと社会科学・歴史学の出番です。
排外主義・差別主義の米国大統領に追随する日本の首相は、「戦争は平和である」というダブル・スピークの信奉者?
2017.2.1 アメリカ合衆国は、もともとイギリス国教会に追われたピューリタンが入った、イギリスの植民地でした。1776年の独立宣言には「すべての人は生まれながらにして平等であり、すべての人は神より侵されざるべき権利を与えられている、その権利には、生命、自由、そして幸福の追求が含まれている。その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な力の根源となる。そしていかなる政府といえどもその目的に反するときには、その政府を変更したり、廃したりして、新しい政府を打ちたてる国民としての権利をもつ」と普遍的人権・革命権が謳われました。
「新世界」とよばれ、その自由を求めて地球上の隅々から異なる民族・言語・宗教を持つ人々が集い、かつては「人種のるつぼ」といわれました。多文化主義の時代には「サラダボール」とも言われました。それが「自由と民主主義の国」という正統性を与え、時には「世界の警察官」としての横暴にもつながりました。合衆国憲法修正第1条[信教・言論・出版・集会の自由、請願権][1791 年]には、「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、 ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、こ れを制定してはならない」 とあります。こんな流れが、大きく変わろうとしています。TPP離脱からメキシコとの国境に壁、ついには 中東イスラム圏7カ国からの入国禁止、それに反対した司法長官代理の解任です。なぜか「テロリスト」を輩出したサウジアラビアやトランプ・ビジネスの拠点UAE(アラブ首長国連邦)は入っていません。
就任10日間、まだ閣僚もそろわぬ段階で、次々とツイッターで勝手につぶやき、大統領令を乱発するトランプ大統領の政策は、これまでのどの大統領の政権交代時とも違います。 同じ選挙で選ばれた独裁者では、1933年1月30日のヒトラー政権成立時を想起させます。2月4日の「ドイツ民族保護のための大統領令」(Verordnung des Reichspräsidenten zum Schutze des Deutschen Volkes)で政府による集会・デモ・政党機関紙の統制が行われ、2月6日には中央政府に反対するプロイセン州政府に「プロイセン州における秩序ある政府状態を確立するための大統領令」、2月27日の国会議事堂放火事件を「共産主義者による叛乱の始まり」とフレームアップして、3月23日の全権委任法でワイマール憲法を停止しました。反対党も禁止されて、ユダヤ人排斥が本格化しました。その延長上に、第二次世界戦争とホロコーストがありました。戦前の日本は、そうしたヒトラー独裁の勢いに便乗してアジアの盟友となり、軍事同盟を結んで、ファシズムの手先、世界戦争の敗者になりました。
ヒトラーの1930年代ドイツとの違いは、イスラム教徒やスペイン系、アラブ系の市民ばかりでなく、トランプ政権には白人労働者、学生、女性、黒人などあらゆる階層に強固な反対派がいて、「私たちの大統領ではない」と声をあげていること。ワシントン政府の内部にも、共和党の有力議員にも、シリコンバレーのIT業界からも、新大統領への異議申し立てが続出しています。無論、入国禁止とされた当事国ばかりでなく、隣国カナダやヨーロッパの首脳からも、トランプの移民・難民排斥、自国中心主義・排外主義・人種宗教差別への危惧の声があがっています。法廷闘争も始まりますが、アメリカの権力分立が試される時です。
アメリカでは、トランプ当選後、ジョージ・オーウェル 『1984』が突然ベストセラーになっています。いうまでもなく、トランプ政権の嘘、オバマ前大統領を「米国生まれでない」と公言したあたりから頻発する「真理」への挑戦に、危機感を持っているからです。オーウェル『1984』の「真理省」の3つのスローガンとは、「戦争は平和である、自由は屈従である、無知は力である」でした。「みえみえの嘘をホワイトハウスがばらまいているこの光景は、米国の民主主義にとって悲劇である。世界のほかの国々、とりわけ米国の同盟国も恐ろしい気持ちになるはずだ。『大きな嘘』をつくことにすっかり慣れてしまっているトランプ政権は、世界の安全保障に非常に危険な影響を及ぼすからだ」とは、イギリス・ファイナンシャル・タイムズの辛辣な論評です。 「ポスト・トゥルース」 や「フェイク・ニュース」といった言葉が、インターネット上では飛び交っています。
