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私家版1999年上半期の収穫

 

 本HP書評欄恒例の週間読書人「上半期の収穫」は、99年は日本に不在で寄稿できなかったので、以下の寸評をもって代えます。

 出版不況とはいえ、やはりこの国は活字大国、留守の間にも読むべき本は次々に出ています。井上ひさしや大江健三郎の新著は後まわしにして、手当たり次第に乱読。

 豊下楢彦編著『安保条約の論理』(柏書房)、吉田茂と「天皇外交」の分析は秀逸。稲葉振一郎『リベラリズムの存在証明』(紀伊国屋書店)、社会哲学の世界での重厚な問題提起。三井逸友編著『日本的生産システムの評価と展望』(ミネルヴァ書房)、マクロとミクロをつなぐメゾ・レベルの実証が圧巻。

 歴史物では、横関至『近代農民運動と政党政治』(御茶の水書房)、森武麿『戦時日本農村社会の研究』(東大出版会)の本格的研究を、川村湊・成田龍一が上野千鶴子・井上ひさしらと語る『戦争はどのように語られてきたか』(朝日新聞社)とダブらせて読むと、少なくとも「いま日本は何をなすべきでないか」が見えてきます。

 「何をなすべきか」については、私の現代史研究にひきつけると、石塚正英編『海越えの思想家たち』(社会評論社)のとりあげる岡本太郎・福本和夫、斉藤憐『昭和不良伝・越境する女たち』(岩波書店)の描く石垣綾子・岡田嘉子の生き方が魅力的で、町村敬志『越境者たちのロスアンジェルス』(平凡社)の描く亡命ユダヤ人たち、リン・チャン『イギリスのニューレフト』(彩流社)の戦後イギリス知識人の歩みが、示唆的です。ようやく手に入れた『丸山真男講義録・日本政治思想史1949』(東京大学出版会)はこれから。しかし確実に昨今の俗悪・軽薄なナショナリズムへの批判的視座を得られる予感。これも未読の加藤典洋『日本の無思想』(平凡社)と読みくらべてみます。



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