政局が荒れに荒れているもとでは、政治学者の永田町へのコメントや予想など、無力である。こんな時こそ歴史に内在して、深く原理的思索を進めるべきだろう。そんなヒントになったのが、溝口雄三他『社会と国家』(東京大学出版会)、「アジアから考える」シリーズの一冊だが、中国社会の公私区分の独自性を縦糸に、それが日本、朝鮮、ヴェトナムとどう異なり、またつながるかを横糸に、刺激的な考察がなされている。
行政学畑だが政治経済学としても読める、真渕勝『大蔵省統制の政治経済学』(中央公論社)。理論的にも歴史的にも目配りが行き届いた好著。
小気味良い面白さでは、上野千鶴子『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)、ゼミで学生と一緒に読んで、久しぶりに議論が盛り上がった本。
肝心の政治学畑がはずれたのは、政局だけの責任ではない。評者自身が、『モスクワで粛清された日本人』(青木書店)執筆で歴史に沈潜していたため。乞御海容。
(『週刊読書人』に発表)