そのトランプ大統領に、先進国首脳で初めて就任前に会見し、いままた「自由は屈従である」とばかりに2月首脳会談に向かう日本の安倍首相は、トランプの「真理省」の小役人とみなされるでしょう。「ジャパン・ファースト」さえ言うことができない忠犬になって、「戦争は平和である」と、核のボタンを持つ独裁者に懇願するのでしょうか? フクシマは「アンダー・コントロール」とか「TPP断固反対と言ったことは1回もございません」 とか、嘘八百のダブル・スピークでは、日本の首相の方が先輩です。「アベノミクス」の効果にいたっては、「無知は力である」そのまま。 トランプ大統領は、まだ批判的なメディアと格闘中で、ニューヨーク・タイムズを「偽ニュースで経営不振」「誰か適性と確信を持つ人が買収し、正しく経営するか、尊厳をもってたたませる(廃刊させる)べきだ」とツイッターで発信しましたが、この国のマスコミの場合は、すでに「真理省」の支配下にあるごとく、外交・安全保障でも経済摩擦でも、安倍首相のトランプ追随に期待するが如くです。今日の日本でこそ、オーウェル『1984』が読まれるべきです。「愛情省」による思想統制完成、「平和省」による戦争犠牲者を出す前に。
例年なら、期末試験が終わればアメリカ調査旅行ですが、今年はドイツで、ヨーロッパを見てきます。下記の2月25日午後早稲田大学での諜報研究会講演の直前まで、ベルリンを中心にドイツに滞在し、米国ばかりでなくヨーロッパでも広がりつつある移民・難民排斥、ナショナリズムと排外主義の台頭を、この眼で見てこようと思います。したがって、2月15日の本サイト定期更新は未知数、一応、3月1日を次回更新日としておきます。ドイツでの見聞・調査の一端は、2月25日の春名幹男さんとご一緒する講演会で報告する予定です。
2月25日(土)、下記のようにNPO法人インテリジェンス研究所の研究会が開かれます。
第18回 諜報研究会のご案内
日時: 2017年2月25日(土) 14:30〜18:00
会場: 早稲田大学3号館4F 404号室→401号室に変更
資料代: 500円 (NPO正会員・賛助会員、ならびに雑誌『Intelligence』年間購読会員の方は無料です)
加藤哲郎・春名幹男客員教授退任記念特別報告会
NPO法人インテリジェンス研究所理事の加藤哲郎氏、春名幹男氏は長く早稲田大学大学院客員教授として活躍されてきましたが、本年3月で退任されます。そこで諜報研究会では退任記念として両氏に「国際的インテリジェンス工作と日本」に関し最新の研究成果を発表いただくこととなりました。なお両氏には4月以降も当NPOの活動に貢献いただく予定です。 NPO法人インテリジェンス研究所理事長 山本武利
特集 国際的インテリジェンス工作と日本
春名幹男 日本の政治とCIA
加藤哲郎 インテリジェンスと知識人
「報道の自由度」世界72位の国からみた、41位の同盟国の大統領記者会見、情報公開度
2017.1.15 新サイトに移って初めての更新です。もうすぐアメリカ合衆国第45代大統領・ドナルド・トランプの就任式です。でもこれまでのツイート政治と1月11日の選挙後初の記者会見を見れば、たとえ就任演説そのものは殊勝に無難にこなしても、トランプ政権の危険性に変わりはありません。99団体20万人が就任式におしかけ抗議デモをすること自体、前代未聞です。当面のポイントは、トランプが「偽ニュース」と罵倒したロシア政府が持っているという「不都合な個人情報」。一応ロシア政府も公式に否定しましたが、ハニートラップ等この種のインテリジェンス情報は、決定的な時に効果的に使われるのが常道。それも発表されるという意味ではなく、むしろ情報を握る側が重要な取引材料にするわけです。米ロ関係も米英関係も米中関係も霧の中、日本やメキシコは、そうした諜報戦に翻弄され、為替も株価も乱高下でしょう。名指しで質問拒否されたCNNはもちろん、米国メディアも世界も総批判。そのためこちらも重要な、トランプ次期大統領の利益相反問題は、かすんでしまいました。
CNNの対極でしばしば右派・トランプ派とされるFOXニュースも、さすがに「我々はフォックスニュースでCNNの報道(の正否を)を確認することはできませんが、我々の見解は以下の通りです。CNNの記者はジャーナリストの規範に従っており、彼らだけでなく、他のどんなジャーナリストも、米国の次期大統領による誹謗中傷に屈してはなりません」ーーこれが、普通のジャーナリズムです。もっとも、「トランプ劇場」は、その辺も織り込み済みで、まだまだ続くでしょうが。17日からスイスで始まる世界経済フォーラム(WEF)ダボス会議に出席する、中国・習近平主席の発言と、世界の政財界エリートの反応に、ご注意。
