ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2013年1月ー)
ここには、<What's New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。
古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。
- ROOM 1 =1997年8-9月分過去ログ
- Room 2 =1997年10-12月
- Room 3 =1998年1-3月
- Room 4=1998年4-6月
- Room 5=1998年7-9月
- 特別室「ベルリン便り」=98年10-12月、99年8-9月、2000年8月
- Room 6=1999年1-4月
- 特別室「メキシコ便り」=1999年5-7月・2000年5月
- Room 7=1999年10-12月
- Room 8=2000年1−6月
- Room 9=2000年7−12月
- Room 10=2001年1−6月
- Room 11=2001年7−12月
- Room 12=2002年1−6月
- Room 13=2002年7−12月
- Room 14=2003年1−6月
- Room15=2003年7-12月
- Room16=2004年1-6月
- Room17=2004年7-12月
- Room18=2005年1-6月
- Room19=2005年7-12月
- Room20=2006年1-6月
- Room21=2006年7-12月
- Room22=2007年1-6月
- Room23=2007年7-12月
- Room24=2008年1-6月
- Room25=2008年7-12月
- Room26=2009年1-6月
- Room27=2009年7-12月
- Room28=2010年1-6月
- Room29=2010年7-12月
- Room30=2011年1-6月
- Room31=2011年7-12月
- Room32=2012年1-6月
- Room33=2012年7-12月
- Room34=2013年1-6月
- Room35=2013年7-12月
- Room36=2014年1-12月
第二次世界戦争終結70周年の年に、日本の戦争国家化の足音が聞こえる!
2014.12.15 総選挙結果を聞きながらの更新です。憂鬱な結果です。投票率は、戦後総選挙史上最低の52.66パーセント、案の定、師走の不意打ち選挙に、特定政党につながらない国民の足は、投票所に向かいませんでした。街に出ても、静かな選挙戦でした。ウェブ上での盛り上がりも、感じられません。こうなると、組織政党の出番です。強固な地方組織を持つ自民党、公明党、それに政権批判票をかき集めた共産党の勝利です。自民党はほぼ横ばいとはいえ、公明党を合わせた議席は3分の2、野党当選者にも改憲志向が強いですから、憲法改正発議に十分な議席です。マスコミの争点を「アベノミクス」の是非へと誘導し、消費税10%も、沖縄基地問題も、原発再稼働も、外交・安全保障も争点にならないよう仕組まれた選挙でしたから、ある意味では予想通りです。でも、その結果は、国民生活にも国際社会の中での日本にも、重大な結果をもたらすでしょう。来年は統一地方選挙がありますが、2016年参院選で与党3分の2を許すと、いよいよ改憲への暴走が始まることになります。沖縄選挙区での自民党全敗、米軍基地反対・オール沖縄の勝利が、わずかな希望です。
安倍首相は、「強いリーダーシップ」が「信任」されて、4年間のフリーハンドを得たという認識でしょう。憂鬱な開票速報を聞きながら、ドイツの1932年を想い出していました。世界恐慌下の6月総選挙で、ナチ党が社会民主党ほか中間政党を抜いて前回比123議席増230議席の第一党になり、共産党も12議席増89議席と躍進しましたが、パーペン内閣は政局をまとめることができず、11月に再度の解散・総選挙でした。ナチ党は若干議席を減らしましたが第一党を確保、共産党が社民党の凋落分を得てさらに議席を伸ばしましたが、けっきょくヒンデンブルク大統領は33年1月アドルフ・ヒトラーを首相に任命、直後から他党とユダヤ人を弾圧、ワイマール共和国の民主制にもとづいて、ワイマール憲法は停止され、民主主義は死にました。日本の2014年12月総選挙には、ナチス成立期のような熱狂はありませんでしたが、向かっている方向は似ています。忍び寄るファシズム、排外主義・軍国主義化です。これが、杞憂に終わればいいのですが。
この選挙で、自民党は、特定秘密保護法を実施に移したばかりでなく、徹底した情報戦略を採りました。争点をアベノミクスによる景気回復一本にしぼり、直接関係するTPPや消費税、非正規雇用・格差、年金・社会保障さえ、議論を避けました。テレビ局に対しては「公平中立・公正」報道の「お願い」を出して圧力をかけ、「朝まで生テレビ」に批評家出席はなし。もっと恐ろしいのは、NHKの国際放送用に作られたコピー厳禁の内部通達「オレンジブック」での英語表記の統一。「性奴隷」はもとより「従軍慰安婦」の表現もやめて「「those referred to as comfort women [慰安婦と呼ばれる人々]」とせよ、英語圏で普通に使われる「the Nanjing Massacre [南京大虐殺]」は使用不可で「the Nanjing Incident [南京事件]」に統一する、というもの。ほとんどジョージ・オーウェル『1984』「ニュー・スピーク」の世界です。しかも、日本のマスコミはこれを報じることができず、イギリス『The Times』紙の記事によって、公共放送の「取扱注意」内部文書の存在を、英文報道の写真により知らされる屈辱。イギリスBBCでは日本の好感度が5位まで下がっているというのに、日本の選挙後のマスコミは安倍首相のホンネ「改憲訴えたい」の報道ラッシュ。安倍内閣の言論統制・情報誘導は、「電通」の力をも使って、ここまで来ています。これも、「いつかきた道」です。
ただし来たる2015年は、第二次世界大戦終結70周年、世界中で日独伊枢軸の敗北と「連合国=国連(The United Nations)」の勝利が振り返られます。そこで、安倍内閣の右傾化・排外主義路線が、問題にならないはずがありません。領土問題も靖国神社も性奴隷も、1945年時点に遡って、ドイツやイタリアの70年後との比較で、世界から注視されます。あのノーベル平和賞授与式でのマララさんの力強い演説に、日本はどう応えるかが問われます。もとより、どの国の戦後も、一本道ではありません。下記に公開し、情報提供を求めている占領期の雑誌『政界ジープ』について、皆さんからの情報と、バックナンバーが集まりつつありますが、1946年夏の創刊時の『政界ジープ』は、意外にも尾崎行雄・長谷川如是閑の路線で、共産党・社会党幹部も寄稿しており、「勤労大衆のための唯一の政界案内誌」の宣伝文句通りでした。占領軍には忠実ですが、初期はGS=民政局の路線です。48年8月「尾崎ゾルゲ赤色スパイ事件の真相」あたりからは、G2系=731部隊免責「右派ゴシップ雑誌」にな り、1950年朝鮮戦争勃発、日本ブラッドバンク創業時が二木秀雄=ジープ社のピークです。1955年には、総会屋風恐喝雑誌として二木秀雄らが逮捕され(政界ジープ事件)、消えていきます。占領政策全体に忠実に(GS→G2)右旋回するのが、731部隊残党の流れのようです。改めて「逆コース」を含む、70年の軌跡を学びましょう。次回更新は、その戦後70周年の正月です。皆様、よいお年を。
11月8日のゾルゲ事件国際シンポで、即興で私のペーパー「戦後ゾルゲ団、第二のゾルゲ事件 の謀略?」に加えた口頭報告が、思わぬ反響をよんでいます。簡単には、時事通信高田記者がコラムにしてくれましたが、ゾルゲ事件と731細菌戦部隊の接点という、国際会議開催直前に見つけた論点。幸い今年は、昨年の上海に続いて東京での会議だったので、日本語である程度話せましたが、舌足らずもあったので、本サイトでは久方ぶりの「尋ね人」「国際歴史探偵」情報提供のよびかけです。占領期の右派カストリ雑誌『政界ジープ』とその発行元ジープ社社長で、731部隊残党の医師「二木(ふたき)秀雄」について、皆さんからの情報提供をお願いします。その経緯と理由は、拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の延長上のもので、以下に、関係者・研究者の皆さんにメールでお願いした探索依頼を、本サイト用にアレンジして載せておきます。
11月8日の「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」国際シンポジウムの翌9日、多磨霊園でゾルゲ・尾崎墓前祭がありました。そこにリヒアルト・ゾルゲとゾルゲ団の墓碑、尾崎秀実家の墓があり、中国、ロシア、オーストラリアからの参加者も含めて、没後70周年の慰霊をしめやかに行いました。その帰路、多磨霊園のなかに、前日の私の報告で紹介した陸軍防疫給水部731部隊関係者の供養塔もあるというので、参加者と共に、捜してみました。手がかりはネット情報で「懇心平等万霊供養塔」としかなかったのですが、見つけることができました。何も書いていない731関係者供養塔の前 には、「JAP 731」という赤ペンキの落書と共に、誰かが最近備えたらしい花も、いっぱい 飾ってありました。残存731部隊医学関係者が、現在でも保守しているのでしょうか。
加藤の報告ペーパーにもなかった731部隊を出したのは、国際会議1週間前に、ある事実が確認できたからです。拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)では、プランゲ文庫をもとにしたNPO法人インテリジェンス研究所の占領期雑誌・新聞データベース「20世紀メディア情報データベース」の検索から、ゾルゲらを「スパイ」と名指す記事・論文が現れるの は、1949年2月の米国陸軍省ウィロビー報告以降のことで、それ以前の1945−48年は、尾崎秀実 『愛情は降 る星の如く』がベストセラーになり「愛国者」「反ファッショ戦士」のイメージが支配的だった 、と書いています(32−34頁)。これ自体は間違いでなかったのですが、 今回の報告 にあたって、かつて渡部富哉さんから借りた渡部収集ゾルゲ事件記事・論文スクラップのコピーを眺めてみると、『政界ジープ』1948年10 月特集号の表紙 が、右の写真の毒々しい「尾崎ゾルゲ赤色スパイ事件の真相」となっていることに気がつき ました。ウィロビー報告以前では、唯一です。プランゲ文庫の見落としかと思って、山本武利教授監修のデータベースに再度 当たってみると、『政界ジープ』誌そのものは1946年8月創刊号か ら 49 年末の検閲解除まで特集号を含め全部収録されているのに、この48年10月特 集号だけが抜き取られて入っていないことがわかりました。この号が「ゾルゲ事 件特集号」 のため、占領期GHQ・G2歴史課米国側代表者で検閲コレクションの収集者ゴードン・プランゲ博士自身が、自分のゾルゲ本『ゾルゲ・東京を狙え』(原書房、1985年、もともと『リーダイス・ダイジェスト』1967年1月号の論文、翻訳者 千早正隆もG2歴史課)を書くために私的に抜き 取り、公的コレクションに戻 さなかったのだろうと、一応考えています。
そこで、占領期右派カストリ雑誌『政界ジープ』と、発行するジープ社を調べ、社主で政界記事も書いている医師「二木(ふたき)秀雄」に行き着き ま した。当時競合する、佐和慶太郎の左翼カストリ雑誌『真相』は占領軍プレスコードによる検閲だらけで、以前早稲田大学20世紀メディア研究所の研究会で、検閲研究の資料として使ったことがあったのですが、『政界ジープ』は、ス キャンダル報道満載なのに、ほとんどGHQ・CCDの検閲を無条件でパスしています。しか も『政界ジープ』には、片山・芦田内閣批判、昭和電工 事件など、当時のGHQ・G2ウィロビー将軍らの意向と情報提供を受けたらしい記事が出ています。 そこで今度は「二木秀雄」をweb等で調べ、@金澤医大・陸軍医学校出身731部隊結核班(二木班)班長、A戦後医師をしながら『政界ジープ』を46年 8月から刊 行・ ジープ社社長、B朝鮮戦争が始まり、1950年11月に731部隊の残党内藤良一・宮本光一と共に 日本ブラッドバンク設立(731部隊長北野政次らが加わり、64年株式会社ミドリ十字になり薬 害エイズをおこす)、朝鮮戦争時米軍負傷兵輸血等で巨額の利益、C二木秀雄は1953年参院選石川選挙区に無所属で立候補・落選、50年に731関係者同窓会「精魂会 」を結成して代表者となり、55年に多磨霊園の「懇心平等万霊供養 塔」(英語ではUnit 731 Memorial)を建立する、D1956年19件6960万円の暴露記事を使った「戦後最大の恐喝事件」 = 『政界ジープ』事件で二木も逮捕・廃刊、元記者たちからはトップ 屋・総会屋も輩出、E1970年代に二木秀雄は新宿繁華街 に24時間診療のロイヤル・クリニックを開きイスラム教に入信、戦前からあ る日本 ムスリム協会に対抗する大乗「日本イスラム教団」を設立、患者中心に 最高時自称5万人教徒で「一世を風靡」、石油危機後の中東石油利権狙いとも、 新宿の暴力団とつながる 夜の女の駆け込み寺とも解せますが、1992年二木秀雄の死 で自然消滅したようです。二木秀雄の墓も、多磨霊園にあり、上記経歴のほぼすべてが、事実として確認されました。
なぜ、検閲だらけの左翼雑誌『真相』とは違って、右翼の『政界ジープ』にはGHQの検閲がほとんどなく、49年2月ウィロビー報告以前の占領軍による事件の内偵中に、政論も書く二木秀雄が日本 で最初にゾルゲ事件を「赤色スパイ事件」と名付けたかを調べるため、別の調査方法も使ってみました。ゾルゲの「東京妻」に擬された石井花子『人間ゾルゲ』角川文庫版183 頁に、「尾崎ゾルゲ赤色スパイ事件の真相という小冊子」のこと が 書かれており、内容はそれまでの報道と大差ないが「ゾルゲの処刑のことや死後の消息がは じめて書かれてあった」と出てきます。まさしく『政界ジープ』48年10月特集号のことです。これがそのまま、篠田正浩監督の映画 『スパイ・ゾルゲ』の花子回想シーンに、小道具として使われているとの情報もいただきました。そこで国会図書館サーチで、版元ジープ社刊行物を検索すると、400件余の出版物があります。その「出版年」 で調べると、雑誌のほか1946年は『連合国の日本管理方策』 『政党系図』 など9点、47年二木秀雄著『政界ニューフェース』など4点、48年1点、49年2点と、単行本の数はわずかです。ところが1950年に突然397点に急増、51年28点で以後単行本はありません。主力の雑誌『政界ジープ』も55年までで、恐喝事件で会社も消えます。当時のGHQによる 出版用紙の統制から考えると、異様な動きです。1950年=朝鮮戦争、日本ブラッドバンク設立、731同窓会「精魂会」結成時に、何らかのGHQとの取引で資金を獲得した可能性大です。二木秀雄は確かに医者ですが、1949−50年に厚生省医務局の雑誌『医学のとびら』を刊行して、厚生省とも結びつきました。出版内容では、大量の単行本を出した50年には、二木秀雄著『素粒子堂雑記』、アメリカ宣伝・G2広報に近い『これがアメリカ』『アメリカ留 学ノート』『労働とデモクラシー』『アメリカの味』、コロンビア大学同窓会名で 『闘うアメリカ』(坂西志保・ 鵜飼信成ら)『青年の国アメリカ』『恐慌とアメリカ』、反共本『マルクス主義の運命』『私は毛沢東の女秘書でした』『アメリカにおける共産主義者 の陰謀』などが刊行されます。このほか200点ほどの古典文学や『暴力なき革命への道』などの解説本、「ダイジェスト・シリーズ」が出ており、『リーダース・ダイジェス ト』にあやかったものでしょうが、占領期のハウツー本・ウィキペディア風です。いずれ にせよ、朝鮮戦争・再軍備の1950年に、二木秀雄とジープ社に巨額の資金が流れたようです。
「悪魔の飽食」731石井部隊の方から調べると、結核班長・二木秀雄の歩みは、石井四郎よりも内藤良一の近くで重なりそうです。敗戦当初、731部隊の人体実験標本は、中国から金澤医大に移して、隠匿されました。1946−47年に、石井四郎の生存が米軍に発覚し、ソ連と極東軍事裁判でも日本の生物兵器開発が問題になってきた時、細菌戦資料の米軍への独占的提供と引き替えに、石井四郎以下日本の医学界731関係者を免罪する、大きな「司法取引」が行われました。工作の中心は、731側の窓口で英語ができる内藤良一で、戦時風船爆弾に関わった亀井貫一 郎、元参謀本部の有末精三 (GHQ・G2歴史課)、服部卓四郎(同)らを介して、GHQ・G2ウィロビー、CIS ポール・ラッシュ、サンダース軍医中佐らに働きかけ、資料と情報を提供して、石井部隊全体の戦犯訴追が免除されました。二木秀雄 『政界ジープ』は、ちょうどその頃創刊されています。もしも二木秀雄が内藤の配下で、プランゲ博士、有末精三・服部卓四郎・河辺虎四郎・荒木光子らのG2歴史課が財源・情報源だったとすると、1950年再軍備期の 日本ブラッドバンク創業・ジープ社の飛躍を含めて、上述した『政界ジープ』の特徴が了解できますが、まだまだ仮説の域です(二木秀雄個人はあまり出てきませんが、森村誠一『悪魔の飽食』、常石敬一『標的イシイ』『医学者たちの組織犯罪』、太田昌克『731免責の系譜』、青木冨貴子『731』等、参照)。なお、私の手元には、米国国立公文書館NARAのHPで現物がダウンロードできる米軍日本生物戦資料のほかに、 青木冨貴子さん『731』が使ったMIS亀井貫一郎ファイル、石井四郎のCIA及びMISファイ ル、CIA福見秀雄ファイル等があります。こ の問題を学術的に追及していきたいという方がいらっしゃれば、 katote@ff.iij4u.or.jp までご連絡ください。また上記に関する資料・証言等お持ちでしたら、ご一報下さい。
ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。それをも下敷きにした新著が、 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)です。正誤表を作りましたので、ご参照ください。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、それに昨年9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊も活字になっています。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』8月号に、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版からは加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説していますが、大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。
この間の原爆・原発研究を踏まえて、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売中です。『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧ください。日本ペンクラブでのシンポジウム「島崎藤村と日本ペンクラブ』の報告が活字になっていますので、『P.E.N.』2月号の発言要旨を、NPO現代の理論・社会フォーラム『ニューズレター』6月号の富田武さんの『シベリア抑留者の戦後』(人文書院)書評、平凡社創業100年記念『こころ』19号特集「私の思い出の1冊」(6月)に寄せた「「私の思い出の1冊・石堂清倫『20世紀の意味』」と共に、アップしておきました。
勝野金政(かつの・きんまさ)の生涯をロシアに伝えるために、彼が日本帰国後1930年代に書き残した『赤露脱出記』『ソヴェト・ロシヤ今日の生活』『二十世紀の黎明』『ソヴェート滞在記』などの記録文学を、人類学者の故山口昌男さんにならって「日本のソルジェニツィン」としてロシアの人々に紹介し、再評価するモスクワ・ソルジェニツィン・センターでの講演会は、現地でそれなりの関心を惹き、日本の共同通信やロシアの日本語放送「ロシアの声」、それに東京新聞がとりあげてくれました。2013年3月から5月まで、早稲田大学演劇博物館で『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれました。そのオープニングの国際シンポジウムで「1930年代の世界と佐野碩」を講演しました。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版です。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方は、どうぞpdfファイルのyou tube でお楽しみを。学術論文データベ ースには、神戸の深草徹さんの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1),「立憲主義を守るために秘密保護法が必要との謬論を駁す」,「核燃料サイクルから撤退を」(2014.2),「戦前秘密保全法制から学ぶ」(2014.2),「砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す」(2014.4)、「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)、「安保法制懇報告書を読む」(2014.6) などが入っています。宮内広利さんの「柳田國男と折口信夫 〜民俗学の原像をもとめて〜 」(2014.5)、「親鸞における信と不信〜『歎異抄』を読む〜」(2014.9)に続いて「竹内好論ーーナショナリズムと奴隷の論理」(2014.12) 、佐々木洋さん「核開発年表改訂最新版」(2014.9)も、DBにアップされています。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2014年度大学院講義・ゼミ関係は、秋学期が始まりましたが、早稲田大学ホームページからアクセス願います。
師走の総選挙では、安倍内閣全体の政策評価と審判を!
占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について、情報をお寄せください!
