アメリカのイラクへの戦争に反対する中国各界506人の緊急声明

 

(付)中国反戦知識人との5問5答


以下は、中国各界の、アメリカのイラクへの戦争に反対する声明です。

原文(中国語)は、

http://www.minfeng.net/new/list.asp?id=478

また英文は、

http://fanzhan.tongtu.com/cgi-bin/index.dll?page0?webid=tongtu&userid=603961&columnno=1&articleid=10

に掲載されています。

仮訳者は、河内謙策。


アメリカのイラクへの戦争に反対する声明(2003年2月10日)

 

 昨年来、アメリカ政府はイラクへの戦争の準備をしてきた。現在、ブッシュ政府はペルシア湾に兵力を展開し、核兵器の使用をオプションとする戦争計画をつくりあげている。このような厳しい情勢は、中国人民を含む全世界の人民の重大な関心を引き起こさずにはいない。

 ブッシュ政府は、戦争をする理由を色々と述べてきたが、それらは変化し、一貫したものではなく、どの理由も人を納得させるものではなかった。もっとも主要な理由は、イラクが大量破壊兵器を所有しているというものであった。しかし、広く知られているように、イラクの軍事的・工業的能力の大部分は、1991年の湾岸戦争と1998年のアメリカの爆撃によって破壊された;アメリカに支配された国連のUNSCOMの査察チームも1998年の報告においてイラクの大量破壊兵器の90〜95%が破壊されたことを認めている;更に2002年11月以来の国連のUNMOVICの野放図な査察によっても大量破壊兵器は発見されなかった。ブッシュ政府はまた、イラク政府は9月11日の事件と関係があると主張してきたが、それを裏付ける如何なる証拠も提出できなかった。更にブッシュ政府は、イラクの支配体制は人権を侵害しているからイラク政権の交替のために戦争をすると言ってきたが、アメリカがイラクの支配体制を政治的・軍事的に支持してきた1980年代において最も広範な人権侵害がなされたことを忘れたようである。

 アメリカ政府は一貫して高尚な人権の理念を吹聴してきた。しかし今回の戦争は、イラクの人民の人権をかつてない規模で、また最も野蛮な方法で侵害するものである。1991年の湾岸戦争の時には、米軍は市民の防空壕やその他の民間施設を攻撃し、多くのイラクの女性や子どもたちを殺傷した。湾岸戦争後においても、アメリカは国連を使ってかつて無い過酷な経済制裁をイラクに課し、その結果、百万人近くのイラクの子どもたちが早死にをしている。今回の戦争は更に野蛮なものとなり、イラクの女性や子どもたちを含む民間人に対する非人間的手段での大量虐殺が行われるであろう。米軍によってすでに明らかにされたように、湾岸戦争の1ヶ月分の爆撃に匹敵する巡航ミサイルが戦争の最初の日に打ち込まれるであろう。イラクの人々は、女性や子どもたちを含めて、すべて人間なのである。彼らの生命に対する権利、自由と尊厳は神聖にして犯すべからざるものなのである。

 アメリカは、法の支配が行われている国であると公言している。しかし、ブッシュ政府がイラクに対する戦争を始めるならば、重大な国際法違反を犯すことになるであろう。

 アメリカは《国連憲章》を署名した国である。国連憲章第2条[第4項]は次のように述べている、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」 更に国連憲章は、ある国の他の国に対する軍事的行動が正当化されるのは、(1)国連安全保障理事会によって、脅威を除去し、あるいは国際的な平和を回復するためのものであると認められること、及び、(2)武力攻撃を受けて自衛あるいは集団的自衛のためになされること、の場合に限られると規定している。ブッシュ政府は、アメリカの安全はイラクによって差し迫った危険にさらされていると公言しているが、これは周知の事実に反する。更にアメリカの言うメ先んずれば人を制するモ形のメ自衛モなるものを、《国連憲章》はいかなる意味においても支持していない。

 アメリカは、民主主義の原理にもとづく国であると公言しているが、現在準備中のイラクに対する戦争は、アメリカ人民の民主的権利に対する重大な侵犯であるのみならず、世界の人民の民主的権利を乱暴にふみにじるものである。なぜなら、今回の戦争は《国連憲章》が規定している“人民の平等と自決の原則の尊重”“主権平等の原則の尊重”などの国際関係を規律する民主的規範を犯すものだからである。アメリカの一主権国家に対する公然たる侵略は、全世界の人民に対する、とりわけ弱小な国家や発展途上国に対する重大な威嚇であり挑発である。

 アメリカは世界一多数の破壊力を有する兵器を保有している国である、しかもその兵器を使用して多数の市民を殺戮してきた国である、そのような国が不合理で野蛮な行為に抵抗する国家や市民に武器査察を強制し、考えられる限りで最も残酷な軍事的攻撃を実施する如何なる権利があるというのであろうか。正義はいったいどこにあるのであろうか。人間性に基礎を置く公正の原理はどこに行ってしまったのであろうか。