「トランプ劇場」のおかげで、日本の新聞では小さく扱われた、外務省外交記録24冊の初公開。 概要はpdfにもなっていますが、「ポツダム宣言受諾関係」等一つ一つが重要です。 その注目の仕方にも、各メディアの特徴が現れます。「外務省が外交文書を公開 戦後ソ連の日本軍捕虜「赤化工作」が明らかに」は、案の定、産経ニュース。「引き揚げ名簿に「命のビザ」杉原千畝氏も」「日中関係、蜜月時代の幕開け 80年代、文書に高揚感」が朝日新聞。「中国 日本の自衛力増強に理解 83年の首脳会談で」がNHK。「83年の中曽根首相初訪問時 米、安保資金負担を要請 」は東京新聞、なぜか日経新聞も「米、安保で財政負担要請 中曽根元首相83年訪問時 」と同じ注目。「「米に施政権」秘密覚書…沖縄援助巡り両政府」は毎日新聞の突っ込み。「 中曽根政権など 外交記録文書を公開 」とおとなしいのが読売NNN、…… 。
こうした問題を、それぞれ自分の関心にあわせて、まずは自分で調べ、ついでに国立公文書館アジア歴史資料センター(アジ歴)などで歴史的背景まで調べれば、いっぱしの歴史認識初級編。アジ歴では今後、1972年までの公文書数千万画像をデジタル公開し、ダウンロードできるようにするとのことです。 でも、なぜ今年の外交文書公開が今回の24件のみなのか、もっと重要な非公開資料があるのではないかと疑うのが、中級の歴史研究者。それを情報公開法などで自分で請求できれば、ほとんどプロです。琉球新報1月14日社説「外交文書公開 日米の非公表体質明らかに」が、プロの証しで、ジャーナリストの眼です。
でも、最も注目すべき今年の公文書公開についての報道は、1月2日の西日本新聞のスクープ「外務省が「核密約」非公開要請 米公文書で裏付け」という調査報道です。地方新聞記者のスクープのためか、琉球新報1月5日社説「核密約非公開要請 国民の「知る権利」に応えよ」以外は、共同・時事の配信報道も、大手メディアの後追い取材もないようですが、「日本の外務省が1987年、米政府に対し、核兵器の持ち込みに関する密約を含む50年代後半の日米安全保障条約改定交渉など、広範囲にわたる日米関係の米公文書の非公開を要請していたことが、西日本新聞が米情報自由法に基づき入手した米公文書で明らかになった。密約などについて米側は要請通り非公開としていた。米公文書公開への外務省の介入実態が判明したのは初めて」という、12日の外交文書公開の意味そのものを問い直しうる、重大な問題です。西日本新聞は、引き続きこれをおいかけているようですし、外務省公開についても「決定的証拠、安保理で賛同集めず 83年の大韓機撃墜事件」と独自の視点を示しており、今年の注目メディアです。
アメリカの「トランプ劇場」を、嗤うわけにはいきません。国境なき記者団の2016 年180か国「報道の自由ランキング」で、アメリカは41位と先進国では高いとはいえません(ドイツ16位、イギリス38位、フランス45位)。それでも韓国70位よりも低い、72位の日本から見れば、あのFOXによるCNNの言論の自由擁護のような健全性があります。しかも日本は、2010年最高位11位が、2012年22位、2013年53位、2014年59位、2015年61位から16年72位と、劇的な自由度後退です。いうまでもなく、アメリカの記者会見とは異なる記者クラブ制度に加え、秘密保護法など安倍内閣下で着々と進む情報統制、報道画一化を反映したものです。「安倍劇場」の裏では、大手メディアの有力幹部が首相を囲みほとんど毎月会食、それが大ニュースにならない国に、私たちは、くらしているのです。隣の芝生より、まずは足元を見つめよ、です。
2月25日(土)、下記のようにNPO法人インテリジェンス研究所の研究会が開かれます。
第18回 諜報研究会のご案内
日時: 2017年2月25日(土) 14:30〜18:00
会場: 早稲田大学3号館 404号室
資料代: 500円 (NPO正会員・賛助会員、ならびに雑誌『Intelligence』年間購読会員の方は無料です)
加藤哲郎・春名幹男客員教授退任記念特別報告会
NPO法人インテリジェンス研究所理事の加藤哲郎氏、春名幹男氏は長く早稲田大学大学院客員教授として活躍されてきましたが、本年3月で退任されます。そこで諜報研究会では退任記念として両氏に「国際的インテリジェンス工作と日本」に関し最新の研究成果を発表いただくこととなりました。なお両氏には4月以降も当NPOの活動に貢献いただく予定です。 NPO法人インテリジェンス研究所理事長 山本武利
特集 国際的インテリジェンス工作と日本
春名幹男 日本の政治とCIA
加藤哲郎 インテリジェンスと知識人
2017年、20周年を迎えて移転したネチズンカレッジは、現代史資料アーカイヴを併設します。時局解説・学術カリキュラムと共に、今後もよろしく!