2014.11.14 明日は、 一年ぶりの上海です。北京の日中首脳会談が何とかぎこちなく成立し、永田町には安倍首相のご都合主義的解散風。政治は一寸先は闇といいますが、野党の準備が整わないうちに総選挙で勝てば、消費税ばかりでなく外交安全保障、エネルギー政策を含む与党のすべての政策は追認され、内閣支持率が40%前後に落ちた政権の求心力を回復できるだろう、という思惑が見え見えです。折から、九州電力川内原発再稼働から始めて、関西電力高浜原発は40年を越えても動かす方向、廃炉を含む原発費用は総括原価方式撤廃後も電気料金に上乗せすることまで立案済みで、安倍内閣が長期化すれば、日本が再び原発大国になりそう。16日投開票の沖縄知事選の結果如何にかかわらず、衆院選という国政選挙で押させこみ、来年4月の統一地方選挙に備える算段でしょう。社会運動に対しては、京大私服警官立入事件に機動隊導入で応え、かつての東大ポポロ事件最高裁判決にならって、大学の自治・学問の自由侵害を合理化し、特定秘密保護法施行の手はずを整えています。
私の方は、ちょうど11月初旬の「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」国際シンポジウムで中国の現代史研究者の皆さんと交流し、中旬に中国海南島訪問・客員講義を控えて、日中ばかりでなく、米中・中韓などAPECとASEANの全体の進行が気になりました。案の定、中国と米国の首脳会談は特別待遇で長時間、「米中蜜月時代」を印象づけました。中国での私の講義テーマは「ジャパメリカからチャイメリカへ」と決まっていましたので、目先の国際関係ではなく、20世紀から21世紀の世界の長期展望の中で、日中学術交流の可能性を探ってこようと思います。
11月8日のゾルゲ事件国際シンポで、即興で私のペーパー「戦後ゾルゲ団、第二のゾルゲ事件 の謀略?」に加えた口頭報告が、思わぬ反響をよんでいます。簡単には、時事通信高田記者がコラムにしてくれましたが、ゾルゲ事件と731細菌戦部隊の接点という、国際会議開催直前に見つけた論点。幸い今年は、昨年の上海に続いて東京での会議だったので、日本語である程度話せましたが、舌足らずもあったので、本サイトでは久方ぶりの「尋ね人」「国際歴史探偵」情報提供のよびかけです。占領期の右派カストリ雑誌『政界ジープ』とその発行元ジープ社社長で、731部隊残党の医師「二木(ふたき)秀雄」について、皆さんからの情報提供をお願いします。その経緯と理由は、拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の延長上のもので、以下に、関係者・研究者の皆さんにメールでお願いした探索依頼を、本サイト用にアレンジして載せることで、中国出発前の早めの更新としておきます。
11月8日の「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」国際シンポジウムの翌9日、多磨霊園でゾルゲ・尾崎墓前祭がありました。そこにリヒアルト・ゾルゲとゾルゲ団の墓碑、尾崎秀実家の墓があり、中国、ロシア、オーストラリアからの参加者も含めて、没後70周年の慰霊をしめやかに行いました。その帰路、多磨霊園のなかに、前日の私の報告で紹介した陸軍防疫給水部731部隊関係者の供養塔もあるというので、参加者と共に、捜してみました。手がかりはネット情報で「懇心平等万霊供養塔」としかなかったのですが、見つけることができました。何も書いていない731関係者供養塔の前 には、「JAP 731」という赤ペンキの落書と共に、誰かが最近備えたらしい花も、いっぱい 飾ってありました。残存731部隊医学関係者が、現在でも保守しているのでしょうか。
加藤の報告ペーパーにもなかった731部隊を出したのは、国際会議1週間前に、ある事実が確認できたからです。拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)では、プランゲ文庫をもとにしたNPO法人インテリジェンス研究所の占領期雑誌・新聞データベース「20世紀メディア情報データベース」の検索から、ゾルゲらを「スパイ」と名指す記事・論文が現れるの は、1949年2月の米国陸軍省ウィロビー報告以降のことで、それ以前の1945−48年は、尾崎秀実 『愛情は降 る星の如く』がベストセラーになり「愛国者」「反ファッショ戦士」のイメージが支配的だった 、と書いています(32−34頁)。これ自体は間違いでなかったのですが、 今回の報告 にあたって、かつて渡部富哉さんから借りた渡部収集ゾルゲ事件記事・論文スクラップのコピーを眺めてみると、『政界ジープ』1948年10 月特集号の表紙 が、右の写真の毒々しい「尾崎ゾルゲ赤色スパイ事件の真相」となっていることに気がつき ました。ウィロビー報告以前では、唯一です。プランゲ文庫の見落としかと思って、山本武利教授監修のデータベースに再度 当たってみると、『政界ジープ』誌そのものは1946年8月創刊号か ら 49 年末の検閲解除まで特集号を含め全部収録されているのに、この48年10月特 集号だけが抜き取られて入っていないことがわかりました。この号が「ゾルゲ事 件特集号」 のため、占領期GHQ・G2歴史課米国側代表者で検閲コレクションの収集者ゴードン・プランゲ博士自身が、自分のゾルゲ本『ゾルゲ・東京を狙え』(原書房、1985年、もともと『リーダイス・ダイジェスト』1967年1月号の論文、翻訳者 千早正隆もG2歴史課)を書くために私的に抜き 取り、公的コレクションに戻 さなかったのだろうと、一応考えています。
そこで、占領期右派カストリ雑誌『政界ジープ』と、発行するジープ社を調べ、社主で政界記事も書いている医師「二木(ふたき)秀雄」に行き着き ま した。当時競合する、佐和慶太郎の左翼カストリ雑誌『真相』は占領軍プレスコードによる検閲だらけで、以前早稲田大学20世紀メディア研究所の研究会で、検閲研究の資料として使ったことがあったのですが、『政界ジープ』は、ス キャンダル報道満載なのに、ほとんどGHQ・CCDの検閲を無条件でパスしています。しか も『政界ジープ』には、片山・芦田内閣批判、昭和電工 事件など、当時のGHQ・G2ウィロビー将軍らの意向と情報提供を受けたらしい記事が出ています。 そこで今度は「二木秀雄」をweb等で調べ、@金澤医大・陸軍医学校出身731部隊結核班(二木班)班長、A戦後医師をしながら『政界ジープ』を46年 8月から刊 行・ ジープ社社長、B朝鮮戦争が始まり、1950年11月に731部隊の残党内藤良一・宮本光一と共に 日本ブラッドバンク設立(731部隊長北野政次らが加わり、64年株式会社ミドリ十字になり薬 害エイズをおこす)、朝鮮戦争時米軍負傷兵輸血等で巨額の利益、C二木秀雄は1953年参院選石川選挙区に無所属で立候補・落選、50年に731関係者同窓会「精魂会 」を結成して代表者となり、55年に多磨霊園の「懇心平等万霊供養 塔」(英語ではUnit 731 Memorial)を建立する、D1956年19件6960万円の暴露記事を使った「戦後最大の恐喝事件」 = 『政界ジープ』事件で二木も逮捕・廃刊、元記者たちからはトップ 屋・総会屋も輩出、E1970年代に二木秀雄は新宿繁華街 に24時間診療のロイヤル・クリニックを開きイスラム教に入信、戦前からあ る日本 ムスリム協会に対抗する大乗「日本イスラム教団」を設立、患者中心に 最高時自称5万人教徒で「一世を風靡」、石油危機後の中東石油利権狙いとも、 新宿の暴力団とつながる 夜の女の駆け込み寺とも解せますが、1992年二木秀雄の死 で自然消滅したようです。二木秀雄の墓も、多磨霊園にあり、上記経歴のほぼすべてが、事実として確認されました。
なぜ、検閲だらけの左翼雑誌『真相』とは違って、右翼の『政界ジープ』にはGHQの検閲がほとんどなく、49年2月ウィロビー報告以前の占領軍による事件の内偵中に、政論も書く二木秀雄が日本 で最初にゾルゲ事件を「赤色スパイ事件」と名付けたかを調べるため、別の調査方法も使ってみました。ゾルゲの「東京妻」に擬された石井花子『人間ゾルゲ』角川文庫版183 頁に、「尾崎ゾルゲ赤色スパイ事件の真相という小冊子」のこと が 書かれており、内容はそれまでの報道と大差ないが「ゾルゲの処刑のことや死後の消息がは じめて書かれてあった」と出てきます。まさしく『政界ジープ』48年10月特集号のことです。これがそのまま、篠田正浩監督の映画 『スパイ・ゾルゲ』の花子回想シーンに、小道具として使われているとの情報もいただきました。そこで国会図書館サーチで、版元ジープ社刊行物を検索すると、400件余の出版物があります。その「出版年」 で調べると、雑誌のほか1946年は『連合国の日本管理方策』 『政党系図』 など9点、47年二木秀雄著『政界ニューフェース』など4点、48年1点、49年2点と、単行本の数はわずかです。ところが1950年に突然397点に急増、51年28点で以後単行本はありません。主力の雑誌『政界ジープ』も55年までで、恐喝事件で会社も消えます。当時のGHQによる 出版用紙の統制から考えると、異様な動きです。1950年=朝鮮戦争、日本ブラッドバンク設立、731同窓会「精魂会」結成時に、何らかのGHQとの取引で資金を獲得した可能性大です。二木秀雄は確かに医者ですが、1949−50年に厚生省医務局の雑誌『医学のとびら』を刊行して、厚生省とも結びつきました。出版内容では、大量の単行本を出した50年には、二木秀雄著『素粒子堂雑記』、アメリカ宣伝・G2広報に近い『これがアメリカ』『アメリカ留 学ノート』『労働とデモクラシー』『アメリカの味』、コロンビア大学同窓会名で 『闘うアメリカ』(坂西志保・ 鵜飼信成ら)『青年の国アメリカ』『恐慌とアメリカ』、反共本『マルクス主義の運命』『私は毛沢東の女秘書でした』『アメリカにおける共産主義者 の陰謀』などが刊行されます。このほか200点ほどの古典文学や『暴力なき革命への道』などの解説本、「ダイジェスト・シリーズ」が出ており、『リーダース・ダイジェス ト』にあやかったものでしょうが、占領期のハウツー本・ウィキペディア風です。いずれ にせよ、朝鮮戦争・再軍備の1950年に、二木秀雄とジープ社に巨額の資金が流れたようです。
「悪魔の飽食」731石井部隊の方から調べると、結核班長・二木秀雄の歩みは、石井四郎よりも内藤良一の近くで重なりそうです。敗戦当初、731部隊の人体実験標本は、中国から金澤医大に移して、隠匿されました。1946−47年に、石井四郎の生存が米軍に発覚し、ソ連と極東軍事裁判でも日本の生物兵器開発が問題になってきた時、細菌戦資料の米軍への独占的提供と引き替えに、石井四郎以下日本の医学界731関係者を免罪する、大きな「司法取引」が行われました。工作の中心は、731側の窓口で英語ができる内藤良一で、戦時風船爆弾に関わった亀井貫一 郎、元参謀本部の有末精三 (GHQ・G2歴史課)、服部卓四郎(同)らを介して、GHQ・G2ウィロビー、CIS ポール・ラッシュ、サンダース軍医中佐らに働きかけ、資料と情報を提供して、石井部隊全体の戦犯訴追が免除されました。二木秀雄 『政界ジープ』は、ちょうどその頃創刊されています。もしも二木秀雄が内藤の配下で、プランゲ博士、有末精三・服部卓四郎・河辺虎四郎・荒木光子らのG2歴史課が財源・情報源だったとすると、1950年再軍備期の 日本ブラッドバンク創業・ジープ社の飛躍を含めて、上述した『政界ジープ』の特徴が了解できますが、まだまだ仮説の域です(二木秀雄個人はあまり出てきませんが、森村誠一『悪魔の飽食』、常石敬一『標的イシイ』『医学者たちの組織犯罪』、太田昌克『731免責の系譜』、青木冨貴子『731』等、参照)。なお、私の手元には、米国国立公文書館NARAのHPで現物がダウンロードできる米軍日本生物戦資料のほかに、 青木冨貴子さん『731』が使ったMIS亀井貫一郎ファイル、石井四郎のCIA及びMISファイ ル、CIA福見秀雄ファイル等があります。こ の問題を学術的に追及していきたいという方がいらっしゃれば、 katote@ff.iij4u.or.jp までご連絡ください。また上記に関する資料・証言等お持ちでしたら、ご一報下さい。
敗戦70年に向けて、どんな歴史認識を構築するのか?
2014.11.1 私たち日本人の集合的記憶・歴史認識が、いま世界から問われています。来年2015年は1945年の第二次世界大戦終結70年、日本の敗戦後70年、米英ロシア戦勝70年、中国・朝鮮半島・東南アジア解放70年ですから、
当然ながら、ナチズムから脱したドイツとともに、日本の戦後70年の軌跡が、国際社会で改めて問われます。そこで、靖国神社に参拝した首相や閣僚、集団的自衛権を認め特定秘密保護法を施行する政府、国民の税金を私消する政治家、従軍慰安婦問題の存在そのものを認めない一部マスコミ、男女平等は世界142か国中104位、ヘイトスピーチと呼ばれる他民族蔑視・迫害が横行している社会が注目され、いったい日本はどこに向かおうとしているかが、インターネットにまで広がった、グローバルな言論世界で論じられるのです。来年の8月前後が日本の戦後70年を問い直すピークになるでしょうが、そこでは広島・長崎原爆投下70年ばかりでなく、日本経済の「失われた20年」、2011年3月11日以後の自然災害や核エネルギーへの態度も、改めて問われます。福島の汚染水処理・廃炉工程も定かでないのに、鹿児島県川内原発を突破口に原発再稼働・プルトニウム蓄積へと向かう日本を、世界はどのように見るのでしょうか? 私たち自身の歴史認識を、しっかり鍛えなければなりません。読書の秋は、歴史を学ぶ秋です
かと敗戦前年の1944年11月7日に、いわゆるゾルゲ事件でリヒャルト・ゾルゲと尾崎秀実が東京で死刑に処されて70周年、前回もお知らせしましたが、11月8日(土)午後1−5時、明治大学リバティータワー地下1階1001教室で、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」と題する国際シンポジウムが開かれます。昨年の上海に続く、日露歴史研究センター主催の第8回国際シンポジウムで、コーディネーターは日露歴史研究センター代表・白井久也さん、パネリストに、ゾルゲ・尾崎秀実の上海時代を初めて旧ソ連第一次資料で本格的に解明したロシアのミハイル・アレクセーエフ・ロシア軍事史公文書館員、上海時代を中国側資料から論じる上海復旦大学・蔵志軍教授、それに、日本側から社会運動資料センター・渡部富哉さん、作家でゾルゲ事件の小説執筆中の小中陽太郎さん、それに今春『ゾルゲ事件』(平凡社新書)を公刊した私です。そこに、蔵教授ら中国側代表団が、昨年上海シンポの記録をまとめた、中国で初めての本格的学術研究論文集・蘇智良編『佐爾格:在中国的秘密指令』(上海社会科学院出版社、2014年7月)を持ってきました。蔵教授の報告予定日本語草稿では、今日の中国ではゾルゲは「中国革命に貢献した赤色情報員」「永遠に記念される世界反ファシズム戦争の英雄」と評価されているそうです。旧ソ連がゾルゲを「大祖国戦争の英雄」として歴史的実在を認めたのは、ちょうど中ソ論争の真っ最中の1964年で、毛沢東時代にはゾルゲが全く無視され黙殺されていたのに比すると、大きな変化です。尾崎秀実の中国論についても、中国側からの再評価が始まりそうです。私の報告も、戦後日本で「スパイ・ゾルゲ」イメージがいかにスパイ防止法・国家機密法制定に利用されてきたかを示して、敗戦直後の「ゾルゲ、尾崎の反戦平和活動」のイメージを、敢えて再提示しようかと考えています。拙著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の続編の話となりますが、ご関心のある方はぜひどうぞ。
かと メキシコから嬉しい便り。この10年ほど客員講義や国際会議報告に出かけるたびに編纂に加わり助言してきた、スペイン語の日本現代政治資料集が、ようやく刊行されました。メキシコ大学院大学田中道子教授が総監督で、1000頁近い大著です(メキシコ大学院大学出版局、2014)。もともと私以前に同大学客員教授を勤めた故高畠通敏教授が1926ー1982年までのスペイン語訳資料集を田中教授と共に編纂し、1987年に2分冊で刊行していたのですが、私が高畠教授の遺志を継ぎ、1983ー2012年までの日本政治の公式決定・政策文書・重要資料を適宜加えて増補し、田中教授以下10人ほどのチームでスペイン語に訳したもので、旧版と合本したので1000頁になりました。予定より遅れて2011年東日本大震災・福島原発事故関係の資料を加えることができたのが、ある意味では怪我の功名で、ラテンアメリカで日本に関心を持つ人々の基本教材になるはずです。私としても、大きな仕事を一つ成し遂げた達成感があります。ただし、民主党野田内閣の時期までなので、高木仁三郎の遺言や脱原発運動の資料は入れることができましたが、安倍内閣になっての急速な右傾化・軍事化の関係資料は収録されていません。高畠教授の旧版から日本国憲法9条や非核3原則、日中・日韓友好関係など、平和国家としての日本の戦後を浮き彫りにするように資料を編纂してきたのですが、そうした歴史認識に相反する最近の日本政治の動向のニュースを、日本に関心を持つスペイン語圏の皆さんがどう解釈し、行動に移すのか、気懸かりです。なお、次回更新予定の11月15日は、中国・上海にいる予定です。最近中国政府のインターネット規制が強まっているというので、ホテルのIT環境次第では、遅れる可能性があります。その際は、ご海容ください。
国家機密保護は、誰のため、何のため?
2014.10.15 前回トップは、「自然に対する驕りは、いのちの倍返しを受ける」でした。御嶽山噴火に続いて、2週続けて大きな台風到来です。東日本大震災で津波に襲われた宮城県石巻市、岩手県釜石市にも非情の雨、仮設住宅住まいで被害を受けた方もいるようです。その雨で、福島第一原発の井戸では、過去最高のセシウム濃度の地下水が検出されました。地震も続いています。こんな国が、太陽光・地熱など再生エネルギーの普及を電力会社が妨害し、原子力発電所を再稼働させる方向を許していいのか、改めて議論する必要があります。読書の秋です。この夏読んだ原発関連書。雑誌『NONUKE VOICE』創刊号は秀逸です。今中哲二、小出裕章さんの発言はもちろんですが、たんぽぽ舎や経産省テントひろばの報告など、脱原発運動の現状報告も貴重です。小倉志郎『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)は、現場を知るエンジニアならでの具体的な話が満載で、「科学」と「技術」の関係を改めて考えさせられます。歴史分析では、中嶋久人『戦後史のなかの福島原発』(大月書店)、私の『日本の社会主義ー原爆反対・原発推進の論理』(岩波書店)とはやや異なる地域開発の視点からですが、3・11の衝撃を受けて、狭い意味での「専門研究」を中断して真摯に問題に取り組んだ学問的勇気に敬服し、共感します。
特定秘密保護法が、いよいよ12月10日に施行されます。「運用基準」は、またしても閣議決定。パブリックコメント2万3800件から「報道・取材の自由、知る権利」を一応踏まえたかたちになってはいますが、「国際社会の平和と安全の確保」など「特定秘密」の範囲は抽象的で「特定」されていません。実際の運用をチェックする管理官は、内閣府の身内です。憲法上の「集団的自衛権」すら、閣議決定後に日米防衛ガイドライン改訂に具体化し、海外での参戦に向かっているのですから、「自衛隊の訓練・演習」以下自衛隊の動きが全55項目中19項目を占める「指定対象」公文書は国家機密、「国民の知らぬ間に参戦」さえありえます。ここは、新聞・テレビなどマス・メディアの踏ん張りどころですが、その日本のメディアが萎縮し、権力監視機能を衰退させつつあります。9月の朝日新聞社長会見以来、「朝日バッシング」は新聞・週刊誌から月刊誌におよび、安倍内閣の右傾化を報じる海外のメディアから、憂慮されています。慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者の勤務する大学にまで、脅迫状がきて辞任に追い込まれ、言論の自由は危機に瀕しています。日本弁護士連合会や日本ペンクラブは、特定秘密保護法施行に直ちに声明を出しましたが、日本新聞協会は、韓国政府の産経新聞前ソウル支局長の在宅起訴には抗議声明を発しても、自国の異常な言論状況には沈黙です。私たちはすでに、危機の中にあります。
11月8日(土)午後1−5時、明治大学リバティータワー地下1階1001教室で、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」と題する国際シンポジウムが開かれます。昨年の上海に続く、日露歴史研究センター主催の第8回国際シンポジウムで、コーディネーターは日露歴史研究センター代表・白井久也さん、パネリストに、ゾルゲ・尾崎秀実の上海時代を初めて旧ソ連第一次資料で本格的に解明したロシアのミハイル・アレクセーエフ・ロシア軍事史公文書館員、上海時代を中国側資料から論じる上海復旦大学・蔵志軍教授、それに、日本側から社会運動資料センター・渡部富哉さん、作家でゾルゲ事件の小説執筆中の小中陽太郎さん、それに今春『ゾルゲ事件』(平凡社新書)を公刊した私です。このほかにも、中国・ロシア・オーストラリアから、セルビアからはブランコ・ブーケリッチ遺児・山崎洋さんも、来日するとのことです。そこに報告する、シベリア抑留帰還者とゾルゲ事件元被告の「第二のゾルゲ事件」「戦後ゾルゲ団」の問題を準備していて見いだしたのが、サンフランシスコ講和条約による独立直後、1953年国会での「スパイ防止法」論議でした。ちょうど米ソ冷戦さなか、熱戦・朝鮮戦争中で、米軍による鹿地亘監禁事件などがおこっていた時期です。どうやら日米安保条約で独立国日本に基地を残した米軍は、ソ連の対日スパイ組織、シベリア抑留帰還者のなかに送り込んだエージェントを警戒し、日本国憲法中心の民主化された法体系に、早くも不満を持っていたようです。当時はレッドパージされたりした、日本のジャーナリストたちも果敢にたたかい、「スパイ防止法」制定を許さなかったのですが、まもなく施行される特定秘密保護法は、60年後の日米支配層による悲願達成の意味を持ちます。集団的自衛権行使とワンセットで使われる可能性大です。そんな歴史に学ぶためにも、ご関心の向きはぜひご出席ください。長くなったので、「ノーベル賞の政治学」の話題は次回に。
自然に対する驕りは、いのちへの倍返しを招く!
