先日政治学の講義で、学生にレポートを書かせた。「民主主義から連想する言葉」を概念的に説明する課題で、多い答えは予想通り、@選挙、A自由、B多数決、C議会、D平等の順だった。
驚いたのは、学生が挙げた参考文献・典拠である。かつてなら政治学の教科書や岩波新書、広辞苑だった。ところが今年の学生の七割は、インターネット上のフリー百科辞典ウィキペディア(Wikipedia)を挙げた。グーグル(Google)に言葉を打ち込んで上位のいくつかをざっと読み、ウィキペディアから適当な箇所をペイストしてレポートするのが、イマドキの学生の定番らしい。
世界のインターネット人口は七億、日本は三位で八千五百万人、中学・高校でも同様だろう。日本のインターネットは携帯電話と結びつき、凶悪犯罪や自殺にも使われる。そんな状況をバーチャルな仮想空間だと見過ごすことはできない。バーチャルには「実質上」の意味もあり「もう一つの現実」と考えるべきだ。
「もう一つの現実」を生き抜くには、野村一夫氏の提唱する「インフォアーツ」が必要になる。情報教育の陥りがちな「インフォテック=情報技術・情報工学」に対抗する「ネットワーク時代に対応した知恵とわざ」で、「リベラルアーツ=自律的市民に必要な教養」の二一世紀ヴァージョンである。私がホームページ「ネチズン・カレッジ」で主張してきたネチズンシップ、ネチケットより広い。
野村氏は、@メディア・リテラシー、A情報調査能力、Bコミュニケーション能力、C市民的能動性(ネチズンシップ)、D情報システム駆使能力、Eセキュリティ管理能力を挙げる。私はこれに、F異文化理解・交信能力、Gグローバル・ネットワーク組織能力を加えたい。
要するに、学校・大学でも社会教育でも、情報メディアの人文社会科学的教養が必要で、それなしではグーグル型民主主義、グローバル・シチズンシップはおぼつかない。地球市民社会への道は、その先に拓ける。
(加藤哲郎 かとうてつろう・一橋大学教授、政治学、ネチズン・カレッジ主宰)