 ブッシュ政府の戦争準備に対抗して、世界の人民は声をあげ、力強い世界的な規模での反戦運動が形作られつつある。中国人民は世界の人口の5分の1を占める。戦争と平和というこのように重要な国際的問題に対し、中国人民は沈黙していることは出来ない、そして中国人民の声を無視することは許されない。ブッシュ政府の戦争政策は、世界で最も多数の人民が居住するこの大陸に響き渡る雷鳴のような反対の声に直面することになるであろう。

  

  我々は厳かに声明する

1.  我々は、アメリカのイラクに対する侵略と戦争の政策に対し、断固として反対し、厳しく非難する。

2. 我々は、世界の人々の目の前で展開される無防備なイラク人民に対するハイテク虐殺に断固として反対し、厳しく非難する。

3.  我々は、国連が今回の侵略戦争に支持をあたえるような如何なる安全保障理事会の決議にも断固として反対する。

4.  我々は、国連安全保障理事会の多数のメンバー、とりわけ常任理事国の中国、ロシアとフランスが、その道義に基づいた立場を堅く守り、アメリカの圧力に屈することなく、国連憲章から委託された平和擁護の責任を果たすことを熱烈に願う。

5. 最後に、我々は、中国内外の平和を愛し正義を支持する中国人民に対し、中国人民の反帝国主義の伝統を堅持してこの戦争に反対し、地球的規模で高まりつつある反戦運動に参加し、イラクに対する侵略戦争をストップさせるという世界的な行動に貢献するよう呼びかける。

 正義に基づく平和を愛し、人間としての普遍的権利に関心を有する立場から、我々は謹んでここに署名する(Motivated by our desire for peace and justice, and out of concern for universal human rights, we, the undersigned, hereby solemnly declare the following):

  [名前は省略。2月17日現在、506名が署名済み]


中国反戦知識人との5問5答

 

 皆様へ お元気ですか。

 中国反戦知識人の動向が世界的な話題になっているため、今回もそのことについて臨時の特集をしますので、許してください。北京PEACE NEWS(12)で紹介した「中国各界の反戦声明」につき、大事なことかどうか良くわからないという意見が私の手元に寄せられました。しかし、全世界の人がアメリカのイラク攻撃に反対しているというように言われてきたものの、それは一つのフィクションで、実は全世界の五分の一が声を上げていなかったことに注意を向けてもらいたいと思います。だから私は、サルが人間になるについての"ミッシング・リング”が発見されたことにも匹敵すべきことで、これで文字通り全世界の反戦の声が一つになったのだと思います。また、平和は市民がつくるものという立場からは、どんなにいい政府でも市民(人民)が反戦の声を上げなければ本当の平和は実現しないと思います。だから今回の自主的な立場からの運動が重要なのです。

 更に河内は中国の声を上げた人のことを心配しているが、ネットに掲載されているのだから心配することもないじゃないか、という声も寄せられました。しかし、そのように考える方は、中国と日本を同じように考えておられないでしょうか。中国は、日本のような平和運動も無く(平和運動専門の団体も無いのにはびっくりしました)、私がこのニュースで書けない事もある国なのです。色んな声が私のところに寄せられたので、この署名・声明運動の中心的人物の1人である韓徳強(Han Deqiang, ハン・ダーチャン)に会うことにしました。苦労の末、2月25日、彼の研究室で会うことが出来ました。彼は経済学博士、現在は北京航空航天大学管理学院の副研究員(日本で言えば助教授か)で、『衝突:グローバリゼーションの落とし穴と中国の選択』などの著作があります。

 添付の写真[省略]を見てください。彼の第一印象は若い、ということです。40台前半でしょうか。今回の運動の新鮮さを強く印象付ける人です。第二印象は気さくで優しいと言うことです。彼は私が渡した日本の法律家1200名のアピールを「1200名ですか」と言ってびっくりして受け取り、必ず中国人民に紹介するからと約束してくれました。また彼は私の中国語が不十分なことを見て取り、「英語でいいですよ」と言ってくれました。彼が、9.11事件の時は、新島襄なども学んだアメリカ・マサチューセッツ州アムハーストにいたとわかり、私が当時ボストンにいたことを話し、意気投合しました。

 彼とは色んなことを話しました。誤解を避けるために私が文書で質問し、それに彼が寄せてくれた答えが、添付文書「中国反戦知識人との5問5答」(訳者は河内)です。是非この文書を注意深く読んでください。彼の考えが分かると思います。文書に出ていないことで皆様に伝えたいことが一つあります。私が署名運動をめぐる状況について質問した時のことです。彼は「bad[悪い]」と答え, 彼の運動を取り巻く状況が如何に不安定であるか、如何に思うような活動が出来ないか、述べ立てました。私が「メイクアンシー[中国語で、気にするな],our future is long[我々の将来は長い]」と言うと、彼はうなづいていました。彼個人の意見や署名運動についての疑問・感想・激励を、email(英文または中文)にし[minfengnet@yahoo.com.cn]に送ってください。また、「声明」とともに「中国反戦知識人との5問5答」を出来るだけ早く、できるだけ多くの人に広めてください。何卒よろしくお願いいたします。又お便りします。[2003年2月27日記]      