2014.10.1 ようやく国会が始まりました。政府の集団的自衛権閣議決定も、川内原発再稼働の原子力規制委員会「安全」審査も、沖縄の普天間基地辺野古移転も、国権の最高機関たる国会などなきがごとくに、安倍首相により進められてきました。内閣改造は、女性閣僚を増やしたといっても、安倍首相の右翼的言説に輪をかけたナショナリストの面々がならび、「お友達内閣」の骨格は変わりません。物価高・生活苦のなかでの消費税増税への不満、原発再稼働反対の多数派世論、武器輸出ばかりでなく自衛隊の海外での参戦さえ近づく不安がありながら、野党のふがいなさが、政治へのあきらめ・無力感を産み出しています。「朝日たたき」が、元記者勤務先への脅迫状にさえ結びつき、各地の自治体で、憲法を守る集会や脱原発展示が、「政治的」という理由で、開けなくなっています。ウクライナの不安定ばかりでなく、アメリカの対「イスラム国」シリア爆撃が始まり、中国・韓国との関係が冷えきった安倍内閣の姿勢からすると、戦争が、現実の問題として迫ってきます。
そんな世界の中での、一抹の希望。スコットランド独立をめぐって、過半数までは届かなかったが自決・自治の力を世界に示した、イギリスでの住民投票の経験、そして、いま眼前で進む、普通・平等・自由選挙への、香港市民の願いと運動。前者は、スペインでのカタルーニャやバスクの住民投票へと飛び火し、後者は、かつて四半世紀前の天安門前広場を想起させる、「アンブレラ・レボルーション(雨傘革命)」へと展開しています。福島や沖縄の人々は、身につまらせる思いで、注目していることでしょう。自分たちの問題を自分たちで決めること、自分たちの代表は自分たちで選ぶこと。これが、民主主義の原点です。福島知事選は10月26日投票、沖縄知事選は11月16日投票です。
木曽の名山、御嶽山が突然の噴火、水蒸気爆発ということですが、多くの犠牲者が出ています。この夏の広島土砂災害をはじめ、各地の集中豪雨は異常でした。地球全体の地殻変動・異常気象を前に、私たちが「科学」と信じてきたものには、あまりにも空白と隙間が多く、自然に対しては無力であることを、改めて思い知らされます。2011年3月11日から「もう3年半」なのか、「まだ3年半」なのか。汚染水をたれ流し除染も進まないのに「収束」や「アンダーコントロール」と公言する政府や東京電力にとっては「もう」なのでしょうが、故郷を奪われ、今なお仮設住宅に住む人々、放射能の内部被曝をおそれる人々にとっては、「まだまだ」です。「世界一安全」と称する原発再稼働を急ぎ、原発輸出のセールスに精出す安倍内閣にとっては「もう」でも、毎週金曜日に首相官邸前や全国で「再稼働反対」を訴え続ける人々にとっては「まだ」です。
自然に対する人間の驕りは、どこかで必ず、しっぺ返しに遭います。グローバリズムや新自由主義経済も、大きなひずみを抱えています。夏に創刊された雑誌『NONUKES VOICE』は、ピケティの『21世紀の資本論』 や、先日亡くなられた宇沢弘文さんの名著『自動車の社会的費用』などとは違った意味で、「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」という田中正造の言葉を思い起させます。小出裕章さん、今中哲二さんの、謙虚な科学的解説が、心に響きます。福島の 木田節子さん「騙され続けた私たち」や、大飯原発福井地裁判決要旨の全文掲載に、考えさせられます。経産省前テント村やたんぽぽ舎、川内原発からの報告に、勇気を与えられます。桜島の噴煙を見ながら、避難計画もできないのに川内原発再稼働が強行されそうな近隣住民は、御嶽山の噴火を、どんな想いで、受け止めたのでしょうか。
9月27日から、早稲田大学エクステンションセンター中野校で、オープンカレッジ「検閲と危機の時代 ― 戦中・戦後占領期から現代まで」が、毎週土曜日全10回で開かれます。山本武利名誉教授や土屋礼子教授らが占領期のメディア検閲を中心に歴史的に検証し、私も10月11日に原爆・原子力言説と検閲の問題を話します。まだ定員に余裕があるそうですから、権力とジャーナリズムの関係に関心のある方はぜひどうぞ。誤報や誤記は、書物の場合でも避けられません。3月刊行の『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の正誤表を作りましたので、ご参照ください。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』の最新8月号に、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。学術論文データベ ースに、常連宮内広利さんの新稿宮内広利「親鸞における信と不信〜『歎異抄』を読む〜」(2014.9)をアップ。あわせて佐々木洋さんの「核開発年表」(2014.9)を最新版にバージョンアップしました。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版からは加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説していますが、大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。前回お知らせした「第二のゾルゲ事件」については、資料整理中ですが、11月8日(土)午後に予定されているゾルゲ・尾崎処刑70周年記念国際シンポジウム(明治大学)で中間報告するつもりです。乞うご期待。
2013年は、春に「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社)と加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)に「日本における『原子力の平和利用』の出発」を発表しました。秋の加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊行を期に、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)が単行本として刊行され、私も「金澤幸雄さんと金澤資料について」を寄稿し、12月23日(月)には沖縄・那覇市で出版記念シンポジウムが開かれました。『図書新聞』11月2日号に書いた村田忠禧『日中領土問題の起源』の書評をアップ。私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めてくれました。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版解説記事が大きく出ました。沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。それをも下敷きにした新著が、 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)です。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、及び『歴史学研究』12月号掲載中の震災特設部会「大会報告批判」、それに9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)が活字になり、年末には、この間の原爆・原発研究を踏まえて、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売になりました。『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧ください。日本ペンクラブでのシンポジウム「島崎藤村と日本ペンクラブ』の報告が活字になっていますので、『P.E.N.』2月号の発言要旨を、NPO現代の理論・社会フォーラム『ニューズレター』6月号の富田武さんの『シベリア抑留者の戦後』(人文書院)書評、平凡社創業100年記念『こころ』19号特集「私の思い出の1冊」(6月)に寄せた「「私の思い出の1冊・石堂清倫『20世紀の意味』」と共にアップしておきました。
勝野金政(かつの・きんまさ)の生涯をロシアに伝えるためで、彼が日本帰国後1930年代に書き残した『赤露脱出記』『ソヴェト・ロシヤ今日の生活』『二十世紀の黎明』『ソヴェート滞在記』などの記録文学を、人類学者の故山口昌男さんにならって「日本のソルジェニツィン」としてロシアの人々に紹介し、再評価するモスクワ・ソルジェニツィン・センターでの講演会は、現地でそれなりの関心を惹き、日本の共同通信やロシアの日本語放送「ロシアの声」、それに東京新聞がとりあげてくれました。2013年3月から5月まで、早稲田大学演劇博物館で『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれました。そのオープニングの国際シンポジウムで「1930年代の世界と佐野碩」を講演しました。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版です。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方は、どうぞpdfファイルのyou tube でお楽しみを。学術論文データベ ースには、神戸の深草徹さんの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1),「立憲主義を守るために秘密保護法が必要との謬論を駁す」,「核燃料サイクルから撤退を」(2014.2),「戦前秘密保全法制から学ぶ」(2014.2),「砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す」(2014.4)、「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)、「安保法制懇報告書を読む」(2014.6) などが入っています。宮内広利さんの「柳田國男と折口信夫 〜民俗学の原像をもとめて〜 」(2014.5)に続いて「親鸞における信と不信〜『歎異抄』を読む〜」(2014.9) 、佐々木洋さん「核開発年表改訂最新版」(2014.9)も、DBにアップされています。私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。 。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2014年度大学院講義・ゼミ関係は、秋学期が始まりますが、早稲田大学ホームページからアクセス願います。
ジャーナリズムは、真実の報道と権力の監視を!
2014.9.15 大学の夏休みも、もうわずかです。アメリカから戻って取り組んだ800ページの大著が、鳥居英晴『国策通信社「同盟」の興亡ーー通信記者と戦争』(花伝社)、直接にはベルリン反帝グループの安達鶴太郎や 戦時在独日本大使館員崎村茂樹の戦時スウェーデン亡命についての手がかりを得るためで、その点では新たな情報は得られませんでしたが、戦時アジア・中国での同盟通信社とその特派員・記者たちの戦争協力の生態学になっていて、魅き込まれました。ちょうど武器やアヘン貿易を扱う商社の世界に陸軍御用達「昭和通商」という幻の巨大商社があったように、戦後は共同通信と時事通信に分かれた国策通信社「同盟通信」が、いかに外務省と軍部の宣伝戦の尖兵としてアジア・太平洋戦争遂行の一翼を担ったかが、詳細に描かれています。ジャーナリズムというよりは、国家の宣伝戦の一機関、アルチュセールの言う「国家イデオロギー装置」の機能を果たしたことが、よく分かりました。著者自身が共同通信の元記者ということで、その意味では見事な自己切開です。一読をお勧めします。
朝日新聞社が、5月の福島第一原発事故の政府調査検証委員会「吉田昌郎調書」報道について、2011年3月15日朝に東電社員650名が「待機命令違反で撤退した」という内容が誤りであったとして、社長が記者会見して謝罪し、記事を取り消しました。あわせて、過去の「従軍慰安婦」報道についても、当初依拠した 「吉田清治証言」は虚偽であったこと、そのことを認めた8月5日・6日の検証報道について、池上彰氏が「訂正が遅すぎた、記事を取り消しながら謝罪がない」とコメントした 連載コラム「新聞ななめ読み」の掲載を見合わせ、それが明るみに出て1週間後に掲載したことについても、記者会見と紙面で認め、謝罪しました。戦後日本のメディア史のなかでも、異例な事態になりました。新聞やテレビの誤報は、朝日新聞以外でもよくあることです。記事取り消しや謝罪も、珍しいことではありません。ただし、社長の記者会見や辞任にいたり、それをマスコミ他社が大きく報じることは、きわめて稀です。池上氏の紙面批評も、当然掲載すべき内容だったでしょう。朝日新聞社の右往左往が招いた失態で、「朝日の911」だったことは明らかです。しかし、そこから他紙誌ばかりでなく、政治家や政府高官までがここぞと「朝日バッシング」にまわり、一斉に従軍慰安婦問題はなかったとか、「河野談話」見直しへと進んでいる風潮には、違和感を禁じ得ません。鳥居氏の同盟通信史や山本武利『朝日新聞の中国侵略』(文藝春秋、2011年)が検証した、メディアの「いつかきた道」を想起します。
つまり、福島原発311事故のさい、政府や東京電力がどのように対処したかを示す「吉田調書」以下の調査記録は、本来すみやかに公開され、福島での放射能・汚染水対策、被災者救済・補償政策、原子力規制委員会の規制内容にも生かさるべきでした。それが非公開であるがゆえに、「吉田調書」の一部を恣意的に使った朝日の記事が「スクープ」として、一面トップになりました。政府が今回公開した「調書」類からうかびあがるのは、原発事故制御の困難、政府と電力会社の無責任な関係と情報隠し、一歩あやまれば東日本壊滅にいたった問題の深刻さ、「安全神話」ゆえにネグレクトされてきた事故対応・危機管理の稚拙な体制です。もしも朝日新聞が「吉田調書」全文を入手していたのなら、その「スクープ」狙いの解読の甘さ、本質的問題を回避した報道こそ、批判され検証さるべきでしょう。全情報を持って管理していたのは政府です。産経新聞ほか他社が「吉田調書」をどこからか入手し、朝日「スクープ」に疑問を提示したときから、朝日の稚拙な対応に乗じた、原発再稼働と原発輸出に向かう政府の周到な情報戦略が透けてみえます。「吉田調書」と当時の菅首相以下民主党政権幹部の当事者証言は政府の手で開示されましたが、東京電力の清水社長・勝俣会長らの記録は未公開です。国会調査委員会にも、まだ非公開の証言が多数あります。特定秘密保護法や集団的自衛権問題で政府批判の論陣を張るメディアを狙い撃ちした、「朝日たたき」の情報戦とも考えられます。
「従軍慰安婦」問題でも同様で、より深刻です。朝日新聞が「吉田証言」の信憑性が危うくなった時点で誤りを認めて検証し、被害者証言や記録文書の方から組み立て直しておけば、問題提起そのものの先駆性を失うことなく、日本のみならずほとんどの帝国主義国家が戦争の中で繰り返してきた民族差別、女性蔑視、人間の尊厳と人権への抑圧を、告発し続けることができたでしょう。それを何十年も放置して、安倍内閣が再び戦争に道を拓き、嫌韓嫌中ナショナリズムが高まってきたこの8月に、朝日の執行部は、なぜか「従軍慰安婦」問題での検証記事を作りました。権力への迎合・屈服ではなかったかが、疑われます。いうまでもなく、ジャーナリズムの使命は、真実の報道とともに、権力への監視です。それが今回の事態で、内閣改造をしたばかりの安倍首相に、御祝儀相場以上の支持率回復を与え、「朝日は世界に向けてしっかり説明しなければならない」と公言させることになりました。稲田自民党政調会長は、「日本の名誉回復」を声高に発言しています。同じ人物が、高市総務相と同じく、日本のネオナチ団体の党首とツーショット写真に収まっていたことが、イギリス『ガーディアン』紙などで報じられました。ヨーロッパなら直ちに公職辞任にいたる「事件」ですが、政治の右傾化と「朝日バッシング」のなかで、日本では問題にされません。日本のジャーナリズムの全体が、「いつかきた道」を本格的に検証することこそ、いま求められています。
9月25日から早稲田大学大学院の秋学期が始まり、私の政治学研究科講義・ゼミも26日から再開です。政経学部の3号館改築が完成し、教室が変わっていることに注意。早稲田大学ホームページからご確認ください。9月27日から、早稲田大学エクステンションセンター中野校で、オープンカレッジ「検閲と危機の時代 ― 戦中・戦後占領期から現代まで」が、毎週土曜日全10回で開かれます。山本武利名誉教授や土屋礼子教授らが占領期のメディア検閲を中心に歴史的に検証し、私も10月11日に原爆・原子力言説と検閲の問題を話します。まだ定員に余裕があるそうですから、権力とジャーナリズムの関係に関心のある方はぜひどうぞ。誤報や誤記は、書物の場合でも避けられません。3月刊行の『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の正誤表を作りましたので、ご参照ください。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』の最新8月号に、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。学術論文データベ ースに、常連宮内広利さんの新稿宮内広利「親鸞における信と不信〜『歎異抄』を読む〜」(2014.9)をアップ。あわせて佐々木洋さんの「核開発年表」(2014.9)を最新版にバージョンアップしました。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版からは加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説していますが、大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。前回お知らせした「第二のゾルゲ事件」については、資料整理中ですが、11月8日(土)午後に予定されているゾルゲ・尾崎処刑70周年記念国際シンポジウム(明治大学)で中間報告するつもりです。乞うご期待。
国際社会からの孤立は、いつかきた道!
2014.9.1 ひと月ぶりの更新です。しばらくアメリカ合衆国に滞在しました。ワシントンDCでの学術調査です。 10年も定点観測を続けていると、米国や日本の変化も実感できます。かつての勢いはありませんが、アメリカはなお安定した大国で、世界からエリートも底辺労働者も集まってきます。アジア系の人々は増えました。でも日本の姿は、影が薄くなりました。自動車は日本製が多いですが、テレビは韓国製が増えて、衣料品からiPhoneまで中国製商品があふれています。テレビや新聞で日本が話題になることは滅多にありません。もっともインターネットやSNSが普及して、自国に関心がある人々は自国語メディアで情報が得られますから、マスコミとウェブの棲み分けが進んでいるということでしょう。第一次世界大戦100年、クリミア・ウクライナやガザの戦火の中では、アジアそのものが後景に退きます。話題のフランス書の英訳700頁の大著、トマ・ピケティ『21世紀の資本論』が書店に平積みされるベストセラーで、駅の売店でも売られているのは、アメリカ社会の健全さの証しでしょうか、危機の現れでしょうか。もっとも電子ブックなら半額ですから、私は重い荷物はやめて、Kindle版にしました。政治や外交の世界では、ケント・カルダー『ワシントンの中のアジア』(中央公論新社)が述べる通り、中国・韓国のプレゼンスが高まる中で、日本の存在感は小さくなりました。この趨勢は、巻き返し困難でしょう。 日本のニュースは、日本語ウェブで、簡単に手に入ります。FacebookからTwitterまで、若者の動きも手に取るようにわかりますから、外国にいる感じはしません。もっとも、アメリカのホテルのネットは遅く、you tubeやdaily motion には、イライラしましたが。集団的自衛権問題のその後から、沖縄辺野古沖での新基地建設着工の企て、安倍内閣改造の動きまで、一応追いかけられましたが、外にいることで気になった情報が二つ。一つは、国際的にも科学者たちの中でも決着がついたはずのSTAP細胞問題。これがなぜか、政府や理研ばかりでなく、テレビのワイドショーやウェブでも「あるかないか」と論じられ続ける文化。これを曖昧にしておくことが、それでなくても地盤沈下した、日本の科学技術の国際的信頼性喪失につながることが、なぜか自覚されていません。もう一つは、内戦続くシリアに潜入し「イスラム国」に拘束された「民間軍事会社」湯川遥菜なる人物の行方と、そのメディア報道、ウェブ上では、本人のブログ、田母神俊雄とのツーショットをはじめ、単なる「軍事オタク」ではなく、どこからか資金を得て戦場に入った諜報工作員の色彩濃厚ですが、なぜかマスコミでは、イラク戦争時の日本人ジャーナリストのようには、詳しく報じません。政府の対応も、問題を小さくするためかよく見えず、解放交渉や身代金があるはずですが、あまり報じられません。日本の一部勢力が、安倍内閣の特定秘密保護法、国家安全保障局成立、集団的自衛権閣議決定や武器輸出3原則放棄に 励まされて、すでに遠い中東の戦場でも蠢動を始めたことが、隠されようとしているかに見えます。 戦争は、こんなかたちで近づいています。
そして、安倍首相以上に「軍事オタク」である石破現自民党幹事長が、安全保障法制担当相がらみで8月政局の焦点になり、結局別のかたちで入閣して、安倍内閣の長期化を支えることになりそうです。かつて、3・11福島原発事故後に。「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっている」「逆に言えば、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる」と公言した人物が、どうやら、ポスト安倍の最有力候補になり、原発再稼働から核保有永続化への道を、推進することになりそうです。これも、国際社会の趨勢を無視した、日本への厳しい眼に対する挑戦です。
かつて中国では政治的理由から本サイトがブロックされ、今春サイバー攻撃を受けて、不正アクセス・ページ改ざんがあったと、イギリスの友人から連絡を受け、あわててリンクの一部を削除し、セキュリティを強化しました。アメリカからはどうかとチェックしたら、本サイトの方は、なんとか問題なくつながり、不正リンクも見つかりませんでした。ところが今度は、メールが数日間、つながらなくなりました。どこかから、私のアドレスを騙って数千通の大量の迷惑メールが送られ、帰国してプロバイダーに問い合わせると、送信のみ一時停止にしたといいます。ホームページでメルアドを公開していると、よくあることなそうですが、スパム(迷惑メール)送信業者に、悪用されたようです。既に対策をとりセキュリティを追加しましたが、私の名で悪質・迷惑メールが届いた皆様には、深くおわび申し上げます。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』の最新8月号で、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を、発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。今夏の米国国立公文書館調査から、3月刊 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の延長上で解明すべき、新たな戦後冷戦期の問題が、出てきました。シベリア抑留帰還者に対する米軍尋問・対ソ諜報のなかから、1953年に「第二のゾルゲ事件」「戦後ゾルゲ諜報団」が、米国陸軍情報部によってフレームアップされ、「スパイ防止法」創設の根拠にされかけた形跡があり、いわゆるラストボロフ事件に、つながりそうです。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版から、加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。ぜひ図書館等にリクエストして、ご利用下さい。「第二のゾルゲ事件」は、まだ資料が未整理で解読できていませんから、今後の本サイトのお楽しみに。
敗戦を実感する夏に!
2014.8.1 ようやく夏らしくなりました。この間も集中豪雨や土砂崩れで、多くの被害や犠牲者がでました。地震もありました。活断層に加えて火山の噴火もありうる鹿児島川内原発の再稼働に、原子力規制委員会のゴーサインが出ました。安倍首相は「世界一の安全基準」などと再稼働と原発輸出に前のめりです。さすがに規制委員会の方は、そこまで責任は持てないようですが。この国が2011年3月11日の未曾有の悲劇に遭遇してから、お盆でも送り灯籠で祈れない行方不明者が、まだ2600人もいます。福島第一原発メルトダウンで故郷を追われ、仮設住宅に避難している人や、県外に出た人々が26万人、こうした事態をそのままにして、住民避難計画も出来ていないのに、再び「安全神話」を復活して、いいのでしょうか。福島原発事故の刑事責任について、検察審査会は、勝俣元東電会長ら3人を起訴すべきと議決しました。当然のことです。関西電力大飯原発の運転差し止め訴訟での福井地裁判決を、もう一度かみしめましょう。すでに英語・中国語・韓国語にも翻訳されて、世界に広がっています。志賀原発訴訟や川内原発差し止め訴訟でも、原告団によって活用されています。電力料金を使った関西電力の政界工作も、元副社長の証言ではっきりしてきました。原発が止り再生エネルギーに向かう夏を、来年以降も味わえるように、電力会社や「原子力村」の責任追及を続けていきたいものです。
夏と言えば、この国では、1945年の敗戦をかみしめる季節です。とはいえ、その体験を持っている人は。もう生存人口の2割、かくいう私も、戦後に、文学や映画やテレビで追体験した世代です。それでも8月の夏休みになると、大人たちの話や、ヒロシマ、ナガサキ、8月15日に、戦争の悲惨を知るいろいろな機会があって、具体的なイメージを持てたものです。朝鮮戦争は覚えていませんが、ベトナム戦争がアジアで続いていて、過去の日本の戦争のイメージを、同時代の戦争の具体的姿に投影して、平和の重要性を教えられたものです。もちろんそこにも問題があり、今日同じ敗戦国ドイツとの対比で韓国・中国から批判されているように、ヒロシマ原爆体験・アメリカ占領体験が強烈であったがゆえに、戦争責任追及の甘さを自覚できず、朝鮮半島・台湾の植民地化や中国侵略について思いをめぐらすようになるのは、大学に入って、日韓条約が問題になってからでした。その後、自分自身が研究するようになって、沖縄米軍基地や、戦争の条件となる貧困・格差・差別・偏見をなくしていく重要性、安倍首相の用法とは正反対の意味での「積極的平和主義」の大切さを、学んできました。昨年末刊行の『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)本文末尾では、社会主義勢力・革新勢力を含む戦後日本人の平和意識の問題点を、米国9・11の時にまとめた、@アジアへの戦争責任・加害者認識の欠如、A経済成長に従属した「紛争巻き込まれ拒否意識」、B沖縄の忘却、C現存社会主義への平和勢力幻想に、3・11を体験して、D原爆反対と原発推進を使い分ける二枚舌の「被爆国」、を加えておきました。幸い今年の8月も、テレビや新聞では、敗戦の歴史を語り継ぎ追体験する特集が、多数組まれているようです。赤坂真理さん『東京プリズン』のような文学作品も出ていますから、次の戦争の足音が聞こえる今こそ、日本の敗戦体験を、ウクライナやガザに重ね合わせて、実感できる夏にしたいものです。
もっとも私自身は、この季節は外国で、今年もアメリカ国立公文書館等の「国際歴史探偵」です。その成果の一端は、東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』として刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。収集資料そのものも、現代史料出版から、加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して第一期6巻セットが発売されましたが、何分セットで20万円をこえる高価な英文資料集ですので、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。3月刊の 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の裏話を含め、この20年の現代史研究・情報戦研究の軌跡を、法政大学『大原社会問題研究所雑誌』の最新8月号で、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」として、発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正しておきます。今回の更新では、ニュースのリンクを入れていません。前回更新時にお伝えした本サイトへのサイバー攻撃は、どうもファイルそのものの書き換えではなく、無線LANのセキュリティの甘さを衝いて、トップページのリンク先や収蔵ファイルのリンク切れURLを、詐欺サイトやアダルトサイトにつなぐ手法だった形跡があります。LANシステムを作り替え、新たに強力なセキュリティ・ソフトを導入しましたので、大丈夫とは思いますが、リンクを最小限にしてみました。これらの問題を、アメリカに滞在して、外からチェックする予定です。8月15日は、まだワシントンDC滞在中ですので、次回更新は、9月1日に予定しておきます。
戦争が近づく、敗戦の夏の記録と記憶を継承する!
2014.7.15 サッカーのワールドカップが終わりました。優勝はドイツです。ベルリンは熱狂に包まれています。「世界に冠たるドイツ」の組織力の勝利で湧いています。まるで4半世紀前の1989年秋、「ベルリンの壁」の開放の時のようです。でもその道程は、平坦ではありませんでした。国家再統一は1年でできましたが、西ドイツと東ドイツは、40 年以上も別々に歩んできました。言葉は同じでも、生活水準はもとより、教育も自由や人権のあり方も違いました。西ドイツで育った「ヴェッシー」と東ドイツで教育を受けた「オッシー」が、一つの「ドイツ人」になるのは、簡単なことではありませんでした。ともに外国人労働者を多数かかえていたばかりでなく、統一後に東欧やアジアからの流入がありました。膨大な国家財政の負担と産業立地の再配置が必要でした。それから4半世紀で、格差や貧困はありますが、敗戦・占領・復興、東西冷戦下の経済成長時代とも違った、新しい統一ドイツが定着し、東も西もなく、選手の移民・難民出身もなく、ヨーロッパ連合(EU)の基軸国になり、スポーツ世界一を喜び合う「ドイツ国民」が生まれたようです。第二次世界大戦をともに枢軸国として敗北し、ともに連合国の占領下に再出発した日本でしたが、1980年代以降の歩みは、大きく違ったようです。そんな日本とドイツの関係について、もうすぐ東京大学出版会から『戦後日独関係史』が刊行されます。私も「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿していますので、ご笑覧ください。毎年夏をドイツですごす「ちきゅう座」の合澤清さんは、今年もゲッティンゲン滞在記の連載を始めたようです。日本チームのふがいなさを、外国人監督や海外で活躍する選手のせいにして、うっぷんを晴らすより、優勝したドイツの底力の秘密を、その歴史から、しっかり学びましょう。もうすぐ、敗戦69年目の夏です。
解釈改憲は暴挙、今こそ日本国憲法を読み、行動へ!
