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加藤哲郎『社会主義と組織原理 氈x

 

自著を語る(窓社、1989年)

 この本は、地味な本である。フランス革命以降、社会主義の思想とともに現れたさまざまな運動組織を、その組織のあり方、規約とその運用の歴史を通じてトレースした。

 具体的に扱ったのは、オーウェンの理想郷ニュー・ハーモニー、ブランキの四季協会、カベーのイカリア共和国、ペルディキエの描くフランス職人組合、イギリス・チャーチズムの国民協会、ドイツ亡命者の追放者同盟・義人同盟、マルクス・エンゲルスの共産主義者同盟、国際労働者協会(第1インター)、バクーニン派社会民主同盟、ラサール派全ドイツ労働者協会、アイゼナッハ派社会民主労働者党、ドイツ社会主義労働者党、ドイツ社会民主党などの規約とその組織原理である。

 問題意識は、はっきりしていた。20世紀の共産主義運動で支配的になった民主集中制という組織原理が、特殊にロシア的で第1次世界大戦期の歴史的条件を刻印していること、より民主主義的な組織のあり方がありうることを、示すことであった。マルクスの共産主義者同盟加入は、「裏切り者は消せ」の組織内死刑廃止を導き、「除名」は死刑の代わりにうまれた最高刑であることを見いだした。オーウェンの市民社会開放型組織やドイツ労働者党の契約型・分権型組織原理を見いだしたのも、救いであった。

 本書では、オーウェンの友愛的平等、ブランキの陰謀的集権、マルクスの集権的平等、ドイツ労働者党の契約的分権の4つの型を分析したが、これはその後のSPDの官僚的集権、ロシア・ボリシェヴィキの民主集中制=軍事的集権、ローザ・ルクセンブルクと初期KPDの連合的分権への展開を見通してのものだった。

 だが、本書刊行と同時に東欧連鎖革命がおこり「ベルリンの壁」が崩壊した。その主体は「党」ではなく「フォーラム」だった。そのため、レーニンとコミンテルンの軍事的集権型を批判的に分析するはずだった本書第巻は、ベ平連から緑の党にいたるより広い運動組織の検討が必要になり、未完のままになっている。故廣松渉教授から、初期社会主義の部分を精査した長い私信をもらったのが印象に残っている。だが、一番大きな反響は、冒頭にかかげた「何が社会主義ではないか」というコラコフスキーの詩であった。

(週刊金曜日「本の自己紹介」1996・11に発表)



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