2001年10月6日付『ボストン・グローブ(The Boston Globe)』紙に掲載された記事

(David Abel, Campuses see a downside to unity, 河内謙策訳)


大学関係者はアメリカ国民団結のマイナス面に注目、市民的権利が窒息すると述べる教授も

 

デービッド・エーベル(本紙記者)

 


 ワーチェスターにあるホーリー・クロス大学では、研究室にアメリカ国旗を掲げた秘書が国旗を下ろすように教授に命じられたところ、その教授に対して非難のメールと怒りの電話が殺到している。

 カリフォルニアでは、キャンパスのヴィジルの集まりでアメリカの外交政策を批判した教授を学生たちが野次った。

 ニューメキシコ大学では,ペンタゴンに対する襲撃について授業中に冗談を言った教授が懲戒になるかもしれない。

 タカ派であれハト派であれ、9月11日の事件以来、物を言った教授たちが全国的に攻撃の目標になり始めているが、このような反動は、自由な言論が市民的権利であるだけでなく、職業に要求される基本的条件と考えられてきた研究者という地位を窒息させる。

 「われわれは、事態の進展を大きな関心を持って見守っている」と、アメリカ大学教授協会の公共政策部門の責任者であるルース・フラワーは述べ、次のように続けている。「わが国においてはじめての長期にわたる強固な団結が見られる。しかしその団結は、異議を唱えることを認めていない。」

 ニューメキシコ大学では、同窓生、議員、同僚たちが、授業中に「ペンタゴンを滅茶苦茶にした奴を、誰でも俺は支持するよ」と冗談を言ったリチャード・バーソルド歴史学教授に辞任を求めている。

 学生たちは、バーソルド教授も認めている彼の発言は儀礼に反していると当局に文句を言っている。

 学長であるブライアン・フォスターは、「われわれは、教授は学生に対し責任を負っていると考えている。これは言論の問題ではない。職業的倫理の問題でる。」と述べている。

 自由の信奉者たちは、学長の言い分は、全体主義者の言い分であると見ている。フィラデルフィアに本拠をおく、教育における個人の権利のための財団は、テロリストの攻撃以来大学当局や学生たちから沈黙するように言われた10人の教授たちからの委任を既に受けている。

 この財団の創立者の一人であるとともにボストンにおいて市民的な自由擁護のために活動しているハーベイ・シルバーグレート弁護士は、「人々は右と左に分けられ、左の人たちは、当局から、口を閉ざすように、『そんな議論をするときではない』と言われている。」と語っている。

 同財団への新しい依頼者の一人であるマイク・アダムスは、自称保守的な共和党員で、長い間全国ライフル協会のメンバーであり、ウィルミントンにあるノースカロライナ大学で犯罪学を教えていた。

 彼の言うところによれば、ある大学院生が、彼のところに今回の事件のことでアメリカを非難するメールを送ってきたので、彼がメールで、「このように煽動的で、国民を二分する、未熟な意見をも守る憲法がある国に住んでいる貴方は幸せだ」と書いた。

 このコメントを理由に、大学院生は大学の警察に駆け込み、大学当局がこのメールを差し押さえ、彼を解雇するように求めているとのことである。

 大学当局はまだ彼に対して具体的な行動を起こしてはいないが、「これは思想警察のやることで、本当に恐ろしい。貴方がた記者の方は、ポリティカル・コレクトネスを求める運動のためにこのことを記録にとどめておくべきだ」と彼は語っている。

 ケン・ハールソンの場合は、不幸なケースである。オレンジコースト・カレッジの政治学の専任講師である彼が、中東におけるテロリズムの授業の最中に、4人のムスリムの学生に対し「殺人者」とか「テロリスト」とか言ったということで、学生たちが文句を言っている。

 しかし、ハールソンは、18年間の実績を持つ教師で、学生たちの言っていることは完全な嘘であると彼は述べている。

 ハールソンは、国民の団結は素晴らしいが、国民の政治的自覚を高めたり、偏見を克服したりすることを犠牲にしてはならないし、国の政策を左右するものであってはならないと述べている。

 アムハーストでは、市議会議員がタウン・ホールの前に国旗を何回掲揚すべきかを議論していた。ジェニー・トレーチェンは、アムハースト州立大学の物理学の教授であったが、彼女は、国旗は「テロリズム、死、恐怖、破壊と抑圧のシンボルである」と言っていた。

 市議会は9月10日に行われ、一日後には彼女の住所とメールアドレスが公表され、シアトルに住んでいる者が、彼女に電話をかけて、粗野な性的なメッセージを残し、裏切り者と呼ぶことが可能になった。

 「もし私に将来を見通す能力があったら、もっと違った風に言ったでしょう。」と彼女は言っている。彼女と彼女の夫のところには、大学関係者を含めて、数百通の電話とメールが殺到している。彼女は、「いやがらせのレベルは、私たちを黙らせるのに十分な暴力のレベルに接近している」と語っている。

 ホーリー・クロス大学の秘書であるマーガレット・ポストは、逆の理由によって、すなわち国旗を掲げたことによってトラブルに巻き込まれている。彼女は、ユナイテッドの93便の乗客の一人が彼女の友人であったので、事件の3日後に国旗を研究室に持ってきたところ、その国旗を降ろすように言われたのである。

 彼女の所属している部門の責任者であるロイス・シングルトンをはじめとした数人の教授たちは、国旗を侮辱とみなしている。

 マーガレット・ポストが国旗を降ろすことを拒んだとき、シングルトンは自ら国旗を降ろし、それをたたみ、それを彼女の机の上に置いた。この話がワーチェスターの新聞に載ったところ、大学には怒りと脅迫の電話が集中した。後にシングルトンは彼女に謝罪し、現在、彼女の机の上には小さな国旗が存在している。

 「現在は非常に難しい時期で、人々の感情は高ぶり敏感になっている。」とホーリー・クロス大学のスポーク・ウーマンであるキャサリーン・マクナマラは述べている。さらに彼女は、「多数の人々がいらいらしているが、社会の流れを知り、分別をわきまえなければならない」と語っている。

[以上] 



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