本サイト学術論文データベ ースの常連深草徹弁護士から、「「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定」を読み解く」(2014.7)という緊急寄稿がありました。7月1日の閣議決定をふまえ、安倍首相補佐官との直接のやりとりを組み込んだ解釈改憲批判です。事態の重大性・緊急性に鑑み、次回更新を待たずにアップします。
2014.7.1 今日から、日本国憲法の解釈が変わるのだそうです。昨日まで、日本は戦争しないと誓ってきました。今日から、海外の戦争にも加われるのだそうです。他国民を殺し、自衛隊員が殺されるのを、国として認めるのです。わずか一ヶ月ほどの、自民党と公明党の与党協議にもとづく閣議決定とかで。
冗談ではありません。国会でもほとんど議論されていません。歴史的経緯を抜きにして、素直に憲法典を読んでみましょう。本サイトトップの左上のをクリックすると、憲法が出てきます。まずは、前文。 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
そして、憲法第9条。これが、あくまで、平和国家の基準です。 「第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
歴史的には、自衛権はあるかないか、自衛隊は合憲か違憲か、日本国憲法と日米安保条約は両立しうるか、専守防衛とは何か、等々の問題はありますが、今回自公合意による新たな「解釈」とは、
「わが国は戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んだ。専守防衛に徹し、軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持し、安定して豊かな国民生活を築いてきた。一方、わが国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている。日米同盟の抑止力を向上させることにより、武力紛争を未然に回避し、脅威を防止することが必要不可欠だ。「積極的平和主義」の下、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。」「離島の周辺地域などで外部から武力攻撃に至らない侵害が発生し、近傍に警察力が存在しない場合や警察機関が直ちに対応できない場合、手続きの迅速化のための方策を具体的に検討する。
(1)後方支援と「武力の行使との一体化」=他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する補給、輸送などの支援活動は、武力行使と一体化するものではないとの認識の下、他国軍隊に必要な支援活動を実施できるよう法整備を進める。(2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用=国連平和維持活動(PKO)での「駆け付け警護」に伴う武器使用や、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的活動ができるよう法整備を進める。
【憲法9条の下で許容される自衛の措置】
安保環境の変化を踏まえれば、他国への武力攻撃であっても、目的・規模・態様によっては、わが国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として憲法上許容される。わが国による「武力の行使」が国際法を順守して行われることは当然だが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する。憲法上許容される「武力の行使」は国際法上、集団的自衛権が根拠となる場合がある。」
上記2つの文書から浮かび上がる国家像は、まるで正反対です。「これらの活動を自衛隊が実施するに当たっては、国家安全保障会議(NSC)の審議などに基づき内閣として決定する。あらゆる事態に切れ目ない対応を可能とする法案の作成作業を開始する。」というのが、自公合意による閣議決定の内容です。憲法前文・第9条からめぐりめぐっての、立憲主義を破壊しての「解釈改憲」です。世論調査では反対が多数(毎日58対32、日経50対34、報道ステーション54対28)、地方議会からも200をこえる決議、国会前4万人ばかりでなく地方の各地でも市民の抗議行動。それなのに、かつて「絶対平和主義」を党是としていた公明党の権力の座にしがみついた「転向」、他の野党の無力。この国は漂流を始めました。今回はシンプルに、国家像の転換の意味を、かみしめるにとどめましょう。今は、行動の必要な時です。
7月12日(土)午後、私の岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』の公開合評会が東京・JR秋葉原駅のすぐそば、首都大学東京・秋葉原サテライトキャンパス(秋葉原ダイビル12F)会議室Bで開かれます。主催は、関西で「原子力開発および原子力『安全神話』の形成と戦後政治の総合 的研究」を科研費で精力的に進めている奈良女子大学・小路田泰直さん、京都大学・岡田知弘さんらの研究会。関西ではよくしられた知的問題提起集団で、私も『原子力と冷戦』以来、2度ほどよばれて話してきました。ウェブ上に公開された雑誌『史創』にも、小路田さんの「安全神話の政治学」ほ か、すぐれた論文が入っています。小路田さんと大阪府立大・住友陽文さんが報告・コメン トをしてくれるとのことです。日本の社会主義・平和運動と原子力の関係を議論するいい機会で、関東の皆さんとも交流したいとのことですので、ご関心の向きは、ぜひどうぞ。学術論文データベ ースの論文28、佐々木洋さん「日本人はなぜ、地震常襲列島の海辺に『原発銀座』を設営したか?」の付属資料「核開発年表」が改訂され2014年版が届きましたので、参考にしてください。日本ペンクラブでのシンポジウム「島崎藤村と日本ペンクラブ』の報告が活字になっていますので、『P.E.N.』2月号の発言要旨を、NPO現代の理論・社会フォーラム『ニューズレター』6月号の富田武さんの『シベリア抑留者の戦後』(人文書院)書評、平凡社創業100年記念『こころ』19号特集「私の思い出の1冊」(6月)に寄せた「「私の思い出の1冊・石堂清倫『20世紀の意味』」と共にアップしておきました。
ワールドカップさなかに進む、悪しき国家改造!
2014.6.22 来月ですが、7月12日(土)午後、私の岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』の公開合評会が東京・JR秋葉原駅のすぐそば、首都大学東京・秋葉原サテライトキャンパス(秋葉原ダイビル12F)会議室Bで開かれます。主催は、関西で「原子力開発および原子力『安全神話』の形成と戦後政治の総合 的研究」を科研費で精力的に進めている奈良女子大学・小路田泰直さん、京都大学・岡田知弘さんらの研究会。関西ではよくしられた知的問題提起集団で、私も『原子力と冷戦』以来、2度ほどよばれて話してきました。ウェブ上に公開された雑誌『史創』にも、小路田さんの「安全神話の政治学」ほ か、すぐれた論文が入っています。小路田さんと大阪府立大・住友陽文さんが報告・コメン トをしてくれるとのことです。日本の社会主義・平和運動と原子力の関係を議論するいい機会で、関東の皆さんとも交流したいとのことですので、ご関心の向きは、ぜひどうぞ。
2014.6.15 ブラジルでワールドカップが始まりました。しばらくマスコミの話題を独占するでしょう。そんな時機を見計らったかのように、安倍首相の改憲工作、集団的自衛権についての自公合意と閣議決定が進められています。野党はほとんど役割を果たせず、国民の反対の声も届かず、「戦争ができる国」への猪突猛進です。その根拠づけは、あきれたこじつけ。問題設定そのものが異なる砂川事件最高裁判決から「必要最小限度の自衛権」を導こうとしましたが、旗色が悪いとみると、今度は1972年政府見解の「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態」を与党公明党対策で持ち出し、それがもともと集団的自衛権を否定する文脈で出されたものと指摘されると、開き直って「急迫、不正の事態」を「おそれ」と置き換えた自衛権発動3要件をひねり出すという具合。憲法前文・第9条の理念とちょうど正反対の、「戦争ができる国」へと突っ走ろうとしています。事実上の国家改造です。熟慮民主主義と正反対の、独善的解釈改憲です。
同時に、この国が改造を迫られていることも事実です。安倍首相の改憲とは正反対の意味で。「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される」事態は、実は3年前に体験しました。東日本大震災・福島第一原発メルトダウンというかたちで。久しぶりに東北・岩手の被災地と福島を駆け足でまわってきましたが、震災被災地の「復興」は、自治体ごとでばらばらです。陸前高田の「奇跡の一本松」のまわりに高いクレーンが林立し、整地・土木工事の真っ最中で、とても「復興の象徴」とはいえません。膨大な公共事業の作業員が去ったあと、新しい地上げされた空間に、果たして若者たちの仕事場は作れるのでしょうか。大船渡は漁港再建を軸に復興が進み、釜石も被災は局地的でしたから 何とか復旧しつつあると思われましたが、海岸線の小さな集落や、大槌町は、まだ生々しい被害の跡が各所に残ります。町全体が、「震災遺跡」のようでした。福島では、あいにくの雨の中、放射線量を測定しながらレンタカーでまわりましたが、中通りの福島・郡山でも、東京や岩手の数倍の数値が市街地で観測され、特に初期にホットスポットとよばれた地区や、山間部・森に近づくと、とたんに高い値が出てきます。 除染が済んだはずの地域でも、若いお母さんたちが心配して戻れないのは、当然と考えました。あの「美味しんぼ」で話題になった「鼻血」の表現は、「危ないところから逃げる勇気を」という作者のメッセージを伝えるためのもので、それこそ「生命、自由および幸福追求の権利」が脅かされる事態が続いているのに、原発再稼働や原発輸出まで語られ、3・11以前の状況に回帰しようとする安倍政権や原子力ムラへの、抗議の叫びと思われました。そもそも原発被災地の「復興」とは何かを、改めて考えさせられました。
個人の正当防衛権から自衛権を、個別的自衛権から集団的自衛権へと直結させる論理も使われていますが、そもそも個人の正当防衛権自体が、生存権が脅かされる「急迫、不正の事態」に例外的に認められるもので、国家の権利に短絡できるものではありません。この辺は学術論文データベ ースの深草徹弁護士の最新寄稿「安保法制懇報告書を読む」(2014.6) や、伊藤真さんの「けんぽう手習い塾」を参照していただいて、むしろ、改めて原発事故という「急迫、不正の事態」にあたって何を優先すべきかを明快に示した、5・21福井地裁判決の一文を、かみしめましょう。
「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を間わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」
米国NSAのグローバルな通信監視のもと、戦争への足音が聞こえる世界、原発再稼働に走る日本!
ただし、情報戦の世界では、どうやら米国CIA中央情報局とNSA国家安全保障局が、着々と地球全体を監視するインフラを、構築したようです。まもなく始まる、世界のマスコミがワールドカップに酔う時期に、いろいろな工作が準備されるでしょう。CIA/NSA両諜報組織に籍を置いたエドワード・スノーデンの内部告発した国家機密情報を、『ガーディアン』誌等で報じたジャーナリスト=グレン・グリーンウォルドの著書『暴露ーースノーデンが私に託したファイル』が、世界24か国で同時刊行、日本語でも新潮社から発売されました。驚くべき内容です。ウェブを使うネチズンなら必読です。リークされた100以上の文書そのものも必読ですが、それを報じるまでのジャーナリストとしてのグリーンウォルドとスノーデンの出会い、報道機関の選択と角逐、決断と不安、実際に遭遇した権力との闘争のすべてが、スリル満点です。そのオーウェル『1984年』風世界が、実際のNSA文書で裏付けられて、心底から恐怖と怒りをおぼえます。スノーデンは、2009年から11年まで、日本に住んでいました。「NSAの請負企業」であるデル・コンピュータ社従業員をカバーにして、「上級サイバー工作員」の活動を訓練し、実行していました。ただしそれは、日本の情報収集・対日工作と言うよりも、米軍三沢基地の巨大通信傍受装置エシュロンを使って、世界のありとあらゆる情報を収集し、特に対中防諜に関わるものだったようです。コンピュータのデル社は、カバーとしての職場の提供ですが、恐ろしいのは、NSAの「すべてを収集する」「バウンドレス・インフォーマント(際限なき情報提供者)」戦略に、電信・電話会社ばかりでなく、世界の有力IT企業が、軒並み協力していたことです。「プリズム」作戦では、マイクロソフトに始まり、ヤフー、グーグル、フェイスブック、ユーチューブ、スカイプ、遂にはわが愛用するアップルまでが、個人の検索記録からメールまでの情報を提供していました。各社は否定していますが、一応抵抗し得たのはツイッター社だけらしく、『暴露』に証拠書類が十分に収録されています。マイクロソフトは、真っ先に個人情報提供を認めた米国策迎合企業、「あのWindows8というのは、ひょっとしたら」とか、「HISのサイトにアクセスしただけではめ込まれるマルウェア感染」はどこから、と疑いたくもなります。
プリズムを通して得られた情報は、「国外配布禁止」のトップ・シークレットを頂点に、「ファイブ・アイズ」=アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの「包括的協力国」で共有されるA層、それにオーストリア、ベルギー、チェコ、ドイツ、ハンガリー、スウェーデン、スイスなど「限定的協力国」=B層に分けられます。アジアの日本と韓国もB層とされていますが、これは米国にとって、特定領域では協力を得られるが、同時に監視対象ともなる国々です。ですからドイツの首相の携帯電話まで、調べられていました。安倍首相とオトモダチの携帯も、きっと筒抜けだったことでしょう。どうやら日本は米軍への便宜と米国経済復興の金庫役らしく、TPP交渉がらみで、東京の寿司屋でオバマが話す内容も、前もってチェックされ、インプットされていたでしょう。だからこそ、日本側の期待のシナリオと狂った「尖閣問題をエスカレートするのはprofound mistake(深刻な誤り)」という、世界向けに発せられたオバマの英語を、日本政府は、国内向けには「正しくない」とさりげなく訳したりする、姑息な手段が使われたのでしょう。もっとも、米国の世界戦略立案のもととなるNSA文書の中で、日本がB層の国の中で重視されていた形跡はありません。アメリカにとっては「特別の同盟国」ではないらしく、3・11後の米国の機密情報収集でも、日本の原発事故が重要イシューとされた記録は、少なくとも今回の『暴露』資料にはありません。だからこそ、日本の安倍首相や原子力ムラ住人たちは、安心して原発再稼働への道を着々と準備し、厚顔にも、トルコやベトナムへの輸出さえ進めようとしているのでしょう。実際、NSAの「脳の中をのぞき込む」IT監視システム、スノーデンの言う「地球内部の地底人」を知ってしまうと、脱原発への道も、オープン・スペースでオーソドックスに進めざるをえません。倫理や哲学のレベルに踏み込んで、読み手・聞き手にしっかり届き響く議論で支持を獲得する、民主主義の王道を歩むしかありません。日本政府が日米同盟のためにと提供する国家機密の資料や案件が、本当にトップ・シークリットかどうか判断するのは、実際には他国からの情報も併せて政策策定する、米国側になります。改めて、特定秘密保護法の成立が悔やまれます。深草徹さんの新稿「今、再び特定秘密保護法を考える」(2014.6)をアップ。大飯原発3・4号機の運転差し止めを認めた、下記の5・21福井地裁判決を、エシュロンに覗かれてもかまわないかたちで、大いに拡散していきましょう。
「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を間わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」
革命の消えたロシア、ナショナリズムのぶつかりあう世界
2014.5.15 ひと月ぶりの更新です。連休はロシアでしたので、やや長めの紀行文にします。5月1日のメーデーは、モスクワで迎えました。クリミア自治共和国のウクライナ離脱、ロシア連邦編入に発して、ウクライナ情勢は緊迫し、米国・EUがロシアに対する限定的経済制裁に入り、4月末に予定されていた日ロ外相会談は延期になりましたが、私たちの文化交流は、何とか実現できました。もともと今回の旅は、本サイトでもたびたび報じてきた、旧ソ連時代の片山潜秘書で、1930−34年に無実の罪で強制収容所(ラーゲリ)に送られ奇跡的に生還した勝野金政(かつの・きんまさ)の生涯をロシアに伝えるためで、彼が日本帰国後1930年代に書き残した『赤露脱出記』『ソヴェト・ロシヤ今日の生活』『二十世紀の黎明』『ソヴェート滞在記』などの記録文学を、人類学者の故山口昌男さんにならって「日本のソルジェニツィン」としてロシアの人々に紹介し、再評価するためのものでした。モスクワ・ソルジェニツィン・センターでの講演会は、それなりの関心を惹き、日本の共同通信やロシアの日本語放送「ロシアの声」、それに東京新聞がとりあげてくれました。私が「日本のソルジェニツィン・勝野金政」を、勝野の長女稲田明子さんが「インタ−ナショナル・ヒュ−マニズムを求めて―ソ連国籍・BBカナル運河軍の一員だった父の不屈な生涯」をそれぞれ講演し、健康上の理由で同行できなかった藤井一行富山大学名誉教授の「スタ−リン体制告発の世界的先駆者・勝野金政―スタ―リン運河をめぐる勝野とゴ―ルキ―」も、ロシア語で読み上げられました。その模様は、共同通信でモスクワから配信され、また、モスクワの日本語放送「ロシアの声」でも大きく報じられ、東京新聞5月17日朝刊でも書かれていますから、ご参照ください。5月17日(土)午後、早稲田大学での「桑野塾」(3−6時、16号館820号室)で、稲田さんと私が、報告会を開きます。
エネルギー基本計画閣議決定は、「原子力ムラ」復興宣言
2014.15 安倍内閣は11日、「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。立法府である国会の審議はおざなり、政権与党と経済産業省エリート、その背後の電力業界の談合の産物です。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ「規制基準に適合した原発は再稼働を始める」、核燃サイクルも継続してもんじゅは「高レベル放射性廃棄物の減容化の国際拠点」として残し、「高温ガス炉」という新型原子炉を研究開発する、といいます。もちろん最高責任者は安倍首相、東京オリンピック誘致のためにフクシマは「アンダー・コントロール」と世界に公言したうえに、経済成長の鍵は原発輸出=「原発インフラの国際展開」、あたかも3・11などなかったかのような「原子力ムラ」と原発推進政策の「復興」です。この国は、またしても、主体性なき「つぎつぎとなりゆくいきほひ」(丸山眞男)の道に、戻ったのでしょうか。フクシマでは高濃度汚染水200トンが「誤って送水」、除染迅速化の新政策はどうやら放射線許容量の方の修正、オランダでの核サミットでは、「なぜ日本は9トンもプルトニウム持っているのか」と外国紙記者から質問され、米国からも「持ちすぎ」濃縮ウランとプルトニウムの返還を求められる事態、本当は核兵器も作りたい、安倍首相の原発再稼働の狙いは見抜かれています。
「エネルギー基本計画」に「高温ガス炉」などいう新型原子炉の話が出てきて、またまた「原子力ムラ」に飼い慣らされた「最先端科学者・技術者」たちの、予算獲得の蠢動が始まりそうです。日本のマスコミは、原発「安全神話」に長く騙されてきたばかりでなく、最近では、理研のSTAP細胞問題を、ワイドショーの視聴率獲得競争のハイライトに仕立て上げています。この問題は、アカデミックな意味では、決着がついています。11jigenさんの「論文捏造&研究不正」ツイッターでの検討は、さまざまな領域の自然科学・技術学の専門家の皆さんが、「専門家」であることの良心を賭けて、実名・匿名、日本語・英語入り乱れて、問題の所在を次々に明らかにしてくれます。多くの新聞・テレビの「科学記者」の皆さんがアクセスするのは、当然でしょう。STAP細胞問題ばかりでなく、理研を頂点とした科学技術予算獲得競争、多くの大学研究室での論文不正やコピペ学位についても、次々に事例が紹介され、参考になります。ただ、私たち人文・社会科学の研究者にとって物足りないのは、問題の歴史的背景のこと。いつ頃から特許権に結びついた論文発表競争が始まったのか、論文、ラボ・ノートの書き方は、いつ頃から誰によってマニュアル化されたのか、それは日本の自然科学のアメリカ化とどう関わるのか、理研は、なぜいつ頃から国策産学協同の中心になったのか、といった問題は、あまり論じられないようです。『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)で、戦時日本軍の原爆開発に従事した理研の仁科芳雄、米国占領下の学術研究体制づくり・研究予算配分、「原子力の平和利用」と科学技術庁出発の問題を追いかけてきた社会科学者としては、もっと歴史的な要因も、知りたいものです。そうそう、最新著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社)については、公刊にあたって細心の注意と校正を期したつもりでしたが、熱心な読者の皆さんから、さまざまな誤記・誤植のご指摘をいただいております。尾崎秀実と異母弟尾崎秀樹の誤記、三重県の旧い地名の表記などですが、現時点での正誤表を本サイトに公表して、「論文捏造&研究不正」さんのような深い解読、厳しいご批判に対しても、万善を期したいと思います。同じ3月刊の、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。次回更新は、緊迫するウクライナ情勢次第ですが、定例5月1日は久しぶりのモスクワのメーデーの予定ですので、ロシアから帰国後、5月15日としておきます。
2013年は、春に「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社)と加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)に「日本における『原子力の平和利用』の出発」を発表しました。秋の加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊行を期に、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)が単行本として刊行され、私も「金澤幸雄さんと金澤資料について」を寄稿し、12月23日(月)には沖縄・那覇市で出版記念シンポジウムが開かれました。『図書新聞』11月2日号に書いた村田忠禧『日中領土問題の起源』の書評をアップ。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、及び『歴史学研究』12月号掲載中の震災特設部会「大会報告批判」、それに9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)が活字になりました。年末には、この間の原爆・原発研究を踏まえて、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売になりました。『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧ください。
消費税はあがり、世界の評価はさがる、日本の春
2014.4.1 新学期、新社会人の季節です。東京のサクラは満開です。でも「希望の春」の気分には、なかなかなれません。たんぽぽ舎から送られてきたニュースによると、経産省前テント村での川柳句会で詠まれたのは、「花咲けど 脱原発の道遠し」「再審を 支えし姉の笑顔咲く」、それに「8億円 どんなヨシミで借りたのか みんなの党にみんなあきれる」という狂歌なそうです。そして今日から、消費税は8%になります。医療費はあがり、年金は減額です。増税分が社会保障や福祉に、被災地の復興や生活支援にまわされる保証は、ほとんどありません。なにしろ3・11の復興予算さえ流用されたことは、自民党ホームページにも記されています。税金の使途を、タックス・ペイヤーとして監視し議論するのは、最低限の市民の権利であり義務です。そのうえ、安倍内閣高支持率の理由である、アベノミクスによる景気浮揚効果が、実際にどうなるかも、この半年で、わかってくるでしょう。ただ、その間に、安倍首相の本来の政策である、特定秘密保護法制定から靖国参拝、武器輸出三原則見直しから集団的自衛権の解釈改憲、道徳教育の教科化、そして最終目標である日本国憲法の明文改正が、どこまで進むのかが、憂鬱です。NHK会長や内閣法制局長官の国会答弁を見ると、どうも安倍首相は、立憲主義ばかりでなく、権力分立の意味も、理解していないようです。「積極的平和主義」などという、本来の意味とは正反対のまやかしの言説操作に、ご注意。原発再稼働の行方と共に、国民の監視が不可欠です。
ウクライナ・ロシア問題や朝鮮半島が緊迫する中で、国際社会での日本の孤立は、深刻です。最近送られてきた『労働運動研究』という雑誌に、中国・韓国ばかりでなく、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ファイナンシャル・タイムズ』『フランクフルター・アルゲマイネ』『ル・モンド』等の対日論調が集大成されていて、改めて事態の深刻さに、驚かされました。もともと世界のメディアでは、日本関係の記事が少なくなり、アジア支局も東京から北京・上海・香港などに移されて久しいのですが、そこでクオリティ・ペーパーに登場する見出しが「安倍氏の危険な歴史修正主義」(NYタイムズ)、「厄介な方向を向き始めた安倍の国家主義」(FTタイムズ)、「日本の挑発的行動」(ワシントン・ポスト)、「日本外交が孤立する危険」(ル・モンド)等々ですから、 世界の注目点は明瞭です。経済的にも、内閣官房参与が「アベノミクスは強力な軍隊を持つため」などと『ウォール・ストリート・ジャーナル』で公言するものですから、「対米自立」の方向性も、いっそう警戒されるばかりです。グローバル化のなかでの日本への対内直接投資は、世界一の中国への百分の1で、世界では65位です。もっとも「女性の社会進出」の75位、 「報道の自由度」59位という文化水準に見合った順位と、いえないこともありませんが。
特に、人権保障は、深刻です。自殺率の世界9位は未だにトップクラスですが、治安・安全ランキング第6位は、本当に誇れるものでしょうか。ようやく再審・釈放が認められ「証拠ねつ造の疑い」まで判定された袴田事件に、静岡地検は即時抗告して警察・検察の面子と権限を守ろうとし、飯塚事件の再審請求は、福岡地裁で却下されました。国際社会がいま日本に注目するのは、従軍慰安婦や南京大虐殺、沖縄・アイヌの扱いのような歴史認識と共に、福島原発汚染水の行方や原発再稼働、人権裁判の行方や記者クラブ制度です。「人間の尊厳」がうとんじられ、軽視される国に、未来はありません。理研のSTAP細胞問題も、同じ文脈で注目されることは、必至です。国際司法裁判所は、日本の調査捕鯨を、日本側の「科学的な調査が目的で成果を挙げている」という主張を退け、「実態は商業捕鯨にほかならない」と認定しました。領土保全・資源権益が本当の目的の「沖ノ鳥島・巨大桟橋」事故、東京オリンピックのためのフクシマ「アンダー・コントロール」の嘘が見抜かれても繰り返す「世界一安全な原発」の内実、そうした姿にダブらせて、世界を驚かせた「STAP細胞」事件が、日本の「科学技術立国」の今日の問題として、世界に示されます。今日は理研の最終調査報告記者会見とか、ウェブ上での専門家たちの「論文捏造&研究不正」ツイッターでの検討などで、小保方氏らの「ネイチャー」論文の問題点は、明らかになっています。問題は、なぜこのような「事件」が起こったのかです。私の『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)では、戦時中日本軍の原爆開発に従事した理研の仁科芳雄ら核物理学者が、なぜ米国占領下の学術研究体制づくり、研究予算配分、「原子力の平和利用」と科学技術庁出発の中心になったのか、その背景に、米国の戦時科学技術体制ーー原爆「マンハッタン計画」への自然科学者動員と戦略情報局(OSS=戦後CIAの前身)調査分析部(R&A)への人文・社会科学者動員ーーの戦後の世界化があり、「原子力ムラ」の「安全神話」と今日の日本の大学・研究機関の成果競争は、そこから連続しているのではないか、と問題提起しておきました。袴田事件とはやや異なる、情報戦の政治的位相での冤罪・人権侵害と真相究明を試みた『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社)、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)も発売されましたので、ぜひご笑覧ください。
「安全神話」を復活させ、原発再稼働を許していいのか?
