共同通信1月17日配信論評、『山陽新聞』『茨城新聞』ほか2004年1月18日付け掲載

 

 

日本共産党が新綱領採択――現実政治への影響力は疑問

 

 

 加藤哲郎(一橋大学大学院教授・政治学)

 


 日本共産党が、第23回党大会で新綱領を採択した。結党以来の歴史が82年で、43年ぶりの全面改訂というから、同党にとっては、画期的なものだろう。だがそれが、21世紀の日本政治に、大きなインパクトを持つとは思われない。

 昨年6月に草案が発表され、11月衆議院選挙で延期され越年した綱領討論は、活発とはいえなかった。かつての61年綱領までは、共産党の綱領作成は、論壇・マスコミや学問研究にも大きな影響を与えた。党は小さくても、知的存在感があった。ソ連崩壊・冷戦終焉でマルクス主義が権威を失い、衆院選マニフェストのような具体的政策レベルでの政党選択が定着して、政党の綱領の意味が減価した。何よりも衆院選で大敗し、存在感がなくなっている。

 党内学習紙の567通の討論ではかなりの反対意見があり、インターネット上では厳しい批判も出されたが、党大会では代議員一人が反対しただけで、満場一致に近いかたちで決まった。コミンテルン日本支部として発足以来の「民主集中制」という上意下達の閉鎖的組織体質によるものだ。これが続く限り、開かれた党として国民に認知され、政権に近づくことはないだろう。

 ソフト化・柔軟化といわれる新綱領も、現実政治に影響力を持つのは難しい。ロシア革命型の伝統と社会民主主義への脱皮が混在した、中途半端なものだ。61年「宮本綱領」は、戦前天皇制警察による弾圧の体験にもとづき、アメリカ帝国主義と日本独占資本を「二つの敵」とし、民主主義革命から社会主義革命・共産主義をめざす、それなりに一貫したものだった。今回の「不破綱領」は、伝統的な「科学的社会主義」の言葉を残しつつ、新しい用語や解釈でパッチワーク風に手直ししている。例えば「民主主義革命」を「改革」と同義とし、その内容はかつての「革新3目標」に薄めている。天皇制は君主制でない、自衛隊も当面容認といった路線転換が注目されるが、労働運動などで長く活動してきた活動家層からは反発され、理論的関心を持たず選挙中心の一般党員は中央の決定に従ったようだ。しかしこれで7月参院選から「反転攻勢」できるとは思えない。支持層を含め党全体が高齢化し、足腰が弱くなっている。若者たちからは骨董品扱いされている。機関紙・党員拡大という旧来の方策にしか出口を見出せないようでは、「生き残り」の組織防衛がせいいっぱいだろう。

 折から自衛隊のイラク派遣が始まり、インドのムンバイでは「もうひとつの世界は可能だ」を合い言葉に、世界の市民運動・NGOなど非戦平和勢力、現状批判勢力が集って第4回世界社会フォーラムが開かれている。そうした新しいグローバル・ネットワークに合流する視野を、現在の共産党は持っていない。新綱領にはコンピュータもインターネットも出てこない。国際的にも孤立を深め、相手にされなくなった。 

 日本政治に護憲の第3極が生まれることは望ましい。党名変更や社民党との合同まで行かずとも、野党との候補者調整・選挙協力など新味を出してほしかったが、「自分たちだけが正しい」と孤立の道を選んだようだ。西欧共産党や日本社会党の辿った道を一周遅れで後追いするよりも、総選挙敗北や幹部の不祥事が指導者交代に結びつくような、社会への開放性、説明責任の確立こそ、議会政治に溶け込む第一歩だろう。

 

 


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