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週刊読書人1996年上半期の収穫

 

 若森章孝『レギュラシオンの政治経済学――二一世紀を拓く社会=歴史認識』(晃洋書房)。多様なレギュラシオン学派のなかで著者はフランスのリピエッツの立場に近く、ファード主義的大量生産・大量消費の南北問題や環境危機とのからみあいを問題にしてきた。その歴史的射程の長さに評者は強く共感する。

 和田春樹『歴史としての野坂参三』(平凡社)。ついに日本共産党史も政争の具から解放され学問となったというべきか、評者の仕事に対しても同様だが、共産党側からの反論も資料公開もないのが寂しいというべきか。野坂の戦後天皇制論評価には異論があるが、伊藤律・朴憲永同時粛清への接近は鮮やか。

 矢澤修次郎『アメリカ知識人の思想――ニューヨーク社会学者の群像』(東京大学出版会)。とにかく抜群に面白い。ダニエル・ベルやコーザー、リプセットらの左翼青春時代を生き生きと再現。セルズニックの分析は圧巻で「社会主義から社会学へ」の内面世界に肉薄している。著者渾身の作品である。

  (『週刊読書人』1996.7.26に発表)



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