原発再稼働が、世界に発するメッセージも憂鬱です。かつて「フクシマのウソ」を世界に明らかにしたドイツ公共テレビZDFは、3年目に三度「フクシマのウソ、その3」を放映し、冒頭で「ウソ」の典型として安倍首相の東京オリンピック招致演説の「アンダー・コントロール」を挙げています。安倍首相の「ウソ」は、原発ばかりではありません。靖国参拝の意図も、中国や韓国に対する外交姿勢も、「集団的自衛権」や「憲法改正」への熱意が本当に日米関係を強めるものかどうかも、問題にされています。ジョン・ダワー=ガバン・マコーマック『転換期の日本へ』(NHK出版新書)をぜひお読みください。安倍首相とその取り巻き=「オトモダチ」の歴史認識が、国際社会でいかに日本のイメージをおとしめているかが、わかります。4月から消費税が8%になります。春闘ベースアップは自動車等一部産業のごく一部の世界企業のみのようですから、確実に「アベノミクス」の破綻がみえてくるでしょう。科学技術の世界でも「日本のウソ」が問題になりそうですから、「世界最高水準の新しい安全基準」などという、原発再稼働のための大ウソ=再版「安全神話」が、いつまでも続くはずはありません。関西で予期せぬ震度5強の地震がありました。「伊方・島根原発とも異常なし」なんていうニュースが流れるたびに、国民は不安になり、家族や友人を案じなくてはなりません。故郷を追われた15万人近いフクシマの被災者たちの声に、率直に耳を傾けるべきでしょう。
3・11以来の原子力研究で遅れていた懸案の本を、ようやく書き上げました。まもなく平凡社新書『ゾルゲ事件ーー覆された神話』が発売されます。岐阜県瑞浪市での伊藤律生誕100周年記念シンポジウムでも宣伝され、朝日新聞・岐阜新聞の記事になったようです。新書の「あとがき」で、特定秘密保護法への批判も入れておきましたので、ぜひご笑覧ください。国民の知る権利、情報公開のためにこそ、ゾルゲ事件をめぐって展開された、この70年の情報戦の真実を学ぶ必要がある、というのが私の立場です。日本のゾルゲ事件研究では、これまで尾崎秀樹『ゾルゲ事件』(中公新書)が長く通説的位置を占め、入門書的役割を果たしてきました。しかしその内容は、戦前日本の特高警察と裁判記録、戦後マッカーシズム時代のGHQ ・G2ウィロビー報告を鵜呑みにし、祖述したもので、ソ連崩壊後に世界各国で現れた公文書館史資料や証言・研究に照らして問題が多すぎる、ほとんど信用できない、と考えて、原子力研究の合間を縫って、公にするものです。科学研究の方法や史資料の扱い方、歴史的事件の見方・考え方、「神話」の生成と崩壊についても問題を提起したつもりですので、厳しい批判を含め、大いに議論していただければと願っています
3年目の3・11 を前に、脱原発の力の再結集を!
2014.3.1 戦争の時代が近づいている。そんな実感を持っているのは、いまでは日本の総人口の5分の1になった戦前生まれの世代だけでしょうか。元号は好きではありませんが、かつて「大正生れの歌 」を追いかけた時に先達に教えられた、第二次世界大戦の最前線で戦争を体験し犠牲者も多かった「大正世代」は、「明治世代」とあわせても5%以下になったようです。そこに、A級戦犯の血をひく右翼の首相と、軍事オタクの政権与党幹事長です。その首相が画策して抜擢された公共メディアNHK会長や首相側近たちも加わって、「靖国神社参拝はたんなる戦没者慰霊」「従軍慰安婦はどこの国でもあった」「アベノミクスは強力な軍隊をもって中国に対峙するため」と、一昔前なら自民党政権内でも公言できなかった異様な歴史認識・ナショナリズムの噴出です。さらには「戦後教育はマインドコントロールだった」という、首相の国会での公式答弁、世界から「極右」とみられるのも当然です。戦後生まれの私たち団塊の世代でも、「マインドコントロール」されているのはどっちだ、と問わざるをえません。戦争や原子力をゲーム感覚でもてあそぶ、危険きわまりない内閣です。そこに、図書館の『アンネの日記』を破り捨てる、卑劣な人種主義的犯罪の横行。米国国務省の「人権報告書」で、日本のヘイトスピーチが「民族差別」と名指されたばかりです。国際的孤立が、いっそう閉鎖的・排外主義的ナショナリズムを強めるのではないかとおそれます。それが国政では、特定秘密保護法に続いて、沖縄普天間基地の辺野古移転強行、武器輸出3原則の見直し、集団的自衛権の閣議決定による解釈変更、立憲主義破壊と憲法改正への道を、ひた走ろうとしています。丸山眞男の「超国家主義」が想起されます。
東京都知事選での脱原発勢力不統一のツケが、原発再稼働を明記し、核燃サイクル推進まで入った政府のエネルギー基本計画案として、発表されました。3・11三周年になる3月中に閣議決定される勢いです。熊本市の内科病院長が、つぶやいていました。「原発再稼働は、いったい何のためか、誰の指示か」と。東京都知事選挙で自公政権の原発再稼働方針が認められたとして、いや「原発ゼロ」の主張は否定されたものとして、3年たっても廃炉どころか「収束」にはほど遠い、東京電力福島原発事故の文明史的問題を、汚染水・廃棄物処理を含め福島県内に局地化・局限化し、大地震も津波も経験しなかったが如く一過性の「想定外」にとどめ、「原子力ムラ」のエネルギー支配に、戻そうとしています。都知事選挙の街頭演説で、安倍首相に最も近い極右の候補者が「原発事故では死者は出ていない」「毎月100ミリシーベルト、年間1200ミリシーベルトくらいの放射線は、人体の健康に利することはあっても、これによってガンになることなどは全くない」「日本の原発技術は世界一」と強弁していたのが、思い起こされます。
その裏で、プルトニウム保有の問題が、深刻になっています。すでに原爆5000個分以上といわれる日本のプルトニウムは、国際社会で「日本の原発は平和利用のため」と語られるさいの象徴で、同時に、日本の原子力開発が潜在的核兵器保有であることの象徴です。そもそも核燃サイクルで再利用されることを前提にして、例外的に認められていたのですから。そのうち原爆50発分にあたる茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用プルトニウム約300キロを、2018年の日米原子力協定期限切れを待たずに、米国オバマ政権が、返還を要求してきました。安倍「極右」政権への、米国側の警戒の表れでしょう。現在の日本は、核の国際管理を基軸とした第二次世界大戦以後の世界秩序の、攪乱者と して見られているのです。靖国問題、TPP交渉と並ぶ、「極右」国家主義・戦争準備内閣のジレンマです。 そんな中で、3・1ビキニデー、ちょうど60年前の1954年3月、ビキニ環礁の米国水爆実験で、第5福竜丸など日本のマグロ漁船が「死の灰」で被曝した日です。ただし発覚したのは3月16日、14日に焼津港に帰港した後でした。それが、3月2日に国会に中曽根康弘等の原子力予算が提案され採択された直後だったために生まれた、その後の日本の「原爆反対、原発推進」世論の悲劇については、私の「日本における『原子力の平和利用』の出発」(加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社)、岩波現代全書『日本の社会主義』をご参照ください。核戦争を恐れ反対するが故に「平和利用」を願った反核勢力の分裂が、「原子力ムラ」の「安全神話」に対抗できなかった歴史に、今こそ学ぶべきです。
明日3月2日午後、池袋で予定されていた私の『日本の社会主義』講演会は、主催者側の事情で、中止になりました。原発問題で出席を予定されていた方は、同じく池袋の武藤類子さん講演会「つながる市民の輪、変えるくらしとエネルギー」(1時45分、豊島区勤労福祉会館)にご参加ください。同日、岐阜県瑞浪市では、伊藤律生誕100周年記念シンポジウムが開かれます。もうすぐ3/11三周年、3月8−15日はNo Nukes Week で、8日の福島県民大集会(郡山市、福島市、いわき市)、9日・15日の日比谷野音など全国各地で多種多様な脱原発集会・デモが行われます。再稼働反対の力の再生、脱原発勢力の再結集の場にしたいものです。入学・卒業・同窓会の季節でしょうか、2月16日の朝日新聞読書欄で紹介された私の岩波現代全書『日本の社会主義』もある種の歴史的回顧を含みますが、3月1日、「新左翼を問う」講演会、3月16日、川上徹『戦後左翼たちの誕生と衰亡』(同時代社)合評シンポジウムが開かれます。ご関心の向きはどうぞ。安田常雄他編『講座 東アジアの知識人 第4巻 戦争と向き合って』が公刊され(有志舎)、私も「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」を寄稿しています。単著の平凡社新書 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』が3月14日発売と決まり、宣伝用チラシが作られました。乞うご期待!
3年目の3・11 を前に、政府の原発再稼働計画を許していいのか?
2014.2.15 安倍首相の靖国神社参拝、ダボス会議での日中関係を100年前の英独関係にたとえた非常識、公営ならぬ「国営」放送会長の従軍慰安婦容認発言、国際社会は、いっそう厳しい目を、日本に向けています。なにしろ第二次世界大戦後の世界秩序、たとえ建て前であっても、国際連合を中心とした対話と協調の原理そのものに、挑戦しているのですから。 韓国・中国からだけではありません。アメリカ、ヨーロッパはもちろん、インドやタイまでが、注視しています。週刊ポストの見出しを借りれば、「親日国のメディアからも安倍批判の嵐が吹き荒れ」て「「日本の右傾化と軍国主義の台頭」が危惧されている状態。そこに、スウェーデン国家並みの規模の東京都知事選で、安倍首相が街頭で応援した自公政府支持派の勝利、分裂して二分した脱原発派候補を足した投票数をも上回ったばかりでなく、むしろ安倍首相の立場・歴史認識により近い右派候補が、20代・30代の若者を中心に60万票を得ていて、事態は深刻です。東京都知事選への私のAP通信へのコメント「原発ゼロ派の戦略的失敗」を、「反原発は都知事選の公約として主張するには戦略的に正しくなかった」と、誤って日本語で報じているサイトがありますが、投票数日前の電話インタビューで、舌足らずだったとはいえ、The Guardianが伝えているように「The public has been worried about safety after the meltdowns at the Fukushima Daiichi plant. Protesters have periodically gathered outside government buildings and marched in parks, demanding an end to nuclear power.Tetsuro Kato, professor of political science at Waseda University in Tokyo, said the anti-nuclear vote suffered because voters could not agree on one candidate. He said: "This could have worked as a key vote on nuclear power, not just about city politics. But those pushing for zero nukes failed in their strategy."」つまり、本サイトで一貫して主張してきたように、脱原発派が候補者を一本化できなかったこと、そのため原発ゼロを基本争点にできなかったことを、「戦略的失敗」と述べたものですので、誤解のないように。
実は、このインタビューで、比較的多くの時間を割いたのに、英語ニュースでは報道されなかった問題があります。それは、日本のマス・メディアの責任の問題で、公共放送NHKの会長発言、経営委員の極右候補応援演説、NHKラジオでの原発問題への言及の封殺ばかりでなく、公示後の選挙報道での、都政の争点は原発だけではないという拡散と誘導、有力候補者の街頭演説風景で応援演説や集まった聴衆の数を映さない報道協定風「自粛」、世論調査でのアナウンス効果等々の問題で、上記安倍内閣に対する諸外国の批判についての国内報道が弱いのと同様に、特定秘密保護法制定から改憲問題まで、日本のマスコミが、ジャーナリズムの権力監視機能を弱め、萎縮しているのではないか、という点です。外国通信社は了解しているようでしたが、残念ながら、このポイントは報じられませんでした。その代わりに、国際的ジャーナリスト団体、「国境なき記者団」の恒例「報道の自由度ランキング・2014」で、日本は2010年11位から11年22位、東日本大震災・フクシマ原発事故で問題が知られ、昨13年53位から今年59位と、とても「先進国」とはいえない凋落です。世界「報道の自由度ランキング」は、世界各国・地域の報道の自由度を順位付けしたもので、検閲の状況、法的枠組み、透明性、インフラなどの項目で、世界180カ国・地域を対象に採点するものです。日本の59位は、台湾(50位)、韓国(57位)を下回ります。その下落の理由は、特定秘密保護法の成立により、「調査報道、公共の利益、情報源の秘匿が全て犠牲になる」ことですが、同時に、「フクシマの検閲 Censorship of Fukushima」として、「『記者クラブ』という日本独特のシステムによって、フリーランスや外国人記者への差別が増えている。『原子力村』として知られている原子力産業の複合体を取り上げようとするフリーランスの記者は、政府や東京電力が開く記者会見への出入りを禁じられたり、主要メディアならば利用できる情報へのアクセスを禁じられたりするなどで、手足を縛られている。今、安倍晋三首相が『特定秘密保護法』という法律で縛ることで、彼らの闘争は、更に危険なものになってきた」と率直に語られています。東京都知事選報道でも、「国境なき記者団」が危惧する検閲や自主規制、萎縮はなかったか、ジャーナリストの皆さんには、ぜひ検証してもらいたいものです。
都知事選の結果には、46%という低投票率も響いています。ハフィントン・ポストが、区市町村別にデータ分析していますが、原発ゼロ派は、ほぼ同一地域で完全に二分されていたことがわかります。大雪直後の悪条件があったとはいえ、脱原発派の分裂で自公候補者当選確実という状況が、無党派層を投票から遠ざけ、盛り上がりのない選挙にしたといえます。この点では、ITを駆使して、自分の政見を訴えるよりも市民の声を集めようとした35歳の若い候補が9万票近く集めたことが、ヨーロッパで台頭する海賊党の試みと似て、新しい政治の可能性の一端を示しましたが、政治は結果責任です。安倍首相は、都知事選で自分の政策が追認されたと自信を持ち、早速、原発再稼働に踏み込み、エネルギー基本政策の決定へ、集団的自衛権を首相の憲法解釈で変更するという、歴代自民党政権とも異なる新しい段階へと、暴走しようとしています。これが、私の言う「戦略的失敗」の帰結です。「原発ゼロ」という核心的イシューでの幅広い力の結集ができなかったために、むしろ「原発事故では一人も死んでいない」と暴言し、中韓との軍事的対決まで公言する極右候補の路線が、実行に移されようとしています。第一次大戦前もヒントにはなりますが、1933年ヒトラー政権成立前のワイマール共和制ドイツ、大恐慌と大量失業のもと極右と極左が台頭し、反ナチ勢力が分裂して内部でいがみあっている間に、泡沫と思われたヒトラーがナショナリズムを動員して急速に支持を拡大し第一党になった経験、あるいは、戦後日本では、朝鮮戦争前夜、片山・芦田の社会党入閣内閣に期待が大きかっただけに、政権交代の現実に失望した民衆が、吉田茂の民主自由党を甦生させ、占領政策の「逆コース」のもと、レッドパージから再軍備へと突き進んだ時代が、想起されます。まもなく3・11、「フクシマの悲劇」の3周年です。無論、「収束」どころか、汚染水から高濃度ストロンチウムまで、日日新たな問題が出ています。被災者の皆さんへの補償も、進んでいません。3周年に向けて、脱原発勢力の幅広い力を再結集できるか、世界から、日本人の記憶の仕方が注目されています。この間、本サイト学術論文データベ ースで時代に警鐘を鳴らし続けている神戸の弁護士・深草徹さんから、新たに「戦前秘密保全法制から学ぶ」という新稿が寄せられました。私も歴史づいていて、2月26日(水)午後3−5時に、法政大学・多摩キャンパスで、法政大学大原社会問題研究所の公開講演会「「国際歴史探偵 」の20年ーー世界の歴史資料館をめぐって」、専門的テーマでなく、世界の公文書館と歴史資料収集・解析のテクニックを話してほしいとのことで、旧ソ連秘密文書から最近のゾルゲ事件まで話します。公開とのことですので、ご関心の向きはどうぞ。
脱原発の東京から、日本生き残りへの初期化ができるのでは?
2014.2.1 沖縄の名護市長選挙は、沖縄県民の明確な意志を示しました。自民党の露骨な札束攻勢も跳ね返して、辺野古移転ノーと回答しました。普天間基地移転を沖縄県民の分断でのりきろうとする日本政府への異議申し立ては、海外からも、続いています。ノーム・チョムスキー、オリバー・ストーン、ジョン・ダワー、マイケル・ムーア、リチャード・フォークら29人がよびかけた「沖縄への新たな基地建設に反対し、平和と尊厳、人権、環境保護のために闘う県民を支持する」声明には選挙後も署名者が続き、ノーベル賞受賞者、世界の日本研究を代表する人々、国際法の権威、アカデミー賞受賞の映画監督ら100人を越え、「平和研究」の父とされる政治学者ヨハン・ガルトゥング氏、オランダのジャーナリスト、カレル・V・ウォルフレン氏、ピュリツァー賞受賞の歴史家マーティン・シャーウィン氏、医師で国際的反核運動指導者のヘレン・カルディコット氏らも加わりました。でも本土のメディアは、糸数慶子参院議員の渡米記者会見を小さく報じているだけのようです。
安倍内閣の施策については、ご本人はアベノミクス景気・株価と国会議席・内閣支持率を根拠にイケイケのようですが、国際的には、中国・韓国にとどまらない包囲網がつくられつつあります。昨年末の靖国参拝がアメリカ政府から「失望」されたのに続いて、その弁明のために出たらしい1月末の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、中国側出席者王外相からA級戦犯合祀を追及され「ドイツ首相がヒトラーの墓に参るようなもの」とされたばかりでなく、ちょうど第一次世界大戦100周年で、20世紀の世界戦争の過ちを起こしてはならないと歴史的教訓を汲み取ろうとしているヨーロッパまででかけ、第一次世界大戦前の英独関係に現在の日中関係を重ね合わせるという大失態。しかも自分がなぜ非難されるのかもわからないらしい、歴史認識の鈍感さ。1月29日の国連安全保障理事会では、まさにこの第一次世界大戦100周年の特別会合で、日本が「国連憲章が作り上げた戦後秩序への挑戦」と非難されているのですが、必死で反論せざるをえない外務官僚にとっても迷惑なことでしょう。安倍首相の歴史認識を、それこそ「国家機密」にしたいところですが、本人が国連・EUが生まれた意味や「チャイメリカ」の現在を理解できず、国会中も外に出て、靖国参拝や集団的安全保障を「理解」してもらおうとするものですから、どうにも止まりません。そのうえ、同じ歴史認識を共有する人物が、公共放送と国営放送の違いもわからずNHK会長になり、「国際放送」を時の政府の進軍ラッパにしようとしている状況に、イギリスBBC放送が驚いているのは当然でしょう。早速NHKラジオで原発コストを取り上げようとした解説者に、現場のディレクターが難色を示し、放送中止・降板になりました。そのラジオ原稿案がウェブで公表されたのは救いですが、国内の言論の自由も、大きな危機です。このところ本サイト学術論文データベ ースに重要な問題提起を立て続けに発表している神戸の弁護士・深草徹さんから、新たに「立憲主義を守るために秘密保護法が必要との謬論を駁す」という長谷部恭男教授批判と、「核燃料サイクルから撤退を」という新稿が寄稿されました。ぜひ、ご一読ください。
現在進行中の東京都知事選挙は、これ以上の安倍内閣の暴走を許すのか否か、原発再稼働を許さず、原発ゼロへとリセットできるのかどうかの、国政に大きな影響を持つ選択になってきました。案の定マスコミは、「原子力は都政の争点になじまない」「景気対策や福祉やオリンピックにならぶ一つの争点にすぎない」という争点誘導・拡散を進めていますが、3・11を経験した日本への世界からのまなざしは、福島や東北の被災者たちの関心と期待は、東京都政から脱原発へと舵が切れるかどうかに、注がれています。「原発ゼロ」候補が複数いるのは、有権者にとっては戸惑い、まぎらわしいところですが、投票日前の状況によっては、当選可能な最有力候補に集中することもありうるでしょう。選ばれるのは一人だけですから。この機会を逸すると、私が『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』で自戒を込めて描いたように、チェルノブイリ後の日本で、故高木仁三郎さんらが死力を尽くした「脱原発法」制定運動が、反核運動内部の分裂で挫折し、葬り去られた歴史の二の舞になるのでは、とおそれます。安倍内閣の方は、エネルギー基本計画決定を一時的に遅らせたものの、都知事選の結果次第では、再稼働ばかりか新規建設・稼働延長まで狙っていますし、原発輸出を加速させ、集団的自衛権から憲法改正、いや中国との武力衝突・戦争まで突っ走りかねない勢いですから。メディアの責任は、重大です。STAP細胞を発見した小保方晴子博士は、「研究成果に関係のない報道が一人歩きしてしまい、研究活動に支障が出ている状況」に直面して、「報道関係者の皆様へのお願い」を発表しています。過熱するメディアへの抗議です。博士の発見した細胞の「初期化」とは、「単細胞生物にストレスがかかると胞子になったりするように、(多細胞生物である)私たちの細胞も、ストレスがかかると何とかして生き延びようとするメカニズムが働くのではないか」 というロマンを孕むもの。人間社会も、自然の一部である以上、そうした再生メカニズムを働かせてほしいものです。
沖縄でも東京でも、当事者の声に耳を傾け、国政転換に!