河内謙策 


中国反戦知識人との5問5答

[問1] 署名運動を開始されて、アメリカのイラク攻撃に反対する声明を発表されたのはなぜでしょうか。

[答] 私たちは、ずっと国際的な事態の発展を見守ってきました。アメリカが非常に強硬な態度をとっており、アメリカは、自己の判断に基づいて、イラクに対する戦争を開始しイラク政府を打倒すると公言しているので、私たちは非常に不安を感じています。このことは、第二次世界大戦後につくられた国連と国連憲章を廃棄し、アメリカが国際問題を取り仕切る唯一の主宰者となること、また、各国政府がアメリカの意志と利益に服従し、各国の人民に依拠する民主的権力というものがなくなることを意味します。このようなことを受け入れることは絶対に出来ません。

 アメリカが代表する国際秩序あるいは国際的反動的秩序が、世界各国人民の圧迫の基礎の上に成り立っていることは言うまでも有りません。この秩序は、経済的には多国籍企業の新自由主義的グローバリゼーション、政治的にはアメリカを盟主とする西側七カ国の世界統治、軍事的にはアメリカの軍事力、文化的には破廉恥な享楽主義的、利己主義的、物質主義的な所謂アメリカ文化に基づいています。この秩序は、世界の両極分化、経済の動揺、資源の枯渇、測り知れない環境破壊を推し進め、一切の罪悪、災難、不幸の根源となっており、テロリズムさえ生み出すに至っています。それゆえ、アメリカに反対するということは、人類に平和と希望をもたらすことなのです。

 アメリカのイラクに対する戦争は世界の人民に対する血なまぐさい犯罪とも言えますが、それは当然それに対する怒りを呼び起こします。アメリカの世界統治はかなり欺瞞的なものですが、イラクに対する戦争は、アメリカの民主、自由、人権という偽りの仮面を引き剥がし、アメリカの世界統治の悪辣さに対する警戒の必要性を明らかにします。このことが、私たちが署名活動を開始した根本的な原因です。

 当然、反戦デモを組織するというような、もっと直接的な意思表明の方法も考えられますが、中国の特殊な状況のため、そのような方法はとることができません。

[問2] 声明について追加的に強調されたい点はありますか。

[答] 声明について追加的に強調したいのは、次の点です。まず第一に、私たちは、中国国民(人民)として署名しているのであって、学者としての身分で署名しているのではないということです。私たちは、国際問題についての意見を表明する権利を学者が独占することは望みません。戦争や生命に関するような大事な問題については、国民(人民)一人一人が自分の意見を表明する権利を有していると考えています。第二に、私たちは、国際正義、民主主義、法治主義、人道主義という広い立場から戦争に反対しているのであり、政治的立場や党派を問うものではないということです。たとえばアメリカの自由民主の理念を尊んでおられる方が署名しておられますが、そのことはこの署名運動が広範なものであることを明らかにしていると思います。

[問3] この声明が引き起こした反響は、どのようなものでしょうか。

[答] 声明がアラビア半島のテレビ局により明らかになって以来、国内外の多数のメディアが取材に私たちを訪れています。国外では、フランスの新聞社、『フィナンシァル・タイムズ』、オーストラリアSBS、香港や台湾のテレビ局、国内では、《新浪ネット》、『21世紀世界報道』などです。極端な親米派がこの声明を非常に憎悪し、一方では泥棒が泥棒を捕まえろと叫ぶやり方で署名活動を傷つけようとし、他方ではアメリカの侵略戦争を断固として支持すると書き散らしています。非常に多くの人々が関心を示し、自分の声が声明により代表された、と考えているようです。私の周りの友人たちも、いままで中国の反戦の声が上げられなかったので、声明が出されなければ面目を失うところだった、と言っています。

[問4] これからどのような行動を計画しておられますか。

[答]今のところ私たちの活動はインターネットを利用した署名活動にとどまるほかはありません。署名者の人数を増やすよう努力しています。このほか、他人の名前を利用した者、プライバシーにかこつけて誹謗したり中傷したりしたものを提訴することも考慮中です。

[問5] 貴方は日本人民に対してどのような期待をもっておられますか。

[答]ある古い童話を思い出します。狡猾な狐が二匹の兄弟小熊に餅を分け与えるという話です。狐はいつも小熊たちに均等に与えないのです。そして小熊たちが文句をいうと、小熊たちの不仲を利用して、結局は狐が全部を食べてしまうという話です。現在、日本と中国は、この童話の小熊のように、一衣帯水の関係にあり、歴史的にも経済的にも文化的にも密接な関係にあります。そしてアメリカが狡猾な狐のように振舞っています。アメリカは日本と中国との間の“摩擦”を作り出し、それを利用し、コントロールして漁夫の利を得ようとし、更にアジアの長期的な戦略目標を弱めようとしています。私は日本と中国の人民が我々の敵が誰であるかを十分に認識し、我々の間にある意見の相違を、それにふさわしい解決可能なものとして扱い、日本と中国の人民が連携・団結してアメリカの世界統治に反対することを心から希望いたします。                        [以上]                     



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