専門は政治学だが、『週刊エコノミスト』誌で書評「歴史書の棚」欄を担当し、現代史関係の読書が多くなった。
そこでも取り上げたが、まずは川上武編著『戦後日本病人史』(農文協)。何が病気で何が健常であるかは、社会的に定まる。敗戦から今日にいたるこの国は、膨大な病人を産み出し、その治療・予防過程でも薬害から手術ミスにいたる新たな病いを再生産してきた。医学史でも医療史でもなく「病人史」であることで、患者と医師、療養者と介護者、病院と世間、厚生省と労働省がつながる。脱帽の大作である。
専門的には、アンドルー・ゴードン編『歴史としての戦後日本』上・下(みすず書房)。ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を下支えした、アメリカ日本研究の成熟がわかる。
山本武利『ブラック・プロパガンダ』(岩波書店)も見逃せない。謀略ラジオと野坂参三の組合せも面白いが、9.11以降の情報戦を読み解くヒントが満載されている。
(『図書新聞』2002年8月3日号「上半期読書アンケート」掲載)