2014.1.15 沖縄で、名護市長選挙が始まりました。年末現地で感じた、自民党地元選出議員への党本部の公約変更強制や仲井真記事の振興予算に目がくらんだ普天間基地辺野古移転容認への、沖縄県民の怒りは持続されているようです。海外からは、ノーム・チョムスキー、オリバー・ストーン、ジョン・ダワー、マイケル・ムーア、リチャード・フォークらが名を連ねる「沖縄への新たな基地建設に反対し、平和と尊厳、人権、環境保護のために闘う県民を支持する」声明が出ています。朝日新聞・沖縄タイムス世論調査は、移設反対派「先行」と報じています。結果は予断を許しませんが、何よりも米軍基地が集中し事故・騒音と治外法権的な位置におかれている沖縄県民の、普天間基地が移転してもその危険と不安がそのまま引き継がれる名護市民の、当事者としての判断を尊重したいと思います。
東京では、ふたたび都知事選挙です。オリンピック招致にあたって、安倍首相が世界に対して、福島原発事故を「The situation is under control(状況はコントロール下にある)」「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」と述べたウソのその後をめぐって、「脱原発」「原発ゼロ」「再稼働反対」が大きな争点になってきました。早速政府のエネルギー基本計画決定は2月以降に先送りされたとのことで、国政のうえからも、歓迎すべきことです。もとより福島原発事故の直接の被害者は、今なお14万人が避難している原子炉周辺の住民だった人々です。しかし、東京都が大株主の東京電力の原発メルトダウン事故であり、東京都民はその最大の消費者・受益者であったということでは、重要な「ステークホルダー」、当事者です。韓国やオーストラリア、メキシコなみの経済力を持つ東京で、国の原発政策に対してノーを言えるかどうかが、問われます。私は年末に公刊した『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)のなかで、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から、20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。ぜひご笑覧ください。
もっとも世論調査では、特定秘密保護法強行でいったんさがった内閣支持率が、安倍首相の靖国神社参拝後に、再び60%に回復するデータが、出ています。特に若い世代で、中国や韓国の批判に反発する、ナショナリスティックな風潮が広がっています。これが集団的自衛権から憲法改正を目指す、安倍政権の右傾化・軍国化の基盤になっています。それには、マス・メディアの責任もありそうです。岸田外相が14日の記者会見で「安倍内閣は村山談話と河野談話を含め、歴代内閣の歴史認識を継承している」と述べたニュースは、いち早く韓国で報道されましたが、日本では見直しを社説で求める産経などの動きもあります。原発についても、読売社説は、東京都知事選の争点にすることを批判しています。東京新聞の都民世論調査で「脱原発を望む有権者は64・8%」と出ていますが、メディアの争点づくり・争点はずし、情報操作はこれからで、投票日まで予断を許しません。報道に携わる人々が、自らが当事者の一人であることを自覚して、特定秘密保護法制定下でも十分可能な、ジャーナリストとしての使命を果たしてほしいものです。原発については、『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』と共に、昨年春に公刊した本の私の担当分「日本における『原子力の平和利用』の出発」(加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社,2013)も、ご参照ください。「国際歴史探偵 」の方は、1月16日(木)午後、如水会館の新三木会で山本武利さんとジョイントで「ソ連の対日情報戦」の講演、26日(日)午後は、明治大学リバティータワー1153室で大島幹雄さんと「ロシアのサーカス芸人」粛清の講演があります。本年も、本サイトをよろしくお願いします。
謹賀新年、というより原発再稼働・軍国日本の始まりか?
2014.1.1 新年ですが、今年も松飾りはつけません。2011年3.11を経て、3回目の正月です。改めて東日本大震災・福島第一原発事故の被害を、確認しておきましょう。震災・津波による死者・行方不明者は1万8526人、建築物の全壊・半壊は合わせて39万9251戸が公式記録です。震災発生直後のピーク時、避難者は40万人以上、停電世帯は800万戸以上、断水世帯は180万戸以上、復興庁によると、2013年11月14日時点の避難者等の数は27万7609人です。住宅等(公営住宅、仮設住宅、民間賃貸住宅、病院含む)が26万3383人、その他(親族・知人宅等)が1万4211人、避難所(公民館、学校等)が15人で、自県外への避難は福島県が圧倒的で、4万9554人といいます。高齢者を中心に避難所の不衛生や寒さによる死者は、2011年3月末までに280人を超え、2013年3月末時点で震災関連死と認定されたのは2688人、特に福島県が多くなっています。この間の福島県の人口減少は約7万8千人、今なお約8万人が「原発難民」として故郷に帰れずにいます。無論、福島原発事故そのものが終わっていません。汚染水処理も、廃炉計画も、これからです。核廃棄物処理の見通しはまったくたたないまま、「原子力ムラ」による再稼働への準備が進んでいます。
年末に、2014年の日本政治の予告編がありました。安倍首相による靖国神社参拝、沖縄県仲井真知事による普天間基地辺野古移転容認決定、です。靖国参拝は、たんなる戦没者慰霊ではありません。東条英機ほかA級戦犯が合祀され、「天皇陛下のために」死んだ兵士のみが祀られています。無論、広島・長崎の被爆者や空襲の民間人犠牲者は入っていません。政教分離の原則からいっても、侵略戦争をめぐる歴史認識からしても、首相の参拝は政治の問題です。中国・韓国ばかりでなく、アメリからも「失望した」と批判され、EUもロシアも国連も、東アジアの緊張を高める国際政治の暴挙・愚挙とみなしています。でも、特定秘密保護法から日本版NSC、新防衛大綱、そして沖縄への米軍基地集中固定化と、安倍晋三首相の「戦争ができる国」への暴走は止まりません。このまま集団的自衛権、憲法改正へと突っ走るのを、何とかとめなければなりません。抵抗の情報戦の舞台を枠づける特定秘密保護法は、すでに公布され、2014年12月までに施行されます。全文は、ウェブでも読めますが、この間この問題で本サイト「学術論文データベ ース」に連続投稿いただいた神戸の弁護士深草徹さんから、法の成立を機に改めて問題を整理し、新年更新用に「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」を寄稿していただきました。熟読してください。この土俵の上で、脱原発と軍事化の攻防、1月名護市長選、2月東京都知事選、4月消費税アップになります。
元号が平成になって、もう25年をすぎました。でも、ちょうど改元=冷戦崩壊の頃に研究していた問題が、なにやら新聞やウェブ上で蘇っています。一つは「過労死」、かつて日本的経営のゆがみの産み出す終身雇用正社員の会社への過剰献身・長時間労働との関わりで語られたものが、今日では、日本的経営の崩壊、非正規雇用増大と「みなし残業」「ブラック企業」と結びついて、再フォーカスされているようです。もう一つは、「粛清」です。「綱紀粛正」の「粛正」ではなく、旧ソ連のスターリン時代に典型的な政治的「粛清」です。こちらは日本政治の文脈ではなく、北朝鮮の金正恩独裁政権による叔父でナンバー・ツーの張成沢の突然の処刑で、世界的に使われました。ただし、冷戦崩壊後に、旧ソ連のスターリン時代に在住した約100人の日本人を追いかけて、野坂参三を除く約40人の粛清犠牲者の軌跡と冤罪を明らかにしてきた私としては、「粛清と名誉回復」という視角は、中国共産党の歴史や最近の薄熙来裁判、松本清張『日本の黒い霧』改訂でようやく「名誉回復」となった日本共産党元幹部伊藤律の幽閉、共産主義を離れても続くロシア・プーチン政権の政敵粛清、等々に応用可能です。伊藤律粛清の秘密については、ようやく『ゾルゲ事件』という本を書き上げ今春出します(平凡社)。その予告編として、9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)をアップしました。昨年末に出した『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書、アマゾンは表紙をクリック)と共に、ぜひお読みください。原発については、昨年春に公刊した本の私の担当分「日本における『原子力の平和利用』の出発」(加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社,2013)も新年特別アップ。1月は16日(木)午後、如水会館新三木会で山本武利さんとジョイントで「ソ連の対日情報戦」の講演、26日(日)午後は明治大学リバティータワー1153室で大島幹雄さんと「ロシアのサーカス芸人」粛清の講演。今年も本サイトは、原発再稼働や安倍内閣の軍国主義化・格差拡大政策に抗して、月2回の時評を送っていきます。本年もよろしくお願いします。
2013年は、春に「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社)と加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)に「日本における『原子力の平和利用』の出発」を発表しました。秋の加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊行を期に、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)が単行本として刊行され、私も「金澤幸雄さんと金澤資料について」を寄稿し、12月23日(月)には沖縄・那覇市で出版記念シンポジウムが開かれました。『図書新聞』11月2日号に書いた村田忠禧『日中領土問題の起源』の書評をアップ。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、及び『歴史学研究』12月号掲載中の震災特設部会「大会報告批判」、それに9月上海での国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)が活字になりました。年末には、この間の原爆・原発研究を踏まえて、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売になりました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、お正月にでも、ご笑覧ください
2013年3月から5月まで、早稲田大学演劇博物館で『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれました。そのオープニングの国際シンポジウムで「1930年代の世界と佐野碩」を講演しました。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版です。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方は、どうぞpdfファイルのyou tube でお楽しみを。学術論文データベ ースには、神戸の深草徹さんの連続寄稿、「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11),「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.12) ,「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1)などが入っています。昨年は、私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めてくれました。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版解説記事が大きく出ました。沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。日本経済評論社の加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」を詳述した講演記録「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号)は、本サイト運営の方法論を示すものです。早稲田大学大学院政治学研究科2014年度開講大学院講義・ゼミ関係は、早稲田大学ホームページからアクセス願います。
特定秘密保護法が通って、戦争準備と原発再稼働に向かう憂鬱な年の瀬!
2013.12.15 はや、年の瀬ですが、なにやらきな臭い、憂鬱な師走です。思えば去年の今頃、総選挙で民主党野田内閣がオウンゴールで大敗し、自民党が大勝して第二次安倍内閣が成立したのが始まりでした。東京都知事選挙での猪瀬知事誕生も同時でした。民主党は、自らの失政がたたって脱原発を争点にできず、景気回復と「決める政治」を唱えた自民党が小選挙区で圧勝、「脱原発」シングルイシュー派も、第3勢力になれませんでした。今夏参院選挙での「ねじれ解消」が、自公政権の暴走に弾みをつけました。消費税増税、生活保護切り下げ、TPP参加、オスプレイ受け入れ、日本版NSC、そして特定秘密保護法強行制定・公布。そのあとに集団的自衛権、武器輸出3原則緩和、共謀罪、「愛国」教育強制、原発再稼働・原発輸出と、レールが敷かれています。中国・韓国・北朝鮮との国際関係も、硬直どころかいっそう不安定になって、2014年が、厳しい年になることを予感させます。東京都知事の方は、オウンゴールでリセットできそうですが、国政は 、国会包囲デモを持続するしかなさそうです。
特定秘密保護法の全文は、ウェブでも読めますし、各新聞で成立直後に新聞1面をまるまる使って掲載されました。でもそれを読んでも、多くの人は途中で投げ出すでしょう。おそろしく難しく、曖昧で、わかりにくい法律です。肝心の「特定有害活動」や「テロリズム」にしてからが、やたら長く「もしくは」や「その他」がカッコ内でくくられた曖昧なものです。だからむしろ、自民党石破幹事長の問題発言が、立法目的のホンネと意味を語っているとみて間違いないでしょう。悪法反対や脱原発のデモが「テロ」と解釈され、公務員から取材した外交・防衛情報を報じると検挙されかねません。法文からは、それが可能になります。本サイトでもその危険性は論じてきましたが、日本弁護士連合会も解説を出しています。学術論文データベ ースに寄稿いただいた神戸の弁護士深草徹さんが、悪法の成立を踏まえて「世界に通用しない特定秘密保護法(改訂版) 」と「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法(第2版)」を書き換えてくれました。ぜひご覧ください。これから長い法の廃止・修正の運動が始まります。いやそれ以前に、1年以内という施行まで、法解釈や「第3者機関」の歯止めを具体的に指摘していく必要があるでしょう。それにしても、国会内での与党公明党のだらしなさ、野党のふがいなさが、もどかしいところです。選挙後2か月かけて、じっくり連立協議し、脱原発担当相を新設し低賃金労働規制などを認めて大連立政権が発足するドイツが、うらやましく見えます。
国家安全保障戦略、防衛省の新防衛大綱・中期防衛力整備計画と共に、「戦争ができる国」づくりが始まります。それにあわせるように、経産省の新エネルギー基本計画案が策定され、原子力発電を「基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、再稼働を方向付けました。核燃サイクルまで「着実に推進」とされて、懲りない原子力ムラの全面復活です。3.11の後、あの「正直」な石破現自民党幹事長が、原発を「核の潜在的抑止力」と明言していたことが想起されます。汚染水問題も、廃炉への道筋も、除染も避難者14万人の生活の見通しもついていないというのに。日日、過酷な放射性被曝の労働者を作りだし、無論、最終廃棄物をどうするかは何も決まっていないのに。日本がフクシマから何を学んだのかが、世界から問われる、正念場です。2013年は春に「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社)と加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)に「日本における『原子力の平和利用』の出発」を発表しました。秋の加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊行を期に、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)が単行本として刊行され、私も「金澤幸雄さんと金澤資料について」を寄稿し、12月23日(月)には沖縄・那覇市で出版記念シンポジウムが開かれます。『図書新聞』11月2日号に書いた村田忠禧『日中領土問題の起源』の書評を今回アップ。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、及び『歴史学研究』12月号掲載中の震災特設部会「大会報告批判」、それに9月上海での国際シンポジウム報告が活字になった「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、12月刊)は、来年1月以降の更新にまわします。そうそう、まもなく岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』が発売になります。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、お正月にでも、ご笑覧ください。来年もよろしく。
「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」
2013.12.1 特定秘密保護法案が、衆院で委員会強行採決で議論打ち切り、参議院に送られました。権力の驕りです。つい最近広島高裁岡山支部で、7月参院選の一票の格差が法の下の平等に反するとして違憲・即時無効の判決が出ました。選挙そのものの正統性が疑わしいのに、前政権党民主党の政権運営に対する国民の不信は「決められない政治」であったとばかりに、次々と議席の数に任せて「決めて」いきました。 消費税増税、TPP参加、原発輸出、そして特定機密保護法案と日本版NSC設置。かつてなら、自民党政権でも、一つの内閣でどれか一つの法案を通過させることも大変な重要案件ですが、ほとんど国会での実質討論なく、内閣主導で決められていきます。特定秘密はちっとも特定されていません。原発の警備体制はテロとの関係で特定秘密なそうですが、そうすると全国の原発からの廃棄物の6か所村再処理工場への移送日や移送ルートも「国家機密」になります。何しろ首都高速を含む一般の道路をドクロマークみたいな危険印をつけた大型トラックで搬送するのですから、途中で出会った別のトラックの運転手がツイートしただけで、捕まりかねません。もちろん私のように、福島県内各地や中国 ウルムチの放射線量をウェブに発表しただけでも、どうなるかわかったものではありません。石破自民党幹事長によれば、「絶叫デモもテロ行為」だとか。ホンネが出たようです。それでなくても、広島・長崎の原爆投下の後、占領軍のプレスコードで米国批判や悲惨な被害報道が禁止されると、例えば朝日新聞は「原爆が書けないことは記者の誰もが知っていた」と自主規制に徹します。広島・長崎の地元新聞は、検閲をくぐって何とか「原爆病」を伝えようとしたにもかかわらず。公務員も、ジャーナリストも、ブロガーも萎縮することをおそれます。昨12月1日放映のNHKスペシャル「汚染水」みたいな番組は大丈夫でしょうか。こちらにはNHK経営委員会に安倍首相の「お友達」が入って、別の規制が入りそうです。 悪法特定秘密保護法案、何とか廃案に追い込みたいもの。
「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」というアクトン卿の警句のもう一つの実例が、猪瀬直樹東京都知事の徳洲会病院からの5000万円「借入金」問題。借用・返還時期からいっても、都知事選がらみは見え見え。無利子・無担保でこんな大金が動くのは、20世紀の金権政治の自民党そっくり、そうした問題をノンフィクション作家として追究してきたご当人が、権力の誘惑に負けたようです。「借用証」と称する印鑑も収入印紙もない紙をかざしてなんとか違法を逃れようとするパフォーマンスは、東京都知事としての識見も、作家・ノンフィクションライターとしてのかつての栄光も消し去る、見苦しいものです。この期にいたったら、都議会百条委員会で真相を明確にし、東京オリンピックからダーティーなイメージを早急に払拭すべきでしょう。猪瀬氏の学生時代の恩師は清水慎三、日本社会党左派の論客で『戦後労働組合運動史論』(日本評論社、1982年)、『社会的左翼の可能性』(花崎皐平と共著、新地平社、1985年)などは、 私も研究で使ってきました。1996年清水氏没後の追悼シンポジウムで、一度だけ猪瀬氏と一緒になりましたが、その時は、むしろ寡黙でおとなしい印象でした。その後に猪瀬氏に何があったのか、これは、若いライターの書くべきことです。
そして日中関係は、中国政府の防空識別圏設定で、軍事的緊張もエスカレート。ここでも「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」、私には中国国内の開発主義・格差による共産党独裁への不満を対外関係に転嫁しようといういつものやり方の延長上に見えますが、つい先日3中全会がありましたから、そこで党の何らかの決定があったのか、軍部による独走なのか。いずれにせよ、安倍内閣の右翼的アジア外交・安全保障政策に格好の口実を与えるものです。もっとも日本政府が民間航空会社にまで中国側決定無視を押しつけようとしたのに対し、アメリカの民間航空会社は乗客の安全を最優先して飛行計画を提出するようです。ここでもアメリカ一辺倒で対中強硬策を出したつもりが、肝心のアメリカの対中融和策に梯子をはずされた安倍政権。国際関係では、内向きのナショナリズムは哀れです。神戸の弁護士深草徹さんから、学術論文データベ ースに深草徹「特定秘密保護法案管見 」(2013.11) 、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11) に続いて、特定秘密保護法のアメリカ法制との比較「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.11) の寄稿、まだ参院がありますから、緊急アップしました。
「過ちては改むるに憚ること勿れ」、現発ゼロへの持続的国民運動を!
2013.11.15 久しぶりで「脱原発」「原発ゼロ」が、新聞の1面トップをかざりました。小泉純一郎元首相の、日本記者クラブでの講演・会見です。ドイツの廃炉とフィンランドのオンカロを現地で見て核廃棄物処理の不可能を痛感したうえの決断で、私が注目したのは、「人間は、意見が変わることがある」と、かつての原発推進から現在の脱原発への心境変化を率直に認めていること、もう一つ、原発ゼロは「首相が決断すればできる」という安倍首相への提言と世論への依拠。「過ちては改むるに憚ること勿れ」を地でいく元首相の脱原発行脚は、即原発ゼロ、再生エネルギーへの転換まで踏み込んでいますから、ホンモノでしょう。メディアの反応も、各社のスタンスがよく現れています。細川護煕元首相とも会談して、国民運動をよびかけている点でも、反原発・脱原発の運動には大きな援軍でしょう。
もっとも「過ちては改むるに憚ること勿れ」は、過去の政治責任を免責したり、曖昧にするものではありません。福島原発事故時の最高責任者菅直人元首相も脱原発に取り組み、 沖縄県民の期待を裏切った鳩山由紀夫元首相は再び「東アジア共同体」づくりに励んでいますが、それが説得力・影響力を持つかどうかは、反省の深度と具体的行動で測られます。世論調査でも7割以上が脱原発で、6割が小泉即原発ゼロ提言を支持していますから、ノーベル賞受賞者を加えて、元首相たち連名の脱原発声明を出せるようなら、国策変更に大きな力になりうるでしょう。もっとも現在の最高権力者安倍首相は、自分の支持率も同じくらい高いと開き直り、何よりも当面の特定秘密保護法案と日本版NSCの方を優先し、自由な原発討論そのものの封じ込めを狙っています。この間の福島原発汚染水処理対策、原子炉建屋地下汚染水の漏出、4号炉燃料棒搬出、原子力規制委員会の柏崎原発審査開始などの動きをみると、小泉元首相がいうほど自民党内に脱原発が広がっているとは考えにくく、原子力ムラが再生し、再稼働への手はずが着々と打たれているように見えます。一過性ではない、持続的な脱原発の運動と世論形成が必要です。
そんな世論づくりに少しでも加わろうと、11月6日夕、川崎市中原市民館「平和・人権学習 なかはら平和セミナー 3.11から考えよう日本の戦後史 〜平和と人権の視点から〜」のオープニングで「戦後日本の『核』の平和利用」を講演してきました。事前登録40人の熱心な市民の参加する学習会で、質疑応答を含め、充実したものでした。そこで私は、小泉元首相の強調する核廃棄物問題、「トイレなきマンション」ばかりでなく、あと二つの理由で、原理的に「原子力の平和利用」は不可能ではないか、と問題提起しました。一つは、ウラン採掘から原爆製造、原発稼働・廃炉にいたる、原子力を扱う労働の基本的性格で、放射性物質を人為的に扱うことにつきまとう被曝労働の問題です。実際キュリー夫人、コンゴのウラン採掘から、今日のチェルノブイリ廃炉、フクシマの事故処理労働にいたるまで、人体に有害な被曝を避けることのできない労働が、20世紀に世界中で広がったことになります。第二に、原爆であれ原発であれ、「絶対安全」はありえないことです。原爆・原発は、莫大な費用と人員を必要とする巨大コングロマリット・システム装置で、天災・テロばかりでなく、ちょっとした設計・操作ミス、部品の破損・摩耗・不具合による事故によっても、取り返しのつかない放射能汚染、人的・物的被害、時には故郷喪失を含む巨大被害につながることです。これに使用済み燃料・核最終廃棄物の「未来世代への暴力」を加えれば、核は「文明の凶器」で、「生産力」ならぬ「破壊力」ではないか、と述べたのですが、参加者の感想文を送っていただいて読むと、なんとか伝わったようです。
今月はこのほか、本11月15日(金)午後6時半から明治学院大学白金キャンパス・チャペルで、日本ペンクラブ・明治学院大学共催「島崎藤村と日本ペンクラブの昨日・今日・未来」での、『島崎蓊助自伝──父・藤村への 抵抗と回帰』(平凡社、2002年)をめぐる、藤村孫島崎爽助さんと対談(司会は最新作『水色の娼婦』で私の研究『ワイマール期ベルリンの日本人』の一部を使っていただいた作家西木正明さん)、11月23日(土)は、午後2時から東京ロシア語学院(日ソ会館)で、日本ユーラシア協会現代史研究会「シベリア抑留帰還者をめぐる米ソ情報戦 」 を話します。本HPで今春情報提供をよびかけてきた、「旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係」についての中間報告で、今夏アメリカでの予備調査結果を含める予定です。ご関心のある方は、どうぞ。図書館・学術論文データベ ースに、6月に「「憲法9条から見た原発問題」をご寄稿いただいた、神戸の弁護士深草徹さんの最新評論2篇、深草徹「特定秘密保護法案管見 」(2013.11) 、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11) をアップしました。アクチャルな問題ですが、こちらもぜひ。
日本版NSC・秘密保護法案よりも、御本家NSAに盗聴されていないかどうか確かめたら?
