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週刊読書人1993年上半期の収穫

 

 政治学プロパーの業績として、牧野雅彦『ウェーバーの政治理論』(日本評論社)。論争的に扱われるウェーバーの政治論を歴史的に解読し、ウェーバーの実践的・政治的関心と普遍的・学問的関心との交錯を、重厚に跡づける。『経済と社会』第一部から、ウェーバーの原理的社会主義批判、実物経済計算不可能論を析出する手法は鮮やか。

 ソ連・東欧史、社会主義論のブームは去り、内省の季節に入った。その中でも、原暉之『インディギルカ号の悲劇――1930年代のロシア極東』(筑摩書房)が印象的。1939年に宗谷海峡で遭難したソ連の囚人護送船の話だが、背後のスターリン粛清と収容所群島へのメスの深さが、重い読後感を与える。

 翻訳ではタルボット=ベシュロス『最高首脳交渉』上下(浅野輔訳、同文書院インターナショナル)。冷戦終結数年で、かくも綿密に当時の政治機密があばかれるとは。情報時代の意味を考えさせられる。

  (『週刊読書人』1993.8.9に発表)



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