2017.1.1 本日から、当ネチズンカレッジは、xdomain の新サイトに移行しました。本来なら新年の慶賀を述べるべきでしょうが、ここ数年親族の他界が続き、年賀状を含む年頭の挨拶は、控えさせていただいております。昨年まで本サイトが入っていたJCOM が、本年1月末でホームページ事業から撤退とのことです。本「ネチズンカレッジ」は、新年1月1日に、全体としてバージョンアップ・刷新して、新サイトに移行します。リピーターの方は、xdomainの新サイトの方をブックマーク願います。 昨年最後の更新日付が2017.12.1のままでいくつかのサイトにも転載されましたが、敢えてそのままで、移転作業の方を優先させていただきました。これまで10個ほどの倉庫に分散していたファイルを一つにする作業で、特に本文中でのリンクには未修正・リンク切れが残ると思いますが、ご容赦願います。
3月末で、早稲田大学大学院での客員講義も終了し、 今年8月創立20周年を迎える本「ネチズンカレッジ」が本務となります。 一橋大学に続く、第二の定年で、ようやく本格的な「自由業」となります。それで本カレッジについても、特に21世紀に入って、9.11と3.11のような時期には、「イマジンimagine 」をも用いて頻繁に発信し時局ニュースサイト風になりましたが、もともとは自分の仕事を整理し、カリキュラムに入れていく学術サイトでした。 そこで時局発信はやめて、学術情報だけにすることも考えましたが、月2回でも熱心に読んでくれるリピーターの皆さんが海外にもいて要望がありますので、一応簡単でも政治への発言を続けることにしました。これまで通り、このトップページは、エッセイ風に政治参画していきます。
本年8月の20周年を目処に考えているのが、ここ20年ほど世界をまわって集めてきた歴史資料のデータベース化。これまでも「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」「在独日本人反帝グループ関係者名簿 」など、海外公文書館で集めた資料を、その解読結果のみ収録してきましたが、xdomainの新サイト開設を機に、それらのもととなったロシア、米国、英国、ドイツ、スウェーデン、メキシコ、インドなどの公文書館所蔵原資料を、それぞれのテーマに即して整理し、デジタル化・pdf化して いく計画です。これは、2年前に法政大学大原社会問題研究所で「『国際歴史探偵』の20年」 を講演する機会に考え、その後、日本の国立公文書館アジア歴史資料センター(アジ歴)も国会図書館憲政資料室資料 も急速にデジタル化が進み、海外の研究者にとってもアクセスしやすくなった状況に合わせるためです。また、イギリス国立公文書館TNAに比して遅れていたアメリカ国立公文書館(NARA)も、ついに、これまでのindexのみでなく、まだ一部ですが原資料を直接閲覧・ダウンロードできるようになってきたのに刺激されて、この10年ワシントンDC等で集めてきた資料も、自分なりの編集で公開することで、民間アーカイヴの役割を果たせるだろうと考えました。一部に根強い要望があり問合せも多い、ゾルゲ事件関連や日本共産党史関係の収集原資料も、徐々に公開していく予定です。乞う、ご期待!