2013.11.1 短期の観光旅行や視察旅行というのは、本当に外国を知るには、あてにならないものです。つい9月の末に1週間ほど見て、開発が進み、順調に近代化していると思っていた中国・新疆ウィグル自治区が、新しい天安門事件の火元になりました。どうやら中国社会のもつ矛盾が鬱積し、マグマがたまっていたようです。ウルムチ市で、2009年の暴動の中心だったという、モスクのそばの広場をみましたが、さまざまな顔つきと民族・宗教衣装が行き交うバザールになっていました。バザールには商品が溢れ、かつて訪問した隣国キルギスやカザフスタンより「豊か」に見えました。新華社発表200人弱、世界ウィグル会議が最大3000人の犠牲が出たという痕跡は、ありませんでした。確かにイスラム系住民のコミュニティが取り壊され、林立する高層アパートへの移住と漢民族との混住が進められている気配は感じましたが、そこに貧困・格差と民族的・宗教的差別が続いていたようです。本HPでは、ウルムチで測定した放射能の高さを、中国・旧ソ連の原爆実験場だった近隣の歴史から示唆しましたが、どうやら、世界的規模でのテロと報復の連鎖、中国における改革開放至上主義の矛盾と、重層しているようです。
もっともこうした矛盾は、すぐにニュースと画像になって、直ちにインターネット上にアップされ、どんなに中国政府・共産党が、数万人というサイバーポリスを総動員して介入しもみ消そうとしても、画像・映像はすぐに復活し、たちまち拡散します。この点は、四半世紀前の天安門事件の頃とは違います。当時は固定電話とファックスが、国際情報戦の「武器」でした。情報戦時代には、サイバーポリス型の弾圧と政治的テロリスト宣伝よりも、ニュースは流れるにまかせ、当事国と関係国指導者の反応・動向を秘かに探って情報収集・解析し、自国にベストなタイミングと場面で、その情報を活用する方が、はるかに効果的で、ベネフィットを得るでしょう。こうした新自由主義的サイバー戦の極致が、かのCIAスノーデン元職員の内部告発で明らかになった、米国NSC(米国国家安全保障会議)のもとで、NSA(国家安全保障局)の行うグローバルなデジタル・サーベイランスです。それがいかに重大であるかは、ドイツ・メルケル首相の携帯電話が10年以上も盗聴されていたと言うことで、ヨーロッパ全体が抗議し、アメリカとの「信頼関係」に大きな亀裂が入り、国際金融システムもNATOの安全保障も、大揺れです。オバマ大統領はいったん否定しましたが、監視対照の外国人指導者35人には、「同盟国」メキシコ、ブラジル、スペインなどがはいっているといわれます。「米国と英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはお互いに情報活動を行わない伝統がある」といいますが、怪しいものです。ましてや「対等のパートナーシップ」などといいながら、片想いで一方的に「同盟国」だと思い込んでいるにすぎない日本の首相官邸・政府要人など、NSCにとっては最も与しやすい相手でしょう。なにしろ70年前のGHQによる占領の時代に、CCD(検閲局)が大規模な電話盗聴や郵便検閲を行い、それに協力した4000人もの日本人がいたのを体験済みですから。
それなのに、日本政府は、「同盟国米国を信頼」し、抗議の前の問いあわせすらしないのだそうです。それどころか、それこそ米国・NSCからの圧力をまともに受けて、日本版NSC創設を、秘密保護法案とワンセットで、今国会提出・通過を狙っています。情けなく、また恐ろしいことです。東京新聞や地方新聞は強力に反対の論陣を張っていますが、大手マスコミは、なお鈍い反応です。例えば担当大臣によれば、原発の警備状況は「特定秘密」になるとか。反原発現地デモを取材して警備と衝突して報道し放送した記者は、どうなるのでしょうか。小泉純一郎元総理の原発ゼロ行脚は、ドイツの廃炉やフィンランドのオンカロを現地視察した上での好ましい反省ですが、東電の汚染水隠し、除染の現状、いまなお漂流する福島県「原発難民」への補償問題や復興予算使途を内部告発したり報道することは、解釈次第で「特定機密」にされかねません。国会議員もマスコミも、国民を信頼しもっと怒るべきです。小熊英二さんのいうように、「再稼働反対」の世論は健在、官邸前金曜デモだけではなく、地方のデモも定着しており、サラリーマンのスーツデモが始まりました。国会やマスコミが、民意を代表できていないのではないでしょうか。
11月は、私もいくつか講演行脚。ただし直接原発について話すのは、11月6日(水)午後6時半、川崎市中原市民館「平和・人権学習 なかはら平和セミナー 3.11から考えよう日本の戦後史 〜平和と人権の視点から〜」のオープニング「戦後日本の『核』の平和利用」です。11月15日(金)午後6時半からは、明治学院大学白金キャンパス・チャペルで、日本ペンクラブ・明治学院大学共催「島崎藤村と日本ペンクラブの昨日・今日・未来」で、かつて一緒に『島崎蓊助自伝──父・藤村への 抵抗と回帰』(平凡社、2002年)を作ったご縁で、島崎藤村の孫島崎爽助さんと対談、司会が最新作『水色の娼婦』(文藝春秋)で私の研究『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店、2008年)の一部を使っていただいた作家西木正明さんなので、さてどんな風に展開するやら、楽しみです。11月23日(土)は、午後2時から東京ロシア語学院(日ソ会館)で、日本ユーラシア協会現代史研究会「シベリア抑留帰還者をめぐる米ソ情報戦 」 を話します。本HPで今春情報提供をよびかけてきた、「旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係」についての中間報告、今夏アメリカでの予備調査結果を含める予定です。前回紹介した今夏の仕事の公刊、チャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』(篠崎務訳、岩波現代文庫)の「解説」、米国でも日本でも支配的だったウィロビー報告を批判し、伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張『日本の黒い霧』改訂について触れています。森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)に寄せた「金澤幸雄さんと金澤資料について」は、加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊を期に編まれた単行本に寄せたものですが、単行本の新川明さん、新崎盛暉さんらの力作が好評で、12月には、沖縄で刊行記念講演会が予定されています。関心のある方は、DVD版か単行本を、不二出版からお求めください。
2013.10.15 ようやく国会審議が始まります。参院選での自民党圧勝、というより民主党惨敗のあと、立法府としての国会はほとんど機能せず、「ねじれ解消の夏休み」とばかり、安倍内閣=行政府の暴走ばかりが目につきました。TPP、消費税、集団的自衛権、日本版NSCと秘密保護法案、と本来国民的討議が必要な重要問題が、次々と動き出しました。他方で真っ先に政府のなすべき外交上の難題、中国・韓国との対話や普天間基地移転をめぐる対米交渉は手つかず。9月、10月に何度も中韓首脳と同席したのに儀礼的握手どまり、日米地位協定の見直しは米兵処分結果の被害者への開示どまり。特にかつての国家機密法の再来である秘密保護法は重大。つい最近も、アメリカで1961年に核爆弾落下事故で広島型原爆の260倍の爆発寸前であったという英紙のスクープが報道されたばかり。1992−93年に日本政府が「従軍慰安婦」問題が日韓関係以外に広がらないよう東南アジア諸国の日本大使館に調査しないよう伝えていたことも、ようやく最近外交文書から明らかになりました。今でさえ情報公開に後ろ向きの政府と、腰の引けた日本のマスコミ。歴史認識の基礎資料が、国民の眼から遠のきます。
東京では13日に大きな脱原発集会が開かれました。稼働ゼロで夏を乗り切った実績をふまえ、IOC総会での安倍首相「アンダー・コントロール」発言のウソを糾弾し、小泉元首相の原発ゼロ発言は歓迎するスタンス。安倍首相の経済政策への支持率が高くても、まだまだ「脱原発」世論は健在です。その間も続く福島第一原発からの汚染水問題。どうやら、参院選投票日まで事実が隠されてきて、その後小出しにした海への放出が東京オリンピック誘致の最大の障害になって、首相の「アンダー・コントロール」「国が責任」発言になり、それで東電が急いで取り繕うとしたら、初歩的人為ミスを含めて化けの皮が剥げた、という構図のようです。国連科学委員会は、日本政府や東電の被曝線量報告は2割過小評価しているのではないか、と疑いの眼。日本国民は、とくに福島県民は、もっと疑っています。作業員の被曝線量は、隠されているというより、まともに計測されていないようです。東電社員が入らない、多重の下請け構造の仕業です。東京オリンピック誘致用にひねりだした汚染水対策、多核種除去設備ALPSも、凍土遮水壁も、抜本的対策にはほど遠いようです。廃炉への長い道程、汚染水・汚染土ばかりでない核廃棄物処理への方策は、手つかずのままです。まずは当事者能力も賠償能力もない東電をどうするか、初発のボタンの掛け違えから再検証すべきです。
夏休みに読んだ本、今西憲之『原子力ムラの陰謀』(朝日新聞出版)、本間龍『原発広告』(亜紀書房)、若杉冽『原発ホワイトアウト』(講談社)など。それぞれに「安全神話」のウラを曝いて面白かったですが、島村英紀『人はなぜ御用学者になるのか』(花伝社)、中西準子『リスクと向き合う』(中央公論新社)のような「科学」それ自体の意味まで眼を広げると、やはり柴山太『日本再軍備への道』(ミネルヴァ書房)、ヨアヒム・ラートカウ『ドイツ反原発運動小史』(みすず書房)、ジョン・ダワー『忘却のしかた、記憶のしかた』(岩波書店)のような本格的な書物が、思索のヒントを与えてくれます。私たちが春に出版した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)も、今夏、京都及び東京の研究会で、本格的な合評会を開いていただき、韓国語訳出版も決まりました。私自身の夏の仕事は、単著の2冊はまだ悪戦苦闘中ですが、短文の寄稿は、2冊の本になって発売されています。一つは、チャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』(篠崎務訳、岩波現代文庫)の「解説」、もともと原書初版は、弘文堂刊『尾崎・ゾルゲ事件』(1966年)の名で一度訳されていますが、注を省略した読み物だったものを、かの『通産省と日本の奇跡』の著者が、1990年に増補新版を出した学術決定版の新訳です。米国でも日本でも支配的だったウィロビー報告の誤りをただし、この春の伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張『日本の黒い霧』改訂への、米国からの側面援助になったものです。もう一つは、森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)に寄せた、「金澤幸雄さんと金澤資料について」。新川明さん、新崎盛暉さんらと共に、故国場幸太郎さんと故金澤幸雄さんを偲んでいますが、これ実は加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』全3巻(共編、不二出版 、2004−2005年)が好評完売して品切れになり、デジタル化してDVD版に改版するにあたっての、別冊本です。単行本としても販売するようですので、関心のある方は、DVD版と単行本をお求めください。
「核なき世界」への貢献こそ、本当の積極的平和主義!
2013.10.1 連日30度の日本を離れて、中国に2週間ほど滞在しました。西安から敦煌、トルファン、ウルムチと、西域新疆ウィグル自治区で目前に天山山脈の雪を見るところまで入って、上海経由で帰国したら、酷暑だった日本も、秋の気配でした。尖閣問題から始まり、日中関係が厳しい折、9月18日の国恥記念日(日本の「満州事変」開始日)を挟んだ中国訪問に、当初はいろいろ懸念がありましたが、上海での国際会議でも、その後の日本側出席者の西域旅行でも、特に「反日」を感じる場面はありませんでした。確かにホテルで見るテレビの地方チャンネルでは、「抗日戦争ドラマ」がたびたび放映されていますし、「尖閣=釣魚島」問題のニュースもないわけではありません。しかし、アフリカ・中南米等首脳の訪中経済協力の話や、国内経済開発の進展が、連日のトップニュースです。日本で特に注目されたらしい元中国重慶市共産党委員会書記・薄煕来(ボーシーライ)被告への無期懲役判決言い渡しは、当日夜の北京中央電視台ニュースの4番目でした。公判模様と判決文は詳しく放映され、むしろ裁判所にカメラが入れない日本からはうらやましいほど。無論、両脇に大男の看守を配して180センチの被告を小さくみせて手錠をクローズアップする映像操作や、被告の妻の犯罪を認める証言を繰り返し流すなどの背景説明もありましたが、時折笑みをうかべてまっすぐ裁判長を見つめる被告の映像は、かつての文革4人組裁判公判廷で泣き叫んだ江青等の反抗的姿勢とは正反対で、政治的には両義的な効果と思われました。国際会議での中国側参加者は、外交的・政治的困難のもとでの日中文化交流・経済協力の必要を繰り返しのべ、西安、敦煌、ウルムチなど西域で接した人々も、日本からのビジネス・観光客が少なくなったことを嘆く声が圧倒的でした。国際法にもない「固有の領土」を述べるだけの日本政府のかたくなな姿勢こそ、米国を含む海外の憂慮する、現在の日中関係の困難の主因と思われます。
中国西域の訪問は今回が初めてで、いまやG2の一極となった中国資本主義の国民経済統合の度合いを確かめるためでした。旧都西安から敦煌、ウルムチにいたるシルクロードの起点、新疆ウィグル自治区の経済発展は、予想以上でした。「さばく」とは、日本語の「砂漠」では石の少ない砂地ですが、中国語の「沙漠」とは、水の少ない土地の意味で、別に砂の海があることが要件ではないそうです。でも日本語で「ゴビ砂漠」とよばれる平原は、もともとは海の底で塩分が多く、ラクダ草とよばれる雑草くらいで、農業には適しません。それでもブドウ、メロン、スイカなどを栽培し、ドライ・フルーツ(乾燥果物)として商品化し、農業で生活を支える人々が大多数。そんな平原の地下に、近年大きな石油・石炭鉱床が見つかり、「改革開放」経済下で猛烈な開発が始まっています。高速道路で出会うのは、乗用車は滅多になく、商品運搬と石油と土木工事の大型トラックが大半ですが、新疆・ウィグル自治区の貿易の半分を占めるカザフスタン・中央アジアとの交易の大動脈で、西へと続く現代のシルクロードです。それをもういちど中国国民経済に統合するためか、北京から西安を経てウルムチにいたる新幹線が急ピッチで建設中です。何より21世紀に入ってのウルムチの高度成長が印象的でした。人口300万人近くで高層ビルが林立し、いたるところが工事中で、観光客向けの施設・設備も充実してきています。近代化から取り残されたイスラム教徒の多いわびしい街という先入観は、まったくあてはまりませんでした。たしかにウィグル族、回族、カザフ族など肌を隠した女性や帽子をかぶった男性が目立ちますが、漢族も半分近くいて「中国化」が進行中です。数年前に暴動があったというモスク(イスラム寺院)前のバザールは、さまざまな顔つき・衣装の人々で賑わっていました。大気汚染は進み、オアシスも綺麗とはいえませんが、当面の近代化・工業化に必要な電力の3分の1は、沙漠に林立する風力発電でまかなっているとか。石炭・石油の鉱脈の上に風力ですから、原発は不要でしょう。ところがウルムチ市の放射能は、上海や西安の5倍以上、昨年の福島駅周辺と同じくらいでした。理由ははっきりしません。隣国カザフスタンのセミパラチンスクでは、1949ー89年に456回の旧ソ連核実験が行われ、新疆ウィグル自治区内のロプノールでは、1964−96年に46回の中国核実験が行われたことを考えると、その影響とも考えられます。国境を越えてすぐのセミパラチンスクは、いまもヒバクシャを産み続けています。
8月アメリカ、9月中国で、この夏は半分、日本を外から見てきました。安倍首相の海外向け英語発信は、どうやら有能なスピーチライターがいるようで、中国に比べて存在感のなくなった日本を、ニュースに仕立てる方向では成功しています。しかしその内容は、IOC総会でフクシマ原発事故が「アンダー・コントロール」とか、地球の裏側まで自衛隊を派遣する集団的自衛権行使が「積極的平和主義」とか、国内では言えないような大問題を、国際公約の既成事実にしていきます。はては国際的問題である従軍慰安婦=戦時性奴隷には触れずに、国連総会演説では女性支援を柱にする厚顔さ。汚染水問題が深刻で、多核種除去装置(ALPS=アルプス)はタンク内にゴムシートを置き忘れた人為ミスで作動できないお粗末。それなのに、実質的に経営破綻している東京電力にも柏崎原発の再稼働を申請させ、再生エネルギーへのシフト、発送電分離も、核燃サイクル、使用済み燃料処理も先送りにしたまま、原発再稼働と原発輸出に突っ走っています。これは、国連核廃絶決議への日本政府の消極的態度とならんで、被爆国日本が、「核なき世界」への先頭にたつどころか、20世紀の遺物となりつつある核兵器と原子力発電の存続に「国際貢献」している姿です。本当の「積極的平和主義」とは、日本国憲法第9条の思想を世界に広めることなのに、憲法解釈を強引に変えて集団的自衛権を認めたり、ヒロシマ・ナガサキの被爆体験があるのにアメリカの「核の傘」に隠れて核兵器廃絶に不熱心だったり、フクシマ原発事故で明らかになった「原子力の平和利用」の困難を認めず、むしろ潜在的核保有である原発に固執して、フクシマ廃炉や核廃棄物最終処理の人類史的困難を隠蔽することではありません。日本の採るべき「積極的平和主義」とは、核兵器も原発も含む「核なき世界」への道を、国際社会で率先していくことです。参議院選挙後、日本の立法府はほとんど機能せず、安倍内閣の独断・独走が目立ちます。フクシマのコントロール、原発再稼働も、「積極的平和主義」の中身も、本来国会での徹底的議論が必要な、この国の未来を決める重要問題です。
フクシマの汚染水問題こそ、日本国家の緊急事態!