それにしても不確実な新年です。12月にロシアのプーチン大統領訪日、クリスマス休暇中のオバマ米国大統領のもとに安倍首相が押しかけてパールハーバー 訪問、一気に内閣支持率が64%まで上昇、と出たところで、安倍首相のハワイ詣でに同行した稲田防衛大臣が、翌日靖国神社に参拝し中国・韓国が猛反発、せっかくオバマ大統領の花道を演出できた米国国務省も不快のコメント、先の見えない新年です。東京株式市場の大納会は1万9000円近くで5年連続の上昇といいますが、子細に見ると2016年の乱高下はほぼ海外からの影響、年末には東芝のアメリカでの原発事業損失が明るみに出て、TPPもアベノミクス全体も破綻して、手詰まりです。なによりもうすぐ就任する米国のトランプ大統領の動向、イギリスのEU離脱に続く春のフランス、秋のドイツの選挙結果次第で、ヨーロッパ全体が内向きになりナショナリズムが台頭すると、21世紀の世界秩序の枠組みそのものが再審されます。中国、ロシアとアメリカとの関係が、直ちにウクライナやシリア、トルコ、イラン、イスラエルにも飛び火し、難民問題もIS問題もそれに動かされます。そこからはじきとばされたアフリカでは、日本の自衛隊がやみくもに入った南スーダンを始め、国連もコントロールできない紛争が火を噴くかもしれません。日本、韓国、中国、北朝鮮の東アジア情勢は、いずれにせよ世界史再編の従属変数でしかなく、株価ばかりでなく一見「安定」した国内政治も、揺さぶられ続けるでしょう。
こういう時には、原理的に考えるしかありません。20世紀パクス・アメリカーナ、現存社会主義・冷戦崩壊とは何であったのか、グローバル自由主義経済とカジノ資本主義のもとでの「成長」が、本当に唯一の選択肢なのか。日本国内でも、本当に天皇制は必要なのか、日米安保と自衛隊と日本国憲法は本当に両立可能なのか、過労死まで生み出す私達の働き方が「国民性」などではなく福祉とセーフティネットの欠如により追い込まれた生活様式ではないか、アメリカとの「和解」で築かれる「同盟」とは所詮は「軍事同盟」であり、周辺諸国との「和解」も「固有の領土」の主張も困難にするものではないか、と。もう一度、この100年の歴史を、見直す必要があるのではないか、と。
全面展開する余裕はありませんので、二つだけ。米国トランプ政権の新布陣を見ても、ロシア・中国をみても、ナショナリズムが強まると「軍部」の役割が高まります。「アラブの春」後の中東でも、隣国韓国政治の低迷でも、またぞろ「軍部」が鍵を握る可能性を否定できません。もちろん、日本会議や靖国オタクが跋扈するこの国でも。もう一つ、軍部台頭・戦争への対抗軸は「野党共闘」や「統一戦線」だという声が聞こえますが、100年の歴史に照らして注意深く考える必要があります。もともと1930年代の「反ファッショ統一戦線」も1960年安保の「野党共闘」も、国際政治の中での力関係・友敵関係の中で基軸の争点をめぐり構成され、その内部には矛盾も競争も、時には「トロイの木馬」風共食い・陣取り合戦も孕むものでした。私はそれを踏まえて「統一戦線」型共闘に与せず、「仮想敵」をもたない「非暴力・寛容・自己統治」の政治、「差異の解放・水平化と対等の連鎖」、「 19世紀機動戦、20世紀陣地戦から21世紀情報戦へ」と提唱してきました。かつて毎年1月の新年を占う3つの情報イベントとして参照を求めてきた、米国一般教書演説は今年は1月20日トランプ大統領就任演説で決定的に重要ですが、ほぼ同時にスイスで開かれる世界経済フォーラム(WEF,ダボス会議)も世界の政経エリートの動向がわかり見逃せません。もう一つの軸だった世界社会フォーラム(WSF)は、存続はしていますが、地域別・問題別フォーラムに組み替えて、1月の総会はないようです。この15年の、グローバルな力関係の変化です。しかし日本のメディア報道が大政翼賛型にシフトし、世界では貧困・格差・移民・難民・環境問題が続き、沖縄では植民地的暴力が行使されているもとでは、世界社会フォーラムの「もう一つの世界は可能だ」の理念の意味は、失われていません。 本サイトは 、今年も、こうした底辺の動きを追いかけていきます。