2013.9.15 中国上海での国際会議に出席中ですが、IT環境はよくありませんので、前回更新の補足にとどめます。着いた日の昼は晴れていたのに、午後に町に出たとたんに、どしゃぶりのゲリラ豪雨と雷。異常気象は、どうやら世界的です。ホテルが無線LAN ではなく有線でピンチ。Mac Book Airではつなげないので、南京街に出ると大きなApple Storeが開店していて、Ethernet-USB Adapterをゲットし、なんとかつながりました。若い人々がiPhone/iPadに夢中で、価格は日本と同じくらいでした。アメリカのシリア軍事介入は、国際世論とロシアの外交介入でさしあたり回避できそうですが、予断は許しません。フクシマの汚染水は、地下水・海への流出が止まりません。深刻です。それを安倍首相は「完全にブロック」などとオリンピック誘致のために国際公約してしまって、また新たな外交課題を抱えこんだようです。9月18日はなんとか中国で無事に迎えることができそうですが、中国の普通の人々が日本をどう見ているのか、気になります。そうした旅行記は、10月1日更新で。
2013.9.2 戦争が近づいています。シリアへの新しい戦争が。名目はシリア政府による市民への化学兵器使用。11万人の内戦犠牲者、200万人の難民は事実のようです。アメリカの民主党オバマ大統領は、「アメリカの国益」から、単独でも軍事介入しそうです。週末関西から戻ってみると、一応議会に諮るようですが。かつての宗主国フランスも、社会党政権が踏み込みそうです。しかしアメリカの最高の同盟国(日本ではありません)イギリスでは、首相が下院に参戦を提案しましたが、与党からも造反の慎重論が出て否決されました。ドイツ、ロシア、中国は軍事介入反対を明確にしています。何より国連が、まだ化学兵器使用の有無を判断していません。かつて大量破壊兵器保有を口実にして何も出なかったイラク戦争多国籍軍介入の教訓から、国際社会は慎重です。アメリカでさえ世論は介入反対が多数です。アメリカにすぐに従おうとするのは、利害当事国であるイスラエルのほか、日本の安倍内閣ぐらいです。これが集団的自衛権での同盟関係なら、一緒に無条件参戦しかねない勢いです。
けれども日本だって、実は、久方ぶりの国際政治の焦点です。まずは内政こそ、緊急出動が必要です。福島第一原発の汚染水問題です。世界のクォリティ・メディアから日本政府の責任と緊急対応が要請されています。でも、相変わらずの鈍い反応。国会で直ちに審議すべきなのに、なんと東京オリンピック招致への影響を考慮し先送りという本末顛倒。世界が恐れているのは、海洋への高濃度汚染水流出です。すでに3・11直後から遮水壁やタンカー利用など、重大被害が予想され対策も考えられていたのに、東京電力の株主総会対策で、費用がかさむ抜本対策は先送りされ、場当たり的なタンク林立の簡易対策が採られてきた帰結とか。国家と原子力ムラの不作為責任は、明白です。膨大な予算をつぎこんだ福島県での除染も、その効果が疑問視されています。すべては、原発事故は「収束」していないことを示しています。オリンピックよりも、景気対策よりも、緊急事態宣言を出して、フクシマに取り組むべき時です。
それにしても、異常気象が続きます。台風を心配してでかけた関西では、温帯低気圧に変わって晴れたと思ったら、突然のゲリラ豪雨。あわてて東京に戻ったら、カンカン照りの猛暑。しかも、世界的です。エジプトのその後やドイツの総選挙も気になりますが、9月締め切りの仕事を複数かかえて、現地ウオッチングは断念、次回更新予定時は、中国にいることになっています。汚れた空気や不動産バブルがどうなっているのか、よく見てきたいと思います。ただし更新日は、遅れる可能性大です。ご了承ください。昨年6月のフクシマ原発をめぐるメキシコでのラテン・アメリカ国際会議の記録が、ようやく活字になりました。書物のかたちではなく、ウェブ上にpdfにして、公式記録を残すかたちです。こうした方式は、今後も広がるでしょう。スペイン語ですが、私の報告のほか、原発技術者の藤原節男さん、地震学の島村英紀さん、社会学の長谷川公一さん、それに3・11後の官邸でボランティア対応した湯浅誠さんの報告が記録されていますから、国際的動きに関心のある方はアクセスしてみてください。日本での9月1日、日比谷公会堂での大江健三郎さん、小出裕章さんらの「さようなら原発講演会」とも、共鳴しています。
言論・出版の自由こそ、歴史認識構築の前提
2013.8.20 猛暑と言うより酷暑の日本に帰ってきました。なるほどクーラーなしでは仕事になりません。でも、電力が足りないとか節電の話は、電力会社からも財界からも、あまり聞こえてきません。むしろ熱射病対策でクーラーを使えとか。お隣韓国も猛暑で、原発依存度が高い故に停電・節電の夏なそうですが、日本は3・11からふた夏を経験し、原発なしでもちゃんとやっていけそうです。異常気象が異常でなくなりつつある日本ですから、このさい再生エネルギーへのシフトを、真剣に設計すべきでしょう。15日の安倍内閣閣僚の靖国参拝を韓国・中国は批判し、アメリカは沈黙したといったん書きましたが、時差の関係で16日の『ワシントン・ポスト』に「日本の指導者は歴史と外交のバランスをとる」というソウル発のChiko Harlan 特派員電が出たことは、アメリカから報告できませんでした。安倍首相自身は参拝しなかったことを、割と大きな記事で報じました。ところが、お盆休みの日本のマスコミはこれを報じていないようで、グーグルで検索すると、韓国 『朝鮮日報』に「日本の右傾化によって、米国が主導する韓米日3カ国の軍事協力にも支障が生じる可能性がある」と『ワシントン・ポスト』が報じた、とあるくらい。どうも橋下「慰安婦」発言、麻生「ナチス」発言についてのなお続く国際的反響が、内向きになった日本の大手メディアから、意識的にネグレクトされているようです。
情報統制・情報操作を予感させるいくつかの事態が、本来国民の歴史認識を育むべき言論・出版の自由の世界で、進行しています。帰国して読んだ新聞に、北海道大中島岳志准教授の評論が、NTT出版から削除を求められ出版中止になった話、幸い別の出版社に拾われたようですが、内容が「橋下徹・日本維新の会への懐疑」という政治評論だけに、気がかり。原爆を描いた世界的漫画『はだしのゲン』を松江市教育委員会がこどもたちへの閲覧を制限したという話は、世界約20カ国で訳されているだけに深刻、国連の核廃絶決議に棄権する日本政府の立場に似た、ある大きな流れが感じられます。世界的にも、スノーデン氏による米政府個人情報管理をスクープした記者の関係者がイギリスで拘束されたり、日本で発言する中国人大学教授朱建栄氏が上海で行方不明になったり、インターネットをはじめとしたグローバルな情報戦の時代に対する権力介入の手法が、露骨になってきています。
こうした動きの集大成が、集団的自衛権をめぐる内閣法制局長官の強引な人事、それに秋の国会への国家安全保障会議(日本版NSC)と秘密保全法案提出の動きです。96条先行改憲をあきらめてはいないが、まずは解釈改憲の強化、それも「法の番人」を慣例を破って外務省出身の集団的自衛権推進論者に置き換えるという手法。そして、ウィキリークスやスノーデン問題を逆手にとって、日本でも一度つぶされた国家機密法案を化粧直しして再提出、国会での多数を頼りに言論統制を押し通そうという算段です。法案の内容は、とっくにできている可能性があり、「同盟国の米国と情報共有を図るには秘密保全の強化が必要」というのがホンネか。選挙での多数代表の選出は、政府指導者への全権委任を意味しません。多数決原理は、言論・思想の自由と、自由で十分な討議による決定と、少数意見の尊重を前提とします。しかもそのうえで、不服従の権利、抵抗権、革命権が担保されるのが、現代民主主義の人民主権の原理です。けっきょく、言論出版の自由、集会結社の自由、基本的人権や生存権、立憲主義や平和主義など日本国憲法のあらゆる原理を活用して、憲法を護る意志を行動で示すということが、世界から危ぶまれる右傾化政権の圧政への歯止めということになりそうです。 歴史認識は、日本国憲法を音読することから始めましょう。
戦争と平和の歴史認識を、もう一度確かめる夏に!
2013.8.1 参議院議員選挙の結果は、予想通り。50%そこそこの投票率で、自民・公明の圧勝、安倍内閣に3年ないし6年の、信任を与えたかたちになりました。初めてのネット選挙も、反原発若者候補の奮闘はありましたが、全体への影響はマイナーだったようです。自民党と民主党の比例代表上位当選者は、軒並み全国的圧力団体の推す組織候補、まるで20世紀への逆戻りです。いや逆戻りでないのは、「55年体制」とは違って、かつての日本社会党・総評のような反対勢力の軸がなく、野党の対決姿勢がきわめて弱いこと。民主党政権の失政の余波は、この国を、深刻な局面に追いやったようです。早速ホンネが出てきたのが、麻生副総理の憲法改正に「ナチスの手口を学んだら」発言。まともな民主主義国なら、即解任・議員辞職です。アメリカのユダヤ人団体や韓国・中国外務省の抗議を受けて、苦し紛れに撤回しましたが、その歴史認識の異様さに、唖然とします。自衛隊の国防軍への再編、集団的安全保障、沖縄・本土へのオスプレイ配備、そして中国・韓国との外交上の困難。電気料金・ガソリン代値上げに社会保障の貧困、非正規雇用と格差の拡大、そこに消費税とTPP、「アベノミクス」の神通力は、どこかで確実に効かなくなるでしょう。でも選挙結果は、あまりに長い実験可能期間を、与えてしまったようです。
原子力については、いっそう深刻です。原発再稼働と輸出を成長戦略の公約にかかげる唯一の政党が、国政選挙で圧勝したのですから。福島は深刻です。今頃になって汚染水の海への流入が、東電にはまかせられないと国がのりだし、ようやく原子力規制委員会の課題としました。その東電はといえば、柏崎原発再稼働の方に一所懸命という本末転倒、いったい福島県民のくらしといのちは、どうなるのでしょうか。「原子力ムラ」解体の必要性は、薬事行政のほころびからも見えてきます。新自由主義の波におされて、薬のネット販売を許可したばかりなのに、その大元の医薬品認可の臨床試験段階で、製薬会社社員が実験チームに加わり、データを改ざんしてまでシェアを広げ、大もうけしていたという話。日本の敗戦後、科学者の世界は全体として丸山眞男のいう「悔恨共同体」で戦争の反省をしたことになっていますが、ほとんど戦時軍部への戦争協力を反省せず、むしろ研究成果を今度は占領軍に売り込んで、戦犯訴追をまねがれた研究業界が、私の知る限り、二つあります。一つは、731部隊石井四郎中将の人体実験で知られる細菌学・防疫学などの医薬学界、もう一つは、仁科芳雄をはじめとして、戦時原爆製造を「原子力の平和利用」=原発エネルギーに切り替えた核物理学です。つまり「クスリ村」と「原子力村」は、日本のアカデミズムの戦争責任追究の弱さを映す鏡なのです。私は最近は、零戦開発を宇宙ロケット開発にきりかえたロケット工学も怪しいと思っています。昨夏メキシコの国際会議でご一緒した、地震学の島村英紀さんの新著『人はなぜ御用学者になるのか』(花伝社)が必読です。
8月のメディアは、広島・長崎や「終戦記念日」周辺に、力作がならびます。昨年8・15放映のNHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったのか」は、1945年5月のスイス・ベルンやポルトガル・リスボンからのソ連参戦情報を、日本政府・軍指導部は生かせず、8月ヒロシマ・ナガサキの原爆投下、ソ連参戦まで、どうして敗戦を引き延ばしたのかを問う力作でした。ただ、なぜそこにストックホルムの陸軍武官小野寺信が発したヤルタ協定直後のソ連参戦密約情報が出てこないのかと、不思議に思っていたのですが、1年後に、番組制作に関わった吉見直人『終戦史』(NHK出版)が400頁の大著になり、その理由がわかりました。時間の限られた番組では使えなかった資料と、制作過程の裏話が、記録になったからです。それによると、NHK取材班がイギリス国立公文書館にでかけたのも、もともと小野寺信のヤルタ密約情報を求めてでしたが、問題の1945年2月小野寺電は、かつて私や小野寺家ご遺族、産経岡部記者が世界の文書館を捜してもみつからなかったように、みつかりませんでした。その代わりに、別のいくつかの小野寺電や、ベルン、リスボンからのソ連参戦切迫情報がみつかり、それら周辺資料と当時の日本軍内部の動きから総合的に判断して、小野寺の送ったヤルタ密約電報は、ドイツ降伏「3か月後参戦」ではなく「参戦準備に3か月」であったために、参謀本部にちゃんと届いていたけれども、切迫したものとは受け止められなかった、したがって、参謀本部内で瀬島龍三らが小野寺情報を握りつぶしたわけではなかった、という解釈になったため、番組では小野寺電を使わず、それでも「6月終戦はありえた」と放映したというのです。確かに周辺資料収集はしっかりしていて、資料の典拠も明示され、なるほどと思わせる面もあります。ただし、この辺の歴史は、私もかつて小野寺電についてコメントしたことがあるように、旧ソ連を始め関係各国の該当史資料とつきあわせて、ウラをとる必要があります。テレビ番組を放映しただけで済ませず、その後の反響や補足資料を含め書物にしたことは、大変いいことです。キャッチコピーの「指導者たちは本当にソ連参戦を知らなかったのか」「すべて陸軍が悪かったのか」を、このような歴史認識も可能だという一例と受け止め、今年も、自分の歴史認識をつくるために、夏は半分海外です。8月はアメリカ、9月は中国で、次回更新予定の15日はまだアメリカ滞在中ですので、IT環境によっては、更新が遅れる可能性がありますが、どうかご容赦ください。
3.11をもう一度想起し、原発再稼働・輸出にブレーキをかける立法府を!
2013.7.15 参議院議員選挙の投票日は次の日曜日です。メディアの予想は、自民党・公明党の圧勝です。憲法96条先行改憲は政策論争の中心からはずれましたが、集団的自衛権の問題が新たに浮上しました。インターネット選挙が解禁になり、毎日新聞のツイッター分析では原発がダントツの第一争点なのですが、テレビの党首討論等では周辺イシューです。党首名つぶやき数では、自民の安倍晋三、維新の会橋下徹が他を引き離し、民主党海江田万里は共産党志位和夫以下とか。戦後占領期の1949年1月第24回総選挙を思い出しました。日本国憲法のもとで戦後初の社会党片山内閣、社会党も入閣した民主党芦田内閣が昭電疑獄で倒れ、GHQも介入した選挙結果は、吉田茂の民主自由党が264議席獲得の圧勝で復活、与党絶対多数の第3次吉田内閣が成立しました。政権にあった社会党は、48議席に凋落し惨敗、野党の中では共産党が35議席と躍進し、下山・三鷹・松川事件のなかで「9月革命」が語られるような伸びを示しました。ちょうどこの時期の米国陸軍省ゾルゲ事件発表とGHQによる情報工作を、「GHQ・G2ウィロビー=CISポール・ラッシュの諜報工作―ゾルゲ事件 川合貞吉の場合」と題して、インテリジェンス研究所「第3回諜報研究会」で報告したばかりなので、政権交代に期待を抱いてその政権の現実の政権運営に幻滅したさいの、揺り戻し保守回帰・反動攻勢が気になります。
選挙運動中に安倍内閣支持率・自民党支持率が減少傾向という報道もありますが、どうも大手マスコミの報道は、アベノミクスの景気回復に争点を誘導し、「ねじれ国会」を解消するというストーリーに流し込もうとしているように見えます。その間に、原子力規制委員会の原発新基準が発効し、電力会社は次々と再稼働申請を開始しました。自公安定政権成立を見越して、自民党の再稼働方針が選挙の洗礼を受けたと言いくるめる魂胆が見え見えです。福島では新たな汚染水問題が発覚し、廃炉の見通しさえ全然ついていないというのに。地震・津波・原発事故の被害者は、ネット回線環境が貧弱な仮設住宅で、選挙運動・候補者情報収集どころではないのです。こういう報道は『東京新聞』や地方新聞でしか得られない、悲しい現実があります。トップのyou tubeからの震災・原発映像欄にいくつかリンク切れが出たので、新沼謙治「ふるさとは今もかわらず」を追加しました。別に演歌や歌謡曲が好きなわけではありません。この歌、岩手県大船渡市の被災者の心を、市立大船渡第一中学校の生徒たちと一緒に歌っているからです。そうです。もう半世紀以上前に、自分が大船渡第一中学校のたぶん第一期か第二期の卒業生だったことを、3・11から2年以上たって今、かみしめているのです。一昨年・昨年と陸前高田・大船渡から釜石の被災地に抜けるコースをレンタカーで幾度か見てきたのですが、今年はまだ大船渡の復興の現在をテレビでしか見ていない、自分自身の自戒のために。参院選のあとは3年間国政選挙がない可能性があります。せめて3・11を忘れない決意が示される選挙結果にしたいものです。
先日ある会合で、自動車業界の方と話す機会があり、本サイト現代史研究に入れ忘れていたエッセイを思い出して、収録することにしました。「世界のトヨタ」が、戦後占領期にどんな会社であったかを、(今月からインテリジェンス研究所に移行した)プランゲ文庫の「占領期新聞・雑誌情報データベース」をもとに、1947−49年の社内報『トヨタ文化』を使って、牧歌的な労使関係を再現した記録です。「『世界のトヨタ』揺籃期の企業文化」と題して、岩波書店の『占領期雑誌資料体系 文学編』第3巻にはさみこまれた「月報」2010年3月号に寄せたものです。まだ今のような企業城下町になっておらず、愛知県挙母町といっていた時代の、全従業員6000人中4000人から回答を得た社内世論調査があり、その結果がすこぶる面白いのです。その雰囲気が、1950年朝鮮戦争直前に1600人を解雇する大争議が起こって大きく変わり、そこでの第二組合育成のなかからいわゆる「トヨタ式労使関係=トヨティズム」が形成されます。その初期の職場の変貌を見事に描いたのが、当時トヨタ自動車で事務労働者として働き、晩年は右派の論客としてしられた上坂冬子さんの、第一回「思想の科学」新人賞受賞のルポルタージュ『職場の群像』 (中公文庫)です。実は、電力労働者の世界でも、似た展開がありました。電力会社と一体で原発推進・再稼働に取り組み、ナショナルセンター連合にまで働きかけて原発と「安全神話」を広めてきた労働組合(電力労連)は、労働者の生活の必要に即した「電産型賃金体系」を作った戦後の戦闘的産業別労働組合(電産)が、経営側の攻撃で企業内第二組合にとってかわられ、高度成長期の労使協調による春闘賃上げで実績をあげ定着していったものです。 非正規雇用が2000万人を越えた今日、労働組合の存在感があった「戦後民主主義」の初心を振り返ってみるのも、無駄ではないでしょう。学術論文データベ ースに深草徹「憲法9条から見た原発問題」(2013.6)に続いて、いまやちきゅう座でも活躍する常連宮内広利さんの新稿「戦争の視線と非戦の思想」(2013.7)をアップしました。この一ヶ月よびかけてきた「旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係」についての情報は、いくつか集まりましたが、まだまだ不十分、情報収集センター(国際歴史探偵)「尋ね人」<新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!>とともに、引き続き情報提供を求めます。何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。
旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係について、情報をお寄せください!
2013.7.3 一言忘れてました。下記ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』改訂(『東京新聞』5月28日)の一助になった米国国立公文書館「川合貞吉ファイル」について、7月13日(土)午後2時半−5時、早稲田大学1号館2階「第3回諜報研究会」で、「G2ウィロビー=ポール・ラッシュの諜報工作―ゾルゲ事件 川合貞吉の場合」と題して、詳しく報告することになりました。GHQ・G2ウィロビーと、「アメリカン・フットボールの父」「清里の父」として有名だが実はCIS(民間諜報局)の有力な情報将校だったポール・ラッシュ、それにキャノン機関として知られる本郷岩崎ハウスのZ機関が、いかにしてゾルゲ事件被告川合貞吉をマッカーシズムと日本共産党攪乱の米国側エージェントに仕立て上げていくかというインテリジェンスの話です。一緒に報告する山本武利・インテリジェンス研究所理事長の「参謀本部第8課作成:対ソ謀略・宣伝極秘資料」も、戦時対ソ宣伝にリュシコフや勝野金政が関わる興味深い研究です。ご関心の向きは、プログラムにあるように事前申し込み方式ですが、ぜひどうぞ。
2013.7.1 もうすぐ参議院選挙の公示、日本政治の大きな岐路です。といいながらも、あまり力が入りません。東京都議会選挙の政権与党自民党・公明党全勝は、参院選からウェブ選挙が始まるとはいえ、参議院議員選挙の結果を予測させます。民主党の惨敗、その激減民主党票の野党の中での食い合い、低投票率なら共産党に漁夫の利、しかし「ねじれ」が解消した国会は「アベノミクス」が跋扈し、消費税アップ、憲法改正、原発再稼働、TPP推進、議席差次第では8月15日安倍首相靖国参拝の悪夢もありえないことではない、という悲観的シナリオが浮かびます。もともと2009年の民主党政権誕生ーー政権交代ーーへの有権者の過剰期待と、沖縄普天間基地移転問題、3・11東日本大震災・福島原発事故処理で白日にさらされた民主党の統治能力への幻滅が、自民党への揺り戻し、政党政治の右傾化を作りました。そこにちょっと株価があがり、円安に振れて、なんとなく景気好転の気分。国際社会では、この半年で隣国との関係を極度に悪化させ、内向きのナショナリズムが排外主義を強めています。米中関係もスノーデン事件も、トルコ・ブラジル・エジプトの反政府行動もないかのように、朝日新聞の最新世論調査は、安倍内閣支持率に陰りが見えたとはいえ55%、参院比例区の投票先は自民44%、民主・維新の会・みんなの党各7%、消費税引き上げ反対51%、憲法96条改正反対47%、原発再稼働反対53%、TPP賛成50%とか。去年の今頃と比べると、なんとも中途半端で、煮え切らない数字です。投票率とウェブ上を含む「失言」が鍵になりそうです
懲りない原子力ムラは、福井県高浜原発に、プルトニウムを含むMOX燃料を、フランスからこっそり運び込みました。国会事故調の報告書は棚上げされたまま、「原発事故で死亡者いない」という自民党政調会長発言が出るほど、永田町の国会周辺では、3・11が忘れられ、復興・原発イシューが弛緩しています。そんな空気に、市民社会から逆らうために、6月17日の毎日新聞夕刊文化欄に、「核なき社会へのパラダイムシフト 人権優先の『世界共和国』へ」という短文を寄稿しました。これ実は、3月に上梓した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の延長で、5月25日明治大学での第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」での私の講演「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」の超短縮版。『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)の宗教学者島薗進さん「原発の倫理性について」とのジョイント討論を含め、you tube にアップされ、映像で見ることができますから、詳しくはそちらで。あるいは、当日配布したSF資料版を、学術論文データベ ースにアップされた神戸の弁護士深草徹さん「憲法9条から見た原発問題」とあわせてどうぞ。
この間進めている、旧ソ連におけるスターリン粛清時代の強制収容所と、戦後敗戦国ドイツ・日本・ハンガリー等のソ連の外国人戦争捕虜収容所と、旧ソ連崩壊で明るみに出た核開発・実験の秘密都市・閉鎖都市の、地図上での重なりあいの謎。戦時ドイツ人捕虜の科学者・労働者がソ連の核開発に協力した記録があるので(ホロウェイ『スターリンと原爆』、メドヴェージェフ兄弟『知られざるレーニン』)、日本人抑留者にもウラン採掘の強制労働や、ひょっとしたら科学者の秘密都市への選抜があったのではないかと仮説をたて、第1弾として、北極海にちかい政治犯収容所、ナリリスク市の抑留者が記憶に基づいて書いた「点望見取略図」中の「秘密工場(ウラン濃縮工場か)」を下図に示しました(『シベリア抑留画集 きらめく北斗星の下に』)。日本人捕虜宿舎は右下方ですが、日本人が直接秘密工場に入れられていたか否かはともかく、近接しています。また、片桐俊浩さん『ロシアの旧秘密都市』(ユーラシア研究所ブックレット、東洋書店)を読むと、日本人抑留者が施設・設備を作った収容所が、後に原爆秘密都市になっていく例がみられます。「ソ連水爆の父」サハロフ博士によれば、旧ソ連の核は「何百人もの奴隷・囚人」によって作られ、ジョレス・メデヴェージェフによれは「原子力収容所」で、ロシア人の政治的異端者・刑事犯、外国人捕虜・科学者に危険な被曝労働を担わせることで、1949年の原爆実験、53年の水爆実験、54年オブニンスク原子力発電所を動かしてきたようです。その情報提供第2弾で、シベリア抑留中、ソ連側から日本の戦時原爆開発について尋問され、朝鮮半島のウラン鉱石について供述したという『赤い牢獄』(川崎書店、1949年)著者「菅原道太郎」についての情報がありましたが、この話、北海道新聞の小坂洋右記者が『日本人狩り 米ソ情報戦がスパイにした男たち』(新潮社、2000年)で追跡し、一部始終を書いているように、どうも「ほら太郎」というあだ名を持つ、元樺太庁官吏の胡散臭い売り込み情報のようです。この「菅原道太郎」、ソ連から帰還後、GHQの情報機関につとめ、かつ「ラストヴォロフ事件」というソ連KGBスパイ事件の記録にも出てくる、怪しげな人物です。シベリア抑留からの帰還者は、朝鮮戦争前後の時期、ソ連からも米国からも情報提供者として狙われていましたから、回想記の類は、注意して検証する必要がありそうです。この問題、情報収集センター(国際歴史探偵)「尋ね人」<新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!>とともに、引き続き情報提供を求めます。何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。